上条当麻は一人、ベッドに寝転んで病室の天井をぼんやりと眺めていた。
特に何も考えずに、ただただぼんやりと。
今、ここにインデックスは居ない。
一頻り泣き喚いてから、最高の笑顔になって、「こもえとあいさとかおりも呼んでくる!」という言葉を残して病室を出て行ったのである。
聞いたところによると、ここへは月詠小萌に送ってもらったとのことで、しかも、逸る心を抑えきれず一人で来たとか。
まあ、上条にとっては好都合だ。
姫神秋沙を通じてクラスに教えてもらうのは、吹寄整理や土御門元春、青髪ピアスを通じるよりもちゃんと伝わるだろうし、神裂火織を通じれば、イギリス清教にも、脚色なく伝わることだろう。
今回、上条当麻が心配をかけたのは、この二つの集団だ。
「あと、迷惑をかけたのは一方通行と御坂妹か……って、御坂!?」
何気なく呟いたつもりが、一番最後に、今回ばかりは、インデックス以上に忘れてはならない少女のことを思い出して、がばっと上半身だけを起こす。
真剣な眼差しで、焦燥に駆られたように邂逅する。
書き込まれた記憶とは言え、それは、正真正銘、上条当麻の記憶である。
御坂美琴と関わった記憶を高速サーチする。
特に何も考えずに、ただただぼんやりと。
今、ここにインデックスは居ない。
一頻り泣き喚いてから、最高の笑顔になって、「こもえとあいさとかおりも呼んでくる!」という言葉を残して病室を出て行ったのである。
聞いたところによると、ここへは月詠小萌に送ってもらったとのことで、しかも、逸る心を抑えきれず一人で来たとか。
まあ、上条にとっては好都合だ。
姫神秋沙を通じてクラスに教えてもらうのは、吹寄整理や土御門元春、青髪ピアスを通じるよりもちゃんと伝わるだろうし、神裂火織を通じれば、イギリス清教にも、脚色なく伝わることだろう。
今回、上条当麻が心配をかけたのは、この二つの集団だ。
「あと、迷惑をかけたのは一方通行と御坂妹か……って、御坂!?」
何気なく呟いたつもりが、一番最後に、今回ばかりは、インデックス以上に忘れてはならない少女のことを思い出して、がばっと上半身だけを起こす。
真剣な眼差しで、焦燥に駆られたように邂逅する。
書き込まれた記憶とは言え、それは、正真正銘、上条当麻の記憶である。
御坂美琴と関わった記憶を高速サーチする。
出会いは六月の夜のどこかの店のシャッターの前だった。不良に絡まれているように見えた彼女を助けるつもりで近寄ったけど右手の幻想殺し(イマジンブレイカー)が災いして、逆にケンカを売られるようになってしまった。街中や川原や鉄橋で何度も何度もやり合った。負けたことは一度もない全戦全勝。七月の中旬、セブンスミストでグラビトン事件のときに気づかなかったけどあいつを助けた。八月の二十日過ぎに妹達のことで絶望してやつれ切ったアイツを見て助けてやりたいと思い無謀にも学園都市最強のレベル5と戦った。夏休み最後の日に恋人ごっこをして宿題を手伝ってもらって、翌日の始業式の日にインデックスと何故か険悪に睨み合っていた。その数日後にあいつの後輩の白井を助けた。大覇星祭は罰ゲームを賭けて勝負して、借り物競争に借り出されたり、玉入れのときに妙にあいつの様子がおかしかったり、昼食時にあいつの母親とも遭遇したり、いきなり殴られたりした。罰ゲームで変なカエルのマスコット目当てで無理矢理ペア契約をさせられたけど、風斬を助けるためにあいつは俺とインデックスのために囮役をやってくれた。イギリスで地下街に閉じ込められたときに電話越しで協力してもらい、『ベツレヘムの星』の中で一緒にミーシャ=クロイツェフを打ち倒して……
「……で、どうなった?」
上条当麻はハタと気づく。
これ以降、御坂美琴に関する記憶がない。
十月三十日から昨日までの御坂美琴の記憶がない。
そして、誰からも、御坂美琴に関する記憶の提供を受けてはいない。
『ベツレヘム』の星から帰還できたのは、御坂美琴が居たからだ。
ミーシャ=クロイツェフを倒せたのは、御坂美琴が協力してくれたからだ。
極寒の海底で生き残った最大の理由は、御坂美琴が限界を越えて能力を行使してくれたおかげなのだ。
では、御坂美琴本人はどうなった?
「まさか……」
最悪の予感が上条当麻の全身を駆け巡る。全身から冷たい汗が噴出してくる。
唐突に病室の扉が開いた。
その音にさえ、上条は過敏に反応してしまう。
まるで、犯罪者がびくびくして隠れているところを見つかってしまったかのように。
そこに居たのは常盤台中学の冬服に身を包んでいる『御坂美琴』だった。
ただし、頭にゴーグルを乗せていて、胸にはハート型のネックレスが銀色の輝きを放っている。
「おはようございます、と、ミサカは、あなたに朝の挨拶をします」
入ってきたのは妹達の一人、ミサカ一〇〇三二号、上条曰くの御坂妹の方だった。
上条当麻はハタと気づく。
これ以降、御坂美琴に関する記憶がない。
十月三十日から昨日までの御坂美琴の記憶がない。
そして、誰からも、御坂美琴に関する記憶の提供を受けてはいない。
『ベツレヘム』の星から帰還できたのは、御坂美琴が居たからだ。
ミーシャ=クロイツェフを倒せたのは、御坂美琴が協力してくれたからだ。
極寒の海底で生き残った最大の理由は、御坂美琴が限界を越えて能力を行使してくれたおかげなのだ。
では、御坂美琴本人はどうなった?
「まさか……」
最悪の予感が上条当麻の全身を駆け巡る。全身から冷たい汗が噴出してくる。
唐突に病室の扉が開いた。
その音にさえ、上条は過敏に反応してしまう。
まるで、犯罪者がびくびくして隠れているところを見つかってしまったかのように。
そこに居たのは常盤台中学の冬服に身を包んでいる『御坂美琴』だった。
ただし、頭にゴーグルを乗せていて、胸にはハート型のネックレスが銀色の輝きを放っている。
「おはようございます、と、ミサカは、あなたに朝の挨拶をします」
入ってきたのは妹達の一人、ミサカ一〇〇三二号、上条曰くの御坂妹の方だった。
「あ、ああ……おはよう……」
「? どうしたのですか? と、ミサカはあなたの様子がおかしいことに疑問を抱きます」
「い、いや……何でも……ない……」
事実を突かれて、即座に御坂妹から視線を外してしまう上条。
「嘘をつかないでください、と、ミサカはあなたの隠し事をしようとする態度に憤慨します。と言うより、あなたが思い詰めたように考えているのは、お姉さまのことではないですか? と、ミサカは核心に迫ります」
問われた途端、上条は御坂妹へと、即座に視線を戻してしまった。
「分かりやすい反応ですね、と、ミサカは嘆息しながら感想を述べます」
しかし、上条は何も答えない。正確には声を出すことすらできない。
今の上条は緊張感に包まれているからだ。
『御坂美琴はどうなった?』という切羽詰った雰囲気を醸し出してしまっているからだ。
そんな彼の様子に御坂妹もふざけたりからかったりすることもできずに素直に白状する。
「……お姉様は、まだ目が覚めておりません、と、ミサカは事実のみをお伝えします」
「なんだと……?」
「ですから、お姉様はまだ眠っておいでです、と、ミサカは繰り返します。よほど無理をされたのでしょうね、と、ミサカはお姉様のことを気遣います」
御坂妹が呟いた瞬間、
上条当麻は、飛び起きて、御坂妹の両肩を掴んだ。
「どういうことだよ? 美琴は無事に助け出されたんじゃなかったのか? 俺だけが助かったのか?」
「あ、あの……、と、ミサカは怯える少女のように狼狽します……」
気がつけば、上条は御坂妹を病室の壁に押し付けてしまっていた。
「教えろ御坂妹! 美琴は、美琴はどうなったんだ!? まさかとは思うが……!」
あまりの上条の剣幕に御坂妹は何も答えることができない。
為すがままされるがままに、揺すられるだけである。
「答えろよ! なあ!」
「やめて……、と、ミサカはあなたに初めて恐怖を感じながら声を震わせます……」
「――っ!」
いつもの平坦な声ではない。
下劣な笑いを浮かべる男どもに全身を押さえつけられて抗うこともできずに暴行される直前の気弱な少女が見せるであろう絶望感いっぱいのような御坂妹の呟きに、ハタと我に返る上条当麻。
確かに今の上条を第三者が見れば、通報されても文句は言えないことだろう。
「す、すまん………………乱暴するつもりは、なかったんだ………………」
ふらふらと後ろ歩きで離れる上条。
その様子をしばし見つめていた御坂妹だったが、少々乱れたブレーザーを直して、
「……お姉さまの目を覚まさせたいのですか? と、ミサカはまだ少し怯えながら問いかけます」
むろん、とっくに全身の震えは収まっているので、とてもそうは見えないのだが。
「できるのか?」
「……はい、と、ミサカは少々心苦しい表情を見せます」
もちろん、見せてはいない。いつもの無表情である。
「それはどういう方法だ! 俺が今すぐにでもやってやる!」
しかし、上条当麻は真剣だ。
上条を助けてくれた御坂美琴を助けるために、今度は自分が体を張る番だ、と言わんばかりの表情だ。
しばし間を置いて、御坂妹が口を開く。
「? どうしたのですか? と、ミサカはあなたの様子がおかしいことに疑問を抱きます」
「い、いや……何でも……ない……」
事実を突かれて、即座に御坂妹から視線を外してしまう上条。
「嘘をつかないでください、と、ミサカはあなたの隠し事をしようとする態度に憤慨します。と言うより、あなたが思い詰めたように考えているのは、お姉さまのことではないですか? と、ミサカは核心に迫ります」
問われた途端、上条は御坂妹へと、即座に視線を戻してしまった。
「分かりやすい反応ですね、と、ミサカは嘆息しながら感想を述べます」
しかし、上条は何も答えない。正確には声を出すことすらできない。
今の上条は緊張感に包まれているからだ。
『御坂美琴はどうなった?』という切羽詰った雰囲気を醸し出してしまっているからだ。
そんな彼の様子に御坂妹もふざけたりからかったりすることもできずに素直に白状する。
「……お姉様は、まだ目が覚めておりません、と、ミサカは事実のみをお伝えします」
「なんだと……?」
「ですから、お姉様はまだ眠っておいでです、と、ミサカは繰り返します。よほど無理をされたのでしょうね、と、ミサカはお姉様のことを気遣います」
御坂妹が呟いた瞬間、
上条当麻は、飛び起きて、御坂妹の両肩を掴んだ。
「どういうことだよ? 美琴は無事に助け出されたんじゃなかったのか? 俺だけが助かったのか?」
「あ、あの……、と、ミサカは怯える少女のように狼狽します……」
気がつけば、上条は御坂妹を病室の壁に押し付けてしまっていた。
「教えろ御坂妹! 美琴は、美琴はどうなったんだ!? まさかとは思うが……!」
あまりの上条の剣幕に御坂妹は何も答えることができない。
為すがままされるがままに、揺すられるだけである。
「答えろよ! なあ!」
「やめて……、と、ミサカはあなたに初めて恐怖を感じながら声を震わせます……」
「――っ!」
いつもの平坦な声ではない。
下劣な笑いを浮かべる男どもに全身を押さえつけられて抗うこともできずに暴行される直前の気弱な少女が見せるであろう絶望感いっぱいのような御坂妹の呟きに、ハタと我に返る上条当麻。
確かに今の上条を第三者が見れば、通報されても文句は言えないことだろう。
「す、すまん………………乱暴するつもりは、なかったんだ………………」
ふらふらと後ろ歩きで離れる上条。
その様子をしばし見つめていた御坂妹だったが、少々乱れたブレーザーを直して、
「……お姉さまの目を覚まさせたいのですか? と、ミサカはまだ少し怯えながら問いかけます」
むろん、とっくに全身の震えは収まっているので、とてもそうは見えないのだが。
「できるのか?」
「……はい、と、ミサカは少々心苦しい表情を見せます」
もちろん、見せてはいない。いつもの無表情である。
「それはどういう方法だ! 俺が今すぐにでもやってやる!」
しかし、上条当麻は真剣だ。
上条を助けてくれた御坂美琴を助けるために、今度は自分が体を張る番だ、と言わんばかりの表情だ。
しばし間を置いて、御坂妹が口を開く。
「……………………………エスアイアールエーワイユーケーアイエッチアイエムイー、と、ミサカはパスワードをお伝えします」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」
「……ですから、エスアイアールエーワイユーケーアイエッチアイエムイー、と、ミサカはパスワードを再度、お伝えします!!」
「えっと……パスワード……?」
「ミサカにはそこまでしか言えないのです! と、ミサカは少し苛立って答えます!! あとはあなたにお任せするしかないのです! と、ミサカは口調を強くします!!」
(な、何でしょうか? この御坂妹の今にも泣きそうな顔は……って、まさか、このパスワードを解かないと御坂を救えないって事なのか!?)
上条当麻は推理する。
(てことは今、御坂は何らかの原因、というか俺の所為で寝たきりになっていて、それを回復させるために、より高度な医療器具を使おうとしたけど、それにはセキュリティがかかっていたと。しかも、その機械は、あのカエル顔の医者の管轄外だったんで、パスワードは突き止めたが、どこに入力するのかが分からない、と言ったところか?)
結論に辿り着けば、上条当麻は即座に動く。
それは妹達を助けるために、御坂美琴を助けるために動いたときのように。
「任せろ御坂妹。必ず美琴は俺が助け出す。だからお前は安心して待っていろ」
言って、上条当麻は御坂妹の返事を聞かずに病室を飛び出した。
一人残された御坂妹。
「……いったい、あなたはどこに行くつもりなのですか? と、ミサカは誰もいないこの部屋で静かに呟きます」
そう。上条当麻はどこに行けばいいのか分かっていない。
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」
「……ですから、エスアイアールエーワイユーケーアイエッチアイエムイー、と、ミサカはパスワードを再度、お伝えします!!」
「えっと……パスワード……?」
「ミサカにはそこまでしか言えないのです! と、ミサカは少し苛立って答えます!! あとはあなたにお任せするしかないのです! と、ミサカは口調を強くします!!」
(な、何でしょうか? この御坂妹の今にも泣きそうな顔は……って、まさか、このパスワードを解かないと御坂を救えないって事なのか!?)
上条当麻は推理する。
(てことは今、御坂は何らかの原因、というか俺の所為で寝たきりになっていて、それを回復させるために、より高度な医療器具を使おうとしたけど、それにはセキュリティがかかっていたと。しかも、その機械は、あのカエル顔の医者の管轄外だったんで、パスワードは突き止めたが、どこに入力するのかが分からない、と言ったところか?)
結論に辿り着けば、上条当麻は即座に動く。
それは妹達を助けるために、御坂美琴を助けるために動いたときのように。
「任せろ御坂妹。必ず美琴は俺が助け出す。だからお前は安心して待っていろ」
言って、上条当麻は御坂妹の返事を聞かずに病室を飛び出した。
一人残された御坂妹。
「……いったい、あなたはどこに行くつもりなのですか? と、ミサカは誰もいないこの部屋で静かに呟きます」
そう。上条当麻はどこに行けばいいのか分かっていない。
それでも上条当麻は行き先がどこなのか教えてくれる心当たりがある。
それはカエル顔の医者。
治療のためなら手段を選ばない冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)であれば、御坂美琴を目覚めさせる装置に目を付けないわけがない。
それなのに、その装置に手を出していないということは何らかの事情があるからだろう、と上条は解釈した。
力強く廊下を進む。
病院の廊下だろうが、走って行く。
時折、すれ違う看護婦や他の患者たちをすり抜けながら走り続ける。
背後から注意を促す声をかけられても、無視して突き進む。
今は細かいルールに縛られている場合じゃない、と言わんばかりに。
そんな上条の、ズボンのポケットから軽やかな音響が鳴り響いた。
ここは病院だから携帯の使用禁止、なんてルールはない。なぜなら、ここはカエル顔の医者がいる病院だからだ。
不測の事態に万全の備えをしている病院では、発電系超能力者(エレクトロマスターLv.5)以外の電磁波などではビクともしない器具が揃っている。
「何だ? メール?」
即座に上条は携帯のパネルを見つめる。
そこには、
それはカエル顔の医者。
治療のためなら手段を選ばない冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)であれば、御坂美琴を目覚めさせる装置に目を付けないわけがない。
それなのに、その装置に手を出していないということは何らかの事情があるからだろう、と上条は解釈した。
力強く廊下を進む。
病院の廊下だろうが、走って行く。
時折、すれ違う看護婦や他の患者たちをすり抜けながら走り続ける。
背後から注意を促す声をかけられても、無視して突き進む。
今は細かいルールに縛られている場合じゃない、と言わんばかりに。
そんな上条の、ズボンのポケットから軽やかな音響が鳴り響いた。
ここは病院だから携帯の使用禁止、なんてルールはない。なぜなら、ここはカエル顔の医者がいる病院だからだ。
不測の事態に万全の備えをしている病院では、発電系超能力者(エレクトロマスターLv.5)以外の電磁波などではビクともしない器具が揃っている。
「何だ? メール?」
即座に上条は携帯のパネルを見つめる。
そこには、
Last Order>みえてる? ってミサカはミサカは尋ねてみたり。
と、表示されていた。
「……打ち止め?」
上条は足を止めた。九月三十日に出会った小さい御坂妹がそう名乗っていたのを思い出す。
あの時も、確か、とっても大変な目にあった、と『思い出しながら』。
なぜ電話ではなかったのか、という疑問も沸いたが、これは通常のメールやチャット、ツイッターとは違う表示のされ方だ。
発電系能力者特有の連絡方法なのだろうか。
と、すれば、何か他に知られてはいけない理由があるのかもしれない。
メールを打ち込むような形で会話できるもののようだ。
『ああ』
Last Order>今、あなたはお姉様を目覚めさせようとしたはず、ってミサカはミサカは断定してみたり。その方法を伝えるために連絡した、ってミサカはミサカはブラインドタッチで長文を打ってみる。
『どうすりゃいい?』
上条は余計な話は省きたい。向こうにもこっちのやることがわかっているようだから何も突っ込みを入れずに先を促す。
Last Order>まず、行くべき場所はカエルのお医者さんのところじゃなくて、あなたの病室の隣の部屋、お姉様が眠ってる病室だよ、ってミサカはミサカは親切に教えてあげる。あと、ミサカからも、もう一つ突き止めたパスワードをお伝えする、ってミサカはミサカは早急に話を進めてみる。
『パスワード?』
Last Order>エスエルイーイーピーアイエヌジースペースビーイーエーユーティーワイ、と、ミサカはミサカは若者らしく『t』を『テー』と発音しないところをアピールしてみる。
「ん?」
打ち止めのパスワードログを見た瞬間、携帯のパネルが消失した。
電池はまだ残っている。ということは圏外に入ったか、それとも向こうで誰かに見つかりそうになったので切ったのか。
しかし、打ち止めはカエル顔の医者のところではなく、御坂美琴の部屋へ行けと言っていた。
と言うことは装置はもうすでにそこにあるということなのだろうか。
上条は多少疑問を感じたが、行き先とパスワードを教えてくれたってことで、装置はもうそこにあるとみてもいいだろう、という結論に至る。
踵を返して、再び走り出す。
今度は来た道を戻る形で。
上条は足を止めた。九月三十日に出会った小さい御坂妹がそう名乗っていたのを思い出す。
あの時も、確か、とっても大変な目にあった、と『思い出しながら』。
なぜ電話ではなかったのか、という疑問も沸いたが、これは通常のメールやチャット、ツイッターとは違う表示のされ方だ。
発電系能力者特有の連絡方法なのだろうか。
と、すれば、何か他に知られてはいけない理由があるのかもしれない。
メールを打ち込むような形で会話できるもののようだ。
『ああ』
Last Order>今、あなたはお姉様を目覚めさせようとしたはず、ってミサカはミサカは断定してみたり。その方法を伝えるために連絡した、ってミサカはミサカはブラインドタッチで長文を打ってみる。
『どうすりゃいい?』
上条は余計な話は省きたい。向こうにもこっちのやることがわかっているようだから何も突っ込みを入れずに先を促す。
Last Order>まず、行くべき場所はカエルのお医者さんのところじゃなくて、あなたの病室の隣の部屋、お姉様が眠ってる病室だよ、ってミサカはミサカは親切に教えてあげる。あと、ミサカからも、もう一つ突き止めたパスワードをお伝えする、ってミサカはミサカは早急に話を進めてみる。
『パスワード?』
Last Order>エスエルイーイーピーアイエヌジースペースビーイーエーユーティーワイ、と、ミサカはミサカは若者らしく『t』を『テー』と発音しないところをアピールしてみる。
「ん?」
打ち止めのパスワードログを見た瞬間、携帯のパネルが消失した。
電池はまだ残っている。ということは圏外に入ったか、それとも向こうで誰かに見つかりそうになったので切ったのか。
しかし、打ち止めはカエル顔の医者のところではなく、御坂美琴の部屋へ行けと言っていた。
と言うことは装置はもうすでにそこにあるということなのだろうか。
上条は多少疑問を感じたが、行き先とパスワードを教えてくれたってことで、装置はもうそこにあるとみてもいいだろう、という結論に至る。
踵を返して、再び走り出す。
今度は来た道を戻る形で。
上条当麻は御坂美琴の病室へと辿り着いた。
そしてドアを開けて愕然とした。
眼前の白いベッドに横たわるのは、まるで眠れる森の少女のように穏やかな少女。
その表情は少しこけていて顔色も優れず、シーツの上に乗せられている右腕は以前に比べば確実に細くなっている。
「み、さか……」
上条は絞り出すような声しか上げられなかった。
記憶を取り戻し、しかも五体満足な自分と違い、あまりに痛々しいその姿が胸に突き刺さった。
十月三十日から今日まで、御坂美琴は目覚めていない。
そう言われても納得できる姿だった。
御坂妹の辛そうな顔が蘇る。
どうして打ち止めが携帯メール形式でコンタクトを取ってきたかがよく分かる。
こんな御坂美琴を思い出してしまうからだ。
その辛さに耐えられなかったからだ。
上条当麻はそれでも、病室を見渡した。
数多くの医療器具が御坂美琴を囲っている。
じくり、と胸が痛んだ。
上条当麻の命を助け出した代償が、これなのだと、自分自身を殴りつけたくなった。
しかし、自分を殴ったところで美琴が目を覚ますわけではない。
ならばまず、御坂妹と打ち止めが教えてくれたパスワードをこの医療機器のどれかに打ち込まなければ。
そう考えて、上条は自分の『知識』にある機械工学を駆使して探る。
ここは学園都市だ。外の世界とは二十年も三十年も科学技術が発達していると言われ、そこに暮らす学生たちもまた、どんな無能力者だとしても、こと科学分野に関しての知識に限れば、外の世界の大学レベルは有している。
そんな学生の内の一人の上条当麻なのだが、どの装置を見ても、それらしき入力場所が存在しないことに気がついた。
「あれ? どういうことだ?」
上条は考える。
打ち止めが指定した場所はここなのだ。
パスワードを知った人間が教えてくれた場所なのだからここ以外でパスワードを使う場所はないはずなのだ。
しばし分からない答えに呻っていた上条だが、そのズボンのポケットの携帯が再び反応した。
「打ち止めか!?」
今は何でもいいから、些細なヒントでいいから、手助けがほしいところの上条からすれば願ったり叶ったりというところだろう。
そしてドアを開けて愕然とした。
眼前の白いベッドに横たわるのは、まるで眠れる森の少女のように穏やかな少女。
その表情は少しこけていて顔色も優れず、シーツの上に乗せられている右腕は以前に比べば確実に細くなっている。
「み、さか……」
上条は絞り出すような声しか上げられなかった。
記憶を取り戻し、しかも五体満足な自分と違い、あまりに痛々しいその姿が胸に突き刺さった。
十月三十日から今日まで、御坂美琴は目覚めていない。
そう言われても納得できる姿だった。
御坂妹の辛そうな顔が蘇る。
どうして打ち止めが携帯メール形式でコンタクトを取ってきたかがよく分かる。
こんな御坂美琴を思い出してしまうからだ。
その辛さに耐えられなかったからだ。
上条当麻はそれでも、病室を見渡した。
数多くの医療器具が御坂美琴を囲っている。
じくり、と胸が痛んだ。
上条当麻の命を助け出した代償が、これなのだと、自分自身を殴りつけたくなった。
しかし、自分を殴ったところで美琴が目を覚ますわけではない。
ならばまず、御坂妹と打ち止めが教えてくれたパスワードをこの医療機器のどれかに打ち込まなければ。
そう考えて、上条は自分の『知識』にある機械工学を駆使して探る。
ここは学園都市だ。外の世界とは二十年も三十年も科学技術が発達していると言われ、そこに暮らす学生たちもまた、どんな無能力者だとしても、こと科学分野に関しての知識に限れば、外の世界の大学レベルは有している。
そんな学生の内の一人の上条当麻なのだが、どの装置を見ても、それらしき入力場所が存在しないことに気がついた。
「あれ? どういうことだ?」
上条は考える。
打ち止めが指定した場所はここなのだ。
パスワードを知った人間が教えてくれた場所なのだからここ以外でパスワードを使う場所はないはずなのだ。
しばし分からない答えに呻っていた上条だが、そのズボンのポケットの携帯が再び反応した。
「打ち止めか!?」
今は何でもいいから、些細なヒントでいいから、手助けがほしいところの上条からすれば願ったり叶ったりというところだろう。
Last Order>やっと繋がったよ、わーい、ってミサカはミサカは全身で喜びを表現してみる。
もっとも表示された文章には何の緊張感も感じられなかったのだが。
『おい、ここにパスワードを打ち込む装置なんてないぞ。どうなってやがる?』
そんな打ち止めのログが気に入らなかったのか、上条当麻は少々大人気なく、苛立ちをそのまま文章にしてしまっていた。
Last Order>圏外っぽかったから仕方がないんだよ、ってミサカはミサカは弁明してみたり。あと、ちゃんと続きを聞いてほしい、ってミサカはミサカは進言してみる。
(……そう言えば、画面が切れたときは別にまだ話は終わってなかったよな……)
上条も、ふと思い出す。
Last Order>結論から言えば、お姉様はもう医療機器に頼らなくても大丈夫だよ、ってミサカはミサカは朗報をお伝えしてみたり。でも、なかなか目を覚まさないから外部からの刺激が必要なのかも、ってミサカはミサカは推測してみる。
『外部からの刺激?』
Last Order>とぼけてるの? それとも本当に分かってないの?、ってミサカはミサカは、あなたの鈍感ぶりにちょっと憤慨してみたり。パスワードをちゃんと並べてみた? ってミサカはミサカは確認を取ってみる。
(パスワード? えっと確か……エスアイアールエーワイユーケーアイエッチアイエムイーとエスエルイーイーピーアイエヌジースペースビーイーエーユーティーワイ……)
「あっ!」
上条当麻は気がついた。
そんな打ち止めのログが気に入らなかったのか、上条当麻は少々大人気なく、苛立ちをそのまま文章にしてしまっていた。
Last Order>圏外っぽかったから仕方がないんだよ、ってミサカはミサカは弁明してみたり。あと、ちゃんと続きを聞いてほしい、ってミサカはミサカは進言してみる。
(……そう言えば、画面が切れたときは別にまだ話は終わってなかったよな……)
上条も、ふと思い出す。
Last Order>結論から言えば、お姉様はもう医療機器に頼らなくても大丈夫だよ、ってミサカはミサカは朗報をお伝えしてみたり。でも、なかなか目を覚まさないから外部からの刺激が必要なのかも、ってミサカはミサカは推測してみる。
『外部からの刺激?』
Last Order>とぼけてるの? それとも本当に分かってないの?、ってミサカはミサカは、あなたの鈍感ぶりにちょっと憤慨してみたり。パスワードをちゃんと並べてみた? ってミサカはミサカは確認を取ってみる。
(パスワード? えっと確か……エスアイアールエーワイユーケーアイエッチアイエムイーとエスエルイーイーピーアイエヌジースペースビーイーエーユーティーワイ……)
「あっ!」
上条当麻は気がついた。
『白雪姫(sirayukihime)』と『sleeping beauty』。
つまりは外部からの刺激とはそういうことなのだ。
それは、とてもベタで。
それでいてとっても上琴SS的展開で。
Last Order>どうやら分かったみたいだね、ってミサカはミサカは花丸をあげてみたり。あとはあなた次第だよ、ってミサカはミサカはあなたの背中を押してみる。
『ちょ、ちょっと待ってくれ。いくらなんでもそれは』
Last Order>大丈夫だよ、ってミサカはミサカは確信をもって言ってみる。だって、命をかけられる相手ってのは誰よりも大切だからなんだよ、ってミサカはミサカは一般常識を述べてみたり。それに目を覚ます前に離れてしまえばバレないよ、ってミサカはミサカは悪魔のように囁いたり。
『し、しかしだなぁ……』
Last Order>根性なし、ってミサカはミサカはあなたを罵ってみる。それともあなたはお姉様に目を覚ましてほしくないの、ってミサカはミサカはちょっと真剣に問いかけてみたり。
「う……」
上条は呻くしかなかった。
そうなのだ。自分のことを命をかけて助けてくれた相手に、ちょっと気恥ずかしいからって行動できないのは何なのかと。
一人の命を助けられるなら、後から『中学生に手を出した凄い人』とレッテルを貼られるくらい何なのかと。
ましてや打ち止めは御坂美琴と同じ遺伝子を持つ、いわば、もう一人の御坂美琴本人なのだ。
その本人が大丈夫、と言っているのだから大丈夫に決まっている。
クローン一人一人が別個性だと言っても、本質は変わらないのだ。
上条当麻の決意は固まった。
『分かった』
と、だけ打ち込み、打ち止めの返事を待たずに上条は携帯を切った。
決意した上条当麻は誰よりも真っ直ぐ行動する。
躊躇いも戸惑いも迷いもない。
意を決して、真剣な表情で、
いまだ眠り続ける御坂美琴の顔にベッドの横から身を乗り出して近づいていく。
あと十数センチ。
上条当麻の真剣な表情は崩れない。
これで御坂美琴が目を覚ますなら。
これで御坂美琴が助かるなら。
あと数センチ。
上条当麻は瞳を伏せる。
それは、とてもベタで。
それでいてとっても上琴SS的展開で。
Last Order>どうやら分かったみたいだね、ってミサカはミサカは花丸をあげてみたり。あとはあなた次第だよ、ってミサカはミサカはあなたの背中を押してみる。
『ちょ、ちょっと待ってくれ。いくらなんでもそれは』
Last Order>大丈夫だよ、ってミサカはミサカは確信をもって言ってみる。だって、命をかけられる相手ってのは誰よりも大切だからなんだよ、ってミサカはミサカは一般常識を述べてみたり。それに目を覚ます前に離れてしまえばバレないよ、ってミサカはミサカは悪魔のように囁いたり。
『し、しかしだなぁ……』
Last Order>根性なし、ってミサカはミサカはあなたを罵ってみる。それともあなたはお姉様に目を覚ましてほしくないの、ってミサカはミサカはちょっと真剣に問いかけてみたり。
「う……」
上条は呻くしかなかった。
そうなのだ。自分のことを命をかけて助けてくれた相手に、ちょっと気恥ずかしいからって行動できないのは何なのかと。
一人の命を助けられるなら、後から『中学生に手を出した凄い人』とレッテルを貼られるくらい何なのかと。
ましてや打ち止めは御坂美琴と同じ遺伝子を持つ、いわば、もう一人の御坂美琴本人なのだ。
その本人が大丈夫、と言っているのだから大丈夫に決まっている。
クローン一人一人が別個性だと言っても、本質は変わらないのだ。
上条当麻の決意は固まった。
『分かった』
と、だけ打ち込み、打ち止めの返事を待たずに上条は携帯を切った。
決意した上条当麻は誰よりも真っ直ぐ行動する。
躊躇いも戸惑いも迷いもない。
意を決して、真剣な表情で、
いまだ眠り続ける御坂美琴の顔にベッドの横から身を乗り出して近づいていく。
あと十数センチ。
上条当麻の真剣な表情は崩れない。
これで御坂美琴が目を覚ますなら。
これで御坂美琴が助かるなら。
あと数センチ。
上条当麻は瞳を伏せる。
しかし、上条当麻は一つ失念していた。
この部屋に入ったとき、一つ忘れてしまった行動があったのだ。
それは、御坂美琴の容態だけに目を奪われてしまっていたからかもしれない。
ただ、その一つの失念は、致命的な失態でもあった。
なぜならば。
この部屋に入ったとき、一つ忘れてしまった行動があったのだ。
それは、御坂美琴の容態だけに目を奪われてしまっていたからかもしれない。
ただ、その一つの失念は、致命的な失態でもあった。
なぜならば。
「とうま! 短髪のお見舞いに一人で行くなんて水くさいかも――あっ!」
「お姉様。お見舞いに上がりました――って!」
「お姉様。お見舞いに上がりました――って!」
ここで初めて上条は気がついた。
病室のドアを閉めておくべきだったと上条当麻は後悔した。
病室のドアさえ閉まっていればノックの音が聞こえたことだろう。
しかし、もう遅いのだ。
しかも、どう見ても言い逃れできない態勢で上条当麻は首だけを声のした方向に向けるしかできなかった。
「ええっと……これには訳がありまして、ですね……」
迫り来る恐怖。
ツインテール少女の姿をした怨霊と、シスターの姿をした悪魔の目が血の色(ブラッド)に光る。
上条当麻は態勢を立て直した。
少なくとも二つの恐怖と正対しなければ逃げ出すこともできないから。
そして正対して初めて気がついた。
ドアのところにもう二つ、禍々しいオーラを放つ黒い天使と(本来の能力は逆のはずなのだが)吸血鬼がいた。
窓はベッドの向こうに一つだけ。しかも飛び降りるにはあまりにも高すぎる。
つまり。
逃げ場はない。
「ま、待て! 勘違いするなお前ら! これはだな! 御坂を目覚めさせるためであってだな! 決して疚しいことをしようとしたわけでは……!」
「……人の部屋で何騒いでんの?」
上条当麻の背後から声が聞こえる。
本来であれば、心の底から、聞きたかったはずの声。
しかしそれは、こんな形で聞いてはいけなかった声。
ぎぎぎ、っと上条は声の主へと視線を移す。
「…………御坂さん……あなた様は起きていらっしゃったので………?」
「んー? アンタが馬鹿でかい声出すから目が覚めちゃったんだけど?」
かみ合っているけどかみ合っていない二人の会話。
上条の後頭部に嫌な汗がダラダラ流れる。
御坂美琴は、とっくに覚醒していた事実を突きつけられて。
しかもそのことは、上条当麻以外には知られていて。
考えてみれば、御坂妹も打ち止めも「御坂美琴が『十月三十日からずっと』目が覚めていない」とは一言も言っていなかった。
考えてみれば、打ち止めの言い回しは、まったく切羽詰っていなかった。
考えてみれば、上条当麻の記憶には、上条と美琴の二人しか知らない記憶も含まれていた。
考えてみれば、数日前、インデックスが『短髪』という単語を使っていた。
考えてみれば、十月三十日から昨日まで美琴と会っていないのだから回顧録が無くて当然だ。
「とうま、何か言うことは?」
「辞世の句くらい拝聴いたしますわよ殿方様」
「では介錯はわたくしめに」
「いっぺん本当に死んでみる?」
四者四様の情け深いお言葉が身に染みる上条当麻。
チラッと後ろを見てみれば、御坂美琴は背中を向けていた。
上条は知る由もないことなのだが、これはまるっきり動くことができなかった美琴が寝返りを打てるようになったと喜ぶべきところなのろう。
もっとも、上条の目には、なんとなく美琴が「何があったか分かんないけど、私は知らない方が幸せなのよ。だからこっち見んな」と訴えているように見えた。
「ふ……」
涙をだくだく流しつつ、せっかく助かった命すらも大切にできないのかと嘆いた少年は結局、いつもの口癖を絶叫する。
病室のドアを閉めておくべきだったと上条当麻は後悔した。
病室のドアさえ閉まっていればノックの音が聞こえたことだろう。
しかし、もう遅いのだ。
しかも、どう見ても言い逃れできない態勢で上条当麻は首だけを声のした方向に向けるしかできなかった。
「ええっと……これには訳がありまして、ですね……」
迫り来る恐怖。
ツインテール少女の姿をした怨霊と、シスターの姿をした悪魔の目が血の色(ブラッド)に光る。
上条当麻は態勢を立て直した。
少なくとも二つの恐怖と正対しなければ逃げ出すこともできないから。
そして正対して初めて気がついた。
ドアのところにもう二つ、禍々しいオーラを放つ黒い天使と(本来の能力は逆のはずなのだが)吸血鬼がいた。
窓はベッドの向こうに一つだけ。しかも飛び降りるにはあまりにも高すぎる。
つまり。
逃げ場はない。
「ま、待て! 勘違いするなお前ら! これはだな! 御坂を目覚めさせるためであってだな! 決して疚しいことをしようとしたわけでは……!」
「……人の部屋で何騒いでんの?」
上条当麻の背後から声が聞こえる。
本来であれば、心の底から、聞きたかったはずの声。
しかしそれは、こんな形で聞いてはいけなかった声。
ぎぎぎ、っと上条は声の主へと視線を移す。
「…………御坂さん……あなた様は起きていらっしゃったので………?」
「んー? アンタが馬鹿でかい声出すから目が覚めちゃったんだけど?」
かみ合っているけどかみ合っていない二人の会話。
上条の後頭部に嫌な汗がダラダラ流れる。
御坂美琴は、とっくに覚醒していた事実を突きつけられて。
しかもそのことは、上条当麻以外には知られていて。
考えてみれば、御坂妹も打ち止めも「御坂美琴が『十月三十日からずっと』目が覚めていない」とは一言も言っていなかった。
考えてみれば、打ち止めの言い回しは、まったく切羽詰っていなかった。
考えてみれば、上条当麻の記憶には、上条と美琴の二人しか知らない記憶も含まれていた。
考えてみれば、数日前、インデックスが『短髪』という単語を使っていた。
考えてみれば、十月三十日から昨日まで美琴と会っていないのだから回顧録が無くて当然だ。
「とうま、何か言うことは?」
「辞世の句くらい拝聴いたしますわよ殿方様」
「では介錯はわたくしめに」
「いっぺん本当に死んでみる?」
四者四様の情け深いお言葉が身に染みる上条当麻。
チラッと後ろを見てみれば、御坂美琴は背中を向けていた。
上条は知る由もないことなのだが、これはまるっきり動くことができなかった美琴が寝返りを打てるようになったと喜ぶべきところなのろう。
もっとも、上条の目には、なんとなく美琴が「何があったか分かんないけど、私は知らない方が幸せなのよ。だからこっち見んな」と訴えているように見えた。
「ふ……」
涙をだくだく流しつつ、せっかく助かった命すらも大切にできないのかと嘆いた少年は結局、いつもの口癖を絶叫する。
上条当麻。彼は三度目の『死』を迎えることになる、ところだった。
さて、賢明な読者、と言うか、普通の読者でも、知っていれば、気づくと思うのだが、御坂妹と打ち止めのパスワードや一連の会話の流れは最近、ミサカネットワークで流行っている某ライトノベルのパクリであった。
これは妹達と打ち止めが仕組んで、昨夜、結局、頼ってしまったお姉様(オリジナル)への、せめてもの恩返しだったのである。
お姉様(オリジナル)の気持ちを誰よりも分かっているミサカネットワークだからこそのものだった。
本来であれば、携帯チャットは打ち止めではなく、別の妹達がやる予定だったのだが、最初にパスワードを伝えた御坂妹が、いつもの冷静さを完全に失ってしまったために、打ち止め以外がまともに伝えられないことが分かってしまったので、打ち止めがメールチャットを担当したわけだが、上条当麻は気づけなかった。
もし途中で気づいていれば、すでに御坂美琴は目を覚ましている、という現実に辿り着けたのだが、残念ながら上条当麻は、ある程度、記憶が戻ったとは言え、戻ったのは、出会った人たちとの邂逅であって、記憶を失う前に読んだ本や見たテレビの記憶はないのである。
有名なタイトルのお話であれば、どんなストーリー展開なのかは知っているかもしれないが、内容までは知る由もない。
言い換えれば、登場人物やあらすじは知っていても、本編は知らない、というところにつけこんではみたのだが。
これは妹達と打ち止めが仕組んで、昨夜、結局、頼ってしまったお姉様(オリジナル)への、せめてもの恩返しだったのである。
お姉様(オリジナル)の気持ちを誰よりも分かっているミサカネットワークだからこそのものだった。
本来であれば、携帯チャットは打ち止めではなく、別の妹達がやる予定だったのだが、最初にパスワードを伝えた御坂妹が、いつもの冷静さを完全に失ってしまったために、打ち止め以外がまともに伝えられないことが分かってしまったので、打ち止めがメールチャットを担当したわけだが、上条当麻は気づけなかった。
もし途中で気づいていれば、すでに御坂美琴は目を覚ましている、という現実に辿り着けたのだが、残念ながら上条当麻は、ある程度、記憶が戻ったとは言え、戻ったのは、出会った人たちとの邂逅であって、記憶を失う前に読んだ本や見たテレビの記憶はないのである。
有名なタイトルのお話であれば、どんなストーリー展開なのかは知っているかもしれないが、内容までは知る由もない。
言い換えれば、登場人物やあらすじは知っていても、本編は知らない、というところにつけこんではみたのだが。
(ねえ、一〇〇三二号、あのシスターにあの人の居場所を教えたでしょ?、ってミサカはミサカはジト目を向けてみる)
(聞かれたから答えたまでです、と、ミサカはミサカの正直者っぷりに胸を張ります)
(あと、絶対にあの人が勘違いしたことを正さなかったのはわざとだよね? ってミサカはミサカは答えが分かっている問いかけをしてみたり)
(ミサカは嘘は吐いていません、と、ミサカは勝手に勘違いしたあの人が悪いと思っています。お姉様が昨夜、無理したことで疲れが残って目が覚めてなかったことは事実です、と、ミサカはありのままをお伝えしています。その後、確認作業を怠ったのはあの人であり、聞かれなかったミサカから教えるのは、小さな親切大きなお世話になる可能性があったので取り止めました、と、ミサカは自らの社会常識の規範たる行動を自画自賛します)
(聞かれたから答えたまでです、と、ミサカはミサカの正直者っぷりに胸を張ります)
(あと、絶対にあの人が勘違いしたことを正さなかったのはわざとだよね? ってミサカはミサカは答えが分かっている問いかけをしてみたり)
(ミサカは嘘は吐いていません、と、ミサカは勝手に勘違いしたあの人が悪いと思っています。お姉様が昨夜、無理したことで疲れが残って目が覚めてなかったことは事実です、と、ミサカはありのままをお伝えしています。その後、確認作業を怠ったのはあの人であり、聞かれなかったミサカから教えるのは、小さな親切大きなお世話になる可能性があったので取り止めました、と、ミサカは自らの社会常識の規範たる行動を自画自賛します)
……恋する乙女には許容し難いことだったらしい。