学園都市。
超能力開発の研究を行う大規模な都市。その人口は二三〇万人弱でかつ、その八割は学生というまさに学生のための街。そのうちの1人である特性「不幸」の高校生、上条当麻はその日は朝食がないという不幸に襲われていた。
彼1人ならばこの不幸も少しの我慢で済んだのであろう。だがしかし、彼にはそれでは済まされない理由があった。
その不幸の理由が台所の冷蔵庫の前に立つ彼の背後の机から声をあげる。
「と~う~ま~。おなかがすいたんだよ。」
そこには机の上に顔を預け、その両手に箸を一本ずつ握ってダンダンと音を鳴らして抗議をするなかなか愉快な格好の少女がいた。
彼女の名前はインデックス。
一〇万三〇〇〇冊の魔導書を記憶するその少女は上条家のエンゲル係数を急激に跳ね上げるその食欲が満たされないためにご機嫌斜めである。
「つっても、昨日寝る前にこっそり予備の分のパンを食べたのは誰だよインデックス?」
「むむむ・・・でもとうまがそもそも作ったばかりの朝ごはんを丸ごとひっくり返さなきゃこんなことにはならなかったんじゃないかな!?」
そもそも、今日の彼の不幸の原因はこれである。
じつは今日に限って目覚ましが鳴らず、時間ギリギリであろうともやはり朝メシ抜きなどこの腹ペコシスターさんが許すわけもなく、いつものように朝食をつくるために台所に立つ彼の足元に自分のご飯がこないことに痺れを切らし『まだー!?ごはんまだー!?』とでもいうかのごとく突撃してきた三毛猫を踏みそうになるのを避けようとした結果、上条が作った朝食は突撃兵の差し出されることになった。
更には目の前の冷蔵庫の中身が空というコンボつきである。
食卓にはテレビの音が流れる。どうやら最近学園都市で開発された最新の特殊素材についてのニュースなんかをしているらしい。
そんなキャスターの声をバックミュージックに、空の冷蔵庫を閉めた上条は少し考えた後、仁王立ちで目の前の少女の前に立つ。
「はーっはっは!この毎日が絶賛不幸中の上条当麻さんがまさか毎日食事をひっくり返さずにいれるとでも?こんなことがあるから予備のパンを用意してたのにそれを考えずに食べてしまったインデックスさんがやっぱり悪いと思います。」
「・・・・・とーま、ひらきなおったところでとうまがご飯をひっくり返した事実は消えないんだよ?」
「うっ、やっぱだめか・・・でももう正直時間ねーんだ、わるいけど今日だけ朝飯は勘弁してもらえねーか?」
「お昼は?」
「あっ・・・」
インデックスがゆらりと立ち上がる。
「ふーん・・・とうまはわたしお腹がすいて倒れてもいいっていうんだね?」
純白シスターが半目でこちらを睨みながら話しかける。
「え」
「とうまは自分だけ学校でお昼食べようっていうんだね!?」
その服にも負けない白い歯をむき出しにしてぐいぐいと上条に迫る。
「ちょ、ちょっとまて!落ち着けインデ」
「お腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたぁぁぁっ!!」
相手の言葉をさえぎって、インデックスが上条に飛び掛った。
「わかった!わかったから痛たたたたたたたたっ!?」
当初の作戦に失敗した上条の頭にいつもどおりに銀髪シスターが噛りつく。あぁ、今日も不幸だと遠のきかけた意識の中で思った少年は、とりあえず近くのコンビ二まで走ることを決意した。
彼1人ならばこの不幸も少しの我慢で済んだのであろう。だがしかし、彼にはそれでは済まされない理由があった。
その不幸の理由が台所の冷蔵庫の前に立つ彼の背後の机から声をあげる。
「と~う~ま~。おなかがすいたんだよ。」
そこには机の上に顔を預け、その両手に箸を一本ずつ握ってダンダンと音を鳴らして抗議をするなかなか愉快な格好の少女がいた。
彼女の名前はインデックス。
一〇万三〇〇〇冊の魔導書を記憶するその少女は上条家のエンゲル係数を急激に跳ね上げるその食欲が満たされないためにご機嫌斜めである。
「つっても、昨日寝る前にこっそり予備の分のパンを食べたのは誰だよインデックス?」
「むむむ・・・でもとうまがそもそも作ったばかりの朝ごはんを丸ごとひっくり返さなきゃこんなことにはならなかったんじゃないかな!?」
そもそも、今日の彼の不幸の原因はこれである。
じつは今日に限って目覚ましが鳴らず、時間ギリギリであろうともやはり朝メシ抜きなどこの腹ペコシスターさんが許すわけもなく、いつものように朝食をつくるために台所に立つ彼の足元に自分のご飯がこないことに痺れを切らし『まだー!?ごはんまだー!?』とでもいうかのごとく突撃してきた三毛猫を踏みそうになるのを避けようとした結果、上条が作った朝食は突撃兵の差し出されることになった。
更には目の前の冷蔵庫の中身が空というコンボつきである。
食卓にはテレビの音が流れる。どうやら最近学園都市で開発された最新の特殊素材についてのニュースなんかをしているらしい。
そんなキャスターの声をバックミュージックに、空の冷蔵庫を閉めた上条は少し考えた後、仁王立ちで目の前の少女の前に立つ。
「はーっはっは!この毎日が絶賛不幸中の上条当麻さんがまさか毎日食事をひっくり返さずにいれるとでも?こんなことがあるから予備のパンを用意してたのにそれを考えずに食べてしまったインデックスさんがやっぱり悪いと思います。」
「・・・・・とーま、ひらきなおったところでとうまがご飯をひっくり返した事実は消えないんだよ?」
「うっ、やっぱだめか・・・でももう正直時間ねーんだ、わるいけど今日だけ朝飯は勘弁してもらえねーか?」
「お昼は?」
「あっ・・・」
インデックスがゆらりと立ち上がる。
「ふーん・・・とうまはわたしお腹がすいて倒れてもいいっていうんだね?」
純白シスターが半目でこちらを睨みながら話しかける。
「え」
「とうまは自分だけ学校でお昼食べようっていうんだね!?」
その服にも負けない白い歯をむき出しにしてぐいぐいと上条に迫る。
「ちょ、ちょっとまて!落ち着けインデ」
「お腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたぁぁぁっ!!」
相手の言葉をさえぎって、インデックスが上条に飛び掛った。
「わかった!わかったから痛たたたたたたたたっ!?」
当初の作戦に失敗した上条の頭にいつもどおりに銀髪シスターが噛りつく。あぁ、今日も不幸だと遠のきかけた意識の中で思った少年は、とりあえず近くのコンビ二まで走ることを決意した。
学園都市のある高校までの道を、やたら高そうな黒塗りの車が走る。内装にもやたら金が掛かっていそうなその車内には、学生服の少年と数名の黒スーツがやわらかそうなシートに腰掛けていた。
その黒スーツの1人の初老の男が学生服に話しかける。
「しばらくはこれから向かう学校に通っていただくことになります。こちらの準備にはまだ時間が掛かります故、その間お待たせすることになりますから。あと補足事項についてなのですが」
「もういい。」
少年が無造作に男の話をきった。
「なんど確認すれば気が済む。それにこんなものものしい送迎はいらん。帰りは来んな、一人でいい。」
明らかに不機嫌な顔で少年は不満を目の前の初老の男に浴びせる。
「なりません。送迎はさせていただきます。必要なこと故。」
「ならリア、お前1人で来い。他はいい。」
リア、と呼ばれた黒スーツの少女は自分に話しが回ってくると思っていなかったのかえぇっと声を漏らし、すぐに対応できずにいた。その横から初老の男が代わりに答える。
「わかりました、迎えにはリアをよこしましょう。では確認を続けさせてもらいます。この儀式を成立させるためにはどのような些細なことも見逃すわけにはいきません故。」
「・・・・・・・」
これ以上いっても無駄だと悟ったのだろう、少年はしゃべることをやめた。横では男がそれを合図とし、また話し始める。
いい加減聞き飽きた確認を黙って聞き流すことにした少年は窓から外の景色を眺める。そこには、大画面を持つ飛行船やおそらく研究機関であろう建物など学園都市ならではの独特な景色が広がっていた。それすらも見流しながらただ少年は思う。
(わかってんよ・・・)
少年は無意識に顔を険しくさせる。もっとも、それに気付くものは少年を含め車内には誰もいないが。
(失敗するわけにはいかない)
その黒スーツの1人の初老の男が学生服に話しかける。
「しばらくはこれから向かう学校に通っていただくことになります。こちらの準備にはまだ時間が掛かります故、その間お待たせすることになりますから。あと補足事項についてなのですが」
「もういい。」
少年が無造作に男の話をきった。
「なんど確認すれば気が済む。それにこんなものものしい送迎はいらん。帰りは来んな、一人でいい。」
明らかに不機嫌な顔で少年は不満を目の前の初老の男に浴びせる。
「なりません。送迎はさせていただきます。必要なこと故。」
「ならリア、お前1人で来い。他はいい。」
リア、と呼ばれた黒スーツの少女は自分に話しが回ってくると思っていなかったのかえぇっと声を漏らし、すぐに対応できずにいた。その横から初老の男が代わりに答える。
「わかりました、迎えにはリアをよこしましょう。では確認を続けさせてもらいます。この儀式を成立させるためにはどのような些細なことも見逃すわけにはいきません故。」
「・・・・・・・」
これ以上いっても無駄だと悟ったのだろう、少年はしゃべることをやめた。横では男がそれを合図とし、また話し始める。
いい加減聞き飽きた確認を黙って聞き流すことにした少年は窓から外の景色を眺める。そこには、大画面を持つ飛行船やおそらく研究機関であろう建物など学園都市ならではの独特な景色が広がっていた。それすらも見流しながらただ少年は思う。
(わかってんよ・・・)
少年は無意識に顔を険しくさせる。もっとも、それに気付くものは少年を含め車内には誰もいないが。
(失敗するわけにはいかない)
「転校生?」
「そうなんよ。カミやんが遅刻してる間に、隣のクラスに来たんやで。」
結局、あれから大急ぎで近くのコンビ二までひとっ走りしてきたあげく両手にパンを持って帰ってくると土御門の義理の妹がしっかりインデックスのご飯のお世話をしてくれており、そのことで肉体的にも精神的にも憔悴した上条が学校にたどり着いたのは3時間目の授業のはじめだった。
遅刻してきたことに国語教師にねちねちと小言を聞かされ三重苦をしっかり味わった不幸の少年上条当麻に、彼のクラスメイトである青髪ピアスが答えた。その横の土御門元春も軽い調子で続ける。
「ちょっと童顔だけどまー美形で登校には高級車での送迎、おまけにうわさじゃレベル4の能力者だってウワサぜよ。なんつーかなんでこの学校にきたんだろーにゃー。」
彼らの学校は別に常盤台のようにご立派な教育目的や長点上機学園のような優れた設備があるというわけでもないごく普通、あるいはやや下層レベルの高等学校である。
そこにレベル4という学園都市におけるエリートが転校というのは、土御門でなくとも違和感を持つであろう。
その違和感以上に朝っぱらから居候のシスターに噛みつかれた頭の傷を気にしつつ上条は、
「ウワサなんだろ。それより転校生が来るなんて話、言ってたっけ?」
「そこは小萌先生も知らなかったみたいだぜぃ。なんでも今朝の職員会議で急に聞かされたとか言ってたしにゃー。」
ふ~ん、そんなこともあるんだなと上条は適当にその話を流す。というより、家で今日使うはずの体力のほとんどを消費し、そのせいで頭を回転させる気が起こらないという方がしっくりくる。まぁ、それじゃあ普段は頭を回転させているかといわれれば何とも言えないところではあるのだが。
「・・・で、なんでお前は俺の腕をそんなに引っ張ってるんですか?」
「ノリが悪いなーカミやん、もちろんその転校生を見学にいくんやないですか。」
上条はいつもと変わらぬテンションで腕を引っ張ってくる級友に対し、机に重力を完全に預けたまま、
「転校してきたばっかのやつを動物園のパンダみたいにみてやンなって、ほっといてやれよ。
あと上条さんのことも今日はできればそっとしておいてくれ・・・」
「にゃー。ナニ年寄りくさいこと言ってんだカミやん。ウワサのエリートを確認しとかねーとにゃー。それに転校生なんてイベント、盛り上がらないでどーすんぜよ?」
じゃあ姫神(あたし)のときは?と軽く思う上条と少し離れた席から聞こえた会話にかなりへこむ姫神。
そんな2人を無視して、ほらいくぜぃとなかば強引に上条を引っ張って教室を出て行く土御門と青髪ピアス。
「あたしのときは・・・?」
某国の黒服と手をつなぐ宇宙人の写真のような形のデルタフォースを尻目に、姫神秋沙は下を向きながら黒いオーラをかもし出していた。
「そうなんよ。カミやんが遅刻してる間に、隣のクラスに来たんやで。」
結局、あれから大急ぎで近くのコンビ二までひとっ走りしてきたあげく両手にパンを持って帰ってくると土御門の義理の妹がしっかりインデックスのご飯のお世話をしてくれており、そのことで肉体的にも精神的にも憔悴した上条が学校にたどり着いたのは3時間目の授業のはじめだった。
遅刻してきたことに国語教師にねちねちと小言を聞かされ三重苦をしっかり味わった不幸の少年上条当麻に、彼のクラスメイトである青髪ピアスが答えた。その横の土御門元春も軽い調子で続ける。
「ちょっと童顔だけどまー美形で登校には高級車での送迎、おまけにうわさじゃレベル4の能力者だってウワサぜよ。なんつーかなんでこの学校にきたんだろーにゃー。」
彼らの学校は別に常盤台のようにご立派な教育目的や長点上機学園のような優れた設備があるというわけでもないごく普通、あるいはやや下層レベルの高等学校である。
そこにレベル4という学園都市におけるエリートが転校というのは、土御門でなくとも違和感を持つであろう。
その違和感以上に朝っぱらから居候のシスターに噛みつかれた頭の傷を気にしつつ上条は、
「ウワサなんだろ。それより転校生が来るなんて話、言ってたっけ?」
「そこは小萌先生も知らなかったみたいだぜぃ。なんでも今朝の職員会議で急に聞かされたとか言ってたしにゃー。」
ふ~ん、そんなこともあるんだなと上条は適当にその話を流す。というより、家で今日使うはずの体力のほとんどを消費し、そのせいで頭を回転させる気が起こらないという方がしっくりくる。まぁ、それじゃあ普段は頭を回転させているかといわれれば何とも言えないところではあるのだが。
「・・・で、なんでお前は俺の腕をそんなに引っ張ってるんですか?」
「ノリが悪いなーカミやん、もちろんその転校生を見学にいくんやないですか。」
上条はいつもと変わらぬテンションで腕を引っ張ってくる級友に対し、机に重力を完全に預けたまま、
「転校してきたばっかのやつを動物園のパンダみたいにみてやンなって、ほっといてやれよ。
あと上条さんのことも今日はできればそっとしておいてくれ・・・」
「にゃー。ナニ年寄りくさいこと言ってんだカミやん。ウワサのエリートを確認しとかねーとにゃー。それに転校生なんてイベント、盛り上がらないでどーすんぜよ?」
じゃあ姫神(あたし)のときは?と軽く思う上条と少し離れた席から聞こえた会話にかなりへこむ姫神。
そんな2人を無視して、ほらいくぜぃとなかば強引に上条を引っ張って教室を出て行く土御門と青髪ピアス。
「あたしのときは・・・?」
某国の黒服と手をつなぐ宇宙人の写真のような形のデルタフォースを尻目に、姫神秋沙は下を向きながら黒いオーラをかもし出していた。
ところ変わって隣のクラス。
その前の廊下には別のクラスの人間が休日のデパートよろしく、男女問わず集まっていた。
「なんだこりゃ。休憩時間は二回もあったのになんでまだこんなに人が集まってんだよ?」
「それが若さってモンだにゃーカミやん。まーあれみりゃ納得できるか。」
そう言って土御門は教室のうしろの人だかりの方に向かって指をさす。
周りの野次馬が邪魔になって途切れ途切れにしか見えないが、なるほどそこには端正な顔つきの少年が自分の席に腰掛けていた。少し茶色がかった髪で見え隠れしている顔は、彼のあまり高くない身長も相まって少し幼くも見える。
「まーたしかに・・・。けどお前らが転校生に興味持つって珍しいな、相手が女子だったらわかるけど。」
上条の言葉に金髪にサングラスの男は腕を組んで得意げに答える。
「いったろカミやん。学生がこーいうイベントでテンションあげねーでどーするんだって。」
うさんくさい言葉だなと上条は思う。
この目の前の男は、学生である以前に魔術師だ。イギリス清教”必要悪の協会”に属する彼にはこれまでなんども魔術サイドの事件に巻き込まれていた。さすがに今回が魔術サイド云々の話につながるとは思っていないが、こいつが自分を学生だと推すのがなんか信用できない。
ふーんと適当に流すことにして上条はもう1人のクラスメイトのほうに顔を向ける。そこには、教室の窓から中をガン見して何かブツブツ言っている青髪ピアスがいた。
なに言ってんだと近づきかけた上条はパッとその足を止める。ブツブツ言ってる口から
「ショタと定義するには少し遠い・・・でも角度を変えて見方によっては・・・」
とか聞こえてきたからだ。
(・・・まえ言ってたのは勢いじゃなかったのかよ。)
半分引いて半分不憫な子を見るような、なんとも言えない表情で上条は青髪ピアスと距離をとる。そこへ
「なにやってるんですか~3人とも。もう授業はじめますよ~。」
と廊下の向こう側からパッと見小学生のような担任に声をかけられる。
周りの生徒も気付けばおらず、3人だけが廊下で立っていた。
と、いままでブツブツ言っていた青髪ピアスがくるっと声の方へ方向転換する。
「はーい。いやー、転校生に心揺さぶられもしたけどやっぱり小萌先生が一番やなぁ」
「当たり前だにゃー青髪ピアス。小萌先生もとい、ロリがたかだかすこし顔がいいくらいの転校生ふぜいに屈するわけがないんだにゃー。」
自身の変態性を惜しげもなく発揮するクラスメイト2人のあとに続くかたちで上条は教室に戻っていく。
なんか疲れが増した気がした上条は歩きながら決意する。
よし、残りの授業は全部睡眠にあてようと。
その前の廊下には別のクラスの人間が休日のデパートよろしく、男女問わず集まっていた。
「なんだこりゃ。休憩時間は二回もあったのになんでまだこんなに人が集まってんだよ?」
「それが若さってモンだにゃーカミやん。まーあれみりゃ納得できるか。」
そう言って土御門は教室のうしろの人だかりの方に向かって指をさす。
周りの野次馬が邪魔になって途切れ途切れにしか見えないが、なるほどそこには端正な顔つきの少年が自分の席に腰掛けていた。少し茶色がかった髪で見え隠れしている顔は、彼のあまり高くない身長も相まって少し幼くも見える。
「まーたしかに・・・。けどお前らが転校生に興味持つって珍しいな、相手が女子だったらわかるけど。」
上条の言葉に金髪にサングラスの男は腕を組んで得意げに答える。
「いったろカミやん。学生がこーいうイベントでテンションあげねーでどーするんだって。」
うさんくさい言葉だなと上条は思う。
この目の前の男は、学生である以前に魔術師だ。イギリス清教”必要悪の協会”に属する彼にはこれまでなんども魔術サイドの事件に巻き込まれていた。さすがに今回が魔術サイド云々の話につながるとは思っていないが、こいつが自分を学生だと推すのがなんか信用できない。
ふーんと適当に流すことにして上条はもう1人のクラスメイトのほうに顔を向ける。そこには、教室の窓から中をガン見して何かブツブツ言っている青髪ピアスがいた。
なに言ってんだと近づきかけた上条はパッとその足を止める。ブツブツ言ってる口から
「ショタと定義するには少し遠い・・・でも角度を変えて見方によっては・・・」
とか聞こえてきたからだ。
(・・・まえ言ってたのは勢いじゃなかったのかよ。)
半分引いて半分不憫な子を見るような、なんとも言えない表情で上条は青髪ピアスと距離をとる。そこへ
「なにやってるんですか~3人とも。もう授業はじめますよ~。」
と廊下の向こう側からパッと見小学生のような担任に声をかけられる。
周りの生徒も気付けばおらず、3人だけが廊下で立っていた。
と、いままでブツブツ言っていた青髪ピアスがくるっと声の方へ方向転換する。
「はーい。いやー、転校生に心揺さぶられもしたけどやっぱり小萌先生が一番やなぁ」
「当たり前だにゃー青髪ピアス。小萌先生もとい、ロリがたかだかすこし顔がいいくらいの転校生ふぜいに屈するわけがないんだにゃー。」
自身の変態性を惜しげもなく発揮するクラスメイト2人のあとに続くかたちで上条は教室に戻っていく。
なんか疲れが増した気がした上条は歩きながら決意する。
よし、残りの授業は全部睡眠にあてようと。
昼休み。
転校生の少年は正直閉口していた。
たしかに転校生というのは学生にとっては物珍しいのかもしれない。最初のうちは多少囲まれる事もあるだろうと覚悟もしていた。しかし3度の休憩時間を過ぎても周囲の人数が変わらない(いやむしろ若干増えている気もする。他のクラスの人間か?)のはどうだろうか。
「篠原くーん、食堂行こうよ。案内してあげる。」
クラスメイトの女子の1人が転校生の少年に話しかける。
篠原 圭。
男にしては長めの少し茶色がかった髪をもち、高校生にしては若干幼いが整った顔をしている。あまり高くない身長も手伝って容姿は少年という表現がしっくりくる。
その転校生の少年はクラスメイトの提案に対して鞄から取り出した箱を掲げる。
「ありがとう、でも今日は弁当持たされてるから」
「じゃあ一緒に食べよう。私も今日お弁当なんだ。」
すべて言い切る前に、話しかけられた子とは他の女子から割り込まれる。さらにはこっちから何か言う前に自分の机に他の机が会議でもする様に合わせられていく。
「・・・うざ」
「えー、何か言ったー?」
見ると、最初に食堂に誘ってきた女子までもがちゃっかり自分の机を合わせていた。
「いや、何も。」
(めんどくせーな、そろそろほっとけってんだ。いいかげん察しろよボケどもが。)
嫌味なくらいの爽やかな笑顔を顔に貼り付けて、その笑顔には似つかわしくないドス黒い暴言を篠原は誰にも聞こえないような小声で呟いた。
どっかでボロは出るんだろうがわざわざ転校初日に地を出してワル目立ちするのも面倒くさいなと考えていた篠原は、とりあえず当たり障りのない真面目な優等生を演じることで目立たないようにしている。
結局その当初の目的は彼が登校するとき、やたら高そうな黒塗りの送迎車によって簡単にぶっ壊れてしまったのだが。
予想はついていた。見るからに平均的なこんな学校でのまるで執事か何かのような黒スーツと高級車のコンボ。どー考えても目立つなというほうが無理である。
だから送り迎えなんざいらなかったんだと篠原は更に毒づいた。とはいえその容姿も目立つのに少なからず一役買っていたのだが彼はそれには気付いていない。
クラスメイトをかわすのを諦め、弁当箱の包みを解いていく。窓の外では、相変わらずディスプレイのついた飛行船が空を漂っていた。
転校生の少年は正直閉口していた。
たしかに転校生というのは学生にとっては物珍しいのかもしれない。最初のうちは多少囲まれる事もあるだろうと覚悟もしていた。しかし3度の休憩時間を過ぎても周囲の人数が変わらない(いやむしろ若干増えている気もする。他のクラスの人間か?)のはどうだろうか。
「篠原くーん、食堂行こうよ。案内してあげる。」
クラスメイトの女子の1人が転校生の少年に話しかける。
篠原 圭。
男にしては長めの少し茶色がかった髪をもち、高校生にしては若干幼いが整った顔をしている。あまり高くない身長も手伝って容姿は少年という表現がしっくりくる。
その転校生の少年はクラスメイトの提案に対して鞄から取り出した箱を掲げる。
「ありがとう、でも今日は弁当持たされてるから」
「じゃあ一緒に食べよう。私も今日お弁当なんだ。」
すべて言い切る前に、話しかけられた子とは他の女子から割り込まれる。さらにはこっちから何か言う前に自分の机に他の机が会議でもする様に合わせられていく。
「・・・うざ」
「えー、何か言ったー?」
見ると、最初に食堂に誘ってきた女子までもがちゃっかり自分の机を合わせていた。
「いや、何も。」
(めんどくせーな、そろそろほっとけってんだ。いいかげん察しろよボケどもが。)
嫌味なくらいの爽やかな笑顔を顔に貼り付けて、その笑顔には似つかわしくないドス黒い暴言を篠原は誰にも聞こえないような小声で呟いた。
どっかでボロは出るんだろうがわざわざ転校初日に地を出してワル目立ちするのも面倒くさいなと考えていた篠原は、とりあえず当たり障りのない真面目な優等生を演じることで目立たないようにしている。
結局その当初の目的は彼が登校するとき、やたら高そうな黒塗りの送迎車によって簡単にぶっ壊れてしまったのだが。
予想はついていた。見るからに平均的なこんな学校でのまるで執事か何かのような黒スーツと高級車のコンボ。どー考えても目立つなというほうが無理である。
だから送り迎えなんざいらなかったんだと篠原は更に毒づいた。とはいえその容姿も目立つのに少なからず一役買っていたのだが彼はそれには気付いていない。
クラスメイトをかわすのを諦め、弁当箱の包みを解いていく。窓の外では、相変わらずディスプレイのついた飛行船が空を漂っていた。
昼下がり。
インデックスはベッドの上でごろごろと転がっていた。
昼ご飯はまいかが朝ご飯と一緒に作っておいてくれたものがあった。足りなければとうまがコンビニで買ってきたパンが台所にしまってある。すこしスフィンクスと昼寝をした後、最近はまっている再放送のアニメも見終わった。
要するに、彼女は暇を持て余していた。
「うー。暇なんだよ暇なんだよー。スフィンクスはかまってくれないし。」
三毛猫は床の窓側で日向ぼっこを満悦している。んー、良かったら一緒にどうですかいとでも言うようにゴロゴロと喉を鳴らす。
アニメの後でつけっぱなしになったテレビは学園都市のおでかけスポットを紹介する番組が流れていた。何気なくそちらに目を向けたインデックスの目がカッと見開かれる。
それは最近人気のたこ焼き、それも中身が6種類の6色たこ焼きなるものであった。
テレビのなかでややおおげさに紹介しているキャスターを見ながらその背後の景色をチェックしてインデックスはムクッと起き上がった。
・・・この景色は見覚えがある、たしかとうまの学校のすぐ近くにあったはずだ。
「とうまを迎えに行かなくちゃ。これは決して六色たこ焼きが美味しそうだとかちょっと行って食べてみたいだとかそういうことではなくて、あくまで朝疲れた顔で出ていったとうまをたまには労わってあげようという慈悲の心なんだよ。」
誰に向けたわけでもない言い訳をすらすらと言いあげた後、シスターはスフィンクスをかかえて玄関に向かう。
と、その途中でそういえばといった感じで振り返り、スフィンクスを一旦おいて机の上に放置されていた携帯電話を手に取った。
出かけるときは持っておけと家主に渡されたものだが、当の渡された本人はこの文明機器の使い方がいまだに理解しきれていない。だがもしわからなくなったらその辺の誰かを捕まえて代わりに使ってもらえばいい。
そんなことを考えながら足元の三毛猫を促して再び玄関に向かう。
きらきらと表情を輝かせながら軽いスキップで歩く猫を抱えたシスターを横切る通りすがりの人が見たならば、おそらく遊園地にでも遊びに行く子供のように見えただろう。
インデックスはベッドの上でごろごろと転がっていた。
昼ご飯はまいかが朝ご飯と一緒に作っておいてくれたものがあった。足りなければとうまがコンビニで買ってきたパンが台所にしまってある。すこしスフィンクスと昼寝をした後、最近はまっている再放送のアニメも見終わった。
要するに、彼女は暇を持て余していた。
「うー。暇なんだよ暇なんだよー。スフィンクスはかまってくれないし。」
三毛猫は床の窓側で日向ぼっこを満悦している。んー、良かったら一緒にどうですかいとでも言うようにゴロゴロと喉を鳴らす。
アニメの後でつけっぱなしになったテレビは学園都市のおでかけスポットを紹介する番組が流れていた。何気なくそちらに目を向けたインデックスの目がカッと見開かれる。
それは最近人気のたこ焼き、それも中身が6種類の6色たこ焼きなるものであった。
テレビのなかでややおおげさに紹介しているキャスターを見ながらその背後の景色をチェックしてインデックスはムクッと起き上がった。
・・・この景色は見覚えがある、たしかとうまの学校のすぐ近くにあったはずだ。
「とうまを迎えに行かなくちゃ。これは決して六色たこ焼きが美味しそうだとかちょっと行って食べてみたいだとかそういうことではなくて、あくまで朝疲れた顔で出ていったとうまをたまには労わってあげようという慈悲の心なんだよ。」
誰に向けたわけでもない言い訳をすらすらと言いあげた後、シスターはスフィンクスをかかえて玄関に向かう。
と、その途中でそういえばといった感じで振り返り、スフィンクスを一旦おいて机の上に放置されていた携帯電話を手に取った。
出かけるときは持っておけと家主に渡されたものだが、当の渡された本人はこの文明機器の使い方がいまだに理解しきれていない。だがもしわからなくなったらその辺の誰かを捕まえて代わりに使ってもらえばいい。
そんなことを考えながら足元の三毛猫を促して再び玄関に向かう。
きらきらと表情を輝かせながら軽いスキップで歩く猫を抱えたシスターを横切る通りすがりの人が見たならば、おそらく遊園地にでも遊びに行く子供のように見えただろう。
学校の終わる少し前を見計らってリアは学校へ向かっていた。
用件は自分勝手な幼馴染の出迎えである。
朝の送迎車のなかでそいつの直々のご指名によって、いやおうなしにこの仕事を任命されたからだ。
「なんでわたしが・・・。」
ぶつぶつと小言を言いながら不機嫌そうな顔をした黒スーツの少女が道を行く。
思えばこの幼馴染には昔から振り回されていた気がする。例えば、出会った5歳の春には引っ張られていった山の中にそのまま置いていかれた。(そのあと母親にこっぴどく叱られてはいたが)6歳の夏には近所の駅に連れてこられて線路に勝手に侵入し、その共犯として駅長らしき人に散々怒鳴られた。(あとで聞いた話では、その日のダイヤが1,2本ずれたとか)
その後しばらくして引っ越していったのだが、半年ほど前に再会したときにはあの眼鏡の初老の男を先頭にぞろぞろと黒スーツを取り巻きに従えていた。それについて問いただしているうちに眼鏡になし崩し的に黒スーツの一員とされ、現在に至る。
そして年月は無情に過ぎ去っていたようで、再会した少年は昔多少はあった愛嬌は消え失せ、周りを振り回す身勝手さは増していた。さらに無愛想にもなっていてかつて引っ越していった後の話を聞いても別にの一言で流される始末である。
あのアグレッシブさはどこ行ったんだと思いきや、初対面の人間にとてもにこやかな好青年(少年?)を演じたり、他の黒スーツと陰でコソコソ何かやってたりという面を見せたりもする。
そのくせこういった雑用にはしっかり自分を指名してくる辺り、昔よりタチ悪くなってんじゃねーかあの野郎といった感想を持たざるをえない。
要するに、自分はあいつにぞんざいな扱いのおもちゃにされているのだ。
ぐるぐると考えを巡らすうちそんな結論に行き着いたリアは沸々と怒りがこみ上げてくる。
これを晴らすにはやはり当人にぶつけさせてもらうのが一番だろうとこぶしを握って物騒な決意で口元を不適に緩める。
とそのとき、目の前を一匹の三毛猫が横切りかけて自分の足元に立ち止まる。なーと鳴いてこちらに首を擦り付けてくるこの猫には首輪がついていない。だが妙に懐っこいあたり飼い猫か、と適当に推測しつつそれを抱えあげる。
「スフィンクスー?どこ行ったのスフィンクスー」
すぐにそんな声が聞こえて真っ白なものが猫が出てきた場所から飛び出してくる。
シスターだ、とリアはすぐ理解した。彼女の出身であるイギリスではその国教の関係で街中のシスターは珍しいものではない。それは見覚えのあるつくりの服だった。だがよく見るとその格好はところどころ安全ピンで留めてあるのみというなかなかにパンクな格好である。
そのシスターはふと立ち止まりこちらを、いや正確には腕の中の三毛猫の方を見ていた。
「スフィンクス」
「・・・あ、この子の飼い主さん?」
スフィンクスという単語が猫の名前だと理解するのに少し時間を要した後、猫をシスターに差し出す。
「うん、スフィンクスっていうんだよ。」
リアの推定を肯定しつつ、純白シスターはその猫を受け取る。
「そう。この辺りたまに車が通ってるから放さないよう気をつけてね」
あまり広くない道路を見渡してリアは適当に会話を続ける。
「違うもん、スフィンクスが勝手に走ってっちゃっただけなんだよ。」
そんな会話を続けながら、ふと違和感を覚える。
学園都市のシスター。
科学の最先端を行くこの街において宗教の必要性があるのかと疑問に思ってしまう。いや多少はそれを求めるものもいるのかもしれないが、それでもシスターがわざわざくるほどの人数がいるとも思えない。
用件は自分勝手な幼馴染の出迎えである。
朝の送迎車のなかでそいつの直々のご指名によって、いやおうなしにこの仕事を任命されたからだ。
「なんでわたしが・・・。」
ぶつぶつと小言を言いながら不機嫌そうな顔をした黒スーツの少女が道を行く。
思えばこの幼馴染には昔から振り回されていた気がする。例えば、出会った5歳の春には引っ張られていった山の中にそのまま置いていかれた。(そのあと母親にこっぴどく叱られてはいたが)6歳の夏には近所の駅に連れてこられて線路に勝手に侵入し、その共犯として駅長らしき人に散々怒鳴られた。(あとで聞いた話では、その日のダイヤが1,2本ずれたとか)
その後しばらくして引っ越していったのだが、半年ほど前に再会したときにはあの眼鏡の初老の男を先頭にぞろぞろと黒スーツを取り巻きに従えていた。それについて問いただしているうちに眼鏡になし崩し的に黒スーツの一員とされ、現在に至る。
そして年月は無情に過ぎ去っていたようで、再会した少年は昔多少はあった愛嬌は消え失せ、周りを振り回す身勝手さは増していた。さらに無愛想にもなっていてかつて引っ越していった後の話を聞いても別にの一言で流される始末である。
あのアグレッシブさはどこ行ったんだと思いきや、初対面の人間にとてもにこやかな好青年(少年?)を演じたり、他の黒スーツと陰でコソコソ何かやってたりという面を見せたりもする。
そのくせこういった雑用にはしっかり自分を指名してくる辺り、昔よりタチ悪くなってんじゃねーかあの野郎といった感想を持たざるをえない。
要するに、自分はあいつにぞんざいな扱いのおもちゃにされているのだ。
ぐるぐると考えを巡らすうちそんな結論に行き着いたリアは沸々と怒りがこみ上げてくる。
これを晴らすにはやはり当人にぶつけさせてもらうのが一番だろうとこぶしを握って物騒な決意で口元を不適に緩める。
とそのとき、目の前を一匹の三毛猫が横切りかけて自分の足元に立ち止まる。なーと鳴いてこちらに首を擦り付けてくるこの猫には首輪がついていない。だが妙に懐っこいあたり飼い猫か、と適当に推測しつつそれを抱えあげる。
「スフィンクスー?どこ行ったのスフィンクスー」
すぐにそんな声が聞こえて真っ白なものが猫が出てきた場所から飛び出してくる。
シスターだ、とリアはすぐ理解した。彼女の出身であるイギリスではその国教の関係で街中のシスターは珍しいものではない。それは見覚えのあるつくりの服だった。だがよく見るとその格好はところどころ安全ピンで留めてあるのみというなかなかにパンクな格好である。
そのシスターはふと立ち止まりこちらを、いや正確には腕の中の三毛猫の方を見ていた。
「スフィンクス」
「・・・あ、この子の飼い主さん?」
スフィンクスという単語が猫の名前だと理解するのに少し時間を要した後、猫をシスターに差し出す。
「うん、スフィンクスっていうんだよ。」
リアの推定を肯定しつつ、純白シスターはその猫を受け取る。
「そう。この辺りたまに車が通ってるから放さないよう気をつけてね」
あまり広くない道路を見渡してリアは適当に会話を続ける。
「違うもん、スフィンクスが勝手に走ってっちゃっただけなんだよ。」
そんな会話を続けながら、ふと違和感を覚える。
学園都市のシスター。
科学の最先端を行くこの街において宗教の必要性があるのかと疑問に思ってしまう。いや多少はそれを求めるものもいるのかもしれないが、それでもシスターがわざわざくるほどの人数がいるとも思えない。
きょとんとしているシスターの横で、んーと軽く考え込んでる彼女の背後に一つの足音が止まる。
「うわ、なにしてんだお前。」
背後からの聞き覚えのある声にリアは思考を中断する。
振り返った先に立っているのはやはり見覚えのある顔だった。少し長めの茶色がかった髪をもつ童顔の少年。今朝、思いつきとわがままで彼女の手間を増やした張本人である。
その当人のそれを忘れているかのような口調にスーツの少女は眉間にしわを寄せる。
「あーんーたーが今朝私に来いっつったからでしょうが!何なのまさかそれすら覚えてないほどあんたの頭はもうろくしちゃってる訳!?」
「癇癪起こすなってうっせーな。まさかホントに来るとは思ってなかったんだよ。」
溜まったストレスを発散するかのように怒鳴り散らす目の前の幼馴染を篠原はあくびをしながら適当に話を受け流す。
「行かないとあのメガネに小言聞かされるのは私なの!大体何!?あんたまだ学校終わる時間じゃないでしょ。」
「あー、ふけた。」
さも当然とでも言うような言い方にリアは逆にあっけにとられる。
「体調不良ってことで昼からサボったんだよ。で、保健室で寝てたけど暇だったんで帰ってきた。まー書置きしてきたし大丈夫だろ。」
そしたらお前と出くわすしなーとボソッと付け加えた言葉をリアは聞き逃さない。
「あ、あんた私のことかわそうとしてたわね!」
ぎゃーぎゃーと口喧嘩(片方は相手にしてないようだが)をする二人の横でポツンと置いてかれているシスター。
その事にようやく気付いたリアが口撃を中断させて慌ててそっちに話しかける。
「あっ、ごめんなさい。見苦しいものを見せちゃって。」
愛想笑いを必死で浮かべる彼女の横で見苦しいのはお前だけだけどなと少年は小声で付け加え、それを聞いた少女はまた彼を睨みつける。
「そういや誰だそいつ?お前学園都市に知り合いなんかいたのか?」
話を変えた篠原の言葉にそういえば、と視線をシスターの方へと向ける。
ようやく会話の輪の中に入れたシスターだが特に物怖じすることなく視線を返した。
「私はインデックスっていうんだよ。」
「インデックス・・・?」
名前としてはまず出てこないような単語におもわず反復してしまったリアだったが、すぐにそれについて考えることをやめた。
目の前の少女といいその猫といい、おそらく学園都市では名前についてこちらが理解できないルールでもあるのだろうとかなり投げやりな結論で自分の中で流すことにしたのだ。
と、ふと気がつくとそこにいた篠原の姿がない。少し視線をずらすと少年はもう歩き始めていた。
「ちょっ、あんた自分から会話振っといて何勝手に先帰ってんのよ。第一、そっちは方向違うでしょ!」
すたすたと先を行く身勝手な幼馴染に慌てて声をかける。その一方で、少年は見つかったこと
に若干肩をビクッとさせて
「腹減ったからこの先のたこ焼屋よって帰るわ。先帰ってサイモンには適当に言っといて。」
リーダー格の初老のメガネを思い浮かべ、リアはうげぇと声をあげる。
「はぁ、何言ってんのよ、それであのおっさんが納得する訳ないでしょ。大体あんたは監視しとかないとすぐどっか行っちゃ」
ふとスーツの裾が引っ張られていることに気付き、リアは言葉を途切れさせる。その裾の方へ振り返ると、変な名前のシスターが目をらんらんと輝かせてそこに立っていた。
「六色たこ焼きだね!あのたこ焼きのところへ行くんだね!」
六色?と頭の上にはてなを浮かべるリアに変わって、少年がその会話に応答する。
「あーそれだそれ。さっきテレビでやってた。」
「・・・ちょっと、なんであんたはテレビなんか見れてんのよ?」
「ケータイだよ。保健室で暇だから見てた。」
あんた実はそれが食べたくなったからサボったんじゃないのかと小声でつぶやく。その横にはその目を更に輝かせて、さっきよりも強く裾を引っ張るシスターがいる。
「私も行く!」
もはやそれしか見えてないようなシスターの突然の提案に戸惑う黒スーツの少女。
そんなやりとりを背後に聞きながら、篠原は軽く振り返り純白シスターを確認する。
なるほど、あれがサイモンの警戒する二人の片割れ、禁書目録か。
「うわ、なにしてんだお前。」
背後からの聞き覚えのある声にリアは思考を中断する。
振り返った先に立っているのはやはり見覚えのある顔だった。少し長めの茶色がかった髪をもつ童顔の少年。今朝、思いつきとわがままで彼女の手間を増やした張本人である。
その当人のそれを忘れているかのような口調にスーツの少女は眉間にしわを寄せる。
「あーんーたーが今朝私に来いっつったからでしょうが!何なのまさかそれすら覚えてないほどあんたの頭はもうろくしちゃってる訳!?」
「癇癪起こすなってうっせーな。まさかホントに来るとは思ってなかったんだよ。」
溜まったストレスを発散するかのように怒鳴り散らす目の前の幼馴染を篠原はあくびをしながら適当に話を受け流す。
「行かないとあのメガネに小言聞かされるのは私なの!大体何!?あんたまだ学校終わる時間じゃないでしょ。」
「あー、ふけた。」
さも当然とでも言うような言い方にリアは逆にあっけにとられる。
「体調不良ってことで昼からサボったんだよ。で、保健室で寝てたけど暇だったんで帰ってきた。まー書置きしてきたし大丈夫だろ。」
そしたらお前と出くわすしなーとボソッと付け加えた言葉をリアは聞き逃さない。
「あ、あんた私のことかわそうとしてたわね!」
ぎゃーぎゃーと口喧嘩(片方は相手にしてないようだが)をする二人の横でポツンと置いてかれているシスター。
その事にようやく気付いたリアが口撃を中断させて慌ててそっちに話しかける。
「あっ、ごめんなさい。見苦しいものを見せちゃって。」
愛想笑いを必死で浮かべる彼女の横で見苦しいのはお前だけだけどなと少年は小声で付け加え、それを聞いた少女はまた彼を睨みつける。
「そういや誰だそいつ?お前学園都市に知り合いなんかいたのか?」
話を変えた篠原の言葉にそういえば、と視線をシスターの方へと向ける。
ようやく会話の輪の中に入れたシスターだが特に物怖じすることなく視線を返した。
「私はインデックスっていうんだよ。」
「インデックス・・・?」
名前としてはまず出てこないような単語におもわず反復してしまったリアだったが、すぐにそれについて考えることをやめた。
目の前の少女といいその猫といい、おそらく学園都市では名前についてこちらが理解できないルールでもあるのだろうとかなり投げやりな結論で自分の中で流すことにしたのだ。
と、ふと気がつくとそこにいた篠原の姿がない。少し視線をずらすと少年はもう歩き始めていた。
「ちょっ、あんた自分から会話振っといて何勝手に先帰ってんのよ。第一、そっちは方向違うでしょ!」
すたすたと先を行く身勝手な幼馴染に慌てて声をかける。その一方で、少年は見つかったこと
に若干肩をビクッとさせて
「腹減ったからこの先のたこ焼屋よって帰るわ。先帰ってサイモンには適当に言っといて。」
リーダー格の初老のメガネを思い浮かべ、リアはうげぇと声をあげる。
「はぁ、何言ってんのよ、それであのおっさんが納得する訳ないでしょ。大体あんたは監視しとかないとすぐどっか行っちゃ」
ふとスーツの裾が引っ張られていることに気付き、リアは言葉を途切れさせる。その裾の方へ振り返ると、変な名前のシスターが目をらんらんと輝かせてそこに立っていた。
「六色たこ焼きだね!あのたこ焼きのところへ行くんだね!」
六色?と頭の上にはてなを浮かべるリアに変わって、少年がその会話に応答する。
「あーそれだそれ。さっきテレビでやってた。」
「・・・ちょっと、なんであんたはテレビなんか見れてんのよ?」
「ケータイだよ。保健室で暇だから見てた。」
あんた実はそれが食べたくなったからサボったんじゃないのかと小声でつぶやく。その横にはその目を更に輝かせて、さっきよりも強く裾を引っ張るシスターがいる。
「私も行く!」
もはやそれしか見えてないようなシスターの突然の提案に戸惑う黒スーツの少女。
そんなやりとりを背後に聞きながら、篠原は軽く振り返り純白シスターを確認する。
なるほど、あれがサイモンの警戒する二人の片割れ、禁書目録か。
放課後。
多少の妨害を受けつつも、しっかり昼の授業で体力を回復した上条当麻は家路についていた。
とりあえず家に帰ってかばんを置いて、近くのデパートで当面の食料の確保や足りなくなった日用品などの補充とこれからの計画を立てる。
そして、それと同時にデパートに行くのにいかにインデックスを振り切るかを考える。むしろこっちをメインに考えているかもしれない。もしあのシスターさんを連れていったら、買い物かごに何を入れられるかわかったものではない。ならば直接買いに行けばよかったのではとも思うが、今日は買い込むものが多いため余分な荷物はできる限り持たずにおきたい。よって、一旦家に帰るしかないないという結論に至ったのである。
「ただいまー・・・」
よその家にお邪魔する、というより泥棒に入るようなしぐさで我が家のドアを開ける上条。作戦は、留守番しているインデックスに気付かれる前にかばんだけ置いて外にダッシュである。
だが、どうにも家の中は誰の気配も感じない。もしかして寝てんのかとおそるおそる上条は居間を覗いたがやはり誰もいなかった。
「ったく、インデックスのやつ、鍵もかけずに出て行きやがって。」
警戒対象が家にいなかったことは好都合なのだが、居候の無用心さにいささかあきれる。
ふと机をみると、いつも置いてある場所にシスター用の携帯がない。どうやらこれは忘れずに持って出歩いているようだった。もっとも、それを彼女が最低限正しく使いこなせるかどうかは疑問の残るところではあるが。
とりあえず居場所ぐらいは確認しておくために上条は自分の携帯を手に取り、インデックスの番号を引っ張り出した。20コールいっぱいに使ってようやく出たことに上条は驚いた。ただ、彼が驚いたのはコール数ではなくその電話が出られたことであるが。
『え、えっともしもし』
だがどうもおかしい。どうも電話の向こう側は上条の知るシスターではないらしい。おまけにこの通話相手は少しパニクっているような気がする。
なんとなく状況が予想できつつあるものの、一応問いかける。
「えーと・・・どちらさまでしょうか。」
『あ、私はリアっていいま(おーい、とうまー)』
通話相手の声に混じって明らかにインデックスの声がする。状況を確信した上条は電話を続ける。
「もしかして、そこのシスターに携帯押し付けられて代わりに電話に出る羽目になったとか。」
『はい、大体そんな感じです。』
「・・・シスターに代わってもらっていいですか?」
はい、と少しの間をおいて通話相手がシスターへとかわる。
『もしもしとうまー』
「お前なー、この間携帯の最低限の使い方は一通り言ったはずだと思うんだけど。」
『んー・・・、忘れちゃった。』
「嘘付け完全記憶能力者!お前実はあの時聞いてなかったんだろ!」
『だってわかんなかったんだもん。』
「ったく、まーそれはいいとしてお前さっきの人に迷惑かけてねーだろーなー。」
『うーん・・・たこ焼き奢ってもらったけど迷惑はかけてないよ。』
「おもいっきりかけてんじゃねーか!てゆーかお金持ってないだろお前は!」
上条はインデックスにお金を持たせた覚えはない。そして、たこ焼き屋についたときお金がないことに気付いて意気消沈するシスターはその雰囲気で半ば強制的に奢らせている。
このままインデックスを放置しておくと犠牲者が増えると上条は思う。
「はぁー、お前今どこにいるんだよ。」
『えーとね、今はゲームセンターにむかってる。』
場所の詳細を少し苦労して聞きだした上条は携帯を閉じ、計画が最初から大きく逸れて落胆する。そういえば今日は朝からあのシスターに振り回されている(今に始まったことではないが)。
とりあえず学生寮から出た上条はデパートとは逆の方向へと歩き始めた。
多少の妨害を受けつつも、しっかり昼の授業で体力を回復した上条当麻は家路についていた。
とりあえず家に帰ってかばんを置いて、近くのデパートで当面の食料の確保や足りなくなった日用品などの補充とこれからの計画を立てる。
そして、それと同時にデパートに行くのにいかにインデックスを振り切るかを考える。むしろこっちをメインに考えているかもしれない。もしあのシスターさんを連れていったら、買い物かごに何を入れられるかわかったものではない。ならば直接買いに行けばよかったのではとも思うが、今日は買い込むものが多いため余分な荷物はできる限り持たずにおきたい。よって、一旦家に帰るしかないないという結論に至ったのである。
「ただいまー・・・」
よその家にお邪魔する、というより泥棒に入るようなしぐさで我が家のドアを開ける上条。作戦は、留守番しているインデックスに気付かれる前にかばんだけ置いて外にダッシュである。
だが、どうにも家の中は誰の気配も感じない。もしかして寝てんのかとおそるおそる上条は居間を覗いたがやはり誰もいなかった。
「ったく、インデックスのやつ、鍵もかけずに出て行きやがって。」
警戒対象が家にいなかったことは好都合なのだが、居候の無用心さにいささかあきれる。
ふと机をみると、いつも置いてある場所にシスター用の携帯がない。どうやらこれは忘れずに持って出歩いているようだった。もっとも、それを彼女が最低限正しく使いこなせるかどうかは疑問の残るところではあるが。
とりあえず居場所ぐらいは確認しておくために上条は自分の携帯を手に取り、インデックスの番号を引っ張り出した。20コールいっぱいに使ってようやく出たことに上条は驚いた。ただ、彼が驚いたのはコール数ではなくその電話が出られたことであるが。
『え、えっともしもし』
だがどうもおかしい。どうも電話の向こう側は上条の知るシスターではないらしい。おまけにこの通話相手は少しパニクっているような気がする。
なんとなく状況が予想できつつあるものの、一応問いかける。
「えーと・・・どちらさまでしょうか。」
『あ、私はリアっていいま(おーい、とうまー)』
通話相手の声に混じって明らかにインデックスの声がする。状況を確信した上条は電話を続ける。
「もしかして、そこのシスターに携帯押し付けられて代わりに電話に出る羽目になったとか。」
『はい、大体そんな感じです。』
「・・・シスターに代わってもらっていいですか?」
はい、と少しの間をおいて通話相手がシスターへとかわる。
『もしもしとうまー』
「お前なー、この間携帯の最低限の使い方は一通り言ったはずだと思うんだけど。」
『んー・・・、忘れちゃった。』
「嘘付け完全記憶能力者!お前実はあの時聞いてなかったんだろ!」
『だってわかんなかったんだもん。』
「ったく、まーそれはいいとしてお前さっきの人に迷惑かけてねーだろーなー。」
『うーん・・・たこ焼き奢ってもらったけど迷惑はかけてないよ。』
「おもいっきりかけてんじゃねーか!てゆーかお金持ってないだろお前は!」
上条はインデックスにお金を持たせた覚えはない。そして、たこ焼き屋についたときお金がないことに気付いて意気消沈するシスターはその雰囲気で半ば強制的に奢らせている。
このままインデックスを放置しておくと犠牲者が増えると上条は思う。
「はぁー、お前今どこにいるんだよ。」
『えーとね、今はゲームセンターにむかってる。』
場所の詳細を少し苦労して聞きだした上条は携帯を閉じ、計画が最初から大きく逸れて落胆する。そういえば今日は朝からあのシスターに振り回されている(今に始まったことではないが)。
とりあえず学生寮から出た上条はデパートとは逆の方向へと歩き始めた。