とある世界の『空白少女』(ブランクガール)
■プロローグ
12月22日―東京、学園都市
暗闇に支配された路地裏の隙間を走り抜ける人影が一つ。
寿命が尽きたように明滅を繰り返す頼りない明かりの下で長い影が伸びる。
少し前から振り出した冷たい雨がアスファルトを叩く雨音の中でパシャパシャと音をさせる靴音だけが木霊する空間でハァハァと冷たい空気を振動させて聞こえる荒い息の主は時折背後を振り返りながら懸命にビルとビルの隙間を走る。
とっくの昔に閉店した中華料理店の勝手口脇に置かれた青いポリバケツが乱暴に弾き飛ばされ「ガランガラン」と大きな音を立てるが日付も変わろうといている今の時間この区画、ましては路地裏に人影は無い。
うっすらと差し込む月明かりに照らされる後ろ姿は細身の少女、若草色のブレザーに身を包んだその体を必死に動かして後方の何かから懸命に距離を取る。
狭い路地裏を走りぬけ奥へと進むたびに少女の足や手がさきほどのポリバケツのような障害物に当たって傷つくがそんなこともお構いなしだ。
少女が濡れたアスファルトを踏みしめる音とは別の音が暗闇に包まれた路地裏から響き、少女の視界が突如赤く染まった。
寿命が尽きたように明滅を繰り返す頼りない明かりの下で長い影が伸びる。
少し前から振り出した冷たい雨がアスファルトを叩く雨音の中でパシャパシャと音をさせる靴音だけが木霊する空間でハァハァと冷たい空気を振動させて聞こえる荒い息の主は時折背後を振り返りながら懸命にビルとビルの隙間を走る。
とっくの昔に閉店した中華料理店の勝手口脇に置かれた青いポリバケツが乱暴に弾き飛ばされ「ガランガラン」と大きな音を立てるが日付も変わろうといている今の時間この区画、ましては路地裏に人影は無い。
うっすらと差し込む月明かりに照らされる後ろ姿は細身の少女、若草色のブレザーに身を包んだその体を必死に動かして後方の何かから懸命に距離を取る。
狭い路地裏を走りぬけ奥へと進むたびに少女の足や手がさきほどのポリバケツのような障害物に当たって傷つくがそんなこともお構いなしだ。
少女が濡れたアスファルトを踏みしめる音とは別の音が暗闇に包まれた路地裏から響き、少女の視界が突如赤く染まった。
ゴゥッ!
路地裏の空気を膨張させ暗闇を切り裂いてオレンジ色の奔流は大気中の水分を蒸発させ狭い路地を焦がし少女へと迫る。
「ッ!?」
すんでのところで横合いの建物の影へと身を躍らせて路地裏を焼き尽くす赤い炎から逃れて少女はほっと胸を撫で下ろした。
炎の波が収まった後は焦げた匂いと共に大量の水蒸気で白く染まっている。
明滅する光が白い靄に触れて白く瞬き12月終盤の冷たい空気を吸い込んで少女の口から真っ白な息がその軌跡を示す。
むせ返るような水蒸気の向こうからコツコツと誰かの足音聞こえてくる。
規則正しく響く靴音は路地裏で聞くとこうも恐怖心を掻き立てるものなのか、と少女は震える足を強引に動かし立ち上がるとわたわたと周囲を見回した。
このあたりは廃棄されたビル等が集中しており昼間なら学園都市の時間割から外れた不良達の溜まり場と化している。
さすがに深夜のしかも雨の中では不良達だって部屋でのんびりしたいのだろう、助けを求めるような相手なんて見当たらない。
少女は自分の背後に聳え立つ廃ビルを認めると一瞬だけ迷ったあとにその暗がりへと駆け込む。
「ッ!?」
すんでのところで横合いの建物の影へと身を躍らせて路地裏を焼き尽くす赤い炎から逃れて少女はほっと胸を撫で下ろした。
炎の波が収まった後は焦げた匂いと共に大量の水蒸気で白く染まっている。
明滅する光が白い靄に触れて白く瞬き12月終盤の冷たい空気を吸い込んで少女の口から真っ白な息がその軌跡を示す。
むせ返るような水蒸気の向こうからコツコツと誰かの足音聞こえてくる。
規則正しく響く靴音は路地裏で聞くとこうも恐怖心を掻き立てるものなのか、と少女は震える足を強引に動かし立ち上がるとわたわたと周囲を見回した。
このあたりは廃棄されたビル等が集中しており昼間なら学園都市の時間割から外れた不良達の溜まり場と化している。
さすがに深夜のしかも雨の中では不良達だって部屋でのんびりしたいのだろう、助けを求めるような相手なんて見当たらない。
少女は自分の背後に聳え立つ廃ビルを認めると一瞬だけ迷ったあとにその暗がりへと駆け込む。
どうやら本当に廃棄されたビルのようだ、窓ガラスは割られ壁にはスプレーアートや頭の悪そうな文字が所狭しと描かれている。
鉄筋コンクリートで作られた灰色の壁は良く見ると細かいヒビが入っており老朽化の気配を漂わせていた。
少女は暗がりへと足を進めやがて大きな部屋へと辿り着いた。
キイキイと夜風にさらされ錆付いた音をさせる鉄製のドアが千切れかかった蝶番に支えられてかろうじて引っかかっていた。
外れかかったドアを乱暴に蹴っ飛ばして中に入り顔をしかめる。
月明かりが何もはまっていない窓枠から差し込んだ部屋の中央を照らしているがらんどうの部屋には普段ここでたむろしている不良達の出したものであろう空き缶や吸殻などと割れたガラスが散乱するだけでこの場所が以前何に使われていたのか判断する材料も無い。
「ッ!?、このッ」
少女は突然何かに反応するように革靴を履いた足を一閃させ背後へと回し蹴りを放ちしなやかに足が跳ね上がる。
振りぬく勢いで放たれた少女の脚は見事に少女の背後に迫っていた黒い影へと吸い込まれ、
「!?」
くぐもった息が吐き出される音と足に何かが当たった確かな感触が少女へ伝わる。
そしてまた「コツコツ」という足音が響く。
「[風紀委員](ジャッジメント) にこんな事をしてどうなると思ってるの!?」
暗闇へと言葉を投げる少女の顔は引きつった笑みを浮かべて左腕に装着された緑色の腕章を示す。
「つれない返事だなぁ、ボクは悲しいよ」
どこか感に触るような声が少女の耳へと飛び込んできた、男の声、それも随分と余裕がある。
ククク、と微笑を浮かべながら暗闇から姿を現したのは一人の少年。
白い学生服を着た少年は片手をポケットに突っ込んだ姿勢で少女を見てにっこりと笑顔を作ると言葉を放つ。
「安心して」と。
その言葉に少女が若干の安堵の表情が生まれた瞬間、少女の脳裏に「ぱちぱち」と言う音が聞こえ少女の意識は途切れ、
あっ――。
糸が切れた操り人形のように膝から順にゆっくりと体勢を変えドサリと埃まみれの床へと倒れる少女の姿が月明かりに照らされた。
鉄筋コンクリートで作られた灰色の壁は良く見ると細かいヒビが入っており老朽化の気配を漂わせていた。
少女は暗がりへと足を進めやがて大きな部屋へと辿り着いた。
キイキイと夜風にさらされ錆付いた音をさせる鉄製のドアが千切れかかった蝶番に支えられてかろうじて引っかかっていた。
外れかかったドアを乱暴に蹴っ飛ばして中に入り顔をしかめる。
月明かりが何もはまっていない窓枠から差し込んだ部屋の中央を照らしているがらんどうの部屋には普段ここでたむろしている不良達の出したものであろう空き缶や吸殻などと割れたガラスが散乱するだけでこの場所が以前何に使われていたのか判断する材料も無い。
「ッ!?、このッ」
少女は突然何かに反応するように革靴を履いた足を一閃させ背後へと回し蹴りを放ちしなやかに足が跳ね上がる。
振りぬく勢いで放たれた少女の脚は見事に少女の背後に迫っていた黒い影へと吸い込まれ、
「!?」
くぐもった息が吐き出される音と足に何かが当たった確かな感触が少女へ伝わる。
そしてまた「コツコツ」という足音が響く。
「[風紀委員](ジャッジメント) にこんな事をしてどうなると思ってるの!?」
暗闇へと言葉を投げる少女の顔は引きつった笑みを浮かべて左腕に装着された緑色の腕章を示す。
「つれない返事だなぁ、ボクは悲しいよ」
どこか感に触るような声が少女の耳へと飛び込んできた、男の声、それも随分と余裕がある。
ククク、と微笑を浮かべながら暗闇から姿を現したのは一人の少年。
白い学生服を着た少年は片手をポケットに突っ込んだ姿勢で少女を見てにっこりと笑顔を作ると言葉を放つ。
「安心して」と。
その言葉に少女が若干の安堵の表情が生まれた瞬間、少女の脳裏に「ぱちぱち」と言う音が聞こえ少女の意識は途切れ、
あっ――。
糸が切れた操り人形のように膝から順にゆっくりと体勢を変えドサリと埃まみれの床へと倒れる少女の姿が月明かりに照らされた。
汚れた床へと倒れ付す少女の左腕に付けられた緑色の[風紀委員](ジャッジメント) の腕章を丁寧に外し、
「うん―安心していいよ。 君はボクの目的に利用できそうだからね、」
既に聞く相手がいない舞台でアスファルトを叩く雨音をBGMに、月明かりが差し込んだ廃ビルの空き部屋の中央で倒れる少女を一瞥し少年は歪んだ笑いを浮かべた。
[12月23日―未明]
「うん―安心していいよ。 君はボクの目的に利用できそうだからね、」
既に聞く相手がいない舞台でアスファルトを叩く雨音をBGMに、月明かりが差し込んだ廃ビルの空き部屋の中央で倒れる少女を一瞥し少年は歪んだ笑いを浮かべた。
[12月23日―未明]