とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 9-35

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匿名ユーザー

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「ミサカ、巫女と美琴」(第4話その17)

 一方通行が左足を踏み出すと当然のように神裂火織との距離が一歩分縮まる。その当たり前の
ような光景に神裂火織は戦慄する。無限回廊を正面から突破した魔術師など一人も存在しない。

 無限回廊はその性質ゆえに敵の侵攻ルートが限定できる拠点防衛では絶大な効果を発揮する
ものの遊撃戦で使われることはなかった。魔術を知らない科学サイドが相手ならと考えていた神裂
火織も一方通行がカラクリに気付いてしまえば一旦後退してから回り込んでくるだろうとは想定して
いた。しかしまさか正面からこの術式を破ってくるとは夢にも思わなかった。

 無限回廊はハムスターが遊ぶホイールに例えることができる。ハムスターが1次元世界(ホイール
内壁)をどれだけ走ろうとも2次元世界において連結された世界(ホイール)からは決して抜け出せ
ない。無限回廊は3次元世界の特定の領域を7次元世界において連結させる術式である。

 もっとも無限回廊は囚えたモノの前進を阻むが後退を妨げるものではない。それは一本の紐で作
る蚊取り線香のような渦巻きを思い浮かべれば理解しやすいだろう。渦の内側に向かって進む限り
終端に辿り着いても1周前に通過した場所に落ちてしまうため渦を抜け出すことは永遠にできない
が、逆方向に進みさえすれば簡単に脱出できる。

 だが一方通行はあえて前進を続けた。その上湾曲させた3次元世界を連結する7次元世界から
の干渉をベクトル変換し閉ざされた世界の秩序(ルール)を強引に書き換えていく。魔術師である
神裂火織は自分の使う術式の科学的原理を理解している訳ではない。しかし展開した術式が一方
通行によって浸食され喰い荒らされていることは理解できた。

(まさかこの無限回廊を正面から突破してくるとは…………さすがは学園都市第一位。
 まさに化け物レベルですね)

 まるで散歩するかのように無限回廊を歩いて来る一方通行に神裂火織はもはや無意味となった
無限回廊を解く。同時に魔法陣を描いていた鋼糸が地面から飛び上がり一方通行の身体に絡み
つく。それら鋼糸の終端は周囲の木々に巻き付けられていた。

『馬鹿が!こンなもンで何秒俺を止められると夢見てンだァ!オマエ』

 一方通行が一歩進むたびに鋼糸が巻き付けられた周囲の木々がミシミシと音を立ててたわんで
いく。神裂火織の鋼糸は左文字の銘を継ぐ刀鍛冶が打ち上げた国宝級の一品である。それら異常
な程の頑強性を持つ鋼糸でさえもギリギリと悲鳴を上げ、一方通行があと3歩あるけば鋼糸の戒め
は限界を迎えるだろう。

『大見栄切って登場したくせにセコい手ばっか使いやがって!
 それがオマエの器の小ささを表していることに気付かねェのかよォ!』

一方通行の宣言に神裂火織は目をしばたたくと少し自虐的な笑みを浮かべる。

(フッ!…………その通りです。痛いところを突かれました。
 やはり相手を酸欠にして穏便に勝利しようなどという考えがそもそも甘かったようです。
 こちらも捨て身でいかなければなりません。…………ならば!)

唐突に一方通行に巻き付いていた鋼糸がシュルルッ!と解けると神裂火織の元に引き戻される。

『ン??』
「あなたの仰るとおりです。姑息な作戦は止めにしました。
 糸も戻しましたからどうぞ深呼吸なさって下さい」
『俺がそンな見え透いた手に引っ掛かる間抜けだと思ってるのか?それともしおらしくすれば俺が
 見逃してくれるとでも勘違いしてンのか?』
「いいえ、あなたが私の術を正面から破ったように私もあなたの能力を正面から打ち破りたくなった
 だけです。それにあなたが負けた理由を後で酸欠のせいにされても困りますから」
『ぬかしやがれ!』

 一方通行はそんな言葉を素直に信じるほど甘くはない。だが余裕の表情で隠してはいたがその
時点で一方通行に余裕がなかったのも事実だ。酸欠に加えてミサカネットワークへの過負荷(オー
バーロード)が問題だった。7次元世界から干渉する力の解析と演算式の書き換えが代理演算を
圧迫し3次元世界での有害な酸素分子の反射という本来なら戦闘の片手間にできたハズの演算式
の書き換えすらできなかったのだ。暫しの休戦状態を利用してあるサイズ以上の酸素クラスターが
反射フィルターをすり抜けないように演算式を組み直すと慎重に外気を吸い込んだ。

「ミサカ、巫女と美琴」(第4話その18)

(フ──ッ、本当にあの糸は引っ込めたみてェだな。しかしコイツは何を考えてやがる。
 攻撃の前にいちいち俺に予告したり対策を練る余裕を与えたりするのはなンでだ!?)

 一方、神裂火織は呼吸を浅く時に深く繰り返し魔力を極限まで練り上げる。そして己が身を『神を
殺す者』へと作り替えていく。血管筋肉神経内臓骨格、それら全てが『神を殺せるように』組み替え
られていく。

「やはりあなたには最初から私の魔法名を名乗るべきでした」

 神裂火織は七天七刀の柄に右手をかけると、己の身と心と魂に刻み付けたもう一つの名を告げる
のだった。

「──────救われぬ者に救いの手を(Salvere000)」

「準備はできましたか?今からお見せするのは対天使用の術式です」
「はあ?天使だあァ??オマエはこの状況でもまだふざけやンのかッ!?」
「いいえ、もし『天使』という単語が気に入らないのでしたら、そうですね…………
 そう。あえて科学サイド風に言うならば超高次元生命体といったところでしょうか?
 そういう存在に対抗するために天草式十字凄教が編み出した術式です」

(コイツ今…………超高次元生命体…………と言いやがったのか?
 コイツが狂人じゃないとすると次は高次元世界にまで干渉する攻撃を出すってことか!?
 ……………………フハハハッッ、おもしれェ!
 この攻撃が弾き返せりゃ俺は神だろォが天使だろォがぶちのめすことができるって訳だ!!
 きやがれ!その攻撃、弾き返してやるぜッッ!)
「では参ります!唯閃ッッッッッッッッ!!」

 斬(ざん)!っと。神裂火織と一方通行の間の空気が引き裂かれた。
 鯉口を切るという予備動作もなく神裂火織は2mもの大太刀『七天七刀』を一瞬で振り抜く。しかも
振り抜かれたはずの刀身は一瞬後には鞘の中に静かに収まっていた。僅か1000分の1秒単位で
繰りだされる超高速の抜刀術。その常識外れのスピードは鋼鉄をも易々と切り裂く切れ味と破壊力
を生む。しかしそんなものは唯閃の本質ではない。唯閃の本質は仏教・神道・十字教を融合させた
天草式十字凄教に根ざしている。すなわち、
十字術式にできないことは仏教術式で、
仏教術式にできないことは神道術式で、
神道術式にできないことは十字術式で、
それそれの宗教様式が持つ弱点を他の術式でカバーすることで、一般に神とも仏とも呼ばる存在
すなわち人間が認識することすらできない超高次元に君臨する存在達へも干渉できる対神格用の
術式、それが唯閃である。

ドバッ!!と。
原因不明の衝撃が一方通行の身体を袈裟懸けに突き抜ける。同時に足下のアスファルトが一方通
行を中心に水のように波打ち衝撃波によって地面から抉り取られ巻きあげられた大量の土砂が砂
の壁となって周囲へ襲いかかる。虹色に光りながら音速で駆け抜ける砂の壁に巻き込まれた街灯、
ガードレール、樹木は全てなぎ倒された。

 直径100mの更地に立っているのは一方通行と神裂火織だけである。だがその姿は対照的だ。
押し寄せる衝撃波を七天七刀の剣圧で吹き飛ばし先程と同じ姿勢で鞘に収めた七天七刀の柄に右手をかける神裂火織りに対して、唯閃を受けた一方通行は血まみれであった。

 一方通行は7次元世界にまで拡張した反射フィルターを展開していたにも係わらず、唯閃は一方
通行を激しく打ち付けた。唯閃を構成する一部の力(ベクトル)は反射することができた。だが唯閃
は多神教である神道に基づき、十字教の天使を傷付ける力(ベクトル)、八百万の神を傷付ける力
(ベクトル)などあらゆる神格に干渉できる無数の高次元ベクトルを叩き付ける術式である。いわば
垣根帝督の『未元物質』を数桁も強化し巨大化したものである。一方通行が処理しきれない無数の
ベクトルが次々と反射膜を突き抜け、ゴキバキガリ!!と鈍い音を立てて一方通行の体内で炸裂
する。そして一方通行の視界は歪む。視覚だけでなく聴覚も平衡感覚も嗅覚や触覚さえも異常を
伝達してくる。身体が引き裂かれる感覚に一方通行は咆吼を響かせた。

「ォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」 

 衝撃波が去った後、肩で息をする一方通行は傷だらけの身体を辛うじて支えている状態だった。
しかし血まみれの一方通行の顔にはなぜか笑みが浮かんでいた。

「ハハハ、イイねェ!イイぜ!オマエ、やればできるじゃねェかッ!!
 まさかそれで終わりって訳じゃねェよな!俺はまだくたばっちゃいねェぜ!
 まだまだ付き合って貰うぜ!!」

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