『いただきます』
席についた結標・淡希達はのんびりと昼食の挨拶をしていた。
席は窓辺、ガラス張りの大きな窓が真横にあり、外の風景がすぐに見える場所である。
これならば探し人が横切った場合などでもすぐさま対処出来るから、との結標の判断であった。
「そういえば、シスターちゃん、上条ちゃんはどうしたのですかー?」
「んー?」
食事を開始してから数分。
ハンバーガーを頬張りつつ、疑問の声を上げた小萌へと首ごと動かして視線を送るインデックス。
インデックスの口がもごもごと蠢く。
どうやら何かを伝えようとしているようだが、その口の中にある食べ物が邪魔をしているらしい。
「あ、喋るのはキチンと口の中のものを飲み込んでからですよー?」
小萌はその様子に思わず苦笑。
人差し指を立てて、無理矢理食べ物を飲み込もうとするインデックスを制止する。
こうして見ると確かに先生っぽいわね、とそれを見て結標は感心していた。
噂に聞く、熱血チビッコ教師。
その肩書きは間違いではないようだ、と結標も口元にハンバーガーを運ぶ。
その熱血教師の言葉に頷き、インデックスは食べ物をゆっくりと咀嚼し始めた。
それから数十秒経ち、インデックスはようやく口に詰め込んだハンバーガーを飲み込む。
「ぷはっ」
満足そうに息を吐くインデックス。
その膝元ではスフィンクスと呼ばれていた猫がおこぼれに預かっていた。
「口。横についてる」
テーブルに付属していたティッシュを使ってインデックスの口元を拭うのは姫神・秋沙。
切り揃えた前髪に腰辺りまで伸びた黒髪とその身を包む巫女服が特徴の少女だ。
「んんぅ……ありがとう、あいさ」
「どういたしまして」
僅かにだが微笑む姫神と、それに釣られて笑顔になるインデックス。
和やかな雰囲気が流れる中、結標は柔らかい口調で小萌の提示した疑問を少々改竄して引っ張り出した。
「それで……なんであんなところに一人で倒れてたの?」
「それは話すも涙、聞くも涙な話になるんだけど……」
よよよよ、と嘘泣きの芝居を前置きに事情を話し始めるインデックス。
席についた結標・淡希達はのんびりと昼食の挨拶をしていた。
席は窓辺、ガラス張りの大きな窓が真横にあり、外の風景がすぐに見える場所である。
これならば探し人が横切った場合などでもすぐさま対処出来るから、との結標の判断であった。
「そういえば、シスターちゃん、上条ちゃんはどうしたのですかー?」
「んー?」
食事を開始してから数分。
ハンバーガーを頬張りつつ、疑問の声を上げた小萌へと首ごと動かして視線を送るインデックス。
インデックスの口がもごもごと蠢く。
どうやら何かを伝えようとしているようだが、その口の中にある食べ物が邪魔をしているらしい。
「あ、喋るのはキチンと口の中のものを飲み込んでからですよー?」
小萌はその様子に思わず苦笑。
人差し指を立てて、無理矢理食べ物を飲み込もうとするインデックスを制止する。
こうして見ると確かに先生っぽいわね、とそれを見て結標は感心していた。
噂に聞く、熱血チビッコ教師。
その肩書きは間違いではないようだ、と結標も口元にハンバーガーを運ぶ。
その熱血教師の言葉に頷き、インデックスは食べ物をゆっくりと咀嚼し始めた。
それから数十秒経ち、インデックスはようやく口に詰め込んだハンバーガーを飲み込む。
「ぷはっ」
満足そうに息を吐くインデックス。
その膝元ではスフィンクスと呼ばれていた猫がおこぼれに預かっていた。
「口。横についてる」
テーブルに付属していたティッシュを使ってインデックスの口元を拭うのは姫神・秋沙。
切り揃えた前髪に腰辺りまで伸びた黒髪とその身を包む巫女服が特徴の少女だ。
「んんぅ……ありがとう、あいさ」
「どういたしまして」
僅かにだが微笑む姫神と、それに釣られて笑顔になるインデックス。
和やかな雰囲気が流れる中、結標は柔らかい口調で小萌の提示した疑問を少々改竄して引っ張り出した。
「それで……なんであんなところに一人で倒れてたの?」
「それは話すも涙、聞くも涙な話になるんだけど……」
よよよよ、と嘘泣きの芝居を前置きに事情を話し始めるインデックス。
簡潔にインデックスの話を纏めるとこうだ。
今朝方、久方ぶりに外に出る事が出来たので二人で散歩をしていたら、公園で困っているおばあさんを発見。
事情を聞いて見ればおばあさんの飼い猫がどこかに行ってしまったのだという。
『それなら俺達に任せておけ』
と、困るおばあさんを見て耐え切れなかったのか唐突に声を上げる"とうま"。
そうして、おばあさんからその猫の特徴を聞き、捜索を開始した"とうま"とインデックス。
捜索から約三十分。
猫が行きそうな場所を片っ端から調べてようやくそれらしき猫を見つけたインデックス達。
しかし、その猫はインデックス達を見つけると同時に逃げ出してしまった。
思わず追いかけるが、スフィンクスを抱えた状態であるインデックスはそこまでスピードが出せない。
『くそっ!悪い、インデックス!お前は此処で待っててくれ!ぬおおおおおおおおーっ!』
暑苦しい叫び声を上げて駆けていく"とうま"。
インデックスはスフィンクスの身を案じて"とうま"を見送ったのだが―――、
今朝方、久方ぶりに外に出る事が出来たので二人で散歩をしていたら、公園で困っているおばあさんを発見。
事情を聞いて見ればおばあさんの飼い猫がどこかに行ってしまったのだという。
『それなら俺達に任せておけ』
と、困るおばあさんを見て耐え切れなかったのか唐突に声を上げる"とうま"。
そうして、おばあさんからその猫の特徴を聞き、捜索を開始した"とうま"とインデックス。
捜索から約三十分。
猫が行きそうな場所を片っ端から調べてようやくそれらしき猫を見つけたインデックス達。
しかし、その猫はインデックス達を見つけると同時に逃げ出してしまった。
思わず追いかけるが、スフィンクスを抱えた状態であるインデックスはそこまでスピードが出せない。
『くそっ!悪い、インデックス!お前は此処で待っててくれ!ぬおおおおおおおおーっ!』
暑苦しい叫び声を上げて駆けていく"とうま"。
インデックスはスフィンクスの身を案じて"とうま"を見送ったのだが―――、
「待っているうちに御腹が空いて来て、倒れていたと」
思わず楽しそうに苦笑する結標。
「うぅ、笑い事じゃないかも。あわきが来なきゃ本当に行き倒れになってたかもしれないんだよ?」
「良かったね。結標先輩が良い人で」
「結標ちゃんみたいな良い子を持てるなんて……先生は貴女の先生が羨ましいですよー」
感謝の視線を向けるインデックスと微笑む姫神と小萌。
正直、素直な感謝の念を向けられると、自分が昔やっていた事を思い出して胸に幾つか矢が刺さる思いだった。
そして、それと同時に結標は小さな違和感を感じた。
違和感の元は先程のインデックスの話だ。
猫とそれを追いかける少年。
その様な構図に結標は会った事がある。
しかも、今日の朝にだ。
恐らくだが、インデックスの言っていた時刻的にも合致しているだろう。
「ねぇ、もしかして、その"とうま"って子。ツンツンの黒い短髪が特徴の?」
「ふえ?」
「結標先輩。あの人を知ってるの?」
「知ってる、というよりも今朝方それっぽい子に会ったんだけど……高校生くらいの男の子よね?」
「えぇ、そうです。私の自慢の教え子なのですよー」
えっへんと胸を張る小萌。
その顔は実に誇らしげだ。
結標はその様子を見て、良い教師ね、と微笑みつつ頷きを一つ。
その表情を真剣なものに変え、両肘をテーブルについてやや腰を落として顔の前で手を組み合わせる。
特に意味はないけれど大事なのは雰囲気だ。
「今朝、ゴミ捨てに行った時のことなんだけど……」
ふんふん、と勢い良く頷くインデックス。余程"とうま"という子が心配らしい。
他の二人も結標の次の言葉を待つ。
その空気が結標の何かを刺激したのか思わず、結標は悪戯心を動かしてしまった。
そう、人が自分の中の悪魔に誘惑されて堕落していくように。
「……いきなり私の胸に飛び込んできたの」
頬に手を当て、出来るだけ顔を赤らめ、恥ずかしそうに言う結標。
思わず楽しそうに苦笑する結標。
「うぅ、笑い事じゃないかも。あわきが来なきゃ本当に行き倒れになってたかもしれないんだよ?」
「良かったね。結標先輩が良い人で」
「結標ちゃんみたいな良い子を持てるなんて……先生は貴女の先生が羨ましいですよー」
感謝の視線を向けるインデックスと微笑む姫神と小萌。
正直、素直な感謝の念を向けられると、自分が昔やっていた事を思い出して胸に幾つか矢が刺さる思いだった。
そして、それと同時に結標は小さな違和感を感じた。
違和感の元は先程のインデックスの話だ。
猫とそれを追いかける少年。
その様な構図に結標は会った事がある。
しかも、今日の朝にだ。
恐らくだが、インデックスの言っていた時刻的にも合致しているだろう。
「ねぇ、もしかして、その"とうま"って子。ツンツンの黒い短髪が特徴の?」
「ふえ?」
「結標先輩。あの人を知ってるの?」
「知ってる、というよりも今朝方それっぽい子に会ったんだけど……高校生くらいの男の子よね?」
「えぇ、そうです。私の自慢の教え子なのですよー」
えっへんと胸を張る小萌。
その顔は実に誇らしげだ。
結標はその様子を見て、良い教師ね、と微笑みつつ頷きを一つ。
その表情を真剣なものに変え、両肘をテーブルについてやや腰を落として顔の前で手を組み合わせる。
特に意味はないけれど大事なのは雰囲気だ。
「今朝、ゴミ捨てに行った時のことなんだけど……」
ふんふん、と勢い良く頷くインデックス。余程"とうま"という子が心配らしい。
他の二人も結標の次の言葉を待つ。
その空気が結標の何かを刺激したのか思わず、結標は悪戯心を動かしてしまった。
そう、人が自分の中の悪魔に誘惑されて堕落していくように。
「……いきなり私の胸に飛び込んできたの」
頬に手を当て、出来るだけ顔を赤らめ、恥ずかしそうに言う結標。
時が、止まった。
そのまま、誰も身動きが取れずにきっかり一分が経過。
そして時は動き出す。
そのまま、誰も身動きが取れずにきっかり一分が経過。
そして時は動き出す。
「ちょ、かかか、上条ちゃんがそんな破廉恥なー!?いやするかもしれませんけど!」
「うふふ。私達って。やっぱり救われない」
「とーうーまー……」
「え、えーっと……」
慌てて手を振って自らの教え子の容疑を晴らそうとする小萌と虚ろな目で窓の外を見る姫神。
インデックスに至ってはハンバーガーなどが置いてあったトレイを噛みはじめる始末だ。
「って、インデックスちゃん。それは噛んだらいけませんよー」
「あ、うん。ごめん、こもえ」
「いえいえ」
小萌にツッコミをきっかけに冷静に戻る一同。
そして、インデックスは呼吸を整えてテーブルを叩いて結標の方へと身を乗り出した。
その表情は真剣そのものだ。
「で、どういう事なの、あわき!?」
「あ、いや、えっと……」
ここまで派手にリアクションを取られるとは思っていなかった結標は正直な所どうしたら良いのかわからない状態だ。
オロオロと視線を彷徨わせた後、小萌や姫神の方を見るが、二人もコチラを真剣な眼差しで見ている。
ブルータス、お前もか。
「うふふ。私達って。やっぱり救われない」
「とーうーまー……」
「え、えーっと……」
慌てて手を振って自らの教え子の容疑を晴らそうとする小萌と虚ろな目で窓の外を見る姫神。
インデックスに至ってはハンバーガーなどが置いてあったトレイを噛みはじめる始末だ。
「って、インデックスちゃん。それは噛んだらいけませんよー」
「あ、うん。ごめん、こもえ」
「いえいえ」
小萌にツッコミをきっかけに冷静に戻る一同。
そして、インデックスは呼吸を整えてテーブルを叩いて結標の方へと身を乗り出した。
その表情は真剣そのものだ。
「で、どういう事なの、あわき!?」
「あ、いや、えっと……」
ここまで派手にリアクションを取られるとは思っていなかった結標は正直な所どうしたら良いのかわからない状態だ。
オロオロと視線を彷徨わせた後、小萌や姫神の方を見るが、二人もコチラを真剣な眼差しで見ている。
ブルータス、お前もか。
○
音が空間に響いた。
それは強い打撃音であり、打撃の主は一人の男だ。
鋭い打撃を受けた黒い影は派手に吹き跳び、その背を壁へと叩きつけられて倒れ伏す。
一方、打撃を放った男はとても戦闘後とは思えない飄々とした様子で周りを見渡した。
薄暗い広場。
正確には路地裏に位置する場所だが、そう表現しても構わないだろう。
その広場には十人程の男達が倒れており、そのどれもが黒い全身タイツを身に纏っていた。
怪しすぎる。
「気味の悪い連中だにゃー。オレにそっちの趣味はねーぜよ」
ケラケラと軽い口調で笑う男に僅かに差し込んだ太陽の光が当たる。
金色に染められた短髪に動きやすそうな黒いティーシャツと茶色のズボン。
首から掛けられた安物っぽい金色の首飾りと青いサングラスが妙に男を不良っぽく見せていた。
男は欠伸を一つ。
妙に長い腕を使い、頭を二、三度掻いて、ここまでの経緯を思いだす。
それは強い打撃音であり、打撃の主は一人の男だ。
鋭い打撃を受けた黒い影は派手に吹き跳び、その背を壁へと叩きつけられて倒れ伏す。
一方、打撃を放った男はとても戦闘後とは思えない飄々とした様子で周りを見渡した。
薄暗い広場。
正確には路地裏に位置する場所だが、そう表現しても構わないだろう。
その広場には十人程の男達が倒れており、そのどれもが黒い全身タイツを身に纏っていた。
怪しすぎる。
「気味の悪い連中だにゃー。オレにそっちの趣味はねーぜよ」
ケラケラと軽い口調で笑う男に僅かに差し込んだ太陽の光が当たる。
金色に染められた短髪に動きやすそうな黒いティーシャツと茶色のズボン。
首から掛けられた安物っぽい金色の首飾りと青いサングラスが妙に男を不良っぽく見せていた。
男は欠伸を一つ。
妙に長い腕を使い、頭を二、三度掻いて、ここまでの経緯を思いだす。
事の始まりは何時も通り、愛する妹の無事を確認と後をつけていたら、唐突に何者かの視線を複数感じた。
勿論、プロのスパイである男はその視線にすぐに気づきつつも、すぐには迎撃せず、暫く泳がせてみる事にしたのだ。
その方が相手の出方も伺いやすくと思い、妹の身辺警護を再開したのである。
別に妹を愛でる時間を削るのが勿体無かったわけではない。
昼になるまで、その身辺警護という名のストーカー行為は軍隊仕込みっぽい妹のストレートを土産に追い返されるまで
続いたわけだが、その間もついてくる視線達は男に張り付いたまま。
いい加減理由の一つでも聞いてやろうと気が立っていた男は、視線達を人気の無い場所まで誘導した。
そして、人気の無い場所に来るなり現れた全身タイツの男達。
気配をあまり感じさせなかったためプロだと思っていたが、あまりにも格好が馬鹿すぎる。
流石に全身タイツはないだろう。
その全身タイツ達は男を取り囲むなり無機質な声で一言、
「動くな」
格好と合わない無機質な声に違和感を感じた男は取り敢えず一歩。
「止まれ」
と言われたので、止まってその場で派手にダンスを踊り始めてみた。
「怪しい動きをするな」
三段移行した末の曖昧な要求。
それに対して取り敢えず思いつく限りの怪しい行動をしてみたら、いきなり黒タイツ達は襲いかかってきた。
勿論、プロのスパイである男はその視線にすぐに気づきつつも、すぐには迎撃せず、暫く泳がせてみる事にしたのだ。
その方が相手の出方も伺いやすくと思い、妹の身辺警護を再開したのである。
別に妹を愛でる時間を削るのが勿体無かったわけではない。
昼になるまで、その身辺警護という名のストーカー行為は軍隊仕込みっぽい妹のストレートを土産に追い返されるまで
続いたわけだが、その間もついてくる視線達は男に張り付いたまま。
いい加減理由の一つでも聞いてやろうと気が立っていた男は、視線達を人気の無い場所まで誘導した。
そして、人気の無い場所に来るなり現れた全身タイツの男達。
気配をあまり感じさせなかったためプロだと思っていたが、あまりにも格好が馬鹿すぎる。
流石に全身タイツはないだろう。
その全身タイツ達は男を取り囲むなり無機質な声で一言、
「動くな」
格好と合わない無機質な声に違和感を感じた男は取り敢えず一歩。
「止まれ」
と言われたので、止まってその場で派手にダンスを踊り始めてみた。
「怪しい動きをするな」
三段移行した末の曖昧な要求。
それに対して取り敢えず思いつく限りの怪しい行動をしてみたら、いきなり黒タイツ達は襲いかかってきた。
そして、結局、黒タイツ達を返り討ちにして現状に至るわけだ。
男は周りを見渡し、取り敢えず襲撃の目的を聞こうと手近な黒タイツへと歩み寄っていく。
そこでようやく気づいた。
黒タイツの中身の体が無くなり、代わりとばかりに日常的に見る"とある液体"が其の場に広がっている事に。
「水?」
首を傾げつつ、しゃがみ込む男。
襲撃者達は黒タイツだけを残し、その身を透明な水へと変えていた。
いや、変えていたというよりも、戻ったという表現の方がこの場合は正しいのだろうか。
「………」
それを見た男の表情が一瞬険しくなる。
"人間"が突然"水"になった。
しかし、男はその考えを即座に否定する。
これは逆だ。
"人間"が"水"になったのではなく"水"が"人間"の形を模していたのだ。
「能力、魔術……これはどっちなのかにゃー?」
ふと、男は黒タイツを中心に広がっている水溜りに浮く妙な物を発見した。
その形は簡略されてはいるものの、頭部や四肢を申し訳程度に再現した物体。
色折り紙で作られた薄っぺらい人形だ。
折られた部分を辿って開いて行けば、内側にビッシリと書かれた古臭い漢字の数々。
男には、この漢字の形、配置に見覚えがあった。
「式神操術の符……これは、陰陽師だにゃー?」
陰陽師。
それは、世界各地に隠れるようにして存在する数多の魔術系統の一つの形である。
表では無いとされている、世界の法則を歪める裏技。
その術を要する者達の総称を魔術師と呼ぶ。
そして、今、目の前にある符を使った術は、男が以前まで使っていた魔術と近いものがあった。
正確な系統こそ違うものの、似た様な水を利用した術式を得意としていた男は思わず笑みを漏らす。
「これは天才陰陽博士の土御門・元春さんへの挑戦状と見て良いのかにゃー?」
今は既に魔術を使えない男――土御門はそれでも自信に満ちた獰猛な笑みを口元に浮かべる。
しかし、その目は鋭く、此処には居ない敵を見据えていた。
広場に静寂が満ちる。
だが、その静寂は一分と続かなかった。
男は周りを見渡し、取り敢えず襲撃の目的を聞こうと手近な黒タイツへと歩み寄っていく。
そこでようやく気づいた。
黒タイツの中身の体が無くなり、代わりとばかりに日常的に見る"とある液体"が其の場に広がっている事に。
「水?」
首を傾げつつ、しゃがみ込む男。
襲撃者達は黒タイツだけを残し、その身を透明な水へと変えていた。
いや、変えていたというよりも、戻ったという表現の方がこの場合は正しいのだろうか。
「………」
それを見た男の表情が一瞬険しくなる。
"人間"が突然"水"になった。
しかし、男はその考えを即座に否定する。
これは逆だ。
"人間"が"水"になったのではなく"水"が"人間"の形を模していたのだ。
「能力、魔術……これはどっちなのかにゃー?」
ふと、男は黒タイツを中心に広がっている水溜りに浮く妙な物を発見した。
その形は簡略されてはいるものの、頭部や四肢を申し訳程度に再現した物体。
色折り紙で作られた薄っぺらい人形だ。
折られた部分を辿って開いて行けば、内側にビッシリと書かれた古臭い漢字の数々。
男には、この漢字の形、配置に見覚えがあった。
「式神操術の符……これは、陰陽師だにゃー?」
陰陽師。
それは、世界各地に隠れるようにして存在する数多の魔術系統の一つの形である。
表では無いとされている、世界の法則を歪める裏技。
その術を要する者達の総称を魔術師と呼ぶ。
そして、今、目の前にある符を使った術は、男が以前まで使っていた魔術と近いものがあった。
正確な系統こそ違うものの、似た様な水を利用した術式を得意としていた男は思わず笑みを漏らす。
「これは天才陰陽博士の土御門・元春さんへの挑戦状と見て良いのかにゃー?」
今は既に魔術を使えない男――土御門はそれでも自信に満ちた獰猛な笑みを口元に浮かべる。
しかし、その目は鋭く、此処には居ない敵を見据えていた。
広場に静寂が満ちる。
だが、その静寂は一分と続かなかった。
「この道は一体、なーンなーンでーすかー?」
「あ、あの、落ち着いて……きっと、もうすぐ出口、ですよ。……たぶん」
「気楽でいいよなァ、眼鏡はよォ」
「め、眼鏡……」
「あ、あの、落ち着いて……きっと、もうすぐ出口、ですよ。……たぶん」
「気楽でいいよなァ、眼鏡はよォ」
「め、眼鏡……」
唐突に広場の中央を横切る道、その片方から響いて来る中性的な声と女性の声。
去るか、と考えるが四方は壁。
声が響いてくる道と逆方向にも道があるが、行こうとしても距離が遠すぎる。
恐らく、急いだとしても声の主達が土御門の姿を発見する方が先だろう。
それは拙い。
水溜りは何時の間に広がって消えているが、問題はそこら中に落ちた黒タイツだ。
下手したら何らかの事件か、黒タイツをそこら中にばら撒く変態と見られて通報される恐れもある。
多角的スパイの看板を背負った土御門にとって、極力目立つ行動は避けたい所なのだ。
しかし、腕を組んで思案するものの、打開策は中々思いつかない。
……これでは、そうそう身を隠す場所なんてないにゃー――。
どうしたものか、と首を捻る土御門。
その際に、ふと、土御門の横に位置する壁と壁の間、其処に開いた隙間に目が行く。
其処に挟まっている分厚い厚紙のような物が土御門の目を惹いた。
「これがあったか――ッ!」
すぐさま厚紙を隙間から取り出し、本来あるべき姿へと組み立て始める。
完成に数秒。
声は段々と近づいてくる。恐らく接敵まで残り数十秒もないだろう。
組み立ては完了。
後はこの中に入るだけだ、と土御門は己の手腕に感動する。
「一世一代の勝負……漢、土御門・元春、往くぜい……!」
接敵までもう数秒も無い。
小声で叫ぶと同時、土御門はその物体の中へと飛び込んだ。
去るか、と考えるが四方は壁。
声が響いてくる道と逆方向にも道があるが、行こうとしても距離が遠すぎる。
恐らく、急いだとしても声の主達が土御門の姿を発見する方が先だろう。
それは拙い。
水溜りは何時の間に広がって消えているが、問題はそこら中に落ちた黒タイツだ。
下手したら何らかの事件か、黒タイツをそこら中にばら撒く変態と見られて通報される恐れもある。
多角的スパイの看板を背負った土御門にとって、極力目立つ行動は避けたい所なのだ。
しかし、腕を組んで思案するものの、打開策は中々思いつかない。
……これでは、そうそう身を隠す場所なんてないにゃー――。
どうしたものか、と首を捻る土御門。
その際に、ふと、土御門の横に位置する壁と壁の間、其処に開いた隙間に目が行く。
其処に挟まっている分厚い厚紙のような物が土御門の目を惹いた。
「これがあったか――ッ!」
すぐさま厚紙を隙間から取り出し、本来あるべき姿へと組み立て始める。
完成に数秒。
声は段々と近づいてくる。恐らく接敵まで残り数十秒もないだろう。
組み立ては完了。
後はこの中に入るだけだ、と土御門は己の手腕に感動する。
「一世一代の勝負……漢、土御門・元春、往くぜい……!」
接敵までもう数秒も無い。
小声で叫ぶと同時、土御門はその物体の中へと飛び込んだ。
○
暗い路地裏を風斬・氷華は白い少年と共に歩いていた。
「ったく、本当にいつまで続きやがンだァ?」
路地裏に白い少年――一方通行のウンザリとした感じの声が響く。
「……で、でも……あ、何か出口のような感じが……」
その隣に並んで歩く風斬は、一方通行の声に慌てて路地裏の終わりを指差す。
彼は風斬に言われて目を凝らして先を見てみるが、眉を顰めただけだった。
「思いっきり中間地点って感じの広場じゃねェか」
「あ、あれ……?」
それを聞いて同じように目を凝らす風斬。
成る程、確かに先にあるのは広場であり、その先には今歩いている路地裏の入り口と同じ様なものがある。
風斬はそれを見て項垂れ、
「あ、あう……ごめんなさい……」
「……敬語」
「え?」
下げた頭をキョトンとした表情で上げる風斬。
面倒臭そうにボリボリと頭を掻きつつ、風斬を横目で見やる一方通行。
「なンっか、さっきからムズ痒いと思ってたンだけどよォ。その敬語だ」
一方通行は視線を前方へと戻し、
「最近使われてねェもンだから、逆に気持ち悪りィンだよ。だから、やめろや」
横暴に聞こえる一言。
しかし、それは遠慮無く接して欲しいという気持ちの表れとも取れる一言だ。
それを聞いた風斬は一瞬驚きの表情を作った後、すぐさま思わず笑顔になってしまう。
この目の前の少年は、素直では無いが根は優しいといったタイプの人間らしい、と風斬は一方通行を評価する。
隣でニコニコと笑い続ける風斬に気づき、一方通行はウンザリした様子で、
「オマエよォ……マゾかなンかかァ?」
「?」
突然放たれた言葉に首を傾げる風斬。
どういう意味だったろうか、と言葉の意味を頭の中の三角柱を回転させて検索すること数秒。
検索終了と同時に風斬の顔は真っ赤に染まった。
「ち、違……ッ!」
すぐさま腕を振りつつ慌てて一方通行の放った言葉を否定する風斬。
それを見て一方通行は少しだけ楽しそうに笑みを浮かべ、
「冗談だってーの。本気にすンな、馬鹿眼鏡」
「馬鹿じゃ、ないもん……」
顔を真っ赤に染めて少しだけ俯きながら人差し指同士をくっつけていじける風斬。
などといじけている間に広場に出てしまった。
妙に整然とした暗い広場。
申し訳程度に光が差し込んでいるが、それも通って来た通路と同程度の明度しかもたらしていない。
路地裏だと言うのに妙に整備された広場は、スッキリとした雰囲気を見るものに与える。
ただし、ただ一点を除いては、だが。
「ったく、本当にいつまで続きやがンだァ?」
路地裏に白い少年――一方通行のウンザリとした感じの声が響く。
「……で、でも……あ、何か出口のような感じが……」
その隣に並んで歩く風斬は、一方通行の声に慌てて路地裏の終わりを指差す。
彼は風斬に言われて目を凝らして先を見てみるが、眉を顰めただけだった。
「思いっきり中間地点って感じの広場じゃねェか」
「あ、あれ……?」
それを聞いて同じように目を凝らす風斬。
成る程、確かに先にあるのは広場であり、その先には今歩いている路地裏の入り口と同じ様なものがある。
風斬はそれを見て項垂れ、
「あ、あう……ごめんなさい……」
「……敬語」
「え?」
下げた頭をキョトンとした表情で上げる風斬。
面倒臭そうにボリボリと頭を掻きつつ、風斬を横目で見やる一方通行。
「なンっか、さっきからムズ痒いと思ってたンだけどよォ。その敬語だ」
一方通行は視線を前方へと戻し、
「最近使われてねェもンだから、逆に気持ち悪りィンだよ。だから、やめろや」
横暴に聞こえる一言。
しかし、それは遠慮無く接して欲しいという気持ちの表れとも取れる一言だ。
それを聞いた風斬は一瞬驚きの表情を作った後、すぐさま思わず笑顔になってしまう。
この目の前の少年は、素直では無いが根は優しいといったタイプの人間らしい、と風斬は一方通行を評価する。
隣でニコニコと笑い続ける風斬に気づき、一方通行はウンザリした様子で、
「オマエよォ……マゾかなンかかァ?」
「?」
突然放たれた言葉に首を傾げる風斬。
どういう意味だったろうか、と言葉の意味を頭の中の三角柱を回転させて検索すること数秒。
検索終了と同時に風斬の顔は真っ赤に染まった。
「ち、違……ッ!」
すぐさま腕を振りつつ慌てて一方通行の放った言葉を否定する風斬。
それを見て一方通行は少しだけ楽しそうに笑みを浮かべ、
「冗談だってーの。本気にすンな、馬鹿眼鏡」
「馬鹿じゃ、ないもん……」
顔を真っ赤に染めて少しだけ俯きながら人差し指同士をくっつけていじける風斬。
などといじけている間に広場に出てしまった。
妙に整然とした暗い広場。
申し訳程度に光が差し込んでいるが、それも通って来た通路と同程度の明度しかもたらしていない。
路地裏だと言うのに妙に整備された広場は、スッキリとした雰囲気を見るものに与える。
ただし、ただ一点を除いては、だが。
風斬と一方通行は同時に固まった。
とある一点に視線を釘付けにされる風斬と一方通行。
「何だろう……あれ」
思わず風斬はその一点――広場の壁際で暴れるダンボールを指差した。
「俺に聞くンじゃねェよ」
一方通行は呆れた表情でそれを見て、溜息を一つ。
ダンボール自体は大きめだが、広場の端にあるせいかあまり目立たない。
しかし、その暴れっぷりがその存在を異常にアピールしていた。
一方通行は嫌そうな顔をしつつも、ダンボールへ向かって歩きだした。
一瞬、どうしたのかと首を傾げるが、慌ててそれを追う風斬。
「ったくよォ……なンだァ今日は厄日かァ?」
「ど、どうするの……?」
ダンボールの目の前へと到着する二人。
風斬は謎の未確認ダンボールを見て、やや不安になったのか、一方通行の服の袖を掴んで引っ張る。
途中、『ちいさすぎたぜよー!?』などとダンボールから聞こえたような気がしたが気にしない。
「あ、危ない……かもしれないよ……?」
心配で思わず声をかけるが、一方通行はあァ?とコチラを向き、
「どーせ、捨て猫かなンかだろうよォ。捨てンなら、もうちっと人通りが多い所に捨てやがれってンだ、クソったれが」
口調こそ荒いが、そこには猫に対する優しさの様なものが見え隠れしているようにも風斬には聞こえた。
そのせいか、不安よりも、なんだか妙な気持ちが大きくなった風斬は嬉しそうな笑みを一方通行へ向かって浮かべる。
その表情を見て、またウンザリした様な表情を作る一方通行。
彼は暫くニコニコと笑う風斬と顔を見合わせていたが、暫くしてダンボールへと向き直り、
「……さってとォ」
「……本当に、猫……なのかな?」
「―――」
疑問の声を上げるが、返事は無い。
しかし、構わず一方通行はしゃがみこんでダンボールの隙間へと手を入れる。
だが―――、
「?」
訝しげに表情を変える一方通行。
それを見て風斬は首を傾げ、
「え、えっと……どうしたの……?」
「内側からガムテープでも張ってやがンのかァ?結構硬ェぞ、こりゃァ」
それなら引っくり返せば早いだろうが、中に猫がいるのだとしたら無茶は出来まい。
そう考えて風斬は更に一方通行の評価を更に上げる。
後ろからの尊敬の眼差しを向けるが、一方通行は気にせず溜息を一つ。
「こンなトコで大事にとっといたバッテリーを消費なンてしたかねェンだけどなァ……仕方ねェか」
そう言って、一方通行は首に付いたチョーカーからぶら下がっている黒い棒状のものを操作する。
少しの間を置いて、彼は再びダンボールへと手をかけた。
紙を破くような音と共に開かれるダンボールの扉。
その中には――、
とある一点に視線を釘付けにされる風斬と一方通行。
「何だろう……あれ」
思わず風斬はその一点――広場の壁際で暴れるダンボールを指差した。
「俺に聞くンじゃねェよ」
一方通行は呆れた表情でそれを見て、溜息を一つ。
ダンボール自体は大きめだが、広場の端にあるせいかあまり目立たない。
しかし、その暴れっぷりがその存在を異常にアピールしていた。
一方通行は嫌そうな顔をしつつも、ダンボールへ向かって歩きだした。
一瞬、どうしたのかと首を傾げるが、慌ててそれを追う風斬。
「ったくよォ……なンだァ今日は厄日かァ?」
「ど、どうするの……?」
ダンボールの目の前へと到着する二人。
風斬は謎の未確認ダンボールを見て、やや不安になったのか、一方通行の服の袖を掴んで引っ張る。
途中、『ちいさすぎたぜよー!?』などとダンボールから聞こえたような気がしたが気にしない。
「あ、危ない……かもしれないよ……?」
心配で思わず声をかけるが、一方通行はあァ?とコチラを向き、
「どーせ、捨て猫かなンかだろうよォ。捨てンなら、もうちっと人通りが多い所に捨てやがれってンだ、クソったれが」
口調こそ荒いが、そこには猫に対する優しさの様なものが見え隠れしているようにも風斬には聞こえた。
そのせいか、不安よりも、なんだか妙な気持ちが大きくなった風斬は嬉しそうな笑みを一方通行へ向かって浮かべる。
その表情を見て、またウンザリした様な表情を作る一方通行。
彼は暫くニコニコと笑う風斬と顔を見合わせていたが、暫くしてダンボールへと向き直り、
「……さってとォ」
「……本当に、猫……なのかな?」
「―――」
疑問の声を上げるが、返事は無い。
しかし、構わず一方通行はしゃがみこんでダンボールの隙間へと手を入れる。
だが―――、
「?」
訝しげに表情を変える一方通行。
それを見て風斬は首を傾げ、
「え、えっと……どうしたの……?」
「内側からガムテープでも張ってやがンのかァ?結構硬ェぞ、こりゃァ」
それなら引っくり返せば早いだろうが、中に猫がいるのだとしたら無茶は出来まい。
そう考えて風斬は更に一方通行の評価を更に上げる。
後ろからの尊敬の眼差しを向けるが、一方通行は気にせず溜息を一つ。
「こンなトコで大事にとっといたバッテリーを消費なンてしたかねェンだけどなァ……仕方ねェか」
そう言って、一方通行は首に付いたチョーカーからぶら下がっている黒い棒状のものを操作する。
少しの間を置いて、彼は再びダンボールへと手をかけた。
紙を破くような音と共に開かれるダンボールの扉。
その中には――、
「にゃ、にゃー」
「……」
「……」
なんだか猫なで声をこちらへ投げかけてくる金の短髪にサングラスをかけた大男が詰まっていた。
風斬は暫く固まっていたが、一方通行の復帰は数秒早かったようだ。
すぐさまダンボールを閉じる一方通行。
……え、えーっと……猫が男の人で猫で男で……。
「オス……ッ!?」
「ツッコミどころはそこかァ!?」
唐突に妙なところに驚く風斬に対して思わずツッコミを入れる一方通行。
「だ、だって……猫が大きな男の人に……っ!」
「ありゃどう見ても不審人物だろうがァ!」
「不審人物とは酷いにゃー」
「黙ってろ」
「……」
ダンボールの中から男が立ち上がるが、それを男の方を見もせずに一蹴する一方通行。
男はいじけたのかダンボールの中にしゃがみ込んでのの字を書き始めた。
「あの……落ち込まないで、ください……あの人も悪気があって、言ってるわけじゃ……」
あまりの落ち込み具合を気の毒に思い、風斬が俯く男に声をかけると、彼は僅かにコチラへと向き、
「……ツンデレかにゃー?」
「え?いや、あの……たぶん……?」
と風斬は思わず放たれた言葉を肯定する。
ツンデレ。
意味合い的には、普段はそっけないが、いざという時は優しい人――だった筈だ。
……うん……たぶん、間違ってない、筈……。
頭の中でもう一度確認して拳を握る風斬。
その視線の先では男が頬に汗を流して口元を引きつらせていた。
「だァれが、ツンデレだァ……あァ?」
「ひぅっ!?」
唐突に、後ろからどす黒い空気を感じる。
これは駄目だ。振り向いたら駄目だ、と本能が警告するが、もう遅い。
恐る恐る振り返る風斬。
後ろには憤怒に満ちたオーラを放つ羅刹が笑いながら立って――、
「……」
なんだか猫なで声をこちらへ投げかけてくる金の短髪にサングラスをかけた大男が詰まっていた。
風斬は暫く固まっていたが、一方通行の復帰は数秒早かったようだ。
すぐさまダンボールを閉じる一方通行。
……え、えーっと……猫が男の人で猫で男で……。
「オス……ッ!?」
「ツッコミどころはそこかァ!?」
唐突に妙なところに驚く風斬に対して思わずツッコミを入れる一方通行。
「だ、だって……猫が大きな男の人に……っ!」
「ありゃどう見ても不審人物だろうがァ!」
「不審人物とは酷いにゃー」
「黙ってろ」
「……」
ダンボールの中から男が立ち上がるが、それを男の方を見もせずに一蹴する一方通行。
男はいじけたのかダンボールの中にしゃがみ込んでのの字を書き始めた。
「あの……落ち込まないで、ください……あの人も悪気があって、言ってるわけじゃ……」
あまりの落ち込み具合を気の毒に思い、風斬が俯く男に声をかけると、彼は僅かにコチラへと向き、
「……ツンデレかにゃー?」
「え?いや、あの……たぶん……?」
と風斬は思わず放たれた言葉を肯定する。
ツンデレ。
意味合い的には、普段はそっけないが、いざという時は優しい人――だった筈だ。
……うん……たぶん、間違ってない、筈……。
頭の中でもう一度確認して拳を握る風斬。
その視線の先では男が頬に汗を流して口元を引きつらせていた。
「だァれが、ツンデレだァ……あァ?」
「ひぅっ!?」
唐突に、後ろからどす黒い空気を感じる。
これは駄目だ。振り向いたら駄目だ、と本能が警告するが、もう遅い。
恐る恐る振り返る風斬。
後ろには憤怒に満ちたオーラを放つ羅刹が笑いながら立って――、
○
暗い路地裏にある広場。
白い、服装も髪もが白い学園都市最強の能力者――一方通行は広場の壁に沿う様にして駆けていた。
その速度は今の彼にとって全力疾走と言えるものだ。
しかし、その学園都市最強の能力者であるはずの彼の全力疾走についてくる者が居た。
その人物とは、金色の短髪に薄い青のサングラスを掛けた大男だ。
彼は口元に笑みを浮かべつつどこから取り出したのか赤いリボンを両手に掲げつつ叫ぶ。
「ツンデレにはツインテールと決まってるんだにゃぁーっ!」
「知るかァあああああああああああああ!?」
とある幻想殺しの少年が聞いたらその場でずっこけそうな言葉を放ちながら、しかし男は足を止めない。
否、むしろスピードが上がってるようにも見えた。
一方通行はそれに対してどうしてこの様な事になったのかを思い返す。
白い、服装も髪もが白い学園都市最強の能力者――一方通行は広場の壁に沿う様にして駆けていた。
その速度は今の彼にとって全力疾走と言えるものだ。
しかし、その学園都市最強の能力者であるはずの彼の全力疾走についてくる者が居た。
その人物とは、金色の短髪に薄い青のサングラスを掛けた大男だ。
彼は口元に笑みを浮かべつつどこから取り出したのか赤いリボンを両手に掲げつつ叫ぶ。
「ツンデレにはツインテールと決まってるんだにゃぁーっ!」
「知るかァあああああああああああああ!?」
とある幻想殺しの少年が聞いたらその場でずっこけそうな言葉を放ちながら、しかし男は足を止めない。
否、むしろスピードが上がってるようにも見えた。
一方通行はそれに対してどうしてこの様な事になったのかを思い返す。
思えば、制裁を加えようと男の頭にそこそこ力を加えたチョップを一発振り下ろした所から始まったのだ。
一方通行の攻撃。
それは当たれば人を気絶させるほどの衝撃を持った一撃――のはずだったのだ。
しかし、実際にはぽすっと可愛らしい音を立てて男の髪に僅かにめり込んだだけ。
何事かと思えば一方通行の能力の要でもある演算補助装置の一部の機能が故障でもしたのか止まっているという事態。
顔を青くする一方通行に対して男は立ち上がり、三日月のような笑みを見せ――。
一方通行の攻撃。
それは当たれば人を気絶させるほどの衝撃を持った一撃――のはずだったのだ。
しかし、実際にはぽすっと可愛らしい音を立てて男の髪に僅かにめり込んだだけ。
何事かと思えば一方通行の能力の要でもある演算補助装置の一部の機能が故障でもしたのか止まっているという事態。
顔を青くする一方通行に対して男は立ち上がり、三日月のような笑みを見せ――。
そして、現在に至る。
詰まるところ、形勢逆転。一方通行の方がピンチに陥ったわけである。
「チィッ!」
舌打ちするが、演算補助装置は相変わらず少ししか動かない。
それでも身体機能を通常レベルまで持っていける程度まで動いているのは僥倖と言うべきか。
だが、男から逃げきれる速度でも無いし、迎撃できるような力も今は無い。
せいぜいが内部でどうにか足への負担を極力軽減するための反射をしたり出来る程度だ。
どうにか男から逃げ切るための作戦を思案するが、広場の中心でオロオロとしている眼鏡を掛けた少女がいる限りは
迂闊に此処を離れるわけにもいかない。
一方通行が逃げ出した途端に今度は『眼鏡っ娘にはおさげだにゃーっ!』とか言って襲いかかりかねない。
いや、この男ならするだろう、と後ろから迫り来る男の事を独断と偏見で判断しつつ一方通行は思う。
何かキッカケが来るまで走りまわっているのも良いが、それでは演算補助装置の電源が持つかわからないし、
何時、男がターゲットを一方通行から風斬に変更するのかわからない。
これではイタチゴッコだ。
ならば――、
「にゃっ!?」
別に猫の鳴き声ではない。
一方通行が一か八か迎撃しようとして振り向き、見事に体勢を崩した際に出した声だ。
……くァっ!ちくしょうがっ!反射の設定変更が間に合わなかっただァ!?
それはつまり、演算補助装置の機能がかなり落ちていると同時に目の前の男との距離を詰めてしまうと――。
男は空を舞っていた。
まるでそれはコチラへとダイブしてくるような格好でまさに両手を開いて一方通行を抱き締めようとしているような。
一方通行はそれを零コンマ何秒の世界で判断し、顔を引き攣らせて口を開いた。
「ぎゃァああああああああああああああああ!?」
ドサリと乾いた音が路地裏に響いた。
詰まるところ、形勢逆転。一方通行の方がピンチに陥ったわけである。
「チィッ!」
舌打ちするが、演算補助装置は相変わらず少ししか動かない。
それでも身体機能を通常レベルまで持っていける程度まで動いているのは僥倖と言うべきか。
だが、男から逃げきれる速度でも無いし、迎撃できるような力も今は無い。
せいぜいが内部でどうにか足への負担を極力軽減するための反射をしたり出来る程度だ。
どうにか男から逃げ切るための作戦を思案するが、広場の中心でオロオロとしている眼鏡を掛けた少女がいる限りは
迂闊に此処を離れるわけにもいかない。
一方通行が逃げ出した途端に今度は『眼鏡っ娘にはおさげだにゃーっ!』とか言って襲いかかりかねない。
いや、この男ならするだろう、と後ろから迫り来る男の事を独断と偏見で判断しつつ一方通行は思う。
何かキッカケが来るまで走りまわっているのも良いが、それでは演算補助装置の電源が持つかわからないし、
何時、男がターゲットを一方通行から風斬に変更するのかわからない。
これではイタチゴッコだ。
ならば――、
「にゃっ!?」
別に猫の鳴き声ではない。
一方通行が一か八か迎撃しようとして振り向き、見事に体勢を崩した際に出した声だ。
……くァっ!ちくしょうがっ!反射の設定変更が間に合わなかっただァ!?
それはつまり、演算補助装置の機能がかなり落ちていると同時に目の前の男との距離を詰めてしまうと――。
男は空を舞っていた。
まるでそれはコチラへとダイブしてくるような格好でまさに両手を開いて一方通行を抱き締めようとしているような。
一方通行はそれを零コンマ何秒の世界で判断し、顔を引き攣らせて口を開いた。
「ぎゃァああああああああああああああああ!?」
ドサリと乾いた音が路地裏に響いた。
○
「ん?」
昼の日の光が窓から差し込み燦々と店内を照らしている中、少女が首を傾げる。
その少女は髪を後ろで二つに分けて縛るという髪型をしており、上半身に白いティーシャツ、そしてその上から羽織った
紺色のジャージの上着。下半身には羽織ったものと同じ色のジャージのズボンといった格好をしていた。
その少女――座標移動の能力者こと結標・淡希は窓の外を見やりつつ再度首を傾げた。
「どうしたの、あわき?」
結標を不思議そうな顔で見るのは白い修道服に身を包んだ銀髪碧眼の少女――インデックスだ。
彼女の真横に座った結標はなんでもないわ、とインデックスに手を振るが、確かに何かが聞こえた。
しかも、それは誰かが助けを呼ぶような声だった様な気がする。
「結標先輩。大丈夫?」
うぅんと結標が手を組み唸っていると真横から声がした。
インデックスの目の前に座る巫女服を纏った見本のような和風を体現した少女――姫神・秋沙がこちらを見ていたのだ。
彼女はあまり表情は変えないものの中々人に気を使うタイプなのか何故かティッシュを差し出してきている。
「……なんでティッシュ?」
「調子が悪いのかと」
やっぱり何を考えているのか良くわからないタイプの子だ。
ティッシュを受け取ってからお礼を言って、席に戻って正面を向くとニコニコとした笑顔のどう見ても小学生にしか見えない
少女――一応、先生らしい月詠・小萌が視線を結標へと向けていた。
その表情は凄まじく上機嫌な笑顔だ。
「えっと――小萌先生、でしたよね?」
「えぇ、そうですよー」
ものっすごくご機嫌な声で返された。
何か彼女の機嫌を良くなるような事をしただろうか?と思うが、恐らくは特にしていない筈だ。
ならば、何故か――それは本人に聞くのが一番手っ取り早いだろう。
「何か良いことでもあったんですか?」
「えへへへー」
小萌は笑うばかり。
結標は、無邪気というかなんだかその辺りを通り越した小萌の笑みに思わず身を引いてしまう。
それでも小萌は笑みを浮かべるのを止めない。
なんだか段々追い込まれているような気分になってきた。
「あの、なにか私、悪い事でもしたでしょうか……?」
なんとなく居心地が悪くなって縮こまりつつ聞いてみる。
すると、小萌は相変わらずの笑顔で頬に片手を当てて、
「あ、いえー、特に結標ちゃんが悪い事をしたわけではないのですよー?ただ――嬉しくって」
「嬉しい?」
予想外の発言に思わずキョトンとした表情になってしまう。
何故という疑問よりも先に言葉の方が出てしまったが、特に問題はないだろう。
「えぇ、話に聞いてたよりもずっと良い子で良かったと思いまして」
「え?」
心臓を鷲掴みにされたような感覚が結標を襲った。
この目の前の女性は自分の事を知っているというのか。しかも昔の自分を。
鷲掴みにされた様に縮んだ心臓が鼓動を早める。
考えすぎだと、冷静な部分が叫ぶ。
結標自身もそう思うが、走り出した勢いは止まらない。
脳裏に走る一つの記憶。
自分が■を■■■人間だという事はもう変えられない――。
……あ、あう、あああ……。
思考が停滞する。
頭に浮かぶのは血まみれで倒れる少女と、それを笑い嘲り蹴り飛ばす自分。
違う違うと否定してもそれは既に起こった現実で、それは紛れもなく自分の正体。
「あわき?」
「!」
インデックスの声に現実に引き戻された。
「大丈夫?汗びっしょりだよ?」
「だ、大丈夫よ……私、病み上がりなもんだから。本当、大丈夫よ」
先程姫神に渡されたティッシュで顔全体を拭う。
ティッシュはすぐさま濡れて使い物にならなくなってしまった。
こんなに汗をかいていたのか、と結標は自分の体ながら感心してしまう。
「む。無理はいけないのですよー?」
メッと指を突きつけてくる小萌を見る限りでは、自分の事をそこまで深くは知っていなさそうだ。
自分の深読みのしすぎだろう、と今度こそ結論付けて心を落ち着ける。
しかし、と結標は思う。
自分は自らの犯した罪から逃れようとしていたのかと。
あの白井・黒子は、そしてあの"残骸"を巡って起こった事件で仲間だった者達は今の結標を見てなんと言うだろうか。
前者は喜んでくれるかもしれないが、後者はきっと自分を軽蔑するだろう。
「結標先輩。何か思うところがあるなら。言ったほうが良い」
「え?」
考え込んでいると斜め隣から声が飛んできた。
声の出所は姫神だ。
相変わらず何を考えているかわからない表情ではあったが――その目はしっかりと結標を見ていた。
「いや、私は別に――」
「だめ」
姫神は無表情のまま、
「きっと結標先輩の悩みは。たぶんだけど。溜め込んだままだといつか結標先輩を傷つける」
結標は息を呑んだ。
それと同時にその目を見て感じた。
恐らくだが――姫神は結標と同じ様な境遇の人物だ、と。
力を持つ余り、その力に恐怖する者。
白井・黒子にアレだけ言われても変わらない自分の根本。
結標は姫神の瞳から目を逸らし、しばし逡巡。
少しの沈黙が場に落ちる。
他の皆は結標の言葉を待つかの様に口を閉じていた。
「もしも」
結標は皆の視線に応える様に口を開くが、そこで一旦区切り躊躇い区切る。
そして、更に迷い、しかし暫くして再び口を開いた。
昼の日の光が窓から差し込み燦々と店内を照らしている中、少女が首を傾げる。
その少女は髪を後ろで二つに分けて縛るという髪型をしており、上半身に白いティーシャツ、そしてその上から羽織った
紺色のジャージの上着。下半身には羽織ったものと同じ色のジャージのズボンといった格好をしていた。
その少女――座標移動の能力者こと結標・淡希は窓の外を見やりつつ再度首を傾げた。
「どうしたの、あわき?」
結標を不思議そうな顔で見るのは白い修道服に身を包んだ銀髪碧眼の少女――インデックスだ。
彼女の真横に座った結標はなんでもないわ、とインデックスに手を振るが、確かに何かが聞こえた。
しかも、それは誰かが助けを呼ぶような声だった様な気がする。
「結標先輩。大丈夫?」
うぅんと結標が手を組み唸っていると真横から声がした。
インデックスの目の前に座る巫女服を纏った見本のような和風を体現した少女――姫神・秋沙がこちらを見ていたのだ。
彼女はあまり表情は変えないものの中々人に気を使うタイプなのか何故かティッシュを差し出してきている。
「……なんでティッシュ?」
「調子が悪いのかと」
やっぱり何を考えているのか良くわからないタイプの子だ。
ティッシュを受け取ってからお礼を言って、席に戻って正面を向くとニコニコとした笑顔のどう見ても小学生にしか見えない
少女――一応、先生らしい月詠・小萌が視線を結標へと向けていた。
その表情は凄まじく上機嫌な笑顔だ。
「えっと――小萌先生、でしたよね?」
「えぇ、そうですよー」
ものっすごくご機嫌な声で返された。
何か彼女の機嫌を良くなるような事をしただろうか?と思うが、恐らくは特にしていない筈だ。
ならば、何故か――それは本人に聞くのが一番手っ取り早いだろう。
「何か良いことでもあったんですか?」
「えへへへー」
小萌は笑うばかり。
結標は、無邪気というかなんだかその辺りを通り越した小萌の笑みに思わず身を引いてしまう。
それでも小萌は笑みを浮かべるのを止めない。
なんだか段々追い込まれているような気分になってきた。
「あの、なにか私、悪い事でもしたでしょうか……?」
なんとなく居心地が悪くなって縮こまりつつ聞いてみる。
すると、小萌は相変わらずの笑顔で頬に片手を当てて、
「あ、いえー、特に結標ちゃんが悪い事をしたわけではないのですよー?ただ――嬉しくって」
「嬉しい?」
予想外の発言に思わずキョトンとした表情になってしまう。
何故という疑問よりも先に言葉の方が出てしまったが、特に問題はないだろう。
「えぇ、話に聞いてたよりもずっと良い子で良かったと思いまして」
「え?」
心臓を鷲掴みにされたような感覚が結標を襲った。
この目の前の女性は自分の事を知っているというのか。しかも昔の自分を。
鷲掴みにされた様に縮んだ心臓が鼓動を早める。
考えすぎだと、冷静な部分が叫ぶ。
結標自身もそう思うが、走り出した勢いは止まらない。
脳裏に走る一つの記憶。
自分が■を■■■人間だという事はもう変えられない――。
……あ、あう、あああ……。
思考が停滞する。
頭に浮かぶのは血まみれで倒れる少女と、それを笑い嘲り蹴り飛ばす自分。
違う違うと否定してもそれは既に起こった現実で、それは紛れもなく自分の正体。
「あわき?」
「!」
インデックスの声に現実に引き戻された。
「大丈夫?汗びっしょりだよ?」
「だ、大丈夫よ……私、病み上がりなもんだから。本当、大丈夫よ」
先程姫神に渡されたティッシュで顔全体を拭う。
ティッシュはすぐさま濡れて使い物にならなくなってしまった。
こんなに汗をかいていたのか、と結標は自分の体ながら感心してしまう。
「む。無理はいけないのですよー?」
メッと指を突きつけてくる小萌を見る限りでは、自分の事をそこまで深くは知っていなさそうだ。
自分の深読みのしすぎだろう、と今度こそ結論付けて心を落ち着ける。
しかし、と結標は思う。
自分は自らの犯した罪から逃れようとしていたのかと。
あの白井・黒子は、そしてあの"残骸"を巡って起こった事件で仲間だった者達は今の結標を見てなんと言うだろうか。
前者は喜んでくれるかもしれないが、後者はきっと自分を軽蔑するだろう。
「結標先輩。何か思うところがあるなら。言ったほうが良い」
「え?」
考え込んでいると斜め隣から声が飛んできた。
声の出所は姫神だ。
相変わらず何を考えているかわからない表情ではあったが――その目はしっかりと結標を見ていた。
「いや、私は別に――」
「だめ」
姫神は無表情のまま、
「きっと結標先輩の悩みは。たぶんだけど。溜め込んだままだといつか結標先輩を傷つける」
結標は息を呑んだ。
それと同時にその目を見て感じた。
恐らくだが――姫神は結標と同じ様な境遇の人物だ、と。
力を持つ余り、その力に恐怖する者。
白井・黒子にアレだけ言われても変わらない自分の根本。
結標は姫神の瞳から目を逸らし、しばし逡巡。
少しの沈黙が場に落ちる。
他の皆は結標の言葉を待つかの様に口を閉じていた。
「もしも」
結標は皆の視線に応える様に口を開くが、そこで一旦区切り躊躇い区切る。
そして、更に迷い、しかし暫くして再び口を開いた。
「もしも、私が人を簡単に殺せるような殺人鬼だったとしたら……どうする?」
場の空気が一瞬固まる。
それはそうだろう、もしもではない。
結標・淡希は本当に思っただけで、簡単に人が殺せるのだから。
そんな力を持っているのだから。
しかし、姫神は動じなかった。彼女は顔を横に振りつつ、
「どうもしない」
「どうもしない?」
結標は僅かに眉を寄せる。
姫神はそれを見ても別段気にすることはないという風に表情も変えずに結標を見る。
「結標先輩は人を傷つけたい――殺したいと思ってる?」
その言葉に今度は結標が固まってしまった。
「そ、そんなわけないじゃ――」
「じゃあ。大丈夫」
姫神は僅かに微笑むような表情になり、
「貴女は私と似てる。でも。一緒じゃない。貴女は優しい人」
意外な言葉を放った。
その言葉に結標は固まり、しかし、目を逸らし、
「……優しくないわよ。私は一度人を殺そうとしたわ……それなのに……」
呟くようなボソボソとした声で言った。
すると、姫神はまるで用意していたようにすぐさま疑問を口にする。
「でも。殺してはいない?」
何を結果論を、と言おうとしたところで姫神に目を奪われた。
強い瞳。
そこには達観したような、しかし何か違う強さが感じられる意思の力を持った少女が居た。
「あ……」
違った。
この少女は結標と同じなんかではない。
何かわからないが――彼女は自分よりもとんでもなく重いものを背負っていた。
そして、同時に結標よりも遥か先を既に歩んでいる人間だという事も理解する。
瞳に宿った意思がそれを結標に伝える。
「あわき、あいさ……?」
インデックスが心配そうに結標と姫神を交互に見やると同時、姫神は笑みを浮かべて言った。
「だから。大丈夫。貴女は人を助けられる」
それは、姫神にとってどれだけ重い言葉なのか。
少なくとも姫神が偽善や気遣いで言っているわけではないのは確かだ。
彼女の言葉には嘘が感じられない。
結標はそんな姫神の言葉を受けて溜息を一つ。
「……ありがとう、姫神さん。だめね、私。年上なのに年下の子に助けられてばかりだわ」
なんで自分はこんなにグダグダと何時までも迷っているのだろうと思う。
同時に情けない、心まで腐っていたか、と自分自身を叱咤する。
「ん」
しかし、姫神は和やかな笑みを浮かべて頷き、
「今度返してもらうから。平気」
「ええ、是非に」
結標も眉は多少下がっているもののその頷きに笑みで応える。
場に暖かい空気が戻り初めた。
「えーっと、もしかして先生の介入する余地なく解決しちゃいましたか?」
頬を掻きつつ困ったような表情をする小萌と、状況が全く把握出来ていないインデックス。
その二人を見て姫神と結標は顔を見合わせ、再びくすくすと笑みを漏らした。
その時だ。
それはそうだろう、もしもではない。
結標・淡希は本当に思っただけで、簡単に人が殺せるのだから。
そんな力を持っているのだから。
しかし、姫神は動じなかった。彼女は顔を横に振りつつ、
「どうもしない」
「どうもしない?」
結標は僅かに眉を寄せる。
姫神はそれを見ても別段気にすることはないという風に表情も変えずに結標を見る。
「結標先輩は人を傷つけたい――殺したいと思ってる?」
その言葉に今度は結標が固まってしまった。
「そ、そんなわけないじゃ――」
「じゃあ。大丈夫」
姫神は僅かに微笑むような表情になり、
「貴女は私と似てる。でも。一緒じゃない。貴女は優しい人」
意外な言葉を放った。
その言葉に結標は固まり、しかし、目を逸らし、
「……優しくないわよ。私は一度人を殺そうとしたわ……それなのに……」
呟くようなボソボソとした声で言った。
すると、姫神はまるで用意していたようにすぐさま疑問を口にする。
「でも。殺してはいない?」
何を結果論を、と言おうとしたところで姫神に目を奪われた。
強い瞳。
そこには達観したような、しかし何か違う強さが感じられる意思の力を持った少女が居た。
「あ……」
違った。
この少女は結標と同じなんかではない。
何かわからないが――彼女は自分よりもとんでもなく重いものを背負っていた。
そして、同時に結標よりも遥か先を既に歩んでいる人間だという事も理解する。
瞳に宿った意思がそれを結標に伝える。
「あわき、あいさ……?」
インデックスが心配そうに結標と姫神を交互に見やると同時、姫神は笑みを浮かべて言った。
「だから。大丈夫。貴女は人を助けられる」
それは、姫神にとってどれだけ重い言葉なのか。
少なくとも姫神が偽善や気遣いで言っているわけではないのは確かだ。
彼女の言葉には嘘が感じられない。
結標はそんな姫神の言葉を受けて溜息を一つ。
「……ありがとう、姫神さん。だめね、私。年上なのに年下の子に助けられてばかりだわ」
なんで自分はこんなにグダグダと何時までも迷っているのだろうと思う。
同時に情けない、心まで腐っていたか、と自分自身を叱咤する。
「ん」
しかし、姫神は和やかな笑みを浮かべて頷き、
「今度返してもらうから。平気」
「ええ、是非に」
結標も眉は多少下がっているもののその頷きに笑みで応える。
場に暖かい空気が戻り初めた。
「えーっと、もしかして先生の介入する余地なく解決しちゃいましたか?」
頬を掻きつつ困ったような表情をする小萌と、状況が全く把握出来ていないインデックス。
その二人を見て姫神と結標は顔を見合わせ、再びくすくすと笑みを漏らした。
その時だ。
「御取り込み中のところ宜しいでしょうか?」
静謐な、しかし礼儀正しい女性の声が聞こえた。
「「「ひゃあッ!?」」」
唐突にすぐ近くから聞こえた声。
その声の近さに驚いて結標達から絶叫が上がった。
急いでそちらを見れば突然現れたかのに、女性に一人の女性が立っていた。
唯一悲鳴を上げなかった姫神はその女性を見て首を傾げ、
「メイドさん?」
「メイドで御座います」
姫神の疑問に会釈を返した女性はやはり姫神の言う通りメイド服をキッチリと着込んでいた。
顔を上げたその女性を一言で表すならば美人という言葉が一番適切だろう。
腰ほどまである黒の長髪を結ってポニーテールにした髪型にスラリとした長身。
黒髪の下の鋭い目つきが凛々しく。
女性の魅力を一段と引き出していた。
「かおり……?」
その女性を見たインデックスが疑問の声を上げる。
対して女性は無表情にしかし、確認するかのように皆を視界に納めて、
「再度確認しますが、よろしいですか?」
小首を傾げた。
「「「ひゃあッ!?」」」
唐突にすぐ近くから聞こえた声。
その声の近さに驚いて結標達から絶叫が上がった。
急いでそちらを見れば突然現れたかのに、女性に一人の女性が立っていた。
唯一悲鳴を上げなかった姫神はその女性を見て首を傾げ、
「メイドさん?」
「メイドで御座います」
姫神の疑問に会釈を返した女性はやはり姫神の言う通りメイド服をキッチリと着込んでいた。
顔を上げたその女性を一言で表すならば美人という言葉が一番適切だろう。
腰ほどまである黒の長髪を結ってポニーテールにした髪型にスラリとした長身。
黒髪の下の鋭い目つきが凛々しく。
女性の魅力を一段と引き出していた。
「かおり……?」
その女性を見たインデックスが疑問の声を上げる。
対して女性は無表情にしかし、確認するかのように皆を視界に納めて、
「再度確認しますが、よろしいですか?」
小首を傾げた。