「マフィンうまー、ってミサカはミサカはこのほどよい甘味に感嘆の声を漏らしてみる」
薄い茶色の髪に頭頂部から一本だけピョコンと出た毛が特徴の幼い少女。
彼女は青いワンピースを着込んだその胸に紙袋を抱えて、片手に食べかけのマフィンを持っている。
その青いワンピースを着込んだ少女――打ち止めは隣を歩く少年と共にとある研究施設から出てくるところだった。
「まさか研究所の人だったなんてな……教員だと思ってたんだが」
「動物の病気を治すための薬を研究してるんだってね、ってミサカはミサカはアナタの持ったパンフレットを見つつ言ったり」
研究所のパンフレットを開きながら打ち止めの隣を歩くのは、髪をツンツンと立てた少年――上条・当麻だ。
彼の格好はティーシャツに青いズボンと言った動きやすそうな服装だ。
「それで猫好きか。しっかし、まさかそんなものまで貰えるとは、もしかして上条さん久々のラッキーですか?」
「それはないね、ってミサカはミサカは断言してみたり。むしろミサカの運の賜物?ってミサカはミサカは胸を張ってみる」
「くぅ……っ、あながちそうじゃないとも言えねー自分の運が呪わしい!」
「アナタは絶望的に運が悪いみたいだからねー、ってミサカはミサカは同情の目でアナタを見てみる」
そんな目で見るなー!と叫ぶ上条を見つつ打ち止めはマフィンを一口。
「でも、運は悪い筈なのにアナタの周りに女の子が集まるのはなんでだろう、ってミサカはミサカはミサカ一○○三二号から愚痴られた事をそのまま伝えてみたり」
うぅっ、と怯む上条。
それを横目で見やりつつ、打ち止めは目を閉じてマフィンを回しつつ、
「そろそろ本命を決めないといつか背中からグッサリやられるかもしれないよー、ってミサカはミサカは忠告してみたり」
「へ?本命?」
「……」
……あー、これはホンモノかも、ってミサカはミサカはオリジナルやミサカ一○○三二号の先行きを心配してみる。
彼の場合、少し無理してでも矯正しないとこのまま無尽蔵にフラグを立て続けそうな気もする。
今度強めにアタックをかけてみる事を進めようと思うが、オリジナルとミサカ一○○三二号のどちらを応援するべきか。
うぅむ、と考え込むがここは近い存在としてミサカ一○○三二号を応援――。
いや、しかし、オリジナルの顔を立てるのもクローンとしての義理かもしれない。
……アチラを立てれば片方が立たずの状態かも、ってミサカはミサカは大人の事情に困ってみる、むむむ。
「どうした?」
「んー、ミサカはアナタの事が心配でたまらないかもしれない、ってミサカはミサカは少し真剣に考えてみたり」
は?と首を傾げる上条には、やはり彼女達の好意に気づいている様子はない。
どうしたものか、と思うがここは当人達に任せた方がいいだろう、と打ち止めは無責任に結論付けて頷く。
「って、何やってるの?ってミサカはミサカは何時の間にか後方にいるアナタに声をかけてみたり」
「ん?ああ、ちょっと危ねぇモンが落ちてたんで清掃ロボに乗せてたんだ」
「えー、ミサカも見たかったーってミサカはミサカは唇を尖らせてブーたれてみたり」
「やめとけやめとけ、割れた鏡なんて危ないモン見ても仕方ないだろ」
ブーッと唇を尖らせる打ち止めを上条は無視。
仕方が無いので、上条を半目で見つつマフィンを頬張る。
「でも、お前の保護者ってどんなヤツなんだ?確か白いんだっけか?」
「うん、メッチャクチャ白いからすぐわかると思う、ってミサカはミサカは自信ありげに言ってみたり」
「白髪なのか?」
「うん、ついでに今日は服も白いよってミサカはミサカは更にわかりやすく付け足してみたり」
「……確かにわかりやすそうだけど、一体どんなヤツだ」
何を想像したのか嫌そうな表情になる上条。
それを見て打ち止めはんーっ、とマフィンを甘噛みしつつどういう風に説明すべきか頭の中でまとめ上げる。
「んー、ぶっきらぼうだけど悪い人ではないよー、たぶん、ってミサカはミサカは目を逸らしつつ言ってみたり」
「って、目逸らすな!?上条さん、いきなり不安になったんですがーっ!?」
敢えて名前は言わない。
いきなり遭遇させて上条と一方通行を驚かしたいというのもあるが、正直上条に今逃げられるのも困るからだ。
地味に腹黒い幼女の打ち止めであった。
「おやや?ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」
「ん、どうした?」
「メイドさんが歩いてるのを発見!ってミサカはミサカは初めて見る実物にはしゃいでみたり」
「別にこの街じゃ珍しくもないんだけどな――って舞夏じゃねーか」
舞夏っていうのか、と思いつつ打ち止めは視線の先をウロウロと歩いているメイドを見る。
メイド服をキッチリと着込んだ見た目十三、四の少女だ。
打ち止めが好奇心のままにジーッと凝視していると、彼女は気づいたのかコチラへと向かってくる。
「おーっす、上条当麻」
「いよっす」
「いよーっす、ってミサカはミサカは真似をしてみたり。というかアナタって本当に色んな人と知り合いなんだねってミサカはミサカは素直に感心してみる」
舞夏は上条を見た後に打ち止めを見やり首を傾げる。
「んー?誰だ、このチビッ子はー?」
「ん、あぁ、チビ御坂こと……えーっと、そういえば、なんて名前なんだ」
「あ、ミサカの事は"打ち止め"って呼んで貰えればいいかも、ってミサカはミサカは自己紹介してみる」
舞夏は其の名前を聞いてポンと手を打ち。
「おぉー、誰かに似てると思えば、結構前に会ったあの福引大作戦の人のチビッコ版かー。で、姉妹?」
「……なんだか妙な表現だけどそんな感じだ」
ふむ、と舞夏は頷くと打ち止めへと向き直り、口元に笑みを浮かべつつ妙に間延びした口調で右手を差し出す。
「土御門舞夏だ。宜しくなー」
「宜しくねー、ってミサカはミサカは新たな知り合いの獲得に喜んでみたり」
笑顔で舞夏の手を取る。
その様子を見ていた上条だったが、何か気になったのか舞夏を見て、
「なんか違和感があると思ったら、お前が徒歩なんて珍しいな」
「あー、そうそう。私のロボットなんだけど知らないかー?」
お前のじゃないだろう、と上条が言うが舞夏は特に気にするつもりもないらしい。
「それならさっきあっちに向かってったぞ。あと清掃ロボットにマーク描くのはやめとけ」
「わかりやすいからなー。とりあえず、ありがとなー」
言うと同時に上条の指差した方向に歩きだす舞夏。
最後に打ち止め達へとばいばい、と手を振って人ごみの中に消えていった。
「さて、行くか。っていっても、どこから探したもんだかなぁ」
上条は頭を掻きながら舞夏の去った方向とは逆方向に向き直る。
まぁ、と前置きして打ち止めは上条へと笑顔を向け、
「歩いていればそのうち見つかるかも、ってミサカはミサカは楽観的に期待してみる」
「お前の事なんだけどな」
えへへー、と笑う打ち止めを見て上条は溜息をつきながらも再び歩きだした。
○
「おー、いたいた」
上条達が居た地点から少し離れた場所。
土御門・舞夏は上条達と別れた後、暫くしてようやく念願の戦友を見つけていた。
清掃ロボットに駆け寄ると早速取りついて、わかりやすいようにと描いたマークを確認する。
よしよし、と頷き清掃ロボットの頭頂部に手をひっかける。
そのまま勢い良く身を持ち上げて座ろうとし、
「む?」
ロボットの頭頂部に何か光を反射するものを発見した。
それは白い枠の付いた物体を映し出すもの――鏡。
しかし、その鏡は肝心のの鏡の部分が罅割れていて使いものにならないようだ。
舞夏はそれを拾って眉を顰めつつ、
「ポイ捨てとはけしからんやつめー」
数度、裏から叩く。
その結果、破片が飛び散る危険性はないと判断し、おもむろに背負ったバックの中に放り込んだ。
それから改めて清掃ロボットの上に座りなおすと、
「よし、れっつごー」
彼女の掛け声に呼応するかの様に今まで止まっていたロボットが動き出す。
向かう先は舞夏の兄――土御門・元春が住んでいる男子寮だ。
今日はなにして遊ぶかー、と舞夏は色々な案を頭の中で浮かべつつ楽しそうに身を揺らすのであった。
○
「後藤……」
「あぁ、みなまで言うな井上……」
高校の制服を着込んだ短髪の少年――後藤は去りいくチビッコメイドを見つつ言う。
「なんかバックが点滅してるけど、大丈夫だろうか」
彼の言った通り、チビッコメイドの背負ったバックは赤くリズムを持って点滅していた。
「後藤よ、知らぬだろうがアレが最新のファッションなのだ」
「なに!?それは本当なのか井上?!」
最近学園都市に来たばかり、その上心根が純粋な後藤は瞳を輝かせつつ叫ぶ。
それに対して長髪の制服を着込んだ少女――井上は清々しいほどの笑顔で後藤へと頷きこう断言した。
「嘘に決まってるだろう」
後藤は灰になった。