学園都市第二三学区一学区はその土地全てを丸ごと航空・宇宙開発分野のために占有しているため、もちろんここには空港も存在する。そこに到着した国際便のひとつから降りてきた客の中に、頭ひとつ抜き出た男がいた。
名をステイル=マグヌス。
イギリス清教『必要悪の教会』の一員であり神父という立場ではあるが、その容姿は長身で赤い髪、右の頬にはバーコードのような刺青を入れあたりに香水の匂いを漂わせ、いたるところにシルバーのアクセサリーを纏っている。おまけに今の彼は誰の目から見ても機嫌が悪い。とても彼が十字教の神父(しかも14歳)であると気付けるものはいないだろう。
このトンデモ神父がイライラの原因は様々なのだが、とりわけ今彼をイラつかせているのはここまで乗ってきた飛行機が禁煙であったことにある。あの例の超音速旅客機を使えれば良かったのだが学園都市で整備中であり、やむなく一般の禁煙国際便に乗ることになったのだ。
ニコチンとタールのない世界を地獄、と称するほどのヘビースモーカーの神父はターミナルを抜けるとまず喫煙所を見つけて胸元のポケットから煙草を取り出す。
「よう、ステイル。十二時間の空の旅は満喫できたかにゃー」
いやみたっぷりの声の主の方を見ると、金髪サングラスのにやけ顔の男がこちらに近づきながら手を振っていた。チッとステイルは舌打ちしながら、
「最悪だね」
と一言返すと目の前の男にかまわずに喫煙所に入っていく。
周りには空気のカベによって煙がその領域から出ることを防ぐ学園都市ならではの喫煙所もあったが、あえてステイルは誰もいないガラス張りの一室を選んだ。
「大体、僕はこの国ではろくな目にあってないんだ。さっさと用件を済ましてイギリスに戻りたいところなんだがね」
自分のすぐ後についてきた男を横目に見ながら手元の煙草に火をつける。煙を肺いっぱいに取り込み、ようやく落ち着いたとでも言うようにステイルは眉間のしわを緩めた。
「そーか、けど学園都市には禁書目録もいるからいーんじゃねーか?」
「……彼女と僕の道が交わることはないよ。僕が今彼女にしてやれることも何もないしね。あと、君に彼女についてのことを気安く言われる筋合いはない」
明らかに緩めたしわを深くして、目の前の男を睨みつける。それでもこの金髪サングラスの男―――土御門元春はそのにやけ顔をやめる様子はない。
「そりゃーわるかったにゃー。まーでもせっかく来たんだし、少しはゆっくりしていけって」
「聞こえなかったのかな、僕は早く帰りたいと言ったんだ。さっさと本題を話せ」
早くも二本目の煙草に火をつけながらイラだった調子で返事を返してくるステイル。土御門はわがままな子供でも見るような顔をしたあと、軽く辺りを確認し誰もいないことを確かめる。
「人数はおそらく十人前後、詳しくはわかっていない。ただ、こいつらの中心人物2人と所在は確認できている。一人は俺の高校に昨日転校してきた学生、もう一人は眼鏡の五十歳前後の男だ。こいつらの目的に関しては今調べている」
唐突に口調の変わった土御門だが、ステイルはそれについては特に疑問を持たない。
「五十歳前後の男か……。それはともかく、場所がわかっているならなぜ乗り込まない?」
「連中、どうも場所に関してはホテルを何部屋かとってそこを拠点としているみたいでな。隠す様子も見えないし、逆にうかつに近づけなくてな」
だから今は様子見ってわけだ、と口調には似合わない相変わらずのにやけ顔で話を進める。
ため息と共に煙をはいたあと、ステイルは煙草を吸殻入れに押し込み喫煙所の出口に向かう。
「できるだけ早く調べて連絡をくれ」
それだけ言い残し、神父は喫煙所を後にする。
それを見送った後、残された土御門はそこにあるベンチへと腰掛けた。
さて、これからどうしようかなどと考えていると、背後にあるガラスの向こうからコンコンというノックのような音が聞こえてきた。
振り返ると、警備員の男がこちらをムスッとした顔で睨みつけている。
そこで土御門はようやく自分の格好に気付いた。
学生服で喫煙所。
学園都市と言えど、未成年の喫煙を許しているわけではないのである。
名をステイル=マグヌス。
イギリス清教『必要悪の教会』の一員であり神父という立場ではあるが、その容姿は長身で赤い髪、右の頬にはバーコードのような刺青を入れあたりに香水の匂いを漂わせ、いたるところにシルバーのアクセサリーを纏っている。おまけに今の彼は誰の目から見ても機嫌が悪い。とても彼が十字教の神父(しかも14歳)であると気付けるものはいないだろう。
このトンデモ神父がイライラの原因は様々なのだが、とりわけ今彼をイラつかせているのはここまで乗ってきた飛行機が禁煙であったことにある。あの例の超音速旅客機を使えれば良かったのだが学園都市で整備中であり、やむなく一般の禁煙国際便に乗ることになったのだ。
ニコチンとタールのない世界を地獄、と称するほどのヘビースモーカーの神父はターミナルを抜けるとまず喫煙所を見つけて胸元のポケットから煙草を取り出す。
「よう、ステイル。十二時間の空の旅は満喫できたかにゃー」
いやみたっぷりの声の主の方を見ると、金髪サングラスのにやけ顔の男がこちらに近づきながら手を振っていた。チッとステイルは舌打ちしながら、
「最悪だね」
と一言返すと目の前の男にかまわずに喫煙所に入っていく。
周りには空気のカベによって煙がその領域から出ることを防ぐ学園都市ならではの喫煙所もあったが、あえてステイルは誰もいないガラス張りの一室を選んだ。
「大体、僕はこの国ではろくな目にあってないんだ。さっさと用件を済ましてイギリスに戻りたいところなんだがね」
自分のすぐ後についてきた男を横目に見ながら手元の煙草に火をつける。煙を肺いっぱいに取り込み、ようやく落ち着いたとでも言うようにステイルは眉間のしわを緩めた。
「そーか、けど学園都市には禁書目録もいるからいーんじゃねーか?」
「……彼女と僕の道が交わることはないよ。僕が今彼女にしてやれることも何もないしね。あと、君に彼女についてのことを気安く言われる筋合いはない」
明らかに緩めたしわを深くして、目の前の男を睨みつける。それでもこの金髪サングラスの男―――土御門元春はそのにやけ顔をやめる様子はない。
「そりゃーわるかったにゃー。まーでもせっかく来たんだし、少しはゆっくりしていけって」
「聞こえなかったのかな、僕は早く帰りたいと言ったんだ。さっさと本題を話せ」
早くも二本目の煙草に火をつけながらイラだった調子で返事を返してくるステイル。土御門はわがままな子供でも見るような顔をしたあと、軽く辺りを確認し誰もいないことを確かめる。
「人数はおそらく十人前後、詳しくはわかっていない。ただ、こいつらの中心人物2人と所在は確認できている。一人は俺の高校に昨日転校してきた学生、もう一人は眼鏡の五十歳前後の男だ。こいつらの目的に関しては今調べている」
唐突に口調の変わった土御門だが、ステイルはそれについては特に疑問を持たない。
「五十歳前後の男か……。それはともかく、場所がわかっているならなぜ乗り込まない?」
「連中、どうも場所に関してはホテルを何部屋かとってそこを拠点としているみたいでな。隠す様子も見えないし、逆にうかつに近づけなくてな」
だから今は様子見ってわけだ、と口調には似合わない相変わらずのにやけ顔で話を進める。
ため息と共に煙をはいたあと、ステイルは煙草を吸殻入れに押し込み喫煙所の出口に向かう。
「できるだけ早く調べて連絡をくれ」
それだけ言い残し、神父は喫煙所を後にする。
それを見送った後、残された土御門はそこにあるベンチへと腰掛けた。
さて、これからどうしようかなどと考えていると、背後にあるガラスの向こうからコンコンというノックのような音が聞こえてきた。
振り返ると、警備員の男がこちらをムスッとした顔で睨みつけている。
そこで土御門はようやく自分の格好に気付いた。
学生服で喫煙所。
学園都市と言えど、未成年の喫煙を許しているわけではないのである。
学校が終わり、上条当麻は家路についていた。いつもつるんでいる青髪ピアスはバイトといって真っ先に帰っていったし、土御門にいたっては遅刻したくせに小萌先生の授業が終わるとさっさと早退していった。
そんなわけで上条は今1人である。
昨日買い物も一通り済ましているため今日は特にどこかに寄る必要がなく、さっさと家に帰って掃除でもしよっかなーどと考えてながらツンツン頭の少年は学生でごった返す通りを行く。
すると、やたら見覚えのあるお嬢様学校の制服を着た少女と鉢合わせた。
「「あっ」」
この少女の名前は御坂美琴。
常盤台中学二年生で学園都市第三位の超電磁砲、レベル5の超能力者だ。
「あんたこんなところでなにやってんのよ?」
開口一番で一応の年長者に対する言葉じゃないなと少し思ったりもするがいつも彼女はまあ大体こんな感じだ。
「それはこっちの台詞だっての。ここらは常盤台の通学路じゃないだろ。ちなみに俺は家に帰るところだよ」
「ふーん、まあいーけど。あ、そーだあんた、昨日たしかゲーセン辺りにいたのよね。近くで能力者見なかった? 多分電撃使いなんだけど」
その問いかけに覚えがありすぎる上条はぎくっとわかりやすく体をこわばらせた。直後にしまったと思い、全力で愛想笑いを顔に貼り付けながら平静を装うが表情はかたい。
昨日の件は決してこちらに非があったわけではないが、御坂がそれを知っているということは情報源はあのツインテールの風紀委員に違いない。できればあの少女と関わるのは避けたいし、彼女が出てこなくても御坂が篠原に辿り着き勝負を吹っかけるという可能性もある。それは少し気の毒ではあるし、篠原に対して借りもある以上上条はここは知らぬ存ぜぬを貫き通すべきだと判断した。
「ど、どーして俺が居たこと知ってんだ」
「黒子に聞いたのよ。それよりあんた、今明らかに動揺しなった? もしかして何か知ってんじゃないでしょうね?」
「知らないってっ。大体、お前の方は何してんだよこんなとこで」
「昨日ゲーセン近くであった不良の喧嘩でさっき言った能力者が絡んでるみたいでね。それを黒子が調べてるみたいだから私もちょっと手伝ってやろっかなって思ってね。あと個人的にも興味あるし。てゆーかあんたやっぱ何か知ってんでしょ! 話変えようとしてんのが見え見えなのよ!」
腰に手をあてこちらに向かって指を指し、まるでずばーんという効果音でもバックに背負って犯人を追い詰めた名探偵のような格好をする御坂。
そして追い詰められた犯人の方はというと、この状況からの脱出法を頭をフル回転させて考えていた。1.シラを切り続ける。これはだめだ、流れからしてとても切り抜けられるとは思えない。最終的には電撃が飛んでくるだろう。2.諦めて正直に全部話す。しかし結局なんで隠してんのよあんたと電撃が飛んでくる可能性は高い。
結局他に思いつかない上条は、3.この場からばっくれる。ことにした。逃げるときにも電撃をくらうかもしれないが、こっちから先手を打って逃げることができれば無傷で済むかもしれない。
御坂から目を離さないまま逃げるタイミングをうかがう。目が合ったままの目の前の少女はなぜかだんだん顔が赤くなっているが今の上条にはそんなことに気付ける余裕はない(そもそも普段でも彼がそんな相手の表情の機微に気付けるとも思えないが)。
「ちょっ、何とか言いなさいよ!」
(今だ!)
そんなわけで上条は今1人である。
昨日買い物も一通り済ましているため今日は特にどこかに寄る必要がなく、さっさと家に帰って掃除でもしよっかなーどと考えてながらツンツン頭の少年は学生でごった返す通りを行く。
すると、やたら見覚えのあるお嬢様学校の制服を着た少女と鉢合わせた。
「「あっ」」
この少女の名前は御坂美琴。
常盤台中学二年生で学園都市第三位の超電磁砲、レベル5の超能力者だ。
「あんたこんなところでなにやってんのよ?」
開口一番で一応の年長者に対する言葉じゃないなと少し思ったりもするがいつも彼女はまあ大体こんな感じだ。
「それはこっちの台詞だっての。ここらは常盤台の通学路じゃないだろ。ちなみに俺は家に帰るところだよ」
「ふーん、まあいーけど。あ、そーだあんた、昨日たしかゲーセン辺りにいたのよね。近くで能力者見なかった? 多分電撃使いなんだけど」
その問いかけに覚えがありすぎる上条はぎくっとわかりやすく体をこわばらせた。直後にしまったと思い、全力で愛想笑いを顔に貼り付けながら平静を装うが表情はかたい。
昨日の件は決してこちらに非があったわけではないが、御坂がそれを知っているということは情報源はあのツインテールの風紀委員に違いない。できればあの少女と関わるのは避けたいし、彼女が出てこなくても御坂が篠原に辿り着き勝負を吹っかけるという可能性もある。それは少し気の毒ではあるし、篠原に対して借りもある以上上条はここは知らぬ存ぜぬを貫き通すべきだと判断した。
「ど、どーして俺が居たこと知ってんだ」
「黒子に聞いたのよ。それよりあんた、今明らかに動揺しなった? もしかして何か知ってんじゃないでしょうね?」
「知らないってっ。大体、お前の方は何してんだよこんなとこで」
「昨日ゲーセン近くであった不良の喧嘩でさっき言った能力者が絡んでるみたいでね。それを黒子が調べてるみたいだから私もちょっと手伝ってやろっかなって思ってね。あと個人的にも興味あるし。てゆーかあんたやっぱ何か知ってんでしょ! 話変えようとしてんのが見え見えなのよ!」
腰に手をあてこちらに向かって指を指し、まるでずばーんという効果音でもバックに背負って犯人を追い詰めた名探偵のような格好をする御坂。
そして追い詰められた犯人の方はというと、この状況からの脱出法を頭をフル回転させて考えていた。1.シラを切り続ける。これはだめだ、流れからしてとても切り抜けられるとは思えない。最終的には電撃が飛んでくるだろう。2.諦めて正直に全部話す。しかし結局なんで隠してんのよあんたと電撃が飛んでくる可能性は高い。
結局他に思いつかない上条は、3.この場からばっくれる。ことにした。逃げるときにも電撃をくらうかもしれないが、こっちから先手を打って逃げることができれば無傷で済むかもしれない。
御坂から目を離さないまま逃げるタイミングをうかがう。目が合ったままの目の前の少女はなぜかだんだん顔が赤くなっているが今の上条にはそんなことに気付ける余裕はない(そもそも普段でも彼がそんな相手の表情の機微に気付けるとも思えないが)。
「ちょっ、何とか言いなさいよ!」
(今だ!)
そして相手の視線が逸れる一瞬の間に上条は振り返って駆け出そうとする。そこに
「とーうまー」
というやけに聞き覚えのある声がとび、少年は出足をくじかれた。
声の方を見てみると、そこには真っ白な修道服を着たシスターがうれしそうにこちらに駆け寄ってきていた。
「おーいとうまーって、あああぁぁぁぁぁぁっ!? 短髪! なんでここにっ」
「な、なんでって、ちょっといろいろ調べてるだけよ」
いきなりつっかかられてさすがの御坂も少し気おされるがそれでもかまわず言い返す。そしてそんな二人の間では上条が完全に逃げ道を失っていた。
「むー、なんでとうまはいっつも女の子と一緒にいるのかな。昨日は気付いたらリアとも一緒にいるし」
「昨日は篠原もお前も居ただろっ! そーゆう誤解をまねく言い方すんじゃねぇ! ・・・・・・て、なんでそんなにバチバチいわせてるんですか御坂さん?」
そこには腕を組んで自分の周りに電流を走らせ、見下すようにこちらを見ている超能力者がいた。
「いつも女の子と一緒、ねぇ」
「そーだよ!あいさとかいつわとか。知らないうちに女の子にちょっかいかけてくるとうまの癖はあんまり感心できないかも」
「だから誤解のある言い方してんじゃねぇ! てゆーかちょっかいってなんだよ、俺はそんなもん姫神も五和も他の子達にも出した覚えはねー!」
「ほーう、じゃぁあんたにはちょっかいかけたって疑われるような女の子達がたくさんいるわけだ?」
間髪いれずに御坂が揚げ足を取りに割り込んでくる。彼女の周りの電流は勢いをまし、そこから漏れ出た一部がインデックスの周辺にある地面をどがっと掘り起こした。それに驚いた三毛猫はシスターの腕を飛び出し、後ろの方へ逃げていく。
「い、いや、それはそういうわけじゃなくてだな」
「いいわよ別に。あんたがどこで、誰と、何をしてようが私には何の関係もないしね!」
やたら要所要所でアクセントの強い御坂の口調に上条はまずいと思った。
当初の予定通り話の方向は上手く逸れてはいるのだが今はそれどころではない。むしろ今の状況を脱するために篠原のことを全部話してしまおうかとさえ思う。
「そーいや最近うやむやになってたけど、私達の勝負まだ決着ついてなかったわよね。せっかくだし、今ここでケリ着けとこうかしら」
物騒なことを言い始める目の前の少女に上条は本能的にこの場から無傷で帰ることが不可能になったことを悟る。
インデックスは三毛猫を追いかけてすでにこの場からいなくなっていた。
「ちょ、ちょっと待」
「うっさい!! 覚悟しなさい!」
上条の言葉をさえぎり、辺り一帯に電流がとびかう。
学園都市の一画にゴガァッという凄まじい轟音と、不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁという少年の叫び声が響いた。
「とーうまー」
というやけに聞き覚えのある声がとび、少年は出足をくじかれた。
声の方を見てみると、そこには真っ白な修道服を着たシスターがうれしそうにこちらに駆け寄ってきていた。
「おーいとうまーって、あああぁぁぁぁぁぁっ!? 短髪! なんでここにっ」
「な、なんでって、ちょっといろいろ調べてるだけよ」
いきなりつっかかられてさすがの御坂も少し気おされるがそれでもかまわず言い返す。そしてそんな二人の間では上条が完全に逃げ道を失っていた。
「むー、なんでとうまはいっつも女の子と一緒にいるのかな。昨日は気付いたらリアとも一緒にいるし」
「昨日は篠原もお前も居ただろっ! そーゆう誤解をまねく言い方すんじゃねぇ! ・・・・・・て、なんでそんなにバチバチいわせてるんですか御坂さん?」
そこには腕を組んで自分の周りに電流を走らせ、見下すようにこちらを見ている超能力者がいた。
「いつも女の子と一緒、ねぇ」
「そーだよ!あいさとかいつわとか。知らないうちに女の子にちょっかいかけてくるとうまの癖はあんまり感心できないかも」
「だから誤解のある言い方してんじゃねぇ! てゆーかちょっかいってなんだよ、俺はそんなもん姫神も五和も他の子達にも出した覚えはねー!」
「ほーう、じゃぁあんたにはちょっかいかけたって疑われるような女の子達がたくさんいるわけだ?」
間髪いれずに御坂が揚げ足を取りに割り込んでくる。彼女の周りの電流は勢いをまし、そこから漏れ出た一部がインデックスの周辺にある地面をどがっと掘り起こした。それに驚いた三毛猫はシスターの腕を飛び出し、後ろの方へ逃げていく。
「い、いや、それはそういうわけじゃなくてだな」
「いいわよ別に。あんたがどこで、誰と、何をしてようが私には何の関係もないしね!」
やたら要所要所でアクセントの強い御坂の口調に上条はまずいと思った。
当初の予定通り話の方向は上手く逸れてはいるのだが今はそれどころではない。むしろ今の状況を脱するために篠原のことを全部話してしまおうかとさえ思う。
「そーいや最近うやむやになってたけど、私達の勝負まだ決着ついてなかったわよね。せっかくだし、今ここでケリ着けとこうかしら」
物騒なことを言い始める目の前の少女に上条は本能的にこの場から無傷で帰ることが不可能になったことを悟る。
インデックスは三毛猫を追いかけてすでにこの場からいなくなっていた。
「ちょ、ちょっと待」
「うっさい!! 覚悟しなさい!」
上条の言葉をさえぎり、辺り一帯に電流がとびかう。
学園都市の一画にゴガァッという凄まじい轟音と、不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁという少年の叫び声が響いた。
自分に与えられたホテルの一室でリアはベッドに寝転がっていた。
彼女はホテルに戻った際、その足でサイモンの部屋に向かった。用件はもちろんオカルトなんかに没頭することについての抗議である。
当のサイモンはと言えば部屋で何かの作業をしていたらしく、それを邪魔されたことに対して目に見えていらいらしていた。だがそんなことはリアには関係ない、どうせそれもオカルト関連の何かに違いないのだから。
今まで何をやっていたかは知らないけれど魔術なんていうオカルトのことならやめるべきだ、どうせ得るものなど何もないのだから。
たしかそんなニュアンスのことを言ったと思う。果たして返ってくるのは怒号かそれとも的外れな意見に対する哀れみの目か。しかし、実際はそのどれでもなく静かな嘲笑だった。
「……禁書目録の入れ知恵か?」
そののちにかけられた言葉にリアがうなづくと、なぜか最初のいらついた様子の消えたサイモンはそのまま作業に戻っていった。
当のサイモンはと言えば部屋で何かの作業をしていたらしく、それを邪魔されたことに対して目に見えていらいらしていた。だがそんなことはリアには関係ない、どうせそれもオカルト関連の何かに違いないのだから。
今まで何をやっていたかは知らないけれど魔術なんていうオカルトのことならやめるべきだ、どうせ得るものなど何もないのだから。
たしかそんなニュアンスのことを言ったと思う。果たして返ってくるのは怒号かそれとも的外れな意見に対する哀れみの目か。しかし、実際はそのどれでもなく静かな嘲笑だった。
「……禁書目録の入れ知恵か?」
そののちにかけられた言葉にリアがうなづくと、なぜか最初のいらついた様子の消えたサイモンはそのまま作業に戻っていった。
そして現在に至る。
シラを切られれば徹底的に詰め寄ったし、否定の言葉に反論してきたなら多少の口論も覚悟の上だった。しかし結果は相手にもされなかった。
ようやく掴んだ糸口をあろうことかスルーされ、リアは悲観的になっていた。
インデックスから情報を得られたことによって少し浮かれたいたが冷静に考えると、そもそも自分が何かを言ったところで彼らのいう『儀式』が中断するわけがない。そんな当たり前のことに今更気付き、はあ、とここ半年で何百回目かわからないため息をつく。
(魔術、か……)
なんとなしに浮かんだそのキーワードをぼんやりとしながら口の中で言ってみる。そして次の瞬間がばっとベッドから勢いよく体を起こした。
(たしかに一切相手にされなかったけど、魔術って言葉自体は否定されていない。それどころか会話にあの子が出てきたってことは魔術関連であることは間違いない・・・?)
勝手に決め付けてはいたが、そもそも儀式が魔術関連だということは確証は何もなかった。しかし、サイモンとの会話でそれはおそらくほぼ間違いないはずだと推測できた。
それはたいした前進ではないかもしれない、
しかし、ここ半年何もできなかったことを考えるとやはり大きな進歩なのだ。
現金にもすっかりもとのテンションを取り戻したリアはひとりで手を上げ、オーッと一人こっそり部屋の中で気合を入れる。
「……何やってんだお前?」
そんな言葉と共に部屋の入り口にはノックもなしに入ってきた不躾な少年が立っていた。
誰かに見られたくない状況とは、得てして見られてしまうものなのだ。
シラを切られれば徹底的に詰め寄ったし、否定の言葉に反論してきたなら多少の口論も覚悟の上だった。しかし結果は相手にもされなかった。
ようやく掴んだ糸口をあろうことかスルーされ、リアは悲観的になっていた。
インデックスから情報を得られたことによって少し浮かれたいたが冷静に考えると、そもそも自分が何かを言ったところで彼らのいう『儀式』が中断するわけがない。そんな当たり前のことに今更気付き、はあ、とここ半年で何百回目かわからないため息をつく。
(魔術、か……)
なんとなしに浮かんだそのキーワードをぼんやりとしながら口の中で言ってみる。そして次の瞬間がばっとベッドから勢いよく体を起こした。
(たしかに一切相手にされなかったけど、魔術って言葉自体は否定されていない。それどころか会話にあの子が出てきたってことは魔術関連であることは間違いない・・・?)
勝手に決め付けてはいたが、そもそも儀式が魔術関連だということは確証は何もなかった。しかし、サイモンとの会話でそれはおそらくほぼ間違いないはずだと推測できた。
それはたいした前進ではないかもしれない、
しかし、ここ半年何もできなかったことを考えるとやはり大きな進歩なのだ。
現金にもすっかりもとのテンションを取り戻したリアはひとりで手を上げ、オーッと一人こっそり部屋の中で気合を入れる。
「……何やってんだお前?」
そんな言葉と共に部屋の入り口にはノックもなしに入ってきた不躾な少年が立っていた。
誰かに見られたくない状況とは、得てして見られてしまうものなのだ。
「だからあれはちょっと気合入れただけで」
ホテルの廊下で、リアは顔を赤くしながら前を行く幼馴染の少年に必死で弁解していた。
大体ノックもなしにレディの部屋に入るとはどういうつもりだ、再会してから半年程度だが、この少年の自分に対する態度はレディどころかプライバシーのある一個の人間へのものとは思えない。考え始めると、少女の顔色は赤から元に戻っていく。だが決して感情が収まったわけではなく、怒りと言う別の方向に向いただけだ。
だが篠原は後ろをまったく気にした様子もない。というより心ここにあらずといった感じか。歳相応とは余りいえない幼さの残る顔に少し影をさしてかつ表情は固い、だが感情の高ぶった黒スーツの少女がそれに気付く様子は一切なかった。
「……飯呼びに来ただけだろうが」
「だからノックをしなさいっていつも言ってんでしょ! 着替え覗いたのも一度や二度じゃないわよっ! 大体あんたは・・・」
怒りと思い出した恥ずかしさにリアは感情を忙しくぐるんぐるんさせながら怒鳴っていたがホテル内のレストランにつくとそれは途絶えた。
見ると、中には彼女を除いたほかの黒スーツのみで他には店員すら見当たらない。店員は今は裏に回っていると考えてもいつもなら今ぐらいの時間はいつも夕食に客が賑わっていたのにそれは1人としてこの空間には存在しなかった。
(……貸切っ!?)
それぐらいしか考えられない。そんなことをするにはとてもお金が掛かるはずだ。自分への給料といい、オカルトなんかに力を入れながら一体どこからそんな資金が湧き出てくるのかと疑問に思う。
「……揃ったな。では、各自席へ」
黒スーツの中心で、その中のリーダー格であるサイモンがその場の全員を促す。そこには、長めの机に向かい合わせなく十三の椅子が並べられていた。机の中央には、積まれたパンの入ったバスケットと赤い液体の入った瓶が置いてある。
気付くと篠原を中心に皆席についており、リアは慌てて残りの席に着く。席の前にはスープを入れるためのような受け皿が二枚用意されていた。
雰囲気的に仰々しい食事だなぁとぼんやり考えていると突如サイモンが前触れもなく立ち上がり中央の赤い液体の瓶を手に取った。蓋を空けたあと、バスケットを抱えて瓶の中身を端から順に各席の前の受け皿のひとつに注ぎ、パンをもう一つの皿に置いていく。
普段雑用などしないサイモンが酌をして食事を配ることなど違和感だらけで仕方なかったが、それ以上に匂いから判断できる赤い液体の正体の方にリアは反応した。
これは葡萄酒だ。
「あの……私も篠原も十六歳なんですけど」
「喋るな」
その抗議は一蹴された。イギリスでは日本と違い飲酒は十八歳から許可されている。それでもその条件に達していない彼女の意見は至極当然ではあるのだが、篠原も含めほかにそれを咎める者もいない(実際は保護者同伴で十六歳からOKなのだが、アルコールにあまりいい印象を持たないリアがそれを知るはずもない)。
気付けば全ての席に葡萄酒を注ぎ終えたようでサイモンは席に戻っていく。そして席に座ると今度は何かブツブツ言い始めた。
周りの皆はというと誰もその眼鏡の黒スーツの方に向くこともなく姿勢を正しているだけだった。
その中にはあの不躾な篠原までもが左右にならいおとなしくしている。
何だこれは。
なんともいえないこの異様な空間に少女はひるみつつも、やはりアルコールはだめだろうともう一度言葉を発しようとしたとき、それは起こった。
ホテルの廊下で、リアは顔を赤くしながら前を行く幼馴染の少年に必死で弁解していた。
大体ノックもなしにレディの部屋に入るとはどういうつもりだ、再会してから半年程度だが、この少年の自分に対する態度はレディどころかプライバシーのある一個の人間へのものとは思えない。考え始めると、少女の顔色は赤から元に戻っていく。だが決して感情が収まったわけではなく、怒りと言う別の方向に向いただけだ。
だが篠原は後ろをまったく気にした様子もない。というより心ここにあらずといった感じか。歳相応とは余りいえない幼さの残る顔に少し影をさしてかつ表情は固い、だが感情の高ぶった黒スーツの少女がそれに気付く様子は一切なかった。
「……飯呼びに来ただけだろうが」
「だからノックをしなさいっていつも言ってんでしょ! 着替え覗いたのも一度や二度じゃないわよっ! 大体あんたは・・・」
怒りと思い出した恥ずかしさにリアは感情を忙しくぐるんぐるんさせながら怒鳴っていたがホテル内のレストランにつくとそれは途絶えた。
見ると、中には彼女を除いたほかの黒スーツのみで他には店員すら見当たらない。店員は今は裏に回っていると考えてもいつもなら今ぐらいの時間はいつも夕食に客が賑わっていたのにそれは1人としてこの空間には存在しなかった。
(……貸切っ!?)
それぐらいしか考えられない。そんなことをするにはとてもお金が掛かるはずだ。自分への給料といい、オカルトなんかに力を入れながら一体どこからそんな資金が湧き出てくるのかと疑問に思う。
「……揃ったな。では、各自席へ」
黒スーツの中心で、その中のリーダー格であるサイモンがその場の全員を促す。そこには、長めの机に向かい合わせなく十三の椅子が並べられていた。机の中央には、積まれたパンの入ったバスケットと赤い液体の入った瓶が置いてある。
気付くと篠原を中心に皆席についており、リアは慌てて残りの席に着く。席の前にはスープを入れるためのような受け皿が二枚用意されていた。
雰囲気的に仰々しい食事だなぁとぼんやり考えていると突如サイモンが前触れもなく立ち上がり中央の赤い液体の瓶を手に取った。蓋を空けたあと、バスケットを抱えて瓶の中身を端から順に各席の前の受け皿のひとつに注ぎ、パンをもう一つの皿に置いていく。
普段雑用などしないサイモンが酌をして食事を配ることなど違和感だらけで仕方なかったが、それ以上に匂いから判断できる赤い液体の正体の方にリアは反応した。
これは葡萄酒だ。
「あの……私も篠原も十六歳なんですけど」
「喋るな」
その抗議は一蹴された。イギリスでは日本と違い飲酒は十八歳から許可されている。それでもその条件に達していない彼女の意見は至極当然ではあるのだが、篠原も含めほかにそれを咎める者もいない(実際は保護者同伴で十六歳からOKなのだが、アルコールにあまりいい印象を持たないリアがそれを知るはずもない)。
気付けば全ての席に葡萄酒を注ぎ終えたようでサイモンは席に戻っていく。そして席に座ると今度は何かブツブツ言い始めた。
周りの皆はというと誰もその眼鏡の黒スーツの方に向くこともなく姿勢を正しているだけだった。
その中にはあの不躾な篠原までもが左右にならいおとなしくしている。
何だこれは。
なんともいえないこの異様な空間に少女はひるみつつも、やはりアルコールはだめだろうともう一度言葉を発しようとしたとき、それは起こった。
皿に注がれた葡萄酒が、かっと白く光り始めたのだ。
「なっ……」
目の前の光景にリアは完全に思考を停止させる。
光は机の上からここに居る者達の顔を照らし、電灯の下において一際強く輝いている。
その光景をリア以外の黒スーツはさっきとまったく変わらない表情で見ながら、その横のパンを手に取り食べ始めた。
その異常過ぎる空間に気圧されリアはもはや声すらろくに出せない。
そんな少女を横目で見た篠原は、立ち上がり少女の正面へと近づいていく。
目の前の光景にリアは完全に思考を停止させる。
光は机の上からここに居る者達の顔を照らし、電灯の下において一際強く輝いている。
その光景をリア以外の黒スーツはさっきとまったく変わらない表情で見ながら、その横のパンを手に取り食べ始めた。
その異常過ぎる空間に気圧されリアはもはや声すらろくに出せない。
そんな少女を横目で見た篠原は、立ち上がり少女の正面へと近づいていく。
彼女の皿からパンを取り、それをリアの目の前の光る液体に浸す。
そしてそれをもとあった受け皿へとそっと置いた。
そしてそれをもとあった受け皿へとそっと置いた。
ようやく思考が戻ってきたリアだったがそれでもぐちゃぐちゃになった考えが言葉になることはない。ぐるぐるまわる思考は篠原の取った行動すら疑問に思えないほどまとまらなかった。それでも、たった一つだけ、今日聞いたばかりの言葉が強く頭に浮かぶ。
(魔術っ!?)
やがてその光は少しずつ輝きをなくしていく。
その頃には黒スーツ達と篠原はパンを食べ終え、次々と席を立ちこの空間から出ていっていた。
少し時間が過ぎると、まるで何事もなかったかのようにレストラン内は客や店員であふれ賑わい始める。
席に座ったまま呆然としたリアの前には、葡萄酒とそれに浸されたパンのある二枚の皿のみが残されていた。
(魔術っ!?)
やがてその光は少しずつ輝きをなくしていく。
その頃には黒スーツ達と篠原はパンを食べ終え、次々と席を立ちこの空間から出ていっていた。
少し時間が過ぎると、まるで何事もなかったかのようにレストラン内は客や店員であふれ賑わい始める。
席に座ったまま呆然としたリアの前には、葡萄酒とそれに浸されたパンのある二枚の皿のみが残されていた。
「機密規定の晩餐において、彼の者は主より烙印を押された」
ベッドの横のライト以外のスイッチを消した薄暗いホテルの一室。
その光の届かない壁際にもたれ、サイモンは手元の本に目を向けている。その本はそれ自体が淡く光を放っており、それが彼の周りを照らしていた。
ベッドにはライトによって体半分を照らされた篠原が座っており、壁際の男の方へ視線をやっている。その視線の先の淡い光はサイモンが本を閉じると同時にふっと消え、そこには黒いスーツが闇に溶けこみ上半身から上の一部が浮かんでいるように見える男の姿が残った。
「昨日入手した材料を使って儀式の鍵となる霊装も完成させました。最後の下準備もこれで終了、あとは明日の『儀式』のみです」
「ああ」
「まさかリアがもう一度禁書目録と接触していたとは。ですがそのおかげで彼女は魔術と言う言葉に辿り着き、我らの『妨害』をしてきた。『裏切り』の要素としては十分です。」
「……言いがかりだな」
「魔術に大事なのはその意味故」
「ふん」
つまらなそうに篠原は会話を切る。サイモンは特に気にする様子もなく右手側のテレビやお茶請けを乗せた台に手の中の本を置いた。
「ともかく、思ったより早く彼女がⅩⅡの意味を果たしてくれました。予定よりは多少早まりはしましたが覚悟の方はできましたか」
「愚問だな。これに何年かけてきたと思っている」
「それは失礼。何しろ明日の儀式であなたは一度死ぬ。今一度覚悟の程を聞いておきたかった故」
突然入り口の方からのガタッと言う音がこの室内に響き渡った。
見るとそこには呆然と立ち尽くしている黒いスーツの少女の姿があった。
その少女、リアはまるで幽霊でも見たような表情でこちらを見ている。
「……ノックねーぞ、お前も人のこと言えねーな」
「なに……いってんのよ……」
よろよろとした足取りでリアは篠原に近づく。目の前に辿り着くと少女は溜まったものを放出するかのように叫び始めた。
「死ぬって何っ!? あんた一体何しようとしてるの! いきなりこの国にやってきて散々振り回したあげくワケわかんないオカルトに手出してて! 大体さっきのあれは何っ! いきなり光りだして魔術とかっ……あーもう!!」
混乱しているのだろう、最後のほうは文脈が合わなくなっている。目の前で頭を抱え込むリアを篠原は何を言うわけでもなくただじっと見ていた。
「リア」
ふと横からサイモンの声が割って入る。
「お前の役目は終わった。もう用済み故、イギリスにでも帰るがいい。金が足りないと言うならそこのケースに入っている。」
淡々とした拍子で言葉をかけられ、リアはキッとそちらを睨みつける。そしてその方向へ向かっていった。
「ふざけないで! 役割!? 私の役割はこいつから目を離さないことよ! そうこいつの母親と約束してんの、あんたが勝手に決めたことなんか知らない! それにやっぱりあんたが裏で糸引いてるワケね、この際洗いざらい吐いてもらうわよ!」
母親という言葉に顔を上げて反応した篠原を尻目に、リアは一気にまくし立てて息を荒げる。今まで言えなかった分も含めて彼女の感情は爆発していた。
だがそれでもサイモンは彼女を相手にしようとはしない。その態度に更に激昂した少女はその胸倉に掴みかかる。
「ちょっと、何とか言いなさ」
バチィッ、と言う音が鳴り全てを言い切る前に彼女は首筋に走った痛みでそれを強制的に中断させられた。
リアが振り返ると、篠原が自分に向かって手をかざしている。そこには白っぽい電流が走っていた。
「しの……は……」
「わりーな、リア」
痛みで意識が遠のきながら、それでもリアは倒れざまに自分にかざされた腕を掴みかけた。表情を歪めながら、篠原がそれをやんわりと払いのける。
薄れていく景色の中でリアが最後に見た少年の顔は、幼い頃見た幼馴染の泣き顔とダブって見えた。
ベッドの横のライト以外のスイッチを消した薄暗いホテルの一室。
その光の届かない壁際にもたれ、サイモンは手元の本に目を向けている。その本はそれ自体が淡く光を放っており、それが彼の周りを照らしていた。
ベッドにはライトによって体半分を照らされた篠原が座っており、壁際の男の方へ視線をやっている。その視線の先の淡い光はサイモンが本を閉じると同時にふっと消え、そこには黒いスーツが闇に溶けこみ上半身から上の一部が浮かんでいるように見える男の姿が残った。
「昨日入手した材料を使って儀式の鍵となる霊装も完成させました。最後の下準備もこれで終了、あとは明日の『儀式』のみです」
「ああ」
「まさかリアがもう一度禁書目録と接触していたとは。ですがそのおかげで彼女は魔術と言う言葉に辿り着き、我らの『妨害』をしてきた。『裏切り』の要素としては十分です。」
「……言いがかりだな」
「魔術に大事なのはその意味故」
「ふん」
つまらなそうに篠原は会話を切る。サイモンは特に気にする様子もなく右手側のテレビやお茶請けを乗せた台に手の中の本を置いた。
「ともかく、思ったより早く彼女がⅩⅡの意味を果たしてくれました。予定よりは多少早まりはしましたが覚悟の方はできましたか」
「愚問だな。これに何年かけてきたと思っている」
「それは失礼。何しろ明日の儀式であなたは一度死ぬ。今一度覚悟の程を聞いておきたかった故」
突然入り口の方からのガタッと言う音がこの室内に響き渡った。
見るとそこには呆然と立ち尽くしている黒いスーツの少女の姿があった。
その少女、リアはまるで幽霊でも見たような表情でこちらを見ている。
「……ノックねーぞ、お前も人のこと言えねーな」
「なに……いってんのよ……」
よろよろとした足取りでリアは篠原に近づく。目の前に辿り着くと少女は溜まったものを放出するかのように叫び始めた。
「死ぬって何っ!? あんた一体何しようとしてるの! いきなりこの国にやってきて散々振り回したあげくワケわかんないオカルトに手出してて! 大体さっきのあれは何っ! いきなり光りだして魔術とかっ……あーもう!!」
混乱しているのだろう、最後のほうは文脈が合わなくなっている。目の前で頭を抱え込むリアを篠原は何を言うわけでもなくただじっと見ていた。
「リア」
ふと横からサイモンの声が割って入る。
「お前の役目は終わった。もう用済み故、イギリスにでも帰るがいい。金が足りないと言うならそこのケースに入っている。」
淡々とした拍子で言葉をかけられ、リアはキッとそちらを睨みつける。そしてその方向へ向かっていった。
「ふざけないで! 役割!? 私の役割はこいつから目を離さないことよ! そうこいつの母親と約束してんの、あんたが勝手に決めたことなんか知らない! それにやっぱりあんたが裏で糸引いてるワケね、この際洗いざらい吐いてもらうわよ!」
母親という言葉に顔を上げて反応した篠原を尻目に、リアは一気にまくし立てて息を荒げる。今まで言えなかった分も含めて彼女の感情は爆発していた。
だがそれでもサイモンは彼女を相手にしようとはしない。その態度に更に激昂した少女はその胸倉に掴みかかる。
「ちょっと、何とか言いなさ」
バチィッ、と言う音が鳴り全てを言い切る前に彼女は首筋に走った痛みでそれを強制的に中断させられた。
リアが振り返ると、篠原が自分に向かって手をかざしている。そこには白っぽい電流が走っていた。
「しの……は……」
「わりーな、リア」
痛みで意識が遠のきながら、それでもリアは倒れざまに自分にかざされた腕を掴みかけた。表情を歪めながら、篠原がそれをやんわりと払いのける。
薄れていく景色の中でリアが最後に見た少年の顔は、幼い頃見た幼馴染の泣き顔とダブって見えた。