とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 9-461

最終更新:

ryuichi

- view
だれでも歓迎! 編集
第二章[奔走する主人公と暗躍する主人公 Hero_And_Hero]

<13:09 PM>


 ザァァァァ、と雨が降り荒れ雷が轟く。
 本格的に降り始めた豪雨に少しの反応を示すことなく少年と少女は視線をぶつけ合わせる。
 合図はなかった。
 しかし、白井黒子と一方通行(アクセラレータ)が動き始めるのはほぼ同時だった。
「!!」
「!!」
 少年は辺りに落ちていた瓦礫かなにかを吹き飛ばし、少女はそれを避けるように空間移動(テレポート)を発動させる。
 ガァン!! と辺りに響く音は一つだけ。
 瓦礫が地面に激突する音に空間移動(テレポート)の移動音がかき消された。
 同時、一方通行の真上に風に服をたなびかせる少女が出現する。
「はッ! 当たりませんわね。もっと良く狙われたほうがよろしくてよ」
「オイオイ、あンま調子のってっと怪我じゃすまねェぞ」
 ゴン!! と地面を踏み砕いてから一方通行が頭上に飛んだ少女へと飛翔した。
 上からは雨が降り続いているというのに、少年は決して眼をつむらない。紅く染まる瞳は白井の姿を映し出す。
「くぅ……」
 白井はそれをあえて空間移動(テレポート)をせずに避けた。
 相手の能力を把握するために一瞬の観察の間を手に入れるこの行動は一種の賭けだった。
 空中で身体を捻り、迫りくる一方通行の細い腕が白井の真横を通過する。
 風が生じた。
 轟ッ!!!! という炸裂音と共に少女の身体が勢いよく吹き飛ばされる。
(これ、は………何が起きてるのかまったくわかりませんの……ッ!!)
 くそっ、と少女は憎々しげに吐き捨てた。
 地面にぶつかる前に辛うじて真上へと空間移動(テレポート)し、空中で衝撃を殺す。
 くるくると回る視界に普通ならば眼が回るのだろうが、空間移動(テレポート)の使用に慣れている白井にそんな心配はいらない。
 勢い余って裏路地を飛び出しようやく少女は地面へと降り立った。
 緩やかな着地ではない。ざりざり、と地面が靴底を削る音が耳に届いた。
(しまった……あの男は)
 目から離した少年を、首を巡らし辿る。
 しかし、少女の考えに反するように少年は簡単に見つかった。


 ついさっきまで自分と少年が戦っていた場所の方向に目を向けると、その視線をさえぎるように一方通行(アクセラレータ)が目の前いっぱいに広がっていたのだから。


「ッ!!??」
 反応する暇はなかった。
 計算式を組み立てる余裕もなかった。
 ゴン!! と音を立てて少女は少年に首を絞められたまま壁へと叩きつけられた。
「オイオイ……どうしたってンだ。さっきまであンなに余裕ぶってたくせにこれはねェだろォがよ」
 顔を近づけ、不機嫌そうな声を出しながら一方通行は首を持ち上げる。
 ごっほっ、と絞り出すように息をする少女を見て彼は目を細めた。


「こちとら急ぎの用なンだぜ? それを邪魔されて結構頭にキテるってのに、なンだそりゃ。お前でストレス発散するつもりだった俺は損しかねェぞ。つゥかガッカリを通り越して呆れ
ちまうっつの」
 そう言う一方通行だが、実のところ彼はこの状況を楽しんでいた。
 ぎりぎり、と首を絞められながらも少女の瞳には決して諦めの色は浮かんでいない。
 彼女は”勝つため”の計算を素早く組み立てていく。
(…アイツが言った言葉に一つだけ気になることがありますの)
 どっかの誰かさん。
 少年は己の警戒する人物として、そう一人の人間を挙げた。
(警戒するほどの人間がいる………つまり目の前のコイツの能力は『絶対』ではありません。何かの弱点が、どこかにあるはず……)
 御坂美琴で考えてみよう。
 彼女の能力は『電磁力に関するあらゆるものを制御する』というものだ。
 後ろからの襲撃にも常時発している電磁波で発見されることから、一見にしてスキの無いように見えるが案外簡単なところに弱点がある。
 それは、見えないところからの超遠距離射撃だ。
 能力者を捕まえる際の常套手段は『能力を使わせる前に捕縛すること』である。
 能力が強力すぎて太刀打ちできないのなら、能力を使わせずに勝てばよい。
 真正面からが無理ならば、後ろから。後ろからが無理なら真上から。真上から無理なら真下から。
 要するに、ものはやりようである。そのままで勝てないのなら、勝てる状況へと自分から持っていけばよいのだ。
 まあ正直な話、美琴なら狙撃されてもなんとかしてしまいそうな気がするが。
(問題は相手の能力がいまだにわからないことにありますわね。物質を弾いたり、空間移動(テレポート)を跳ね返したり出来る能力など聞いたこともありませんし、バリアか何かの応
用でしょうか?)
 念動力(テレキネシス)を応用すればそれらしいものを作れるかもしれない。
 先ほどの風もそれで充分に説明がつくだろう。
 しかし、もしバリアなのだとしても一一次元まで適応される最高度の盾のはずだ。
 自身が得意とする空間移動(テレポート)では、太刀打ちできない。
「…………、」
 そこまで考えて、白井は薄く笑みを浮かべた。
 それを見て少年が怪訝そうな表情をするが、気にしない。
 できるだけ挑戦的な口調で、目の前の男に吐き捨てる。


「あなたの負けですわ、殿方さん」


 突如、一方通行の手の中から常盤台の少女が消えた。
 おそらく空間移動(テレポート)で移動したのだろう。
 力を入れていた腕が空回りし、勢い余って壁に陥没させながら彼は楽しそうに口端を歪めた。
「俺の負け、ねェ」
 壁から腕を引き抜き、背後を振り返り、
「まさか、こンなもンで俺をやれるなンて思っちゃいねェよなァ」
 ゴッ!! と。
 彼の方へと飛んできたゴミ箱を片手で弾き飛ばした。
 いや、それだけではない。
 いくつもの物体が放物線を描くようにして少年の元へ殺到した。
 ズガガゴガガガ!!!! とまるで空爆のような弾幕が一方通行の身体を叩く。

 しかし、彼には能力があった。
 触れたものすべてのベクトルを操作できる能力の一部である反射はどれほどの物質量でも例外なく弾き返す。
 反射された物体が壁を叩き、道を転がり、宙を舞う。
「めンどくせェ……」
 しかし、物体の弾幕攻撃は止まらない。どこからこんなにも見つけてきたんだろうかと思うほどの量の物体が空間移動(テレポート)し、少年の方へと飛んでくる。
「めンどくせェってのホントに」
 ゴァァァァァァァ!! と轟音が炸裂した。
 大気を操り、風速五〇メートルを超える突風が一方通行を中心として発生した。
 さながら竜巻のような風の動きに飛んでくる物体が空へと大きく巻き上げられる。
「なにがやりたいンですかァ? いくら量を変えようが、方向を変えようが、そンなもンが俺に届くわきゃねェだろ!!」
 左右の手を広げ、彼は笑いながら風の勢いを上げた。
 周りの廃墟の窓ガラスが割れ、少年の周りに降る雨粒が地面に着くことなく空へと舞い上がる。
 本来ならば、彼の通常の戦闘スタイルはチョーカーの電池消費を抑えるために細かく電源を切っては入れるを繰り返す。
 しかし、今は状況が状況だ。敵が空間移動(テレポート)というどこから飛んでくるかわからない攻撃に不用意にスキを見せるわけにはいかない。
 彼がこの状況を楽しんでいたということもあるだろう。
 久しぶりに見るヒーローというヤツに、少年は少なからず興奮していたのだ。
 そう、興奮していたからこそ、彼はいつもであれば気付くであろう相手の目的に気付くことができなかった。
「ハッ……おバカさんですわね。自分が術中にハマっていることにすら気付かないなんて」
 荒れる風の中で少女の凛とした声が混じった。
 その声はこの暴風の中では聞こえても居場所まではわからないだろう、と思っての言葉だったのだろう。
 バカはテメェだ、と一方通行は一つの廃ビルへと目線を向けた。
 彼の能力で引き起こした風だ。自分に届いた声の発生場所を逆算できない学園都市の一位ではない。
「さァて、かくれんぼは終わりだクソガキ!!」
 勢いよく、彼は地面を蹴った。その瞬間にベクトルを操作する。
 爆音が鳴った。
 ゴガン!! と炸裂する破壊音と共に地面がひび割れ彼の身体がミサイルのような推進力を得て廃ビルへと激突した。
 ロケットのように壁を突破し三階部分へと強引に特攻をかける。
 直後。
「あァクソ……」
 目の前に広がる光景に、彼は思わずといったふうに似合わない苦笑をこぼした。
「やってくれるじゃねェか、クソッたれ」


 ゴッガァァァァァン!! とそれを合図とするように廃ビルが倒壊した。


 からくりは簡単だ。
 一方通行が突撃してきた廃ビルの柱がすべて、空間移動(テレポート)による物質移動で破壊されていたのだ。
 柱を失い重みに耐えきれない廃ビルは当然長くはもたない。そのうちに本人は脱出し、それと入れ替わるようにして一方通行が侵入してきただけ。
 しかし、それは白井が一方通行を倒すための行動ではない。
 白井が一方通行から逃げるための行動だった。
 彼女の目的は少年を倒すことではない。あくまでも、佐天涙子を助け出すことが彼女の目的なのだから、無理に一方通行の相手をしなくても良いのだ。
 結果、一方通行はビルの倒壊で数秒とはいえ、白井を視界から消し、少女は得意の空間移動(テレポート)で佐天涙子を連れて逃亡。
 少女は恐らく一方通行が佐天涙子を殺すことを目的としていると勘違いしていたのであろう。
 だからこその『逃げるが勝ち』。
 皮肉なことに、一方通行が〔パンドラ〕の少年少女から逃げたときと同じようなやり方である。
 結果的な話、双方の痛み分けとしてこの戦いは決着した。

<13:11 PM>


 一方通行(アクセラレータ)は、第一〇学区のとある廃屋の倒壊現場に居た。
 いや、居たというのは正しくはないだろう。正確には、彼は倒壊したビルの中に”埋まって”いるのだから。
「あァーアァー遊びすぎたァ」
 巻き上がった粉塵と周りの瓦礫を風で吹き飛ばし、彼は首筋のチョーカーのスイッチを通常モードへと戻した。
 フッ、と身体から力が抜ける。
 小さくして手に持っていた現代的な杖を元のサイズに戻し、そこに身体を預ける。
 瓦礫の散らばる場所での杖の移動は危なっかしく思えるだろうが、一方通行にとってその程度は問題にもならなかった。
「あの女、きちンとお友達は連れて帰ったンだろうなァ……」
 万が一にもそんなことはないと思うが、それだけが一方通行にとっての気がかりだった。
 彼は佐天涙子を助けた裏路地へと足を向けながら、ポケットの中からあるものを取りだす。
 先ほどの戦闘での戦利品。
 それは、細長い筒のような口紅のような携帯電話だ。
 一方通行は細かい理由があったとはいえ、ただ目的もなく戦闘を行ったわけではない。
 紛失した携帯電話の補充。
 あの白井とか言う少女の首をしめているときに拝借したそれこそが今回の一方通行の目的だった。
「………チッ」
 小さく舌打ちし、彼は片手で携帯を操作する。
 適当に準備を済ませてから、一方通行は携帯電話である番号をプッシュした。
 もちろん、人から奪ったものに彼の知り合いの番号はあるはずもなく、すべて彼の頭の中に入っている番号だ。
 元々、彼のアドレス帳に入っている数などたかが知れているし、少ない数字の羅列を覚えることなど、複雑な演算処理を行う一方通行には容易なことである。
「………、」
 電話が繋がる。
 『もしもし』という言葉に一方通行は簡潔に、短く述べた。
「超電磁砲(レールガン)」
『―――っ』
 電話の相手が息を呑むのが小さく聞こえた。
「この言葉だけで、テメェに何を言いたいかはわかってくれるよなァ」
『はて、なんのことでしょうか』
 電話の相手は平坦に言葉を返す。
 疑問も何も含まれていない、ただ返すためだけの言葉だった。
『というか、その声は一方通行さんでしょう。回りくどいやり方をせずとも、普通に電話してくださればいいのに』
 電話の相手―――海原光貴はいつもより少し声を低くして、一方通行へと言葉を返した。
 珍しく機嫌が悪いらしい。
 一方通行の持つ携帯の番号、すなわち知らない番号での着信ではおそらく出ないだろうと思って非通知にして電話をしたのだが、指令を出す『電話の男』と勘違いでもしたのだろう。
 それに対しての不満も多少はあるだろうが、それだけが不機嫌の理由になるとは思えなかった。
 そして、その不機嫌の理由も一方通行にはわかっていた。
「とぼけるンじゃねェよ。テメェが超電磁砲(レールガン)に特別な思い入れがあることくれェ『グループ』の全員が知ってるっての」
『はは。そうですか。で、”だから自分に何の用があるんです?”』
 トゲのある言い方に、一方通行はせせら笑いで返した。
「用件はわかってンだろォ。一週間前から御坂美琴が行方不明って話じゃねェか」
『ええ、知ってますよ。確かに御坂さんは一週間ほど前からこの学園都市から姿を消しています』
 まぁ、正確には約四〇分ほど前に第一〇学区で目撃証言が出てますけど、と海原は付け加えた。
『で、それがアナタにどんな関係があるというのですか? というより、どうしてアナタがその話を自分にしてきたかということがわかりませんね。”我々はお互いの為に情報を共有し
あうほど、仲良しではなかったはずでは?”』
 元々、土御門元春、一方通行、海原光貴、結標淡希の四人で構成される『グループ』の仲はそこまでいいものではない。
 利用できるから一緒に居るだけと言っても過言ではないだろう。それどころか、役に立たないのなら殺してやりたいくらいだ。
 お互いの利害関係が一致しない限り、協力などもっての他である。
 だからこそ、海原のその疑問は仕方のないものだった。
「俺だってオマエの手なンざ借りたかねェよ」
 しかし、今の状況で海原と一方通行はお互いの利害関係が一致している。

「テメェの探す御坂美琴が居るであろう場所に、俺が探してるヤツがいる。だが、どうしてもその場所がわからねェ。俺一人には限界がある」
『……一人? アナタは学園都市の命令でこの件にあたっていると思っていましたが』
「俺の携帯が諸事情でぶっ壊れやがってなァ。こっちからは連絡を取ろうにも取れねェンだよ」
 一方通行の携帯から土御門にでも電話をかければ、もしかしたら繋がったりするかもしれないが、生憎とその携帯はすでにこの世にいない。
 ない物ねだりをしても事態は好転しないのだ。
『………つまり』
「あァ。”俺がオマエに情報を提供してやるから、オマエがその場所を割りだせ”」
『随分と上からのもの言いですね。自分がすでにその場所を知っている可能性は考えないのですか?』
「知ってたならテメェは大人しくしてねェだろうが。さっさと一人特攻しておっちンでるか、超電磁砲を助け出してるはずだァ」
 正直な話、一方通行にとって海原が場所を知っていようが知っていまいがどちらでもよかった。
 例え海原が場所を知っていたとしても、一方通行は無理やりにでも場所を吐かせていただろうし、知らなかったとしても今のように協力を促すだけなのだから。
 それを海原もわかっているのであろう。彼は、言外に場所を知らないことを示しながら、重くはっきりとした言葉で呟いた。
『………一つだけ条件があります』
「わかってる。超電磁砲をついでに助けてくれってンだろ? オマエ一人ではちと力不足だろうからァ」
 元から一方通行は御坂美琴も助けるつもりだった。理不尽に光の世界から闇の世界へと連れてこられた人間を見捨てていい理由などないのだから。
 それに、彼の予想では海原に学園都市からの指令、『グループ』の上司からの連絡はないはずである。
 『グループ』としての仕事ではなく超能力者(レベル5)第一位『一方通行(アクセラレータ)』としての仕事だと言ってきた電話の男。
 彼の口からは遊軍の話は一度も出てこなかった。
 おそらく、海原は何のサポートもなく一人で情報を集めていたのだろう。
 だからこそ、思うように情報を集まらずイライラしていたのだ。
『いいえ、違います』
 だが、一方通行の考えに反して、海原ははっきりとそう言った。
 思わず首を捻りそうになる少年は続く言葉にさらに首を捻ることとなった。


『アナタは”絶対に”御坂さんに手をださないでください』


「………はァ? オマエがやるっつうのか。バカかテメェ。片意地を張るような場面じゃねェだろうが」
『アナタには関係ありませんよ。自分には御坂さんを助けてくれる「ツテ」がありますから』
 ふざけるな、と一方通行は眉をひそめた。誰ともしれないヤツに任せて失敗しましたじゃ笑い話にもならない。
「オマエの言う『ツテ』ってもンは”この俺”よりも頼りになるってのかァ。学園都市の第一位であるこの俺よりもよォ」
『そうだ、と断言できないところがまた残念なんですがね……自分は信じてるんですよ。こんなクソみたいな世界に住んでて、ガラじゃないことは自覚してます』
 けど、と海原は小さく笑いながらこう言った。
『信じたく、なるじゃないですか。あの少年は必ず「約束」を果たしてくれると』

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー