とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 9-422

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匿名ユーザー

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 開放する。
 確かに現実殺し(リアルブレイカー)が、そう言った。
 そして、彼らはそれを聞き取った。
 次の瞬間、

「開放する」

 御坂旅掛の口が、その言葉を発音するために動いた。
 それに上条刀夜は、
(……現実殺し対、現実護手《リアルガードナー》、か……ふっ、本来ならば協力し合う立場の存在なのにな。しかも、幻想殺し《イマジンブレイカー》と現実殺し、幻想護手《イマジンガードナー》に現実護手が協力し合っている、と。……右方のフィアンマは、魔術の属性がズレているだの言っていたが……これはそんなレベルじゃないぞ)
 そう考え、そして、

「……さて。人間は、果たしてどこまで神の領域に足を踏み入れることができる存在なのかな……?」


「遅いぞ。あと一瞬遅れていれば、超電磁砲(レールガン)は……いや、御坂美琴は死んでいたが」
 現実殺しの力を押さえ込んでいる存在―――竜王封じ(ドラゴンセプト)は、呆れたかのようにため息を吐いた。もちろん、それに反応するものは皆無なのだが。
 それも気にせず、竜王封じは続ける。
「だがしかし、本来ならば現実殺しのほうが、圧倒的に現実護手よりも力を持っているのだが……今ではどうなのだろうな」
 彼が思い浮かべているのは、幻想殺しの少年。
 彼の抱える存在は莫大なものだが、彼自身はあくまで『普通の人間』のはずだ。
 だが、
(……その、普通の人間に……これだけの『力』が存在するとはな)
 ふふっ、とその口元を歪める竜王封じ。
(おそらくこれは、あいつの計画《プラン》の一つだろうが……ここまで彼の力が大きくなると、あいつらは想定できていたのだろうか)
 そう考えると、やはり自然と笑いがこみ上げてくる。
 人間とは。
 人間とは、ここまで『力』のある存在なのか、と。

「上条当麻、か。彼がその『可能性』だと言うのだな」


 死んでいなかった。
 確かに、目の前の女―――現実殺しから、今までとは比べ物にならないほどの力を感じたはずなのに。
 そして彼女は、反射的に閉じていた茶色の瞳を、うっすらと開ける。
 その瞳に映っていたのは、

 スラリと長身で、ある程度女性的なラインを持つ、何らかの存在と、
 こちらも同じく、一般的な成人男性よりも少し長身で、それなのに少し細い感じのする存在だった。



 ズギュォンッ!
 ドバァッ、ガゴォォォォッ!!
 パァン!
 ガシュッ。
「……ッたく。隠れて銃で狙い打ち、ってかぁ? ウザッてぇんだよッ!」
 ズ……
 ガ、ガガガガガガガガァァァァァァァァァァァァンッッ!!
「どこ狙ってんだよ。あんまり周り、破壊しちゃいけませんよぉ? クハハッ!」
 パパッ、パァンッ!
 ガガガ、グシャッ。
「ハッ! 最初と比べると、息が上がってるように思えるけど?」
「自分のこと言って、何が面白いんだぁ?」
 ズガッ、ゴガァァァァァァァッッッ!!
 ジャギッ、ジャガガッ!
 ドババババババッッッ!
 シュォン……ズバァァァァァッッ!
「おうおう。散弾型のマシンガンだぁ? 面白い武器持ってんじゃないの!」
「だったら、さっさと殺されろよこのメス豚ぁッ!」
 ズギャッ!
 ……タッ。
 ガシャ、ダダダダダダダッッッ!
 ギャンッ!
「当たんねぇ、つってんだろっ!」
「テメェの攻撃もなぁっ!」
 ズバンッ!
 ドッ、ガァァァァァッッッ!
「……ちぃっ……」
「ハッ。接近すりゃ能力の使い心地も悪くなるだろ、ってかぁ? ざぁんねんっ! バカはテメーでした、ってなぁっ!」
 ブォンッ!
 ドッ、ドドドドドドドドドッッッ!!
 ガァァァァァァァンッ!!
「つってもなぁ! テメェ自身の能力は、一回たりとも当たってないわけよっ!」
「アンタのもだよ! しかも、瓦礫にはしっかりとぶち当たりやがってッ! 逃げるんならうまく逃げなさいよッ!」
 カランカラン。
 ガッ、ドンッ!
 ドギャッ!
「……ウザッてぇの使うのねぇ……」
「ハ。防いどいて何言ってやがる。まぁ、爆風は逃れられなかったそうだけどぉ!?」
「ナメんじゃねぇぞぉっ!!」

 ズッ、ドガガガガガァァァァァァァァッッッッ!!
 ドバッ、シュバババババッ!
 キュオン、ズゥンッ!
 ダッ、ドバババババッッ!



 歯が立たない……わけではなかった。
 相手の攻撃は、やはり彼女の能力で当たることはない。
 しかし、だからと言って、彼女の攻撃も相手に当たるわけでは―――
 パァンッ! という鋭い音が、その場に響いた。
 そして―――
 しっかりと、対象の後頭部に着弾する。
 普通ならその次の瞬間、被弾者は死亡することだろう。何せ脳みそだ。即死しても全くおかしくない。
 だが、
 グジャッ、という音が鳴った。
 それは、潰れる音。

 対象者の頭に当たったのにも拘らず、全く傷をつけることもなく彼の手に収まり、そして潰された弾丸が出す音。

 普通なら、弾丸を右手一つで握りつぶすことなど出来ない。しかも今は、発砲直後なのだ。弾丸のほうも、かなりの熱を所持している。
 だがしかし、彼は笑いながらそれを握りつぶし、
 次の瞬間、
 ヒュンッ、という音が聞こえた。
 そして、
 ドガッ! という、アスファルトが炸裂する音が連続した。
 彼女がそちらに目を向けると、まるで何か丸いものに打ち抜かれたかのような状況になっている。
 そして、その窪みの奥に眠っているのは―――
 ―――グシャグシャになっている、弾丸。
 この状況で考えるとするならば、それは彼が放ったものだ、という結論に至るだろう。
 しかし、
 実際問題、ありえない現象だった。
 無傷で拳銃の弾を受け、そしてその弾丸を右手のみで軽々と握りつぶし、そしてそれを放っただけで、アスファルトを炸裂させる。
 到底、人間が成しえるようなものではない。
 だがしかし、それを行って見せたのは、特別筋肉が付いているようにも見えない、普通の人間。
 ……いや、違う。
 ありうる。
 彼なら、彼らの世界ならば……この程度、常識なのかもしれない。
 超能力者(レベル5)の世界では。
 化け物が蠢く世界では、その程度、当たり前の『現実』なのかもしれない。
 そして、

 同じく、その化け物たちの世界に住まう彼女は……その綺麗な口の端を、ニヤリと歪めていた。
 まるで、自分と釣り合う獲物を見つけた肉食獣のような……そんな、獰猛な笑みを。
 次の瞬間、
 二人は交錯した。

 学園都市第6位、肉体変化(メタモルフォーゼ)の葛城妖夜と、反乱勢力の一人、垣根聖督の駒、超能力者の視覚潰し(ライトメーター)が。









「で!? お前(アックア)がここに来た理由は、一体何なんだよっ!?」
 走りながら言った上条の言葉に、アックアはうるさそうに顔をしかめ、そしてこう言った。
「理由も何も。もはやここ(学園都市)に来なければ殺されそうな雰囲気だったから、ここに来ただけであるが?」
 ……はぁ? と上条は表情を歪める。といっても、その足は止まらないが。
「なんでだよ? お前、確かにこの前のフィアンマ戦で、かなりマズッたらしいけどさ……でも、普通の魔術師とは段違いなんだろ?」
 彼は第三次世界大戦において、大天使(ガブリエル)の力の2分の1を体内に吸収する、というとてつもなく馬鹿げたことをやってのけた。
 だがしかし、もちろんその反動はデカすぎる。
 神の右席としての力など、言語道断。
 聖人としての力はおろか、通常の人間としての力も多少失ってしまっていた。
 ……なのだが、
 どうやら彼は今までの経験により、その状態でも普通の魔術師とはレベルが違うようである。言ってみれば、ステイルレベルなのだろうか?
 そんな彼が、そう簡単に命の危険を感じることなどないはずなのだが……
 と、アックア―――いや、この場合はもはや、ウィリアム=オルウェルか―――が、その口を開く。
 そしてその口から聞かされたのは、

「いや。たとえ私が以前までの力を持っていたとしても、戦おうという気持ちすら持たないであろう」

 超爆弾発言。
 それに上条は、今度こそその足を止めてしまった。アニェーゼたちの方は黙々と走っていたのだが、やはりギョッとした顔つきでウィリアムを見つめている。
 それにウィリアムは、
「冗談などではないぞ。私がそんなことを言うように思えるか?」
 とそこで、ウィリアムの背からひょっこり出てきた顔が、
「まぁ、何かと『あの方たち』にも事情がおありでしたようなので……」
 本来なら豪奢なドレスを身に纏い、おしとやかな足取りで王宮を歩いているような女性。
 そんな、もはや絵本を3D化したら現れてしまいました、とでも言いたげな女性に向かって、上条はやはりげんなりした表情で言う。
「……んじゃ、アックアはいいとして……なんでヴィリアンまでもがここにいるわけ?」
 ヴィリアン。
 3国4派閥のイギリスの表向きのトップ、『王室派』の第3皇女、『人徳』に優れていると言われるお姫様だ。
 実際、彼女の姉たちは『頭脳』やら『軍事』やらといったヤッカイゴト向けな能力を所持しているのでヴィリアンはあまり重視されていないのだが、それでもひょいひょい学園都市にやってきて良いような人物ではない。
 そんな彼女は、ウィリアムの肩に顎を乗せ、
「う~ん……何故か知りませんが、どなたかがこの用兵を狙っているようなので。そして『あの方たち』の助言でウィリアムはそのお方から逃げることにしたのですが、そうなると私を人質に取られる可能性がある、と指摘され、已む無く私も付いてきた……といったところでしょうか」
 本来ならば敵地であるはずの学園都市の中で、彼女はかなりのんびりとした口調で言った。というかこの二人はいつの間にこんな関係になっていたのだろう? と上条は疑問に思っている。
 だがしかし、そんな疑問をはるかに凌駕する疑問がある。
「で、逃げてきたのはいいとして……何故にまた学園都市なんかに?」
 魔術サイドの者ならば、不用意には近づきたくない場所であるはずだ。
 そんな学園都市に、わざわざ逃げてきた理由とは?
 それにウィリアムは、
「だからそれも、脅迫まがいに言われたから従ったまでである」
「だぁーっ! んじゃもういい、これも聞く。だからお前たちの言う『あの方たち』って誰のことだよっ!?」
 彼の返事に少し切れた上条は、一気に捲くし立てたのだが、
 次の瞬間、彼の頭脳は妙に冷たくなった。
 人間なら誰しも、自分の理解できないことを言われるとそうなるものである。
 つまり、

「えぇと。イギリス凄教のローラ=スチュアート様、ローマ正教のマタイ=リース様、ロシア成教のワシリーサ様たち、のことですよ」

 あまりにもあっさりと、ヴィリアンの口からそんな言葉が放たれたからだ。



「しかし、ウィリアム=オルウェルはともかく……第3皇女まで、本当に連れて行く必要性はあったのか?」
「大いにありけるわね。真実に気づいたフィアンマの奴なら、どんな手を使ってでもかの者を捕らえようとしたるわ。ヴェントやテッラはもう手の打ちようが無しにつきの時に、アックアまでもを奴の手に収められたりなどすれば……」
「まぁ、そうなるでしょうねー。潰すのもなかなか厄介になるわ」
「……ならば何故、お前たちはわざわざ学園都市などにあいつらを寄越したのだ?」
「簡単な話よ。今、我々が上条当麻を失いければ……」
「確実に、あいつらにこの世界を堕とされるでしょうね」
「……神、か」
「それに気づきしフィアンマもフィアンマだけど、それでも力には抗えはしないわね」
「そしてそうなれば、フィアンマは本気で動き出すでしょう。テッラを吸収し、ヴェントを利用し、アックアを手中に収め、最終的には―――」
「……上条当麻を、自身に取り込む、か」
「まっ、それもかなりの荒業になりけるのよ。神浄の討魔に、幻想殺し(イマジンブレイカー)。さらに竜王滅相(ドラゴンキラー)ともなれば、かのフィアンマ言えど抱擁しきれずに、爆発してしまうのもオチとして考えられるわ」
「そこら辺も考えてるようで、ナスカの地上絵を利用しようとしているのも見て取れるけどね」
「……つまりは、逃亡と護衛。この二つを成そうとしている、というわけか?」
「それは違いけるわ」
「今の学園都市に蠢いているのが、ローマ教皇様には正確に把握できているのかしら?」
「……学園都市の情報によれば、超能力者(レベル5)8人と絶対能力者(レベル6)3人が反乱を起こしている、とのことだったが」
「そんなものはブラフにすぎないのよ。かのような者、あやつらにかかれば瞬殺ね」
「全く。あんな小さな土地のみに、あそこまでの面子が揃うとは……流石にジョークじゃ通じないわよ?」
「……だから、その者たちとは一体なんなんだ?」
「はぁ。一から説明しなきゃ分からない、とでも言いけるの?」
「あなたもあなたで、この情報に辿り着くまで相当の時間を労したそうだけど?」
「……あらぁ? そう言うワシリーサは、ロシア成教のトップの座を捨てるなどという大博打に出た結果、命からがら手に入れた情報だと聞きたるわよ?」
「……いいから、私にその情報を教えてくれぬか……?」
「……集っている重要面子は、上条当麻、一方通行(アクセラレータ)、御坂美琴、そして統司者(ヴェーラー)。あとはその他の超能力者の面々ね」
「それと、遠距離ではあるけど、上条刀夜に御坂旅掛たちも関わってるそうよ」
「……確かに、恐ろしい面子ではあるが……それが、何故我々までもが危惧せねばいけない?」
「…………はぁ」
「…………馬鹿の極みね」
「貴様ら」
「じゃぁ、もう一気に言うからよく聞き漏らさないことね」
「そういうことよ」

『上条当麻は、幻想殺し、竜王滅相、神浄の討魔を所持。一方通行は真実を司りし者、御坂美琴は超電磁砲(レールガン)、竜王封じ(ドラゴンセプト)、そして現実殺し(リアルブレイカー)。統司者は『神』に抗うために、上条当麻を使用せずに、『司りし者』たちをさらに統べる者、『魔神』になるはずだった男―――オッレルスを使用し、一気に神に抗うつもりでいる。上条刀夜たちは、自分たちの子供のチカラを自分の内に抱擁し、全てを覆すつもりらしい。……今学園都市で起こっているのは、あくまでこれのオマケでしかないのよ』



※ グロテスクな表現が、多少あります。ご注意ください。

 ベチャッ、という音を立て、精神操作(メンタルコントロール)の脳みそがアスファルトにこぶりついた。
 そして噴出す、鮮血。
 垣根聖督とやらがどうしたのかは分からないが、なぜか彼女の首から下は全くの無傷だった。首から上のみが、綺麗にごっそり無くなっている。
 その首の切れ端から、大量の鮮血が勢いよく飛び散っていた。
 それは至近距離にいる鏡子にも容赦なく降りかかり、その端麗な顔が紅(あか)で染まる。
「…………」
 しばらく彼女は、ただその光景だけを見つめていた。
 そして鏡子は、彼女の頭を探す。
 といっても、そんなものは探すまでもないのだが。
 目の前に広がるのは、ただの惨劇。
 切れている脳みそが当たり一面に錯乱し、頭蓋骨さえもあっさりと砕かれて散り散りになっている。
 中には、頭蓋骨に脳みそが巻きついているものさえも存在した。
 そしてそれらに共通しているのは、凄まじい熱を所持している、ということ。
 精神操作の頭に埋め込まれた爆弾が起動し、彼女の頭は吹っ飛んだのだ。そのときの温度は、未だに保たれていて当たり前だろう。
 その温度を所持している脂肪や脳みそは、まるでバーベキューのような音を立てている。地面に付着しているので、そちらの方にも熱が伝わっているのでまさにその通りだった。
 とその時、
 ボトッ、
 と、何かが鏡子の首筋に落ちてきた。
 彼女はそれに感情を抱くでもなく、ある程度つまめるサイズだったので指でつまみ、自分の眼前にさらけ出す。
 それは、

 神経が複雑に絡み合い、一端が千切れている、無表情な眼球だった。

 流石に眼球ともなると、それまでの肉や骨などの『壁』で熱は所持していなかった。
 だがしかし、そのせいでどこかヌルヌルした感触を、鏡子の肌に伝えてくる。
 そのまま彼女がそれを握れば、あっさりと潰れてしまいそうな感覚。
 それは同時に、鏡子に人間一人の命の軽さを訴えているようなものだった。
 そして彼女は、

「………フン」

 特に考えるでもなく、それを横に投げ捨てた。
 ボトリ、とそれが髪の毛を纏っている頭蓋骨の上に落ちる。
 それはすぐに頭蓋骨からの熱により、ミイラのように干からびた。
 それを見つめた鏡子は、血にまみれた顔面を振るって、ある程度血液を飛ばす。
 そして、

「……悪いわね。もう私の心は、人の死、程度じゃどうにもならないのよ」

 だんだん血を噴出す勢いを弱めている精神操作に向かって、静かにそう告げた。
 彼女は少しの間『ソレ』を見つめ、クルリと踵を返す。
 その彼女の表情は、

(……でも、それを作った原因に対しては……まだ、感情を持てるようね)

 ただただ、憎悪に染まっていた。
 そんな彼女が向かうのは、どこにあるのかも分からない、今学園都市を脅かしている一人の男の下。



※ グロテスクな表現が、多少あります。ご注意ください。

 その瞬間、一方通行(アクセラレータ)は反射的に目を閉じた。
 いくら彼が学園都市最強の能力者だからとはいえ、人間としての反射神経などはあるのだ。
 それに何より、彼は今戦闘は終わったものとみなし、節約のために電極のスイッチを切っていた。
 そして、

 ぴちゃぴちゃっ、と、彼の赤い瞳を覆う瞼に、紅い液体がかかった。

 それは彼に反射されることなく、ランダムな線を描いて彼の口元へとたれていく。
「…………」
 一方通行は、ゆっくりと手の甲でそれを拭う。
 そして、赤い瞳を少しずつ開いていく。
 その目に映ったのは、

 まるで何かに圧迫されたかのように潰れている、一人の能力者。

 聴覚潜り(ノイズキラー)の身体は、様々な方位から分厚い壁を思いっきり叩きつけたかのように、凄まじいものへと変貌していた。
 頭は首から千切れていて、すでに右側は存在していなかった。その頭蓋骨の切れ端から、何かニョロニョロした、ゴムのようなものが飛び出ているのが確認できる。眼球の方は、まるで圧迫から逃げたかのようにそこら辺に転がっていた。
 右腕は、もはや厚み数センチまでに圧迫されていた。もちろんその中にある血管は押し潰されていて、噴水を連想させる曲線を描きながら、彼の右腕から赤い血液が逃げ出している。
 左腕の方は、横方向には潰れていなかった。縦方向に、拳と肩をくっつけるレベルに圧迫されている。それはまるで、何かの障害を持って生まれ、肩から左拳が生えているかのようにも見えた。
 胴体の方は、全方位から押し潰されていた。それは綺麗すぎる圧迫ゆえか、まるで血液も内蔵も飛び出していない。服すらも千切れておらず、伸縮単位を極端に縮めた人間のように思える。
 対し足のほうは、真上からの圧迫を受けたのか上半身から離れていた。彼の腰に当たる部分からは、チョロチョロと血液が流れている。勢いが弱いのは、一瞬にして心臓も潰され、その働きを行っていないためであろう。
 そして肝心の足といえば、もはや二本ではなく一本へと結合していた。
 同時に左右からの圧迫を受けたのか、上半身から千切られた右足と左足は、内側を削り取るように結合していたのだ。それは不恰好なカカシのように。
 だがしかし、なぜか足首から下は無事なようで、互いに反対方向へと倒れていて直線を描いている。普通の人間なら何秒も続けられない体勢であろうが、おそらく骨が粉砕されているのだろう。
 そんな、聴覚潜りが受けたエネルギーの割には綺麗すぎる死体を見つめた一方通行は、

「……死体になンか、興味持つかよ」

 特に考えるでもなく、素の表情でそう言った。
 そしてつまらなさそうに舌打ちし、無傷のズボンのポケットから携帯を取り出す。
 登録アドレスを開き、土御門元春への番号を選択し、数回のコール音がなる。
 土御門にしては遅い対応で、二人の通話は繋がった。
『……どうした、一方通行』
 意気消沈したかのような、土御門の声。
 だがしかし、彼はそれを全く気に留めない。
 別に、どうでもいいと思っているわけではない。ただ、人の事情に自分が首を突っ込む意味を見出せないためであろう。
「死人が出た。それと、念動砲弾(アタッククラッシュ)の方も意識はねェから、お前が運べ」
 彼の能力を使えば、そんな重量などどうにでもできるだろう。
 だがしかし、一方通行はどうしても能力を使う気にはなれなかった。
 何故ならば、

(……いい加減に、面倒になってきた。悪ィが聖督さンとやらは、全力で殺らせてもらうぜ)

 これから起こるであろう激しい戦いに、一分一秒でも能力使用時間を延ばしたかったから。


6br()

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