<12:50 PM>
上条当麻は第一〇学区にあるとある廃屋に足を踏み入れた。
そこは、小さな塾の跡地のような場所で、折れた机や椅子が乱立しており、とても人が生活するようなところではない。
そんな場所が今まで撤去されなかった理由は、ひとえにここが『ストレンジ』という一種の無法地帯だからだろう。
警備員(アンチスキル)や風紀委員(ジャッジメント)の管理から外れたこの地域は、長い間いくつもの整理を行っていない。
そのため、壁にヒビ入り、床が割れる建物でもそのままの状態で残っているのだ。
そんな、無法地帯の廃屋の一室に、二人の少女が居た。一人の少女は友達を助けるために覚悟を決め、一人の少女はその覚悟を嘲笑うように無情な一撃を放つ。
その二人の間に、上条は割って入った。
後ろに倒れる少女と、前に立つ少女。その中で後者だけが上条の知り合いだった。そして、その知り合いは上条にとって護るべきもののはずだった。
護りたいと思えるはずだった。
上条はそんな少女―――御坂美琴を見据え音もなく目を細める。
「く、くははは…」
と、そんな上条の心情を知ってか、美琴は嘲るような笑い声を上げた。
「アッハハハハハ!! ナイス! ナイスタイミングよ、アンタ!! 非力な無能力者(レベル0)のピンチにヒーローのように駆けつける!! ホント……カッコいいじゃない!?」
パチパチパチ、と手を叩きながら、
「こりゃ表彰なみの働きじゃないの? 警備員(アンチスキル)らへんにでも説明すれば、特別単位か何かもらえるかもしれないわよ。アンタいつもいつも単位が足りない単位が足りないって言ってたからかなり助かるんじゃないの?」
「………、」
「ふぅん。それでここには何しに来たの? そこのゴミでも助けに来た? それとも、私を殴りにでも来たのかしら。それともその両方? あらあら、わからないわね。皆目見当もつかないわ。アンタみたいなやつがここで何をしようとしているのかが、まぁったくわかんない」
完全に人を見下した態度。己の力に酔うようなそんな表情。愉悦に浸るその顔は、まるでどこかのジャンキーを彷彿とさせるものがあった。
「一週間、」
「………はぁ?」
「一週間、お前は何をやってたんだよ」
「………、」
「行方不明にまでなって。俺との遊ぶ約束を破ってまで、お前は何をやってたんだよ」
「アンタには関係ないでしょ? それとも何、アンタは私を好きだからすべての行動を知っておかないと気が済まないのかしら。怖いわね、これじゃまるでストーカーよ」
あー怖い怖い、とせせら笑う美琴。
しかし、その表情がピクリと止まった。
「……違います」
モゾリ、と。
上条の後ろで這いつくばっていた一人の少女が小さく動いたからだ。
「アナタは御坂さんじゃありませんよ。その人が言う『約束』が本当なら御坂さんは人とのそれを破って、開き直るようなことは絶対にしないんですから」
「まだ言うの? アンタが何を言おうと、どう思おうとも私が『御坂美琴』。その事実は変わりはしないわ」
「………、」
佐天涙子は唇を噛む。対抗する言葉が見つからない。
確かに、さっき見た能力は学園都市第三位のものだった。何度も見てきたから分かる。あれはそこらの能力者で実現できるレベルのものじゃない。
それを、確かに目の前の少女は実行したのだ。御坂美琴にしかできないようなことを目の前の少女は実行してしまった。
それはすでに、目の前の少女が御坂美琴ということを証明するには充分だった。
「嘘だな」
しかし、上条はそれを踏まえてもなおこう言った。
「お前が御坂なはずがねえんだよ。もし、お前が御坂だって言うなら一つ、おかしいんだから」
そう言って、上条は自分のポケットの中から何かを取りだした。折りたたまずに開いている携帯。それは、上条が土御門にステイルたちとの連絡手段としてもらった携帯電話だった。
カエルの形を模して作った子供っぽいそれに佐天は見覚えがある。
「それは…」
似たようなカエルのストラップのついたその携帯は間違いなく御坂美琴のものだ。
でも、と佐天は首を横に振った。
さっきも目の前の少女には携帯を見せてもらったのだ。その携帯と同じものを持っているからと言って、どちらが本物なんてことはわからない。
上条は、佐天のほうに目線だけを向ける。
「アンタが佐天さんで、いいんだよな」
「………どうして私の名前を」
「いやさ、この携帯に電話……掛けただろ?」
そう言って上条は開いたままの携帯電話の液晶画面を佐天の方へと見せた。
そこに表示されていたのは、一つの証。
『佐天涙子 通話時間 18分23秒』という、その携帯こそが御坂美琴のものだということを証明した一つの証だった。
佐天は自分の携帯を見る。そこにはやはり、通話中の御坂美琴の名が表示されていた。
「電話の通話を切るのを忘れてたみたいだぞ。おかげで、俺はそっちの会話も全部何もかも聞かせてもらったし、場所もわかったんだけどな」
ニッ、と笑ってから上条は目線を佐天から美琴へと映し、携帯を再びポケットにしまった。
見据えた美琴の顔は、意外と冷静な表情のままだった。
「さて、どうする御坂もどき。もうお前は御坂じゃないってわかっちまったけど、それでもまだとぼける気か」
「ハハッ。面白いこと言うわね。アンタが私の携帯を持っていたからって私が御坂美琴じゃないってことにはならないじゃない」
「なるさ」
即答に、即答で返し、上条は不敵に笑う。
「俺の知ってる御坂はなんの理由もなく友達に嘘はつかねえよ」
一瞬の迷いもなく、そう言った。まるで、自分が知る美琴以外を認めないとでも言わんばかりの言い草。それを自覚してなお、少年は断言する。
「お前は、御坂じゃない」
「………、」
直後、美琴の顔から感情が消えた。愉悦も嘲笑も、余裕も怒りも全てを消し、底冷えするような視線で上条を射抜いて、彼女はポケットから携帯を取り出した。
上条の持つものと同じ、カエルの姿を模した携帯電話。
おそらくカモフラージュのために持ったのであろうそれを上条の視線の高さまで上げて。
ボン!! と。
己の能力で携帯をショートさせ小さな爆発を巻き起こした。細かく小さな部品が辺りに散る。
「あークソ。なんなんだよアンタ、うっざいなぁ。何がヒーローだ笑わせるな。ただの偽善者が何を偉そうに言ってんだよ」
手から落ちた携帯をグシャリと踏みつぶす。身体からバチバチと電流を垂れ流し、美琴は目を細めた。
「はいはいそうだよ、正解でーす。”僕”は確かに御坂美琴じゃない」
けどね、と美琴は続けた。
己の左手を地面と並行に伸ばし、何かを掴むように手を開く。ジジジ、と磁力が作用していく音が雨と重なり不協和音を奏で、ミシミシと何かが軋む音が少しずつ大きくなっていく。
そして、
そこは、小さな塾の跡地のような場所で、折れた机や椅子が乱立しており、とても人が生活するようなところではない。
そんな場所が今まで撤去されなかった理由は、ひとえにここが『ストレンジ』という一種の無法地帯だからだろう。
警備員(アンチスキル)や風紀委員(ジャッジメント)の管理から外れたこの地域は、長い間いくつもの整理を行っていない。
そのため、壁にヒビ入り、床が割れる建物でもそのままの状態で残っているのだ。
そんな、無法地帯の廃屋の一室に、二人の少女が居た。一人の少女は友達を助けるために覚悟を決め、一人の少女はその覚悟を嘲笑うように無情な一撃を放つ。
その二人の間に、上条は割って入った。
後ろに倒れる少女と、前に立つ少女。その中で後者だけが上条の知り合いだった。そして、その知り合いは上条にとって護るべきもののはずだった。
護りたいと思えるはずだった。
上条はそんな少女―――御坂美琴を見据え音もなく目を細める。
「く、くははは…」
と、そんな上条の心情を知ってか、美琴は嘲るような笑い声を上げた。
「アッハハハハハ!! ナイス! ナイスタイミングよ、アンタ!! 非力な無能力者(レベル0)のピンチにヒーローのように駆けつける!! ホント……カッコいいじゃない!?」
パチパチパチ、と手を叩きながら、
「こりゃ表彰なみの働きじゃないの? 警備員(アンチスキル)らへんにでも説明すれば、特別単位か何かもらえるかもしれないわよ。アンタいつもいつも単位が足りない単位が足りないって言ってたからかなり助かるんじゃないの?」
「………、」
「ふぅん。それでここには何しに来たの? そこのゴミでも助けに来た? それとも、私を殴りにでも来たのかしら。それともその両方? あらあら、わからないわね。皆目見当もつかないわ。アンタみたいなやつがここで何をしようとしているのかが、まぁったくわかんない」
完全に人を見下した態度。己の力に酔うようなそんな表情。愉悦に浸るその顔は、まるでどこかのジャンキーを彷彿とさせるものがあった。
「一週間、」
「………はぁ?」
「一週間、お前は何をやってたんだよ」
「………、」
「行方不明にまでなって。俺との遊ぶ約束を破ってまで、お前は何をやってたんだよ」
「アンタには関係ないでしょ? それとも何、アンタは私を好きだからすべての行動を知っておかないと気が済まないのかしら。怖いわね、これじゃまるでストーカーよ」
あー怖い怖い、とせせら笑う美琴。
しかし、その表情がピクリと止まった。
「……違います」
モゾリ、と。
上条の後ろで這いつくばっていた一人の少女が小さく動いたからだ。
「アナタは御坂さんじゃありませんよ。その人が言う『約束』が本当なら御坂さんは人とのそれを破って、開き直るようなことは絶対にしないんですから」
「まだ言うの? アンタが何を言おうと、どう思おうとも私が『御坂美琴』。その事実は変わりはしないわ」
「………、」
佐天涙子は唇を噛む。対抗する言葉が見つからない。
確かに、さっき見た能力は学園都市第三位のものだった。何度も見てきたから分かる。あれはそこらの能力者で実現できるレベルのものじゃない。
それを、確かに目の前の少女は実行したのだ。御坂美琴にしかできないようなことを目の前の少女は実行してしまった。
それはすでに、目の前の少女が御坂美琴ということを証明するには充分だった。
「嘘だな」
しかし、上条はそれを踏まえてもなおこう言った。
「お前が御坂なはずがねえんだよ。もし、お前が御坂だって言うなら一つ、おかしいんだから」
そう言って、上条は自分のポケットの中から何かを取りだした。折りたたまずに開いている携帯。それは、上条が土御門にステイルたちとの連絡手段としてもらった携帯電話だった。
カエルの形を模して作った子供っぽいそれに佐天は見覚えがある。
「それは…」
似たようなカエルのストラップのついたその携帯は間違いなく御坂美琴のものだ。
でも、と佐天は首を横に振った。
さっきも目の前の少女には携帯を見せてもらったのだ。その携帯と同じものを持っているからと言って、どちらが本物なんてことはわからない。
上条は、佐天のほうに目線だけを向ける。
「アンタが佐天さんで、いいんだよな」
「………どうして私の名前を」
「いやさ、この携帯に電話……掛けただろ?」
そう言って上条は開いたままの携帯電話の液晶画面を佐天の方へと見せた。
そこに表示されていたのは、一つの証。
『佐天涙子 通話時間 18分23秒』という、その携帯こそが御坂美琴のものだということを証明した一つの証だった。
佐天は自分の携帯を見る。そこにはやはり、通話中の御坂美琴の名が表示されていた。
「電話の通話を切るのを忘れてたみたいだぞ。おかげで、俺はそっちの会話も全部何もかも聞かせてもらったし、場所もわかったんだけどな」
ニッ、と笑ってから上条は目線を佐天から美琴へと映し、携帯を再びポケットにしまった。
見据えた美琴の顔は、意外と冷静な表情のままだった。
「さて、どうする御坂もどき。もうお前は御坂じゃないってわかっちまったけど、それでもまだとぼける気か」
「ハハッ。面白いこと言うわね。アンタが私の携帯を持っていたからって私が御坂美琴じゃないってことにはならないじゃない」
「なるさ」
即答に、即答で返し、上条は不敵に笑う。
「俺の知ってる御坂はなんの理由もなく友達に嘘はつかねえよ」
一瞬の迷いもなく、そう言った。まるで、自分が知る美琴以外を認めないとでも言わんばかりの言い草。それを自覚してなお、少年は断言する。
「お前は、御坂じゃない」
「………、」
直後、美琴の顔から感情が消えた。愉悦も嘲笑も、余裕も怒りも全てを消し、底冷えするような視線で上条を射抜いて、彼女はポケットから携帯を取り出した。
上条の持つものと同じ、カエルの姿を模した携帯電話。
おそらくカモフラージュのために持ったのであろうそれを上条の視線の高さまで上げて。
ボン!! と。
己の能力で携帯をショートさせ小さな爆発を巻き起こした。細かく小さな部品が辺りに散る。
「あークソ。なんなんだよアンタ、うっざいなぁ。何がヒーローだ笑わせるな。ただの偽善者が何を偉そうに言ってんだよ」
手から落ちた携帯をグシャリと踏みつぶす。身体からバチバチと電流を垂れ流し、美琴は目を細めた。
「はいはいそうだよ、正解でーす。”僕”は確かに御坂美琴じゃない」
けどね、と美琴は続けた。
己の左手を地面と並行に伸ばし、何かを掴むように手を開く。ジジジ、と磁力が作用していく音が雨と重なり不協和音を奏で、ミシミシと何かが軋む音が少しずつ大きくなっていく。
そして、
「この”身体”は正真正銘、御坂美琴さ!!」
バッガァァァァン!! という音と共に赤黒い鉄筋コンクリートが細かい粉塵をまき散らしながら飛び出した。
磁力によって引きつけた鉄筋コンクリートの力に壁が耐えられず、崩壊したのだ。
回転しながら、美琴へと向かっていくそれは伸ばした左手に当たるか当たらないかの瀬戸際のところで動きを止め、不自然にその場で静止・浮遊する。
上条はその光景を目にして、後ろを見ずに佐天涙子へと話しかけた。
「佐天さん。アンタはここから逃げてくれ」
「ッ!? けどっ!!」
「ただ逃げろって言ってんじゃねえ。アンタには頼みたいことがあるんだ」
美琴を助けるために力を貸して欲しい、と上条は言った。
「頼みたい、こと?」
「風紀委員(ジャッジメント)の白井ってやつに御坂がここに居ることを知らせて欲しいんだ」
白井黒子。常盤台中学の一年生で、御坂美琴の後輩である風紀委員(ジャッジメント)の一員。
その空間移動(テレポート)を使うツインテール少女のことを佐天はよく知っていた。
「あいつ、たぶんめちゃくちゃ心配してるだろうからさ。すぐに飛んできてくれるだろ」
恐らく、今の状態で携帯は使えないだろう。身体から電流を流す美琴のせいで、少なからず電波に影響が出ているはずだ。
だから、伝えるためにはここを離れなければならない。
「頼まれて、くれるか?」
「………、」
言われる前に佐天は立ちあがっていた。机に激突された部分が痛むが気にするほどのものじゃない。
やるべきことを見つけたから。『親友』助けたい、と思うだけで何も出来なかったけれど。今までのように、やることがわからずに立ち止まる必要はない。
まだこんなに力が残っていたのかとビックリするくらいだった。身体の四肢に力を入れ、少女は瞳に決意の光を宿す。
「任せてください」
けど、と佐天は言葉を区切り、
「御坂さんのこと、頼みましたよ」
できることなら、自分がやりたい。そんな思いを押し殺し少女は身も知らずの少年へと自分の願いを託した。
そして、少年はその悲痛な思いに短く、簡潔な一言で返す。
「任せろ」
それ以上の言葉はいらない。そう言わんばかりに一言で返したのだった。
磁力によって引きつけた鉄筋コンクリートの力に壁が耐えられず、崩壊したのだ。
回転しながら、美琴へと向かっていくそれは伸ばした左手に当たるか当たらないかの瀬戸際のところで動きを止め、不自然にその場で静止・浮遊する。
上条はその光景を目にして、後ろを見ずに佐天涙子へと話しかけた。
「佐天さん。アンタはここから逃げてくれ」
「ッ!? けどっ!!」
「ただ逃げろって言ってんじゃねえ。アンタには頼みたいことがあるんだ」
美琴を助けるために力を貸して欲しい、と上条は言った。
「頼みたい、こと?」
「風紀委員(ジャッジメント)の白井ってやつに御坂がここに居ることを知らせて欲しいんだ」
白井黒子。常盤台中学の一年生で、御坂美琴の後輩である風紀委員(ジャッジメント)の一員。
その空間移動(テレポート)を使うツインテール少女のことを佐天はよく知っていた。
「あいつ、たぶんめちゃくちゃ心配してるだろうからさ。すぐに飛んできてくれるだろ」
恐らく、今の状態で携帯は使えないだろう。身体から電流を流す美琴のせいで、少なからず電波に影響が出ているはずだ。
だから、伝えるためにはここを離れなければならない。
「頼まれて、くれるか?」
「………、」
言われる前に佐天は立ちあがっていた。机に激突された部分が痛むが気にするほどのものじゃない。
やるべきことを見つけたから。『親友』助けたい、と思うだけで何も出来なかったけれど。今までのように、やることがわからずに立ち止まる必要はない。
まだこんなに力が残っていたのかとビックリするくらいだった。身体の四肢に力を入れ、少女は瞳に決意の光を宿す。
「任せてください」
けど、と佐天は言葉を区切り、
「御坂さんのこと、頼みましたよ」
できることなら、自分がやりたい。そんな思いを押し殺し少女は身も知らずの少年へと自分の願いを託した。
そして、少年はその悲痛な思いに短く、簡潔な一言で返す。
「任せろ」
それ以上の言葉はいらない。そう言わんばかりに一言で返したのだった。
<12:57 PM>
カンコンコンカン、と佐天涙子が階段を下りていく音を聞きながら、上条当麻は眉をひそめた。
「随分と、簡単に逃がしてくれるんだな。学園都市を潰す計画を立てるお前ら〔パンドラ〕の情報が、風紀委員(ジャッジメント)に漏れるかもしれないってのに」
「クスクス。別にいいさ、そんなこと。風紀委員(ジャッジメント)なんてこの超能力者(レベル5)の力があれば、簡単に一層できる」
バァ、と両手を広げ、御坂美琴は壊れたおもちゃの王様のように、鉄筋コンクリートや大破する机や椅子の前に立つ。
自身の能力でそれらを浮かべ、少女は凶悪な笑みを広げていく。
「超能力者(レベル5)。たった一人で軍隊と渡り合えるほどの圧倒的な力を持つ学園都市の頂点。そして、その七人の内の第三位、超電磁砲(レールガン)の異名を持つ常盤台中学の御坂美琴。そんな力の前に抵抗出来る者が、風紀委員(ジャッジメント)のような腑抜けた組織の中に居るはずがないだろう?」
「…………、」
「しかも、もう計画は起動までに数時間もないんだ。お堅い組織の警備員(アンチスキル)や風紀委員(ジャッジメント)がそんな短時間で僕たちの組織までに辿り着き、なおかつ検挙する暇なんてもうありはしない」
そ・れ・に、と御坂美琴は顔を歪めながら、スカートの中にあるホルダーから小さな通信機のようなものを取りだして、
「逃がすつもりなんてないし」
「ッ!? まさか…」
嫌な予感が頭をよぎり、思わずその通信機に意識を集中させる上条。
美琴の行動を止めようと、身体が動く。そんなに距離のない場所のため、美琴の元へとたどり着くのにはそこまでの時間はかからなかった。
しかし、上条が何かをする前に、美琴は通信機に向かってこう言ったのだ。
「随分と、簡単に逃がしてくれるんだな。学園都市を潰す計画を立てるお前ら〔パンドラ〕の情報が、風紀委員(ジャッジメント)に漏れるかもしれないってのに」
「クスクス。別にいいさ、そんなこと。風紀委員(ジャッジメント)なんてこの超能力者(レベル5)の力があれば、簡単に一層できる」
バァ、と両手を広げ、御坂美琴は壊れたおもちゃの王様のように、鉄筋コンクリートや大破する机や椅子の前に立つ。
自身の能力でそれらを浮かべ、少女は凶悪な笑みを広げていく。
「超能力者(レベル5)。たった一人で軍隊と渡り合えるほどの圧倒的な力を持つ学園都市の頂点。そして、その七人の内の第三位、超電磁砲(レールガン)の異名を持つ常盤台中学の御坂美琴。そんな力の前に抵抗出来る者が、風紀委員(ジャッジメント)のような腑抜けた組織の中に居るはずがないだろう?」
「…………、」
「しかも、もう計画は起動までに数時間もないんだ。お堅い組織の警備員(アンチスキル)や風紀委員(ジャッジメント)がそんな短時間で僕たちの組織までに辿り着き、なおかつ検挙する暇なんてもうありはしない」
そ・れ・に、と御坂美琴は顔を歪めながら、スカートの中にあるホルダーから小さな通信機のようなものを取りだして、
「逃がすつもりなんてないし」
「ッ!? まさか…」
嫌な予感が頭をよぎり、思わずその通信機に意識を集中させる上条。
美琴の行動を止めようと、身体が動く。そんなに距離のない場所のため、美琴の元へとたどり着くのにはそこまでの時間はかからなかった。
しかし、上条が何かをする前に、美琴は通信機に向かってこう言ったのだ。
「〔パンドラ〕構成員、第三部隊エキストラ、聞こえるかな。今から、建物から出てくる女を片付けろ。どちらにせよ学園都市に不要な無能力者(レベル0)だ。目撃者が居ようものなら好きにしてくれてかまわない。全員で女を追い詰めて、絶望の縁に叩き落してから―――殺せ!!」
美琴が言ったこの言葉を上条は最後まで聞いていることが出来なかった。
美琴の最も近くに居たはずなのに、その言葉は上条の鼓膜を震わせない。
なぜなら。
ガコン!! と美琴に手を伸ばす上条の腹に鉄筋コンクリートが、金属バットを振るようにして激突してきたからだ。
「ゴッ………ホァッ!!」
足が床から離れ、身体が宙を舞う。ノーバウンドで壁へと激突し、無様に床に転がってから痛みは遅れてやってきた。
「ガ、アアァァァァァァァァ!!!」
痛みにのたうち回る上条に、笑う美琴の声と曇り空を引き裂く雷鳴だけが聞こえた。
「ハハハハハ!! 言っただろ、『組織』だって。あんな女なんてわざわざ僕が殺さなくても他にやりようはあるんだよ! 人間を消すことに手慣れた、下部組織の人間なんかには楽な仕事さ!!」
自身の周りで鉄筋コンクリートをまるで太陽の周りを舞う惑星のように回転させ、ブゥォンという磁力が発する音を響かせる。
地面を転がる上条を攻撃しないのは大きな自信のあってのことかもしれない。
そんな相手の自信に気づく余裕は上条にはなく、少年は大きく力を入れて身体を起き上がらせた。
(クッソ………佐天さんがッ!)
「今頃後悔しても遅いよ。ここから離れさせることで安全になると思ってたみたいだけど、考えが甘い。まあ、幻想殺し(イマジンブレイカ―)と言ってもただの学生なんだし、仕方ないのかもしれないけどね」
「テ、メェ……ッ!!」
「そう顔をしかめるなよ、幻想殺し(イマジンブレイカ―)。もしかしたら、佐天涙子にも奇跡が起きて助けが来るかもしれないじゃないか。クスクス、いや二度目はないかな? それに、仮にアンタがそこに行けたとして何が出来る。下部組織には能力者なんて一人もいないんだから、その右手で出来ることなんて何もないんだよ?」
ギリッ、と音が鳴った。
それは上条当麻が思わず拳を握りしめて出た音だった。
上条は固く重く拳を握りしめ、御坂美琴を前にして決して諦めの表情を見せなかった。
「させるかよ………諦めるかよ……まだ方法はある! テメェの口から命令を解除させるって方法がな!」
「実力行使ってやつかな? やれるものならやってみろよ! そう簡単にやられるほど―――超能力者(レベル5)は甘くはないけどね!!!」
ズバァァァン!! と空気を裂く音が聞こえる前に、上条の右手に衝撃が走った。
青白い雷の槍は、音を超え視認することさえ許さない。
それを右手で打ち消し、上条は美琴へと向かって走り出した。
両者の距離はたかが、十五メートルほど。上条にとっては数秒もかからぬ内に拳の射程圏内へと入るほどの距離だ。
「アッハハハッ!! 真正面から突っ走りやがって、当ててくださいってお願いしてるのかなぁ!?」
しかし、その距離は美琴にとっての射程圏内ということも変わらなかった。
ガコン、と美琴の腕の動きに連動するように、鉄筋コンクリートが身体を起こす。
己の磁力で鉄筋コンクリートを操り、回転させながら上条のほうへと飛ばした。
「―――ッ!!」
上条は、それを斜め横に飛ぶことで器用に避ける。
ゴウン、と鉄筋が床を削る音が雨の音と混ざりながら、廃屋に響いた。
と、上条は美琴の雷撃がスパークする音を聞いた。
聞きなれた、電撃の予兆。
地面を転がりながら上条が美琴の方へと右手を突きだす。
しかし。
「バカの一つ覚えみたいに撃つかよ、バァアアカ!!」
美琴の雷が空を奔る。光速で進む雷の槍は上条の右手ではなく、上条の真横で浮かぶ鉄筋へと直撃した。
側撃雷。
直撃雷の周りに発生する高い電位差によって起こる現象が上条の身体を襲う。
「ご、おォォォォォ!!」
上条が身体を捻り、とっさに右手を振るった。
バチョン!! という音を轟かせ側撃雷を右手で消せたのは、奇跡と言ってもいいだろう。
「一、ニ回防いだだけで呆けてるなよ! もうちょっと気を張らないと、簡単にペシャンコだ!! ほぉら、もう一発ッ!!」
その奇跡に安堵する暇もなく、上条の隣にある先ほどの鉄筋が急回転を始めた。
重心を中心としての高速円運動により、ブゥゥゥゥ! と羽根の音のような音をまき散らしながら、鉄筋は弾かれるように上条の方へと飛んだ。
磁力によって操作されるそれに動き出す予兆はなく、無防備に身体を地面へと転がす上条の頭を狙って、だ
「くぅ……ッ!!」
とっさに、身体を転がして直撃ルートから動いた。
地面をえぐるどころか、破壊する音を真横で聞きながら、上条は恐怖に止まりそうになる身体を無理やり動かして起き上がろうとする。
そこで見た。
鉄筋が破壊した床の細かい幾千もの鉄の塊が集団を作って、空へと浮き上がっているのを。
「ッ!!??」
「飛んで火に入る夏の虫ってね!!」
ダルラララララルラララララッ!!!! と機関銃の連射を超える速度で大量の鉄の塊が、起きようと身体を起こしかけていた上条の上半身へと直撃した。
あまりの速度での連射だったため、衝撃音はドスン!! と一つの音のように炸裂する。
「ゴ、アアァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
身体をのけ反らせるに留まらず、吹き飛ばされて上条は再び地面へと転がった。
数回地面をバウンドし、錆びれた机の山に激突してからその勢いを止める。
「どうした!? そんなもんかよ幻想殺し(イマジンブレイカ―)!! 一方通行(アクセラレータ)に勝ったのだってマグレだったのかな!?」
「く、……っそ」
「ん? ”あれは俺が一人で出来たことじゃない、って?” そっかぁ……そう言えばキミは『妹達(シスターズ)』の力を借りて一方通行(アクセラレータ)を倒したんだっけ」
片目をつむり、可愛らしそうに頬に人差し指を当て、首を傾げながら美琴はカツン、と革靴の底を踏みならした。
それに呼応するように、美琴の周りの小さな鉄塊がビクン! と反応する。
「コラコラ。いつまで寝てんの? いい加減に起きないと蜂の巣だし」
直後、床に散らばる小さな石ころが勢いよく空へと舞い上がった。
美琴はそれの一つを軽く指で弾く。
バチン、と聞こえたのは小さな音だけ。
しかし、上条の隣を通過した石ころは、机の山だけでなく建物の壁さえも簡単に貫通していた。
(こ、れ………はッ!?)
「超簡易型の超電磁砲(レールガン)って言ったところかな。破壊力じゃなくて、極限にまで貫通力を高めたこの攻撃ならその右手で防げると思うよ。まあ、でも」
そこで、言葉を区切り美琴は左右の腕を広げてから、
「この合計五三二の石ころを防ぐにはちょっと、手が足りないかな?」
美琴は上条へと言葉と共にその石ころを一斉に電流を流した。
バチン! と音が鳴り、石ころが小さな弾丸と化し上条を襲う。
咄嗟に、上条は全力で地面を転がりそれを回避した。
磁力による集中攻撃が上条が元居た机の山を崩壊させる。
ゴガガガガガゴガガ!! と小さな塊が連続で地面を叩く音を真横で聞きながら、上条は跳ね起き、美琴の方へと再び走りだした。
(目の前のコイツの言葉を信じるならば、御坂はただ操られてるだけだ。アイツが操られるなんて考えられねえけど……)
けれど、操られてでもいなければ、この威力の電撃が説明できない。
(もし操られてるっていうなら俺の右手で―――)
そのまま、懐へと飛び込みながら、上条は拳を握る。
美琴を殴るほどの気持ちで振りかぶりそれを、勢いよく振った。
「悪い、我慢してくれよ、御坂!!」
上条の強く握られた拳は一直線に美琴へと迫る。
そして。
「痛っつッ!!」
ガコン!! と少年の拳は美琴と上条の間に入ってきた鉄筋に阻まれた。
鋼鉄を殴り、ジーン、と拳に響く感覚に上条は顔を歪ませる。
そんな上条を見て、美琴は笑みをこぼし、直後、驚きに目を見開いた。
「ひぅ」
と、上条は息を吸う。
己の全力の一撃が簡単に防がれたというのに上条の瞳には、絶望の一欠けらも映ってはいない。
上条は、右手で美琴の操る鉄筋を掴んだ。
プツン、と。
まるで吊るされていた人形の糸を切ったかのように、鉄筋は地面へと転がった。
美琴の操る磁力を上条の幻想殺し(イマジンブレイカ―)が打ち消したのだ。
「―――ッ!!」
美琴の表情に驚愕の色が浮かぶ。
対して、上条は笑みを浮かべた。両者の間に壁は無い。周りにある机や椅子も今から操っても間に合いはしないだろう。
美琴には上条の拳を防ぐ術はなく、上条はただ拳を振るうだけ。
勝敗は決したかのように見えた。
しかし、鉄筋を乗り越え、自身へと迫る上条を目で見てから、御坂美琴はこう言ったのだ。
美琴の最も近くに居たはずなのに、その言葉は上条の鼓膜を震わせない。
なぜなら。
ガコン!! と美琴に手を伸ばす上条の腹に鉄筋コンクリートが、金属バットを振るようにして激突してきたからだ。
「ゴッ………ホァッ!!」
足が床から離れ、身体が宙を舞う。ノーバウンドで壁へと激突し、無様に床に転がってから痛みは遅れてやってきた。
「ガ、アアァァァァァァァァ!!!」
痛みにのたうち回る上条に、笑う美琴の声と曇り空を引き裂く雷鳴だけが聞こえた。
「ハハハハハ!! 言っただろ、『組織』だって。あんな女なんてわざわざ僕が殺さなくても他にやりようはあるんだよ! 人間を消すことに手慣れた、下部組織の人間なんかには楽な仕事さ!!」
自身の周りで鉄筋コンクリートをまるで太陽の周りを舞う惑星のように回転させ、ブゥォンという磁力が発する音を響かせる。
地面を転がる上条を攻撃しないのは大きな自信のあってのことかもしれない。
そんな相手の自信に気づく余裕は上条にはなく、少年は大きく力を入れて身体を起き上がらせた。
(クッソ………佐天さんがッ!)
「今頃後悔しても遅いよ。ここから離れさせることで安全になると思ってたみたいだけど、考えが甘い。まあ、幻想殺し(イマジンブレイカ―)と言ってもただの学生なんだし、仕方ないのかもしれないけどね」
「テ、メェ……ッ!!」
「そう顔をしかめるなよ、幻想殺し(イマジンブレイカ―)。もしかしたら、佐天涙子にも奇跡が起きて助けが来るかもしれないじゃないか。クスクス、いや二度目はないかな? それに、仮にアンタがそこに行けたとして何が出来る。下部組織には能力者なんて一人もいないんだから、その右手で出来ることなんて何もないんだよ?」
ギリッ、と音が鳴った。
それは上条当麻が思わず拳を握りしめて出た音だった。
上条は固く重く拳を握りしめ、御坂美琴を前にして決して諦めの表情を見せなかった。
「させるかよ………諦めるかよ……まだ方法はある! テメェの口から命令を解除させるって方法がな!」
「実力行使ってやつかな? やれるものならやってみろよ! そう簡単にやられるほど―――超能力者(レベル5)は甘くはないけどね!!!」
ズバァァァン!! と空気を裂く音が聞こえる前に、上条の右手に衝撃が走った。
青白い雷の槍は、音を超え視認することさえ許さない。
それを右手で打ち消し、上条は美琴へと向かって走り出した。
両者の距離はたかが、十五メートルほど。上条にとっては数秒もかからぬ内に拳の射程圏内へと入るほどの距離だ。
「アッハハハッ!! 真正面から突っ走りやがって、当ててくださいってお願いしてるのかなぁ!?」
しかし、その距離は美琴にとっての射程圏内ということも変わらなかった。
ガコン、と美琴の腕の動きに連動するように、鉄筋コンクリートが身体を起こす。
己の磁力で鉄筋コンクリートを操り、回転させながら上条のほうへと飛ばした。
「―――ッ!!」
上条は、それを斜め横に飛ぶことで器用に避ける。
ゴウン、と鉄筋が床を削る音が雨の音と混ざりながら、廃屋に響いた。
と、上条は美琴の雷撃がスパークする音を聞いた。
聞きなれた、電撃の予兆。
地面を転がりながら上条が美琴の方へと右手を突きだす。
しかし。
「バカの一つ覚えみたいに撃つかよ、バァアアカ!!」
美琴の雷が空を奔る。光速で進む雷の槍は上条の右手ではなく、上条の真横で浮かぶ鉄筋へと直撃した。
側撃雷。
直撃雷の周りに発生する高い電位差によって起こる現象が上条の身体を襲う。
「ご、おォォォォォ!!」
上条が身体を捻り、とっさに右手を振るった。
バチョン!! という音を轟かせ側撃雷を右手で消せたのは、奇跡と言ってもいいだろう。
「一、ニ回防いだだけで呆けてるなよ! もうちょっと気を張らないと、簡単にペシャンコだ!! ほぉら、もう一発ッ!!」
その奇跡に安堵する暇もなく、上条の隣にある先ほどの鉄筋が急回転を始めた。
重心を中心としての高速円運動により、ブゥゥゥゥ! と羽根の音のような音をまき散らしながら、鉄筋は弾かれるように上条の方へと飛んだ。
磁力によって操作されるそれに動き出す予兆はなく、無防備に身体を地面へと転がす上条の頭を狙って、だ
「くぅ……ッ!!」
とっさに、身体を転がして直撃ルートから動いた。
地面をえぐるどころか、破壊する音を真横で聞きながら、上条は恐怖に止まりそうになる身体を無理やり動かして起き上がろうとする。
そこで見た。
鉄筋が破壊した床の細かい幾千もの鉄の塊が集団を作って、空へと浮き上がっているのを。
「ッ!!??」
「飛んで火に入る夏の虫ってね!!」
ダルラララララルラララララッ!!!! と機関銃の連射を超える速度で大量の鉄の塊が、起きようと身体を起こしかけていた上条の上半身へと直撃した。
あまりの速度での連射だったため、衝撃音はドスン!! と一つの音のように炸裂する。
「ゴ、アアァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
身体をのけ反らせるに留まらず、吹き飛ばされて上条は再び地面へと転がった。
数回地面をバウンドし、錆びれた机の山に激突してからその勢いを止める。
「どうした!? そんなもんかよ幻想殺し(イマジンブレイカ―)!! 一方通行(アクセラレータ)に勝ったのだってマグレだったのかな!?」
「く、……っそ」
「ん? ”あれは俺が一人で出来たことじゃない、って?” そっかぁ……そう言えばキミは『妹達(シスターズ)』の力を借りて一方通行(アクセラレータ)を倒したんだっけ」
片目をつむり、可愛らしそうに頬に人差し指を当て、首を傾げながら美琴はカツン、と革靴の底を踏みならした。
それに呼応するように、美琴の周りの小さな鉄塊がビクン! と反応する。
「コラコラ。いつまで寝てんの? いい加減に起きないと蜂の巣だし」
直後、床に散らばる小さな石ころが勢いよく空へと舞い上がった。
美琴はそれの一つを軽く指で弾く。
バチン、と聞こえたのは小さな音だけ。
しかし、上条の隣を通過した石ころは、机の山だけでなく建物の壁さえも簡単に貫通していた。
(こ、れ………はッ!?)
「超簡易型の超電磁砲(レールガン)って言ったところかな。破壊力じゃなくて、極限にまで貫通力を高めたこの攻撃ならその右手で防げると思うよ。まあ、でも」
そこで、言葉を区切り美琴は左右の腕を広げてから、
「この合計五三二の石ころを防ぐにはちょっと、手が足りないかな?」
美琴は上条へと言葉と共にその石ころを一斉に電流を流した。
バチン! と音が鳴り、石ころが小さな弾丸と化し上条を襲う。
咄嗟に、上条は全力で地面を転がりそれを回避した。
磁力による集中攻撃が上条が元居た机の山を崩壊させる。
ゴガガガガガゴガガ!! と小さな塊が連続で地面を叩く音を真横で聞きながら、上条は跳ね起き、美琴の方へと再び走りだした。
(目の前のコイツの言葉を信じるならば、御坂はただ操られてるだけだ。アイツが操られるなんて考えられねえけど……)
けれど、操られてでもいなければ、この威力の電撃が説明できない。
(もし操られてるっていうなら俺の右手で―――)
そのまま、懐へと飛び込みながら、上条は拳を握る。
美琴を殴るほどの気持ちで振りかぶりそれを、勢いよく振った。
「悪い、我慢してくれよ、御坂!!」
上条の強く握られた拳は一直線に美琴へと迫る。
そして。
「痛っつッ!!」
ガコン!! と少年の拳は美琴と上条の間に入ってきた鉄筋に阻まれた。
鋼鉄を殴り、ジーン、と拳に響く感覚に上条は顔を歪ませる。
そんな上条を見て、美琴は笑みをこぼし、直後、驚きに目を見開いた。
「ひぅ」
と、上条は息を吸う。
己の全力の一撃が簡単に防がれたというのに上条の瞳には、絶望の一欠けらも映ってはいない。
上条は、右手で美琴の操る鉄筋を掴んだ。
プツン、と。
まるで吊るされていた人形の糸を切ったかのように、鉄筋は地面へと転がった。
美琴の操る磁力を上条の幻想殺し(イマジンブレイカ―)が打ち消したのだ。
「―――ッ!!」
美琴の表情に驚愕の色が浮かぶ。
対して、上条は笑みを浮かべた。両者の間に壁は無い。周りにある机や椅子も今から操っても間に合いはしないだろう。
美琴には上条の拳を防ぐ術はなく、上条はただ拳を振るうだけ。
勝敗は決したかのように見えた。
しかし、鉄筋を乗り越え、自身へと迫る上条を目で見てから、御坂美琴はこう言ったのだ。
「だから、バカにすんなって言ったじゃん?」
バッカァァァン!! と上条と美琴の間に鉄筋が突き出た。
先ほどから美琴が使っていた鉄筋ではない。下の階で使用されていた鉄筋を磁力で操り、床を貫通させたのだろう。
突き出た鉄筋は正確に上条の右手首へと直撃し、大きく右腕を上へと持っていく。
「く、おオオオォォォ!!??」
右手の痛みに顔をしかめる上条の懐へと美琴は飛び込んだ。
ニヤリ、と不気味に笑い、美琴は上条の腹を目掛けて思い切り足を伸ばす。
ズン! と上条の腹に少女のスラッと伸びる足が直撃した。
上条の身体がクの字に曲がり、後ろへと大きく吹き飛ばされる。
「ご、ふぅ……っ」
ごろごろ、と何度も地面を転がる。
どうにか受け身を取ったため背中に痛みは無いが、少女の蹴りの衝撃に腹の中から吐き気が込み上げてくる。
それを無理やり抑えつけながら上条は、歯を食いしばりながら起き上った。
(くっそ…………一方通行(アクセラレータ)の時みたいに、近づけないってわけじゃねえけど、攻撃が当たらねえ)
一方通行(アクセラレータ)の時は、一度投げられた鉄筋は起動を変えずに直線的に襲うだけだが、美琴は違う。
攻撃が読めないのだ。磁力や電気といった目の見えないものを操る攻撃は変則的で先が予想できない。
触れなくても操れる。それはつまり、いつ後ろにあるものが自分を狙う武器になるのかわからないということ。
それは、右手一本だけで攻撃を処理する上条にとってかなりの脅威となることだった。
(……今まで、あんま自覚したことなかったけど、美琴だって超能力者(レベル5)だったんだよな。こんなことで驚くわけにはいかねえし……それに、)
彼女はいまだに、切り札たる超電磁砲(レールガン)を使っていない。
音速の三倍を超える一撃をさっきの戦闘時に使われた時を思うと上条はゾッとしたものを背筋に感じた。
そう、この圧倒的な力。
何ものも寄せ付けず、絶対的な力で周りを支配する。お遊びなんかじゃない。一撃一撃が必殺の意を込めた、攻撃。
これが、これこそが―――
「レベル………5」
「ハッ……今頃になって気付いたの? 学園都市の頂点の力をさ」
周りに鉄筋を飛ばし、まるで世界の中心が自分だと言わんばかりの表情で、絶対的な超能力者(レベル5)がそこに立つ。
真後ろで、外の雷をバックにして、雷を己の身体に巻きつける少女の姿は神話に登場する全知全能の神、ゼウスを彷彿とさせた。
「ほーら、遊んでる間に通信が入っちゃったよ。何の通信だと思う? クスクスクス、わかるよね?」
美琴らしからぬ、凶悪な笑顔で少女は再び、小型の通信機を手に持った。
「このコードは第三部隊エキストラからの通信かなぁ? 命令を実行して失敗したか、それとも成功させてその報告、ってところだろうね」
(―――そんな……)
美琴の口端がつり上がる。
「さぁ~あ、どっちかな? 成功したのか失敗したのか、どっちかな? ねえ、幻想殺し(イマジンブレイカ―)。君はどう思う。佐天涙子は生き延びられたと思うかい?」
「ッ!?」
「そんな顔するなよ。アンタのせいじゃないさ。佐天涙子はどっち道、ここで死ぬ運命だったんだ。それをたった数分でも命を延ばしてあげたアンタはそれを誇ってもいいじゃないのかな?」
上条の表情から心を読み取ってでもいるのか、美琴は嘲るような表情を作り、通信機へと口を当てる。
これから起こるであろう未来を予想して、美琴は声に一層力を入れて通信を開始した。
「さて、第三部隊エキストラ。女は殺せたのかい? 命令通りに、絶望の縁まで叩き落して殺せたのかな?」
ガビッ、とノイズが入る音がした。
恐らく、相手の通話モードに入ったのであろう。これから、第三部隊エキストラからの報告が始まる。
嘘であって欲しい。そう思いながらも上条はこの報告が自分に何を教えてくれるのかを直感的に理解していた。
拳を握る。強く強く握って、上条は思わず叫びそうになる。
そして、小型の通信機からはこんな報告が流れてきた。
先ほどから美琴が使っていた鉄筋ではない。下の階で使用されていた鉄筋を磁力で操り、床を貫通させたのだろう。
突き出た鉄筋は正確に上条の右手首へと直撃し、大きく右腕を上へと持っていく。
「く、おオオオォォォ!!??」
右手の痛みに顔をしかめる上条の懐へと美琴は飛び込んだ。
ニヤリ、と不気味に笑い、美琴は上条の腹を目掛けて思い切り足を伸ばす。
ズン! と上条の腹に少女のスラッと伸びる足が直撃した。
上条の身体がクの字に曲がり、後ろへと大きく吹き飛ばされる。
「ご、ふぅ……っ」
ごろごろ、と何度も地面を転がる。
どうにか受け身を取ったため背中に痛みは無いが、少女の蹴りの衝撃に腹の中から吐き気が込み上げてくる。
それを無理やり抑えつけながら上条は、歯を食いしばりながら起き上った。
(くっそ…………一方通行(アクセラレータ)の時みたいに、近づけないってわけじゃねえけど、攻撃が当たらねえ)
一方通行(アクセラレータ)の時は、一度投げられた鉄筋は起動を変えずに直線的に襲うだけだが、美琴は違う。
攻撃が読めないのだ。磁力や電気といった目の見えないものを操る攻撃は変則的で先が予想できない。
触れなくても操れる。それはつまり、いつ後ろにあるものが自分を狙う武器になるのかわからないということ。
それは、右手一本だけで攻撃を処理する上条にとってかなりの脅威となることだった。
(……今まで、あんま自覚したことなかったけど、美琴だって超能力者(レベル5)だったんだよな。こんなことで驚くわけにはいかねえし……それに、)
彼女はいまだに、切り札たる超電磁砲(レールガン)を使っていない。
音速の三倍を超える一撃をさっきの戦闘時に使われた時を思うと上条はゾッとしたものを背筋に感じた。
そう、この圧倒的な力。
何ものも寄せ付けず、絶対的な力で周りを支配する。お遊びなんかじゃない。一撃一撃が必殺の意を込めた、攻撃。
これが、これこそが―――
「レベル………5」
「ハッ……今頃になって気付いたの? 学園都市の頂点の力をさ」
周りに鉄筋を飛ばし、まるで世界の中心が自分だと言わんばかりの表情で、絶対的な超能力者(レベル5)がそこに立つ。
真後ろで、外の雷をバックにして、雷を己の身体に巻きつける少女の姿は神話に登場する全知全能の神、ゼウスを彷彿とさせた。
「ほーら、遊んでる間に通信が入っちゃったよ。何の通信だと思う? クスクスクス、わかるよね?」
美琴らしからぬ、凶悪な笑顔で少女は再び、小型の通信機を手に持った。
「このコードは第三部隊エキストラからの通信かなぁ? 命令を実行して失敗したか、それとも成功させてその報告、ってところだろうね」
(―――そんな……)
美琴の口端がつり上がる。
「さぁ~あ、どっちかな? 成功したのか失敗したのか、どっちかな? ねえ、幻想殺し(イマジンブレイカ―)。君はどう思う。佐天涙子は生き延びられたと思うかい?」
「ッ!?」
「そんな顔するなよ。アンタのせいじゃないさ。佐天涙子はどっち道、ここで死ぬ運命だったんだ。それをたった数分でも命を延ばしてあげたアンタはそれを誇ってもいいじゃないのかな?」
上条の表情から心を読み取ってでもいるのか、美琴は嘲るような表情を作り、通信機へと口を当てる。
これから起こるであろう未来を予想して、美琴は声に一層力を入れて通信を開始した。
「さて、第三部隊エキストラ。女は殺せたのかい? 命令通りに、絶望の縁まで叩き落して殺せたのかな?」
ガビッ、とノイズが入る音がした。
恐らく、相手の通話モードに入ったのであろう。これから、第三部隊エキストラからの報告が始まる。
嘘であって欲しい。そう思いながらも上条はこの報告が自分に何を教えてくれるのかを直感的に理解していた。
拳を握る。強く強く握って、上条は思わず叫びそうになる。
そして、小型の通信機からはこんな報告が流れてきた。
『はいはい、そうですよォ。たった今、黒い服着た変態共の皮を三割程剥いで、プリプリミカンみたいにしてやったンだ。報酬ははずンでくれてもいいよなァ?』
は? と美琴は呆けた表情を見せた。
「だ、誰だお前?」
『だ、誰だお前ー、って…ギャハアハ!! なンつゥ三下なセリフ吐いてやがるンですかァ? 少しは聞いてる身になってもらわないと困るぜェ。あまりにつまらなくて全身のいたるところの穴という穴から魂が抜けちまいそうだァ。つまンねェギャグなンてやってねェで、もうちっと悪党らしくカッコいいこと言ってみろっつゥの!!』
美琴が驚くのも仕方ないだろう。大の男で編成されるエキストラからの通信に聞いた覚えのない少年の声が聞こえてくるのだから。
よく、耳を澄ませば、通信機からゴォォォォ!! という風の吹き荒れる音が聞こえたかもしれない。
通信機を持つ少年が誰なのか、皆目見当もつかない美琴はただ黙って、続く言葉を聞いていることしかできなかった。
『勘違いしてもらっちゃ困るが、オレは一流のヒーローなンかじゃねェぞォ。テメェらみたいなにわかとは違う、正真正銘の―――悪党だ』
「だ、誰だお前?」
『だ、誰だお前ー、って…ギャハアハ!! なンつゥ三下なセリフ吐いてやがるンですかァ? 少しは聞いてる身になってもらわないと困るぜェ。あまりにつまらなくて全身のいたるところの穴という穴から魂が抜けちまいそうだァ。つまンねェギャグなンてやってねェで、もうちっと悪党らしくカッコいいこと言ってみろっつゥの!!』
美琴が驚くのも仕方ないだろう。大の男で編成されるエキストラからの通信に聞いた覚えのない少年の声が聞こえてくるのだから。
よく、耳を澄ませば、通信機からゴォォォォ!! という風の吹き荒れる音が聞こえたかもしれない。
通信機を持つ少年が誰なのか、皆目見当もつかない美琴はただ黙って、続く言葉を聞いていることしかできなかった。
『勘違いしてもらっちゃ困るが、オレは一流のヒーローなンかじゃねェぞォ。テメェらみたいなにわかとは違う、正真正銘の―――悪党だ』
<13:01 PM>
第三部隊エキストラ。
学園都市の暗部組織〔パンドラ〕の下部組織として機能するこの部隊は暗殺を専門としていた。
〔パンドラ〕の率いる下部組織は隠密、突破、暗殺、追跡、解析といったふうに五つに部隊を分けられ、それぞれ別の仕事を専門とし、各々の働きを一つの分野に集中することで効率を上げている。
適材適所の言葉の通り、その部隊にいるものはいずれもある分野に特化しているのだ。
その部隊もさらにいくつかに分けられ、小部隊として行動する。その中の一つが第三部隊エキストラ。
今回の仕事は、一人の少女を殺す、といういたって簡単なもののはずだった。
難易度で言えば、最低ランクといっても良い。
今までのように学園都市のお偉いさんや、政府かなにかの要人を暗殺より容易いことなど当たり前である。
実際、その少女を追い詰め、銃を突きつけるところまでは五分もかからなかった。
方法は、数人に部隊を分け、逃げ道を封鎖し、少しずつ包囲網を狭めるだけ。
ついでに上司からの『絶望させろ』といった条件も遂行できるため、一石ニ鳥だろう。
しかし、作戦は成功しなかった。
あとは引き金を引くだけだというのに、作戦は成功しなかったのだ。
なぜなら。
学園都市の暗部組織〔パンドラ〕の下部組織として機能するこの部隊は暗殺を専門としていた。
〔パンドラ〕の率いる下部組織は隠密、突破、暗殺、追跡、解析といったふうに五つに部隊を分けられ、それぞれ別の仕事を専門とし、各々の働きを一つの分野に集中することで効率を上げている。
適材適所の言葉の通り、その部隊にいるものはいずれもある分野に特化しているのだ。
その部隊もさらにいくつかに分けられ、小部隊として行動する。その中の一つが第三部隊エキストラ。
今回の仕事は、一人の少女を殺す、といういたって簡単なもののはずだった。
難易度で言えば、最低ランクといっても良い。
今までのように学園都市のお偉いさんや、政府かなにかの要人を暗殺より容易いことなど当たり前である。
実際、その少女を追い詰め、銃を突きつけるところまでは五分もかからなかった。
方法は、数人に部隊を分け、逃げ道を封鎖し、少しずつ包囲網を狭めるだけ。
ついでに上司からの『絶望させろ』といった条件も遂行できるため、一石ニ鳥だろう。
しかし、作戦は成功しなかった。
あとは引き金を引くだけだというのに、作戦は成功しなかったのだ。
なぜなら。
脈絡なく、唐突に一人の少年が空から降ってきたからだ。
その少年が現れたことで状況が一変した。
空から降ってきた余波か何かよくわからない攻撃を受け部隊長が死亡し、命令系統に支障をきたし、統制の取れた動きを取れず、烏合の衆と化した第三部隊エキストラは、もはや部隊と呼べるものではなくなっていた。
そんな部隊の一員の一人の男は、目の前に広がる光景を見て、ただ呆然とすることしか出来なかった。
「ギャヒハハ!! なンだなンだよなンですかァその逃げ腰はァ!? 暗部組織っていうからどンなもンだと思ってたが、こりゃ猟犬部隊(ハウンドドッグ)の方がよっぽど強ェぞ!! 蟻ンこみたく逃げ回るンじゃなくて、人間様らしく知恵ェ振り絞って頑張ってみろってのォ!!」
男の目の前には空から降ってきた、白髪に赤い目をした少年。
少年とは思えないほどに凶悪な表情を浮かべながら、男の仲間たちを軽々と吹き飛ばしていくその人物を男はよく知っていた。
風が吹き荒れ、銃声が響き、絶叫が轟く。
圧倒的を超え、絶対的な力を辺りにまき散らしながら、少年は悪魔のように口を引き裂いて笑う。
(なぜだ!? どうして”やつ”がここにいる!?)
いくらなんでも早すぎる。
まだ、本格的に行動を開始してから一日も経っていないというのに、どうしてこの少年はここにいるのだろうか。
学園都市にバレていることを予想してはいたが、まさかこんな短時間で場所を特定されるとは思わなかった。
(元々のアジトはすでに捨てたってのにどうしてここに辿り着けた!? 監視カメラにも細心の注意を払っていたのにッ!!)
本来の専門が『暗殺』なだけに自分達が監視カメラに映る等という凡ミスを犯すとは考えるのは、難しいだろう。
(意味がわからない………学園都市は、目に見えないほどの……粒子レベルの監視カメラでも漂わせているのかッ!?)
それにしても、どうして目の前の少年がこの場にいるかが理解できない。
最後のひと押しの殲滅作戦に投下するのなら話は分かる。
学園都市の最終兵器と言っても過言ではない少年が、切り札として使われるのなら納得はいくのだ。
しかし、今はどうだ。
下部組織なんていう下っ端の自分達を、もてあそぶように蹂躙していく。
たった一人の少女を殺そうとする自分達をどうにかするのに、どうして切り札が使われている?
能力に時間制限が付くのなら尚更だ。
明らかに、使いどころを間違っている。
「なんだよ…」
狂乱する、この少年は。
「なんなんだよ、お前は…」
白濁とする、この少年は。
〔パンドラ〕の作戦において最重要人物と指定されているこの少年の名は―――
「アクセラ、……レータァアぁあぁぁぁぁぁあ!!!」
「はっはァイ!! ご指名にお応えして、きっちりと熱い抱擁をし・て・や・る・よォ!!」
語尾の言葉を言い終わる直後、地面を蹴って砲弾のように飛ぶ少年、一方通行(アクセラレータ)の姿を最後に、男の意識はそこで途切れた。
空から降ってきた余波か何かよくわからない攻撃を受け部隊長が死亡し、命令系統に支障をきたし、統制の取れた動きを取れず、烏合の衆と化した第三部隊エキストラは、もはや部隊と呼べるものではなくなっていた。
そんな部隊の一員の一人の男は、目の前に広がる光景を見て、ただ呆然とすることしか出来なかった。
「ギャヒハハ!! なンだなンだよなンですかァその逃げ腰はァ!? 暗部組織っていうからどンなもンだと思ってたが、こりゃ猟犬部隊(ハウンドドッグ)の方がよっぽど強ェぞ!! 蟻ンこみたく逃げ回るンじゃなくて、人間様らしく知恵ェ振り絞って頑張ってみろってのォ!!」
男の目の前には空から降ってきた、白髪に赤い目をした少年。
少年とは思えないほどに凶悪な表情を浮かべながら、男の仲間たちを軽々と吹き飛ばしていくその人物を男はよく知っていた。
風が吹き荒れ、銃声が響き、絶叫が轟く。
圧倒的を超え、絶対的な力を辺りにまき散らしながら、少年は悪魔のように口を引き裂いて笑う。
(なぜだ!? どうして”やつ”がここにいる!?)
いくらなんでも早すぎる。
まだ、本格的に行動を開始してから一日も経っていないというのに、どうしてこの少年はここにいるのだろうか。
学園都市にバレていることを予想してはいたが、まさかこんな短時間で場所を特定されるとは思わなかった。
(元々のアジトはすでに捨てたってのにどうしてここに辿り着けた!? 監視カメラにも細心の注意を払っていたのにッ!!)
本来の専門が『暗殺』なだけに自分達が監視カメラに映る等という凡ミスを犯すとは考えるのは、難しいだろう。
(意味がわからない………学園都市は、目に見えないほどの……粒子レベルの監視カメラでも漂わせているのかッ!?)
それにしても、どうして目の前の少年がこの場にいるかが理解できない。
最後のひと押しの殲滅作戦に投下するのなら話は分かる。
学園都市の最終兵器と言っても過言ではない少年が、切り札として使われるのなら納得はいくのだ。
しかし、今はどうだ。
下部組織なんていう下っ端の自分達を、もてあそぶように蹂躙していく。
たった一人の少女を殺そうとする自分達をどうにかするのに、どうして切り札が使われている?
能力に時間制限が付くのなら尚更だ。
明らかに、使いどころを間違っている。
「なんだよ…」
狂乱する、この少年は。
「なんなんだよ、お前は…」
白濁とする、この少年は。
〔パンドラ〕の作戦において最重要人物と指定されているこの少年の名は―――
「アクセラ、……レータァアぁあぁぁぁぁぁあ!!!」
「はっはァイ!! ご指名にお応えして、きっちりと熱い抱擁をし・て・や・る・よォ!!」
語尾の言葉を言い終わる直後、地面を蹴って砲弾のように飛ぶ少年、一方通行(アクセラレータ)の姿を最後に、男の意識はそこで途切れた。
佐天涙子は目の前に広がる光景をそのまま見続けることができなかった。
あまりの残虐さに目を逸らす。
美琴と自分の間に入った少年と別れた直後、どこからか現れた黒づくめの武装集団に追いかけられた佐天は五分も経たずに行き止まりまで追い詰められていた。
銃を突きつけられ、待つのは『死』あるのみの状態。
チェスで言えば、チェックメイト。将棋で言えば、王手の状態で少女を救った手は彼女が想像するヒーローとはかけ離れた存在だった。
吹き荒れる暴風。轟き渡る絶叫。巻き起こる混乱。
それらの中心に立つ少年は、そのことが楽しくて愉しくて仕方ないという感情を己で表現するように、両の腕を左右に広げ狂笑する。
その少年は明らかに異常だった。
白。
清潔や潔白を想像させる白でなく、何か不純物が混ざりあってたまたま白くなったような濁った髪の色。
紅。
殺意を持った火炎を彷彿とさせ、地獄の業火を直接宿すような、赤く、紅く、緋い瞳。
黒。
それらを強調するかのごとく、一色に統一されたその服装。
そして、細い身体だというのに、それ自体が鋭く研がれた細身の刀を思わせるその風貌。
異常、だった。
周りで人をどんどん殺しているというのに、少年が愉快そうに笑っていることも。
手で触れてもいないのに、どんどん人が死んで行くことも。
そんなことを平気で引き起こしているという現実も。
全部、異常だった。
「オイ」
声を掛けられて気付く。
目を開くと、すでに何もかも終わっていた。
自分を襲ってきた黒づくめの男たちの姿はなく、死体すらも見当たらない。
しかし、ここで何があったかを証明するかのように、壁には無数の傷が走っていた。
自分の目に映るのは、無機質なコンクリートの壁と、目の前に立ちこちらを見つめている一人の少年だった。
「ひ………ぃ」
「チッ………泣くなよめンどくせェ。お前にゃ何もしねェよ。オレはどっかのシスコン軍曹みたくロリコンじゃねェンだ」
忌々しそうに顔を歪めながら、少年は首筋に指をあてた。
同時、シュコン、と音をたててコンパクトにして持っていたのであろう杖を元の大きさに戻し、カチリ、と音がして少年は突然にその杖へと体重を預ける。
「怪我なンざしてないだろうな?」
首をコキリと鳴らしながら、少年がつまらなそうに言った。
佐天涙子は恐怖で身体を動かせず、混乱で舌が回らないため、首を縦にゆっくりと小さく振ることで質問に答えた。
事実、この少年のお陰で佐天は傷一つ負っていない。
「そりゃ良かった。テメェほどのガキだと傷の一つや二つでわめきやがるから鬱陶しくて仕方ねェンだわ」
頭をかき、一歩だけ佐天に近づきながら、
「オマエ…ケータイ持ってねェか?」
「け、けーたい?」
「どっかのバカどもがベンチ爆破しやがって、それの巻き添えになっちまってなァ。今は手持ちにないンだわ。携帯電話ぐらい今の中学生なら持ってンだろ?」
吐き捨てるように言いながら、少年は佐天の方へと杖をついていない方の手を出す。
そこに携帯を出せ、という意味だろう。
言われて、佐天はズボンのポケットから携帯電話をゆっくりと取りだした。
震える手で携帯をきちんと握り、震える腕でそれを差し出した。
少年はそれを受け取ろうと、手を伸ばして。
「………………オイオイ、冗談じゃねェぞ」
なぜか、数センチ離れた所で手を止めた。
ふと、何かに気づいたかのように動きを止める。
「なンでかなァ………なンか前にもこンなことになったような気がすンだよなァ」
(…………へ?)
彼は一つの既視感を感じながら、肩越しに背後を振り返って、何かを見る。
その少年の行動に佐天が疑問を持つ前に、一つの声が聞こえた。
「離れなさい」
その言葉に目の前の少年は少しだけ笑ったような気がした。
そちらに身体ごと向きなおし、少年は首筋に手を置く。
「………ったく。面倒なことになりやがった」
カチリ、と何かのスイッチを入れ、少年はシュコンと音を立てて杖を収納しながら、
「タイミングが良すぎるっつうのも考えもンだなァ。これじゃオレが完全に悪者じゃねェか……………いや、今回はタイミングが悪すぎたかのかァ?」
億劫そうに眉をひそめ、この場に現れた敵に相対した。
(え? この声、……)
佐天は、この場に現れた誰かの姿は少年の背に隠れて見ることが出来ないが、一人だけ思い当たるふしがあった。
身体を地面を這うように動かし、少年の見ているものを目で追いかける。
あまりの残虐さに目を逸らす。
美琴と自分の間に入った少年と別れた直後、どこからか現れた黒づくめの武装集団に追いかけられた佐天は五分も経たずに行き止まりまで追い詰められていた。
銃を突きつけられ、待つのは『死』あるのみの状態。
チェスで言えば、チェックメイト。将棋で言えば、王手の状態で少女を救った手は彼女が想像するヒーローとはかけ離れた存在だった。
吹き荒れる暴風。轟き渡る絶叫。巻き起こる混乱。
それらの中心に立つ少年は、そのことが楽しくて愉しくて仕方ないという感情を己で表現するように、両の腕を左右に広げ狂笑する。
その少年は明らかに異常だった。
白。
清潔や潔白を想像させる白でなく、何か不純物が混ざりあってたまたま白くなったような濁った髪の色。
紅。
殺意を持った火炎を彷彿とさせ、地獄の業火を直接宿すような、赤く、紅く、緋い瞳。
黒。
それらを強調するかのごとく、一色に統一されたその服装。
そして、細い身体だというのに、それ自体が鋭く研がれた細身の刀を思わせるその風貌。
異常、だった。
周りで人をどんどん殺しているというのに、少年が愉快そうに笑っていることも。
手で触れてもいないのに、どんどん人が死んで行くことも。
そんなことを平気で引き起こしているという現実も。
全部、異常だった。
「オイ」
声を掛けられて気付く。
目を開くと、すでに何もかも終わっていた。
自分を襲ってきた黒づくめの男たちの姿はなく、死体すらも見当たらない。
しかし、ここで何があったかを証明するかのように、壁には無数の傷が走っていた。
自分の目に映るのは、無機質なコンクリートの壁と、目の前に立ちこちらを見つめている一人の少年だった。
「ひ………ぃ」
「チッ………泣くなよめンどくせェ。お前にゃ何もしねェよ。オレはどっかのシスコン軍曹みたくロリコンじゃねェンだ」
忌々しそうに顔を歪めながら、少年は首筋に指をあてた。
同時、シュコン、と音をたててコンパクトにして持っていたのであろう杖を元の大きさに戻し、カチリ、と音がして少年は突然にその杖へと体重を預ける。
「怪我なンざしてないだろうな?」
首をコキリと鳴らしながら、少年がつまらなそうに言った。
佐天涙子は恐怖で身体を動かせず、混乱で舌が回らないため、首を縦にゆっくりと小さく振ることで質問に答えた。
事実、この少年のお陰で佐天は傷一つ負っていない。
「そりゃ良かった。テメェほどのガキだと傷の一つや二つでわめきやがるから鬱陶しくて仕方ねェンだわ」
頭をかき、一歩だけ佐天に近づきながら、
「オマエ…ケータイ持ってねェか?」
「け、けーたい?」
「どっかのバカどもがベンチ爆破しやがって、それの巻き添えになっちまってなァ。今は手持ちにないンだわ。携帯電話ぐらい今の中学生なら持ってンだろ?」
吐き捨てるように言いながら、少年は佐天の方へと杖をついていない方の手を出す。
そこに携帯を出せ、という意味だろう。
言われて、佐天はズボンのポケットから携帯電話をゆっくりと取りだした。
震える手で携帯をきちんと握り、震える腕でそれを差し出した。
少年はそれを受け取ろうと、手を伸ばして。
「………………オイオイ、冗談じゃねェぞ」
なぜか、数センチ離れた所で手を止めた。
ふと、何かに気づいたかのように動きを止める。
「なンでかなァ………なンか前にもこンなことになったような気がすンだよなァ」
(…………へ?)
彼は一つの既視感を感じながら、肩越しに背後を振り返って、何かを見る。
その少年の行動に佐天が疑問を持つ前に、一つの声が聞こえた。
「離れなさい」
その言葉に目の前の少年は少しだけ笑ったような気がした。
そちらに身体ごと向きなおし、少年は首筋に手を置く。
「………ったく。面倒なことになりやがった」
カチリ、と何かのスイッチを入れ、少年はシュコンと音を立てて杖を収納しながら、
「タイミングが良すぎるっつうのも考えもンだなァ。これじゃオレが完全に悪者じゃねェか……………いや、今回はタイミングが悪すぎたかのかァ?」
億劫そうに眉をひそめ、この場に現れた敵に相対した。
(え? この声、……)
佐天は、この場に現れた誰かの姿は少年の背に隠れて見ることが出来ないが、一人だけ思い当たるふしがあった。
身体を地面を這うように動かし、少年の見ているものを目で追いかける。
「わたくしの親友から、今すぐに離れなさいなッ!! 下衆がぁ!!」
いつもの風紀委員(ジャッジメント)の腕章をつけず、怒気だけで人を殺せそうな形相で少女―――白井黒子が常盤台中学の制服を身に纏いそこに居た。
「三下の次は……下衆かァ。ったくオレも舐められたもンだなァオイ! 図に乗ってンじゃねェぞ格下ァ!!」
―――少年は、顔に引き裂いたような笑みを浮かべ、
「覚悟なさい!! アナタがどなたかなど存じ上げませんが、わたくしの親友を手に出してただで済むとは思わないことですの!!」
―――少女は、足のホルダーに装着した鉄の矢を両の手に握り、
「ち、違う! 白井さん、その人は―――」
佐天涙子の言葉が両者の耳に届く前に、二人の能力者は激突した。
「三下の次は……下衆かァ。ったくオレも舐められたもンだなァオイ! 図に乗ってンじゃねェぞ格下ァ!!」
―――少年は、顔に引き裂いたような笑みを浮かべ、
「覚悟なさい!! アナタがどなたかなど存じ上げませんが、わたくしの親友を手に出してただで済むとは思わないことですの!!」
―――少女は、足のホルダーに装着した鉄の矢を両の手に握り、
「ち、違う! 白井さん、その人は―――」
佐天涙子の言葉が両者の耳に届く前に、二人の能力者は激突した。