『ベツレヘムの星』の軟着陸。
正確に言えば、墜落しても大丈夫な場所、そして、墜落しても上条と美琴が無事でいられる場所を、インデックスから報告を受けたステイルの指示により、探し出していた。
幸いなことに、その場所は見つかりそうで、
『――君のような人間に借りを作るのは僕の流儀じゃないが、今回ばかりは受け入れよう』
「本気でそう思っているなら、降下予想地点の近くに回収用の部隊でも展開させてくれねえかな。極寒の氷水の中で待機するなんてのは勘弁してほしいもんだ」
などと、墜落寸前の割には、思いっきり場違いな軽口の会話が交わされている。
そんな上条の様子に美琴も、まずは一安心、といった溜息交じりに安堵の笑みを浮かべていた。
実のところ、二人は全力で駆けながら、九番霊装を目指しているわけだが、それでも、どこか余裕があった。
しかし――
『何だこれは……』
先ほどまでの軽い口調とは一転、スピーカーから漏れてきた声には焦りが含まれていた。
当然、走っている二人にもその声は届く。
『おかしい……何か巨大な……天使の力(テレズマ)? 何故こんなものが――?』
不吉な予感がした。
何か決定的な絶望感を突きつけられたような不吉な予感が。
『何で今さら、ミーシャ=クロイツェフが浮上しつつあるんだ!?』
予感が現実となった瞬間であった。
正確に言えば、墜落しても大丈夫な場所、そして、墜落しても上条と美琴が無事でいられる場所を、インデックスから報告を受けたステイルの指示により、探し出していた。
幸いなことに、その場所は見つかりそうで、
『――君のような人間に借りを作るのは僕の流儀じゃないが、今回ばかりは受け入れよう』
「本気でそう思っているなら、降下予想地点の近くに回収用の部隊でも展開させてくれねえかな。極寒の氷水の中で待機するなんてのは勘弁してほしいもんだ」
などと、墜落寸前の割には、思いっきり場違いな軽口の会話が交わされている。
そんな上条の様子に美琴も、まずは一安心、といった溜息交じりに安堵の笑みを浮かべていた。
実のところ、二人は全力で駆けながら、九番霊装を目指しているわけだが、それでも、どこか余裕があった。
しかし――
『何だこれは……』
先ほどまでの軽い口調とは一転、スピーカーから漏れてきた声には焦りが含まれていた。
当然、走っている二人にもその声は届く。
『おかしい……何か巨大な……天使の力(テレズマ)? 何故こんなものが――?』
不吉な予感がした。
何か決定的な絶望感を突きつけられたような不吉な予感が。
『何で今さら、ミーシャ=クロイツェフが浮上しつつあるんだ!?』
予感が現実となった瞬間であった。
ミーシャ=クロイツェフは力を欲していた。
何故、大天使である自分が降臨したのかは覚えていない。
しかし分かっていることは唯一つ。
破壊。
新しい世界を創造するための破壊をもたらすため。
そのためには、今現在の疲弊した自分では達成できない。
だが足りない。
完璧ではない。
だが足りない。
完璧ではない。
だがhwsr足りない。
完zdfbではzdfbない。
だgggggggggggggggggggggggggggggggggggggggaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa
そう。圧倒的に状況を逆転させるには、念には念を入れる必要がある。
大天使が選んだ補強先。
特別な記号や象徴を含む莫大な氷。
言ってしまえば、惑星の極点の位置に存在する特別な氷、とか。
水を司る大天使は己が野望のため、進路を北極点へと向ける。
その結末はどうなるのか。
少なくとも魔術を学んだ人間であれば、答えが分かる。分かってしまう。
天使に神の器量(キャパシティ)を超えることは不可能だ。
それゆえ、暴走し、器量(キャパシティ)を上回る莫大な力を天使が得ようとすれば、間違いなく、極点を中心に惑星の起爆が起こるのだ。
すなわち、それはすべての生命の滅亡。
起爆時点では北半球のみが吹っ飛ぶ程度で済むかもしれないが、その後は、もう見えている。
せっかく救われた世界が、まさしく一瞬の輝きの内に消滅するのだ。
「くそ……どうすればいい……」
ステイルはすぐさま、頭を高速回転させる。
いやステイルだけではない。
その場にいるすべての魔術士が打開策を得るために頭をめぐらせて、
「おい、何をしている!?」
ステイルが声を上げた。
今の今まで安全とまではいかなくても、問題なく着陸点を目指していた『ベツレヘムの星』が軌道を変えたからだ。
何故、大天使である自分が降臨したのかは覚えていない。
しかし分かっていることは唯一つ。
破壊。
新しい世界を創造するための破壊をもたらすため。
そのためには、今現在の疲弊した自分では達成できない。
だが足りない。
完璧ではない。
だが足りない。
完璧ではない。
だがhwsr足りない。
完zdfbではzdfbない。
だgggggggggggggggggggggggggggggggggggggggaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa
そう。圧倒的に状況を逆転させるには、念には念を入れる必要がある。
大天使が選んだ補強先。
特別な記号や象徴を含む莫大な氷。
言ってしまえば、惑星の極点の位置に存在する特別な氷、とか。
水を司る大天使は己が野望のため、進路を北極点へと向ける。
その結末はどうなるのか。
少なくとも魔術を学んだ人間であれば、答えが分かる。分かってしまう。
天使に神の器量(キャパシティ)を超えることは不可能だ。
それゆえ、暴走し、器量(キャパシティ)を上回る莫大な力を天使が得ようとすれば、間違いなく、極点を中心に惑星の起爆が起こるのだ。
すなわち、それはすべての生命の滅亡。
起爆時点では北半球のみが吹っ飛ぶ程度で済むかもしれないが、その後は、もう見えている。
せっかく救われた世界が、まさしく一瞬の輝きの内に消滅するのだ。
「くそ……どうすればいい……」
ステイルはすぐさま、頭を高速回転させる。
いやステイルだけではない。
その場にいるすべての魔術士が打開策を得るために頭をめぐらせて、
「おい、何をしている!?」
ステイルが声を上げた。
今の今まで安全とまではいかなくても、問題なく着陸点を目指していた『ベツレヘムの星』が軌道を変えたからだ。
『おい、何をしている!?』
スピーカー越しにステイルの声が届く。
もちろん、上条当麻には聞こえている。しかし、今は答える時間さえ惜しい。
というか、上条が何をやろうとしているかはステイルにだって一目瞭然のはずだから答える必要はない。
だから、上条は何も答えない。
無理矢理、要塞の落下方向を軌道修正し、あとはすべての霊装を、右手でぶち壊し、落下速度を最加速させた要塞を体当たりさせる。
それが上条当麻の出した答えだった。
スピーカー越しにステイルの声が届く。
もちろん、上条当麻には聞こえている。しかし、今は答える時間さえ惜しい。
というか、上条が何をやろうとしているかはステイルにだって一目瞭然のはずだから答える必要はない。
だから、上条は何も答えない。
無理矢理、要塞の落下方向を軌道修正し、あとはすべての霊装を、右手でぶち壊し、落下速度を最加速させた要塞を体当たりさせる。
それが上条当麻の出した答えだった。
『ベツレヘムの星』と大天使・ミーシャ=クロイツェフが沿岸を抜け、北極海へと到達する直前に激突した。
ズズン!!と大きな轟音とともに、大天使ごと要塞は海へと落ちた。沈み行く要塞の中を上条はさらに下へ下へと全力で向かう。莫大な水圧に耐え切れず、要塞内部の壁や柱が次々と潰れていき、極寒の海水が流れ込んでくる。
それでも上条当麻は止まらない。ひたすら下へ。底へ。海抜0メートル以下まで落ちていく。
もはや照明すらなかった。
広がる暗闇の中、一つだけ光点があった。
青く深い、月光をイメージさせる静かな光。
上条当麻は全力で右拳を握る。向こうもこちらには気づいている。暗闇の中で両者の眼光だけが一足先に激突した。
莫大な殺意が溢れ出す中、ただの人間の少年は最後まで足を止めずに突き進んだ。
ここに来るまで色々なことがあった。
ふと上条当麻は考える。どこか穏やかに、まるで場違いに思い出を語るような笑顔で。
大天使が攻撃を開始する。
あの右手に触れれば大天使の自分でさえ消滅してしまう危険性があることを知っているから。
死に物狂いで攻撃を試みる。
一点集中ではなく、分散した氷の銛を、氷の槍を少年へと撃ち出していく。
上条当麻は右手を突き出して、すべての攻撃を無力化する。時折、銛が槍がその体を裂いていくが痛みは感じない。
痛み以上の感情が彼を突き動かし続ける。
……確かにこの世界はいつか滅んでしまうかもしれない。惑星にだって寿命はあるし、その前に膨らんだ恒星に呑みこまれるってことも分かっている。そんな風になる前に地球の表面から生命体がいなくなってしまう可能性の方が高いのかもしれない……
でも、と上条は思う。
何もこんな悲劇的な結末じゃなくてもいいはずだ。
そいつを食い止めるために戦ったっていいはずだ。
そう思い、上条は振りかぶる。全身全霊を右の拳に込めて、すべての悲劇を止めるために。
だが、大天使が狙っていたのはこのときだった。
暴走している大天使に、わずかに残っていた理性。
それが大天使に必勝の策を授けていた。
上条が振りかぶる一瞬。
そのときは上条の頭部が無防備に晒される瞬間。
大天使は見逃さなかった。
頭部を吹き飛ばされて、なお生きることができる存在はない。それは神であろうと悪魔であろうと天使であろうと人間であろうと。
上条は、己の過ちに、この土壇場で気づいてしまった。
しかし、もう遅い。
眉間に迫り来る氷の槍を打ち払う手段はない。右の拳を無理矢理進路変更したところで間に合わない。
ただただ、氷の刃が己の頭部を貫くその瞬間までを見つめるまでしかできない。
少年は誰も救えないまま、非業の死を、この暗闇の中で遂げる近未来が見えた気がした。
それでも上条当麻は止まらない。ひたすら下へ。底へ。海抜0メートル以下まで落ちていく。
もはや照明すらなかった。
広がる暗闇の中、一つだけ光点があった。
青く深い、月光をイメージさせる静かな光。
上条当麻は全力で右拳を握る。向こうもこちらには気づいている。暗闇の中で両者の眼光だけが一足先に激突した。
莫大な殺意が溢れ出す中、ただの人間の少年は最後まで足を止めずに突き進んだ。
ここに来るまで色々なことがあった。
ふと上条当麻は考える。どこか穏やかに、まるで場違いに思い出を語るような笑顔で。
大天使が攻撃を開始する。
あの右手に触れれば大天使の自分でさえ消滅してしまう危険性があることを知っているから。
死に物狂いで攻撃を試みる。
一点集中ではなく、分散した氷の銛を、氷の槍を少年へと撃ち出していく。
上条当麻は右手を突き出して、すべての攻撃を無力化する。時折、銛が槍がその体を裂いていくが痛みは感じない。
痛み以上の感情が彼を突き動かし続ける。
……確かにこの世界はいつか滅んでしまうかもしれない。惑星にだって寿命はあるし、その前に膨らんだ恒星に呑みこまれるってことも分かっている。そんな風になる前に地球の表面から生命体がいなくなってしまう可能性の方が高いのかもしれない……
でも、と上条は思う。
何もこんな悲劇的な結末じゃなくてもいいはずだ。
そいつを食い止めるために戦ったっていいはずだ。
そう思い、上条は振りかぶる。全身全霊を右の拳に込めて、すべての悲劇を止めるために。
だが、大天使が狙っていたのはこのときだった。
暴走している大天使に、わずかに残っていた理性。
それが大天使に必勝の策を授けていた。
上条が振りかぶる一瞬。
そのときは上条の頭部が無防備に晒される瞬間。
大天使は見逃さなかった。
頭部を吹き飛ばされて、なお生きることができる存在はない。それは神であろうと悪魔であろうと天使であろうと人間であろうと。
上条は、己の過ちに、この土壇場で気づいてしまった。
しかし、もう遅い。
眉間に迫り来る氷の槍を打ち払う手段はない。右の拳を無理矢理進路変更したところで間に合わない。
ただただ、氷の刃が己の頭部を貫くその瞬間までを見つめるまでしかできない。
少年は誰も救えないまま、非業の死を、この暗闇の中で遂げる近未来が見えた気がした。
それでも天は上条当麻を見捨てなかった。
いや、天は見捨てたかもしれないが、一人の少女が見捨てなかった。
いや、天は見捨てたかもしれないが、一人の少女が見捨てなかった。
上条の背後、位置からすれば、文字通り天からと思える一筋の閃光が上条の頬を撫でていった、と気づいたときには、その閃光が、眼前で氷の槍を打ち砕いたのだ。
超電磁砲(レールガン)。
学園都市二三〇万人の頂点、七人しかいない超能力者(レベル5)の第三位が放つ渾身の一撃が大天使の氷の槍を粉砕したのだ。
「あのちっこいのに謝るんでしょ! だったら、こんなところで一人で勝手に特攻してんじゃないわよ!」
と、同時に飛んでくる叱咤の声。
このとき、上条は思った。
一緒に残ったのがこいつで良かった、と。
いつでもどこでもどんなときでも。
上条当麻の記憶喪失のことを知っていながら、なお、上条当麻の力になると、味方でいると言ってくれた少女が一緒だったことを心から感謝した。
直後、二つの影が最短距離で激突し、もう一つの影が光をスパークさせて追撃をかける。
瞬間、落下の衝撃を最大限に伝えた『ベツレヘムの星』の巨体がグシャグシャにひしゃげ、潰れていった。
そして――
超電磁砲(レールガン)。
学園都市二三〇万人の頂点、七人しかいない超能力者(レベル5)の第三位が放つ渾身の一撃が大天使の氷の槍を粉砕したのだ。
「あのちっこいのに謝るんでしょ! だったら、こんなところで一人で勝手に特攻してんじゃないわよ!」
と、同時に飛んでくる叱咤の声。
このとき、上条は思った。
一緒に残ったのがこいつで良かった、と。
いつでもどこでもどんなときでも。
上条当麻の記憶喪失のことを知っていながら、なお、上条当麻の力になると、味方でいると言ってくれた少女が一緒だったことを心から感謝した。
直後、二つの影が最短距離で激突し、もう一つの影が光をスパークさせて追撃をかける。
瞬間、落下の衝撃を最大限に伝えた『ベツレヘムの星』の巨体がグシャグシャにひしゃげ、潰れていった。
そして――
十月三十日。
学園都市とイギリス清教。
ローマ正教とロシア成教。
二つの勢力の争いが生み出した第三次世界大戦は終結した。
終戦間際、北極海に要塞『ベツレヘムの星』の落下を確認。
沿岸部に死者はなく、着水時の衝撃で要塞は完全に崩壊。その際にミーシャ=クロイツェフの反応も消失。
同海峡における生存者の反応はなし。
十字教三大勢力の連合による捜索隊が派遣されたが、水温二度の海水の中から生存者が発見されることはなかった。
上条当麻と御坂美琴の二人が発見された、という報告もなかった。
学園都市とイギリス清教。
ローマ正教とロシア成教。
二つの勢力の争いが生み出した第三次世界大戦は終結した。
終戦間際、北極海に要塞『ベツレヘムの星』の落下を確認。
沿岸部に死者はなく、着水時の衝撃で要塞は完全に崩壊。その際にミーシャ=クロイツェフの反応も消失。
同海峡における生存者の反応はなし。
十字教三大勢力の連合による捜索隊が派遣されたが、水温二度の海水の中から生存者が発見されることはなかった。
上条当麻と御坂美琴の二人が発見された、という報告もなかった。
上条当麻。彼は二度目の『死』を迎えることになる。
ロンドンの聖ジョージ大聖堂で、ミーシャ=クロイツェフの消失と戦争の終結の歓喜に沸く喧騒とは別の一室で、
「あの野郎……」
ステイル=マグナスは呻くように呟いた。
いまだ、上条当麻発見の一報は届かない。
彼と関わりのあった者すべてが重苦しい空気に包まれている。
不意に、がたん、と物音が聞こえた。
ステイルが音の聞こえた方へと視線を向ければ、そこには力の抜けたインデックスがふらふらと近づいてきていた。
「とうまはどこ?」
誰にも答えられない質問だった。
インデックスの気持ちが痛いほど伝わる。おそらく、ここに来るまでにすれ違った神父やシスター全員にかけた言葉だろう。
しかし、誰からも芳しい返事がもらえず、ここに辿り着いた、と言ったところか。
再び周囲を見渡し呟く。
「とうまはどこ?」
その問いに答えられる者はいない。
「あの野郎……」
ステイル=マグナスは呻くように呟いた。
いまだ、上条当麻発見の一報は届かない。
彼と関わりのあった者すべてが重苦しい空気に包まれている。
不意に、がたん、と物音が聞こえた。
ステイルが音の聞こえた方へと視線を向ければ、そこには力の抜けたインデックスがふらふらと近づいてきていた。
「とうまはどこ?」
誰にも答えられない質問だった。
インデックスの気持ちが痛いほど伝わる。おそらく、ここに来るまでにすれ違った神父やシスター全員にかけた言葉だろう。
しかし、誰からも芳しい返事がもらえず、ここに辿り着いた、と言ったところか。
再び周囲を見渡し呟く。
「とうまはどこ?」
その問いに答えられる者はいない。
常盤台中学の学生寮の一室に衝撃が走っていた。
同室の住人が、かれこれ一昼夜戻ってこないことに、当初、白井黒子は怒りに震えていたのだが、何気なしに付けていたテレビのワンシーンに釘付けになった。
どこの国のカメラマンが撮影したのかは分からない。
分かるのは、LIVE表示が無いから、録画ってことくらいだ。
その映像は巨大な、学園都市がスッポリ嵌りそうな岩の塊が海に向かって落下していくものであった。
その内部に、目を凝らされなければ分からないほどの小さな、それでも、白井黒子にすれば見間違えようの無い見覚えのある光が瞬きながら進んでいくのが見えた。
目の錯覚であると信じたかった。
光を乗せた巨大な要塞岩が津波に等しい飛沫を上げながら着水し、崩壊していったからだ。
即座に、白井黒子は己の携帯電話を取り出す。
尊敬する愛すべき先輩少女が使う携帯電話はそんじょそこらの電話機とは違うことを知っていた。
学園都市最強の発電系能力者(エレクトロマスター)が使う携帯電話はちょっとやそっとどころか、レベル5(ハイエレクトロマスター)の電磁波に耐えられることを知っていた。
世界中のどこにいても、どんな状況だろうと必ず繋がると信じていた。
登録されたアドレスの一番上のアドレス。
迷わず、彼女はプッシュする。
しかし、電話の向こうの相手の答えは無情だった。聞こえるのは事務的な音声のみ。
『おかけになった番号は現在、電波の届かないところか、電源が入っていないか――』
同室の住人が、かれこれ一昼夜戻ってこないことに、当初、白井黒子は怒りに震えていたのだが、何気なしに付けていたテレビのワンシーンに釘付けになった。
どこの国のカメラマンが撮影したのかは分からない。
分かるのは、LIVE表示が無いから、録画ってことくらいだ。
その映像は巨大な、学園都市がスッポリ嵌りそうな岩の塊が海に向かって落下していくものであった。
その内部に、目を凝らされなければ分からないほどの小さな、それでも、白井黒子にすれば見間違えようの無い見覚えのある光が瞬きながら進んでいくのが見えた。
目の錯覚であると信じたかった。
光を乗せた巨大な要塞岩が津波に等しい飛沫を上げながら着水し、崩壊していったからだ。
即座に、白井黒子は己の携帯電話を取り出す。
尊敬する愛すべき先輩少女が使う携帯電話はそんじょそこらの電話機とは違うことを知っていた。
学園都市最強の発電系能力者(エレクトロマスター)が使う携帯電話はちょっとやそっとどころか、レベル5(ハイエレクトロマスター)の電磁波に耐えられることを知っていた。
世界中のどこにいても、どんな状況だろうと必ず繋がると信じていた。
登録されたアドレスの一番上のアドレス。
迷わず、彼女はプッシュする。
しかし、電話の向こうの相手の答えは無情だった。聞こえるのは事務的な音声のみ。
『おかけになった番号は現在、電波の届かないところか、電源が入っていないか――』
妹達(シスターズ)の一人、御坂美琴を『ベツレヘムの星』に送り、己の身を案じた二人の厚意によって立ち去ったミサカ一〇七七七号は沿岸へと辿り着いた。
VTOL機を燃料切れで失ったため、高速の貨物列車に乗り込んで、この白い流氷の海岸に。
周囲に人はいなかった。
吹きすさぶ海からの風が、やけに、この身に突き刺さる。
あの二人の手がかりになるようなものは一つも見つからなかった。
途方に暮れたように周りを見回していた彼女だったが、突然、大きな棒を拾い上げた。
コンクリートで固められた堤防から棒を伸ばし、ソーダ水のように氷で包まれた海面をかき回す。
程なくして、棒の先端に二つの小さな合成樹脂が引っ掛かっていた。
――!!
彼女は息を呑む。
見覚えはあった。いや正確に言うならば、ミサカネットワークを通じて知った。
それは、強い力で紐の部分が引き千切られたゲコ太のストラップだった。
日本時間で九月三十日の午後。少年に『御坂妹』と呼ばれる一〇〇三二号が、自分たちの素体である少女の鞄に付いていたのを目撃していたものだった。
強い熱を浴びたのか、溶けかかって、あたかも寄せ合うようにくっついていた。
VTOL機を燃料切れで失ったため、高速の貨物列車に乗り込んで、この白い流氷の海岸に。
周囲に人はいなかった。
吹きすさぶ海からの風が、やけに、この身に突き刺さる。
あの二人の手がかりになるようなものは一つも見つからなかった。
途方に暮れたように周りを見回していた彼女だったが、突然、大きな棒を拾い上げた。
コンクリートで固められた堤防から棒を伸ばし、ソーダ水のように氷で包まれた海面をかき回す。
程なくして、棒の先端に二つの小さな合成樹脂が引っ掛かっていた。
――!!
彼女は息を呑む。
見覚えはあった。いや正確に言うならば、ミサカネットワークを通じて知った。
それは、強い力で紐の部分が引き千切られたゲコ太のストラップだった。
日本時間で九月三十日の午後。少年に『御坂妹』と呼ばれる一〇〇三二号が、自分たちの素体である少女の鞄に付いていたのを目撃していたものだった。
強い熱を浴びたのか、溶けかかって、あたかも寄せ合うようにくっついていた。
一〇七七七号が見た情報はミサカネットワークに即座に配信された。