とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 9-225

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匿名ユーザー

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視界が一瞬だけ緑色になった気がする。
それに対して思考を巡らせる前に、爆音が鳴り響き、それが何の音なのか認識する暇など絹旗最愛には残されていなかった。
「あーあ。避けられたか。ここで一機に殺しとけば後が楽なんだけどなぁ」
女の声が聞こえる。
まず絹旗の眼の映ったのは黒焦げ抉られた通りと、うつ伏せの修道女。そして、それを見下ろす金髪の女性の姿。短い意識を繋いで状況を分析しようとするが、狭い裏通りでの一瞬の出来事は絹旗の理解が及ぶ範囲を軽く超越していた。
「細かい事は言わないからさ。そのヌイグルミ、お姉さんに渡してくれない? これ以上ドンパチする歳でも無いの私は」
倒れているアニェーゼには目も暮れず、真っ直ぐと此方を見ている黒いジャケットの女は温軽な雰囲気を全く纏っておらず、味方では無いというだけ一発で理解できた。

「……さっそく……お出ましって、訳です、か」
振り返れば謎の襲撃に直撃した修道女の口が僅かに動き、首が動く。その体はゆっくりと持ち上がっていき、アニェーゼ=サンクティスは立ち上がった。
「へぇ……私の魔術をモロに喰らって立ち上がるなんて、威勢の良い小娘じゃないの」
「……『対十字教黒魔術(アンチゴットブックアート)』……!!」

答える気がない女はジャケットの内入れに手を伸ばし、無数の緑色のカードを辺り一体にばら撒いた後、迎撃術式の発動呪文を早口で唱える。
「Cinco elemento de los components Viento Poder Viento Uso el poder Un amigo de Dios Doy el castigo(五大の元素の第一 風よ 力を解き放ち 神に属する愚か者を狩り尽くせ)」
「くっ、キヌハタ!! さっさと逃げてください!!」
「……え?」
絹旗が何かを思った瞬間、女の迎撃術式が発動し緑色を纏った真空刃が絹旗へと真っ直ぐ向かってきた。
「っ!?」
絹旗はとっさの防衛本能で一歩後ろに下がり、元居た場所に巨大な刃が直撃して再び爆音が裏路地全体を支配する。

「(なっ!? 能力者……!?)」
「キヌハタ!! 何してるんです、早くこの場から離れてくださ……」
アニェーゼの言葉はゴキンっという金属音に似た音で掻き消された。その音は女がアニェーゼの頭部に風の術式を軽く当てた音だった。威力こそあまり無い物の、攻撃魔術は何の防御も無しに二回も受ければ少女が気絶するには十分な破壊力を持っている。
死んでこそ居ないが、完全に動かなくなったアニェーゼを尻目に女は絹旗へと視線を向けた。
「だからさ。これ以上無駄に体力使うつもりは無いの。さっさとそのヌイグルミ、渡してくれない?」
「……あなた、ヌイグルミ抱いて寝るには超苦しい歳だと思いますよ。大体これは見舞い品ですから渡せませんと、前にも同じ事言ったと思うんですが。て、言うか……」
絹旗は一言置いてから、
「貴方誰ですか?」

「あー。そっかそっか。お姉さん自己紹介して無かったね。これは失礼な事を」
裏路地の一角で愉快に笑う声が聞こえる。女は笑いを収めてから、まだ緩んだ顔で口を開いた。

「『対十字教黒魔術』英国支部支部長及び北欧支部第一術式構成室室長クリスタル=アークライト。ま、気軽にクリスタルとでも呼べば良いわよ」
相変わらず何を言ってるか解らない絹旗最愛。基、当然の事では有るが。

(よく分かりませんけど……恐らくあの女は風力操作系の能力者か、その『原石』。狙いは解りませんが、このヌイグルミを超狙っているっぽいですね)
大体、大能力者(レベル4)ぐらいですか、と適当な推測を立てて臨戦体勢に入る絹旗。別に戦わなくてもヌイグルミを渡せば見逃してくれるかも知れないが、この様な条件をだす人間が約束を守らない事ぐらい裏稼業の経験測で理解している。
「あれ? 戦うって事は、あなたまさか魔術師だったりするの? 最近のガキは益せてるわね本当」
「……何を超ファンタジーな事言ってるのか分かりませんが、こっちは確り能力開発受けているんです。あなたみたいな齧りと一緒にしないでください」
ふぅん、と興味無さそうな反応を見せたクリスタルは再びカードを取り出して辺りにばら撒き、次の術式を起動させる。
(あのカード、さっきも使ってましたね……滝壷さんの『体晶』と同じ、能力のトリガーか何かでしょうか……?)
何はともあれ『窒素装甲』と言う体纏タイプの能力を持つ絹旗には「逃げる」か「戦う」かしか選択肢が無い。逃げようとすれば真空刃で追撃されるだろうし、何よりアニェーゼを置いていくのは気が引ける。アニェーゼを担いで逃げるにしても結果は同じだろう。
(ですが、叩くにしても……どうやって?)
裏路地という事もあって、『窒素装甲』で投げられる様な物体な無い。絹旗の能力は単体で打撃しても十分脅威となる威力を持つが、手の内も解らないような相手には迂闊に突撃も出来ない。

手詰まりだ、と心で呟く。手のヌイグルミを持つ力が少しだけ強くなる。
(黙っていても次撃が来るだけ……、なら迷っている暇なんて超ありませんね)
絹旗は決心を決めた。左手に見舞い品を握り締め、右手に力を固めて、常識を逸した速度で女へ不意打ちを仕掛ける。命中すれば致命傷は免れない窒素の拳を持って。
(この一発で、終わらせる……!!)

女の口が、少しだけ釣りあがったのが見えた。


そして、

アニェーゼ=サンクティスが目を覚ましたのは寮に造られた救命養護室だった。
体を起こして、周りを見渡す。そこで部屋の隅に見慣れたポニーテイルの女の姿があった。
「……神…裂さん?」
「あぁ、起きましたか。まだ完治はしていないので、無理せず寝ていて良いのですが……」
見るとアニェーゼの体のあちこちに包帯が巻かれていて、立ち上がるのも間々ならない状態であった。
(……何が…あったんでしたっけ?)
アニェーゼは一瞬だけ考えてから聖書配布時の出来事を思い出し、痛む体を無視して神裂に向かって激昂する。
「キヌハタは!? キヌハタは、何処に……!!!」
「オルソラの部屋で安静にしています。体中ボロボロでしたが、命に別状は無さそうです。さすがの能力者もプロの魔術師には敵わなかったようですね」
「………、能力者? 何を言ってるんですか?」
「それらについてはルチアが全て説明してくれます。彼女が来るまで安静にしていてください」
言うと神裂はさっさと部屋を出て行ってしまった。一人残されたアニェーゼは一回だけ息を吐いて、そのままベットに沈んでいった。

数十分後、アニェーゼはドアのノック音で眼を覚ました。
「様子はどうですか? シスター・アニェーゼ」
「……あぁ、ルチアですか。確か神裂さんがルチアが説明云々言っていたはずですが……」
説明はしますから起きずに聞いてください、と部屋隅の座イスを引き寄せてベットの横に静かに座ったルチアは相変わらず固い表情で口を開いた。
「まずは……そうですね、今の状況を説明しましょう。聖書配りが異様に長いと懸念した何人かのシスターが貴方方を捜しに行った結果、二人は傷だらけで倒れていました。犯人は『対十字教黒魔術』かと推測されますが……そうですよね? シスター・アニェーゼ」
「……ええ。奴の肩に『例のシンボル』が偉そうに飾ってありましたから」
「では、確定とします。二人を発見した際、貴方は完全に意識を失っていた様ですが、絹旗最愛は多少、意識が残っており大体の事は説明してくれました。……どうやら彼女は貴方の意識が飛んだ後に……、『一人で戦っていた』そうです」
「っ」
アニェーゼの言葉が詰まる。絹旗があの相手と戦えたのかとか、そのぐらいの力量は持っているのかとか、それ以前に『彼女が一人で戦っていた』という事実にアニェーゼは返す言葉が見つからない。
「彼女は隠していた様ですが、ついさっき最大司教から『今、貴方達が匿っているのは学園都市の人間だ』との通報が有りました。これが事実だとすると絹旗最愛も何らかの能力者なのでしょう。そうで無ければ今ごろ彼女は命を落していたと思いますし」
絹旗が学園都市の人間で超能力者、という事は今までの説明で大体想像はしていたため、あまり驚きは無かったが、アニェーゼはもっと別の所に疑問を抱く。

「……何が……言いたいんです?」
「貴方は彼女を使って『対十字教黒魔術』を誘き出す、と言いました」
ルチアの声が今までに無く鋭くなる。
「そして、貴方の思惑通り彼女を利用して『対十字教黒魔術』の誘連に成功しました。……が、結局それは、彼女だけで無く貴方までもが傷を負ったこの野暮な作戦は、成功と言えたのですか?」
思わず引鬱の表情に成り掛けたアニェーゼは、その質問に答える事が出来なかった。絹旗もアニェーゼもアニェーゼ自身の敵に対する過小評価で意識不明まで追い詰めてしまったと、ルチアは言っている訳だ。
「だから、ルチアは……結局、何が、言いたいんです、か?」
喋る事も苦しそうな少女に、ルチアは目を逸らさずに真っ直ぐと言い放った。

「結論を言います。今回の件は貴方の失態です。部隊長として責任を取れ、とまでは言いませんが、反省はしてください。『対十字教黒魔術』については私達でなんとかしますから貴方は安静にして……“もう、これ以上動かないでください。”……さて、説明は終わりました。私は一件の後片付けが有るので失礼します。お大事に、シスター・アニェーゼ」

言うだけ言うと、ルチアは部屋を出ていった。奥歯をかみ締める少女を残して。

(クリスタル……あーくらいと? でしたっけ、あの女の名前)
絹旗最愛もまた、オルソラの自室に有る療養ベットの上で眼を覚ましていた。周りを見渡せば、座席に寝込んだ真っ黒シスターが可愛らしい寝顔ですやすやと眠っているのが見える。と言うか、すぐ横に居た。状況から考えるに、恐らく絹旗を看病していて気が付いたら自分が寝ていたようなパターンだろう。
絹旗はそのシスターの肩をユサユサと揺さぶって起こそうとする。その度に大きな胸もユサユサと揺れて腹立だしい。やがて気づいたのか、シスターは眼を覚ました。
「あら、起きていたので御座いますか。あら? ……わ、わたくしはいつの間に寝てしまったのでございますね。こ、これはお恥ずかしい事を」
不安定な日本語で眠気を誤魔化すシスターに絹旗は呆れたように目を逸らす。下らない、と行動で示したつもりだったが、シスターはニコニコと聖人君子みたいな顔で絹旗を凝視していた。

「…..なんです?」
「いえいえ。あなた様が幾分元気そうなので安心したので御座います。でも、ふらふらに成りながら、シスター・アニェーゼを守ろうと戦って傷付いたのですから、名誉の負傷と言っても間違いでは無いと思いますよ」
「なっ!!」
絹旗は否定出来ない為に、思わず顔を真っ赤にして体を仰け反らした。飲み物を飲んでいれば絶対噴出していたと、断言できる程に。
「……冷やかしなら、超出てってください。私はヌイグルミを超奪われない為に戦っていたんです……」
「あらあら。この部屋はわたくしの部屋なのでございますよ?」
くそ、この女のペースは合わせ辛いなと、心で舌打ちする絹旗最愛は、そこで重要な事に気が付いた。

「あれ? ヌイグルミは……? 滝壷さんに超贈呈する予定の」
「あら。自室に置いて行かれたのでは無いのですか?」
あれ? どこ置いたっけ? と色々思い返していると、ある言葉が脳裏を過った。

『細かい事は言わないからさ。そのヌイグルミ、お姉さんに渡してくれない?』
………そういや、あの女がヌイグルミ欲しがってたなぁと、適当に考えてから、意識を失う前に有ったはずなのに、意識を取り戻した時にはヌイグルミが無いのはどうゆう事だろうか? と、少し考えてみる。

「……そこの超シスター。私の見舞い品は他のシスターが超持ってたりはしませんか?」
「それは無いと思います。あなた様をここまで運んできたのはわたくしですから。そもそも、裏路地に倒れていた貴方は、ヌイグルミなど持っていませんでしたよ?」
その説明から、絹旗は一つの結論に辿り着いた。


あの女……超殺す。

全財産を使い果たして手に入れた宝を奪われた絹旗最愛が、ベットから起き上がって「あの女超殺す!!!」と言いながら外に出ようとするのをシスター達が止めに入るのは、この数十秒後の事。

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