とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 9-152

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匿名ユーザー

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 やはり神裂も、その『少年』の姿を見ていた。
 だが、それをすぐに信じることなどは、到底無理だった。
 海原さえも驚いたような表情を見せ、他の天草式のメンバーも、開いた口が塞がらない、とでも言いたげな顔をしている。
 当たり前だろう、さっきまでは確実に確認できていなかったその少年が、神裂の攻撃をいとも簡単そうに防いで見たのだから。
 いや、神裂たちには、もはや何が起こったのかは理解できていなかった。
 ただ、事実を事実として突きつけられているだけ。
 神裂の攻撃は、触覚壊し(センサーブレイク)には当たらなかった。
 その原因は、おそらくあの少年にある、ということ。
 そしてその少年は、あたかも天使のような翼で、神裂の七閃を防いだらしい、ということ。
 だがその少年は、先ほども言ったとおり、それまでは一切確認できていなかった、ということ。
 最後に、その少年は神裂の攻撃を防いだ後、何事もなかったかのように、その場を一瞬で消え去った、ということ。
「……何が」
 神裂は、戦闘態勢をとるのも忘れ、呟く。
「何が起こったんですか、一体」


「それはこっちの台詞だっての」
 大地を、まるで翼が生えている鳥のように駆け抜ける少年が言った。
「ッたく、わけわかんねぇ。突然攻撃されて、とっさに防ぐこっちの身にもなれってんだ」
 そう愚痴を吐きながらも、その足は止まらない。もはや足を使って移動しているのかも疑いたくなるような速度で移動しているのだが。
 そしてやはり、その少年は足を使って移動しているわけではないようだ。
 その背中に実際に生えている、禍々しいほど神々しい、天使が持っているかのような翼。
 それを少年は羽ばたかせて、低空飛行を行っているようだった。足は、せいぜい地面を蹴って反動をつける程度のものだろう。
 そんな、もうその姿を直視できさえすれば大問題に発展しかねない少年は、しかし誰にも目撃されることなく高速で移動していく。
 その原因としては、単純に目撃する人物がここにはいないから、というものもあるだろう。
 だが仮に、彼が人ごみの中に放り込まれても、それを確認できるものはいないはずだ。
 それどころか、彼が今のように移動をしていても、周囲の人間は何も感じないはずである。

 それがその少年―――学園都市第二位の能力者、未現物質(ダークマター)、垣根帝督に施された処置なのだから。

 それについて考えた帝督は、
「……チッ。それにしても、何考えてやがんだ、あいつらは」
 二人の男性を思い浮かべ、顔を歪めた。
 その内の一人は、この学園都市を収める統括理事会の長、アレイスター=クロウリー。
 そしてもう一人は、

「……まぁ、何でもいいか。俺は、あの野郎に言われたことを実行するしかねぇんだからな」

 垣根帝督の実の父親―――垣根聖督だった。



「……まぁ、分からない事を延々と考えても無駄なだけですね」
 神裂は先の少年と、それが起こした現象を一切無視する事に決めた。今までも不可思議な現象などいくらでもあったのだ、いくらか耐性はついているのだろう。
 そして、
「さて、問題は」
 そう呟き、聖人の瞳で触覚壊し(センサーブレイク)を見つめようとする。
 が、
「……ふむ?」
 神裂が、その目をさらに細めながら、そう言った。
「……どっ、どうしましたか……女教皇(プリエステス)」
 その神裂に、少しはショックが和らいできた対馬が、途切れ途切れの言葉で聞いた。
 それに神裂は、
「いえ……」
 少し口ごもってから、告げた。
「見付からないんですよ、先ほどの女性が」
 見付からない? と海原も会話に混ざってきた。
「ええ。本当に、まるでどこにも存在しないように……あの者に、移動能力があるとは思えないのですが」
 神裂が、海原の言葉を受けてそう言う。
「それなのに、確認できない、か……」
 諫早が、しわがれた声で言う。もうショックからは回復しているようだ。
 ……、と沈黙が辺りを支配する。
 と、その時、

『んじゃぁ、作戦会議は終わったか?』

 どこからか、声が聞こえてきた。
 それが誰のものなのか、神裂たちには分からない。
 だが、この状況から鑑みれば、自然とその答えは出てくる。
「……超能力者(レベル5)、ですね」
 海原が、一人冷静に言った。やはり、学園都市に潜在している魔術師の方が、そういった判断は早い。
 といっても、これくらいなら誰にでも分かっただろうが。
『正解正解~。でも、だからなんだよ?』
 心底どうでもいい、と言いたげなその声は、いちいち神裂たちの精神を揺さぶる。魔術以外でのこのようなことには、神裂たちは不慣れなのだろう。
 思わず身構える天草式を見据え、触覚壊しが嘲笑うように言った。
『身構えてどうする? お前らに、こっち(科学)が理解できんのかぁ?』
「……こっちの事を掴んでいますね。どうやって情報を入手したんだか」
 海原が、やはり冷静に分析する……のだが、確実に海原の顔にも冷や汗が浮かんでいる。
『テメェらもこっちのこと分かってんだろ? んじゃぁ、こっちもお前らのこと分かってなきゃ、不釣合いでしょ』
 男言葉と女言葉が混じった、妙な口調で触覚壊しが言う。
 その言葉に、
「……どっちの方が、この状況で有利だと考えますか」
 神裂が、虚勢を張って、確認もできない触覚壊しに対し脅しをかける。
 だが、それを触覚壊しは「ハッ」と一蹴し、応えた。
『そりゃぁ、お前らだろうなぁ。だけど、あんたらはこの状況で何が出来る。ただ黙っている事しかできないだろ?』
 触覚壊しの言うとおり、黙り込んでしまう神裂たち。
『確かに今はそっちの方が優勢だろう。けど、今後はどうなる? 私がお前らを攻撃しても、あんたらは反撃できない。そのうち、流石に耐えられなくなるでしょうね』
 クククッ、と笑みを漏らす触覚壊し。
 それに思わず神裂は抜刀しそうになるが、今ここでそんな事をやっても見方に被害が出るだけだ。神裂は、帯刀したままの状態を保つ。
 それを見た触覚壊しが、
『ハッ! だよなぁ、そうするしかできねぇよなぁッ!! お前らは黙ってヤラれてりゃいいんだよッ!!』
 そう高らかに叫び、そして、



 ギュゥォンッ!!!

 と、突然神裂たちの目の前に、青白い閃光が迸った。
 いや、迸る、と言う表現は性格ではないかもしれない。
 どちらかといえば、『在った』、というべきだろうか?
 それほどまでにそれは高速で、ただ顕現するべきものとして存在するだけのようなものだった。
 そして、どこからか、女の声がした。

「……なぁにでしゃばってんのよ、アンタ? ぽっと出の馬鹿女が、人様の上に立てるとでも思ってんのかぁ?」

 それは、まるで他者全てを見下しているような、絶対感を催す声で。
 それは、まるで自分の力を信じきり、それに勝るものはないと宣言しているような声で。
 それは、まるで――――――

「そういう台詞はね、学園都市第四位様……原子崩し(メルトダウナー)とかをぶっ飛ばしてから、言うべきだよなぁ? え?」

 ―――学園都市の最高レベル、原子崩しが放つような声だった。
 それに触覚壊し(センサーブレイク)は、
『……アア? んだてめぇ、勝手にこっちの会話に混ざりこんでくるんじゃないわよ』
 やはり男言葉と女言葉が混ざった奇妙な口調で、原子崩し……麦野沈利に問う。
 そして麦野は、
「そっちこそ、勝手に人んとこで暴れてんじゃないわよ。それになんだ、超能力者(レベル5)ぅ? ハッ、舐めてんな、こりゃ。ッてことで潰す。ただそれだけだ」
 随分と無理矢理な理論を唱え、それを触覚壊しに叩きつけた。
 とそこで、やっと神裂が、近づいてきた麦野に聞いた。
「……ええと、まず……あなたは何者ですか?」
 戸惑いながらの神裂の言葉に、麦野はただこう言うだけだ。
「気にしなくていいわよ。ただの通りすがりの女の子、ってとこ」
 神裂はその言葉にいろいろと突っ込みたかったのだが、そうしたらちょっと怖いことになりそうだったので、そこでとどまった。超能力者と聖人、どうやら勝ったのは超能力者のようである。非常にどうでもいい戦いだが。
 そして、その麦野が言った。
「いいから、あんたらはどっか行ってな。死にたいんだったら、ここに残ってもかまわないけど」
 その急展開すぎる麦野の言葉に、さすがに神裂たちはうろたえる。
 その様子を見た麦野がため息とともに、海原にこう言った。
「ちょっとアンタ。こいつら連れてさっさとどっか行きなさい」
「……何故にそうなりますかね?」
 その言葉に、海原は困ったような笑みを浮かべる。
 それに麦野は、
「アンタ、魔術師でしょう? それなのに、こっちの暗部やってるんだから、これくらいのことには対応できるでしょ?」
 その麦野の言葉に、海原は思わず絶句してしまった。
 それを無表情に見つめた麦野は、馬鹿か、と思いながらこう言った。
「グループ所属の野郎が、何考えてる? 他の組織を把握しとくなんて、定石ってレベルじゃないわよ」
 さらりと言われた、麦野のかなりの爆弾発言に、海原は冷や汗を掻く。
 それをやはり、馬鹿を見るような目で見つめた麦野は、
「いいから、ほらさっさと行く行く。死にたくなけりゃ、ね」
 それだけ言い、さっさとその場を去って行ってしまった。
 それに野母崎が、
「……今の、一体なんなんだ……?」
 その質問に、さぁ? と首をすくめることしかできない海原だった。

14


 と、その時、
(……きましたか)
 精神操作(メンタルコントロール)は何かを感じ取り、そして、

「全ての能力を、開放する」

 そう呟いた。
 それに、『あ?』と土御門は目を細めたが、
 次の瞬間、
 フッ、と、唐突に目の前にいた精神操作が、忽然と消え去った。
「ッ!? 構えろッ!!」
 その事態に対し、みなにそう叫ぶ土御門。もちろん周りは、すでに構えを取っている。
(……何が起こった) 
 土御門は、銃口を様々な方向へと向けながら考える。
 が、考えても分からない。
(やはり、能力か)
 仮定的に断定する土御門。
「……とりあえず、バラついているのはマズいな」
 そう呟き、そしてまた土御門が大声で叫ぶ。
「一度、全員一箇所に集まれ! 俺のところにこいっ!!」
 やはり個々がかなりの戦力を持っているため、お互いが離れている状況での土御門の言葉。
 それに全員が、周囲に気を配りながらジリジリと土御門の下に集い始める。
 と、その時、
 パァン!
 と、れっきとした銃声が響いた。
 それに全員が反応し、誰に向けて放たれたのか分からないので、各々回避行動をとる。
 が、
「ぐぁッ……」
 土御門の右腕の二の腕辺りに、ポッカリと円が空いていた。
 そして、その円から、次々と赤い液体が流れ始める。
 土御門はその打たれた部分を左手で押さえつけ、無理矢理に出血を少しでも止めようとする。
 と、その事態をきちんと目撃した建宮が、
「チッ! リーダーに死なれちゃ困るのよな!!」
 しっかりと注意を配りながら、土御門の下に駆け寄る。おそらく、魔術でその傷を防ごうとでも考えているのだろう。
 が、
「走るなっ! 自分を優先して考えろ。他人は二の次だ!」
 その光景を見た土御門が、建宮に対し一喝する。
 それに思わず建宮は立ち止まり、少し戸惑うように動かなくなる。
(バ、カ野郎ッ!!?)
 その建宮に対し、土御門は言葉を放とうとしたが、
 遅かった。
 またしても、銃声が響いた。
 今回の銃声の対象は、誰が考えても一人しか存在しないだろう。
 あの状態の建宮には、回避行動を行う術などない。
 ある程度の傷なら魔術でどうにかなるかもしれないが、即死だったら話にならない。
「た、て宮ぁッ!!」
 思わず叫んでしまう土御門。
 それに、

「……まるで死人を目撃したように叫ぶよな。こっちにとっちゃはた迷惑だぜ」


「あ?」
 思わず聞き返してしまう土御門。
 そして後ろを振り向くと、
「だから、俺は死んじゃいねぇのよ。ほら、この通り」
 まったくいつもどおりの(といっても、付き合いが短い仲だが)、建宮がそこに建っていた。
 ……、と思考が止まりかける土御門の下に、また一人その場に集う。
「感謝しなさいよ。さっきの空間移動(テレポート)も含め、今ので6万」
 それは、非常に元気……と言うか現金な声の、結漂淡希のものだった。
「……結漂、こういうときは、金のことは話題にするもんじゃないぜぃ……」
 その言葉に、なぜか肩を落とす土御門。
 と、その時、
「つっても、まだどこかしらに敵さんはいるんだろ? ちょっとは張り詰めようぜ」
 土御門たちをかばうようなポジションに立った、葛城妖夜が言った。
「ちょっとアンタ……的になってるわよ? 蜂の巣になりたい?」
 その妖夜に、結漂がやはり冷たい言葉をかける。土御門はこっそり、「……これにデレが入っても、ツンデレにはならない気がするにゃー」とか思ってたりする。
 その結漂の言葉に、妖夜が後ろを振り返って言う。
「ご心配ありがとうございますお嬢様……とでも言えばいいのか? ってか、俺が誰だか覚えてんのかテメェ」
 と、突然結漂に荒い言葉をかけた。
 当然結漂は、それに驚いたような顔になる。
 が、それも束の間。
「……ねぇ、知ってる? 座標移動(ムーブポイント)は、戦い方次第では、超能力者(レベル5)とも互角に殺りあえるらしいわよ?」
「へぇ……それは一度見てみたいな。結果が楽しみだ」
 それに思わず結漂が、本文本気で手近な石を妖夜の腕に空間移動させようとする。
 が、それは実行されない。
 またしても響いた、パンッ! という銃声に、結漂の精神が揺らいだからだ。
(なっ……まずッ!?)
 土御門が、とっさに身体を庇おうとする。誰が標的になっているのか分からないのは、今でも同じだ。
 そして今回は、土御門には当たらなかった。
 だが、今回は直撃した者がいた。

 格好の的と化していた、妖夜の頭脳に、しっかりと弾は着弾した。


(……まずは一人、殺りましたか)
 銃口から少しもずれなかった妖夜の頭を見つめ、精神操作(メンタルコントロール)は思った。
(それにしても、馬鹿なものですね。あれじゃ自分から『打ってください』と言っているようなものです)
 そして倒れ行く妖夜を、感情の篭っていない目で見つめる精神操作。
(この気に、一気に掃射が効率がよさそうですね……予備の拳銃は)
 そう考えた精神操作は、彼らのことを一度無視して防護服の中を漁る。
 そして、予備の拳銃を左手に構え、一気に乱射しようと彼らの方に向き直った。
 その彼女の目に映ったものは、

「なッ!!?」

 確実に着弾し、それを確認して倒れて行ったのにもかかわらず、寝起きのように後頭部をすさりながら立っている、葛城妖夜だった。


「っ痛ぇ~な……今の、普通だったら死んでたぞ?」
 妖夜が、あからさまにボケた言葉を真面目な顔で言う。もちろん冗談だろうが。
 その妖夜を、土御門は顔面を蒼白にして見上げている。サングラスが少しずれ、意外に良い方の顔が合間見える。
 結漂の方は、チッ、と舌打ちしてからこう言った。
「だったら、今ので死んどきなさいよ」
「おいおい、それはひでぇな。だけど、俺は生憎死ぬのは嫌いでね」
 その冷たすぎる結漂の言葉に、妖夜は笑みをこぼしながら返す。
 そして建宮といえば、なぜか笑顔全開でぼけっと突っ立っているだけだった。おそらく、今起きた現象をはなから放棄し、それでも事実を理解しようとした結果だろう。
 そんな仲間……というべき存在を見回した妖夜は、はぁ、とため息をついてから、こう告げた。

「だから、テメェら俺が誰だか忘れてねぇか? 学園都市第6位、肉体変化(メタモルフォーゼ)の葛城妖夜だぞ?」

 ……、と口を閉ざす土御門と建宮。
 だが、結漂の口は達者なようで、
「へぇ~。でも、いくら肉体を強化したところで、空間移動(テレポート)は避けられないわよね?」
「どうだろうな? やってみなきゃ分かんないぜ」
 ……いまだに、超能力者(レベル5)と口げんかをしているようだった。というか、このまま殺し合いに発展しそうな感じもする。
「……お前たちの所為でいちいち締まらないが、体勢を立て直すぞ」
 土御門はそれを傍観してから、よっこらしょ、と立ち上がった。
 そして、
「は?」
 思わず、彼はそう声をあげる。
「なによいきなり。まさか腕が一本取れてたとか?」
 結漂が、まったく土御門の方を見ずに、どーでもいい、と言いたげな口調でそう言う。
 それに土御門は、
「……いや、腕の傷が完璧に塞がってて」
 そう言いながら、土御門は自分の右腕を掲げる。
 その腕には、確かに銃で貫かれたような痕跡など、一つも存在しなかった。
 と、そこで建宮がやっとまともになり、土御門に言った。
「だから言っただろ、リーダーに死なれちゃ困るのよな。俺が治しといた」
 なんでもないことを言うように言われた、意外に結構爆弾な建宮の台詞。
「忘れたのよな? 俺は天草式・元教皇代理。天草式の魔術発動が、大それたものではないことくらい、あんたには分かってるだろ?」
 建宮が、呆れたように土御門を見ながらそう言った。
「……まぁ、考えてみればそうだな……悪い。手間かけさせたな」
 土御門がそう言って、建宮に謝罪する。
 実際のところ、確かに魔術発動自体は気付かれずに行うのが、天草式の実態なのだが……
 やはりその分、普通に行われる魔術よりは、威力や精度が落ちる。
 だが、それでも建宮は即効で魔術を発動させ、あの土御門の傷を完治させていた。
(……これくらいやってのける奴だとは思ってはいたが……実際に目の当たりにすると、やっぱり凄いな)
 かくいう土御門も、かなりの手慣れなのだが、もちろん本人は、そんなことは気にしていない。
「さて、まずは自分の安全の確保だ。相手はむやみやたらに突っ込んでくるタイプじゃない。俺たちが隙を見せなければ撃ちこんでは来ないだろうが、隙を見せたらその瞬間にでも殺されていそうだしな」
 その土御門の言葉に、さっきまでのあんたらに緊張感はあったの? と結漂が言ってくるが、誰もそんな言葉は気にしない。
 かくして、土御門と建宮は各々の魔術で安全を確保し、妖夜は肉体変化で身体を補強してあり、結漂は特にやることもなくただ突っ立っていた。


(……パッと見れば、緊張感などかけらもない)
 そんな光景を見つめ、精神操作(メンタルコントロール)は思う。
(だが、実際のところはそんなはずはない。おそらくあの場面で私が撃ちこんでも、かわされるのがオチだった)
 そう考える要素は、結漂淡希にある。
(彼女の座標移動……対象と接触していなくとも、空間移動することができるという高度な能力)
実際、結漂の座標移動は確かに高度だが、銃声が響いてからではもはや何の役にも立たない。
 だが、精神操作が建宮に撃ちこんだとき、結漂はその座標移動を使用して、建宮をその銃弾から守ってみせた。
(何らかの方法で、こちらの攻撃を察知している……そう考えるのが妥当ですね)
 精神操作はそう考え、次の行動に対して思考を張り巡らせる。
(では、このままダラダラとやっていても時間の無駄……どころか、学園都市からの応援が来て、こちらが不利になりかねない。さて、どうしたものでしょうか)
 そう考えた精神操作は、

「……結局は、能力者は能力を使って闘わなければならないのですね」

 そう言って、二丁の拳銃をほうり捨てた。

15

「ようやく状況が落ち着いてきたかも、ってミサカはミサカは、実は心細かったりするけど虚勢を張ってみる」
「その発言の意図が分かりかねます、とミサカは上位固体の発言に対し冷静な分析を行います」
 二人の少女の声が、その空間に木霊した。
 といっても、その部屋にいるのは二人だけではないのだが。
「むー……なんなの一体てれぽーとって? 学園都市は、転移魔法までもを模造してるっていうのかな?」
「模造じゃなく人為的に作成。それが学園都市」
 10万3000冊を脳内に納める少女と、順調に行けば第八の超能力者(レベル5)にもなれると言われていた少女だ。
 彼女たちは、今はとある事情のもと、どこかの部屋に監禁……もとい保護されている。
 どこかの部屋、という表現なのは、彼女たちは結漂淡希の座標移動(ムーブポイント)でこの部屋に飛ばされたからだ。一体ここがどこなのか、彼女たちには見当もつかない。
「もうほかのミサカたちはここの部屋の周りに配置されてたのね、ってミサカはミサカはあの人の周到さに少し驚いてみたり」
「大体のミサカの配置も完了してきたところですので、20001号もそろそろ準備を、とミサカは上司に指示を出します」
 彼女たちはミサカネットワークでの会話が可能なはずなのに、なぜか肉声で言葉のやり取りを行っている。まぁ、やはりそちらの方がやりやすいのだろう。
 とそこで、
「おーい滝壺、なんか状況うんぬんとか、今どうなってる?」
 ここ一帯の空間で唯一の男性が、滝壺にそう話しかける。
 それに滝壺は能力を張り巡らせて、
「……まだ、何もなし。心配しなくていいと思うよ、浜面」
 眠たそうな目を少し見開いて、そう言った。
 そしてこの場で唯一の魔術サイドである白銀のシスターが、落ち着きなく回りを見回しながら言う。
「結構ボロッちいところに移されたかも……こんなところで、その反乱因子とかいう人たちの襲撃を防げるの?」
 彼女たちが匿われているのは、べつに新しくも古くもない、それなりに広い空間を持つ一室だった。
 だがインデックスにとっては、古い部類に入るだろう。上条の学生寮は比較的新しいし,イギリス凄教の方だって、彼女が呼ばれるような所は綺麗なものだ。
 ……といっても、そもそもインデックスが日常的に生活している場所は考えられないほど限られているので、比べるべきものが少ないのでその意見はあまり力は成さないだろう。
 だが、
「確かにそうですね、とミサカは彼女の意見に賛同します」
「まぁ、超能力者とかの襲撃を防げる建物なんてほとんどないと思うんだけど、ってミサカはミサカは大人な視線で言ってみたり」
「それでも、ここよりはまともな施設なんて、どこにでもあると思う」
 そこに集う少女たちは、全面的にインデックスの意見に賛同らしい。一人は違うことを言ってはいるが。
 一人一人が各々の価値を分かっている分、やはりこの状況は疑問に思うのだろう。
 といっても、彼女たちだけでここから動くわけにもいかない。動いた先に敵がいたりなどしたら、滝壺がいても10秒と持たないであろう。
 と、そんな状況下のインデックスに、

『おいインデックス、俺の声が聞こえているか?』

 唐突に、声が落ちてきた。
 それは直接脳に響いてくるような声であり、日常では考えられない現象だ。
 だがインデックスは、それにまったく動じない。
 なぜならば、それは彼女が最も得意とする、魔術だったから。
『……確か、あなたは……』
 インデックスも同じように相手にそう伝え、自分の記憶を引っ張り出す。
 そして、彼女の完全な記憶から取り出された答えは、

『……陰陽道を究めた魔術師……土御門元春、だね』

 確定的なインデックスのその思想に、ふふっという声がインデックスに届いた。

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