[2] Accelerator01―芳川桔梗の優雅な朝食
バターが塗られたこんがりトースト、ちょっと半熟な目玉焼きとカリカリのベーコン、そしてニンジンとレタスのサラダ。
割とありふれた洋食風の朝食の風景。
学園都市の教員用4LDKのマンションの一室の空気を和やかにさせる仄かに香る引き立てのコーヒーの
香りが優雅なブレックファーストを楽しむ―いや楽しみたい芳川桔梗の鼻腔をくすぐる。
「愛穂にしてはいい豆ね、貴方達もコーヒーでも飲んで一旦ソレ止めない?」
目の前のテーブルで広がる小規模戦闘を少し開けた目でちらりと覗き、当事者2名に提案する。
『やなこった』
当事者二名は芳川の好意的な提案を即座に却下した。
芳川はその返答を半ば予想していたので「あっそう」とだけ言うと求人情報が載っている雑誌に視線を移し
パラパラとめくるがやはりなかなか良い条件の就職は無い。
ひょい、ひょい、ひょい、ひょい。
器用に動かされる幼女の手に握られた二本の箸が高速でニンジンを隣の皿へと運ぶ。
隣とはつまり芳川の皿の事だ。
(この子達は本当に……)
いまだに徹底抗戦を続ける意思満々な目の前の二人はこの教員用4LDKの主である黄泉川愛穂の居候と化している。
「ヲイ、このクソガキ」
「ヘヘヘヘ、とミサカはミサカは不敵に笑ってみたり」
芳川桔梗は黄泉川愛穂とは結構長い仲である。
親友、そう呼んでも構わないと、少なくとも芳川はそう思っている。
彼女は普段から竹を割ったような性格をしているし何より面倒見が良い。
[一方通行](アクセラレーター)と[打ち止め](ラストオーダー)の学園都市屈指の問題児2名をもその異様なまでの
面倒見スキルを発揮し快く受け入れてしまった。
芳川はついでである。
1本でもにんじん、2本でも……。
とにかく芳川の前に置かれた皿はこんもりと盛られたオレンジ色の物体が占領していた。
[打ち止め](ラストオーダー)が自分の皿から芳川の皿へと移してるためだ。
黄泉川愛穂はなんでも今日が自分の勤める学校の終業式とかで朝早くから出かけてしまっているので今朝は3人しか居ない。
せわしなく動かされる幼女―[打ち止め](ラストオーダー)のオレンジ色の箸を少年の青い箸が迎撃し空中で「ガシィ」と交差する。
虚空をニンジンが舞う。
真っ白なテーブルクロスの上に落下したニンジンを芳川はひょいと指でつまんで自分の口へと運ぶ。
世の中には3秒ルールと言うものがあるのだ、だからこれはまだセーフ。
「ニンジン、おいしいわよ」
ちなみにこの朝食を作成したのは芳川でも黄泉川でも無く、食卓で暴れる2人のうちの一人の少年だ。
その少年を目だけ動かして見てみる。
どこか中性的な顔をした少年。
色素が抜けたかのような真っ白な髪の毛、白髪とはまた違っていた。
どちらかといえば銀髪に近いかもしれないが、肝心の少年自身が髪の手入れなどあまりしていないのかボサボサ感がある。
きっとキチンと手入れすればそれこそ輝くようなキューティクルが手に入るだろう。
(本人はやる気無さそうだけどね――)
そして次に特徴的なのは鋭い眼光を放つ目、まるで猛禽類のような残忍な光を讃えてるのが普通なのだが、いまはどっちかといえばウサギといったほうがピンと来る。
ちなみに少年の目が赤いのはニンジンの食べすぎでは無いとだけ言っておく。
少年の持つ超能力の影響というか副作用が原因なのだがその眼球は、鮮やかな深赤の色合いをしている。
好意的に表現するならガーネットあたりの宝石のように見えなくも無い。
だがそれよりは血の色、と言ったほうがしっくりは来る。
(まぁ最近は大分丸くなってるみたい)
少年は[一方通行](アクセラレーター)と呼ばれるこの学園都市で最強の超能力者(レベル5)、ある事件によって脳に傷害を負っているが
相方と化している10歳ぐらいの幼女の補助によりその昨日を補っている。
彼の首に装着されたチョーカーのような装置がそれだ。
[冥土返し]の医者曰く―演算補助デバイスというらしいが見た目にはチョーカーとポータブルプレイヤーにしか見えない。
割とありふれた洋食風の朝食の風景。
学園都市の教員用4LDKのマンションの一室の空気を和やかにさせる仄かに香る引き立てのコーヒーの
香りが優雅なブレックファーストを楽しむ―いや楽しみたい芳川桔梗の鼻腔をくすぐる。
「愛穂にしてはいい豆ね、貴方達もコーヒーでも飲んで一旦ソレ止めない?」
目の前のテーブルで広がる小規模戦闘を少し開けた目でちらりと覗き、当事者2名に提案する。
『やなこった』
当事者二名は芳川の好意的な提案を即座に却下した。
芳川はその返答を半ば予想していたので「あっそう」とだけ言うと求人情報が載っている雑誌に視線を移し
パラパラとめくるがやはりなかなか良い条件の就職は無い。
ひょい、ひょい、ひょい、ひょい。
器用に動かされる幼女の手に握られた二本の箸が高速でニンジンを隣の皿へと運ぶ。
隣とはつまり芳川の皿の事だ。
(この子達は本当に……)
いまだに徹底抗戦を続ける意思満々な目の前の二人はこの教員用4LDKの主である黄泉川愛穂の居候と化している。
「ヲイ、このクソガキ」
「ヘヘヘヘ、とミサカはミサカは不敵に笑ってみたり」
芳川桔梗は黄泉川愛穂とは結構長い仲である。
親友、そう呼んでも構わないと、少なくとも芳川はそう思っている。
彼女は普段から竹を割ったような性格をしているし何より面倒見が良い。
[一方通行](アクセラレーター)と[打ち止め](ラストオーダー)の学園都市屈指の問題児2名をもその異様なまでの
面倒見スキルを発揮し快く受け入れてしまった。
芳川はついでである。
1本でもにんじん、2本でも……。
とにかく芳川の前に置かれた皿はこんもりと盛られたオレンジ色の物体が占領していた。
[打ち止め](ラストオーダー)が自分の皿から芳川の皿へと移してるためだ。
黄泉川愛穂はなんでも今日が自分の勤める学校の終業式とかで朝早くから出かけてしまっているので今朝は3人しか居ない。
せわしなく動かされる幼女―[打ち止め](ラストオーダー)のオレンジ色の箸を少年の青い箸が迎撃し空中で「ガシィ」と交差する。
虚空をニンジンが舞う。
真っ白なテーブルクロスの上に落下したニンジンを芳川はひょいと指でつまんで自分の口へと運ぶ。
世の中には3秒ルールと言うものがあるのだ、だからこれはまだセーフ。
「ニンジン、おいしいわよ」
ちなみにこの朝食を作成したのは芳川でも黄泉川でも無く、食卓で暴れる2人のうちの一人の少年だ。
その少年を目だけ動かして見てみる。
どこか中性的な顔をした少年。
色素が抜けたかのような真っ白な髪の毛、白髪とはまた違っていた。
どちらかといえば銀髪に近いかもしれないが、肝心の少年自身が髪の手入れなどあまりしていないのかボサボサ感がある。
きっとキチンと手入れすればそれこそ輝くようなキューティクルが手に入るだろう。
(本人はやる気無さそうだけどね――)
そして次に特徴的なのは鋭い眼光を放つ目、まるで猛禽類のような残忍な光を讃えてるのが普通なのだが、いまはどっちかといえばウサギといったほうがピンと来る。
ちなみに少年の目が赤いのはニンジンの食べすぎでは無いとだけ言っておく。
少年の持つ超能力の影響というか副作用が原因なのだがその眼球は、鮮やかな深赤の色合いをしている。
好意的に表現するならガーネットあたりの宝石のように見えなくも無い。
だがそれよりは血の色、と言ったほうがしっくりは来る。
(まぁ最近は大分丸くなってるみたい)
少年は[一方通行](アクセラレーター)と呼ばれるこの学園都市で最強の超能力者(レベル5)、ある事件によって脳に傷害を負っているが
相方と化している10歳ぐらいの幼女の補助によりその昨日を補っている。
彼の首に装着されたチョーカーのような装置がそれだ。
[冥土返し]の医者曰く―演算補助デバイスというらしいが見た目にはチョーカーとポータブルプレイヤーにしか見えない。
今の彼は青いチェック柄のエプロンをつけ頭にも同色のバンダナが巻かれている。
おさんどんスタイルというやつだ。
意外にも結構似合っているので余計におかしい。
「ム、ムムム、お願いだから箸をどけて欲しいかも、とミサカはミサカは悲痛な願いを口にしてみる」
「断るッ」
激しい鍔迫り合いで両者の間に火花が飛び交い、ギギギギギギ、と交差した箸と箸が耳障りな音を立てる。
「行儀、わるいわよ、二人とも」
一応年長者の務めとばかりに注意しても
「ニンジンだけより分けるんじャネェよ、ニンジン食え、ニンジン。 カリカリと生のままかじッてろ!」
「だが断る、とミサカはミサカは奇妙な冒険が好きな某人気漫画家の先生の真似とかしてみたりする」
わんぱくすぎる二人は聞こうともしない。
諦め気味にTVのリモコンを操作して朝のニュースを映すと若い男のニュースキャスターが
最近学園都市で起こっている事件の事を報道していた。
「失踪事件ねぇ……」
先月の終盤あたりにまず一件、そして今月の初めに一件。 1週間ぐらい前に一件、どれも突然何も告げずに姿を消してしまうのだ、
普通ならそのまま行方不明になるのだが、この事件の被害者は何故か数日後にひょっこりと街を歩いてるところを発見されたりしている。
ただ、いままでどこに居たのかはまるで覚えておらず、軽い記憶障害を起こしている事と被害者が全て女子というのが共通点だ。
特に暴行された形跡も無く大した事件にはなってないがそれでも連続して起こればそれなりに報道機関の目を集めるのだろう。
丁度テレビには被害者の女の子の友人のコメントなどが流れていた。
『ええ、どこに居たのかとか聞いても、そう……とか、わかった……とか気力の無い言葉ばかり返ってくるんです』
『戻ってきてからボーっとしてる事が多くなった気がする』
どれもありきたりなコメントばかりで目を挽く物は無い。
芳川は嘆息するとリモコンを操作して別の番組へとチャンネルを変えた。
おさんどんスタイルというやつだ。
意外にも結構似合っているので余計におかしい。
「ム、ムムム、お願いだから箸をどけて欲しいかも、とミサカはミサカは悲痛な願いを口にしてみる」
「断るッ」
激しい鍔迫り合いで両者の間に火花が飛び交い、ギギギギギギ、と交差した箸と箸が耳障りな音を立てる。
「行儀、わるいわよ、二人とも」
一応年長者の務めとばかりに注意しても
「ニンジンだけより分けるんじャネェよ、ニンジン食え、ニンジン。 カリカリと生のままかじッてろ!」
「だが断る、とミサカはミサカは奇妙な冒険が好きな某人気漫画家の先生の真似とかしてみたりする」
わんぱくすぎる二人は聞こうともしない。
諦め気味にTVのリモコンを操作して朝のニュースを映すと若い男のニュースキャスターが
最近学園都市で起こっている事件の事を報道していた。
「失踪事件ねぇ……」
先月の終盤あたりにまず一件、そして今月の初めに一件。 1週間ぐらい前に一件、どれも突然何も告げずに姿を消してしまうのだ、
普通ならそのまま行方不明になるのだが、この事件の被害者は何故か数日後にひょっこりと街を歩いてるところを発見されたりしている。
ただ、いままでどこに居たのかはまるで覚えておらず、軽い記憶障害を起こしている事と被害者が全て女子というのが共通点だ。
特に暴行された形跡も無く大した事件にはなってないがそれでも連続して起こればそれなりに報道機関の目を集めるのだろう。
丁度テレビには被害者の女の子の友人のコメントなどが流れていた。
『ええ、どこに居たのかとか聞いても、そう……とか、わかった……とか気力の無い言葉ばかり返ってくるんです』
『戻ってきてからボーっとしてる事が多くなった気がする』
どれもありきたりなコメントばかりで目を挽く物は無い。
芳川は嘆息するとリモコンを操作して別の番組へとチャンネルを変えた。
さて一方通行の猛攻をひらりとかわす幼女はといえば、そのオレンジがかった髪の毛を揺らし、彼をおちょくりまくっている。
見た目10歳児の幼女、彼女は御坂美琴と同一のDNAマップを元にして作成された[妹達]が形成する
擬似ネットワーク[ミサカネットワーク]
それを束ねる上位個体だ。
個体名は[打ち止め](ラストオーダー)、20001人目の[妹達]でもある。
あどけない顔を今は「ぷくー」と膨らまして一方通行に対して「ニンジンいらないよ」などとどこかの士官学校の
パイロットのような台詞を吐いている。
あまり品の良くない笑みを浮かべた一方通行が銀色のトングを使ってたっぷりとオレンジ色の物体を彼女の皿へと盛り付ける。
どうやら相方のガキンチョ様も一歩も譲る気は無いようで懲りずに芳川の皿へとニンジンを転送する。
「このクソガキが。 お子様はニンジン食べてすくすく育ちやがれ」
右手でオレンジの箸と銀色のトングでドッグファイトを繰り広げながら、一方通行は左手に持った2本目のトングで
芳川の皿にこんもりと乗ったニンジンをガシッ!と掴むと、
「四の五の言わずに食えッ!食いまくれッ!そして寝ろッ!!」
オレンジ色の物体を銀色のトングから射出した。
「がーんっ! ニンジンいらないって言ったのにッ! アナタの目が赤いのはきっとニンジンの食べすぎが原因
に決定、とミサカはミサカは新たな新事実をミサカネットワークに流出してみたりする!がしがし」
幼女がせっせと寄り分ける先からどんどんニンジンが追加されていく。
一方通行→[打ち止め](ラストオーダー)→芳川→一方通行といった図式の綺麗な円運動が出来ているようだ。
完全循環、そんな言葉が芳川の脳裏を掠めた。
「入れすぎじゃないの?それ」
うっすら涙目になりつつある[打ち止め](ラストオーダー)を見かねて少しだけ助け舟を出してやることにした。
[打ち止め](ラストオーダー)の皿はもはやオレンジ以外の色を探すほうが困難なぐらいオレンジ色に染まっている。
「はッ、お子様にはこれぐらいカロチンを摂取させたほうがいいンだよッ」
彼は青いエプロン姿で胸を張って正当性を主張している。
「ブーブーッ、ってミサカはミサカは横暴な貴方に断然抗議してみたりする」
「やかましい、クソガキが一丁前に好き嫌いすンじャネェよ」
もはやニンジンしか見えないくらいに山盛りのニンジンサラダをせっせと別の皿へとより分ける[打ち止め](ラストオーダー)。
なんていうか……健気だ。
程なくして[打ち止め](ラストオーダー)のサラダの皿から綺麗にオレンジ色が消えうせた。
消えうせた分のオレンジはそっくりそのまま芳川の皿へ。
その様子を腕を体の前で組んで見守っていた一方通行の腕がゆらりと解かれ、その赤い瞳が猛禽類の光を宿す。
獲物を狙う鷹の目、口元は残忍な形にゆがんでいる。
なんでこの子はこんな表情ばっかり上手いのだろうか……。
「やめときなさいよ……」
芳川の忠告などお構いなしだ。
彼は躊躇する仕草すら見せない。
代わりに「なにを言ッてるンだァ?」とでも言いたそうな顔をこちらへ向けてくる。
とりあえず芳川は右手を横にひらひらと振って「もういい」と意思表示する。
ともかく、一方通行の手が動いた。残像すら残るぐらい高速で右手に持った銀色のトングが閃く、そして、
「待ッていたンだよッ、この時をなァ!」
芝居掛かった動きで一閃、トングは芳川の皿により分けられたオレンジ色の物体を根こそぎ掻っ攫い頭上高く掲げあげる。
「はぅ!? そ、それで何をする気なの……びくびく、とミサカはミサカは邪悪な真性Sな貴方を見ながら恐怖で怯えてみたり」
一方通行はゆっくりと[打ち止め](ラストオーダー)の皿の上に移動して停止した。
まるで原作3巻のラストバトルのワンシーンようだ。
今回集めたのはニンジンだけど。
[打ち止め](ラストオーダー)を見下ろす彼の目は悪ガキの目になっていて、心なしかなんだか楽しそうにも見える。
「投下」
パッ、銀色のトングがカパンと開いて挟んでいたオレンジ色の物体を真下へと投下した。
「ニンジンきらーい、ミサカバリヤーってミサカはミサカは鉄壁防御を敷いてみる」
飛来するオレンジ色の物体を左手に持った別の取り皿で防御するちびっ子。 にんまりとした笑顔で彼を下から見上げる。
「はっはっは、片腹痛いなぁ、もうお終いかなー、とミサカはミサカはアナタに勝利間近」
ぺし☆、銀色のトングが[打ち止め](ラストオーダー)の持つ取り皿の軽くはたいた。
「あ!?」
かくしてニンジンは重力に従って本来の到達予定地点へと到達を果たす。
したり顔の少年とわなわなと肩を震わせる幼女の視線が再び交錯し激しい火花を散らした。
数瞬の後、何度目かのニンジン戦争が勃発したのは言うまでも無い。
「だから行儀悪いわよ二人とも……」
どちゃあ、飛び交うニンジンと吹き飛ぶお皿の中、芳川桔梗が呆れた顔をして口を開いた。
「一方通行(アクセラレーター)、[打ち止め](ラストオーダー)、食べ物で遊ばないの。 ……はぁ、聞いてないわね」
二人の戦いはまったくの互角で双方ともに士気旺盛、これは長くなりそうだ。
ようやく諦めた芳川はしばらくその戦いを見て「やれやれ」と肩を竦めると食後のコーヒーを口に運んだ。
[12月23日―AM7:40]
見た目10歳児の幼女、彼女は御坂美琴と同一のDNAマップを元にして作成された[妹達]が形成する
擬似ネットワーク[ミサカネットワーク]
それを束ねる上位個体だ。
個体名は[打ち止め](ラストオーダー)、20001人目の[妹達]でもある。
あどけない顔を今は「ぷくー」と膨らまして一方通行に対して「ニンジンいらないよ」などとどこかの士官学校の
パイロットのような台詞を吐いている。
あまり品の良くない笑みを浮かべた一方通行が銀色のトングを使ってたっぷりとオレンジ色の物体を彼女の皿へと盛り付ける。
どうやら相方のガキンチョ様も一歩も譲る気は無いようで懲りずに芳川の皿へとニンジンを転送する。
「このクソガキが。 お子様はニンジン食べてすくすく育ちやがれ」
右手でオレンジの箸と銀色のトングでドッグファイトを繰り広げながら、一方通行は左手に持った2本目のトングで
芳川の皿にこんもりと乗ったニンジンをガシッ!と掴むと、
「四の五の言わずに食えッ!食いまくれッ!そして寝ろッ!!」
オレンジ色の物体を銀色のトングから射出した。
「がーんっ! ニンジンいらないって言ったのにッ! アナタの目が赤いのはきっとニンジンの食べすぎが原因
に決定、とミサカはミサカは新たな新事実をミサカネットワークに流出してみたりする!がしがし」
幼女がせっせと寄り分ける先からどんどんニンジンが追加されていく。
一方通行→[打ち止め](ラストオーダー)→芳川→一方通行といった図式の綺麗な円運動が出来ているようだ。
完全循環、そんな言葉が芳川の脳裏を掠めた。
「入れすぎじゃないの?それ」
うっすら涙目になりつつある[打ち止め](ラストオーダー)を見かねて少しだけ助け舟を出してやることにした。
[打ち止め](ラストオーダー)の皿はもはやオレンジ以外の色を探すほうが困難なぐらいオレンジ色に染まっている。
「はッ、お子様にはこれぐらいカロチンを摂取させたほうがいいンだよッ」
彼は青いエプロン姿で胸を張って正当性を主張している。
「ブーブーッ、ってミサカはミサカは横暴な貴方に断然抗議してみたりする」
「やかましい、クソガキが一丁前に好き嫌いすンじャネェよ」
もはやニンジンしか見えないくらいに山盛りのニンジンサラダをせっせと別の皿へとより分ける[打ち止め](ラストオーダー)。
なんていうか……健気だ。
程なくして[打ち止め](ラストオーダー)のサラダの皿から綺麗にオレンジ色が消えうせた。
消えうせた分のオレンジはそっくりそのまま芳川の皿へ。
その様子を腕を体の前で組んで見守っていた一方通行の腕がゆらりと解かれ、その赤い瞳が猛禽類の光を宿す。
獲物を狙う鷹の目、口元は残忍な形にゆがんでいる。
なんでこの子はこんな表情ばっかり上手いのだろうか……。
「やめときなさいよ……」
芳川の忠告などお構いなしだ。
彼は躊躇する仕草すら見せない。
代わりに「なにを言ッてるンだァ?」とでも言いたそうな顔をこちらへ向けてくる。
とりあえず芳川は右手を横にひらひらと振って「もういい」と意思表示する。
ともかく、一方通行の手が動いた。残像すら残るぐらい高速で右手に持った銀色のトングが閃く、そして、
「待ッていたンだよッ、この時をなァ!」
芝居掛かった動きで一閃、トングは芳川の皿により分けられたオレンジ色の物体を根こそぎ掻っ攫い頭上高く掲げあげる。
「はぅ!? そ、それで何をする気なの……びくびく、とミサカはミサカは邪悪な真性Sな貴方を見ながら恐怖で怯えてみたり」
一方通行はゆっくりと[打ち止め](ラストオーダー)の皿の上に移動して停止した。
まるで原作3巻のラストバトルのワンシーンようだ。
今回集めたのはニンジンだけど。
[打ち止め](ラストオーダー)を見下ろす彼の目は悪ガキの目になっていて、心なしかなんだか楽しそうにも見える。
「投下」
パッ、銀色のトングがカパンと開いて挟んでいたオレンジ色の物体を真下へと投下した。
「ニンジンきらーい、ミサカバリヤーってミサカはミサカは鉄壁防御を敷いてみる」
飛来するオレンジ色の物体を左手に持った別の取り皿で防御するちびっ子。 にんまりとした笑顔で彼を下から見上げる。
「はっはっは、片腹痛いなぁ、もうお終いかなー、とミサカはミサカはアナタに勝利間近」
ぺし☆、銀色のトングが[打ち止め](ラストオーダー)の持つ取り皿の軽くはたいた。
「あ!?」
かくしてニンジンは重力に従って本来の到達予定地点へと到達を果たす。
したり顔の少年とわなわなと肩を震わせる幼女の視線が再び交錯し激しい火花を散らした。
数瞬の後、何度目かのニンジン戦争が勃発したのは言うまでも無い。
「だから行儀悪いわよ二人とも……」
どちゃあ、飛び交うニンジンと吹き飛ぶお皿の中、芳川桔梗が呆れた顔をして口を開いた。
「一方通行(アクセラレーター)、[打ち止め](ラストオーダー)、食べ物で遊ばないの。 ……はぁ、聞いてないわね」
二人の戦いはまったくの互角で双方ともに士気旺盛、これは長くなりそうだ。
ようやく諦めた芳川はしばらくその戦いを見て「やれやれ」と肩を竦めると食後のコーヒーを口に運んだ。
[12月23日―AM7:40]