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シスター達はサッカー日和(後半)「2」

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匿名ユーザー

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この日の夕食は、まるで宴会のようだった。
女子寮の広い食堂に並べられている、部位を丸ごと焼いたような牛肉や、ほぼ鶏肉しか入っていないスープなどの豪勢な料理(オルソラ特製)の数々。その七つの大罪を体言したような誘惑の塊は、禁欲という鎖のせいでまともな食事をとれていないシスター達の理性を崩壊させるのには充分過ぎる代物であった。
そしてその祭りの後夜祭のようなテンションと食欲で満たされた食堂では、食事という名の椅子取りゲームが凄まじい勢いで進行していた。

「シスター・アニェーゼ!! 牛肉の残量がピンチです!! 早く取得しないと貴重な牛が虚空に消えてしまいます!!」
「ちっ、間に合わない!! 牛は狙っていたのに手遅れでしたか。しかしどうやったらこんな味付けが可能になるんでしょうかね。シスター・オルソラは暴食のベルゼバブの手先か何かでしょうか?」
「あ、シスター・カテリナ!! それは私のハンバーグですよ!! 横取りなんてズルイです!!」
「シスター・アンジェレネ!! ただでさえ普段から食関係の規則破りが多いというのですから、こんな時ぐらいは黙って食べられないのですか!?」
「し、シスター・ルチアだってちゃっかり牛肉ばっかり皿に載せてるじゃないですか!!」
「これは正当な栄養摂取です!! それよりもシスター・アンジェレネはもっと野菜を・・・・・・」

もはや修道女としての最低限の礼儀すら忘れて食事に没頭するシスター達。厨房ではオルソラを始めとする料理班が結成され、尋常では無い速度で消費されていく料理達に間に合うよう、締め切り直前の小説家のような勢いで新たな誘惑を創りだしていく。
日中に行われたサッカー同様、そこはまさに戦場と言い換えても違和感は無かった。

このような混沌とした状況に陥っている理由は少し前に遡る。
昼間の一件(とある魔術師の名誉の為、詳しい説明は省く)の後、アニェーゼ等元ローマ正教の面々はこのままでは終われないとばかりにオルソラに頭を下げ、夕食のパーティー化を懇願したのである。オルソラも最初は戸惑ってはいたが、唯一反対していたルチアがアニェーゼに説得されたお陰で(その際ルチアは弱みでも握られたかのような妙な動揺を見せていたが)オルソラは仕方が無いとばかりに了承。そして日が落ちる前に女子寮総出で材料を購入し終え、現在に至る。

そんな海賊のように食い物に齧り付く修道女達を遠目で眺める姿が、食堂の端に二つほどあった。
「・・・・・・いやあ大丈夫なんですかね。あんなに騒いじゃって」
「年頃の少女達ですから多少の高揚は良いにしても・・・・・よりにもよって食事中にあんな野獣のように・・・・・・」
レイチェルと神裂は、昼間の騒ぎの罰として隅の敷かれたブルーシートの上で正座させられていた。
「しかし幾ら罰とはいえ、食事まで抜きになるなんて聞いてませんよね。せっかく年に一回あるか無いかのご馳走だっていうのに。・・・・・・ていうかジャパニーズセイザは思ったよりキツいですね・・・・・・あー痺れてきた」
「私も今日の夕食は幾ら何でもやり過ぎかと思って先程『最大主教(アークビショップ)』に問い合わせたのですが、「楽しそうで良いじゃないかしら」とか軽い答えしか返ってきませんし・・・・・・やはり人が増えると女子寮も様々な方向に騒がしくなって行く気が・・・・・・」
「そうですか? 私が物心付いたぐらいの時は、こんな感じだった気がするんですけど」
「私が女子寮に来る前の事情に関してはよく分かりませんが・・・・・・レイチェル、貴方はよくそんな教育上悪そうな寮に馴染めましたね」
「まあ小さい頃から住んでますし、色々気に入ってるんです。寮の移動の話が出る度に私と同期は泣いて喚いて信仰心を忘れるほど反対しましたよ。まだ小さかったですからその程度で済みましたけど、今そんなことになったら霊装振り回して暴れるぐらいはしちゃいそうです」
「泣いて喚いて反対、ですか。愛着があるのはそうでしょうが、なるほど。だから昼間の爆弾騒動であんなに慌てていたのですね。自分の好きな場所が壊されるのが嫌だというは当然ですけど・・・・・・何故そこまでしてこの寮を大事にしているのですか?」
神裂の素朴な質問に対し、レイチェルは騒々しく食事をする修道女達を楽しそうに眺めながら、当たり前のように答えた。

「何故って、それは・・・・・・――――」





本物の戦場と大差無い食堂で、部下達を上手く使役して逸早く満腹を迎えたアニェーゼは、同じく食事の終了したルチアと共に闘いに臨むシスター達の群から外れ、食堂の少し端の方で食休みをとっていた。
「さて、と。片付けを手伝わされる前に、とっとと逃げましょうかね」
「駄目ですよシスター・アニェーゼ。食べたのですから後片付けは必須です」
「そんなの元部隊の奴等にやらせましょうよ。ていうかルチアはまだ少ししか食べてないじゃないですか。あれだけ有るんですからもっと食べてくれば良いものを」
「節制です。修道女としては当たり前の心得だと思いますが」
「なるほど、いつもの我慢大会ですね。そんな事毎日続けていたら気が狂っちまうと思いますよ」
「貴方もその我慢大会を私と一緒に数年間やったきたんですけどね。・・・・・・それにしても少し多めの食料を見ただけでこの有様とは、やはりこの寮に来てから私達は緊張感というものが著しく欠けてきている気がします。シスター・アニェーゼ、さっさとイギリス清教にローマ支部作って前の生活に戻りましょうよ」
「そうは言いますけどね。第三次世界大戦後の云々でローマ支部だか何だかが実現しやすくなったとしても、個人的には前より今の生活の方が気に入っていますよ」
「・・・・・・そうですか。人一倍の信仰心を持つ貴方にしては珍しいですね。悪い人達では無いにせよ、イギリス清教の人間との生活を望むなんて。・・・・・・何か、特別な理由でも在るのですか?」
ルチアの探るような質問に対し、アニェーゼは騒々しく食事をする修道女達を懐かしそうに眺めながら、当然のように答えた。

「何かって、そりゃあ・・・・・・――――」














「「楽しいからですよ。みんなで馬鹿みたいに騒ぐのが」」









―――――END

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