とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

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匿名ユーザー

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「とうま!」
 インデックスは学園都市内の、今ではすっかり自宅と化している居候先、上条当麻の学生寮へと戻ってきた。
 ここに戻ってくるまで、あの日から既に一ヵ月半の月日が経過していた。
 それは仕方がないことだった。何しろインデックスにかかっていた遠隔制御霊装の後遺症の上に、上条当麻行方不明だ。
 肉体的精神的にボロボロと言っても過言ではなかった。
 そんな彼女をイギリス清教および天草式の連中が放って置けるわけもなく、『あの少年の元に帰りたければ、まず、我が身を元に戻しなさい』という忠告を口がすっぱくなるほど言い続けたのだが、それでも、インデックスが何度も何度もダメージが残る重い体を引き摺って自力で抜け出し、途中で倒れてしまって連れ戻す、と言うのを繰り返していたものだから、三週間ほどで回復するはずのものが倍の時間がかかってしまったのである。
 それでも晴れて完全回復し、イギリス清教傘下、天草式の女教皇(プリエステス)、ポニーテールというよりも侍を彷彿とさせる髪型に細目の美少女よりも美女の方が呼び名として相応しい神裂火織同行の元、懐かしの我が家に戻ってきたのだが。
「……どうやら、まだ帰ってきていないようですね」
 神裂が努めて気丈に、そして冷静に呟く。
「うん……」
 そう。
 部屋の中は人の気配もなく、ただただ閑散としていた。
 十月中旬のあの日、二人でイギリスに出かけた日、そのままの状態で。
 それが上条当麻がまだ、この部屋に戻ってきていない証でもあった。
 実のところ、インデックスのみならず上条当麻に関わった全ての者たちは一抹の希望を抱いている。それは今なお、上条当麻が遺体で発見されたではなく行方不明のままだからだ。
 確かに、あの状況、極寒の氷水の中で生き延びた、と考えるのは無理があるのは百も承知だ。海底深く沈んでしまったのかもしれない可能性だって捨てきれない。
 それでもまだ、『見つかっていない』状況に、ほとんど願望に近い希望を持つことができるのだ。
「どうされます?」
 神裂が伏せ目のインデックスに問いかける。
「ここで待つんだよ……」
 今にも嗚咽が漏れそうな声。しかし、涙をこぼすわけにはいかない。
 今はまだ。
 例え結果がどちらであったとしても今はまだ、涙をこぼすべきではない。
「だって、ここはとうまと私の……」
 それでも語尾は言葉にならなかった。


 白井黒子は風紀委員(ジャッジメント)の仕事で夜のパトロールに参加していた。
 あの衝撃の映像以来、御坂美琴の姿を見ていない。
 学園都市でも、超能力者(レベル5)の一人が行方不明になっていることに、嘆き悲しむ者、戦々恐々としている者で二分されている。
 それは無理もない話で超能力者(レベル5)ともなれば学園都市側からすれば亡命でもされた日にゃ、それは脅威以外の何者でもないからだ。
 むろん、白井黒子は前者である。
 それも半端ないくらいの前者で、この一ヶ月半、眠れない日々をどれだけ送ってきただろうか。
 待てど暮らせど、愛しのお姉様は帰ってこない。
 もしかしたら、あの少年と駆け落ちでもしたのだろうか、などと、それこそ妄想に等しい淡い希望を抱いて、同僚の初春飾利に世界中の衛星をハッキングさせて探っても見たが、結局、どこにも見つからなかった。
「お姉様……」
 力ない呟きは一人でトボトボ歩く白井黒子以外に聞く者は誰もいない。
 彼女は率先して、この夜のパトロールに出向するようになった。
 夜、隣に御坂美琴がいないことに耐えられなくなったから。
 一人で寝るのは寂しい、なんてものじゃない。
 暗闇に独りぼっちにされ、しかも御坂美琴は行方知れずだ。頭の中は悪い方へ悪い方へと自然に向かってしまう。
 何度も悪夢だって見た。
 テレポートであの崩れ行く要塞の中に突撃したとき、御坂美琴が寂しげな笑顔で「さよなら」と呟いて深く暗い海の底へと沈んでいく姿を何度も見てしまった。何度、手を伸ばしても届かなかった。
 その度に、悲鳴を上げて起き上がり、枕を濡らしたことだって数知れずだ。
 だから、夜、部屋に居たくない白井黒子は外へと繰り出す。
「あら……?」
 ふと気がつけば、一度、バンクで調べた『あの馬鹿』の学生寮が目に入る。
 その七階の一角。
 部屋の家主は確か、御坂美琴と同じく、かれこれ一ヶ月半ほど行方知れずになっている少年のはずである。
 しかし、今日はその部屋に明かりが灯っている。
「まさか――!」
 迷わず、白井黒子は職務を投げ捨ててテレポートを敢行した。


「ま、そんなことだろうと思ってましたけど」
 残念ながら白井黒子の望みは叶わなかった。
 意気軒昂、高ぶる気持ちを抑えきれず、上条当麻の部屋に突撃してみれば、期待に反して、家主も御坂美琴もおらず、そこに居たのは、九月一日に、自分のことを『品のない女』と表現した、銀髪碧眼の白い修道服に身を固めたシスターのみ。
「まったく……せめて、あの殿方でも戻ってきてくだされば、お姉様の安否も確認できると言うのに、どうしてここにいるのがあなたなんですの?」
「む……何か、その態度、無性に腹が立つんだよ。と言うか、ここは私ととうまの部屋なんだから私がいることは何の不思議もないんだよ」
「は? あの殿方と一緒に住んでいらっしゃる、と言うことでよろしいですの?」
「そうなんだよ。ここは私ととうまのすいーとるーむ! なんびと足りとも踏み込むことができない聖域なんだから!」
「あっそう」
 ふふん、と胸を張るシスターに白井黒子は曖昧に相槌をうっていた。
 ちょっと、人と恋愛の方向性が違う白井黒子には男女が同じ部屋で過ごすことの意味は分からないでもないが、それに対してはさしたる興味も沸かなかったようだ。
「そう言えば、あなたのお名前は何と仰いますの? 今のままじゃ呼び名が不便ですし、差し支えなければ教えていただけないかと。ちなみに私は白井黒子と申します。学園都市二三〇万人の頂点に立つ超能力者(レベル5)の一人、常盤台中学のエースで在らせられる御坂美琴お姉様の露払いをやっております」
「本当にあの短髪の後輩? 日本風に言えば、妙にかしこまった態度で礼儀正しいし」
「……何も知らないのに、お姉様を悪く言わないでください……そもそも私からすれば、あの殿方の方が充分、礼儀がなってないと思いますけど」
「それは否定できないかも……って、あっそうそう。私の名前はインデックスって言うんだよ」
「インデックス……さん?」
「うん」
 明らかに偽名にしか聞こえない白井なのだが、かと言って深く立ち入るつもりもない。
「ではインデックスさん。単刀直入にお聞きしますが、あの殿方は今どこに?」
 何気なく聞く黒子。
 彼女からすれば、今のインデックスと名乗った少女の態度に、もう既に上条当麻が戻ってきているような感じを受けたからだ。
 何と言っても、声に張りがある。
 の、はずだったのだが、
「……どうされました?」
 なかなかレスポンスがこなかったことをいぶかしげに感じた黒子が問う。
 しかしインデックスは何も答えない。
 しかもその表情が前髪に覆い隠されて見えなくなりつつあり、なんとなく歯を食いしばっているように見える。
 どこかで見たような表情ですわね、と白井黒子は他人事のような感想を抱いた。
 が、即座に我に帰る。
 無理もない。どこかで見た、なんて騒ぎじゃない。
 普段の自分の表情とそっくりなのだ。
「まさか……」
 愕然と声が漏れる。
 そんなシスターの様子に白井黒子は全てを悟ってしまったのだ。
 自分と同じ表情をする少女。
 その理由はたった一つしかない。
「とうまはまだ……」
 インデックスはそう言うのが精一杯だった。


 そんな言葉を聴いて、この場が硬直しないわけもなく、重い空気に支配されてしまう。
 誰かが結婚式のスピーチで不幸は二人で分かち合えば半分になると言ったが、それはあくまで一つの不幸に対して、という風に差し替えた方がいい。
 大事な誰かが行方知れず、などという『不幸』は、その対象者が二人になったとき、辛さは倍増どころの騒ぎではなく相乗されたのではないかと錯覚してしまう。
 インデックスと白井黒子が深遠の闇のような沈黙に包まれて、いったいどれだけの時間が経過しただろうか。
 しかし、まったくその重苦しさは晴れることがない。
 いや晴れるはずがない。
 晴らす方法も無い。
 正確に言えば無いことは無いが、それは当然、上条当麻と御坂美琴が戻ってくる、以外あり得ない。
 どちらからも声をかけられない沈黙が続く。
 気まずい、間が持たない、などではない。動くことすらできないのだ。
 ベッドの上のデジタル時計の音だけが響き渡る一室。
 電気が点いているはずなのに、暗闇に覆われてしまっている錯覚。
 いったいどれだけそうやって二人は固まっていただろうか。
 不意に、部屋の呼び鈴が聞こえた。
「え?」「あら?」
 インデックスと白井黒子は同時にいぶかしげな声を漏らして部屋の入り口のドアを見やる。
 残念ながらインデックスにお客様を迎えるというスキルはない。
 よって、代わりに白井がドアを開けた。インデックスは白井の後に付いていく。
 そこに居たのは、


「あなたたちにお話があります、と、ミサカはお二人の目をまっすぐ見つめて話しかけます」


 御坂美琴そっくりで、常盤台中学の冬服に身を包み、首にシルバーのハート型ネックレスをぶら下げた少女が静かに佇んでいた。

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