両チームのポジションが完全に決定し、ついに試合が始まる。
晴れて審判に任命された(寮の中から引きずり出された)アガターがやる気のない笛を吹いて、色々不可思議なサッカーが開始された。
「さぁー、絶対勝ちますよー!!」
先攻はルチアチーム。センターラインから気合たっぷりのアンジェレネがボールを受け取り、土コートの反対側に位置するアニェーゼ陣地へと攻撃を仕掛ける。素人丸出しの継ぎ接ぎドリブルなので、近所の小学生とも勝負にならないレベルだろうが。
だが幾ら酷くても攻撃は攻撃。アニェーゼは素早く反応し、元部隊長らしくシェリーへと指示をだした。
「シェリーさん、“防御を頼みます”!!」
アニェーゼの曖昧な依頼に対し、
「はいよ」
シェリーの気の抜けた返事がコートに響いた。その瞬間、彼女の足元に石灰の魔方陣が刻まれ、シェリー=クロムウェルの魔術が発動する。
それを目撃したアンジェレネは当然、国会議中の野党のように騒ぎ出した。
「ちょっ!? 魔術使用アリですか!?」
アンジェレネの甲高い声も虚しく、シェリーの魔術はメキメキと進行していく。地面が不自然に盛り上がり、それは巨大な土積になり、やがて人を模った泥人形へと変化していった。そして、最終的にはお馴染みのゴーレムがアニェーゼチームのゴール前に召喚される。
シェリーは小さく息を吐いて、適当に反論した。
「単なるゴーレムだ。反則じゃないと思うけど?」
「いや、そういうことじゃなくてっ!!」
「さぁー、絶対勝ちますよー!!」
先攻はルチアチーム。センターラインから気合たっぷりのアンジェレネがボールを受け取り、土コートの反対側に位置するアニェーゼ陣地へと攻撃を仕掛ける。素人丸出しの継ぎ接ぎドリブルなので、近所の小学生とも勝負にならないレベルだろうが。
だが幾ら酷くても攻撃は攻撃。アニェーゼは素早く反応し、元部隊長らしくシェリーへと指示をだした。
「シェリーさん、“防御を頼みます”!!」
アニェーゼの曖昧な依頼に対し、
「はいよ」
シェリーの気の抜けた返事がコートに響いた。その瞬間、彼女の足元に石灰の魔方陣が刻まれ、シェリー=クロムウェルの魔術が発動する。
それを目撃したアンジェレネは当然、国会議中の野党のように騒ぎ出した。
「ちょっ!? 魔術使用アリですか!?」
アンジェレネの甲高い声も虚しく、シェリーの魔術はメキメキと進行していく。地面が不自然に盛り上がり、それは巨大な土積になり、やがて人を模った泥人形へと変化していった。そして、最終的にはお馴染みのゴーレムがアニェーゼチームのゴール前に召喚される。
シェリーは小さく息を吐いて、適当に反論した。
「単なるゴーレムだ。反則じゃないと思うけど?」
「いや、そういうことじゃなくてっ!!」
確かにサッカー(AssociationFootball)というスポーツの公式ルールには『ゴーレムを召喚する行為は反則』などと言う限定的すぎる規則は書かれていない、と言うか魔術を使うことを前提としたルールが存在しないが、アンジェレネが不満を感じたのはそこでは無い。
彼女がツッコみたいのは、もっと単純にシェリーの召喚した巨大なゴーレムが、
彼女がツッコみたいのは、もっと単純にシェリーの召喚した巨大なゴーレムが、
「ゴールの隙間を完全に埋めちゃってんじゃないですか!? アンフェアでしょ絶対的に!!」
と、いうことであった。
確かにあんなデカブツがゴール前にあろうものなら、ボールをゴール線上に通過させることなど無理に等しい。そもそもボールの入るようなスペースが無い為、隙間を縫う事は物理的に不可能であるし、その高さは一〇mを軽く超えている為『ゴール線上通過で得点』というルールも意味を為さない。そして点が入らなければアニェーゼチームが負ける等と言う可能性は皆無である為、必然的に勝負が決まってしまう。
ドリブルすら忘れてギャアギャアと騒ぐアンジェレネに、アニェーゼは呆れた顔で平然と返した。
「うるっさいですね。誰が魔術使用ナシなんて言いました? それに私はともかくシェリーさんは『必要悪の教会(ネセサリウス)』所属の魔術師ですし、魔術師がどこで魔術使おうが本人の自由でしょうが」
いや自由じゃねえだろ、と絶句しているアンジェレネが目で語っていたが無視。
自分で提案しといて真面目にサッカーする気など全く無いアニェーゼである。食欲というのは本当に恐ろしい。
確かにあんなデカブツがゴール前にあろうものなら、ボールをゴール線上に通過させることなど無理に等しい。そもそもボールの入るようなスペースが無い為、隙間を縫う事は物理的に不可能であるし、その高さは一〇mを軽く超えている為『ゴール線上通過で得点』というルールも意味を為さない。そして点が入らなければアニェーゼチームが負ける等と言う可能性は皆無である為、必然的に勝負が決まってしまう。
ドリブルすら忘れてギャアギャアと騒ぐアンジェレネに、アニェーゼは呆れた顔で平然と返した。
「うるっさいですね。誰が魔術使用ナシなんて言いました? それに私はともかくシェリーさんは『必要悪の教会(ネセサリウス)』所属の魔術師ですし、魔術師がどこで魔術使おうが本人の自由でしょうが」
いや自由じゃねえだろ、と絶句しているアンジェレネが目で語っていたが無視。
自分で提案しといて真面目にサッカーする気など全く無いアニェーゼである。食欲というのは本当に恐ろしい。
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とりあえず呆然としているアンジェレネから華麗にボールを奪い去り、アニェーゼチームの攻撃へと移行する。
「せーのっ」
アニェーゼはボールの主導権を握った直後、ルチアチームのゴールへ向かって力の限りボールを蹴り上げた。すると当然、防御陣の居ないルチアチームのゴール線をアニェーゼの放ったシュートが易々と通過していく。
「よし。これで一点入りました。これを守りきれば私達の勝利です」
アニェーゼが当たり前のように放った言葉を聞いて、焦ったアンジェレネはチームメイトへ気合を入れなおす。
「くっ、このままではシスター・オルソラのデリシャスでワンダフルでエモーショナルなディナーを食すことができない!! 野郎共!! 何が何でも逆転するぞ!!」
「ちょ、シスター・アンジェレネ落ち着いて・・・・・・」
ルチアが付いていけないと言う感じで返事を返すが、すでにアンジェレネは目に少年漫画風の熱い闘志を宿していた。それも見たアニェーゼも負けじと立ちはだかり、悪の親玉のような表情で言い放つ。
「ふっ、まさかアンジェレネの分際で、元部隊長であるこの私に勝利することが出来ると? 勘違いも甚だしいですよ」
「やって見なければ分かりません!! さあ我がチームメイトよ、命を燃やして敵を討て!!」
そしてセンターラインから試合が再開された頃には、すでにルチア以外の全てのプレイヤーにアンジェレネと同じ食欲に溺れた目が備わっていた為、もはや戦争と言っても過言では無い光景であった。
「せーのっ」
アニェーゼはボールの主導権を握った直後、ルチアチームのゴールへ向かって力の限りボールを蹴り上げた。すると当然、防御陣の居ないルチアチームのゴール線をアニェーゼの放ったシュートが易々と通過していく。
「よし。これで一点入りました。これを守りきれば私達の勝利です」
アニェーゼが当たり前のように放った言葉を聞いて、焦ったアンジェレネはチームメイトへ気合を入れなおす。
「くっ、このままではシスター・オルソラのデリシャスでワンダフルでエモーショナルなディナーを食すことができない!! 野郎共!! 何が何でも逆転するぞ!!」
「ちょ、シスター・アンジェレネ落ち着いて・・・・・・」
ルチアが付いていけないと言う感じで返事を返すが、すでにアンジェレネは目に少年漫画風の熱い闘志を宿していた。それも見たアニェーゼも負けじと立ちはだかり、悪の親玉のような表情で言い放つ。
「ふっ、まさかアンジェレネの分際で、元部隊長であるこの私に勝利することが出来ると? 勘違いも甚だしいですよ」
「やって見なければ分かりません!! さあ我がチームメイトよ、命を燃やして敵を討て!!」
そしてセンターラインから試合が再開された頃には、すでにルチア以外の全てのプレイヤーにアンジェレネと同じ食欲に溺れた目が備わっていた為、もはや戦争と言っても過言では無い光景であった。
「「「「「ウオォォォォオオオォォォォォォ!!!!」」」」
寮の中庭。土のコートの上。少女達の野獣のような雄叫びが響き渡る。
そんなテンションが狂い始めた修道女達の試合を寮の中から眺める少女が居た。
「・・・・・・あれは、マズいな。かなりマズい。いやでも止めようにもどう説明したら・・・・・・なんか異常にヒートアップしてるし・・・・・・」
寮内に通う廊下の一角。窓の外で展開される熱いサッカーを青白い顔で見ている少女は、レイチェルという『清教派』の修道女である。彼女はアニェーゼやオルソラなどと言った元ローマ正教の面々が来る前からこの女子寮で暮らしている、生粋のイギリス清教徒の中の一人だ。その中でもレイチェルは、幼い頃の禁書目録とも顔馴染という(向こうは当然覚えていない)古参の中の古参である。
そんな女子寮が実家のような存在である彼女は、窓の外でサッカーを楽しむ修道女達が原因で未曾有の危機に直面していた。
(仕事サボってサッカーする事自体はまだ良いにしても・・・・・・あーもう、『なんでよりによってそのボール使ってんのよ』ローマの馬鹿共が・・・・・・っ)
誰がどう見ても極限に焦っていた彼女は、唐突に後ろから声をかけられ、ビクゥ!! っとその小柄な体を震わせる。
「ひゃぁ!!」
「あの・・・・・・何をしているんです? こんな所で」
「あ、神裂さんだ!! ちょうど良かった助けてくださいっ!!」
「あの・・・・・・そんなに慌ててどうしたんですレイチェル。顔色が悪いですよ」
声をかけたのは偶々通りかかったイギリス清教の魔術師、神裂火織である。彼女はオロオロとしていたレイチェルが心配で話し掛けたのだが、対するレイチェルは神裂の顔が視界に入った瞬間、いきなり縋りつくように抱きついた。
「な、ちょ、いきなり抱きつくなんて一体どういうつもりですか!? わ、私達は仮にも修道女なんですからそのような行為は・・・・・・」
よく分からない勘違いをしている神裂の言葉は無視して、レイチェルは今にも泣き出しそうな声でこう叫んだ。
寮内に通う廊下の一角。窓の外で展開される熱いサッカーを青白い顔で見ている少女は、レイチェルという『清教派』の修道女である。彼女はアニェーゼやオルソラなどと言った元ローマ正教の面々が来る前からこの女子寮で暮らしている、生粋のイギリス清教徒の中の一人だ。その中でもレイチェルは、幼い頃の禁書目録とも顔馴染という(向こうは当然覚えていない)古参の中の古参である。
そんな女子寮が実家のような存在である彼女は、窓の外でサッカーを楽しむ修道女達が原因で未曾有の危機に直面していた。
(仕事サボってサッカーする事自体はまだ良いにしても・・・・・・あーもう、『なんでよりによってそのボール使ってんのよ』ローマの馬鹿共が・・・・・・っ)
誰がどう見ても極限に焦っていた彼女は、唐突に後ろから声をかけられ、ビクゥ!! っとその小柄な体を震わせる。
「ひゃぁ!!」
「あの・・・・・・何をしているんです? こんな所で」
「あ、神裂さんだ!! ちょうど良かった助けてくださいっ!!」
「あの・・・・・・そんなに慌ててどうしたんですレイチェル。顔色が悪いですよ」
声をかけたのは偶々通りかかったイギリス清教の魔術師、神裂火織である。彼女はオロオロとしていたレイチェルが心配で話し掛けたのだが、対するレイチェルは神裂の顔が視界に入った瞬間、いきなり縋りつくように抱きついた。
「な、ちょ、いきなり抱きつくなんて一体どういうつもりですか!? わ、私達は仮にも修道女なんですからそのような行為は・・・・・・」
よく分からない勘違いをしている神裂の言葉は無視して、レイチェルは今にも泣き出しそうな声でこう叫んだ。
「お願いです神裂さん!! 今すぐあのサッカーを止めさせてください!!」
え? という神裂の間抜けな声が寮の廊下に響く。状況が全く理解できない神裂は動揺しながら聞き返した。
「えーと・・・・・・、あの順を追って説明してくれます?」
「あ・・・・・・、はい。すいません我を忘れて・・・・・・」
「いえ落ち着いてくれたなら良いんですけど・・・・・・それで、一体何事ですか?」
冷静な声色で神裂にそう聞かれ、レイチェルは深呼吸してから真面目な表情でこう言い放った。
「えーと・・・・・・、あの順を追って説明してくれます?」
「あ・・・・・・、はい。すいません我を忘れて・・・・・・」
「いえ落ち着いてくれたなら良いんですけど・・・・・・それで、一体何事ですか?」
冷静な声色で神裂にそう聞かれ、レイチェルは深呼吸してから真面目な表情でこう言い放った。
「そうですね。細かい事情は一旦省いて、結論から言いますけど・・・・・・このままでは女子寮が吹っ飛んで全員死にます」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?
「いや、あの信じられないとは思うんですけど・・・・・・とりあえず説明からしましょうか」
「え、ええ。・・・・・・そうして貰えると助かります」
レイチェルの言っていることが嘘では無いという可能性も皆無ではない為、神裂はとりあえず話を聞いてやる事にした。
「え、ええ。・・・・・・そうして貰えると助かります」
レイチェルの言っていることが嘘では無いという可能性も皆無ではない為、神裂はとりあえず話を聞いてやる事にした。
少女説明中・・・・・・
「・・・・・・は? あのサッカーボールが霊装?」
「そうです。それも対人用自立霊装兵器ですから術者が居なくとも発動します。さっきも言いましたが、このままでは女子寮は吹っ飛び、寮内の人間は一人残らず死に絶え、下手すると周りの一般住宅にも被害が及ぶかもしれません」
レイチェルの話によれば、今現在アニェーゼやアンジェレネがが使用しているサッカーボールはボールを模した魔術的な爆弾であり、しかもその爆弾は一定以上の衝撃を加えれば自動的に爆発する仕様である為、このままサッカーを続けるのは危険だ、とのこと。
そして、そんなレイチェルの熱弁を聞いた神裂は、
「・・・・・・えーと、今日は四月一日でしたっけ?」
「嘘じゃありませんってば!! 本当ですって!!」
レイチェルが必死に訴えるが、そんな突拍子の無い話を易々と信じてしまう神裂火織では無い。神裂的にはレイチェルが『あのボールは霊装兵器だ』とか言い始めた辺りから聞く気が失せていたりもするのだが。
まるでどこかの世界線に居る狂気のマッドサイエンティストのような発言を繰り返すレイチェルを見ながら、神裂は「全く・・・・・・今度は誰の入れ知恵ですか・・・・・・」と心底疲れた表情で溜息を吐いた。
「むー、神裂さんその顔は全く信じてない顔ですね」
「はぁ・・・・・・信じるというか何というか・・・・・・少し疲れたので自室に戻って休んでて良いでしょうか?」
「神裂さん!?」
レイチェルが更に涙目で叫ぶが、すでに神裂が彼女を見る目は狼少年を哀れむような力の無い物だった。
「レイチェル・・・・・・確かに貴方は嘘をついているようには見えませんが、まさか完全に信じ込むまで洗脳されてしまったと言うのですか・・・・・・。まあ、でも安心してください。私が自信の魔法名にかけて貴方を絶対に泥沼の底辺から救い出しますから」
「ちょ、神裂さん、何を自己完結して退散しようとしてるんですか!? ちゃんと『根拠ありますから』聞いてくださいって!!」
「そうです。それも対人用自立霊装兵器ですから術者が居なくとも発動します。さっきも言いましたが、このままでは女子寮は吹っ飛び、寮内の人間は一人残らず死に絶え、下手すると周りの一般住宅にも被害が及ぶかもしれません」
レイチェルの話によれば、今現在アニェーゼやアンジェレネがが使用しているサッカーボールはボールを模した魔術的な爆弾であり、しかもその爆弾は一定以上の衝撃を加えれば自動的に爆発する仕様である為、このままサッカーを続けるのは危険だ、とのこと。
そして、そんなレイチェルの熱弁を聞いた神裂は、
「・・・・・・えーと、今日は四月一日でしたっけ?」
「嘘じゃありませんってば!! 本当ですって!!」
レイチェルが必死に訴えるが、そんな突拍子の無い話を易々と信じてしまう神裂火織では無い。神裂的にはレイチェルが『あのボールは霊装兵器だ』とか言い始めた辺りから聞く気が失せていたりもするのだが。
まるでどこかの世界線に居る狂気のマッドサイエンティストのような発言を繰り返すレイチェルを見ながら、神裂は「全く・・・・・・今度は誰の入れ知恵ですか・・・・・・」と心底疲れた表情で溜息を吐いた。
「むー、神裂さんその顔は全く信じてない顔ですね」
「はぁ・・・・・・信じるというか何というか・・・・・・少し疲れたので自室に戻って休んでて良いでしょうか?」
「神裂さん!?」
レイチェルが更に涙目で叫ぶが、すでに神裂が彼女を見る目は狼少年を哀れむような力の無い物だった。
「レイチェル・・・・・・確かに貴方は嘘をついているようには見えませんが、まさか完全に信じ込むまで洗脳されてしまったと言うのですか・・・・・・。まあ、でも安心してください。私が自信の魔法名にかけて貴方を絶対に泥沼の底辺から救い出しますから」
「ちょ、神裂さん、何を自己完結して退散しようとしてるんですか!? ちゃんと『根拠ありますから』聞いてくださいって!!」
根拠、という信憑性の欠片を耳にした神裂はそこでピタリと動きを止めた。そしてゆっくりとレイチェルと目を合わせ、慎重に言葉をかける。
「根拠がある・・・・・・という事は私が信用することの出来る事柄を、詳しく説明できると言うのですか? これ以上嘘を重ねるようでしたら、さすがの私でも怒らざるを得ませんが」
「ええ、説明できます。とりあえずあのボール自体の説明は終えましたから、『私の話が本当である理由』を言いましょうか」
「あくまで自信がある、と。そうですか・・・・・・そういうことなら、聞きましょう」
「根拠がある・・・・・・という事は私が信用することの出来る事柄を、詳しく説明できると言うのですか? これ以上嘘を重ねるようでしたら、さすがの私でも怒らざるを得ませんが」
「ええ、説明できます。とりあえずあのボール自体の説明は終えましたから、『私の話が本当である理由』を言いましょうか」
「あくまで自信がある、と。そうですか・・・・・・そういうことなら、聞きましょう」
やっと真面目な顔になってくれた神裂を見て安心したレイチェルは、もう一度深呼吸をしてから神裂に問い掛けるように言った。
「話は少し変わりますけど、神裂さんは覚えていますか? 貴方の同僚のステイルさんが、ブリテン・ザ・ハロウィンの少し前にシベリアで悪逆非道な西洋魔術結社の人間を殲滅したこと」
「シベリアで・・・・・・? ああ、『必要悪の教会(ネセサリウス)』の仕事ですか。覚えていますよ。確か『ただ生まれてきただけの人には希望がないのであり、本当の希望を得るには一度死んで生まれ変わるしかないのであり、可哀想だから幼い子供達を希望のある人間にしてあげよう』とか理解不能なキャッチフレーズを掲げてテロ活動に及んでいた魔術結社ですね。仕事を終えたステイルはその後すぐに別の仕事で学園都市に発ってしまいましたから詳しい話は聞いていないのですけど。・・・・・・で、そのステイル云々が何か関係あるのですか?」
「実はその時にステイルさんが持ち帰った敵の押収品を調べたのは、私とオルソラさんなんです。『必要悪の教会(ネセサリウス)』の仕事に女子寮の面々が介入すること自体は珍しい事では無いですしね。それでその調べた押収品の中の『比較的危険度が高い魔術的な物品』は、美術館や女子寮の対魔倉庫に保管しておくことにしたんですけど・・・・・・」
「危険度の高い? ・・・・・・まさか、その『魔術的物品』というのがあのサッカーボールだとでも?」
「ええ、そのまさかです。調べたのは私ですから保障します。つまりローマの連中は、本気で爆弾サッカーをしているんです」
神裂は思わず眉を寄せる。つまりアニェーゼやその他シスター達は、現在本物の霊装兵器を使ってサッカーを行っていると言うのだ。
「しかし・・・・・・そうすると何故、西洋魔術結社の霊装兵器がサッカーボールの形を模しているのですか?」
「話は少し変わりますけど、神裂さんは覚えていますか? 貴方の同僚のステイルさんが、ブリテン・ザ・ハロウィンの少し前にシベリアで悪逆非道な西洋魔術結社の人間を殲滅したこと」
「シベリアで・・・・・・? ああ、『必要悪の教会(ネセサリウス)』の仕事ですか。覚えていますよ。確か『ただ生まれてきただけの人には希望がないのであり、本当の希望を得るには一度死んで生まれ変わるしかないのであり、可哀想だから幼い子供達を希望のある人間にしてあげよう』とか理解不能なキャッチフレーズを掲げてテロ活動に及んでいた魔術結社ですね。仕事を終えたステイルはその後すぐに別の仕事で学園都市に発ってしまいましたから詳しい話は聞いていないのですけど。・・・・・・で、そのステイル云々が何か関係あるのですか?」
「実はその時にステイルさんが持ち帰った敵の押収品を調べたのは、私とオルソラさんなんです。『必要悪の教会(ネセサリウス)』の仕事に女子寮の面々が介入すること自体は珍しい事では無いですしね。それでその調べた押収品の中の『比較的危険度が高い魔術的な物品』は、美術館や女子寮の対魔倉庫に保管しておくことにしたんですけど・・・・・・」
「危険度の高い? ・・・・・・まさか、その『魔術的物品』というのがあのサッカーボールだとでも?」
「ええ、そのまさかです。調べたのは私ですから保障します。つまりローマの連中は、本気で爆弾サッカーをしているんです」
神裂は思わず眉を寄せる。つまりアニェーゼやその他シスター達は、現在本物の霊装兵器を使ってサッカーを行っていると言うのだ。
「しかし・・・・・・そうすると何故、西洋魔術結社の霊装兵器がサッカーボールの形を模しているのですか?」
「ああ、それはその潰された魔術結社が行っていたテロ活動が理由です。連中の目的を簡単に言うと『子供を無差別に殺しまくる』という物でして、スポーツ用品やオモチャなどに似せた爆弾を、孤児院などに寄付と偽って贈りつけてからその孤児院ごと爆破、というのが主な手口だったんですよ」
「・・・・・・それでサッカーボールですか。ステイルが全員殺してしまったというが腑に落ちませんが、少なくとも潰されて正解でしたね」
「それは私も同感です。まあ、それでその押収品の事を知っているオルソラさんは聖書配りに行っちゃってますし、アニェーゼ達の事をどうしようかと思っていたんですが・・・・・・」
「なるほど、事情は分かりました。・・・・・・それで一応聞きますが、仮に爆発した場合、爆破時の威力はどの程度なんです?」
「それが・・・・・・・・・・・・絶対致死圏六〇m、です」
「・・・・・・それでサッカーボールですか。ステイルが全員殺してしまったというが腑に落ちませんが、少なくとも潰されて正解でしたね」
「それは私も同感です。まあ、それでその押収品の事を知っているオルソラさんは聖書配りに行っちゃってますし、アニェーゼ達の事をどうしようかと思っていたんですが・・・・・・」
「なるほど、事情は分かりました。・・・・・・それで一応聞きますが、仮に爆発した場合、爆破時の威力はどの程度なんです?」
「それが・・・・・・・・・・・・絶対致死圏六〇m、です」
その言葉を聞いた神裂は目を見開いて驚愕を露にする。
「なっ・・・・・・、六〇m!? そんな物が爆発すれば女子寮が吹っ飛ぶどころの問題ではありませんよ!?」
「だから私はこうして涙目で訴えてるじゃないですか!! 私一人だとあの熱の入りきったシスター達を止めるなんて不可能なんです!! だから『聖人』である神裂さんにお願いしてるのにー!!」
「い、いや、でも確か一定以上の衝撃を加えると爆発するんでしたよね? 彼女等はすでに五分以上もボールを蹴り合っているのですから、それで爆発しないのは不自然なんじゃ・・・・・・」
「それは彼女等が素人だからです。ちゃんと蹴り方を教わっている人間が、フォームを整えてしっかり蹴れば爆発するのに必要な力は充分加わってしまいますから、そこだけが今の所の幸いということでしょうね」
「・・・・・・しかし、やはり素人の集まりだとしてもこのまま続けるのは危険、と言いたいのですか?」
「そうなんです、だから早く止めてください!! あのボールは『衝撃』で爆発しますけど、『破壊』では爆発しません。だから神裂さんが刀で素早く切断すれば、爆発しないで霊装を破壊できると思んです。所詮はただの霊装ですから、一度破壊してしまえば本物の火薬みたいに誤爆したりはしません」
つまりボール自体に衝撃を与えずに切断だけする、ということである。確かに神裂ならその位は朝飯前だ。
(・・・・・・それだけで事が済むなら今すぐにでも実行するのですが、やはりどうにも信憑性に欠ける話ですね。しかしレイチェルもここまで巧妙な嘘を吐くとは思えませんし、それ以前に・・・・・・)
だが、この件に関して、神裂には何よりも引っ掛かることが一つあった。
「なっ・・・・・・、六〇m!? そんな物が爆発すれば女子寮が吹っ飛ぶどころの問題ではありませんよ!?」
「だから私はこうして涙目で訴えてるじゃないですか!! 私一人だとあの熱の入りきったシスター達を止めるなんて不可能なんです!! だから『聖人』である神裂さんにお願いしてるのにー!!」
「い、いや、でも確か一定以上の衝撃を加えると爆発するんでしたよね? 彼女等はすでに五分以上もボールを蹴り合っているのですから、それで爆発しないのは不自然なんじゃ・・・・・・」
「それは彼女等が素人だからです。ちゃんと蹴り方を教わっている人間が、フォームを整えてしっかり蹴れば爆発するのに必要な力は充分加わってしまいますから、そこだけが今の所の幸いということでしょうね」
「・・・・・・しかし、やはり素人の集まりだとしてもこのまま続けるのは危険、と言いたいのですか?」
「そうなんです、だから早く止めてください!! あのボールは『衝撃』で爆発しますけど、『破壊』では爆発しません。だから神裂さんが刀で素早く切断すれば、爆発しないで霊装を破壊できると思んです。所詮はただの霊装ですから、一度破壊してしまえば本物の火薬みたいに誤爆したりはしません」
つまりボール自体に衝撃を与えずに切断だけする、ということである。確かに神裂ならその位は朝飯前だ。
(・・・・・・それだけで事が済むなら今すぐにでも実行するのですが、やはりどうにも信憑性に欠ける話ですね。しかしレイチェルもここまで巧妙な嘘を吐くとは思えませんし、それ以前に・・・・・・)
だが、この件に関して、神裂には何よりも引っ掛かることが一つあった。
(レイチェルの言っている事を要約すると、私がアニェーゼ達のサッカーに乱入して『七天七刀』でボールを真っ二つにする、ということですよね。・・・・・・しかし、私は先ほど微妙にハブられたばかりですし、なんというか彼女達の前には顔を出しにくいんですよね・・・・・・)
レイチェルの話がいまいち信じきれないがために、神裂はとんでもなく場違い(彼女的にはかなり深刻)なことを考えながらオロオロと悩んでいた。それを見たレイチェルは再び怒号を浴びせる。
「神裂さん、何をモジモジとしているんですか!? さっさとその腰のでっかい日本刀でボールをズバッとやってきてください!! さもないと全員ひき肉みたいになっちゃいますよ!?」
レイチェルの話がいまいち信じきれないがために、神裂はとんでもなく場違い(彼女的にはかなり深刻)なことを考えながらオロオロと悩んでいた。それを見たレイチェルは再び怒号を浴びせる。
「神裂さん、何をモジモジとしているんですか!? さっさとその腰のでっかい日本刀でボールをズバッとやってきてください!! さもないと全員ひき肉みたいになっちゃいますよ!?」
うっ、とかなり痛い所を突かれた神裂は一瞬身を引いてからレイチェルの目を見た。
そして神裂は気づく。今のレイチェルは普段の竹を割ったような性格の少女の目では無い。そこにあったのは絶望の淵に立たされ、藁に縋る思いであろう少女の、救いを求めるいたいけな目だ。・・・・・・そうだ、彼女は、レイチェルは本気だ。ここで神裂が彼女の訴えを聞いてあげなければ、神裂が自信に名づけた魔法名など何の意味も為さないだろう。
「まだ一箇所ずつ丁寧にチェックリストを埋めていくつもりなら言わせてもらいますよ神裂さん!! 私を信じてください!!」
レイチェルの激昂が耳を突き刺し、その言葉が神裂の心を薄く覆っていた最後の疑心を打ち壊す。そして彼女は決心した。レイチェルの言葉が嘘か本当かなんて問題じゃない。彼女を信じ、行動することこそが今の自分にできる最良の手段なんだ、と。
そして神裂は穏やかに微笑んで、その決心を実行に移す為の言葉を放った。
そして神裂は気づく。今のレイチェルは普段の竹を割ったような性格の少女の目では無い。そこにあったのは絶望の淵に立たされ、藁に縋る思いであろう少女の、救いを求めるいたいけな目だ。・・・・・・そうだ、彼女は、レイチェルは本気だ。ここで神裂が彼女の訴えを聞いてあげなければ、神裂が自信に名づけた魔法名など何の意味も為さないだろう。
「まだ一箇所ずつ丁寧にチェックリストを埋めていくつもりなら言わせてもらいますよ神裂さん!! 私を信じてください!!」
レイチェルの激昂が耳を突き刺し、その言葉が神裂の心を薄く覆っていた最後の疑心を打ち壊す。そして彼女は決心した。レイチェルの言葉が嘘か本当かなんて問題じゃない。彼女を信じ、行動することこそが今の自分にできる最良の手段なんだ、と。
そして神裂は穏やかに微笑んで、その決心を実行に移す為の言葉を放った。
「仕方ありませんね・・・・・・。それだけで私が力になれるのなら、ボールごとき秒単位で一刀両断してしまいましょう」
ゴム製の嗜好品を切り落とすだけで彼女の表情が晴れると言うのなら、それも悪くは無いだろう。
寮の廊下の一角。神裂火織は『七天七刀』を大きく引き抜く。
寮の廊下の一角。神裂火織は『七天七刀』を大きく引き抜く。
それからの神裂の行動は極めて速かった。レイチェルへと決意の言葉をかけたかと思えば、その刹那に廊下の窓に手をかけ、それを思いっきり全開し、そのサッシに足をかけたかと思うと神裂はそのまま寮の中庭へと力の限り飛び出した。
(いまいち状況は把握できませんが、皆の命の為です。恥なんて隅に寄せておかなければ!!)
そしてそのまま重力に従い、神裂はアニェーゼ達が熱い闘いを繰り広げている寮の中庭へと降り立つ。
神裂が地面に着地した瞬間、ズンッ、と言う重低音が寮庭に鳴り響き、いきなり庭コートに光臨したその『聖人』を見て唖然としている元ローマ正教のシスター(+シェリー)をよそに、神裂は件のサッカーボールを早送りのように首を動かしながら捜した。そしてシェリー=クロムウェルの操るゴーレムがキーパー代わりとしてボールを持っているのを発見すると、神裂は余計なことを頭に入れずにそのゴーレムへと素早すぎる突進を仕掛ける。
(いまいち状況は把握できませんが、皆の命の為です。恥なんて隅に寄せておかなければ!!)
そしてそのまま重力に従い、神裂はアニェーゼ達が熱い闘いを繰り広げている寮の中庭へと降り立つ。
神裂が地面に着地した瞬間、ズンッ、と言う重低音が寮庭に鳴り響き、いきなり庭コートに光臨したその『聖人』を見て唖然としている元ローマ正教のシスター(+シェリー)をよそに、神裂は件のサッカーボールを早送りのように首を動かしながら捜した。そしてシェリー=クロムウェルの操るゴーレムがキーパー代わりとしてボールを持っているのを発見すると、神裂は余計なことを頭に入れずにそのゴーレムへと素早すぎる突進を仕掛ける。
「――――――salvere000――――――!!!」
神裂がそう言った瞬間には、ゴーレムが手に持つボールごと上下に綺麗に切断されていた。
ズズズゥン、とゴーレムが崩れ落ちる音が寮庭に行き渡る。そこに残されたのはすでに刀を鞘に収めきった神裂と、眉間に皺を寄せまくっている元ローマ正教の面々、そして謎の襲撃によって自信の操るゴーレムが殉職してしまったシェリー=クロムウェルである。
ズズズゥン、とゴーレムが崩れ落ちる音が寮庭に行き渡る。そこに残されたのはすでに刀を鞘に収めきった神裂と、眉間に皺を寄せまくっている元ローマ正教の面々、そして謎の襲撃によって自信の操るゴーレムが殉職してしまったシェリー=クロムウェルである。
「「「「・・・・・・・・・・・・!!!!?」」」」(サッカー参加者一同)
「・・・・・・切断、確認。どうやら無事に済んだみたいですね」
特に爆破の予兆などは感じられなかったということで、神裂はとても平淡な声でそう呟き、安堵の息を吐いた。だが、その周りに立ち尽くしているシスター達はそうは行かない。オルソラ料理を賭けたデスマッチに命を注ぎ込んでいた彼女達にしてみれば、今この状況は人生最大級に好ましくない状況である。そのため当然のように神裂に文句(張り倒してやるぐらいの勢い)をぶちまけるべく、シスター達が動き出す。
その中でも一際行動が早かったのはシェリー=クロムウェルだ。
「おい極東宗派!! てめぇ私のゴーレムに何てことしてくれてんのよ!! てかボールまで真っ二つにしやがってこの野郎ォ!!」
自分の召喚したゴーレムが崩れ去った上に、オルソラディナー決定戦の主軸となるサッカーが出来なくなるという理由で、シェリーは戦闘時の二倍ぐらい凄まじい形相で神裂も詰め寄る。そしてそれに続くように、元ローマ正教のシスター達が重機のような圧力で同じように神裂に詰め寄り、負の感情丸出しの質問を投げつけ始めた。
「・・・・・・切断、確認。どうやら無事に済んだみたいですね」
特に爆破の予兆などは感じられなかったということで、神裂はとても平淡な声でそう呟き、安堵の息を吐いた。だが、その周りに立ち尽くしているシスター達はそうは行かない。オルソラ料理を賭けたデスマッチに命を注ぎ込んでいた彼女達にしてみれば、今この状況は人生最大級に好ましくない状況である。そのため当然のように神裂に文句(張り倒してやるぐらいの勢い)をぶちまけるべく、シスター達が動き出す。
その中でも一際行動が早かったのはシェリー=クロムウェルだ。
「おい極東宗派!! てめぇ私のゴーレムに何てことしてくれてんのよ!! てかボールまで真っ二つにしやがってこの野郎ォ!!」
自分の召喚したゴーレムが崩れ去った上に、オルソラディナー決定戦の主軸となるサッカーが出来なくなるという理由で、シェリーは戦闘時の二倍ぐらい凄まじい形相で神裂も詰め寄る。そしてそれに続くように、元ローマ正教のシスター達が重機のような圧力で同じように神裂に詰め寄り、負の感情丸出しの質問を投げつけ始めた。
「神裂さんどういうつもりですか!? シスター・オルソラの料理を賭けた大事な一戦だっていうのに!!」
「邪魔しに来たんなら去れ!! 一刻も早く!!」
「さっきハブられた事、そんなに悔しかったです!?」
「所詮寂しい女なんですから、黙って指でも齧ってろ!!」
「正直に吐け!! 何故このような暴挙に走ったんですか!!」
「邪魔しに来たんなら去れ!! 一刻も早く!!」
「さっきハブられた事、そんなに悔しかったです!?」
「所詮寂しい女なんですから、黙って指でも齧ってろ!!」
「正直に吐け!! 何故このような暴挙に走ったんですか!!」
尋常では無いブーイングが神裂火織を覆い尽くす(もはや全く関係の無い事柄まで混じっているが)。神に仕えし者とは思えない程に赤光りしたシスター達の眼は、もはや人のそれでは無かった。
そんな予想を遥かに上回る抗議活動に、神裂は僅かに目元を震わせながらも状況説明に入ろうと口を開く。
「み、皆さん!! これには事情があるんです!! 決して邪魔しようとかそういう訳では・・・・・・」
神裂が慌てながらシスター達を宥めようと奮闘している最中、その猛獣共(シスター)を押しのけて一人の少女が彼女の前に立ちはだかった。
そんな予想を遥かに上回る抗議活動に、神裂は僅かに目元を震わせながらも状況説明に入ろうと口を開く。
「み、皆さん!! これには事情があるんです!! 決して邪魔しようとかそういう訳では・・・・・・」
神裂が慌てながらシスター達を宥めようと奮闘している最中、その猛獣共(シスター)を押しのけて一人の少女が彼女の前に立ちはだかった。
「そうですか。ではどのような理由があるっつーんですか?」
全てのサッカー参加者が聞きたかった事柄を代表して質問したアニェーゼ=サンクティスに対し、神裂は一度咳払いをしてから、レイチェルに聞かされたままの話を彼女達へと語り始めた。
全てのサッカー参加者が聞きたかった事柄を代表して質問したアニェーゼ=サンクティスに対し、神裂は一度咳払いをしてから、レイチェルに聞かされたままの話を彼女達へと語り始めた。
少女? 説明中・・・・・・
「・・・・・・つまり私達が使っていたサッカーボールが、とんでもない威力の霊装兵器だと。そういう事ですか神裂さん」
「ええ、まあ要約するとそんな感じです」
神裂はレイチェルより熱く語られた霊装疑惑を、テンションだけを変えてそのままアニェーゼ達へと話した。当然、自分達が爆弾を蹴り合って勝負していたとなれば、シスター達はざわざわと不安を露にし始める。
そんな様子を見ながらアニェーゼはガリガリと頭を掻き、面倒そうな表情で神裂へと質問した。
「・・・・・・神裂さん。一応聞きますけど、その話の信憑性は?」
「情報源はレイチェルです。ステイルの持ち帰った押収品を調べたのは彼女とオルソラですし、レイチェルも嘘を吐いているようには見えませんでした」
「・・・・・・」
神裂の真顔の返答に対し、アニェーゼは言葉を失い、困惑した表情で頭を抱えた。
「ええ、まあ要約するとそんな感じです」
神裂はレイチェルより熱く語られた霊装疑惑を、テンションだけを変えてそのままアニェーゼ達へと話した。当然、自分達が爆弾を蹴り合って勝負していたとなれば、シスター達はざわざわと不安を露にし始める。
そんな様子を見ながらアニェーゼはガリガリと頭を掻き、面倒そうな表情で神裂へと質問した。
「・・・・・・神裂さん。一応聞きますけど、その話の信憑性は?」
「情報源はレイチェルです。ステイルの持ち帰った押収品を調べたのは彼女とオルソラですし、レイチェルも嘘を吐いているようには見えませんでした」
「・・・・・・」
神裂の真顔の返答に対し、アニェーゼは言葉を失い、困惑した表情で頭を抱えた。
「まあ、もう大丈夫ですよアニェーゼ。霊装は破壊しましたし、ボールぐらいなら経費で購入しても大したお咎めは・・・・・・」
「・・・・・・神裂さん」
励ますような言葉をかける神裂を、何故かアニェーゼは突然鋭く睨みつけた。唐突な変わりように神裂は少したじろき、何事かとアニェーゼへ返答する。
「え、ええ。何でしょうか?」
対するアニェーゼは一度大きな溜息をついてから、神裂へと呆れたように質問する。
「貴方、このボールは『対魔倉庫で保管していた』と言いましたよね。一応言っておきますと、私は厳重に保護された倉庫に足を踏み入れるような権限は持っていませんし、さっき神裂さんが真っ二つにしたボールは、女子寮の『普通の倉庫』から私が持ってきた物ですよ」
「え?」
「・・・・・・神裂さん」
励ますような言葉をかける神裂を、何故かアニェーゼは突然鋭く睨みつけた。唐突な変わりように神裂は少したじろき、何事かとアニェーゼへ返答する。
「え、ええ。何でしょうか?」
対するアニェーゼは一度大きな溜息をついてから、神裂へと呆れたように質問する。
「貴方、このボールは『対魔倉庫で保管していた』と言いましたよね。一応言っておきますと、私は厳重に保護された倉庫に足を踏み入れるような権限は持っていませんし、さっき神裂さんが真っ二つにしたボールは、女子寮の『普通の倉庫』から私が持ってきた物ですよ」
「え?」
・・・・・・今何か、聞き捨てならないような事を言ったような。
「・・・・・・普通の倉庫・・・・・・? いやしかし、そうするとあのボールは・・・・・・?」
「だから言ってるじゃないですか。私はそんなご大層な倉庫には入れませんし、そのボールは普通の倉庫で埃被って放置されてた物です、と」
「・・・・・・え、と? それはどうゆう・・・・・・」
一向にこちらの話を理解してくれない神裂に対し、アニェーゼは心底面倒臭そうな口調で真犯人を指摘する探偵のように指を指しながら叫んだ。
「だから言ってるじゃないですか。私はそんなご大層な倉庫には入れませんし、そのボールは普通の倉庫で埃被って放置されてた物です、と」
「・・・・・・え、と? それはどうゆう・・・・・・」
一向にこちらの話を理解してくれない神裂に対し、アニェーゼは心底面倒臭そうな口調で真犯人を指摘する探偵のように指を指しながら叫んだ。
「だからですねぇ・・・・・・神裂さん。結論から言うと貴方の勘違いですって。イギリス清教の女子寮に異動された捨て子の身とは言え、私は二五〇のシスターを束ねる責任を背負っているんですよ? そんな危険な物品の存在を、知らねえはずが無いでしょうが。そんな危険物は第三次世界大戦後の後片付けで全部処分しました。まあ、貴方と天草式は『少年』の件で凹んでいて、片付けは全く手伝っていないと思いますけど」
アニェーゼは冷たい口調で、とても早口で神裂に言葉を叩きつけた。神裂はまだ理解できていない様子で困惑した言葉を返す。
「・・・・・・・・・・・・は? えっと、その、え?」
「まだそんな顔できますか聖人サマは。つまりは全部お前の勘違いだって言ってんだよとっとと認めろ痴女野郎」
アニェーゼは冷たい口調で、とても早口で神裂に言葉を叩きつけた。神裂はまだ理解できていない様子で困惑した言葉を返す。
「・・・・・・・・・・・・は? えっと、その、え?」
「まだそんな顔できますか聖人サマは。つまりは全部お前の勘違いだって言ってんだよとっとと認めろ痴女野郎」
アニェーゼは物凄い剣幕でそれだけ言うと、足早でシスター達のもとへと歩いていき、シスター達に詳しい状況を説明した後「残念ですがサッカーは中止です。料理の件についてはオルソラに頼んで皆で食べましょうか」と言う発言で鶴の一声の如くシスター達(+疲れて眠たいシェリー)を束ねると、さっさと寮へと戻っていった。もちろん彼女達は帰り際に、自分達の楽しみを勘違いで潰した露出度の高い魔術師を見ながら、悪意のたっぷり詰まった舌打ちを残していったのだが。
そして唯一状況がうまく飲み込めない神裂(庭に一人ぼっち)は地面に膝をつき、事柄を整理する為に頭を抱えた。
(待ってくださいこれはつまりあのボールは霊装なんかじゃなくアニェーゼは普通のボールで普通のサッカーをしていただけであって私はボールを切る必要なんか無かった訳でかなり恥ずかしい勘違いをしていた訳でとどのつまりレイチェルの情報が・・・・・・)
神裂はようやく気づいた。
(・・・・・・レイチェルの情報が嘘だった、と)
そこで今現在自分の置かれている状況を理解した神裂は、寮を一瞥してから自身の刀に手をかけた。
(待ってくださいこれはつまりあのボールは霊装なんかじゃなくアニェーゼは普通のボールで普通のサッカーをしていただけであって私はボールを切る必要なんか無かった訳でかなり恥ずかしい勘違いをしていた訳でとどのつまりレイチェルの情報が・・・・・・)
神裂はようやく気づいた。
(・・・・・・レイチェルの情報が嘘だった、と)
そこで今現在自分の置かれている状況を理解した神裂は、寮を一瞥してから自身の刀に手をかけた。
・・・・・・・・・・・・ハメがったなレイチェルの野郎ォ・・・・・・・・・・・・
本気でレイチェルを心配していた分、その反動はとても大きい。
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レイチェルはかなり慌てて寮の階段を下っていた。それは一刻も早く神裂に真実を伝えなければならないからだ。
(やばい・・・・・・オルソラさんに聞いたら件の霊装はとっくに処理されてたみたいだし、あのまま神裂さんがサッカーに乱入すれば彼女は世紀の笑い者に・・・・・・)
彼女はアニェーゼ達の使っているボールは爆弾だ!! などと完璧な早とちりで神裂に吹き込んでしまった為、神裂はアニェーゼ達のサッカーを止めにいってしまっている。だがしかし、先程聖書配りから帰ってきたオルソラによれば、第三次世界大戦後にそのような危険な物品は纏めて処理してしまったとのこと。そしてそれはつまり、
「早く手を打たないと私が恥かいた神裂さんに殺される・・・・・・っ!!」
という事でもある。
何故しっかりとした事実確認もせずに本気で神裂に泣きついてしまったのかは自分でも解らない。もちろん悪気は無かったのだが、過ぎたミスは取り消せないのだ。とりあえず最悪の事態になる前に神裂を止めなければならない。
(間に合って・・・・・・!!)
悲痛な願いと共に階段を駆け下り、レイチェルは寮庭へと飛び出した。
そしてそこにあったのは、
(やばい・・・・・・オルソラさんに聞いたら件の霊装はとっくに処理されてたみたいだし、あのまま神裂さんがサッカーに乱入すれば彼女は世紀の笑い者に・・・・・・)
彼女はアニェーゼ達の使っているボールは爆弾だ!! などと完璧な早とちりで神裂に吹き込んでしまった為、神裂はアニェーゼ達のサッカーを止めにいってしまっている。だがしかし、先程聖書配りから帰ってきたオルソラによれば、第三次世界大戦後にそのような危険な物品は纏めて処理してしまったとのこと。そしてそれはつまり、
「早く手を打たないと私が恥かいた神裂さんに殺される・・・・・・っ!!」
という事でもある。
何故しっかりとした事実確認もせずに本気で神裂に泣きついてしまったのかは自分でも解らない。もちろん悪気は無かったのだが、過ぎたミスは取り消せないのだ。とりあえず最悪の事態になる前に神裂を止めなければならない。
(間に合って・・・・・・!!)
悲痛な願いと共に階段を駆け下り、レイチェルは寮庭へと飛び出した。
そしてそこにあったのは、
「・・・・・・来ましたね、レイチェル」
寮のど真ん中で七天七刀を構えた、涙目の神裂火織の姿だった。
(――――――――――手遅れだった!!)
レイチェルは最悪の事態を目の前にして戦慄する。今にも刀を振り下ろしそうな(原因はレイチェルなのだが)神裂に必死の弁解を試みる。
レイチェルは最悪の事態を目の前にして戦慄する。今にも刀を振り下ろしそうな(原因はレイチェルなのだが)神裂に必死の弁解を試みる。
「か、神裂さんすいません私の手違いと言うか勘違いと言うか何と言うかでご迷惑を「――――やかましい、ド素人が!!」
レイチェルの文脈の整わない言い訳が、神裂の三大瀑布のような激昂に塗りつぶされた。もはや鬼神と化した神裂の姿に、レイチェルはガタガタと小さな体を振るわせる。その小動物のようないたいけな姿を見ても尚、神裂の怒りは静まる事を知らなかった。
「貴方という人は・・・・・・っ!!」
「ままま待ってくださいヨ神裂さん!! 確かに今回の件では私に非があったかもしれませんけど、私だってあの時は本気であのボールが爆弾だと思ってて・・・・・・」
「そんな苦しい言葉は要りません!! 貴方のせいで・・・・・・っ!! アニェーゼ達のあんなゴミを見るような目は始めて見ましたよ!? ああ、もう駄目ですお終いです私はこの寮の人間に顔を合わせることが出来ません・・・・・・」
「いやダイジョブですって皆なんだかんだで結構優しいから許してくれ・・・」
「お前に哀れまれる筋合いはねえんだよ!!」
完全に頭に血が昇ってしまった神裂にレイチェルは本気で自らの身の危険を案じ始める。
(まずいこの聖人には話が通じない。何とかしなければ私の首から上が宙を舞うことに・・・・・・っ!!)
いくら怒りが頂点に達していてもそこまではしないだろうが、少なくとも半殺しは確実だ。かなり自己中心的な結論になってしまうがここは、
レイチェルの文脈の整わない言い訳が、神裂の三大瀑布のような激昂に塗りつぶされた。もはや鬼神と化した神裂の姿に、レイチェルはガタガタと小さな体を振るわせる。その小動物のようないたいけな姿を見ても尚、神裂の怒りは静まる事を知らなかった。
「貴方という人は・・・・・・っ!!」
「ままま待ってくださいヨ神裂さん!! 確かに今回の件では私に非があったかもしれませんけど、私だってあの時は本気であのボールが爆弾だと思ってて・・・・・・」
「そんな苦しい言葉は要りません!! 貴方のせいで・・・・・・っ!! アニェーゼ達のあんなゴミを見るような目は始めて見ましたよ!? ああ、もう駄目ですお終いです私はこの寮の人間に顔を合わせることが出来ません・・・・・・」
「いやダイジョブですって皆なんだかんだで結構優しいから許してくれ・・・」
「お前に哀れまれる筋合いはねえんだよ!!」
完全に頭に血が昇ってしまった神裂にレイチェルは本気で自らの身の危険を案じ始める。
(まずいこの聖人には話が通じない。何とかしなければ私の首から上が宙を舞うことに・・・・・・っ!!)
いくら怒りが頂点に達していてもそこまではしないだろうが、少なくとも半殺しは確実だ。かなり自己中心的な結論になってしまうがここは、
「すいません一旦逃げます!!」
「っ!! 待てやゴラァ!!」
「っ!! 待てやゴラァ!!」
自分が悪いと解っていても命には代えられない。
その後、約三時間程のリアル鬼ごっこを経て、慌てて駆けつけた『必要悪の教会(ネセサリウス)』の面々の活躍により事態は収束した。
その後、約三時間程のリアル鬼ごっこを経て、慌てて駆けつけた『必要悪の教会(ネセサリウス)』の面々の活躍により事態は収束した。