さっきまで晴れていた青空を灰色の雲が覆いつくし、太陽の光は姿を消した。
薄暗くなった世界によって学校の屋上も例外なくその色に染められる。
薄暗くなった世界によって学校の屋上も例外なくその色に染められる。
上条当麻は何か現実感のないもののように目の前の光景を見ていた。
そこにはサイモンと呼ばれていた眼鏡で黒いスーツの男と腹部から剣を生やしてピクリとも動かずに倒れている篠原がいる。
そこにはサイモンと呼ばれていた眼鏡で黒いスーツの男と腹部から剣を生やしてピクリとも動かずに倒れている篠原がいる。
「くくく……はーっはははははははははははははははは!!」
サイモンが笑っている、その風貌に似合わぬほど狂ったように。それに反応するかのように、上条に体中の感覚がようやく戻ってくる。
「……てめぇぇええええええええええええええええええええっ!!」
少年は一歩を踏み出すと、それを皮切りに叫びながら笑う男に駆け出した。痛覚がなくなるぐらいに固く握り締めた右手をそこで笑う男に叩きつけるために。
だがそれが届くことはなかった。
サイモンの腕から放たれた篠原のものよりも一際大きい白い電流がその進路を阻んだからである。
「私は今長年かけた儀式を完成したことで感慨にひたっている。それに水を差すのは無粋だと思わないかね、『幻想殺し』」
電流は屋上のコンクリートの床へと突き刺さりそこをえぐった。それにより飛んできた校舎の破片により、上条は思わず数歩後ろへ下がる。
「そう、長かったよ、理論から考えるともう私の半生はかけてきている。まあその仕上げをまさかこの学園都市ですることになるとは思わなかったが、時期や素材の入手など必要事項が多かった故それもしかたがない。もっとも、ここなら儀式について感づいた魔術師どもが押し寄せることもない故都合がいいといえばいいのだが――」
「えらく饒舌じゃないか」
そこに別の声が割って入った。その主は今まで動こうとしなかったステイルのものである。
長身で赤い髪の神父はこちらへ歩いてきながら新しい煙草に火をつけた。
「……てめぇぇええええええええええええええええええええっ!!」
少年は一歩を踏み出すと、それを皮切りに叫びながら笑う男に駆け出した。痛覚がなくなるぐらいに固く握り締めた右手をそこで笑う男に叩きつけるために。
だがそれが届くことはなかった。
サイモンの腕から放たれた篠原のものよりも一際大きい白い電流がその進路を阻んだからである。
「私は今長年かけた儀式を完成したことで感慨にひたっている。それに水を差すのは無粋だと思わないかね、『幻想殺し』」
電流は屋上のコンクリートの床へと突き刺さりそこをえぐった。それにより飛んできた校舎の破片により、上条は思わず数歩後ろへ下がる。
「そう、長かったよ、理論から考えるともう私の半生はかけてきている。まあその仕上げをまさかこの学園都市ですることになるとは思わなかったが、時期や素材の入手など必要事項が多かった故それもしかたがない。もっとも、ここなら儀式について感づいた魔術師どもが押し寄せることもない故都合がいいといえばいいのだが――」
「えらく饒舌じゃないか」
そこに別の声が割って入った。その主は今まで動こうとしなかったステイルのものである。
長身で赤い髪の神父はこちらへ歩いてきながら新しい煙草に火をつけた。
「渡された資料には寡黙な男と書いてあったんだけどね。『霊装職人』の魔術師、ウォーレス=マクレガー」
その言葉にサイモンは今まで満足そうだった表情を一変させ、その目をステイルを睨むように細くする。だが赤髪神父はそんなことは気にも留めない。
「知ってるのか?」
「ああ、元はイギリス清教『必要悪の教会』に所属していた魔術師さ。もっとも、十年ほど前に突然失踪しているがね」
「貴様、やはり魔術師か。その名はとうの昔に捨てたもの故、今はサイモンと呼んでほしいのだがな」
「『サイモン』か。第一使徒ペテロの別称を名乗って一体何を企んでいるんだい、ウォーレス?」
相手をからかうようにわざとらしいステイルの言葉にサイモンはよりいっそう目を細めた。そして懐から球状の何かを取り出す。
「……ふん、完全な儀式の完成までに危険因子を片付ける必要もあるか」
「やる気かい? まあこっちは君の回収が目的で学園都市にまで来たんだから、その方が話が早くていいんだけどね!」
そう言ったステイルは、いつの間にか手の中に数枚のルーンを刻まれたカードを持っている。口から吹くように飛ばされた点けたばかりの煙草は一瞬で燃え上がり、地面には塵一つすら落ちない。
「魔術師同士の戦闘だ。名乗っておこうか、『Fortis931(我が名が最強であることをここに証明する)』!!」
その手の中にあったカードは瞬時に炎の塊となり、ステイルは名乗ると同時にその炎をたたきつけるように黒いスーツの男に投げつけた。
一方、炎の進む軌道上の先にいるサイモンは一瞬目を見開いた後口元を軽くゆがめる。
「くく…偶然とは面白いものだ」
そう言って手を前へと突き出すと、その腕を三つの光る輪のようなものが囲んだ。
「いいだろう、後悔しても知らんぞ青二才が! 『Fortis476(全てを飲み込む強さを欲す)』!!」
こちらも名乗ると同時に、これまでで一番大規模な白っぽい電流が炎に向かい放たれる。
二つの強烈な力は二人の間で衝突し、ドガァァッ!! という音と共に周囲に衝撃を振りまいた。
今、同じ魔法名をもつ二人の魔術師が激突する。
「知ってるのか?」
「ああ、元はイギリス清教『必要悪の教会』に所属していた魔術師さ。もっとも、十年ほど前に突然失踪しているがね」
「貴様、やはり魔術師か。その名はとうの昔に捨てたもの故、今はサイモンと呼んでほしいのだがな」
「『サイモン』か。第一使徒ペテロの別称を名乗って一体何を企んでいるんだい、ウォーレス?」
相手をからかうようにわざとらしいステイルの言葉にサイモンはよりいっそう目を細めた。そして懐から球状の何かを取り出す。
「……ふん、完全な儀式の完成までに危険因子を片付ける必要もあるか」
「やる気かい? まあこっちは君の回収が目的で学園都市にまで来たんだから、その方が話が早くていいんだけどね!」
そう言ったステイルは、いつの間にか手の中に数枚のルーンを刻まれたカードを持っている。口から吹くように飛ばされた点けたばかりの煙草は一瞬で燃え上がり、地面には塵一つすら落ちない。
「魔術師同士の戦闘だ。名乗っておこうか、『Fortis931(我が名が最強であることをここに証明する)』!!」
その手の中にあったカードは瞬時に炎の塊となり、ステイルは名乗ると同時にその炎をたたきつけるように黒いスーツの男に投げつけた。
一方、炎の進む軌道上の先にいるサイモンは一瞬目を見開いた後口元を軽くゆがめる。
「くく…偶然とは面白いものだ」
そう言って手を前へと突き出すと、その腕を三つの光る輪のようなものが囲んだ。
「いいだろう、後悔しても知らんぞ青二才が! 『Fortis476(全てを飲み込む強さを欲す)』!!」
こちらも名乗ると同時に、これまでで一番大規模な白っぽい電流が炎に向かい放たれる。
二つの強烈な力は二人の間で衝突し、ドガァァッ!! という音と共に周囲に衝撃を振りまいた。
今、同じ魔法名をもつ二人の魔術師が激突する。
「そういえばさっきから爆発音が聞こえなくなってる?」
「みたいだね、魔力の流れも急になくなってきてる。もしかしたらもう目的を果たしちゃってるのかも」
すっかり人気のなくなった街中をそれぞれ白い修道服と黒いスーツを着た二人の少女が駆けていた。もっとも、二人ともその格好はぼろぼろで白は汚れで黒に、黒は破れて下地の白が見えているような状態である。それでもその足取りは力強く、強い意志が感じられる。
ただ、インデックスの言葉でリアの方はいくらか表情に陰りが見えてしまう。
「でっ、でももしかしたらとうまが他の人たちも倒してくれちゃったのかもっ! それに魔力の流れ自体は感じるし、まだ時間はあるんだよっ!」
それに気付いたシスターは(珍しくも)慌ててそのフォローをする。まあ、幼馴染が死ぬといっている儀式において、目的が果たされるというのは配慮の足りない受け答えであったが。
横で慌てたままのシスターを見て、リアはクスッと苦笑した。
「大丈夫、悲観的になっても仕方ないしね。今はまず早くあいつのところに行かなきゃ」
そう言ってリアは視線を前へと向ける。
そうだ、うだうだ考えている暇はない。あの人やこの少女に頼りきっているわけにもいかない、ならば今は走るしかない。
「お前ごときが行ってどうする?」
突然、どこから聞こえたかわからない声がその空間に響いた。
「!!」
表情を一変させたインデックスが、横の少女に向かってほぼタックルを食らわせるような形で飛び込んでくる。
そして二人の少女がアスファルトに転げた瞬間、ドガァンッ!! という音を立ててさっきまで彼女達が居た場所の前方が爆発した。
「きゃあっ!」
致命傷は負わないまでも、その爆風でもつれ合ったまま少女二人がごろごろと転がる。固いアスファルトに引っかかれ、お互いに服と体に傷がついていく。
爆煙の向こうでは、似たような大きさの影が三人分ゆらゆらと揺れていた。そしてすぐに爆煙は強烈な風によって吹き飛ばされ、三つの影がその姿を現す。
それは、リアと同じ格好をした三人の男だった。
「サイモン様に言われなかったか? お前はもう用済みだ、これ以上深入りするなら容赦しない。」
その中心の貫禄のある男がリアの方を見ながら前へ出る。たしか、サイモンを除いた黒スーツ達の中でリーダー格の、クリントという男だ。
目は相手から背けずにリアはゆらゆらと立ち上がる。後ろではインデックスが同様に立ち上がる気配がした。
「ここまで来て……そう簡単に引き下がると思う?」
「ならば蹴散らすまでだ。そこの禁書目録もろともな」
その言葉にリアは思わず振り返った。そこには砕けたアスファルトの欠片を握った少女が、いつでも走れるような体勢をとりながら相手を見据えている。
「別働隊には上手く対処できたようだが、私はやつらとは違う。例えば――」
そう言ってクリントは地面を蹴り、こちらへと突進してくる。そのままリアの横を通り過ぎるとその後ろで驚いた顔をするシスターに向かって、ドッと鈍い音を立てて高価そうな靴のつま先を打ち込んだ。
幸い斜め後ろへ飛ぶように移動したシスターは直撃を免れたが、それでも予定した着地地点から大幅に後ろへ転がるように吹っ飛ばされる。
「お前が相手の魔術を利用したことは知っている。どうやら知識はあっても魔術を使うことはできないようだな。ならば肉弾戦のみで攻めれば所詮お前らは非力な女子供に過ぎん。」
貴様らに勝ち目はない、とその男は自分で吹っ飛ばしたシスターの方へと歩いていく。
だめだ、いくら魔術の専門家でも大の男に腕力でかかられてはあの小さな少女ではひとたまりもない。
反射的にリアはインデックスの方へ駆け出す。しかしそれは三歩ほどで後ろからの衝撃によって中断させられた。前転のように転がった後、振り返ると残る二人の男のうちの一人がこちらに上等な靴の底を見せている。
三対二。
それも屈強な男三人に対してこちらは非力な女が二人。
まずい、とリアは思う。
せめて逃げることができればいいが、それすらもこの状況では難しい。
そう考えている間も男達はインデックスとリアに近づいていく。
二人とも転がされてまだ立ち上がることすらできていない、このままでは一方的にやられるだけだ。
かといって策も思いつかない。
そして男達は二人の正面にまで近づいてくる。
思い切り踏みつけようとして上げられた足を見て、リアは思わず目をつぶった。
「みたいだね、魔力の流れも急になくなってきてる。もしかしたらもう目的を果たしちゃってるのかも」
すっかり人気のなくなった街中をそれぞれ白い修道服と黒いスーツを着た二人の少女が駆けていた。もっとも、二人ともその格好はぼろぼろで白は汚れで黒に、黒は破れて下地の白が見えているような状態である。それでもその足取りは力強く、強い意志が感じられる。
ただ、インデックスの言葉でリアの方はいくらか表情に陰りが見えてしまう。
「でっ、でももしかしたらとうまが他の人たちも倒してくれちゃったのかもっ! それに魔力の流れ自体は感じるし、まだ時間はあるんだよっ!」
それに気付いたシスターは(珍しくも)慌ててそのフォローをする。まあ、幼馴染が死ぬといっている儀式において、目的が果たされるというのは配慮の足りない受け答えであったが。
横で慌てたままのシスターを見て、リアはクスッと苦笑した。
「大丈夫、悲観的になっても仕方ないしね。今はまず早くあいつのところに行かなきゃ」
そう言ってリアは視線を前へと向ける。
そうだ、うだうだ考えている暇はない。あの人やこの少女に頼りきっているわけにもいかない、ならば今は走るしかない。
「お前ごときが行ってどうする?」
突然、どこから聞こえたかわからない声がその空間に響いた。
「!!」
表情を一変させたインデックスが、横の少女に向かってほぼタックルを食らわせるような形で飛び込んでくる。
そして二人の少女がアスファルトに転げた瞬間、ドガァンッ!! という音を立ててさっきまで彼女達が居た場所の前方が爆発した。
「きゃあっ!」
致命傷は負わないまでも、その爆風でもつれ合ったまま少女二人がごろごろと転がる。固いアスファルトに引っかかれ、お互いに服と体に傷がついていく。
爆煙の向こうでは、似たような大きさの影が三人分ゆらゆらと揺れていた。そしてすぐに爆煙は強烈な風によって吹き飛ばされ、三つの影がその姿を現す。
それは、リアと同じ格好をした三人の男だった。
「サイモン様に言われなかったか? お前はもう用済みだ、これ以上深入りするなら容赦しない。」
その中心の貫禄のある男がリアの方を見ながら前へ出る。たしか、サイモンを除いた黒スーツ達の中でリーダー格の、クリントという男だ。
目は相手から背けずにリアはゆらゆらと立ち上がる。後ろではインデックスが同様に立ち上がる気配がした。
「ここまで来て……そう簡単に引き下がると思う?」
「ならば蹴散らすまでだ。そこの禁書目録もろともな」
その言葉にリアは思わず振り返った。そこには砕けたアスファルトの欠片を握った少女が、いつでも走れるような体勢をとりながら相手を見据えている。
「別働隊には上手く対処できたようだが、私はやつらとは違う。例えば――」
そう言ってクリントは地面を蹴り、こちらへと突進してくる。そのままリアの横を通り過ぎるとその後ろで驚いた顔をするシスターに向かって、ドッと鈍い音を立てて高価そうな靴のつま先を打ち込んだ。
幸い斜め後ろへ飛ぶように移動したシスターは直撃を免れたが、それでも予定した着地地点から大幅に後ろへ転がるように吹っ飛ばされる。
「お前が相手の魔術を利用したことは知っている。どうやら知識はあっても魔術を使うことはできないようだな。ならば肉弾戦のみで攻めれば所詮お前らは非力な女子供に過ぎん。」
貴様らに勝ち目はない、とその男は自分で吹っ飛ばしたシスターの方へと歩いていく。
だめだ、いくら魔術の専門家でも大の男に腕力でかかられてはあの小さな少女ではひとたまりもない。
反射的にリアはインデックスの方へ駆け出す。しかしそれは三歩ほどで後ろからの衝撃によって中断させられた。前転のように転がった後、振り返ると残る二人の男のうちの一人がこちらに上等な靴の底を見せている。
三対二。
それも屈強な男三人に対してこちらは非力な女が二人。
まずい、とリアは思う。
せめて逃げることができればいいが、それすらもこの状況では難しい。
そう考えている間も男達はインデックスとリアに近づいていく。
二人とも転がされてまだ立ち上がることすらできていない、このままでは一方的にやられるだけだ。
かといって策も思いつかない。
そして男達は二人の正面にまで近づいてくる。
思い切り踏みつけようとして上げられた足を見て、リアは思わず目をつぶった。
「ああ? ンだよ、仲間割れかァ?」
そこに突然別の声が割って入る。そして次の瞬間ドガァッ!! という物凄い音とともに辺りが砂塵で右も左もわからない状態になった。
「!?」
余りに突然の出来事にリアは呆気に取られていた。回りの気配も動く様子はなかったので、どうやら男達も同様らしい。
そしてリアはハッと気付いたように砂塵の中をインデックスの居た方向へ走り出す。そのまま手探りで倒れた少女の小さな手を掴んで必死に足を動かした。
何が起きたかはわからないが今のうちにここから離れるべきだ。上手くいけば逃げられるかもしれない。そう考えて少女はシスターの手を握ったまま駆け出した。多分この道はもと来た道になるが、それは仕方がない。
「!?」
余りに突然の出来事にリアは呆気に取られていた。回りの気配も動く様子はなかったので、どうやら男達も同様らしい。
そしてリアはハッと気付いたように砂塵の中をインデックスの居た方向へ走り出す。そのまま手探りで倒れた少女の小さな手を掴んで必死に足を動かした。
何が起きたかはわからないが今のうちにここから離れるべきだ。上手くいけば逃げられるかもしれない。そう考えて少女はシスターの手を握ったまま駆け出した。多分この道はもと来た道になるが、それは仕方がない。
「な、待て!」
インデックスの前に立っていたクリントは、突然のことに気をとられているうちに走り去った少女を捕まえようと手を伸ばした。しかし、それは横から物凄い勢いで飛んできた何かによって引っ込めさせられる。
「おいおい頼むぜ。こっちはオマエら探してそこら中杖つきながら歩き回ってンだ。やっと見つけたのに逃げようとしてんじゃねェって」
言葉の主を確認するため、クリントは腕に巻かれたリングに力を入れて突風を作り出す。それによって晴れた砂塵の向こう側には白い髪の少年が現れた。
首にチョーカーを巻いており、その手には機能性のよさそうな杖をついている。そしてなにより特徴的な赤い目がこちらをあざけるようにに見据えていた。
「……ふん、小賢しいことを。女を助けて善人きどりか?」
その言葉を聞いた瞬間、少年の口元が引き裂くような笑みを作る。
それは、向けられた相手に問答無用で背筋をゾクッとさせるような、そんな笑み。
思わず黒スーツ達は警戒しながら、リングを巻かれた手をいつでも振りかざせるように構えた。
「ンな訳ねーだろ?」
その少年、一方通行は嘲笑うその顔を崩さぬまま首もとのチョーカーに指で触れる。
「俺は悪党だ」
インデックスの前に立っていたクリントは、突然のことに気をとられているうちに走り去った少女を捕まえようと手を伸ばした。しかし、それは横から物凄い勢いで飛んできた何かによって引っ込めさせられる。
「おいおい頼むぜ。こっちはオマエら探してそこら中杖つきながら歩き回ってンだ。やっと見つけたのに逃げようとしてんじゃねェって」
言葉の主を確認するため、クリントは腕に巻かれたリングに力を入れて突風を作り出す。それによって晴れた砂塵の向こう側には白い髪の少年が現れた。
首にチョーカーを巻いており、その手には機能性のよさそうな杖をついている。そしてなにより特徴的な赤い目がこちらをあざけるようにに見据えていた。
「……ふん、小賢しいことを。女を助けて善人きどりか?」
その言葉を聞いた瞬間、少年の口元が引き裂くような笑みを作る。
それは、向けられた相手に問答無用で背筋をゾクッとさせるような、そんな笑み。
思わず黒スーツ達は警戒しながら、リングを巻かれた手をいつでも振りかざせるように構えた。
「ンな訳ねーだろ?」
その少年、一方通行は嘲笑うその顔を崩さぬまま首もとのチョーカーに指で触れる。
「俺は悪党だ」
何だあれは何だあれは何だあれは。
クリントは脇目も振らずに走り続けた。
自分は仲間内では篠原やサイモンを除くと間違いなく最強だ。条件さえそろえば仲間内で奇怪な喋り方ではあるが、驚異的な攻撃力を誇るあの三人組とさえ渡り合える自信がある。
だが、あの白い少年には一切の攻撃が通用しなかった。
クリントは脇目も振らずに走り続けた。
自分は仲間内では篠原やサイモンを除くと間違いなく最強だ。条件さえそろえば仲間内で奇怪な喋り方ではあるが、驚異的な攻撃力を誇るあの三人組とさえ渡り合える自信がある。
だが、あの白い少年には一切の攻撃が通用しなかった。
あの時、少年の姿を見失ったかと思えば一瞬で横に移動しており、そして同時に仲間の一人がはるか後方へと吹っ飛んでいた。
ドゴォッ! とビルの一部が崩れる音を聞きながら、残る二人の黒スーツは驚きながらもその音の原因である凶悪な白い塊に向かってリングを巻いた手をかざす。少年を挟むようにおかれた手からはそれぞれ白っぽい電撃と竜巻のような真空波が撃ち出された。
やったとクリントは思った。少年はすぐ動けるような体勢ではなかったし、逃げ道は自分の竜巻で塞いでおいた。反対からはもう一人が電撃を放っているし逃げ道などない。まず間違いなく仕留めたはずだ。
だが、その思考は全て完了する前に少年の方向からの自分の竜巻によって中断させられる。
(なっ……!?)
それはありえない現象だった。この力はサイモンによって与えられたこの霊装を使って、さらに自分が独学で編み出した力だ。似たようなものがあっても同じなどありえない。そしてその竜巻は直撃こそしなかったものの、それによる真空波が体中を無数の傷を与えていった。
そしてすぐにまたドガァッ! という音を聞こえてくる。跳ね返ってきた自分の攻撃がやむと、そこには少年が何事もなかったかのようにこちらを向いていた。
「あァ、何だこりゃ? 『反射』が上手く働かねェ、オマエ一体何者だ?」
その言葉にももはや反応できず、クリントは狂ったように前に出した腕から力を放出させた。
電撃、雹弾、爆発、竜巻。
爆発以外が全て放ったクリントの方へと跳ね返り、ただ傷だけを増やしていく。全ての攻撃は目の前に立つ白い少年に届かない。それを見て少年はその顔にあの口元を引き裂くような笑みを浮かべた。
「まァいい。ここでオマエが道路の汚ぇシミになることに変わりはねェんだからなァ!!」
コロサレル。
パニック状態になったクリントは狂ったように声を上げ、リングを巻いた腕を振り回しながら辺り構わず力を放出すた。それは本能的に跳ね返ってこなかった爆破の力に頼り、辺りは爆煙に包まれる。
不透明な視界で敵は見えなくなるがそれでも少年が倒れるイメージがわかない。
そして黒いスーツの男は少年の居た方の逆側へと駆け出した。
ドゴォッ! とビルの一部が崩れる音を聞きながら、残る二人の黒スーツは驚きながらもその音の原因である凶悪な白い塊に向かってリングを巻いた手をかざす。少年を挟むようにおかれた手からはそれぞれ白っぽい電撃と竜巻のような真空波が撃ち出された。
やったとクリントは思った。少年はすぐ動けるような体勢ではなかったし、逃げ道は自分の竜巻で塞いでおいた。反対からはもう一人が電撃を放っているし逃げ道などない。まず間違いなく仕留めたはずだ。
だが、その思考は全て完了する前に少年の方向からの自分の竜巻によって中断させられる。
(なっ……!?)
それはありえない現象だった。この力はサイモンによって与えられたこの霊装を使って、さらに自分が独学で編み出した力だ。似たようなものがあっても同じなどありえない。そしてその竜巻は直撃こそしなかったものの、それによる真空波が体中を無数の傷を与えていった。
そしてすぐにまたドガァッ! という音を聞こえてくる。跳ね返ってきた自分の攻撃がやむと、そこには少年が何事もなかったかのようにこちらを向いていた。
「あァ、何だこりゃ? 『反射』が上手く働かねェ、オマエ一体何者だ?」
その言葉にももはや反応できず、クリントは狂ったように前に出した腕から力を放出させた。
電撃、雹弾、爆発、竜巻。
爆発以外が全て放ったクリントの方へと跳ね返り、ただ傷だけを増やしていく。全ての攻撃は目の前に立つ白い少年に届かない。それを見て少年はその顔にあの口元を引き裂くような笑みを浮かべた。
「まァいい。ここでオマエが道路の汚ぇシミになることに変わりはねェんだからなァ!!」
コロサレル。
パニック状態になったクリントは狂ったように声を上げ、リングを巻いた腕を振り回しながら辺り構わず力を放出すた。それは本能的に跳ね返ってこなかった爆破の力に頼り、辺りは爆煙に包まれる。
不透明な視界で敵は見えなくなるがそれでも少年が倒れるイメージがわかない。
そして黒いスーツの男は少年の居た方の逆側へと駆け出した。
道路の角を五回ほど曲がると後ろについてくるものは誰もいなかった。そこでようやくクリントは立ち止まり、全力疾走とパニック状態で荒くなった息を整える。
どうやら撒けた様だ、爆煙が煙幕となったのがよかったのだろう。
しかしこれからどうするか、少し前から他の隊と連絡がつかないのは恐らく全滅したのであろう。まさか学園都市がこんな戦力を有しているとは思わなかった。
(一旦サイモン様の所へと指示を仰ぎに行くべきか。だがこのような無様をさらして敗走など……)
そんな風に幾分冷静になりながら考えるがそれは後ろからのドンッ! と何か重量のあるものが高いところから落ちたような音によって中断させられる。
嫌な予感がした。
「逃げンなっつっただろ、つうか逃げ切れると思ってんじゃねェぞ。ビルの屋上から見渡せばオマエがいくら無様に逃げ回ろうがこっちは一瞬で把握できるンだっての」
予想していたその声にクリントの全身に鳥肌が立つ。冷たい汗が一瞬で背中を濡らし、その顔からは血の気が引いた。
昔から何でも人並み以上にこなしてきたクリントには今内に渦巻くこの感情は未知のものだ。だが彼はそれを本能的に悟る。
これが絶望か。
上手く動かない体を無理やり動かし振り返ろうとするが、その動作の途中で黒いスーツの男の体は吹っ飛び、そして彼の意識は途絶えた。
「つってもどっかに隠れられると面倒だしなァ、もう逃がす気はねェがな」
どうやら撒けた様だ、爆煙が煙幕となったのがよかったのだろう。
しかしこれからどうするか、少し前から他の隊と連絡がつかないのは恐らく全滅したのであろう。まさか学園都市がこんな戦力を有しているとは思わなかった。
(一旦サイモン様の所へと指示を仰ぎに行くべきか。だがこのような無様をさらして敗走など……)
そんな風に幾分冷静になりながら考えるがそれは後ろからのドンッ! と何か重量のあるものが高いところから落ちたような音によって中断させられる。
嫌な予感がした。
「逃げンなっつっただろ、つうか逃げ切れると思ってんじゃねェぞ。ビルの屋上から見渡せばオマエがいくら無様に逃げ回ろうがこっちは一瞬で把握できるンだっての」
予想していたその声にクリントの全身に鳥肌が立つ。冷たい汗が一瞬で背中を濡らし、その顔からは血の気が引いた。
昔から何でも人並み以上にこなしてきたクリントには今内に渦巻くこの感情は未知のものだ。だが彼はそれを本能的に悟る。
これが絶望か。
上手く動かない体を無理やり動かし振り返ろうとするが、その動作の途中で黒いスーツの男の体は吹っ飛び、そして彼の意識は途絶えた。
「つってもどっかに隠れられると面倒だしなァ、もう逃がす気はねェがな」
「――これで全部かよ、くっだらねェ。俺は帰る、土御門には後はそっちで何とかしろって言っとけ」
そう言って白髪の少年は手元の携帯を電源から切った。
今、一方通行の目の前にはビルの瓦礫に埋まった黒いスーツの男がいる。さっきまで居た場所では似たようなのが二人転がっているはずだ。
つまんねェ仕事だなオイと一方通行は思う。ベクトル演算が上手くできなかった力については少し気にかかるが、それでもこの程度ならレベル4が二、三人もいれば対処できるだろう。
(この程度で学園都市を襲うなんざコイツら一体何考えてンだ? 大体目的が読めねェ。そこらじゅう爆発させてなんか意味でもあンのか?)
そう言って白髪の少年は手元の携帯を電源から切った。
今、一方通行の目の前にはビルの瓦礫に埋まった黒いスーツの男がいる。さっきまで居た場所では似たようなのが二人転がっているはずだ。
つまんねェ仕事だなオイと一方通行は思う。ベクトル演算が上手くできなかった力については少し気にかかるが、それでもこの程度ならレベル4が二、三人もいれば対処できるだろう。
(この程度で学園都市を襲うなんざコイツら一体何考えてンだ? 大体目的が読めねェ。そこらじゅう爆発させてなんか意味でもあンのか?)
「ああー! ってミサカはミサカは叫んでみたり」
そこに、さっきまでの空気とは場違いな能天気な声が響き渡る。
聞き覚えがありすぎるその声に一方通行はあからさまに嫌な顔をし、自分の体でさっき蹴散らした黒スーツが後ろに立っているであろう少女に見えないようにしながら振り返った。
「オマエッ、ンなとこで何やってやがンだ?」
そこには予想通りの小柄な少女が立っていた。見た感じ一〇歳ぐらいのこの少女、打ち止めはぴょこぴょことこちらに近づいてくる。
「ええと、最初はヨミカワについていってたんだけどたくさん人がいるところにミサカをおいてどこかに行っちゃったんで、退屈だったから少し遊びに出てきた、ってミサカはミサカは行動経緯を説明しつつあなたが後ろに隠した何かを見ようと首をあちこちに動かしてみたり」
「避難場所に誘導されてンだろうがッ! ったく、オマエちっとは落ち着いて生活できねェのかよ」
「ミサカはいつでも全力で生きてるだけなの、ってミサカはミサカは自己の行動理由を正当化してみたり。それよりあなたこそこんなところで何してるの? ってミサカはミサカは自分にされた質問を逆に返してみる」
「……何もしてねェよ。それより、オマエは避難場所に戻れ。連れてってやっから」
オラ来いっと引っ張る一方通行とええーまだ遊ぶーと引っ張られる打ち止め。
二つの影は学園都市の片隅に消えていった。
聞き覚えがありすぎるその声に一方通行はあからさまに嫌な顔をし、自分の体でさっき蹴散らした黒スーツが後ろに立っているであろう少女に見えないようにしながら振り返った。
「オマエッ、ンなとこで何やってやがンだ?」
そこには予想通りの小柄な少女が立っていた。見た感じ一〇歳ぐらいのこの少女、打ち止めはぴょこぴょことこちらに近づいてくる。
「ええと、最初はヨミカワについていってたんだけどたくさん人がいるところにミサカをおいてどこかに行っちゃったんで、退屈だったから少し遊びに出てきた、ってミサカはミサカは行動経緯を説明しつつあなたが後ろに隠した何かを見ようと首をあちこちに動かしてみたり」
「避難場所に誘導されてンだろうがッ! ったく、オマエちっとは落ち着いて生活できねェのかよ」
「ミサカはいつでも全力で生きてるだけなの、ってミサカはミサカは自己の行動理由を正当化してみたり。それよりあなたこそこんなところで何してるの? ってミサカはミサカは自分にされた質問を逆に返してみる」
「……何もしてねェよ。それより、オマエは避難場所に戻れ。連れてってやっから」
オラ来いっと引っ張る一方通行とええーまだ遊ぶーと引っ張られる打ち止め。
二つの影は学園都市の片隅に消えていった。
屋上に走った強烈な衝撃に沿って二人の魔術師が距離をとる。そして互いに手の中にあったものを散りばめた。
一方はルーンの刻まれたカードを、それらは屋上のいたるところに一斉に張り付く。
一方は球状の物体を、それらは投げた本人を囲むように均一に展開する。
そこまでの動きはほぼ同時だが、そこから先に動き出したのはステイルだ。その手に瞬時に炎の剣を作り出し投げつける。
その剣の先にいるサイモンは微動だにしない。そして炎剣による爆発に包まれる。
「……この程度の力で私に勝てるつもりでいるのか?」
しかしその中から聞こえてきた声は怒号でも悲鳴でもない、淡々とした涼しげな声だ。
そして晴れた爆煙の中からはすす一つついていないサイモンが現れる。その頭上の周囲には球体が円状に展開しながら浮いていた。
「『光の境界』という。この霊装の結界は外力との『境界』を作り出す、生半可な攻撃が通るとは思わないことだ」
そう言ったサイモンの周囲に、その力を誇示するかのように霊装からカーテンのような光が数回瞬いた。
だがサイモンは違和感に気付く。
(……幻想殺しはどこだっ!?)
そう、サイモン自身にも目くらましとなった爆煙が晴れたときには既にその視界には姿がなかった。それに気付くと同時、横から勢いよく近づいてくる人影に思わず大きく距離をとる。
ブウンッと何かを振り回す音の主を確認すると、案の定そこには右手を空ぶった上条がいた。
だが追撃はそれで終わらない。
「灰は灰に―――
(AshToAsh)
―――塵は塵に―――
(DustToDust)
―――吸血殺しの紅十字!!」
(SqueamishBloody Rood)
詠唱を唱え終えた赤い髪の神父からは先ほどの炎剣に青白い炎剣が追加された二本を飛ばされ、サイモンにもろに直撃した。それでもダメージは期待できないものの、凄まじい音と共にさっきよりも一層大きな爆煙に包まれる。
上条は占めたと思った。
たとえサイモンを倒せなくても、まずは篠原を見るのが先決だと判断したからである。そのために、サイモンを潜り抜ける必要があったのだ。
殴りかかったその勢いのまま上条は倒れている篠原に向かって走る。
だが、
「そう簡単に行かせると思うか?」
という声と共に白い色の雷撃が飛んできた。それは上条自身ではなくその進路に着地し、やはりその行動を阻む。
どうやら雷撃は一部とはいえその威力のみで爆煙を吹き飛ばしたらしい、中から再びサイモンが姿を現す。
「圭様はこの儀式における要である故、やすやすと貴様に触らせるようなことはしない。それに、貴様にとってもそれは望む結果ではないかもしれんぞ、幻想殺し?」
「? どういうことだっ!」
「率直に言おう。圭様は死なれたわけではない、言うなれば仮死状態だ」
「!!」
「ただ、貴様がその『幻想殺し』を使うならば儀式のバランスが崩れ、それにより恐らく圭様は即死する」
もはや上条は唖然とするしかなかった。篠原が死んではいないのは良かったが、結局こちらにできることは何もないと言う事なのだから。
「おかしいな」
そこにステイルの言葉が割って入る。
「『即死する』だと? 彼は聖人なんだろう、それが即死するなんていくら弱点である刺突でもありえないな。下手をすれば助かる可能性もある、いやその方が高い」
そうなのか、と上条は思う。だがもしそれが本当なら希望が持てる。
「……あいつが聖人だってこと、気付いてたんだな」
「あれだけの動きで気付かない方がおかしいと思うが。もっとも、こんなところに聖人がいることは少々信じ難いけどね」
「たしかに――」
そのとき、唐突にサイモンが喋り始めた。その表情は矛盾を指摘された割には余裕のあるものだ。
「単なる剣の刺突程度ならそうはならないだろう。だがしかし、あの剣は特殊な霊装なのでな。『刺突杭剣(スタブソード)』、といえばわかるか?」
一方はルーンの刻まれたカードを、それらは屋上のいたるところに一斉に張り付く。
一方は球状の物体を、それらは投げた本人を囲むように均一に展開する。
そこまでの動きはほぼ同時だが、そこから先に動き出したのはステイルだ。その手に瞬時に炎の剣を作り出し投げつける。
その剣の先にいるサイモンは微動だにしない。そして炎剣による爆発に包まれる。
「……この程度の力で私に勝てるつもりでいるのか?」
しかしその中から聞こえてきた声は怒号でも悲鳴でもない、淡々とした涼しげな声だ。
そして晴れた爆煙の中からはすす一つついていないサイモンが現れる。その頭上の周囲には球体が円状に展開しながら浮いていた。
「『光の境界』という。この霊装の結界は外力との『境界』を作り出す、生半可な攻撃が通るとは思わないことだ」
そう言ったサイモンの周囲に、その力を誇示するかのように霊装からカーテンのような光が数回瞬いた。
だがサイモンは違和感に気付く。
(……幻想殺しはどこだっ!?)
そう、サイモン自身にも目くらましとなった爆煙が晴れたときには既にその視界には姿がなかった。それに気付くと同時、横から勢いよく近づいてくる人影に思わず大きく距離をとる。
ブウンッと何かを振り回す音の主を確認すると、案の定そこには右手を空ぶった上条がいた。
だが追撃はそれで終わらない。
「灰は灰に―――
(AshToAsh)
―――塵は塵に―――
(DustToDust)
―――吸血殺しの紅十字!!」
(SqueamishBloody Rood)
詠唱を唱え終えた赤い髪の神父からは先ほどの炎剣に青白い炎剣が追加された二本を飛ばされ、サイモンにもろに直撃した。それでもダメージは期待できないものの、凄まじい音と共にさっきよりも一層大きな爆煙に包まれる。
上条は占めたと思った。
たとえサイモンを倒せなくても、まずは篠原を見るのが先決だと判断したからである。そのために、サイモンを潜り抜ける必要があったのだ。
殴りかかったその勢いのまま上条は倒れている篠原に向かって走る。
だが、
「そう簡単に行かせると思うか?」
という声と共に白い色の雷撃が飛んできた。それは上条自身ではなくその進路に着地し、やはりその行動を阻む。
どうやら雷撃は一部とはいえその威力のみで爆煙を吹き飛ばしたらしい、中から再びサイモンが姿を現す。
「圭様はこの儀式における要である故、やすやすと貴様に触らせるようなことはしない。それに、貴様にとってもそれは望む結果ではないかもしれんぞ、幻想殺し?」
「? どういうことだっ!」
「率直に言おう。圭様は死なれたわけではない、言うなれば仮死状態だ」
「!!」
「ただ、貴様がその『幻想殺し』を使うならば儀式のバランスが崩れ、それにより恐らく圭様は即死する」
もはや上条は唖然とするしかなかった。篠原が死んではいないのは良かったが、結局こちらにできることは何もないと言う事なのだから。
「おかしいな」
そこにステイルの言葉が割って入る。
「『即死する』だと? 彼は聖人なんだろう、それが即死するなんていくら弱点である刺突でもありえないな。下手をすれば助かる可能性もある、いやその方が高い」
そうなのか、と上条は思う。だがもしそれが本当なら希望が持てる。
「……あいつが聖人だってこと、気付いてたんだな」
「あれだけの動きで気付かない方がおかしいと思うが。もっとも、こんなところに聖人がいることは少々信じ難いけどね」
「たしかに――」
そのとき、唐突にサイモンが喋り始めた。その表情は矛盾を指摘された割には余裕のあるものだ。
「単なる剣の刺突程度ならそうはならないだろう。だがしかし、あの剣は特殊な霊装なのでな。『刺突杭剣(スタブソード)』、といえばわかるか?」
それには聞き覚えがあった。
かつて、学園都市にオリアナという魔術師が攻めてきたときに所持していた霊装だ。ただし、それは結局『使徒十字』という霊装の偽装として出てきた名前であり、実在しないと言っていたはずだ。
その矛盾点を隣のステイルが髪を書き上げて失笑しながらつく。
「悪いな、その霊装が実在しないことを僕達は知っている。つくならもう少しマシな嘘をつくんだったな」
「ほう、それを知っていたか。だがあれは私が独自に創ったもの故、効果は本物だ」
その言葉に、ステイルは顔に浮かべた失笑をピタッと止める。
「もっとも、完全に同じ効果には出来なかったがな。せいぜい二、三〇〇メートル以内の聖人の動きを制限するぐらいにしかならなかった。まあ、それはともかく――」
そう言いながらサイモンは上条の方に向き直る。
「直接聖人が攻撃を受けたのならばひとたまりもない。ようは貴様が手を出せば圭様は助からないということだ。それでも貴様に儀式の邪魔ができるか、幻想殺し?」
かつて、学園都市にオリアナという魔術師が攻めてきたときに所持していた霊装だ。ただし、それは結局『使徒十字』という霊装の偽装として出てきた名前であり、実在しないと言っていたはずだ。
その矛盾点を隣のステイルが髪を書き上げて失笑しながらつく。
「悪いな、その霊装が実在しないことを僕達は知っている。つくならもう少しマシな嘘をつくんだったな」
「ほう、それを知っていたか。だがあれは私が独自に創ったもの故、効果は本物だ」
その言葉に、ステイルは顔に浮かべた失笑をピタッと止める。
「もっとも、完全に同じ効果には出来なかったがな。せいぜい二、三〇〇メートル以内の聖人の動きを制限するぐらいにしかならなかった。まあ、それはともかく――」
そう言いながらサイモンは上条の方に向き直る。
「直接聖人が攻撃を受けたのならばひとたまりもない。ようは貴様が手を出せば圭様は助からないということだ。それでも貴様に儀式の邪魔ができるか、幻想殺し?」
「そもそも、その儀式自体が失敗しているっていうことは考えないのか?」
だが上条を嘲るような問いかけに返したその声は、上条でもステイルでももちろんサイモンのものでもなかった。
声の主は屋上の出入り口から現れる。その金髪にサングラスのその男を、上条はよく知っていた。
「土御門っ!?」
「おーうカミやん、なにそんなとこでボロボロになってんだにゃー」
その多重スパイはさっきとは別の普段の軽い調子で、ただしその顔はサイモンに向けたままで上条に話しかける。当のサイモンはその新たな侵入者をじっと見ていた。
「儀式が失敗している、だと……?」
「ああ、まずお前の仲間は俺達が全員片付けた。ようするにお前たちが刻もうとしていた魔法陣は失敗に終わったってワケだ。次に――」
そう言いながら土御門は上条の方に体を軽く向けなおす。
「万が一魔法陣が完成していたとしてもこの規模だからな、その中心にイレギュラーが入り込めばそれだけで魔法陣は崩壊する。そのイレギュラーが『幻想殺し』なんていう規格外のものならなおさらな。つまり、だ、お前が何を企んでいたのかはしらないが、『儀式』なんてものは既にぶっ壊れちまってるって訳だ。未だ発動されていない魔法陣がその証拠だ!」
再び土御門はサイモンの方へと顔を向けた。儀式を画策した当の本人はと言うと、顔を伏せてその表情が読み取れない。
言われてみれば、たしかに土御門の言うとおりだ。篠原が刺されてからかなり経つにもかかわらず、サイモンの言う『儀式』が発動する気配が一向にない。
だが、そうなると篠原は一体どうなるのか。
(まさか、既に死……!?)
最悪の場合を考えた上条の背筋にゾクッと悪寒が走った。
それを確かめるべく篠原の方へ一歩踏み出した上条を止めたのは、黒スーツから聞こえてくるかすれたような声だった。
「……馬鹿が」
「何だと?」
それに反応したのは土御門だ。
そしてもう一度声を返す代わりにいくつもの雷撃が上条達に襲い掛かる。
バヂバチバチィィィッと寒気のするような音がかろうじて三人を逸れて後方へ走っていった。
「儀式が失敗だと? 知った風な口を聞く前に魔法陣のほかの可能性についてよく考えることだな、若造が!! そもそも、この儀式は三日後に初めて発動するものだ!」
喋りながらもサイモンはその攻撃の手を緩めない。屋上に何本もの白い線が走っては消えていく。
「貴様らが始末した他の者達の爆破など所詮ただの陽動、目くらましに過ぎん。本当の魔法陣は圭様の体に無数に刻んであるのだからな!」
そして雷撃がやむ。
気付けば上条たち三人は攻撃を避けながら、いつのまにかサイモンと篠原から離された状態になっていることに気付いた。
「何をしようとしているかと言っていたな、教えてやろう」
さっきまでの攻撃が嘘のように淡々とした様子でサイモンが呟くように言う。
声の主は屋上の出入り口から現れる。その金髪にサングラスのその男を、上条はよく知っていた。
「土御門っ!?」
「おーうカミやん、なにそんなとこでボロボロになってんだにゃー」
その多重スパイはさっきとは別の普段の軽い調子で、ただしその顔はサイモンに向けたままで上条に話しかける。当のサイモンはその新たな侵入者をじっと見ていた。
「儀式が失敗している、だと……?」
「ああ、まずお前の仲間は俺達が全員片付けた。ようするにお前たちが刻もうとしていた魔法陣は失敗に終わったってワケだ。次に――」
そう言いながら土御門は上条の方に体を軽く向けなおす。
「万が一魔法陣が完成していたとしてもこの規模だからな、その中心にイレギュラーが入り込めばそれだけで魔法陣は崩壊する。そのイレギュラーが『幻想殺し』なんていう規格外のものならなおさらな。つまり、だ、お前が何を企んでいたのかはしらないが、『儀式』なんてものは既にぶっ壊れちまってるって訳だ。未だ発動されていない魔法陣がその証拠だ!」
再び土御門はサイモンの方へと顔を向けた。儀式を画策した当の本人はと言うと、顔を伏せてその表情が読み取れない。
言われてみれば、たしかに土御門の言うとおりだ。篠原が刺されてからかなり経つにもかかわらず、サイモンの言う『儀式』が発動する気配が一向にない。
だが、そうなると篠原は一体どうなるのか。
(まさか、既に死……!?)
最悪の場合を考えた上条の背筋にゾクッと悪寒が走った。
それを確かめるべく篠原の方へ一歩踏み出した上条を止めたのは、黒スーツから聞こえてくるかすれたような声だった。
「……馬鹿が」
「何だと?」
それに反応したのは土御門だ。
そしてもう一度声を返す代わりにいくつもの雷撃が上条達に襲い掛かる。
バヂバチバチィィィッと寒気のするような音がかろうじて三人を逸れて後方へ走っていった。
「儀式が失敗だと? 知った風な口を聞く前に魔法陣のほかの可能性についてよく考えることだな、若造が!! そもそも、この儀式は三日後に初めて発動するものだ!」
喋りながらもサイモンはその攻撃の手を緩めない。屋上に何本もの白い線が走っては消えていく。
「貴様らが始末した他の者達の爆破など所詮ただの陽動、目くらましに過ぎん。本当の魔法陣は圭様の体に無数に刻んであるのだからな!」
そして雷撃がやむ。
気付けば上条たち三人は攻撃を避けながら、いつのまにかサイモンと篠原から離された状態になっていることに気付いた。
「何をしようとしているかと言っていたな、教えてやろう」
さっきまでの攻撃が嘘のように淡々とした様子でサイモンが呟くように言う。
「『神の子』の復活だ」