玄関を開けると、予想に反して部屋の中は静かだった。
いい加減外も暗くなっているというのに電気も付けていないらしく、廊下から入り込む光の他に上条達の光源は無かった。
「もしかして。出掛けているとか?」
「それは無いな。ほら」
姫神の疑問を即座に否定して上条は足元を指差した。その示す先には、先々月からこの部屋に居つくようになったシスターさんの数少ない私物の一つである革靴がちょこんと鎮座していた。
「いくらなんでも裸足で出かけたりはしないだろ」
「なら。昼寝とか」
「……それならまだ可愛げがあるんだけど」
多分想像通りなんだろうなー、などと口の中で呟きつつ左手で玄関の電気のスイッチを探る。
パチン、とスイッチの乾いた音が響き、数瞬遅れて頭上に新たな光源が生まれる。
「ほれ姫神」
勝手知ったる己の家。乱暴に靴を脱いで玄関と部屋を繋ぐ短い廊下に上がり、上条は壁に立てかけてあった滅多に使われない来客用のスリッパを未だ靴を履いたままの姫神の前に揃えて置く。
「ありがとう」
一言礼を告げ、綺麗に靴を脱ぎ揃えてからスリッパへと履き替える。
もちろんこのやり取りの間も、繋がれていた二人の手が放れることは無かった。繋いだ手を支点にくるりくるりと回りながら行われた一連の動作は。
「……なんか、踊っているみたいかも」
と言う感想を、部屋から顔だけ出して玄関を窺っている少女に抱かせた。
「ただいまインデックス。遅くなって悪かった」
上条は、ここでようやく姿を見せた同居人に対して帰宅の挨拶をした。そして、
「ところで。なにをなさっておられるのでせう?」
視線を下へと向けて問いかける。
「……おかえりとうま。なにって、もちろん、おなかがすいてて力が出ないんだよ」
と、声を掛けた時と同じく床に寝そべったままの状態で答える禁書目録の少女。
どうやら空腹のあまりにダウンしている模様だ。その隣で、もう一人(?)の同居人である三毛猫が呆れたように小さくあくびをする。
「腹減った、って」
半ば予想していた事とは言え、あんまりと言えばあんまりな事態に上条も二の句が継げない。継げないが。
「朝に残していった弁当以外にも、ウチにはまだ食糧があった筈ですがっ。それは知ってるよな?」
確認しない訳にも行かないわけで。
「うん。お菓子があったから、それは食べたよ」
「カップ麺もあったろーに。つか、何故にそっちから手を付けない」
「インスタントヌードルはおいしくないんだよ」
「そういう言い方は正しい作り方をマスターしてからにしてくだいな!完全記憶能力とやらはどこ行った!?」
「だってだって!具の下にスープのパウダーが隠れてたり焼きそばなのにお湯でふやかしたり、って意味がわからないかも!」
「えぇい、屁理屈ばかりこねおってからに」
「って、それよりもとうま」
インデックスが突然トーンを落として先刻からあった疑問を口にした。
「どうしてあいさと一緒に帰ってきたの?」
「あー、それなんだけどなインデックス」
その質問は予め予想されていたものだったので、上条はありのままを彼女に告げる。
「すまん。姫神の十字架を『殺し』ちまった」
「……何をしてるのかな、とうまは。触っちゃダメだって言っておいた筈なのに」
これだからとうまは、と言外に匂わせてインデックスは『ふぅやれやれ』と肩を竦める。……床に寝そべったままで。
「どうしてそんな事になっちゃったのかな?」
「あぁ、今日の昼に教室で姫神とぶつかってさ。その拍子でちょっと」
「そう。私の胸に触った拍子に。十字架にも触ってしまって」
上条の説明に姫神が言を繋ぐ。どちらも圧倒的に言葉が足りない。
次の瞬間。
室内の気温が下がった、と上条は錯覚した。
音も無くゆらぁり、と禁書目録の少女が立ち上がる。
「ひひ、姫神さん!?今の説明は言葉がかなり足りないんじゃないかと上条さんは思う訳なのですが!」
「でも。そのまま説明すると言ったのは君」
確かにそうですがー!と左手で頭を抱える上条へ、一歩、また一歩と執行人が歩み寄っていく。
「ふーん。そうなんだ。ひょうかの時も思ったけど、やっぱりとうまってそうなんだね」
「ちょっと待てインデックス!やっぱりそうってどう言うぎゃーっ!!」
いい加減外も暗くなっているというのに電気も付けていないらしく、廊下から入り込む光の他に上条達の光源は無かった。
「もしかして。出掛けているとか?」
「それは無いな。ほら」
姫神の疑問を即座に否定して上条は足元を指差した。その示す先には、先々月からこの部屋に居つくようになったシスターさんの数少ない私物の一つである革靴がちょこんと鎮座していた。
「いくらなんでも裸足で出かけたりはしないだろ」
「なら。昼寝とか」
「……それならまだ可愛げがあるんだけど」
多分想像通りなんだろうなー、などと口の中で呟きつつ左手で玄関の電気のスイッチを探る。
パチン、とスイッチの乾いた音が響き、数瞬遅れて頭上に新たな光源が生まれる。
「ほれ姫神」
勝手知ったる己の家。乱暴に靴を脱いで玄関と部屋を繋ぐ短い廊下に上がり、上条は壁に立てかけてあった滅多に使われない来客用のスリッパを未だ靴を履いたままの姫神の前に揃えて置く。
「ありがとう」
一言礼を告げ、綺麗に靴を脱ぎ揃えてからスリッパへと履き替える。
もちろんこのやり取りの間も、繋がれていた二人の手が放れることは無かった。繋いだ手を支点にくるりくるりと回りながら行われた一連の動作は。
「……なんか、踊っているみたいかも」
と言う感想を、部屋から顔だけ出して玄関を窺っている少女に抱かせた。
「ただいまインデックス。遅くなって悪かった」
上条は、ここでようやく姿を見せた同居人に対して帰宅の挨拶をした。そして、
「ところで。なにをなさっておられるのでせう?」
視線を下へと向けて問いかける。
「……おかえりとうま。なにって、もちろん、おなかがすいてて力が出ないんだよ」
と、声を掛けた時と同じく床に寝そべったままの状態で答える禁書目録の少女。
どうやら空腹のあまりにダウンしている模様だ。その隣で、もう一人(?)の同居人である三毛猫が呆れたように小さくあくびをする。
「腹減った、って」
半ば予想していた事とは言え、あんまりと言えばあんまりな事態に上条も二の句が継げない。継げないが。
「朝に残していった弁当以外にも、ウチにはまだ食糧があった筈ですがっ。それは知ってるよな?」
確認しない訳にも行かないわけで。
「うん。お菓子があったから、それは食べたよ」
「カップ麺もあったろーに。つか、何故にそっちから手を付けない」
「インスタントヌードルはおいしくないんだよ」
「そういう言い方は正しい作り方をマスターしてからにしてくだいな!完全記憶能力とやらはどこ行った!?」
「だってだって!具の下にスープのパウダーが隠れてたり焼きそばなのにお湯でふやかしたり、って意味がわからないかも!」
「えぇい、屁理屈ばかりこねおってからに」
「って、それよりもとうま」
インデックスが突然トーンを落として先刻からあった疑問を口にした。
「どうしてあいさと一緒に帰ってきたの?」
「あー、それなんだけどなインデックス」
その質問は予め予想されていたものだったので、上条はありのままを彼女に告げる。
「すまん。姫神の十字架を『殺し』ちまった」
「……何をしてるのかな、とうまは。触っちゃダメだって言っておいた筈なのに」
これだからとうまは、と言外に匂わせてインデックスは『ふぅやれやれ』と肩を竦める。……床に寝そべったままで。
「どうしてそんな事になっちゃったのかな?」
「あぁ、今日の昼に教室で姫神とぶつかってさ。その拍子でちょっと」
「そう。私の胸に触った拍子に。十字架にも触ってしまって」
上条の説明に姫神が言を繋ぐ。どちらも圧倒的に言葉が足りない。
次の瞬間。
室内の気温が下がった、と上条は錯覚した。
音も無くゆらぁり、と禁書目録の少女が立ち上がる。
「ひひ、姫神さん!?今の説明は言葉がかなり足りないんじゃないかと上条さんは思う訳なのですが!」
「でも。そのまま説明すると言ったのは君」
確かにそうですがー!と左手で頭を抱える上条へ、一歩、また一歩と執行人が歩み寄っていく。
「ふーん。そうなんだ。ひょうかの時も思ったけど、やっぱりとうまってそうなんだね」
「ちょっと待てインデックス!やっぱりそうってどう言うぎゃーっ!!」
「ん?」
廊下を掃除している(実際に掃除しているのはロボットだが)舞夏の耳に聞きなれた絶叫と怒号が入ってくる。発生源は毎度お馴染み義兄の隣室だ。いつもの事なのでそのまま流す事にした。
廊下を掃除している(実際に掃除しているのはロボットだが)舞夏の耳に聞きなれた絶叫と怒号が入ってくる。発生源は毎度お馴染み義兄の隣室だ。いつもの事なのでそのまま流す事にした。
「話はよーくわかったんだよ」
上条の頭を思う存分齧ったあと、場所を玄関から部屋へ移して今度は詳しく経緯を聞いたインデックスの第一声はそれだった。三人は床のテーブルを囲んで座っており、そのテーブルの上では上条と姫神の手が相も変わらずしっかりと繋がっている。
「つまり今の今まで二人きりで遊んでたんだね」
その手をちょっと複雑な面持ちで見ながらインデックスはそう結論付けた。
「そっちかよ!いやちょっと待ってくださいインデックスさん立ち上がって歯をカチカチ鳴らすのはやめてー」
自分の左側から威嚇してくる白いシスターに向けて、上条は身を護る様に左手をかざす。
「それで。これからどうしたらいいのか聴きに来たんだけれど。どうかな」
そんな修羅場な空気はどこ吹く風、と言った感じで姫神がインデックスへ質問する。
「うーん、そうだね」
すとん、とその場に座りなおし、その小さな顎に右手の人差し指を当てて思案顔になるインデックス。
「正直な話、今すぐどうにかできる、て言う方法は無いかも。前にも言ったとおり、あいさのケルト十字は『歩く教会』から最低限の結界を保つ機能だけを抽出した特別な十字架だから。イギリスにならともかく、日本の教会に予備があるとは思えないんだよ。だから、もう一度同じ術式をその十字に施すか、イギリスから新しい十字を持って来させるか、位しか手は無いんじゃないかな」
少女の口から出てきた答に対し、上条はさらに質問を重ねる。
「それは最短でどの位かかる?」
「イギリスから持ってこさせるのなら二日三日はかかるかな。申請して即配給されるような品物じゃないし」
「なら、もう一度同じ結界を張ってもらうのは?」
「それも一概には答えは出せないよ。一番近いイギリス清教の教会にその儀式を執り行える術者がいれば、はっきり言って半日もあれば済んじゃうよ。でも、こんな極東の一教会にそんな術者が配備されるなんて酔狂な人事がなされる訳が無いから……」
「そんな不確かな手に頼るよりは持ってきてもらった方が早い……か?」
「だね」
と言って再びインデックスは立ち上がった。先ほどの続きか!?と上条はちょっと身構える。しかし、そんな上条には目を向けず、インデックスは姫神へと話しかける。その顔はどこか微妙に悲しそうだ。
「そう言う訳だから、あいさには悪いんだけど……」
そこまで聞いて、姫神も彼女が言わんとしている事を悟る。
「そうだね。いつまでもこうしている訳にもいかないし」
そう告げる姫神の顔も若干思い詰めた感じになっている。二人の表情の変化に、上条は戸惑う。
「うん。この学園都市に来た時だってずっとそういう状態だったんだし。二日三日くらいでやってくる。と言う事は無いかな」
インデックスと合わせていた視線を下へと向けて淡々と言葉を紡ぎながら、姫神はゆっくりと左手の力を緩めた。
「姫神!?」
突然の事に、上条は姫神の顔を覗きこむ。
「これ以上。上条君には迷惑を掛けられない」
「迷惑だ、何てこれっぽっちも思ってないぞ」
「とうまは迷惑に思わなくても、これからしばらくの間四六時中つきっきりだとあいさがかわいそうかも」
上条の即答に、インデックスが茶々を入れる。
「かわいそう、って言うのはどういう意味だ」
「言葉通りだよ。詳しく言っちゃうととうまが犯罪者になっちゃうから言わないけど」
「それこそどういう意味かっ!?」
ギャイギャイと言い争いを続ける二人へ、姫神が言葉を掛ける。
「君が迷惑に思っていなくても。私が迷惑をかけているのは事実だと思う。半日。たった半日だけだけど。一緒に行動しているだけで。君はいつも通りの行動が出来なかったのでは?」
例えば教室で。
例えば道中で。
例えばファミレスで。
そして、例えばこの部屋で。
「君の生活を阻害する気は無いから」
だからその手をはなして、と。
俯いたままでそう告げてくる姫神の頭を、上条は空いている左手で、
「てい」
スパーン、と。
軽くはたいた。
「……………………………………。痛い」
「あのなぁ姫神。こっちが迷惑じゃない、って言ってるんだ。そんなに思い詰める必要は無いんじゃないか?」
そもそも今回の件に対して、上条当麻には姫神秋沙に対して負い目を持っている。
教室で十字架を壊してしまった事や。
街中を散々引っ張り回してしまった事や。
白井への『吸血殺し』の説明を彼女にさせてしまった事や。
そして何より。
こうして『幻想殺し』を触れ続けさせている事で。
姫神に『吸血殺し』の存在を認識させ続けているのではないのだろうかと。
そう考えていたのだ。
「でも」
なおも言葉を連ねようとする姫神を、インデックスが制する
「言っても無駄かも、あいさ。こうなったらとうまは頑固だからね」
本当に困っちゃうよ、とインデックスが両肩を竦めて首を振る。
「じゃあ私は最寄のイギリス清教の教会に渡りをつけてみるからちょっとまってて欲しいんだよ」
と言って、そのまま部屋から出て行くべく歩き出した。
「あ、おいインデックス。俺たちも一緒に行った方が良いんじゃないのか」
その背中に上条が質問を投げかける。その問を聞いて振り返るインデックス。半眼で睨むような顔を向けてくるシスターに、上条は思わず一歩下がる。
「…………流石にずっと見ているのは我慢がならないかも」
「?」
よくわからない、と言った風に上条は首を傾げる。
「どういう意味なんだ?」
「君って。つくづく。…………私からは。説明できない」
姫神に水を向けても、はっきりと答えてはくれない。
未だにわかってない上条からむくれたままこちらを向いているインデックスへと視線を移し、
「……大変だね」
「うん、最近は特に大変かも」
そう答えた白い修道女に、巫女服の魔法使いは今までで一番の親近感を覚えた。
上条の頭を思う存分齧ったあと、場所を玄関から部屋へ移して今度は詳しく経緯を聞いたインデックスの第一声はそれだった。三人は床のテーブルを囲んで座っており、そのテーブルの上では上条と姫神の手が相も変わらずしっかりと繋がっている。
「つまり今の今まで二人きりで遊んでたんだね」
その手をちょっと複雑な面持ちで見ながらインデックスはそう結論付けた。
「そっちかよ!いやちょっと待ってくださいインデックスさん立ち上がって歯をカチカチ鳴らすのはやめてー」
自分の左側から威嚇してくる白いシスターに向けて、上条は身を護る様に左手をかざす。
「それで。これからどうしたらいいのか聴きに来たんだけれど。どうかな」
そんな修羅場な空気はどこ吹く風、と言った感じで姫神がインデックスへ質問する。
「うーん、そうだね」
すとん、とその場に座りなおし、その小さな顎に右手の人差し指を当てて思案顔になるインデックス。
「正直な話、今すぐどうにかできる、て言う方法は無いかも。前にも言ったとおり、あいさのケルト十字は『歩く教会』から最低限の結界を保つ機能だけを抽出した特別な十字架だから。イギリスにならともかく、日本の教会に予備があるとは思えないんだよ。だから、もう一度同じ術式をその十字に施すか、イギリスから新しい十字を持って来させるか、位しか手は無いんじゃないかな」
少女の口から出てきた答に対し、上条はさらに質問を重ねる。
「それは最短でどの位かかる?」
「イギリスから持ってこさせるのなら二日三日はかかるかな。申請して即配給されるような品物じゃないし」
「なら、もう一度同じ結界を張ってもらうのは?」
「それも一概には答えは出せないよ。一番近いイギリス清教の教会にその儀式を執り行える術者がいれば、はっきり言って半日もあれば済んじゃうよ。でも、こんな極東の一教会にそんな術者が配備されるなんて酔狂な人事がなされる訳が無いから……」
「そんな不確かな手に頼るよりは持ってきてもらった方が早い……か?」
「だね」
と言って再びインデックスは立ち上がった。先ほどの続きか!?と上条はちょっと身構える。しかし、そんな上条には目を向けず、インデックスは姫神へと話しかける。その顔はどこか微妙に悲しそうだ。
「そう言う訳だから、あいさには悪いんだけど……」
そこまで聞いて、姫神も彼女が言わんとしている事を悟る。
「そうだね。いつまでもこうしている訳にもいかないし」
そう告げる姫神の顔も若干思い詰めた感じになっている。二人の表情の変化に、上条は戸惑う。
「うん。この学園都市に来た時だってずっとそういう状態だったんだし。二日三日くらいでやってくる。と言う事は無いかな」
インデックスと合わせていた視線を下へと向けて淡々と言葉を紡ぎながら、姫神はゆっくりと左手の力を緩めた。
「姫神!?」
突然の事に、上条は姫神の顔を覗きこむ。
「これ以上。上条君には迷惑を掛けられない」
「迷惑だ、何てこれっぽっちも思ってないぞ」
「とうまは迷惑に思わなくても、これからしばらくの間四六時中つきっきりだとあいさがかわいそうかも」
上条の即答に、インデックスが茶々を入れる。
「かわいそう、って言うのはどういう意味だ」
「言葉通りだよ。詳しく言っちゃうととうまが犯罪者になっちゃうから言わないけど」
「それこそどういう意味かっ!?」
ギャイギャイと言い争いを続ける二人へ、姫神が言葉を掛ける。
「君が迷惑に思っていなくても。私が迷惑をかけているのは事実だと思う。半日。たった半日だけだけど。一緒に行動しているだけで。君はいつも通りの行動が出来なかったのでは?」
例えば教室で。
例えば道中で。
例えばファミレスで。
そして、例えばこの部屋で。
「君の生活を阻害する気は無いから」
だからその手をはなして、と。
俯いたままでそう告げてくる姫神の頭を、上条は空いている左手で、
「てい」
スパーン、と。
軽くはたいた。
「……………………………………。痛い」
「あのなぁ姫神。こっちが迷惑じゃない、って言ってるんだ。そんなに思い詰める必要は無いんじゃないか?」
そもそも今回の件に対して、上条当麻には姫神秋沙に対して負い目を持っている。
教室で十字架を壊してしまった事や。
街中を散々引っ張り回してしまった事や。
白井への『吸血殺し』の説明を彼女にさせてしまった事や。
そして何より。
こうして『幻想殺し』を触れ続けさせている事で。
姫神に『吸血殺し』の存在を認識させ続けているのではないのだろうかと。
そう考えていたのだ。
「でも」
なおも言葉を連ねようとする姫神を、インデックスが制する
「言っても無駄かも、あいさ。こうなったらとうまは頑固だからね」
本当に困っちゃうよ、とインデックスが両肩を竦めて首を振る。
「じゃあ私は最寄のイギリス清教の教会に渡りをつけてみるからちょっとまってて欲しいんだよ」
と言って、そのまま部屋から出て行くべく歩き出した。
「あ、おいインデックス。俺たちも一緒に行った方が良いんじゃないのか」
その背中に上条が質問を投げかける。その問を聞いて振り返るインデックス。半眼で睨むような顔を向けてくるシスターに、上条は思わず一歩下がる。
「…………流石にずっと見ているのは我慢がならないかも」
「?」
よくわからない、と言った風に上条は首を傾げる。
「どういう意味なんだ?」
「君って。つくづく。…………私からは。説明できない」
姫神に水を向けても、はっきりと答えてはくれない。
未だにわかってない上条からむくれたままこちらを向いているインデックスへと視線を移し、
「……大変だね」
「うん、最近は特に大変かも」
そう答えた白い修道女に、巫女服の魔法使いは今までで一番の親近感を覚えた。