とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

EX-03

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ryuichi

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土曜日15:45 学園都市某所

「あ、あッ、あんの女(あま)ぁぁぁぁぁぁあああああああああ!」

 学園都市某所に五和の咆吼が響き渡る。
 その怒れる大魔神(五和)に引きつった愛想笑いを浮かべる男が恐る恐る声を掛ける。
もみ手でご機嫌をとろうとする男は天草式十字凄教教皇代理建宮斎字その人である。

「あのーっ、五和さん、一体どうなさったのです?」
「中学生だと思って油断した!!
 あんのエロ餓鬼!調子にのりやがってぇぇぇぇええええええ!」
「ちょ、ちょっと、五和さん。お言葉が非常に粗暴なのですが……」

 ブチ切れモードで怒髪天を突く五和とその怒りを収めようと必死に媚びを売る建宮斎字
を天草式のメンバーはヤレヤレって感じで眺めている。

「まったく建宮さんももう少し学習して貰いたいっすね」と香焼。
「まったくじゃ。今回も五和をちょいとばかり焚きつけようとしたんだろうが、よりにも
 よってあのお嬢ちゃんが上条殿の部屋で一夜を過ごしたなどと告げ口するとは馬鹿なこ
 とを言ったもんじゃ」と諫早。
「今回はもう石油化学コンビナートに大引火どころの話じゃなくなりましたね」と牛深。

 我が身に火の粉が飛んでくるのを恐れ、部屋の隅でヒソヒソと会話する天草式の男衆。
そこに五和が声高らかに宣言する声が響き渡る。

「これでようやく決心が付きました!私。あのエロ餓鬼と果たし合いをします!」
「いっ、五和さん。それは一体どういうことなのでしょうか?」
「いいですか!建宮さん。1時間以内に私の果たし状をあのエロ餓鬼に届けるんですよ!」
「そっ、そんな。いくらなんでも……唐突すぎるんじゃ……」
「わ・か・り・ま・し・た・ね」
「…………はい」

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土曜日16:39 常盤台中学学生寮208号室

 陽も少し傾き始めた頃、ベッドで微睡んでいた美琴は気怠げに上体を起こす。そして
眠気を追い出すようにベッドに腰掛けた姿勢で大きく伸びをする。

(あーあ!今日もこれからRAILAR司令室に集合かあ?
 でもなんか面倒になってきちゃったし今日は休んじゃおうかな?…………でも
 私が居ないとその隙に秋沙や妹がアイツにちょっかい出しそうだし……どうしよう?)

 とはいえ既に答えは決まっている美琴は勢いよくベッドから立ち上がると両手で顔を
叩いて気合いを入れる。

「グダグダ言っても仕方ない。シャワーでも浴びてシャキッとしよっ!」

 クローゼットの前でブレザーのボタンを外し始めた美琴であったが3つめのボタンに手
をかけた時、僅かな違和感に指を止め室内をぐるりと見回した。

「今、誰かの視線を感じたような……黒子……かしら?」

 ルームメイト(黒子)なら美琴に気付かれずにベッドの下にだって潜り込むことができる。
目を爛々と輝かせ涎を垂らしながら美琴の生着替えを覗き見するルームメイトの姿を想像
するに至り念のため室内の死角をチェックする。黒子の不在を確認し一安心した美琴は脱
いだブレザーをクローゼットに掛け代わりにスーツを取り出すとユニットバスへと向かう。

 ザーザーとユニットバスにシャワーから流れ落ちる水音が響き渡る。
 美琴は降り注ぐシャワーを胸元に受け温水の心地よい感触に身を包んでいた。
 降り注ぐ温水は雫となって美琴の張りのある肌を滑らかに伝い落ちる。
 その雫を追うように美琴は掌を身体の上から下へとゆっくり這わせていく。
 だが、その掌が胸元に差し掛かったときふと手の動きが止まった。そして、
 降り注ぐシャワーの中で美琴の白い指だけが未発達な膨らみを包むように動いていた。
 そして美琴の薄く開いた唇から吐息とともに声にならない声がこぼれ落ちる。

「んっ。はあぁぁぁぁぁぁ」


 だがそれは官能的な嬌声ではなかった。

「はあぁぁぁ、やっぱり全然成長してない。
 なんでこんなに小っちゃいんだろ。私の胸。
 アイツ……アイツもやっぱり胸の大きな女の子が好き……なのかな?
 アイツの周りには私より胸の大きな女がいっぱい居るし…………
 私が勇気を出して声を掛けてんのにアイツったら何時だって私のことスルーするし、
 何かにつれ子供扱いするし、
 ひょっとして私の胸が小さいからかしら?
 どうして私の気持ちに気付かないのよ。アイツったら。
 あぁぁぁもう!アイツが悪い!アイツがああだからついこっちも電撃浴びせちゃうのよ。
 でも……もう少し私の胸が大きかったら……女としてみてくれたかな?
 はあぁ、早く大人になりたい」

 美琴はシャワーを止めると上気した肌を転がり落ちる雫をバスタオルで丁寧に拭き取る。
そして秘密戦隊RAILARのバトルスーツに手足を通しファスナー引き上げた時、鏡に映る
自分と目が合ってしまった。すると美琴は鏡に顔を近づけ目の前の御坂美琴に話しかける。

「こら!なんでアンタはアイツの前だと素直になれないのよ!」

 そう言われた鏡の中の御坂美琴は少し困ったような表情(かお)をしていた。
 そんな御坂美琴に美琴はたたみ掛けるように語りかける。

「グズグズしてると他の娘(こ)にアイツを盗られちゃうよ。判ってる!?
 だからそんな顔しないでシャキッとなさい!チェンジ!ノーマルモード」

 バトルスーツが変身時に発する眩い光がバスルームを一瞬満たすが、その光が治まると
鏡にはいつと同じ制服姿(ノーマルモード)の美琴が映っていた。

「そう、それで良いの!」

 鏡の中の自分にそう言い部屋に戻った美琴はそこで室内に生じた違和感の正体に気付く。

(あれ?机の上に封筒…………なんて在ったっけ?シャワーに行く前には無かったはず。
 ドアも窓も鍵はちゃんと掛かってるし……やっぱ、黒子だったのかな?
 ……って、果たし状?何なのこのアナクロな展開。どこのどいつよ?まったく!
 五和!…………ってことはあの巨乳女!?)

 取り出した果たし状に目を通すうち果たし状を持つ両手がワナワナと震え出す。

『果たし状
 そろそろ貴女との決着を付けたく、ここに果たし合いを申し込みます。
 本日17:30中央本線第3鉄橋の西側のたもとの河原にてお待ち致しております。
 ただし来るも来ないも貴女の自由です。
 怖じ気付いたのなら逃げても構いません。誰も責めたりしませんからご安心下さい。
 五和』

(なんですって……ふざけんな!なんでこの美琴さんが逃げなきゃなんないのよ。
 あの女とは一度話を付けないといけないと思ってたから好都合よ!)

 御坂美琴は果たし状をグシャリの握りつぶすと時計に目をやる。
 今から向かえば指定された時刻には間に合いそうだ。
 握りつぶした果たし状をゴミ箱に投げ捨てると御坂美琴は夕暮れに染まる部屋を飛び出した。


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土曜日16:48 第7学区とある学生寮の一室

「…………というわけで、変な誤解しちゃった五和ちゃんが常盤台のお嬢ちゃんにお茶目
 にも果たし状を出しちゃったのよ。多分、大丈夫だとは思うんだけど……万一、五和が
 暴走しちゃってお嬢ちゃんに怪我でもさせたら大変だから、是非とも上条殿に二人の仲
 裁に入って欲しいわけなのよ」
「はああぁぁぁぁぁ!お前ら、ホントに一体何やってんだよ!!
 今日もお前達キシサクマアのせいでこんな時刻にRAILARに招集されてタダでさえ気が
 重いって言うのに」

 ブツクサ文句を言う上条当麻だが、顔見知りである二人のことを放っておく訳にもいか
ずもう一度大きな溜息をつくとヤレヤレと重い腰をあげた。

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土曜日17:27 第7学区 中央本線第3鉄橋西の河原

指定された場所に到着した美琴は夕陽に赤く染まる河原を見渡し眉をひそめる。

「あれ?どこだろ…………って人っ子一人いないじゃん!
 人を呼び出しといてその本人がまだ来てないなんて一体どういうことよ!!」

不自然なほど人の気配がしない河原に一人待ち惚け喰らったようで美琴は悪態をつく。

「失礼な!ちゃんとここにいますよ!」
「ッ!!」

 突然背後から掛けられた声に美琴はビクリ!と肩を震わせる。振り返ると3メートル程
後に五和が立っていた。今日は秘密結社『キシサクマア』の女幹部『ブラックキャット』
のコスチュームではなく明るいトレーナーの上にタンクトップを重ね着し濃い色の細いパンツにサンダルという学園都市においてもごくありふれたファッションに身を包んでいる。
だからこそ右手に持つ3メートル超の海軍用船上槍(フリウリスピア)の異様さが際立つ。

「逃げずにここにやって来たことは素直に褒めて差し上げましょう」
「あんたこそ、この前小学生の目の前で無様に尻尾を巻いて逃げ出したのを憶えてないの」
「ご心配なく今日は私が貴女をギッタンギッタンに叩きのめして差し上げます。
 さあ、掛かってらっしゃい!」
「言われなくたって!!」

 美琴の前髪が青白く発光したかと思うと全身から這い出た数十匹の電気のヘビ達が牙を
剥き一気に五和に襲いかかる。

「甘い!」

 フリウリスピアの一閃で電気のヘビたちを霧散させると、反撃とばかりに海軍用船上槍
の穂先を美琴に向け雷光のような刺突を繰りだす。

「チェンジ!バトルモード!!」

 美琴のスーツから閃光が迸り莫大な光量が五和の視界を白く塗り潰す。スーツ変形時に
生じる閃光を利用して五和の目を眩ませた美琴は後方に飛び退きつつ再び雷撃の槍を五和
目掛けて撃ち放つ。そして閃光に白く塗り潰された河原の一角に激しい爆音が鳴り響き、
黒い爆煙が空高く舞い上がる。

 五和がこの程度で決着がつく相手ではないことを知っている美琴は5メートル後方に着
地しても気を緩めることなく爆煙に隠れた五和の気配を素早く探る。その時、目の前の爆
煙を突き抜け一本の氷の槍が美琴めがけて飛来する。

「フン!」

 反撃を予期していた美琴は風切り音を立てて飛来する氷の槍を左へのサイドステップで
難なく躱す。だがそれは囮であり本命は時間差を付けて美琴の予想着地点目掛けて放たれ
ていた。ヒュンヒュン!と黒い爆煙をちりぢりに切り裂いて無数の氷の槍が雨霰となって
美琴めがけて降り注ぐ。

「ちぃっ!!」

 そして美琴を取り巻く大気がフワリと揺らいだかと思うと地面に円を描くように黒い線
が現れる。その直径が2メートル程ある円周に沿って地面からブワッ!!と黒い影が吹き
上がると高速で旋回し始め美琴を取り囲むように黒い防御壁を構築する。降り注ぐ無数の
氷の槍は砂鉄の防壁に触れた瞬間その全てが粉々に砕け散っていった。そして砂鉄の防壁
を地上1メートルまで引き下げ美琴は薄くなった爆煙の向こうに立つ五和に話しかける。

「その程度の攻撃でお終いなの!?そんなんじゃ私に傷の一つだって付けらんないわよ」

 しかし不敵な笑みを浮かべる五和は唐突にドバン!とフリウリスピアの刺突を繰り出す。
雷光の速度で繰り出した海軍用船上槍が砂鉄の防壁に衝突した瞬間、五和はその刃先に込
めた術式を一気に開放する。

 ズバァッ!!と閃光が迸ると槍の穂先を起点として衝撃波が四方に奔り一瞬遅れて凄ま
じい爆風が河原を吹き荒れる。美琴を防御する砂鉄の防壁でさえ地面から削り取られた大
量の土砂と共に高く舞い上げられてしまった。だが五和は立ちこめる土煙の中で攻撃態勢
のまま舌打ちする。

「ちっ!私としたことが踏み込みが甘かったみたいです!」

 美琴は10メートルも後方に吹き飛ばされていたが無傷であった。正確には衝撃を和ら
げるためにあえて自ら後方に跳躍したのだ。美琴に反撃の機会を与えないように五和はす
ぐさま足下に水の魔術を施すと氷上を滑るような勢いで一気に間合いを詰め美琴目掛けて
フリウリスピアを繰りだす。

 ガキィィィィ!と夕暮れの河原に金斬り音が鳴り響く。


 五和のフリウリスピアの一撃を受け止めたのは美琴の砂鉄の剣である。高速で振動する
砂鉄をフリウリスピアの穂先が盛大な火花を上げている。一瞬の隙を突き美琴はその穂先
を巻き込むように砂鉄の剣を螺旋状に回してその穂先を跳ね上げると鋭い足捌きで五和の
懐に踏み込む。そして砂鉄の剣を横薙ぎに振り抜くが、この一撃はフリウリスピアの柄で
防がれてしまう。鍔迫り合いをする美琴と五和の互いの顔は50センチも離れていない。
そんな中、突然五和が美琴に問い掛けた。

「貴女に問います!覚悟はありますか!?」

 唐突な五和の問い掛けに美琴は素っ頓狂な声をあげてしまう。

「はあ?」
「当麻さんを狙う敵は貴方が想像もできないほど強大です。
 それでもあなたは当麻さんと一緒に闘う覚悟がありますか?」

 『闘う』。その単語に美琴の脳裏にあの時の上条の姿がフラッシュバックする。腕や頬に
付いた電極から伸び地面にまで垂れていたコード、体中に巻き付けられ所々に血が滲んだ
包帯、氷の海に浸かっていたかのように青ざめた顔、焦点の合っていない瞳。その姿を思
い出すだけで今でも美琴の胸は苦しいほど締め付けられる。

 手術衣を纏っただけのアイツはまともに歩けもしないのにボロボロの身体をひきずって、
それでも何かに立ち向かおうとしていた。それまでは気付かなかったアイツの闘い。それが生きるか死ぬかの瀬戸際で繰り広げられる闘いだったことに気付いたのがあの日だ。

 そして論理や理性や世間体や体裁すら粉々に打ち砕くほどのエネルギーが自分の内側に
眠っていて、超能力者(レベル5)としての『自分だけの現実(パーソナルリアリティー)』
でさえ易々と打ち砕くその圧倒的な感情の名前に気付いたのもあの日だ。

(もうあんな思いをするのは嫌ッ!)美琴は心の底からそう思う。
だからそんな当たり前のことを尋ねられたことが無性に腹が立つ。

「あるに決まってんでしょ!私の命に替えても当麻は護ってみせる!」

 だが、雄叫びのような美琴の返事を聞いた五和の目に嘲笑するような光が浮かぶ。

「では、なおさら貴女には任せられません!」
「なっ!?なに屁理屈言って……」
「軽々しく『命』なんて言わないで下さい!
 もし貴女の犠牲で当麻さんが助かったとして、それを当麻さんが喜ぶとでも思っている
 のですか?当麻さんがそんな自分を許せるとでも本気で思ってるんですか?貴女は!」
「うっ!」

 五和の指摘に美琴は言葉を詰まらせる。
 そう。上条はいつもそうだった。
 困ったときは相談しろって他人には言うくせに、それどころか頼んでもないのに勝手に
首突っ込んで来て死ぬしかなかった私と妹達を助けたくせに、自分の時は全てを自分一人
の中に背負い込んで、絶体絶命のピンチだろうが他人を巻き込まないよう助けを求めもし
ないし弱音すら吐きやしない。他人を助けたせいで自分が不幸になってもへらへら笑って
いるくせに、赤の他人だろうが目の前で人が不幸になるを見過ごすのが許せない。そう。
それが……私が大好きな上条当麻なのだ。

「もう一度尋ねます。
 貴女は最後まで戦い抜く覚悟がありますか?
 どんな困難に直面しようと決して諦めないと約束できますか!?
 必ず生き抜いて当麻さんに『お帰りなさい』って言ってあげると誓えますか?
 貴女にその覚悟がないなら、今すぐ当麻さんの前から消え去りなさい!」

五和の言葉が美琴の胸にグサリ!と刺さる。
そして五和という少女が本当に上条を愛しているのだということを美琴は痛感する。

でも…………、納得いかない。納得できる訳がない。
そう。たとえ目の前の少女が上条を心の底から愛しているとしても納得できる訳ない。
だからこそ砂鉄の剣を握る手に力がこもる。

「私だって。
 私だってあんた以上に『当麻を愛してる』んだからああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 もはや咆吼といってもよい叫び声をあげ美琴は鍔迫り合いする五和をはね飛ばし、全身
全霊を込めて砂鉄の剣を袈裟懸けに振り降ろし五和のフリウリスピアに叩き付ける。美琴
の渾身の一撃は後方のアックアが振るうメイスの一撃にも耐えたフリウリスピアを斬り裂
いた。穂先がゆっくりと落下していく様子を目を丸めて見つめる五和に美琴は勝利宣言の
ように言い放つ。

「どう!?これで…………」と美琴が言いかけた瞬間、河原に甲高い警報が鳴り響く。


(えっ、何?)と戸惑う美琴であったが直ぐにその音源が自分の間近であることに気付く。
それが自分のスーツから発せられる警告音だと認識した時スーツから電子音声が流れる。

「スーツ装着者『御坂美琴』による『破滅の言葉』コード入力を確認。
 機密保持規定3条2項に従い、本スーツは5秒後に自壊します。4……3……」
「ちょっ、ちょっと待って。違うの!今のはナシ!お願い、待って」

 『破滅の言葉』によりスーツが分子単位にまで分解されることを思い出した美琴はスーツに向かって必死に弁解するもののスーツが美琴の言い訳に耳を貸すはずも無い。

「2……1……ゼロ」

 無情にもカウントゼロで美琴のスーツから爆発的な閃光が迸る。瞼を閉じた五和ですら
網膜を焼かれそうな光量が周囲を白く塗り潰し、光の中でスーツが分子単位へと分解する。
閃光が収まり恐る恐る目を開けた五和の前にはなぜかタ○シ○ド仮面のコスプレをして
いる上条当麻が立っていた。

「み、御坂さん!?」

 素っ裸の美琴は上条のマントに正面から抱きかかえられるようにくるまれていたのだが、
予測不可能な事態の連続に正常な判断ができず、美琴は(なんでタ○シ○ド仮面?)など
とピント外れの思考に囚われていた。しかし美琴の顔から10センチも離れていないタ○
シ○ド仮面の素顔が上条のものだと気付いた途端美琴は顔を真っ赤に染め叫び声を上げた。

「きゃあぁぁっ!」 

 上条の胸板に両掌を押し当て上条を押し離そうと両腕に力を込める美琴であったが上条
の両腕がそれを許さない。上条に抱きしめられているという事実に軽いパニック上体に陥
った美琴は思い切り力を込め30センチほど上条から身体を引き離すと上条を睨み付け文
句を言い放つ。

「こら!なんで離さないのよ。あんたは!!」
「ちょっと待て!落ち着け!御坂。お前今自分がどんな格好なのか判ってるのか?」

 上条を睨み付けていた美琴はそう言われてようやく視線を下に向ける。視線が自分の両
腕を通過し上条との間に空いた30センチの隙間に落ちた時、視界の半分をスーツの赤色
ではなく肌色が占めていることに気付く。そして赤かった顔から一気に血の気が引いた。

 美琴の瞳には鴇色の先端をもつ自分の慎ましやかな胸の二つの膨らみと、その僅かばか
りの谷間の向こうにあるおへその窪みまで映っていた。そしてようやく気付く。スーツが
自壊し一糸纏わぬ姿となった自分を上条がマントで隠してくれていたことに。
 あわてて両腕を引き戻し両掌で胸の膨らみを隠した美琴がハッと視線を上げると自分の胸元を見下ろしている上条に気付き、真っ青になっていた顔が再び真っ赤に染まる。

「み、見た?」
「えっ?あーっ、そのーっ、ゴメン」

 美琴の瞳にジワッと涙が浮かぶと声をあげて泣き始めた。

「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁん!」
「スマン御坂、スマン。謝るから、だから、頼むから落ち着いてくれ!」
「うわあぁぁぁん!(こんな小っちゃいおっぱいを当麻に見られちゃった。もう死にたい)」
「スマン!つい見とれちまった。謝って済む問題じゃないけど、ゴメン。えーっと、何で
 もするから泣き止んでくれ」
「ひっ、ひっく(えっ?今見とれてって言った?)…………う……うん」 

 コクリと頷くと美琴は上条の肩口に顔を埋めるようにしなだれ掛かる。そして、上条の
背中に両手を回すとギュッと強く抱きしめる。今度は逆に美琴に抱き付かれた上条が狼狽
える番になった。

「み、……御坂!?」
「なによ!あんたが落ち付けって言うからこうしてんのよ!?」
「えっ!いや、俺達今抱き合っているんだけど大丈夫なのか!?」
「いいからこのまま…………もう少しだけ」


 上条の胸板に押しつけた小さな胸にスーツ一枚隔てた上条の鼓動が伝わってくる。

「どうだ。そろそろ落ち着いたか!?」
「うん」
「さっきは本当にゴメン」
「こっちこそゴメン!助けて貰ったのに泣いちゃったりして」
「いや、それでもやっぱり俺が悪い…………でも……
 なんで御坂のスーツは自壊したんだ?御坂の『破滅の言葉』って一体何だったんだ?」

 そう言われて美琴は僅かに顔を伏せ身を固くする。ギュッ!と唇を噛み締めると意を決
して顔を上げる。真っ直ぐ上条の顔を見つめたまま心に溜まった思いのたけをぶつける。

「それは……私のスーツの『破滅の言葉』は……『当麻を愛してる』なの!!
 それに本当に私は当麻が好き!今まで黙ってたけどずっと前から当麻が好きだった!」
「そっか。ありがとな。
 でもさ御坂は知ってるだろ。俺なんかと付き合ってるとろくなこと無いぞ」

「そんなことない。アンタがとっても危険なことに巻き込まれているのは判ってる。
 でもね。私だって戦える。私にあなたの背中を護らせて欲しいの!
 ううん、そんなことじゃないの。
 帰ってきた当麻に『お帰りなさい』をいうのは私でありたいの!
 誰がなんと言おうとそれだけは誰にも譲れない。譲りたくないの!」
「そうか『お帰りなさい』……っか、なんか嬉しいな。その言葉。ありがとう。御坂」
「私は最高の笑顔でお帰りなさいって言ってあげる。
 だから約束して、これからどんなことがあったって必ず私の所に帰ってくるって」
「ああ、約束だ」

 そして上条は美琴を強く抱きしめた。

「ところでアンタのスーツの『破滅の言葉』は一体なんなのよ?」
「それはさ、俺の今の気持ちを表す言葉だよ。
 まあ、ラストオーダーの奴もよく考えたもんだ。
 (『俺って幸せだな』なんて言葉は)普段の俺なら絶対口にしない言葉だからさ」
「???」
「それに今俺が『破滅の言葉』を言ったら二人揃って素っ裸で抱き合うことになるぞ。
 いや……それも一興かな?」
「なっ、なに馬鹿なこと言ってのよ!アンタは!」
「はははっ、冗談だよ。冗談」
「なにが可笑しいのよ。アン……コホン!とっ、と……当麻ったら……」 

 その呼び方にボッと頬を朱色に染める御坂美琴であるが上目づかいに見あげるその瞳は
真っ直ぐ上条の瞳を見つめていた。そして見つめ合う二人の顔を夕陽がさらに赤く赤く染
めあげていった。


「「でもこれからどうしよう?」」
「どうぞ!」

 どうしようかと顔を見合わせている二人に声をかけたのは五和であった。

「これは私の着替えです。癪だけど私からの御坂さんへのプレゼントです。使って下さい」
「えっ……あ、ありがとう。五和さん」

「良いんですよ。別に気になさらなくても。
 でも当麻さん。
 これからも私のこと……天草式十字凄教の一員としてよろしくお願いしますね」

 そして元気よくペコリとお辞儀するとクルリと当麻達に背を向けて歩き始めた。

「ありがとう。五和。それとゴメン!」

 上条の言葉に五和は振り返らずに右手を挙げて応えた。否。振り返りたくても五和は振
り返ることができなかった。なぜならその頬を止めどなく流れ落ちる涙を上条に見られた
くないから。

 堤防を登り切るとそこに一人の男が立っていた。夕陽を背にした男は少しだぶついた服
を着てクワガタのように黒光りするツンツンした髪をしていた。五和は慌てて涙を袖でゴ
シゴシ拭うと努めて明るくその人物の名前を口にした。

「建宮さん」
「ご苦労であった。五和」
「えへっ、私…………ふられちゃいました……………………」
「そうか…………」

 気丈に振る舞おうとしていた五和だったがそこが限界だった。堪えきれなくなった感情
が堰を切って溢れ出す。

「ふっ、ふっ、ふえぇぇぇ─────ん」

 五和は建宮に抱きつくと胸に顔を埋め大きな声を出して泣き続ける。
 そんな五和の肩に優しく手を乗せて建宮斎字は静かに話しかける。

「五和、今は心ゆくまで泣けばよい。
 でも心配するな。今のお前は正真正銘世界一良い女なのよ。
 こんな良い女を世の男どもが放っておくはずがないのよな」
「うわあぁぁぁ───────────────ん」

 夕陽が二人の姿を赤くそして優しく染め上げていた。


%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%

土曜日18:05 第7学区 中央本線第3鉄橋西の河原

「あ、あ、あんの女(あま)あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 河原に御坂美琴の咆吼が響き渡る。

「あのーっ、美琴さん、一体どうなさいました?」
「うっさい!アンタはあっち向いてなさい!」

 御坂美琴は五和から受け取った服に着替えていた。
 五和から渡された服はぴったり目のパンツと胸元が大きく開いたニット地の服である。
ただしその服は胸ものがダブついているというか、それよりは明らかに間違ったサイズを
無理して着ているという表現がよく似合う。

 きっとDカップ以上のバストを持つ女性ならば胸の谷間を強調するその服のデザインは
街の男達の視線を胸元に釘付けにしただろう。しかし悲しいかな、御坂美琴はAカップ。
ダブついた胸元はセクシーさどころか滑稽さを醸し出していた。しかもパンツのウエスト
が少しきつめだった事が御坂美琴に追い打ちをかける。

(あっ、あ、あの女、こんな服を使って私とのスペック(バスト)差を見せつけるなんて!)

「あのーっ、御坂さん!?」
「どうせ、私はAカップよ!
 でも2年後よ!2年後を見てなさい。あの女よりもっと良い女になってやるんだから!
 当麻が私を選んだことを後悔させないぐらい、すっごくいい女になってやるんだから。
 だから、アンタは期待して待ってなさい。イイ!」
「ああ。でもな、今でも美琴は俺には勿体ないぐらいのいい女だよ」
「とっ、当麻ァァ」
「でも、まあ。2年後に今よりもっといい女になるっていうなら期待して待ってるよ」


おしまい。

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