とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

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匿名ユーザー

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「それでは、あなたはあの方とお姉さまが亡くなられた、という情報の方が良かったのでしょうか? と、ミサカはいぶかしげに問いかけます」
「う……それはそれで嫌なんだよ……」
「ですから、お二方の命に別状がなくなるまで回復してからお知らせしたのです、と、ミサカは自分の判断に誤りはなかったと胸を張ります」
 御坂妹とインデックス。
 考えて見れば、妙な取り合わせなのだが、それを言っても始まらない。
 夕べ、上条当麻と再会を果たしたインデックスではあったが、またも記憶破壊という現実に直面し、落ち込んでしまって、帰ろうとしたところ、インデックス言うところのパーフェクトクールビューティーである御坂妹に呼び止められた。
 もちろん、インデックスは振り切って帰ろうとした。
 どこに?と問われて、上条当麻の学生寮、と答えようとしたところで、もう自分の居場所がそこにないことを思い出して、言葉に詰まってしまった、という経緯があったのだが、御坂妹の「お姉さまとあのお方を回復させるための手段はあります、とミサカはあなたの協力を求めます」ともう一度、自信満々に言われて、わずかばかりの希望を抱いたインデックスは黙って御坂妹に付いていくことにした。
 さすがに上条の病室では寝泊りすることは忍びないので、仕方なく、インデックスは昨晩、御坂妹が寝泊りしている研究棟の一室で、彼女と供に一晩を過ごした。
 ちなみに今、二人が向かっているのは病院の屋上である。
 何故かと言えば、今から御坂妹がやろうとしていることはカエル顔の医者が反対するに決まっていることだからだ。
 むろん、それは無理もないことで、どんなに上条と美琴のためだろうと、それが医師の領分から外れてしまっていては賛成できるはずもないからである。
 そういうことを御坂妹はやろうとしているのだ。そして彼女はそれを知っていたからこそ、病院関係者の誰にも話を聞かれたくなかったから、インデックスを屋上に連れて来た。
 監視カメラや警報機、屋上へと続くドアの電子ロック程度など、御坂妹の前では、セキュリティの役目を果たすことはない。
 むろん、盗聴器も、だ。
 御坂妹もまた、上条当麻と御坂美琴には戻ってきてほしいと切に願う一人である。
 だからこそ、手段を選ばない。
 どんな手段だろうと、手をこまねいていては何もできないのであれば、可能性のある方にかけるというものである。
 それはかつて上条当麻によって教えられたことだった。
 自分たちの命を救うため、可能性が0ではないとは言え、0.の後に限りなく0が続いて最後が1でしかなかったはずの、レベル0がレベル5を倒す、という方法を選択した上条当麻に教えられたことだった。


「ミサカネットワーク、という言葉をご存知ですか? 、と、ミサカはあなたに質問します」
 屋上に出て、朝日を背後に控えさせた美琴妹が問う。
 インデックスには覚えがあった。直に聞いたことはたった一度だけだったと思う。
 九月三十日の雨の夜。黒服ヘルメットの集団から逃げ出したときの車の中で、人探しをしていた白い少年がそういった言葉を呟いていた。
「言葉は知ってるかも。意味は知らないけど」
 というわけで素直にそう答える。
「ミサカネットワークとは、ミサカたち九九六九体プラス上位個体および番外個体を脳波で繋いでいる共有情報網のことです、と、ミサカは、最近、増えた妹のことを思い出して説明します。またミサカネットワーク内では各ミサカが得た情報を共有することができます、と、ミサカは本来は機密事項であるであろうことをあなたに吐露します。ちなみに、ネットワークという言葉の意味は分かりますか、と、ミサカは再度問いかけます」
 インデックスは考える。
 以前、御坂美琴に教えてもらったことを思い出しながら、確か『特殊な力を結んでいるもの』という解釈をしたはずの言葉だ。
 そこで少し疑問を抱く。
 ネットワーク内で得た情報を共有する、ということはどういうことなのだろうか。目の前にいる少女は一人の人間にしか見えないのだ。
 別の人間と情報を共有するなんてことは可能なのだろうか。
 しかし、インデックスは現時点ではそれを無視した。今、最重要懸案事項なのは上条当麻(と御坂美琴)の回復であって、自分の疑問に対する回答ではない。
「それで、その『みさかねっとわーく』ととうまの記憶がどう結びつくんだよ?」
 というわけで即座に続きを促す。
「あの方の前に、お姉様の覚醒を優先させます、と、ミサカは順番を伝えます。なぜなら、お姉様の目が覚めないのは身体を蝕むダメージのためであり、それさえ回復させれば、元に戻ります、と、ミサカはあなたにミサカの言いたいことを理解してもらうよう、伝えます」
「短髪が先?」
「はい。そうしなければ、あの方の記憶は戻らないからです、と、ミサカはあなたを真剣な眼差しで見つめます」
 インデックスには分からない。
 確かに上条当麻と御坂美琴は一緒に見つかったようではあるが、だからといって美琴の回復=上条の記憶回復に繋がるとは思えない。
 なぜなら意識が戻ったのは上条の方であって、いまだ意識が戻らないのが美琴だからだ。
 逆なら分からないでもないが、状態はともかく、既に『覚醒している』上条を、『覚醒した』美琴によって記憶が戻るなんて、どう考えても無理がある。
 御坂美琴が上条当麻の記憶を保存しているならまだしも、そんな訳がないし、そんなこと出来るはずもない。何しろ美琴の能力は記憶の保存とはまったく結びつくものではないし、能力は一人一つだから、二つ以上能力を有していることもありえない。
「意味が分からないんだよ。短髪の覚醒ととうまの記憶がどう結びつくって言うんだよ」
「お姉様もあの方の記憶の一ピースだからです、と、ミサカはきっぱり答えます。そして、あなた同様、お姉様もあの方と過ごした時間が多くあるから、と、ミサカは付け加えます」
 インデックスはますます分からなくなった。


 ところで、御坂妹の計画はこうである。
 現代医学ではどうしようもない御坂美琴を回復させる手段は何か。
 科学技術ではどうにもならないということならば、科学以外の技術にその答えはないだろうか、ということである。
 科学と正反対の技術。
 『魔術』。
 御坂妹はその存在を知っている。
 科学技術ではどうしようもなかった最終信号(ラストオーダー)を救ったのは、一方通行(アクセラレータ)がその身の崩壊をものともせず使用した『魔術』だったのだ。
 それを御坂妹はネットワークを通じて知った。
 そう。
 御坂妹は最後の希望として、『魔術』に縋ろうというのである。
 大切な人を救うためなら、プライドなんて必要ない。
 それは自身が科学技術の固まりである存在だろうと。
 そこで、魔術に関しては誰よりも詳しいインデックスに助力を求めている、ということだ。
 仮に美琴が記憶喪失の状態で覚醒したとしても、上条当麻とは違い、御坂美琴であれば脳細胞の回復も可能かもしれない。
 能力者に魔術は使えない。
 逆に魔術師にも能力は使えない。
 しかし能力者に魔術が、魔術師に能力が作用しないかどうかと問われれば答えは別になる。
 それは先に述したとおり、最終信号(ラストオーダー)が魔術で救われたことでも分かっているし、九月一日に白井黒子も証明している。
 能力者である白井黒子のテレポートが、魔術師であるシェリー=クロムウェルに作用したのだ。
 だから御坂妹は考えた。
 魔術であれば御坂美琴を覚醒させることが出来るのではないかと。


「……うーん。分かったけど、まだ、とうまの記憶回復に繋がらないかも?」
 懇切丁寧な御坂妹の説明を聞いて、インデックスは呻ったのだが、さらに御坂妹は続けた。
 それは――
「え……じゃあ……」
 インデックスの声がかすれる。それだけ御坂妹の計画は衝撃を伴うものだった。
 もしそれが本当に現実に可能なら。
 カエル顔の医者さえ匙を投げた上条当麻の記憶破壊なのに。
 異能の力であれば全てを無効化してしまう少年の前では回復魔術も効果がないというのに。
 死滅したものは決して取り戻せないはずなのに。
 それなのに、御坂妹のやり方であるならば、昨日までのことだけではなく、七月二十八日以前の記憶でさえも一部、戻すことが可能だからだ。
 そこには、全てを戻すことは不可能でも、大半は戻せる確証があった。
 上条当麻とインデックスの本当の出会いがあったあの日を取り戻せるのだ。
「どうですか? と、ミサカはあなたの決意を聞かせてもらいます」
 インデックスは迷わなかった。
 七月二十日から七月二十八日までの上条当麻。
 七月二十九日から十月三十日までの上条当麻。
 二人とも戻ってくるのだ。
 答えは決まっていた。
 迷う理由などなかった。


 御坂美琴の病室に御坂妹とインデックスはやってきた。
 朝日のやわらかい光が差し込む病室のベッドの上。
 そこには、所狭しと並べられた医療器具に身を委ねている御坂美琴が横たわっていた。
 その傍では、泣き疲れた白井黒子が、美琴に突っ伏して眠っていた。
 もちろん、インデックスには美琴の周りに設置されている医療器具が何を意味しているかは分からない。
 しかし、魔術の儀式が甚大なものであればあるほど複雑で数多くの媒体が必要なように、科学もまた、高度なものが要求されればされるほど、複雑で数多くの機器が必要になるのだろう、ということくらいは理解できた。
 インデックスは再び胸が潰れそうになった。
 上条当麻以上に深刻なダメージを受けて死んだように眠っている御坂美琴を目の当たりにして愕然とした。
 自分自身が招いてしまった悲劇。
 それはフィアンマによってもたらされたものであったとしても、インデックスは自分の不甲斐なさが許せなかった。
 いったい、どれだけの人たちを巻き込んだのだろう。
 いったい、どれだけの人たちを危険な目に合わせたのだろう。
 その結果がこれなのだ。
 自分が守れなかった、誰よりも大切な上条当麻の命を守った少女の痛ましい姿が胸に突き刺さった。
 しかしだからといってインデックスは怯むわけにはいかない。
 逃げ出すわけにはいかない。
 まずはこの少女を覚醒させる。回復させる。
 そして、土下座して床に額をこすりつけて平身低頭謝罪する。
 許しを乞うつもりはない。ただただ謝りたい。それだけだ。
 だからこそ、インデックスは突き進む。
「あら?」
 白井黒子は病室のドアにいる二人に気がついた。頬に伝う涙の跡のことを忘れて。
 インデックスは声をかけた。
「くろこ。短髪を治すんだよ。そのために協力してほしいんだよ」
 勇ましく、白井黒子の瞳を、真剣な眼差しで、決意を込めて、正面から見つめる。
「……治……す……?」
 白井黒子は、いまだ起き切らぬ頭がぼやけたまま、復唱して、
「だから、くろこには、これとこれとこれとこれを準備してほしいんだよ。学園都市でも準備できるはずのものだから」
 インデックスの意志ある言動に白井黒子の意識も瞬時に覚醒した。




 その日は既に夕方を迎えていた。
 朝日と違い、夕日は西に沈む。
 窓の外には紅がまだ残っていたが、部屋の中は、既に暗闇に覆われていて、電灯の灯りが必要になっていた。
「本当に、これでお姉様が復活しますの?」
 今日一日、白井黒子はインデックスの『御坂美琴を復活させる』の言葉の下、学園都市中を巡って必要なものを集め回っていた。
 白井には伝えられてはいなかったのだが、それは魔術儀式に使う媒体だった。
 しかも一部のダメージを回復させるものではなく、全身のダメージを回復させるものだ。
 前に、インデックスを治療したようなものでは到底間に合わない。
 前に、姫神愛沙を応急処置したときのようなものも意味はない。
 それほど深刻なダメージを御坂美琴は受けている。
 東京都の三分の一を占める面積は歩いて回るには遠すぎる。かと言って乗り物を使うのも目的の場所に入れるかどうか判らない場合があるから不便だ。
 結果、白井のテレポートを最大限に利用して、一日で集め回ったのだ。
 実のところ、焦って素早く材料集めをしなければならない理由があった。
 何と言っても、御坂美琴は峠を越し、既に命に別状がないところまで来てしまっている。いつ何時、呼吸を自力で出来るようになるか分かったものじゃない。
 呼吸が自力に出来るようになった時点で、美琴は学園都市を離れる。そうなれば二度と御坂美琴復活の機会は失われることだろう。
 だからこそ急いだのだ。
 少なくとも美琴が覚醒すれば、美琴が学園都市を出ることを、美琴自身はもちろん、学園都市側が許可しないだろう、という根拠に乏しい確信があったことも後押しした。
 また、インデックスにとっては今回の美琴は上条当麻の命を救った恩人なのだ。
 放っておく、などという考えは微塵も考えなかった。


385 :IF 分岐物語6-5:2011/04/11(月) 21:46:37 ID:4DUtDSlY
「もちろんだよ。でも、私には魔術を使えないから、かおりを呼んだんだよ」
「なるほど、回復の儀式ですか。確かに私にはその知識があります。禁書目録の知識を掛け合わせればこの女性を回復させることは可能でしょう」
 白井黒子は病室のドアの前に立ち、部屋の中の、なんとも禍々しい怪しげなレイアウトに、どうしても疑わずにはいられなかった。
 ここは学園都市。
 宗教儀式(オカルト)とは一番縁遠い場所。そんな場所の一角で、どう見ても魔法陣としか表現できないものを描いて、その中心に美琴を眠らせているのだ。
 それも全ての医療器具を外して。
 こんな場面を見れば、この病院の関係者は即座に、インデックスと神裂火織を叩き出すことだろう。
 もし事情を知らなければ、白井黒子だって二人を強制テレポートさせたくなる。
 インデックスの姿は修道服だからまだ言い訳も立つが、もう一人の長身グラマラスポニーテールの細目な女性はフォローのしようがない。
 なんせ、二メートルほどの長刀を腰に刺している上に、左のジーンズを股の付け根まで切った生足という、露出狂と言われても反論できない格好だからだ。
 だから、誰にも中を見られないように、入ることが出来ないように白井は唯一の出入口であるドアの前にいた。
「現在時刻は八時三十分二十五秒、二十六秒、二十七秒、と、ミサカはデジタル時計を見つめつつ、正確に答えます」
「ありがとうございます。では始めましょう」
 呟き、神裂火織は瞑想に入る。
 瞬間、美琴が横たわっている床に書かれた魔法陣が、ラインに沿ってブン、と音を立てて光を立ち上らせた。
 禁書目録(一〇万三〇〇〇冊の魔道書)の知識をフルに活かしたインデックスの詠唱に、神裂火織の詠唱が重なる。
 謳うように。
 完璧に調和が行き届いた音色を奏でて。
 二人とも胸の前で、祈るように手を合わせて。
「浮かべなさい――金色の天使、体格は子供、二枚の羽を持つ美しい天使――」
「はっ――」
 インデックスの呟きに神裂は即座に答える。
 七月二十一日のときの月詠小萌とは違う。
 すべてを理解している神裂だからこそ、粛々と儀式は進む。
「なっ……!」
 白井黒子は声を上げた。
 なんと、美琴の上に、本当に二枚の羽を持つ天使が現れたように見えたからだ。
 なんとも優しげで、まるで赤ん坊を見つめる母親のような笑顔の金色の天使が。
 その黄金の光に御坂美琴が包まれる。
 あたかも光が御坂美琴に吸い込まれていくような錯覚さえ感じる。
 そして、


「――生命力の補充に伴い、肉体すべての回復を確認。これにより彷徨える子羊の覚醒を促します」


 インデックスが呟くと同時に光は消滅した。
 魔法陣から発せられていた光も静まり、再び、この部屋の光源は天井の電灯のみとなる。
「……っ」
 変化があった。
 魔法陣の中心に横たわっていた御坂美琴のまぶたが確かに震えた。
 今のままで、十月三十日から今の今まで、まるで人形のように全身のどこかしらも反応することがなかった御坂美琴のまぶたが震えたのだ。
「お姉様!」
 白井は即座に駆け寄った。
 魔方陣の四方からインデックスが、御坂妹が、神裂火織が、
 そして白井黒子が覗き込んでいるその中心、
「う……」
 今度は声が漏れた。
 同時に首が左右に振れた。
 閉じているまぶたにも力が入った。


「あれ……?」


 うっすらと、そして、静かに御坂美琴のまぶたが上がる。
「ここは……?」
 視界はまだぼやけたままなのかもしれない。
 しかし、そこには確実に生命の炎が灯っていた。
 約一ヶ月半。
 完全に生ける屍と化していた少女の全身に生命を感じることが出来た。
「お姉様!」
 再び、白井黒子は叫んで、御坂美琴に飛び込んだ。
 少女はこの瞬間をずっと待っていた。
 ほとんど絶望に近い状況の中、本当にちっぽけな希望だったこの瞬間を。
 冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)と畏れられる医者が匙を投げた彼女が救われる瞬間を。
 昨晩は慟哭だった少女の叫び。
 しかし、今日は違う。
 その涙は歓喜へと変貌を遂げたのだった。

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