「うおおおおおおおおおっ!!」
上条は目の前に立ったぼろぼろの男の顔めがけて右手を思い切りたたきつけた。
見た目どおり、もともとギリギリで立っていたらしくその男は五、六メートルふっとんだ後起き上がってくるコトはなかった。
「大丈夫かっ、インデックス!」
後ろにいる探していたシスターはぽかんとした様子でこちらを見ていた。ところどころぼろぼろで、もしかしたらこいつらから致命的な攻撃でも受けたのかと思った瞬間、はぁぁと深いため息と共にへなへなと座り込んだ。
「お、おいしっかりしろよインデックス! まさかあいつらにやばい攻撃でも受けたのか!?」
「……ううん、私は大丈夫。それよりとうま!」
あっちが突然大きな声を出したので、上条は思わず反射的にはいっと姿勢を正す。
「リアが、リアが大変なんだよ」
「リア? 篠原と一緒に居たあの?」
いいからこっちとシスターは慌ててこちらを促す。そして彼女についていった先には憔悴しきった黒いスーツの少女が倒れていた。
「なっ、どうしんたんだよ一体! 大丈夫かっおいっ!」
「とうま、説明は後だよ。早く右手で触れてあげて」
右手? と上条は言葉を繰り返しつつ、ともかく右手で少女の額に手をやる。
何かが砕けるような甲高い音が辺りに響き、横のシスターはほっと胸をなでおろした。
「なっ……!?」
その一方で、上条は異能の力がこの少女に使われていたことに驚きを隠せない。そんな少年を尻目に、インデックスは倒れた少女の肩に手をやりゆらゆらと揺さぶった。
「リア? 大丈夫、リア?」
心配そうに顔を覗き込みながら瞳を閉じた少女に何度も話しかける。やがてその声に反応するように少女の瞼が小刻みに揺れた。
「ん、んん……ここは……?」
「リア、気が付いた?」
「あなた……、ッ!! 急がなきゃ、早くあいつのところに!」
「リア、落ち着いて。あなたはさっきまで拘束魔術の影響で倒れてたんだよ!」
「あっ……、あれっ?」
リアは自分の手を動かしながらそれを不思議そうに見ていた。
「大丈夫。もう魔術はとうまが消してくれたから」
「……あなたたち、一体……」
「それよりも、だ。なんでお前に魔術なんてもんが使われてんだよ? もしかしてお前……魔術師なのか?」
しばらく呆けていた上条がその会話に割って入る。
「私は違うわ。でも他の仲間はそうかも。多分……篠原も」
上条は何も言わずに顔をこわばらせる。よくよく考えればたしかにおかしい所はあった。学園都市にきて間もない少年がなぜ能力を使えるのか。それを教師側が疑問に思わなかったのは篠原達になんらかの思惑があって、履歴をごまかした結果ではないのか。
(ちくしょう、疑念の材料しか思い浮かばねぇ!)
「もう一つ聞かせて、リア。あの人たちは一体何をしようとしているの」
シスターはそこに転がっているリアと同じ黒いスーツを着た男を指差す。黒スーツの少女は少し驚いたものの、少しして何があったのかをなんとなく理解した。
上条は目の前に立ったぼろぼろの男の顔めがけて右手を思い切りたたきつけた。
見た目どおり、もともとギリギリで立っていたらしくその男は五、六メートルふっとんだ後起き上がってくるコトはなかった。
「大丈夫かっ、インデックス!」
後ろにいる探していたシスターはぽかんとした様子でこちらを見ていた。ところどころぼろぼろで、もしかしたらこいつらから致命的な攻撃でも受けたのかと思った瞬間、はぁぁと深いため息と共にへなへなと座り込んだ。
「お、おいしっかりしろよインデックス! まさかあいつらにやばい攻撃でも受けたのか!?」
「……ううん、私は大丈夫。それよりとうま!」
あっちが突然大きな声を出したので、上条は思わず反射的にはいっと姿勢を正す。
「リアが、リアが大変なんだよ」
「リア? 篠原と一緒に居たあの?」
いいからこっちとシスターは慌ててこちらを促す。そして彼女についていった先には憔悴しきった黒いスーツの少女が倒れていた。
「なっ、どうしんたんだよ一体! 大丈夫かっおいっ!」
「とうま、説明は後だよ。早く右手で触れてあげて」
右手? と上条は言葉を繰り返しつつ、ともかく右手で少女の額に手をやる。
何かが砕けるような甲高い音が辺りに響き、横のシスターはほっと胸をなでおろした。
「なっ……!?」
その一方で、上条は異能の力がこの少女に使われていたことに驚きを隠せない。そんな少年を尻目に、インデックスは倒れた少女の肩に手をやりゆらゆらと揺さぶった。
「リア? 大丈夫、リア?」
心配そうに顔を覗き込みながら瞳を閉じた少女に何度も話しかける。やがてその声に反応するように少女の瞼が小刻みに揺れた。
「ん、んん……ここは……?」
「リア、気が付いた?」
「あなた……、ッ!! 急がなきゃ、早くあいつのところに!」
「リア、落ち着いて。あなたはさっきまで拘束魔術の影響で倒れてたんだよ!」
「あっ……、あれっ?」
リアは自分の手を動かしながらそれを不思議そうに見ていた。
「大丈夫。もう魔術はとうまが消してくれたから」
「……あなたたち、一体……」
「それよりも、だ。なんでお前に魔術なんてもんが使われてんだよ? もしかしてお前……魔術師なのか?」
しばらく呆けていた上条がその会話に割って入る。
「私は違うわ。でも他の仲間はそうかも。多分……篠原も」
上条は何も言わずに顔をこわばらせる。よくよく考えればたしかにおかしい所はあった。学園都市にきて間もない少年がなぜ能力を使えるのか。それを教師側が疑問に思わなかったのは篠原達になんらかの思惑があって、履歴をごまかした結果ではないのか。
(ちくしょう、疑念の材料しか思い浮かばねぇ!)
「もう一つ聞かせて、リア。あの人たちは一体何をしようとしているの」
シスターはそこに転がっているリアと同じ黒いスーツを着た男を指差す。黒スーツの少女は少し驚いたものの、少しして何があったのかをなんとなく理解した。
「わからない、私は何も知らされてなかったから。ただ、中心にいたサイモンっていう男は『儀式』って言ってたわ」
「『儀式』……? そうだ、篠原は? もしかしてそれに篠原も関わっているのか!?」
「……ええ。っていうよりあいつも中心になってるみたい。それで……」
「?」
震えながらリアは言いよどんでいたが、やがて内にある何かを押し切るように話し始める。
「この儀式であいつは死ぬって……」
「!!」
「お願い! あいつを、この『儀式』を止めて! よくわからないけど『禁書目録』と『幻想殺し』っていうのはあなた達でしょう? サイモンはあなた達二人のことを恐れてた、あの二人は危険だって。虫のいい話だってのはわかってる。でも私一人でどうすればいいかわからなくて・・・私でできることならなんだってする。だから」
「当たり前だ!!」
強い言葉に遮られ、リアは思わず黙り込む。
「当たり前だ、俺だって友達をみすみす死なせるようなことはする気はない」
上条はゆらっと立ち上がる。その目は何かを決意した目だ。
(ごめん先生、ちょっと帰るのが遅くなりそうだ)
心の中でここまで見送ってくれた恩師に謝ると右手をぎゅっと握り締めた。
「リア、篠原がどこに行ったかわかるか?」
「ごめんなさい、気が付いたときにはもういなくなってて……」
そうか、というと上条は考え込む。闇雲に走り回って見つかるとは思えない。ならやはり、今も暴れまわっている他のやつらを押さえて聞きだすしかないかなと思っていると突然ポケットの携帯電話が鳴った。こんなときにと思いながら上条はディスプレイもろくに見ずに通話ボタンを押す。
「はい、もしもし」
『よーかみやん、いまどこにいるんぜよ?』
その声は今日学校に来ていなかった学園都市の多重スパイの声だった。
「っ! 土御門っ!? 何だよこのタイミング!! まさかお前今起こってる事件に絡んでるとか言うんじゃ……」
『そのまさかだにゃー。てかかみやんの方こそ、まさかもう巻き込まれてるんじゃねーのか』
「そのまさかだよ。それより土御門、何か情報を持ってるんなら聞かせてくれ。できればやつらの中心格の居場所が知りたい」
そう言って上条は相手の返事を待つ。しかし言葉は返ってこず、よく聞こえるように携帯を耳に近く当てるとなにやらクククッと小さな笑い声が聞こえてきた。
「おい、もしもし? 土御門っ?」
『あーわるいわるい、まさかこう都合よくコトが進んでるとはさすがに思わなくてにゃー』
「都合?」
『いや、こっちの話ぜよ。それじゃあ、やつらの中心に篠原圭がいるってことも知ってるか?』
「……ああ、さっき聞いた」
『じゃあヤツが魔術師だっていうのは?』
「多分ってぐらいだけどな」
『そうか、まーそれはこっちも推測の域を出てないがな。じゃああとはヤツのいる場所ぐらいしか渡せる情報はないな』
「頼む、教えてくれ」
上条がそういうと土御門は少しの沈黙の後、今度はこちらが聞き返す前に返事をした。
『学校だ』
「へ?」
『俺らが通う学校だよ。お前は今からこっちの用意した協力者と合流して目的地に向かえ』
「『儀式』……? そうだ、篠原は? もしかしてそれに篠原も関わっているのか!?」
「……ええ。っていうよりあいつも中心になってるみたい。それで……」
「?」
震えながらリアは言いよどんでいたが、やがて内にある何かを押し切るように話し始める。
「この儀式であいつは死ぬって……」
「!!」
「お願い! あいつを、この『儀式』を止めて! よくわからないけど『禁書目録』と『幻想殺し』っていうのはあなた達でしょう? サイモンはあなた達二人のことを恐れてた、あの二人は危険だって。虫のいい話だってのはわかってる。でも私一人でどうすればいいかわからなくて・・・私でできることならなんだってする。だから」
「当たり前だ!!」
強い言葉に遮られ、リアは思わず黙り込む。
「当たり前だ、俺だって友達をみすみす死なせるようなことはする気はない」
上条はゆらっと立ち上がる。その目は何かを決意した目だ。
(ごめん先生、ちょっと帰るのが遅くなりそうだ)
心の中でここまで見送ってくれた恩師に謝ると右手をぎゅっと握り締めた。
「リア、篠原がどこに行ったかわかるか?」
「ごめんなさい、気が付いたときにはもういなくなってて……」
そうか、というと上条は考え込む。闇雲に走り回って見つかるとは思えない。ならやはり、今も暴れまわっている他のやつらを押さえて聞きだすしかないかなと思っていると突然ポケットの携帯電話が鳴った。こんなときにと思いながら上条はディスプレイもろくに見ずに通話ボタンを押す。
「はい、もしもし」
『よーかみやん、いまどこにいるんぜよ?』
その声は今日学校に来ていなかった学園都市の多重スパイの声だった。
「っ! 土御門っ!? 何だよこのタイミング!! まさかお前今起こってる事件に絡んでるとか言うんじゃ……」
『そのまさかだにゃー。てかかみやんの方こそ、まさかもう巻き込まれてるんじゃねーのか』
「そのまさかだよ。それより土御門、何か情報を持ってるんなら聞かせてくれ。できればやつらの中心格の居場所が知りたい」
そう言って上条は相手の返事を待つ。しかし言葉は返ってこず、よく聞こえるように携帯を耳に近く当てるとなにやらクククッと小さな笑い声が聞こえてきた。
「おい、もしもし? 土御門っ?」
『あーわるいわるい、まさかこう都合よくコトが進んでるとはさすがに思わなくてにゃー』
「都合?」
『いや、こっちの話ぜよ。それじゃあ、やつらの中心に篠原圭がいるってことも知ってるか?』
「……ああ、さっき聞いた」
『じゃあヤツが魔術師だっていうのは?』
「多分ってぐらいだけどな」
『そうか、まーそれはこっちも推測の域を出てないがな。じゃああとはヤツのいる場所ぐらいしか渡せる情報はないな』
「頼む、教えてくれ」
上条がそういうと土御門は少しの沈黙の後、今度はこちらが聞き返す前に返事をした。
『学校だ』
「へ?」
『俺らが通う学校だよ。お前は今からこっちの用意した協力者と合流して目的地に向かえ』
そして上条は学校までの元来た道を逆走していた。
なぜ篠原が学校で『儀式』を行おうとしているのか、土御門はどうやって場所を特定したのかわからないことはたくさんあるが他に情報を持たない上条はとりあえず走るしかない。
インデックスは先に小萌先生達の待つ避難所へ帰るように言っておいた。それについてあのシスターはぎゃーぎゃーとやかましかったのだが、リアが衰弱しているために誰かが付き添うべきだという理屈を押し付けてさっさとこっちに来たから大丈夫だとは思う。
(しっかし、協力者って誰だ?土御門は木の葉通りを通って行けばわかるとしか言わなかったけど)
木の葉通りというのは第七学区三九号線を指す。この場所はインデックス達のいる場所から学校までの道を少し遠回りして通ることができた。いつもは平日の午前中でさえ絶えず人々が行きかうこの道も今はまるで誰の気配もない。
なぜ篠原が学校で『儀式』を行おうとしているのか、土御門はどうやって場所を特定したのかわからないことはたくさんあるが他に情報を持たない上条はとりあえず走るしかない。
インデックスは先に小萌先生達の待つ避難所へ帰るように言っておいた。それについてあのシスターはぎゃーぎゃーとやかましかったのだが、リアが衰弱しているために誰かが付き添うべきだという理屈を押し付けてさっさとこっちに来たから大丈夫だとは思う。
(しっかし、協力者って誰だ?土御門は木の葉通りを通って行けばわかるとしか言わなかったけど)
木の葉通りというのは第七学区三九号線を指す。この場所はインデックス達のいる場所から学校までの道を少し遠回りして通ることができた。いつもは平日の午前中でさえ絶えず人々が行きかうこの道も今はまるで誰の気配もない。
そう思った瞬間、道沿いのビルの陰から何か黒っぽいものが飛び出して並行して走ってきた。
「やはり君か。まったく、土御門ももう少しましな人選はできないものかね」
「やはり君か。まったく、土御門ももう少しましな人選はできないものかね」
開口一番失礼な物言いのその人物を上条は知っていた。赤く長めの髪に頬にバーコードのような刺青、二メートルほどある長身にくわえ煙草のその男を。
「ステイルっ!? まさか協力者っておまえのことじゃ……」
「協力者?土御門はそんなことをいっているのか」
睨むような視線だけをこちらにやりながら、その黒い神父は走る速度をゆるめない
「まあいい。だが一つだけ言っておくぞ上条当麻。僕の邪魔にはなるな。足を引っ張るようならその右手以外を容赦なく焼き尽くす」
まるで冗談のように淡々と言ってのける。だがその神父の言葉に上条はすこしゾッとした。こいつは例えでもなんでもなく本気でやるからだ。事実、初めて会ったときにも(本当は初めてではないが記憶が消えてしまったためそこは覚えてはいない)いきなり炎を投げつけられたし、三沢塾の件ではステイルに囮とし敵前に蹴りだされたりしている。
かといって、上条もそこで怯んだままいるような性格でもなかった。
「お前こそ、俺の足を引っ張るんじゃねーぞ」
「ふん、相変わらず口が減らないヤツだ」
その黒い神父とツンツン頭の少年はそんなやり取りをしながら木の葉通りをいく。
目指すは上条が今朝までいた学校だ。
「ステイルっ!? まさか協力者っておまえのことじゃ……」
「協力者?土御門はそんなことをいっているのか」
睨むような視線だけをこちらにやりながら、その黒い神父は走る速度をゆるめない
「まあいい。だが一つだけ言っておくぞ上条当麻。僕の邪魔にはなるな。足を引っ張るようならその右手以外を容赦なく焼き尽くす」
まるで冗談のように淡々と言ってのける。だがその神父の言葉に上条はすこしゾッとした。こいつは例えでもなんでもなく本気でやるからだ。事実、初めて会ったときにも(本当は初めてではないが記憶が消えてしまったためそこは覚えてはいない)いきなり炎を投げつけられたし、三沢塾の件ではステイルに囮とし敵前に蹴りだされたりしている。
かといって、上条もそこで怯んだままいるような性格でもなかった。
「お前こそ、俺の足を引っ張るんじゃねーぞ」
「ふん、相変わらず口が減らないヤツだ」
その黒い神父とツンツン頭の少年はそんなやり取りをしながら木の葉通りをいく。
目指すは上条が今朝までいた学校だ。
「むうー」
インデックスは不満そうな顔をしながら少年が駆けていった後の道を眺めていた。
いつもそうなのだ、あの少年は。
他人には危険なことをするなと言いながら率先して危険に飛び込んでいく。しかも今回の事件は魔術が絡んでいるため、これを解決するのは魔導書図書館である自分の役目であるはずであり、間違っても学園都市に住む一般人のツンツン頭の少年ではないのだ。
とはいえリアをこのままにはしておけないしその点については少年は正しい。よってインデックスはこの場所から動けない状態であった。まあそれは気持ちの面であって、その本当の理由は
「とうま、小萌達がいる場所ぐらい教えていってほしかったかも」
ということである。
実際は上条はメールで避難場所までの地図のリンクを貼り付けてインデックスの携帯に送っていたのだが、もちろんそれをこの機会音痴のシスターがどうこうできるわけもない。
そんな感じでうーうー言っているシスターの横でガサッと何かが立ち上がる音がした。
「! だめだよリア、もう少し休んだほうがいいんだよ」
「ありがとう、でももう大丈夫。昔から頑丈なだけがとりえだしね」
そう苦笑してリアは立ち上がる。もとが高そうな彼女の着ているスーツは何度も転んだのであろう、土の汚れと傷でいっぱいだった。
「それより、私も行かなくちゃ。人に頼りっきりじゃ、あの約束は守れないから」
リアはそう言ってきょとんとするシスターを見た。それに苦笑するとそのまま走り出そうとする。場所は電話から漏れる音で聞いていた、篠原や上条が通っている高校だ。
「待って!」
「?」
「私も行く。魔術に関しちゃ私の方がとうまよりずっと頼りになるんだよ!」
インデックスは不満そうな顔をしながら少年が駆けていった後の道を眺めていた。
いつもそうなのだ、あの少年は。
他人には危険なことをするなと言いながら率先して危険に飛び込んでいく。しかも今回の事件は魔術が絡んでいるため、これを解決するのは魔導書図書館である自分の役目であるはずであり、間違っても学園都市に住む一般人のツンツン頭の少年ではないのだ。
とはいえリアをこのままにはしておけないしその点については少年は正しい。よってインデックスはこの場所から動けない状態であった。まあそれは気持ちの面であって、その本当の理由は
「とうま、小萌達がいる場所ぐらい教えていってほしかったかも」
ということである。
実際は上条はメールで避難場所までの地図のリンクを貼り付けてインデックスの携帯に送っていたのだが、もちろんそれをこの機会音痴のシスターがどうこうできるわけもない。
そんな感じでうーうー言っているシスターの横でガサッと何かが立ち上がる音がした。
「! だめだよリア、もう少し休んだほうがいいんだよ」
「ありがとう、でももう大丈夫。昔から頑丈なだけがとりえだしね」
そう苦笑してリアは立ち上がる。もとが高そうな彼女の着ているスーツは何度も転んだのであろう、土の汚れと傷でいっぱいだった。
「それより、私も行かなくちゃ。人に頼りっきりじゃ、あの約束は守れないから」
リアはそう言ってきょとんとするシスターを見た。それに苦笑するとそのまま走り出そうとする。場所は電話から漏れる音で聞いていた、篠原や上条が通っている高校だ。
「待って!」
「?」
「私も行く。魔術に関しちゃ私の方がとうまよりずっと頼りになるんだよ!」
御坂美琴は学校を抜け出していた。といっても、それは避難勧告が出されたあとのことである。
正体不明の集団がこの第七学区内で無差別にテロを起こしているという報を受けた常盤台中学は、他の学校と同様に避難体制をとった。実際、この学校の生徒達は全てレベル3以上の集団であり、恐らく自分の身ぐらいは自分で守れたのであろう。だが警備員側からすれば避難所にも緊急の戦力が欲しかったため、避難という形で移動してもらっていた。もっとも、あくまでそれは両者共に暗黙の了解ではあるが。
そんな中、風紀委員である生徒達は避難所ではなく自分達の所属する各支部へと召集されていた。その任務はテロリストの迎撃ではなく逃げ遅れた人々の確認および回収である。
常盤台からも白井黒子をはじめとした生徒達が出動しており、美琴はそのどさくさにまぎれてこっそり出てきたのだった。
理由は特にない。強いて言えば学園都市第三位を誇る超電磁砲が避難というのもおかしな話だと思ったからだ。あとは無差別テロなんかを起こしているやつらがなんとなく気に入らなかったからだろうか。
ともかく今、美琴は避難所ではなく爆発の続く街中に立っている。そしてその前にはちょうどその気に入らない連中がいた。
「あんた達ね、この爆発の原因は」
そういって美琴は黒いスーツを着た三人の男達を睨みつける。
「なんだ貴様は、逃げ遅れた学生か」
「さっさと消えろ、攻撃するつもりはない」
「ここにいるなら、身の保障はせんぞ」
一人一人が順番に、まるで朗読でもしているように口調をそろえて喋りかけてくる。
気味が悪いぐらいきれいなタイミングで間髪いれず話す三人の男達に美琴は心の中でうげぇ、と悪態をついた。
「そっちこそさっさとこの街から出て行きなさい。じゃないと、身の保障はしないわよ!」
そう言って少女は額の辺りにバチッと電流を走らせる。
それを見た黒スーツ達は一度互いに顔を見合わせるとこちらをあざける様に笑い始めた。
「能力者というやつか」
「その程度で我らに歯向かうか」
「少々痛い目をみんとわからんか」
そして彼らは各自がリングのようなものを巻いた腕をこちらに向かって突き出してきた。
「!!」
三つの手から妙な力を察知した美琴はその位置から飛ぶように後ろへと下がる。それから一秒もおかずにそこに光る何かが突き刺さり、ドガッという音を立ててアスファルトを掘り起こした。
(あれはっ……!?)
彼らの使った力には見覚えがあった。それは一昨日にルームメイトが持ってきた金属片にまとわり付いていた白っぽい電流だ。実際は電流とは呼べない得体の知れない未知の力なのだが。
「ちょっとあんた達、一体何者? 見た目からして能力者じゃなさそうだけど」
そもそも能力者とは学園都市において開発された学生のことであり、どう見ても最低三十歳以上に見える目の前の男達はそれにあてはまらない。
「能力などという科学ごときに作られたものと一緒にするな」
「使者の輪(トリガースフィア)はそのような枠に当てはまるものではない」
「その力を身をもって知るがよい」
そう言いながらも黒スーツ達は電撃を飛ばす手を緩めない。それを美琴は最低限の体の動きのみで交わしている。
(わけのわからない力で学園都市で無差別テロ? 目的がまったく読めないわね、あいつらから聞き出そうとしてもなんか無駄っぽいし)
あーもうっ! と頭をかきながら美琴は相手から少し大きめに距離をとった。そしてそのまま動こうとはしない少女に向かって、黒スーツはにじみよるように前に出る。
「観念したか」
「だがもう逃がさんぞ」
「せめて一瞬で終わらせてやる」
そして黒スーツは一際強くリングを輝かせ、美琴の方へ一斉に電撃を発射した。
正体不明の集団がこの第七学区内で無差別にテロを起こしているという報を受けた常盤台中学は、他の学校と同様に避難体制をとった。実際、この学校の生徒達は全てレベル3以上の集団であり、恐らく自分の身ぐらいは自分で守れたのであろう。だが警備員側からすれば避難所にも緊急の戦力が欲しかったため、避難という形で移動してもらっていた。もっとも、あくまでそれは両者共に暗黙の了解ではあるが。
そんな中、風紀委員である生徒達は避難所ではなく自分達の所属する各支部へと召集されていた。その任務はテロリストの迎撃ではなく逃げ遅れた人々の確認および回収である。
常盤台からも白井黒子をはじめとした生徒達が出動しており、美琴はそのどさくさにまぎれてこっそり出てきたのだった。
理由は特にない。強いて言えば学園都市第三位を誇る超電磁砲が避難というのもおかしな話だと思ったからだ。あとは無差別テロなんかを起こしているやつらがなんとなく気に入らなかったからだろうか。
ともかく今、美琴は避難所ではなく爆発の続く街中に立っている。そしてその前にはちょうどその気に入らない連中がいた。
「あんた達ね、この爆発の原因は」
そういって美琴は黒いスーツを着た三人の男達を睨みつける。
「なんだ貴様は、逃げ遅れた学生か」
「さっさと消えろ、攻撃するつもりはない」
「ここにいるなら、身の保障はせんぞ」
一人一人が順番に、まるで朗読でもしているように口調をそろえて喋りかけてくる。
気味が悪いぐらいきれいなタイミングで間髪いれず話す三人の男達に美琴は心の中でうげぇ、と悪態をついた。
「そっちこそさっさとこの街から出て行きなさい。じゃないと、身の保障はしないわよ!」
そう言って少女は額の辺りにバチッと電流を走らせる。
それを見た黒スーツ達は一度互いに顔を見合わせるとこちらをあざける様に笑い始めた。
「能力者というやつか」
「その程度で我らに歯向かうか」
「少々痛い目をみんとわからんか」
そして彼らは各自がリングのようなものを巻いた腕をこちらに向かって突き出してきた。
「!!」
三つの手から妙な力を察知した美琴はその位置から飛ぶように後ろへと下がる。それから一秒もおかずにそこに光る何かが突き刺さり、ドガッという音を立ててアスファルトを掘り起こした。
(あれはっ……!?)
彼らの使った力には見覚えがあった。それは一昨日にルームメイトが持ってきた金属片にまとわり付いていた白っぽい電流だ。実際は電流とは呼べない得体の知れない未知の力なのだが。
「ちょっとあんた達、一体何者? 見た目からして能力者じゃなさそうだけど」
そもそも能力者とは学園都市において開発された学生のことであり、どう見ても最低三十歳以上に見える目の前の男達はそれにあてはまらない。
「能力などという科学ごときに作られたものと一緒にするな」
「使者の輪(トリガースフィア)はそのような枠に当てはまるものではない」
「その力を身をもって知るがよい」
そう言いながらも黒スーツ達は電撃を飛ばす手を緩めない。それを美琴は最低限の体の動きのみで交わしている。
(わけのわからない力で学園都市で無差別テロ? 目的がまったく読めないわね、あいつらから聞き出そうとしてもなんか無駄っぽいし)
あーもうっ! と頭をかきながら美琴は相手から少し大きめに距離をとった。そしてそのまま動こうとはしない少女に向かって、黒スーツはにじみよるように前に出る。
「観念したか」
「だがもう逃がさんぞ」
「せめて一瞬で終わらせてやる」
そして黒スーツは一際強くリングを輝かせ、美琴の方へ一斉に電撃を発射した。
そして、 バチンッ!! という何かを強烈な力ではじくような音が鳴り、その電撃は打ち消された。
それは、少女の周辺から聞こえていた。正確には、少女の周辺に結界のように展開されている黒スーツ達の何十倍もの威力のありそうな電撃から。
「なっ……」
黒スーツの一人から今までの口調の崩れた声が、思わずという風に漏れる。
「もういーわ」
そんなことは気にせずにレベル5の超電磁砲は言う。
「めんどうなこと考えるのは黒子たちに任せて、とりあえずあんた達にはボコボコになってもらうから。一度身の保障はしないって言ったし、別にいいわよね?」
「なっ……」
黒スーツの一人から今までの口調の崩れた声が、思わずという風に漏れる。
「もういーわ」
そんなことは気にせずにレベル5の超電磁砲は言う。
「めんどうなこと考えるのは黒子たちに任せて、とりあえずあんた達にはボコボコになってもらうから。一度身の保障はしないって言ったし、別にいいわよね?」
バチバチィィィィィッ!! とさっきまでとは比べ物にならない電撃がその場所で四方八方に飛ばされていた。その発信源は学園都市第三位、超電磁砲こと御坂美琴である。
ほんの少し前まで彼女を追い詰めていたと思っていた黒スーツ達は完全に立場が逆転しており、今や彼らが逃げ回っていた。
「ちょっとあんた達逃げ回ってんじゃないわよっ!」
無理だ、あれは自分達の扱っている力とはその強さの面で次元が違う。触れればやられる、防ぐことなど不可能だ、ならば後は逃げるしかない。
黒スーツの三人の男達は意思疎通のみでそんな意見が一致し、飛んでくる電撃を避けることに必死になっていた。
とはいえ美琴の狙いも徐々にシャープになっており、このままではいずれ誰かが捕まるのも時間の問題だ。そして一人がやられればその分攻撃が増えるため、結局全滅は免れない。
黒スーツ達は覚悟を決めたような顔でお互いを見合わせ、三人全員が一箇所に集まった。それを見た美琴は電撃を飛ばすのをやめる。
「とうとう観念したの? でももう逃がす気はないわよ」
「……貴様の力は、よく、わかった」
「だが、逃げるつもりは、ない」
「我らの、真の力を、見せてくれる」
「あっそ、でもそんなに息が上がってるようじゃ説得力ないわね」
その言葉に、黒スーツ達は美琴を睨みつけながらまたもリングを巻いた手をこちらに向けてくる。ただし、そこから感じられる力は強さは今までとは比較にならない。
その力を感じ取った美琴は警戒しつつもニヤッと口元を緩める。
(へえ、まんざら負け惜しみってワケでもないわけね。面白いじゃない!)
そしてスカートのポケットから一枚のメダルを取り出す。どこにでもあるゲームセンターのメダルゲーム用のものだ。
レールガン。
彼女の通り名でもあるローレンツ力で弾を発射するその技は、音速の三倍で撃ち出される。その威力はとても防ぎきれるものではない。
美琴はメダルを指に挟み、相手に向かって弾くような格好をとる。
「いいわ、かかってきなさい! 真正面から叩き潰してやるわ!」
その言葉を合図に、男達のリングが光りながらその周りに小さな光の玉が灯っていく。それらは彼らの前方へ移動すると、一つの大きな円を作った。
「「「喰らえっ!」」」
ドゴォッ!! とまず最初に黒スーツと御坂の中心で爆発がおきる。ただしその余波の中には白っぽい電流が混ざっており、それを受けただけでも相当のダメージは必至だ。そしてその爆発はドドドドッ!! と途切れずに、まるで何者かが猛スピードで地雷原を駆けてくる様に連鎖して美琴の方へと向かってくる。
少し遅れて御坂もメダルを指で弾き、そしてそこからは音速の三倍の閃光が走った。
威力の差は歴然であり、彼女に迫る爆発はその余波と黒煙ごと一気になぎ払われ、彼女の横へ逸れて走っていった。もちろんそれはそのまま黒スーツ達に(正確にはその足元に)刺さるはずだ。
だが、その肝心の男達の姿は晴れた黒煙の先にはなかった。
逃げられた、と逸れた二つの爆煙の間で御坂が思った瞬間、彼女の周囲に張り巡らされた電磁波が爆煙とは違うまっすぐこっちに向かってくる何かを両側から感知する。それに対し、美琴はあえて避けることはせずに威力を抑えた雷撃の槍を感知した何かに向かって飛ばした。
加減をしたにも関わらず、それは進行方向上にある白い電流をこともなげに周りの爆煙ごとかき消す。そしてその先に居た黒スーツの二人はほぼ同時にうめき声を上げて倒れた。
(二人撃破っ! 残りの一人はどこに……っ!?)
美琴は電磁波で察知するよりも早く自分を覆う大きな影に反応し上を見上げた。そこには工事中であろうビルからそれに使う大きめの鉄骨が投げ出されていた。
逃げるには微妙なところだ。ならば、電流で鉄骨を蹴散らすしかない。
そう美琴は判断したが、少女が能力を使うことはなかった。
「っ!?」
ほんの少し前まで彼女を追い詰めていたと思っていた黒スーツ達は完全に立場が逆転しており、今や彼らが逃げ回っていた。
「ちょっとあんた達逃げ回ってんじゃないわよっ!」
無理だ、あれは自分達の扱っている力とはその強さの面で次元が違う。触れればやられる、防ぐことなど不可能だ、ならば後は逃げるしかない。
黒スーツの三人の男達は意思疎通のみでそんな意見が一致し、飛んでくる電撃を避けることに必死になっていた。
とはいえ美琴の狙いも徐々にシャープになっており、このままではいずれ誰かが捕まるのも時間の問題だ。そして一人がやられればその分攻撃が増えるため、結局全滅は免れない。
黒スーツ達は覚悟を決めたような顔でお互いを見合わせ、三人全員が一箇所に集まった。それを見た美琴は電撃を飛ばすのをやめる。
「とうとう観念したの? でももう逃がす気はないわよ」
「……貴様の力は、よく、わかった」
「だが、逃げるつもりは、ない」
「我らの、真の力を、見せてくれる」
「あっそ、でもそんなに息が上がってるようじゃ説得力ないわね」
その言葉に、黒スーツ達は美琴を睨みつけながらまたもリングを巻いた手をこちらに向けてくる。ただし、そこから感じられる力は強さは今までとは比較にならない。
その力を感じ取った美琴は警戒しつつもニヤッと口元を緩める。
(へえ、まんざら負け惜しみってワケでもないわけね。面白いじゃない!)
そしてスカートのポケットから一枚のメダルを取り出す。どこにでもあるゲームセンターのメダルゲーム用のものだ。
レールガン。
彼女の通り名でもあるローレンツ力で弾を発射するその技は、音速の三倍で撃ち出される。その威力はとても防ぎきれるものではない。
美琴はメダルを指に挟み、相手に向かって弾くような格好をとる。
「いいわ、かかってきなさい! 真正面から叩き潰してやるわ!」
その言葉を合図に、男達のリングが光りながらその周りに小さな光の玉が灯っていく。それらは彼らの前方へ移動すると、一つの大きな円を作った。
「「「喰らえっ!」」」
ドゴォッ!! とまず最初に黒スーツと御坂の中心で爆発がおきる。ただしその余波の中には白っぽい電流が混ざっており、それを受けただけでも相当のダメージは必至だ。そしてその爆発はドドドドッ!! と途切れずに、まるで何者かが猛スピードで地雷原を駆けてくる様に連鎖して美琴の方へと向かってくる。
少し遅れて御坂もメダルを指で弾き、そしてそこからは音速の三倍の閃光が走った。
威力の差は歴然であり、彼女に迫る爆発はその余波と黒煙ごと一気になぎ払われ、彼女の横へ逸れて走っていった。もちろんそれはそのまま黒スーツ達に(正確にはその足元に)刺さるはずだ。
だが、その肝心の男達の姿は晴れた黒煙の先にはなかった。
逃げられた、と逸れた二つの爆煙の間で御坂が思った瞬間、彼女の周囲に張り巡らされた電磁波が爆煙とは違うまっすぐこっちに向かってくる何かを両側から感知する。それに対し、美琴はあえて避けることはせずに威力を抑えた雷撃の槍を感知した何かに向かって飛ばした。
加減をしたにも関わらず、それは進行方向上にある白い電流をこともなげに周りの爆煙ごとかき消す。そしてその先に居た黒スーツの二人はほぼ同時にうめき声を上げて倒れた。
(二人撃破っ! 残りの一人はどこに……っ!?)
美琴は電磁波で察知するよりも早く自分を覆う大きな影に反応し上を見上げた。そこには工事中であろうビルからそれに使う大きめの鉄骨が投げ出されていた。
逃げるには微妙なところだ。ならば、電流で鉄骨を蹴散らすしかない。
そう美琴は判断したが、少女が能力を使うことはなかった。
「っ!?」
その鉄骨が突然真っ二つになり、予測していた落下地点から大きく逸れていったからである。
その余りにも不自然な現象に、ドガァッ! と凄まじい音を立てて地面にたたきつけられた鉄骨にすら反応せず、少女はただ呆然と顔を上げているのみだ。
美琴はしばらくしたあと、ハッとして慌てた様に周りを見渡した。それを能力によるものでならば近くにその能力者がいるはずだと思ったからである。だが少女の見える範囲には転がっている二人の黒スーツ以外誰もいない。あと一人がいないが、そいつは恐らく鉄骨を落としただけであって切断したヤツは別にいるはずだ。
落ちた鉄骨を見ると、落下による衝撃で曲がったりしているものの切断面は異常なぐらいきれいなモノである。おそらくレベル4の風力使いの真空波なんかでもこうはいかないであろう。
「一体誰が……?」
美琴のその疑問は誰も答えることなく、未だくすぶる爆煙の中に消えていった。
美琴はしばらくしたあと、ハッとして慌てた様に周りを見渡した。それを能力によるものでならば近くにその能力者がいるはずだと思ったからである。だが少女の見える範囲には転がっている二人の黒スーツ以外誰もいない。あと一人がいないが、そいつは恐らく鉄骨を落としただけであって切断したヤツは別にいるはずだ。
落ちた鉄骨を見ると、落下による衝撃で曲がったりしているものの切断面は異常なぐらいきれいなモノである。おそらくレベル4の風力使いの真空波なんかでもこうはいかないであろう。
「一体誰が……?」
美琴のその疑問は誰も答えることなく、未だくすぶる爆煙の中に消えていった。
息を荒げて路地裏を走る黒いスーツを着た男がいた。彼はついさっきまでこの学園都市のトンデモ中学生とやりあったばかりである。
その結果として、彼は今敗走していた。ただし、黒スーツの顔に悲観の色はない。
たしかにあんなヤツがいるとは思わなかった。二人の仲間を失ったことも痛いが、それでも自分は逃げ切れた。ならばもう一度体勢を立て直すか、他の仲間のところに合流すればいい。もうそうそうあんな化け物は出てこないはずだ。
かなり楽観的な考えだが、まず助かったことの安堵があるため無理もない。
彼は油断していた。
「まったく、あまり手間をかけさせないでほしいですね」
そこにどこから聞こえてきたかもわからない声が聞こえて黒スーツの体は一気に緊張する。それは、ホラー映画などで一度安心したすぐ後の恐怖の心境に似ているかもしれない。
「ただでさえこちらは御坂さんに見つからないよう気を配っているというのに。まあ彼女から離れてくれたおかげでやりやすくはなりましたが」
その声は続ける。黒スーツの方はすっかり錯乱状態に陥っていた。
「だ、誰だっ!?」
それに反応してか、黒スーツの横の路地の暗闇からまるで湧き出るように男が姿を現した。
その容姿はイメージに反して爽やかな好青年だ。ただし、そこから放たれるプレッシャーはこちらが油断することを許さない。
「海原光貴。……ああ、これは『仮』の名前ですので覚えてもらわなくても結構です」
黒スーツはにこやかに自己紹介する目の前の男から目が離せないでいた。仮がどういう意味かなんて知らないが二つわかることがある。こいつは敵だ。そしてこいつと自分の力の差は圧倒的である。
「とりあえず、あなたには眠っていただきます。心配しないでください、殺しはしません。恐らくですが」
その結果として、彼は今敗走していた。ただし、黒スーツの顔に悲観の色はない。
たしかにあんなヤツがいるとは思わなかった。二人の仲間を失ったことも痛いが、それでも自分は逃げ切れた。ならばもう一度体勢を立て直すか、他の仲間のところに合流すればいい。もうそうそうあんな化け物は出てこないはずだ。
かなり楽観的な考えだが、まず助かったことの安堵があるため無理もない。
彼は油断していた。
「まったく、あまり手間をかけさせないでほしいですね」
そこにどこから聞こえてきたかもわからない声が聞こえて黒スーツの体は一気に緊張する。それは、ホラー映画などで一度安心したすぐ後の恐怖の心境に似ているかもしれない。
「ただでさえこちらは御坂さんに見つからないよう気を配っているというのに。まあ彼女から離れてくれたおかげでやりやすくはなりましたが」
その声は続ける。黒スーツの方はすっかり錯乱状態に陥っていた。
「だ、誰だっ!?」
それに反応してか、黒スーツの横の路地の暗闇からまるで湧き出るように男が姿を現した。
その容姿はイメージに反して爽やかな好青年だ。ただし、そこから放たれるプレッシャーはこちらが油断することを許さない。
「海原光貴。……ああ、これは『仮』の名前ですので覚えてもらわなくても結構です」
黒スーツはにこやかに自己紹介する目の前の男から目が離せないでいた。仮がどういう意味かなんて知らないが二つわかることがある。こいつは敵だ。そしてこいつと自分の力の差は圧倒的である。
「とりあえず、あなたには眠っていただきます。心配しないでください、殺しはしません。恐らくですが」
数分後、そこには恐怖で顔を引きつらせた男と片手に携帯を持った海原が立っていた。
「少しやりすぎましたか。御坂さんがやられるとは毛ほども思ってませんでしたがやはり少し感情的になってしまいました」
そう言って携帯のボタンを押し耳に当てる。その顔はニコニコと微笑んだまま、崩れる気配はない。
「……もしもし。はい、こっちは終わりましたんで車を回してください。あと、路地裏に一人転がっていますのでその回収も」
はい、はいと二、三度相槌をうち電話を切る。そして海原はまた暗闇へと姿を消していった。
「少しやりすぎましたか。御坂さんがやられるとは毛ほども思ってませんでしたがやはり少し感情的になってしまいました」
そう言って携帯のボタンを押し耳に当てる。その顔はニコニコと微笑んだまま、崩れる気配はない。
「……もしもし。はい、こっちは終わりましたんで車を回してください。あと、路地裏に一人転がっていますのでその回収も」
はい、はいと二、三度相槌をうち電話を切る。そして海原はまた暗闇へと姿を消していった。