とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

一方SS

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
打ち止めが、朝から一枚のチラシを振り回して五月蝿い口を開いた。

「ねえねえ、これ行ってみない? ってミサカはミサカは白髪のお兄さんに精一杯懇願してみる」
「・・・・・・、・・・・・・あァ?」
その金平糖のような声に一方通行は深い眠りから現実へ引きずり戻され、ソファーに横たわりながら生返事を返す。
「ほらこれ、第七学区百貨店屋上の企業マスコット披露会!! 実は開催が今日の九時かららしいんだけど、今回はゲコ太とその一味が「セブンスミスト勢」として特別に登場するんだって。ってミサカはミサカは説明ついでに売り文句を引用してその魅力を伝えてみたり」
「・・・・・・ハァ」
寝起きで思考が回らない一方通行に対して打ち止めは持ち前の若さ(年齢的に言えば普通は言語を理解できないほど)で自身の希望をグイグイと押し込んでいく。
一方通行が開き難い目を擦って壁際の時計を見ると、時刻は午前八時。眠りに落ちたのは午前五時前後なので、ここで起きてしまえば睡眠では無く仮眠だ。特に用事も無いので今日は久々に昼過ぎまで寝ていようと思っていたのだが、
「ねえねえ。ねえねえってば。行こうよ、行こうよー!! ってミサカはミサカは相手が眠気で反撃出来ない利点を活かして物理的に揺さぶってみたり」
昨夜の午後九時には暴睡してしまった同居人に、身体をユサユサと揺らされてしまっているので恐らく無理だろう。人生そう上手くはいかないらしい。
そんな事を考えている内も揺さぶりを止めようとしない少女を片手で振り払い、一方通行は重々しく身体を起こした。
「ったく、うるせェな朝から甲高い声張り上げやがって。マスコット博覧会だか何だか知らねェが、行きてェんなら他当たれ。芳川なンかは無職だし丁度良いだろォよ」
再び寝転ぶ白髪の少年だが、打ち止めは口を動かすことを止めようとはしない。
「マスコット披露会!! ひ・ろ・う・か・い!! 名前を間違えるなんてそれに携わった研究者の皆様に失礼だと思わないの? とミサカはミサカは正論を交えつつ再び説得の機会を窺ってみたり」
「・・・・・・研究者だ? 単なる披露会にどこぞの研究機関が関わってるっつーのか?」
「おおっと、やっと興味を示してくれたねヤッホウ!! ってミサカはミサカは相手にされる事の喜びを噛み締めつつ説明を続けてみる。研究者とは言っても、確か心理学系列の学生さん達のサークルのことなんだけどね。色んな名の知れたメーカーのマスコットキャラクターを集めて「どんなブランドのどんなキャラにどんな年代が興味を引かれてどんな心理状態が生まれるか」ってのを調べるための実験的イベントらしいよ。さっき言った通り、ゲコ太だけは一日だけ『セブンスミストのマスコットキャラクター』として出るらしいんだけどってミサカはミサカは知ってる情報をできるだけ口に出してみたり。」
「名の知れたメーカー、ねェ。いくら宣伝になるとは言ってもブランド付きの企業をゲストに呼ぶなンざ学生の財布じゃ不可能だろォし、予算は学園都市持ちってとこか。要は遊びだってのに、相も変わらずくっだらねェ実験に金をつぎ込ンでやがるなこの街も」
「まあ、そうのような主催者側の事情はわたし達の知るところでは無いので放置。あともう一つ言うべきことがあって、このイベントは一〇歳以下のお子様は保護者同伴でお願いしますとの事で、ミサカ一人だと見た目的に若干厳しいかもしれないの。という訳で一緒に行こうよ、ってミサカはミサカはそれっぽい口実を作って再びお願いしてみる」
「ガキ扱いが気に入らねェ割には、状況に応じてお子様宣言かよテメェは」
「ガキ扱いは気に入らないけれど、状況に応じてお子様の立場を利用するのも一つの生き方だよ、ってミサカはミサカは少ない人生経験から得た事実を述べてみたり」

そんな日常的な会話を展開するバカップル(仮定)を横目で傍観する影があった。
そのもう一人の同居人は朝からテレビ画面を独占しつつ、ノーミスを保ちながら目まぐるしいシューティングゲームに勤しんでいる。
「んー、ミサカ的には芳川とか黄泉川とかより一方通行(あなた)に保護者役を買って出て欲しかったりするんだけどなあ」
打ち止めをそのまま大きくしたような少女、番外個体(ミサカワースト)は完璧なコントローラー捌き(しかも片手)を画面上に反映させながら、言い合いを続ける二人へ対する独り言を呟く。
「あァ? 結局テメェも姉の味方かよ。オマエには姉からの指令を弾く機能が備わってンだから、他の妹達とは扱いが違うンじゃねえのか」
「あれえ、聞こえてた? まあ、別にミサカ個人の感情では一方通行が付いていこうが、ちっこいのが一人でフラフラ外出しようが関係無いんだけどさ。あんまり意地悪しちゃうと困った最終信号(ラストオーダー)さんが変な負の感情を呼び起こしてこのミサカに悪影響を及ぼしちゃうから、あんまり突き放すのも賛成できないんだなコレが」
「そういや前にもそンな事あったな。・・・・・・確かに負の感情と分類されンなら、嫉妬だろうが劣等感だろうが何でも取り込ンでくしなオマエ」
いくら司令塔からの情報を弾くとは言っても、彼女が率先して抽出する『負の感情』がミサカネットワーク全体に充満してしまえば話は別だ。以前にもそれが原因で一方通行と一緒に御使いに行かされる羽目になった。
「つー訳で行ってあげな一方通行。せっかく取り返した平和に目を背けるのは、拒絶してるのと同じじゃない?」
「口元が愉快に緩んでるヤツに言われたくねェな。オマエ絶対楽しンでるだろ」
「キャハハハ、あなたを困らせるのがミサカの役目だもんね」
一方通行は思わず舌打ちを漏らした。せっかくの休日だというのに、この部屋には安息を邪魔する者しかいない。しかもそれらが遺伝子レベルで同一だというのだから、やはり血は争えないのだろう。
「なんか今日は芳川も黄泉川も朝から用事で居ないっぽいし、保護者様はミサカかあなたしかいないんだから」
「黄泉川は教師だからともかく、芳川は暇人のはずだろォがよ」
「さあね、就職活動じゃないの? 二人とも朝早く出てったみたいだし」
「そォかよ。ならオマエが行け」
「あいにくミサカは片腕負傷中だし、選択肢から外してもらいますぜ」
ニマニマと嫌な感じの笑顔を浮かべる番外個体。それでもゲームでは無駄の無い動きで敵と思われる宇宙戦艦を撃墜した。そろそろエンディングだというのに、残機は満タンである。このクローン娘は冗談抜きでゲームが上手い。
「一緒に行って下さい!! ってミサカはミサカは割と真剣にお願いしてみたり」
「早く決めなよ第一位。そんな顔でも男でしょ?」
もはや流れが決まっているかのような姉妹の言葉に、一方通行は観念した様子で溜息を吐く。
「・・・・・・チッ、面倒臭ェ」
「お? やっと行く気になってくれたのかな? ってミサカはミサカは目を輝かせながら聞いてみたり」
「変な癇癪起こされても迷惑だしな。ストーカー紛いの研究者が、またオマエに目をつけないとも限らねェ」
「おやおや。ツンツンデレデレな一方通行の、貴重なデレ期到来ときましたか。見てる分には面白いし、ミサカ的には大賛成」
「テメェは黙ってろ」
「やっほう!! ってミサカはミサカは溢れ出る喜びを全身で表現してみたり」
「・・・・・・暴れンなガキ。さっさと着替えろ」
結局、今日の一方通行の予定は騒ぎ立てる少女の提案で塗り潰された。

(・・・・・・学園都市第一位(アクセラレータ)が存在してるだけで、大抵ロクな事起きねェってのに。相変わらず慣れねェな、この感じは)
やはり普通の日常という生温いものは、いくら経験しても肌には合わないものなのだろう。



口裂け女のような満面の笑みを浮かべた番外個体の見送りを受けて、二人は早速会場である第七学区百貨店屋上へと向かった。が、
「・・・・・・どォするよ。予想以上の大繁盛みたいだが」
「確かに、これはミサカも予想外だなってミサカはミサカは正直な感想を漏らしてみたり」
時刻は八時四五分。開始まで一五分と迫ったところだが、すでに会場は満員状態だった。
面積や形に関しては普通のデパートと変わりないその屋上だが、そこには目安だけで軽く一〇〇人は超えそうな客が集まっている。親子連れが多いかと思っていたが、意外なことに殆どが女子中学生だった。
そして会場の中央に二m程の壇上があり、そこに掲げられた看板には『第三回マスコット披露会』と文化祭のような字面で書かれている。恐らくはあの壇上にマスコットとやらが上がったりして、色々とアピールするのだろう。会場に居る殆どが女性であることを見ると、確かに企業のイメージアップには繋がりそうだ。
「第三回・・・・・・ってことは、前に二回もこンな事してたのかよ。大丈夫か学園都市」
「毎回結構繁盛してるみたいだけどねーってミサカはミサカはこのイベントの必要性を語ってみたり」
「必要性は語れて無ェぞ」
「需要はそのまま理由に代わるものなのだよってミサカはミサカは根拠を述べてみる」
「・・・・・・ホント、学習装置(テスタメント)は妙な言い回しを植え付けやがるな」
別段上手いことは言えていないが、この少女が決め顔で語ると謎の説得力を生み出すのは何故だろうか。少なくともギャップの必要性は痛感できた。
「とりえあず、始まるまではあっちの自販機でアイスでも買ってのんびり待ちましょうか、ってミサカはミサカはさり気なく自身の希望を言ってみたり」
「欲しいンなら普通に言え。金ならある」
「んん? 今あなたが懐から取り出したそれは、もしかして芳川のお財布じゃないのかな? ってミサカはミサカは学園都市第一位がせっこい盗みを働いているのでは無いかと疑ってみたり」
「リビングの机に堂々と置いてあったモンだ。仕舞われてねェって事は、使えって意味だろ」
「ほうほう。朝から出てった割には今日あなたがお金の必要な日になることを分かっていた訳ですなぁ、ってミサカはミサカは元科学者の驚異的な洞察力に感服してみたり」
「知るか」
傍から見れば白髪の少年と語尾の特徴的なアホ毛の少女というかなり異色な二人な訳だが、一方通行はそんなことを気にせずに沢山の人々をかき分けて屋上の端に佇むアイスの自販機へ小銭を投入した。硬貨の挿入口が少し錆付いていることを見ると、恐らくは普段からあまり人気の無い販売機なのだろう。これだけ人が居る中で彼以外の誰一人として利用していない時点で、需要もへったくれも無いのかもしれないが。
「(・・・・・・一昔前の品揃えだな。品が古けりゃ見向きもされねェとは、結局世の中はトコロテン方式でモノが排除されてく訳か。自販機自体の衛生状態も良くは無ェし、撤去も時間も問題だろうな)」
学園都市最高クラスの演算能力をフルに活かし、この自販機がいつ頃この屋上から姿を消すかを地味に計算していた一方通行に、打ち止めが怪訝そうな表情を向けた。
「あのー、買えましたか? ってミサカはミサカは謎の計算に勤しんでいるあなたに質問してみたり」
「ほっとけ、考え事だ。この水色で長方形のよく分からねェ固形物で良いよな?」
「不気味な言い回しで食欲を奪うのは止めて欲しいですよ、ってミサカはミサカはあなたの思考回路を提供している側として不満に思ってみたり。普通にソーダアイスって言えないの?」
「間違っちゃいねェだろうがよ」
一方通行は右上の『ソーダバー』というボタンを軽く押す。一秒ほどの間を空け、音を立てながら自販機の取り出し口へと商品が落下した。その氷菓を手に取り、打ち止めは口元を緩めながら袋を開封する。
「いっただっきまーす!!」
そして出てきた水色の固形物、もといソーダアイスを健康的な乳歯でガリガリと勢い良く砕いていく。だが、
「・・・・・・随分と楽しそうに食べてるとこ失礼だけどよォ。オマエ、脳味噌と歯のコンディションが一致してないンじゃねェか?」
その言葉通り、次の瞬間には打ち止めの歯の神経へ何かビリビリとした衝撃が走ったようで、アホ毛の少女はそのまま二秒程うずくまってしまった。
予想外の攻撃を口内に受けた妹達(シスターズ)の司令塔は、納得のいかない様子でボソリと呟く。
「・・・・・・ミサカのデンタルケアは完璧なはずなのに」
「そォかよ。そりゃ残念だったな」


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『それでは、第三回マスコット披露会を開催致しまーす』
司会と思われる店員の甲高い声と共に、観客からそれなりの拍手が巻き起こる。
そしてイベントが始まり、それを眺める一方通行が最初に思った事と言えば、

「・・・・・・地味だな、コレ」

ということだった。
メインの舞台と思われる中央の壇上には彼の予想通り大小様々なマスコットキャラクター(着ぐるみ)が上がり、妙に短い手を振るなり無理矢理くるりと一回転するなりと、それっぽいアピールをしている訳だが、逆に言えばそれだけなのだ。
観客も観客でその半分以上が壇上での必死の企業アピールを無視して『その場の雰囲気』自体を楽しんでいるようであり、率直に言えばグダグダである。
だがそれでもイベントを素直に満喫しているお客さんも幾らかはいるようで、それらは当然、自然と壇上へ近い位置へと集まっていく。その為、なんとなく居る人と積極的に楽しむ人とで完全に二分化されてしまっていた。
「(主役に興味を持つ奴と、場に居る事自体に拘る奴・・・・・・か。権力者の資金集めパーティーみたいな感じか?)」
そんな皮肉がぴったり合うこのイベントで、打ち止めはもちろん主役に興味を持つ側に分類される。なので客の列の中で、壇上に最も近い最前列の真ん中を陣取りキラキラと目を輝かせながら次々と登場するマスコットを見つめていた。周りからすれば実に微笑ましい光景だろう。
「・・・・・・俺にはこの披露会とやらの楽しさは、百年経っても分からねェだろうなァ」
対照的に壇上と最も離れた場所に設置されたベンチに座る一方通行は、申し訳程度に打ち止めを見守る目を少し細めた。
そして少し考えてみた。

多分、一般人の目線から見ればこのような少し騒がしいくらいのイベントは楽しいと思うだろう、と常識に基づいて考えてみた。
だが一般人とは言えない自分は、これを素直に楽しめないだろうな、と記憶に基づいて考えてみた。
何故なら凡で無く非凡な自分は、いくら必死に『普通』に溶け込もうと奮闘したところで無駄だろうから、と経験に基づいて考えてみた。
例えばこんな下らない休日を馬鹿みたいに過ごしてみたらどんな気分になるだろうか、と好奇心に基づいて考えてみた。
だけどもそれすら底辺から這い上がったばかりの自分には不可能だ、と真実に基づいて諦めた。

(・・・・・・目が痛ェ。眩しすぎんだよ)
今現在自分が居るのは、空が澄んでいて悪意の見えない慣れない環境。
どこを見ても深い闇しか無かった世界から、明るい光に染まりきった世界へと放り出された気分はとても複雑で、どこまでも奇怪だった。数奇な運命を辿ってきたつもりだった自分は、そのような当たり前の世界にすら順応するのが難しいと知った。
ここに来るまでは打ち止めというたった一つの灯りを頼りに暗闇を彷徨ってきたのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。

そしてそこまで考えて、彼は区切るように一言呟く。
「だりィ」
素直な感想を漏らした彼は、それでも遠くで元気にはしゃいでいる打ち止めを緩んだ表情で眺めていた。仰いだ空は青かった。

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『少しの間休憩になりますので、暫くお待ちくださーい』
司会のアナウンスが入り、言葉通りの小休止。
マスコット披露会の開始から三〇分程ぶっ続けだったアピールタイムも終了し、現場のスタッフ(恐らくは主催者側の学生)が会場の隅で何やらコンピュータを弄りながら作業を始めていた。
休憩に入ると同時に一方通行の居るベンチまで舞い戻っていた打ち止めは、その光景を見て首を傾げている。
「ねえねえ、あのスタッフさん達は一体何をあんなに必死になってキーボードを叩いているの? ってミサカはミサカは素直を疑問を口にしてみたり」
「そりゃァ、元々は『マスコットを見た客の反応を研究する』って名目のイベントなンだろ? 観客の表情やら歓声やらを数値化して、それを資料の一つにでもしてるンだろォよ。じゃなきゃ、こンな暇つぶしイベント開催する意味が見当たらねェ」
「ふーん。心理学科も大変どすなあ」
休憩の入った会場は先程と余り変わらない人数が、マスコットの消えた壇上は数台の清掃ロボットが占拠している。さらによく見ると、披露会に登場したキャラクターのグッズなども端で販売されており、客の入りから見ると売上も上々の様。デパートの屋上を貸しって複数の企業を呼び寄せたほどのイベントが、何故に入場無料かという謎(学園都市全面協力というのも少し無理がある)がそれを見て容易に解けた。
「てかオマエ」
「なあに?」
一方通行は青い水玉のワンピースだけを着た打ち止めに、特に抑揚なく質問する。
「オマエ、白衣はどォした? 来る時は羽織ってたはずだろ」
「え? あ、そういえばミサカはワンピースの上から羽織ってたね。どこやったんだろ、ってミサカはミサカは辺りをキョロキョロ白衣の行方を探ってみたり」
「あの壇上前の柵にかかった、布切れみてェな白い物体は違うのか?」
一方通行が指差す先には、壇上への進入防止用として設置されている金属の柵に放置された白衣の姿が在った。
「おお、アレですよアレですとも蟻が十匹アイサンキューってミサカはミサカは御礼を言いつつ白衣のもとを直行してみたりー!!」
「日本語で話せ」
打ち止めは人込みを縫うように走り抜け、壇上前の柵に辿り付いた。が、
「おぉわあ!!?」
辿り付いた直後、ガシャァン!! という軽快な金属音を鳴らして柵と共に前方へすっ転んだ。
(馬鹿かあのガキ・・・・・・謝ンのはコッチなンだけどなァ・・・・・・)
「だ、大丈夫ですかお客様ー!?」
もはや呆れて物も言えない一方通行を尻目に、すぐさま従業員の一人が打ち止めへと駆け寄ろうとする。



だが、その前に異変は起こった。
(――――なンだ? 壇上の清掃ロボの動きがおかしい)
先程から場を綺麗にしようと細かく動き回っていた清掃ロボットが、打ち止めが転んだ直後から少し不自然な動きをしていた。小刻みに移動しているというよりは、ガタガタと振動しているようにも見える。
そして次の瞬間、その清掃ロボットの上部に取り付けられた赤色のランプが点灯し始め、警告音が鳴り響いた。


『――――メッセージ、メッセージ、エラーコードNo.100231-YF。攻撃性電磁波を感知。システムの異常を確認――――』
(エラーコード!? まさか、あのガキ・・・・・・っ!!?)
一方通行が清掃ロボットに目をやると、その所々から薄っすらと黒煙が上がっているように見えた。
つまり、あのロボットが何らかの力にあてられたという事。そしてあの場でそんな事が出来るのは、
(・・・・・・クソガキが!! 転んだ拍子に放電しやがったな!!)

清掃ロボットは警告音を響かせながら不規則に素早く動き回り、やがて壇上の端まで来ると、ロボット全てが勢い余ってそこから宙へと飛び出した。
そしてその真下には、柵ごと転んでうつ伏せになった打ち止めの姿。
「え・・・・・・?」


打ち止めが声を出した時には、自身の何倍もの重量の清掃ロボットが頭上から降り注いでくる寸前だった。
周りの人々からは小さな悲鳴が聞こえ、その場の誰もが目を瞑る。
そしてガシャアアアン!! という凄まじい音が鳴り響き、場に一瞬の静寂が訪れた。

目撃者は瞼を開くのを躊躇っただろう。
なぜなら目を開けた時に見える景色は、転んだ少女が鉄製の巨大なハンマーによって鮮血を撒きながら打ち砕かれる残酷な光景だったからだ。


・・・・・・いや、正確にはそのはず“だった”。

「・・・・・・クソったれが。面倒事は何でもコッチに回ってきやがる」
だが、その凄まじい音は少女が潰された音では無く、“突然乱入した白髪の少年が数台の清掃ロボットを全て蹴り飛ばした音だった”。
一瞬にして飛ばされたロボット達は、壇上の側面を沿うように滑空して反対側(売店の裏で無人のエリア)の屋上柵に勢い良く激突し、電源を落したような警告音の寸断と共に破壊される。
そして大勢の観客の目の前に残ったのは、呆然とする少女とそれに寄り添うように聳え立つ白髪の少年の姿。そして先程まで警備ロボだった金属の塊。
「無事か、ガキ」
一方通行は『いつも通りの表情で』首筋のスイッチを元に戻し、端的に安否を確認する。
「え、あ、うん・・・・・・大丈夫ってミサカはミサカは報告してみたり・・・・・・」
「お、お客様・・・・・・!!?」
状況が上手く掴めていないだろう従業員の一人が先程よりも慌てて駆けつけるが、一方通行はそれを片手で制してから目を見ずに言い放つ。
「コッチの心配するぐらいなら、オマエ等のイベント進行係の心配した方が良いンじャねェか? お掃除ロボットがスクラップになったお陰で、観客ドン引きだしな」
そして一台だけで自身二人分の重量があるであろう清掃ロボを平然と蹴り飛ばした無傷の少年は、続けてこう言った。
「スクラップ共の弁償はする。大事はソッチも厄介だろォし、コッチはとっとと退散するからよ」
それはまるでこの事態を最初から予期していたような、そんな口調にも思えた。


呆然とする従業員とイベントの参加者達の中心で、未だに起き上がっていなかった打ち止めを引き起こした一方通行は小さく呟く。
「(・・・・・・結局、いくら馴染もうとしても無駄だな。オレが存在してるだけで、ロクな事態にはならねェ)」
眩しいものに手を伸ばすと必ず何かの邪魔が入るのは、前から解ってはいた。ここまで露骨だとは思っていなかったが。

場違いな能力でロボットを暴走させた少女と、桁違いな能力でそれを止めた少年は、結局そのまま帰路に着いた。


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「おっかえりー。随分と早かったねえ、まだ昼過ぎだぜ?」
「・・・・・・軽いトラブルだ。気にするほどでも無ェだろォけど」
ソファーで身体を伸ばしていた番外個体(ミサカワースト)の適当な挨拶を適当に受け流しながら、一方通行は部屋に入るなりソファーへと体を落した。
「お疲れみたいだねえ第一位。何があったのか話してごらんなさい」
「それならそこの沈みきったガキに聞け。脳波リンクとやらは、オマエラの間じゃァ関係無いみてェだし」
一方通行の目線の先には、絨毯に顔面を突っ伏して微動だにしない打ち止めの姿があった。どうやら昼間の事で責任を感じてしまっているらしい。
「あらら。我が司令塔様は何をやらかしてしまったんだろーかねー」
あくまで楽しそうに首を揺らす番外個体に、打ち止めは首だけを曲げてその泣きそうな顔を晒した。
「・・・・・・かくかくしかじか、ってミサカはミサカは合理的に状況を説明してみたり。ミサカのせいで色んな人に迷惑かけちゃったみたい・・・・・・」
「ふうん。そりゃあ大変だったね。お疲れ様ー」
番外個体が心底興味無さそうに言い放つ。すると打ち止めは「・・・・・・寝室いってくるね、ってミサカはミサカはうぃるすりーぷ宣言してみたり」などと意味不明な事を口走りながら廊下へ消えていった。やはり相当疲れたのだろうか(主に精神的に)。

そしてそれを横目で流した番外個体は、ニマニマした顔のまま一方通行の方へ目線を向けた。
「・・・・・・で、第一位さんよ」
「ニヤニヤすンな、気持ち悪ィ」
「なんであなたが責任感じちゃってるの?」
「あァ?」
「バレバレだぜ第一位。デパートの屋上の件、自分のせいだと思ってんだろ?」
「・・・・・・」
クスクスと笑いながら的確な質問を突き刺す番外個体に対し、一方通行はいつもの面倒そうな表情で天井を仰ぎ、そして特に反論はしなかった。
「あらま、図星? 変な所で律儀だね、あなたも」
番外個体の笑顔は消えない。だが、その顔から嘲笑は消えている。
「どうせ『オレが存在しただけで悪いことが起こってしまう。オレが居たせいでこうなった』とか自分の存在全否定な事考えてんでしょ? 本当、頭良い癖に何も分かってないねえ」
「・・・・・・うるせェ。上っ面の表情しか出せないテメェに、何が分かるってンだ」
「ミサカの存在理由は今も昔も変わらないよ。あなたを困らせることだけ。上っ面も何も、これ以外にミサカの中身なんて無いんじゃないかな?」
「・・・・・・っ」
「まあ、あなたの存在理由なんて知ったこっちゃないけれど、どうせあの司令塔様でしょ? 本当に打ち止めとの平和な日常とやらを願っているのなら言わせてもらうけれど、『それはそもそもあなたが居ないと成立しないよ』?」
番外個体は、とても楽しそうな笑顔を見せながら言葉を紡ぐ。
「あなたが居て、打ち止めが居て、黄泉川が居て、芳川が居て、何故かこのミサカも居て・・・・・・、それらが滞りなく緩やかに生活していけることがあなたの理想なんだったら、無駄な責任感じる前に一つだけ大事なこと頭に刻んどけよ、一方通行(アクセラレータ)」
そして一方通行が何かを言い返す前に、クローンの少女は言い放つ。

「あなたの存在理由は、ここに存在すること。それだけ守ってれば、割と簡単に理想は叶っちゃうぜ?」

言うだけ言うと、番外個体はソファーを離れて液晶テレビの目の前に座り、再びゲーム機の電源を入れた。昨日も徹夜でゲーム三昧だったというのに、まだやり足りないのだろうか。
「ま、色々言ったけどさ。つまりはあなたが元気なら皆それで良いって訳よ。そもそもあなたが居なけりゃミサカの居る意味無いしね」
「その元気で居て欲しい奴を、オマエは殺そォとしてたけどな」
「今はあなたが居なきゃ日常生活すら地味に危なそうだし、絶対死ぬなよ? 死んだら殺すからマジで」
「そォかよ。ご苦労だな」

一方通行がそう吐き捨てると、番外個体はタイトル画面まで起動が完了した某ガンシューティングゲームを指差して言う。
「一緒にやるかい?」
「やらねェよ」
「だよね」
その皮肉気な笑顔は、一方通行の表情を僅かに緩ませた。


      • Fin---

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