とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 9-211

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匿名ユーザー

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十月十五日 午前六時頃……

郊外に位置する廃墟群は、行き場を失った者や行き場を作ろうとする者など『一般とは離れた世界』の住人が多く住まう地帯である。
昨日に引き続き、灰色で気持ちの悪い空を見上げて女は考えた。

(『素材』の回収は失敗……か。我ながら使えない部下を持った者だな)
女の手には一冊の本。表紙に『Prohibition』と書かれた古びた本を片手に女は静音に立ち上がる。廃墟ビルの屋上になど一時間居れば十分だろうと、女は手を二回程叩いた。すると、見えない位置に居たと思えわれる女の部下達が数人が現れ、腰を低くして女に近づく。
「……何か、御用でしょうか?」
「私はもう家に帰る。迎えの車を寄越せ」
「…畏まりました。すぐにお呼びいたします」
言うと部下の男達は姿を暗ました。相変わらず自我の欠片も無い連中だ。
「まったく。『対十字教黒魔術(アンチゴットブラックアート)』ともある者がアレじゃあなぁ……私も色々と大変だな」
従順すぎる部下達に不満を溢しつつ、女、クリスタル=アークライトはその場を後にする。
(部下で捕まえられない様なら、私が出るか……面倒臭い)
水晶の名を冠する女は部下の待つ場所へと歩を進めた。


同時刻、イギリス清教の女子寮にて。

「……で、超泊めてくれる代わりにやる仕事が……コレですか?」
「そうですよ。日本人なら出来るでしょう」
絹旗は洗濯機の前で立ち尽くしていた。隣のアニェーゼは不思議そうな顔で絹旗を見ている。
「? どうしたんですキヌハタ。早く始めないと朝食が出来ちまいますよ」
「……いくら私が超日本人でも、洗濯機を直せるとは普通超考えないと思いますが……」

絹旗最愛に任された仕事。それは女子寮きっての悲劇者、THE学園都市製ドラム型洗濯機の修理、修復であった。正直絹旗は最初、皿洗いとか掃除とかそんな事を考えていた訳だが……、
「まさか、超ただの女の子に機械の修理が超出来るとでも本気で考えていたんですか…?」
その言葉を聞いたアニェーゼは少女漫画みたいな劇画調で機能停止してしまった。
要するにアニェーゼは本気で絹旗が洗濯機を完修してくれると思っていた訳である。
「な、ニホン人は皆機械のえきすぱーとだと思っていたのに……期待ハズレでしたね」
勝手に期待されて勝手に失望された絹旗は溜息を吐く。ここが学園都市なら一発ぐらい殴っていたかも知れないが、自分はあくまで泊めてもらう身なので余計な行動な出来ない。

「はぁ、ならもういいです。さっさと朝食済ましちゃいましょう。午前中は付き合って貰う事柄があるので」
「―――? 超アニェーゼ。それはどうゆう……」
「その呼び方は止めてください。なんか私が無駄に凄い人みたいじゃねえですか」
絹旗の質問を一蹴して食堂へ踵を向けるアニェーゼ=サンクティス。絹旗は慌てて後を追う。どうやらこの女子寮では暗黙の了解でアニェーゼの立場の方が、絹旗よりかなり上に有るらしい。さすがの絹旗も恩人を棒に振るような事はしないのだ。

「今日の料理当番はオルソラなので、味に不満足する事は無いと思います。まぁ、パスタなんで日本人には食い慣れねえかも知れませんが」
「はぁ……、パスタなら日本でも超よく食べてますけど」
いつの間にイタリアの食文化を盗みやがったんです!? /そんな事超知りませんよ、と愉快な言い争いを繰り広げる内に、やがて二人は食堂に到着した。


朝食は七時から。どうやら少し早かった様だ。

「あら、お二人揃って登堂とは、仲が宜しいのですね」
食堂に入るとオルソラが真っ黒な修道服を着込んで朝食の用意に勤しんでいる所であった。
他にも数人のシスターがオルソラを手伝っていて、それ以外は適当に着席して大人しくしている。アニェーゼはど真ん中の席を選んで静かに座った。絹旗もそれを見習いアニェーゼの隣に遠慮気味に腰を降ろす。
朝食準備を手伝っていない人間はアニェーゼと絹旗に他に二人。背が高くて眼が鋭い感じの金髪シスターが一人と、それよりもさらに高身長であり、加えて腰の当たりの露出度が半端無い東洋人の黒髪女性が一人。かなり長いポニーテイルは、恐らく床に接触しているだろう。

なんだあれと、絹旗は気になってアニェーゼに尋ねてみた。
「……あちらの超露出狂な女の人は何者です? あの格好から察するに超『そっち』系の人だったりしますか?」
「その言葉を神裂さんの前で言うと抜刀される恐れが有るので、ツッコミは禁物です。……大きい声では言えませんが、まぁ要するに『そっち』の人なんでしょう」
「……抜刀?」
「何でもねえです。気にしたら負けなんですよ」

その時至極適当(事実では有る)な返事を返したアニェーゼは、食堂にばらばらと入って来た他のシスター達の怪しい視線に気づいた。何故かは知らないが、皆ニヤニヤした感じの不愉快な顔をしていて、満場一致でこちらへ視線を向けている。
「……なんです、あなた達」
シスター達は緩んだ顔を崩さずに視線を逸らして「何でも無い」と言うような態度で着席した。


「(……シスター・アニェーゼは上手くやってますかね)」
「(あれで奥手だからなぁ。友達にはまだまだ難しいんじゃ無いか?)」
「(いやいや、その奥手はアニェーゼにこそ、神秘の国日本という繋がりが必要な訳で)」
「(要するにあのキヌハタってのとアニェーゼは仲良しこ良しになる可能性があると!?)」
「「「(その通り!!!)」」」
「(まだ可能性の問題だけどねぇ)」


なにやら後ろでこそこそ聞こえる気がするが、気にせず出された食事に有り付くアニェーゼ。絹旗も後に続く。
相変わらず何も分かってないシスター達の暖かい視線を感じながら食事を終えるアニェーゼと絹旗。鬱陶しいと呟きながら部屋に戻るアニェーゼに絹旗は子鴨の様に付いていった。


「そういえば、さっき言い欠けた午前の用事の件ですけど」
「? なんです?」
朝食を終えて五分も経たない内にアニェーゼは今日の本題を切り出した。
「キヌハタにちょっと手伝って欲しい仕事が有るんです。聖書を近隣の教会とか清教施設なんかに配る仕事なんですけど……聖書って無駄に重い物でしてね。キヌハタにも配るのを手伝って欲しいんですよ」
やはり『外』では色々とやり難いなぁ、と適当な事を考えた絹旗は、仕事の承諾をアニェーゼに伝えた。アニェーゼは「じゃあ、こっちの分持ってください」と二〇冊近い聖書の山を絹旗に差し出して、自分も同じ分量を自前の台車に積み込む。こっちには台車はねえのかと心内で毒づいたが、この位の書物の束など絹旗は素手で持てるのでそこも黙って置く事にした。

(学園都市より超丸くなってますね私は……ほんと『外』って超怖いです)
恐らく学園都市でこの様な軽い仕事をヤレと言われれば怪しくて逆にやる気にならいだろうが、ここは『外』だ。そんな陰謀なんぞ無いのだろうと、心内で溜息を吐く。つまり今まで裏で綱渡りをして来た絹旗には『外』の雰囲気がどうも肌に合わないのだ。
「(ほんと……超ついてないですね……)」
聖書を風呂敷に包んで軽々と担いだ絹旗は、言われた事をやってとっとと帰ろうと誓った。



午前七時五〇分頃。英国某所の歩道にて。
「さて、次は清教施設の孤児院ですね。この施設へ行くにはこの裏路地を通って行った方が近いみてえです」
赤毛の少女がアパートと喫茶店の間に有る僅かな通りを指差して促す声が聞こえた。
聖書配りを始めて三〇分程経っている。アニェーゼと絹旗は次配場所への近道を示して、歩を進めていた。
「しっかし、キヌハタも見掛けに寄らず力持ちなんですね。二〇冊以上の聖書を風呂敷一つで持ち歩くなんて……、実はボディビルダー志望だったりしますか?」
相変わらずデリカシーの無い質問を受けて絹旗は溜息を吐いた。もちろん彼女が一人で二〇冊弱の聖書を正攻法で担げるはずは無く、『窒素装甲』を使用しているだけなのだが。
「そんな超愉快な夢は持ってませんよ。それより裏路地に行くんじゃないですか? 湿気も超多いみたいですし、その無駄に長いサンダルだと超転んでしまうと思うのですが……」
アニェーゼはうっさいです。おしゃれなんで(略)の言葉で一蹴して裏路地の通りに入る。さすがに暗く、ライトの一つでも持たないと三m先が見えない程の暗度であった。

「この先の二つ目の曲がり角を曲がれば大通りに出ます。そっからなら清教施設が見えると思います」
「ああ、そうですか。じゃあさっさと行きましょう」
「言われなくても。それよりキヌハタ。質問が有るのですが」
「? はい?」
「そのヌイグルミはなんです?」
そう言われた絹旗の手には骨董屋で手に入れた滝壷見舞いのウサギヌイグルミ。風呂敷と一緒に持っているためかなり苦しそうな体勢である。
「なんで、そんな邪魔な物持っているんです? 寮の貸部屋に置いてくれば良いものを」
「いえ、あの寮の他のシスターにこのヌイグルミを見せた時に、あの修道女達の目が超尋常じゃなく煌いていたので、念の為持ってきました」
要するに寮のシスター達に取られそうになった為に、自己防衛も兼ねて持ってきたらしい。
「全く……あのシスター共は……」
「あなたもシスターでしょう」
二人は暗い道を見た目仲良く早歩きで歩いていく。


(家に帰るとは言った者の……やっぱり回収を急ぐか)
クリスタル=アークライトは悪臭の酷い裏路地を闊歩しながら『獲物』を探していた。
(しっかし、広い英国で「ウサギのヌイグルミを持った東洋人を捜せ」なんて無茶な注文しやがって中央本部の野郎。東洋人だったら故郷に帰ってる可能性だって捨てきれないって言うのに……)

社長秘書の様な黒色のタイトスカートに紅いランニングに裾が付いた様なシャツ、その上から真っ黒のジャケットを羽織った女性だった。歳は二〇代後半程度。下辺でロール掛かった金髪は、彼女の大人としての魅力を一層に引き出している。
そして、その真っ黒なジャケットの右肩には黒十字に斜め線の一本入ったシンボルが刻まれていた。
(まぁ『素材』が無いと、あの術式は発動できないし……とっとと捜して休みを取るか)
クリスタルは早歩きで裏路地を突き進む。この道を抜ければ大通りに出られる。そうすれば探し出せる確立も少しは上がるだろうと、自然に足が速く動く。
「確か東洋人の特徴は「茶髪でショートカットの少女」……ってこれだけかよ。もうちょい情報寄越せっての」
その時、上司に文句を言いながら裏路地を角を曲がったクリスタルの動きは突然止まった。

(…あれって……?)
彼女の目に映ったのは二人の少女。一人は黒い修道帽を被ったシスター。押してる台車の荷物から見て恐らく聖書配りの途中なのだろう。問題はその横にいるもう一人の少女。大きな風呂敷を抱えたその茶髪の少女の手には、件のウサギのヌイグルミ。
つまりクリスタルの捜していた少女そのまんまだった。
(あれは……間違いないな。……まさかこんなに早く見つかるなんて、私の運も未だ尽きてないのかもね)
捜していた『獲物』を見つけたクリスタルは、口を僅かに吊り上げてから、懐の緑色のカードを一〇枚程取り出し、二人の少女の元へと勢い良く走り出す。

「みーつけた」

そう言うと、彼女は二人へ行き成り攻撃魔術を仕掛けた。

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