とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

第四章

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だれでも歓迎! 編集
◇◇◇

 到着した選手は後続の選手が到着するまで競技会場から離れてはならない。

短距離走ならそんなに長くはないだろう、しかしマラソンなら1着の選手はかなりの時間待たされることになる。

完走率30%以下の難関競技であるこの競技もご多分に漏れず競技時間はかなり長めだ。おそらく大覇星祭の午前中に行われる競技では最長時間だろう。

といっても全部の種目に全部の学園が参加するわけではなく、学園都市の各地にある競技会場で同時進行で行われていくのだ。

同じ学園でも違う学年はいまごろ別の競技に汗を流している頃だろう。

「ふー、なんとかなったぜ、この競技考えたやつがいたら上条さんは必殺の右ストレートを叩き込むところですよ、はい」

シュッシュッ、競技場の端っこの芝生でドカっと腰を降ろしてシャドーボクシングの真似事をしながら上条は隣に座った白井黒子に話しかけた。

 白井はそんな上条をチラリと見て、目を逸らしてしまう。

そんな態度に既視感を覚え、んっ?と視線をそらした先に回りこんで白井の目を覗き込んでみる。

「ちょ・・・ジロジロとみないでくださいな」

 放たれる言葉自体はアレだが口調は別に嫌がってるわけではなさそうに聞こえた。

「顔が赤いぞ、白井。熱でもあんのか? どれどれ」

顔を赤くしてこわばる白井の前髪を左手で掬い上げて上条は自分の額を白井の額にコツンと当てる。

「うわ、なんかあついぞ!?風邪か!?」

「ち、ちがいますわよ、風邪なんかじゃないですわ」

思わぬ急接近で余計に顔を赤くしたツインテールの少女は思いっきり動揺しながら両手をワタワタと振って否定の意を伝える。

「そういえば、さっき走ってる途中でお前舌噛んでたな、大丈夫だったか?見せてみろ」

 上条は優しげな笑みを浮かべてから、ベーってしてみろ、とジェスチャーを交えて更に接近する。

その無防備さに白井はおもわず、け、けっこうです、とうろたえまくり顔を真っ赤にしながら拒否する。

 無理やり連れて来たからおこってんのかなぁ? 上条は頭をポリポリと掻きながらいまだに下を向いてブツブツ言う白井から視線を動かして。

自分の肩にかけてある大きめのスポーツタオルに目を落とした。

検索・・・風邪の症状・・・発熱 発汗 倦怠感 などの症状が現れる。 対処方法・・・汗をこまめにふき取る 水分補給 

そんな情報を自分の頭から引っ張り出すと、近くにいた運営委員の学生に

「わりぃ、飲み物とかあるかな?」と聞いてみた。

運営委員は上条の事をチラッとみて自分の足元にあったクーラーボックスを開いてスポーツ飲料のペットボトルを渡してくれた。

サンキュー、そう運営委員に言うと500mlのペットボトルをもって再び芝生で座り込んでた白井黒子の元に歩いていき

白井の頭に自分の肩に掛かっていた大き目のスポーツタオルを被せた。

白井がスポーツタオルの隙間から、なんですの?といった感じの視線を向けてくる。

 上条は白井と視線の高さを合わせるようにしゃがみこんで

「日差し強いとキツイだろ、これでも被っとけよ、大分違うらしいぞ。」

タオルの上から白井の頭をポンポンと軽く叩いた。

 そして白井の隣に回ってドカッと腰を下ろして左手でニュっと白井の顔の前に先ほどもらってきたスポーツ飲料のペットボトルを差し出した。

怪訝そうな瞳で上条を見てくる白井をニコっとさわやかに見つめ返して

「水分もしっかり取っておけよ、日射病も体力が落ちてる人間には結構危ないからな」

そんな優しげなことを告げた。

ありがとうございます・・・ですわ、と小動物のように両手でペットボトルを受け取ってグビグビっと飲み始める白井の姿を確認して満足そうに微笑んだ。

一息ついて上条が視線を空に向けたとき

「へぇ・・・アンタ達、随分と楽しそうじゃない」

太陽を背にして青白い火花を体のいたるところからバッチンバッチンさせた御坂美琴の姿を発見した。

◇◇◇
ねぇ?わたし最近思うんだけど、御坂美琴は上条に冷たい目線を送りながら囁いた。

「何で!?何で!?何で美琴の周りの大気が不穏な感じに帯電してんの!?」

「アンタってやつは!!アンタってやつは!!そんなに[後輩]って響きが大好きな人だったのかぁぁこのボンクラァぁぁぁぁぁあああああ!!」

 不機嫌少女の前髪が一瞬バチィと火花を散らし、必殺の雷撃の槍となって目の前の少年へと飛来する。

「お、おわぁ!?」

ブンブン!!バチィ!!

 彼女の前髪から光速で飛来する10億ボルトが炸裂したが少年は右拳をぐるんぐるんと回して防御する。そんな事を二回、三回と繰り返す。

「だぁームカつく!! 何なのよその耐久性!? こういう時は適当にぶっ飛ばされてそっちの方にでも転がってりゃいいのよ!!」

「だからなんでキレてんだよお前、あとそのリクエスト受けたら死にますけどね俺!!」

さらに10回、20回と回数を重ねていくとようやく不毛だと思い知らされたのか、美琴は肩で息をしながら雷撃を止める。 ちなみに

上条は腰が抜ける寸前であり、さきほどの上条と白井の作り上げていた甘い桃色空間は一変し

「警備員(アンチスキル)とか風紀委員(ジャッジメント)呼ぶ?」「いや、巻き込まれたくねぇな」といった不穏な空気で満ちており、白井はこっそりと自分の制服

についた[風紀委員]の腕章を外してスカートのポケットにしまい込んでいる。

 先ほどまで真っ赤にしていた顔を一気に冷却して白井は美琴の方を見て、

「お、お姉様、き、奇遇ですわね。お、おあ、お会いしたかったですわ。」

「黒子、アンタ入院中じゃなかったっけ?」

ビクゥ、白井の肩が大きく震えた。

元々美琴に会いに来ていた筈なのにちっともうれしくなさそうに、美琴の刺すような目線から目を逸らすと、

「あ、あの、退屈な入院生活を見かねた風紀委員の同僚が見かねて病院を連れ出してくれたのですが、途中で車椅子が壊れてしまってそこから
いろいろありましてこういう状況なわけで別にやましいこととかラブラブなこととかハプニング的におさわりイベントが発生したりなんかしてませんわ」

早口で一気に喋りきる。

「思いっきり端折ってるわねその説明、しかもなんか後半が聞き捨てなら無い。大体!!アンタコイツのこと嫌いなんじゃなかったの!?」

ビシィ!!と効果音を立てて美琴の人差し指が上条の顔を指す。

「き、嫌いだなんて別にその・・・ちょっと気に入らないところもあっただけですわ・・・・い、いまはそんなに」

ごにょごにょと言い訳を言いながら上条と美琴を交互にチラチラ

(あ゛~腹立つ・・・アイツはアイツでなんか照れて頭ポリポリしてるし、黒子も黒子でいつもと雰囲気が違うし、なんていったらいいのかしらこの気持ち
          • とりあえずムカつく)

『―――♪♪』

突然、美琴の携帯電話が鳴る。電話を耳にあてて、ウン、ウン、すぐ行くと返事をしてすぐパタンと閉じる。

どうやらそろそろ自分の学校の仲間と合流しなければならないようだ。美琴にも次の競技が控えている。

「とにかく、後で詳しく聞くから!!ちゃんと整理しときなさいよ」

 心底不機嫌そうに美琴が去って行った。途中で何度も振り返って、いい?絶対に聞くからね!!、と何度も念を押して走っていった。

「なぁ?なんであいつあんなにキレてるんだ?お前何か知ってる?」

「それを本気で言ってるとしたらお姉様も救われませんわねぇ、わたくしもですけど」

大量の?マークを浮かべながらとりあえず上条は

(なにが悪かったんだろう?)答えが用意されていない問題を思い浮かべた。

◇◇◇
「で。あれはなに?」

上条と美琴の一部始終を見ていた姫神はクリップボードになにやら書き込んでいるクラスメート―吹寄制理に聞いてみた。

「知らない、上条がまたなにかやったんでしょ。 アイツは普通の学園生活というものができないのかしら」

クリップボードから決して目を離さずに吹寄は右手に持ったボールペンで姫神の右脇に抱えられたモノを指して、

一言

「で、それなに? 新しいマスコットキャラ?」

姫神の脇に小荷物よろしく抱えられたやんちゃな少女―[打ち止め]の事を聞いた。

うーん、考え込む仕草をした後に何かを思い出したように短パンのポケットからくしゃくしゃになった紙切れを吹寄に見せて、

「これ。私の[妹]」と[打ち止め]を指差して言い放つ。

「条件は問題ないかな、完走おめでと」

 右手の親指をグッ!!と立てて激励すると姫神も無表情にグッ!!と応えた。

脇に抱えられた[打ち止め]も真似をして親指をグッ!!と立てている。気に入ったようだ。

「みーさかーみーさかーたっぷりみーさかー♪とミサカはミサカは新曲を披露してみたりする、うまい?」

何の前触れもなく元気に歌いだす[打ち止め]だが

いやそれパクリだからとげんなりした様子で吹寄がクリップボードに視線を置いたまま右手だけであしらう。

「8着か・・・姫神さんは表彰関係ないから戻ってもいいよ、その子どうするの?」

「この子。迷子らしいから」、迷子センターまで連れて行く、と姫神はそう伝えた。

「そう、それじゃ迷子の呼び出しをしてもらわなくちゃならないわね、迷子センターの場所わかる?」

「大丈夫。問題ない」

無表情に片手だけガッツポーズして離れていく。

「さよーならー、ミサカはミサカは別れを惜しんでみたりしてみる」

 [打ち止め]を抱えた姫神は近くにいた運営委員からスポーツ飲料のペットボトルを受け取り、迷子センターがある会場を目指した。

「みーさかーみーさかーみーさかみさみさみーさかー♪ ミサカはミサカは懲りずに続きを歌ってみたりするー」

「歌うまいね。喉渇いてない?これ飲む?」

「わーい、飲むーグビグビグビ、ミサカはミサカは苦しゅうないって感じなってきたー」

◇◇◇
「なんか疲れるな、表彰なんて普段されないからなぁ」

大量のフラッシュで疲労した目をこすりながら上条当麻は街を歩いていた。

 この辺りは特に人込みが激しい。 地下鉄や自律バスの停留所など、交通の要所が集中してるが原因らしい。 電車からバスへ、バスから電車へ、

バスの路線Aからバスの路線Bへ、といった感じでさまざまな交通手段を利用する人々が溢れている。

 表彰の後に吹寄に聞いた話だと学校の仲間はいま別の競技をしているから、応援に言ってくるようにといわれたがこちらは別行動でオリアナ=トムソン達

を捜索している土御門やステイルから連絡があれば即座に動かなければならないのだが、困ったな、どうしようとか上条が一人で悩んでいると

「どうなされたんですの?さっきからブツブツと、男の独り言は嫌われますわよ」

 オレンジ色のスポーツ車椅子に座った白井黒子が車椅子の背もたれから後ろの上条を見上げるように言って来た。

 あん?と上条が眉をひそめると、

「さっきからなにやら考え事をしているようですが、もしかしてお姉様のことですの?」

ビクゥと上条が、うわ、そういえばそんな問題もあった的な顔をすると

「大丈夫ですわ、お姉様にはわたくしが上手くごまかしておきますから」

実際には全然別のことで考え込んでたのだが、自分の前にいる少女は何かの雰囲気の変化みたいなものを感じ取ったのだろう。

 上条が表彰台でフラッシュの嵐を浴びてる間に初春が壊れたスポーツ車椅子の代わりに明るいオレンジ色のスポーツ車椅子を調達してきた

のだが初春はそのまま[風紀委員]の仕事に呼び出されて支部に戻ってしまった。

 おまえはいかなくていいのか?と上条が聞くと自分の体に巻かれた包帯を見せて、わたくしこう見えても怪我人ですのと答えて風紀委員の

仕事はお休みすることを上条に伝えた。

 そのあと無言で右手を上条に差し出して、運んでもらえます?とか言って来たのでオレンジ色のスポーツ車椅子へと白井を移動させ上条も会場を移動しようとしたのだが。

「あら?レディを置いてけぼりですの?ひどい殿方ですわね」

とまあ、そんなことを言われてしまったので現在に至るといったところである。

 白井にはてっきり嫌われてるとばかり思っていたのだが今日の彼女はやたらと上条に絡んでくる。 まるでお気に入りのおもちゃを手に入れた子供のようだ。

しかし彼女は知らない。 大覇星祭で賑わうこの街とそれを楽しむ学生達、そんなささやかな幸せすら自分達の欲望の為に利用しようとしている魔術師の存在、

そして霊装[刺突杭剣(スタブソード)の取引を行う為に暗躍し、学園都市の内外では様々な思惑が交錯していることを

 させるものか―上条当麻はそう思った。

白井だけではなく美琴や上条のクラスメイト、外部から来た観客だって美しい思い出を作りたいに決まっている。 だからこそ、がんばらないと、と思う。

そんな上条の顔を怪訝そうに見つつ

「なにやら隠し事をしている気配がしますわ(ムカ)」

「は!?いや違うって、上条さんはすごくやる気ですよ、隠し事なんて滅相も無いですよ、なにをいきなり機嫌わるくなってるんですか!?」

 不機嫌のムカムカで輝きが失われつつある白井に、慌てた上条はスポーツ車椅子の取っ手から手を離して彼女の前に回りこんで彼女の顔を覗き込むように答えた所で

ドンっ、と背中を押された。

混雑している歩道で誰かの肩がぶつかったらしい。

 予期してない衝撃に対処できずに上条はおっと、と思わず一歩前に進んでしまう。

そのため覗き込むように見ていた白井との顔の距離が極端に縮めてしまう。

 というか元々顔と顔の距離は30センチほどしかない。



「「え・・・・」」



まったく同じ言葉をそろぞれ吐き出して、2人の唇は触れ合った。



◇◇◇

 !!!!!!!!!

予想外の感触に白井黒子の思考は混乱の極みだった。

「「―――!?」」

超至近距離で驚愕してるお互いの目を見つめながら声にならない声はやはり同時にあげる。

(な、なんですとおおおおおおお!!)

いつものお嬢様口調はどこへやら心の叫びはちっともお嬢様っぽくなかった。

(いきなり!!?いきなり!!?)

 突然の事故で混乱していた白井は思わず上条のよく鍛えられた胸板に両手を当てて、





ドンッ!!と自分の上半身の筋肉を総動員して超至近距離の上条を突き飛ばした。



 「あどぁ!?」

 上条の全身が突き飛ばされた胸部の慣性に従って仰け反る。

反動でオレンジ色のスポーツ車椅子が少し下がった。 自分の顔の熱が上がるのが分かる、 見えないけど恐らく林檎のように真っ赤だろう。

上条の方はいまだに混乱しているのか顔色の変化はあまり見られない。

(せめて、せめてもっとムードというか順序というものがおありでしょうに)

 自分の中で不思議な感情が沸きあがってくるが白井はそれを押さえ込みながらその原因の少年に向かって

「人がちょっと心配してみれば・・・やはり殿方はみんなケダモノですのね!」

「違うのに!! 俺だって真面目に考え事してたのにー!」

「問答無用、ですわ!」

「うう、白井のいつもの白井に戻った気がする!!」

 上条が思わず叫ぶと、白井が真っ赤なままの顔に軽く涙目になって自分の履いていた革靴を手元に空間移動(テレポート) で移動させて

ブンっ!と振りかぶって上条の顔目掛けて投げつけた。


『スパァァン』


固い靴底が見事に命中し、痛そうな音をあたりに響かせた。上条の顔にクリーンヒットした革靴はアスファルト舗装された地面に落ちて上条の顔にくっきりと

赤い靴跡が残された。 肩で息をしながらハァハァと革靴を投げた体勢の白井を見て顔を擦りながら

上条が落ちた靴を拾おうとして地面に落ちた革靴に手を伸ばしたとき、白井のすぐ横を誰かが通り過ぎて、上条が丁度下げた頭とその人物が激突して

悲鳴を上げる。


「おわぁ!?」

「――!?」

◇◇◇
◇◇◇


 ぽふっ


白井が投げつけてきた常盤台中学指定の革靴を拾おうとして頭を下げる形で手を伸ばしたら、下げた頭になんだか柔らかいものがぶつかった。

(ぽふ?)

 両手を自分の顔の横に持ってきてみる。


ぽふ・・・・柔らかい

!!

「おわぁ!?」

冷静に確かめてみるとそれは女性の胸だった。

 上条は慌てて身を退く。 

(さっきから次から次へと何が起こってんだ!?)

ついさっきの白井との事に加えて見知らぬ女性の胸に顔を埋めてしまったのである

健全な男子高校生である上条には刺激が強くてさっきから心臓がバクバクしっぱなしであった。

 意外にもぶつかった女性は悲鳴を上げたり殴りかかってきたりはせず

「おっとっと・・・・」とあんまり気にしていないような適当な声をだしていた。

むしろその女性より更に奥に見える白井の「・・・・・・殿方」という低い声の方がよっぽど怨念が籠もっているように聞こえる。

 ぶつかってきたのは地味な作業服を着た18か19歳ぐらいの女性だった。

身長は上条よりやや高い。日本人にしては高い、と評価したいところだが、色の強い金髪や青い瞳を見る限りそれは正しい意見とは言えなそうだ。

 まるで神話などに出てくる女神が抜け出てきたような印象を受ける。

単純に胸や腰などの体つきが良いのはもちろんだがそれ以外にも目に見えない妖艶さをまちわりつかせているような気がする。

 その女性の長い金髪はワックスや巻き髪用のアイロンなどで相当手を入れてあるようだ。

全体的には髪を細い束ごとにアイロンでクセをつけ、小さな巻き髪を互いに絡めるように3本の太い束に分けている。その他にも細かい所に様々な手が

入り、一回セットするのが大変そうだ。

一方でアクセサリーの類はつけていないようだ、まるでその髪そのものを加工して黄金の装飾品を作ってる感じだ。

 女性は塗装業の関係者なのか作業服のあちこちに加工したペンキがこびりついており、脇には真っ白な布で覆われた長さ1.5m幅70センチぐらいの看板を

挟んでいる。

ピンと伸ばした手の先がかろうじて看板の下部を掴んでいた。

とここまでなら普通の[美人の看板屋のお姉様]で済むのだが、その女性の作業服のボタンは丁度胸辺りにあるボタンが一個止まってるだけで他の部分を止めていなかった。

(うはぁ、胸の谷間とかおへそとか丸見えでなんかもう・・・水着?)そんなことを考えていたら


パッコーーーーン


突然革靴が上条の顔にめり込んだ。

「ッてぇぇぇぇ!?いきなりなぁにすんだぁぁぁ!?」

革靴は先ほどと同じように白井が投げつけたものらしくオレンジ色のスポーツ車椅子に座る彼女の足元は白いルーズソックスだけがぷらぷらとしていた。

白井はふん!、と言ってそっぽを向いてしまった。

 上条が二度にわたる革靴の攻撃に傷んだ鼻を擦っていると塗装業のお姉さんは意外と流暢な日本語で

 「ああーっと、ごめんねごめんね。 こんな人混みはあんまり慣れていなくて、どこか痛い所とかないかしら?。 あ、ここ?鼻が痛いの?」

 「う、うう。実は違うんだけど優しさが身にしみすぎて、このままからだを預けてしまいそう・・・・」

ほとんど涙混じりの上条の対応に空間移動(テレポート) を発動させた白井黒子は上条の背後に現れてその後頭部にチョップを振り下ろした。

その拍子に再びお姉さんの胸へとダイブしていく。 お姉さんは特に悲鳴をあげる事もなく、片手で上条を引き剥がすと

「よいしょっと。ほら、大丈夫?あんまりケンカとかしては、ダ・メ・よ☆。 せっかくのお祭りなんだからそこの彼女のご機嫌をとって楽しい思い出
を残せるようにしたほうが賢明よね?」

 ぶわッ、と上条は顔全体を使って今にも泣き出しそうな表情になり、

「器が大きすぎる! どっかのお嬢様とは比べ物にならないっ! 上条さんはこの優しさにおぼれてしまいそうです!!」

「あらまぁ。 自分のメリットばかりを見て好きだって言うのは、くどき文句としてちょっと幼すぎるかな」

 スカートの下に取り付けられたベルトから金属矢を取り出しジト目で上条を睨んでいる白井に、塗装業者のお姉さんは薄く笑って小さく頭を下げる。

「そっちのお嬢ちゃんもごめんなさいね」

意表をつかれて慌てて金属矢を自分の後ろに隠しながら白井は

「な、なんであなたが謝るんですの?」

「彼氏。からかっちゃってごめんなさいね。怒ってる原因にお姉さんが関係してるからではダメかしら?」

か、彼氏なんかじゃありませんわ、と抗議して大人の女性が放つ余裕のある台詞にたじろぐ。

「(ホラ見ろあれが大人の女性ってヤツなんだよ見たか見習え参考にしろ)」

「(殿方・・・・あとで覚えてろ、ですの)」

「あーもう大丈夫かしら? はいこれお嬢ちゃんのでしょ?」

 ヒソヒソと小声で会話する少年と少女にお姉さんが話しかけた。 それから地面に落ちていた革靴を拾って白井に手渡してから

手をごしごしと作業服で擦り上条に差し出してくる。 握手の形だ。

「ぶつかってしまったお詫びに、ね。 日本じゃ頭を下げるみたいだけど、こちらではこういうやり方が一般的ね」

「はぁ・・・・そういうもんなの?」と握手を求めるお姉さんに合わせて右手を出そうとし、

「あら?キスの方が良い?」お姉さんが爆弾発言を放った。

ぶっ!! と上条は思わず吹き出した。

 純情で健全な高校生上条当麻はぶるぶると震えた後に、

「キスでお願いしますッ!!」

 そう叫んだ瞬間に白井黒子が上条の顔目掛けて拾ってもらったばかりの革靴を投げつけた。

◇◇◇
◇◇◇

 再び赤くなった鼻を押さえて涙目になる上条に塗装業者のお姉さんは笑いながら、再び握手を求めてきた。

ああ、世界にはまだこんな優しい人がいたんだなぁ、と差し出された右手を同じく右手で握り返す。



『バギン!!』



何かが砕けるような奇妙な音が響いた。


「はっ?なにを固まっておられるのですのお二人とも」

最初に声を出したのは上条でもなくお姉さんでもなく、それを見ていた白井黒子だ。

当事者の2人はそれぞれ何が起きたのか理解している為、無言のままだ。

上条当麻は自分の右手に宿る能力について思い出している最中であり

塗装業者のお姉さんは自分の右手の何が破壊されたのかを確認している最中だ。

「そろそろお姉さんはお仕事にもどるわね。お二人さんケンカしちゃ駄目よ」

言うだけ言うとこちらの品返事も聞かずに走り去ってしまった。

 仕草や動きは変わらないのにさっきまであった『余裕』のような雰囲気がなくなっている。

自分の右手を見つめる上条に首をかしげて白井が

「殿方、いつまでも未練がましく握手の感触に酔ってないでわたくしの靴を拾ってくださいな」

「拾うと投げてくるから断る!?ってごぁぁぁやめろ、金属矢はやめろぉぉ」

「寝言は寝て言え、ですの!」

白井に異常な雰囲気を悟られないようにと気を使ってみる上条だったが逆効果だったようで

金属矢を投げてもいいんですわよ、というツインテールのお嬢様の言葉に渋々と革靴を拾う上条だった。

◇◇◇


「殿方、さきほどのことなのですが―」

靴を履かせろ、ということなのかスポーツ車椅子の足板から白いルーズソックスに包まれた足を上条に向かって、にゅっ、と突き出して白井が言う。

なんだ?、上条が革靴を片手にその少女の前に膝立ちになって白井の足に革靴を履かせながら答えると

「実はさっきから狙ってやってませんこと? もしそうなのだとしたらわたくしもアナタに対する対応を変更しないといけないのですけれども」

 少女は革靴を履かせる上条をスポーツ車椅子の上から見下ろして言う。 その顔がなんだか少し赤い。

 「そのもうちょっと」 「ムードが」 「というか責任を」 

声が小さすぎてよく聞こえない白井の呟きを聞きながら上条は考える。

さきほど自分の右手が打ち消したのは[超能力]か「魔術」。

 ともに共通する項目はただひとつ、その力が[異能]によって生み出させる超常現象だということだ。

そして自分の右手に宿る能力―[幻想殺し]はそれが[異能]によるものならば、たとえ神様が創った奇跡だろうとたやすく消滅させる。

 上条は少し考えて[超能力]の線は薄いと考えた。 [超能力]を使う学園都市の能力者とは、つまるところ目の前の少女や自分のような学生である。

大覇星祭という大イベントである、普通はそっちに参加するだろう。 中には例外もいるだろうから断言は出来ないがさっきの塗装業者のお姉さんが来ていた作業服

は、メーカーのCMなどでよく見かける[外からやってきた業者]のものであるような気がする。 TVのCMで見たことがある気がした。

 当然ながら元々学園都市の内部にいる学生にはそんなものを手にする機会は無い。

だとすると、上条当麻は携帯電話を取り出して画面を開き

「聞いてますの?殿方」 そこで白井が上条の頭に正面から空手チョップをかました。

「ッタ!?」

「ですからわたくしの話を聞いてますの?と質問しておりますの」

 ベシベシ、上条の脳天にさらに攻撃する白井

「仮にもお嬢様が無抵抗の年上の男性に延々と攻撃を加える、そんなことがあっていいんでしょうか?白井さん」

 上条の抗議を受けて白井は、ねぇ殿方さん、と切って

「疑問文に疑問文で答えるな、とアナタは学校で教わりませんでしたの!!」

なんだか怒った様子で

 大胆にスカートの裾をまくって太ももに装着されたベルトから金属矢を抜こうとしたので

「聞いてます!?聞いてます!! 聞く聞くとき聞けば 聞け 聞こう!!!!!!!」

 上条は、それだけ勘弁してください、と全力の聞くの五段活用で金属矢の投擲を阻止する。


(そうだ・・・白井がいたんだったこいつの前で土御門とかに連絡しても大丈夫なんだろうか・・・)


 目の前の少女、白井黒子は風紀委員である。 今回の件は警備員や風紀委員に動かれるとまずい、微妙なパワーバランスの上で成り立っている科学と魔術の両サイド、

もし[科学]サイドの組織である[警備員]や[風紀委員]が[魔術]サイドの[魔術師]を攻撃なんてした日には、裏の世界に取って大スキャンダルである。

 だからこそ[魔術]側の不始末は同じ[魔術]側の[魔術師]が始末をつける。逆もまたしかり

学園都市の一員でありながらも能力者としてはまったくの無能力者(レベル0)の上条や土御門はともかく彼女は能力開発の名門常盤台中学に在学する超エリートで

空間移動(テレポート) という希少な能力を持つ大能力者(レベル4)、そのうえ学生だけで構成される対能力者用治安組織[風紀委員]の一員。

 もし上条達のやっていることが彼女の耳に入れば見逃すだろうか? 

(いや・・・絶対無いな、うん。 美琴もこいつも事件があればどこからともなく出てくるからし)

 しかし塗装業者のお姉さんが消えた方向には雑踏があるだけでもうその金髪の後姿は見当たらない。

いまから追いかければあるいは、でも土御門達にも連絡しないと、でも白井がとか上条が頭を捻って考え悩んでいると

 白井が自分のスカートのポケットから銀色の口紅の筒みたいなものを取り出すと上条に渡して

なんだこれ?、不思議な顔をする上条に

「殿方にはどうしても気になる事がおありのようですわね、でもわたくしとしても他の事に気をとられていられるのはいい気がしませんの」

ですから、と言葉を切ってニコリと極上の微笑みを浮かべた少女は

「先にその気になる事情を解決してきていただけます? だからといって連絡が取れなくなっても困りますのでアナタの携帯電話の番号をソレに登録しておいてくださいな」

 上条の手にある銀色の筒―どうも携帯電話らいいが、指差しながら言った。

「ってこれ携帯電話かよ!? こんなに小さくてどうやって使うんだよ・・・・ボタンとか画面とかないんだけどさすがは近未来学園都市だな!って使い方わかんね~!?」

 銀色の筒を下から覗き込んだり軽く振ってみたりしながら悪戦苦闘する上条を見て、白井はクスリと笑って銀色の筒の上についているボタンのような突起を指差した。

上条がそのボタンをカチッと押すと筒の側面からスルスルと薄いシート状のものが引っ張り出された。

「うわ、ボタンちっちぇー、しかも薄くて押しにくい・・・お前らみんなこんな携帯使ってるのか? すっげぇ使いにくいんだけど」

あまりにも操作性が低い白井の携帯にアドレス帳に自分の携帯の情報を打ち込んで白井に返す。

操作シートが収納された銀色の口紅型の携帯電話を受け取ってアドレス帳を確認し

「この携帯電話はボタン押しにくい、画面見づらい、そのうえ失くしやすいと3拍子そろってますのよ」

でもオシャレでしょう?、と口紅みたいな携帯を自分の口に当てて少女は上条へ向かってもう一度微笑んだ。

◇◇◇
トゥルルルルル、ピッ

長くない呼び出し音の後によく知る声が聞こえた。

『どうもー。カミやん、そっちは上手く行ってるか? こっちはオリアナ達が取引に使いそうな警備が薄い場所を絞り込んでるところなんだが、第七学区は意外と
ポイントが多くて手間取ってるにゃー。 ステイルも別の学区を探索してるぜぃ』

「土御門、ひとつ確認したいんだが」

『何が聞きたい?』

 上条の口調から伝わる緊迫感で何かを察したのか電話口の土御門の声のトーンが落ちる。

「なんだったか? そのなんとかソード?とかいうアイテムの取引を阻止するのが俺達の目的なんだよな」

白井とのやり取りですっかり見えなくなってしまったが、『お姉さん』が消えた人ごみの方を見る。

『[刺突杭剣](スタブソード)な。 あとアイテムじゃなくて霊装。 カミやんもしかして弱気になってる? でも俺達3人以外の増援
なんて期待しないほうがいいぜぃ』

「で、運んでる奴も取引相手も恐らく魔術師なんだよな?」

『そうだぜぃ、判明している2名ともう1人、恐らく最低3名以上の魔術師が[刺突杭剣]の取引で動いてる』

「本当だな?」

『どういう意味だ?カミやん―』

「ついさっきだが俺が道でぶつかった人物と握手したときに[幻想殺し]が何かを壊したんだ。 でも何を壊したのかはわからない。しかもそいつは
学生っていうより外部から来ましたって感じで―」

『待てカミやん。こっちからも質問するぞ。 そのぶつかったヤツってのは何か大きな荷物のようなものを持ってなかったか?』

電話口から聞こえる土御門の声に遊びが無くなる

「持ってた」

『[刺突杭剣]は全長1,5m鍔が左右それぞれ35センチ、こんなデカブツを隠せるようなもの・・・何だろうな? スーツケースでも収まらないし―』

(チッ、やっぱりか) 土御門のその言葉を聞いて上条は心中で舌打ちする。

「看板だ、その女は白い布で覆われた看板のような大きな荷物を抱えていた、間違いない」

『カミやん、お前、いまどこに居る』

 言われて上条は辺りを見渡す。 白井と一旦別れた場所から例のお姉さんが消えた方向に走ってきたのだが目印になるようなものが・・・あった。


「第七学区の一財銀行前だ」

そこで待ってろ、と言うと土御門が電話を切った。

上条の携帯電話からはツーツーという音がした。

通話が切れた携帯電話を見て、あの女を追うか、それとも土御門の到着を待つか、と上条は少し考え。

(でもこのままじゃ追いつけない)

 あの女が上条達の前から消えて、白井とのやり取りがあって約10分ほど、そんなに遠くには行けない時間だ。

だが土御門がここまで来るには何分かかかる、5分かもしれないが土御門が居た場所によっては10分以上かかるかもしれない。

あの女を放って置いたらいけない、そう思うと

上条当麻は敵の魔術師が消えた人ごみへと走り出した。

◇◇◇

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