とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

第一幕-6

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[6] Accelerator02―結標淡希の一番長い一日 その1

 街を歩けば人ごみ、人ごみ、人ごみ、見渡す限りの人ごみだ。 
 見ろ人間がゴミの様だ――、そんな悪役の台詞まで浮かんでくる。
 絶対言わないけど。
「だるぅ……」
 せわしなく行きかう人ごみに紛れて栗色の髪の毛が力なく頭を垂れる。
 クリスマスイヴを翌日に控えた商店街はクリスマスソングと人で溢れていた。
 むしろ溢れすぎ。
「人ごみとか……苦手だわ、やっぱり」
 疲れた顔をした少女がやさぐれた口調で呟くのは長い髪を首の後ろで無造作に二本に束ねた少女。
 少女の名前は結標淡希(むすじめ あわき)、私立霧ヶ丘女学院の二年生である大能力者(レベル4)だ。
 整った作りの綺麗な顔はなんだか疲労の色が濃く表れていて肩に引っ掛けた紺色の制服が哀愁に靡く。
 どんよりオーラを撒き散らす結標の格好は12月の終盤に差し掛かった冷たい外気で過ごすには少し寒そうなカッコをしていた。
 霧ヶ丘女学院指定の紺色のブレザーの上着を袖を通さずに羽織り、ボタンも留めていない。
 胸から上だけのぴったりとしたちびTだけをつけおへその辺りは大胆に露出されている。
 そして細くくびれた腰に紺色のスカートは本来の長さから随分と短く改造されており結標の美しい脚線美は惜しげも無く晒されている。
 足元は茶色のローファーにスニーカーインタイプの靴下、露出度は結構高め。
「寒いのは我慢できるけどカッコ悪いのは我慢できない」
 というのが彼女の意見。
 彼女のトレードマークとなっている金属製のベルトは革製の普通の細いベルトに差し替えられ、警棒としても使える長い懐中電灯は
今は持っていない。
 本人曰く、あれ、結構重たいからさ、スカートずれてくるのよねアレ付けてると――、だそうだ。

 さて話を戻して彼女が商店街なんかにいるかと言えば、
「買出しめんど……」
 説明する前に分かりやすい台詞ありがとう、結標さん。
 彼女は普通にお買い物に来ただけだった。
 この人が登場する事事態があんまり普通では無いのはスルーの方向で行きたいね、是非。


 正直言って外出することも随分と久しぶりだ、と結標淡希は思う。 
 以前から外出の回数は少なかったが残骸事件以来、更に回数が減った。
 事件の主犯格としての責任を取らされ結標淡希は霧ヶ丘女学院からは留学扱いにされてしまい事実上の無期停学処分となっている。
 様は現在自宅謹慎中。
 堂々と外出してるけど、咎められたりしないのは彼女のバックの人物の取り計らい故か。
 それでもしばらくは膝を抱えながら部屋に閉じこもる荒んだ日が続いた。
 ストレスが原因で体重が5kgも減ったときは複雑な気分だった。
 嬉しいやら悲しいやらわからないし、何をするにも気力も沸かなかった。
 でも部屋に引きこもるにしても当然食料がいるわけで結標はマンションに一人暮らし、当然食料が無くなれば
買出しに出かけないといけない。
 必然的に人ごみが嫌いな彼女でも週に一回ぐらいはこうして商店街に買出しに出かけるのだ。
 気楽な一人暮らしの反面、家事も自分でやらなければならない。
 そんな生活を続けるうち結標の精神はだんだんと安定を見せていて事件前と同じぐらいには元気になったのである。
 しかし統括理事長からの不定期な呼び出しもあったりするし買い物に行ける時に行かないと
現在、彼女の部屋の冷蔵庫にはろくなものが残ってないのだ。 
 主に紅しょうがと練りからししか入ってない、あとバター。
「牛乳とトイレットペーパーと……ああ、あと……」
 手元の紙片に目を移しながら買わなければならないものを要チェキする結標。
 意外にもマメだ。
 来る前から事前に広告を見て目当ての商品に目星をつけている辺りが特に。
 今日はタマゴの特売日、お一人様一パックまでだが是非ゲットしたい、1パック70円は脅威的な安さだ。
 そしてその特売をやってるお店はすぐそこの角を曲がってすぐ、このまま歩いても5分とかからない距離だ。
 自然と足取りは軽くなり、速度も上がる。
「さて、ちゃちゃっと買い物を済ませて再放送のアニメでも……きゃ」
 メモ帳に視線を落としスタスタ歩く結標。
「む……」
 ドン!と丁度角を曲がったところで誰かにぶつかってしまい、結標は悲鳴をあげ弾き飛ばされ尻餅をついてしまった。
「……ちっ」
 あからさまな舌打ちをして結標を見下ろすのは長身の男性。
 結標と同い年かそれ以上、彼の姿はそう見えた。
 少年ぽさを残しつつもどこか冷ややかな雰囲気を残す顔立ち。
 漆黒の髪と瞳、純白の詰襟の学生服。
 そして左腕に付けられた”緑色の腕章”
([風紀委員]?)
 その双眸が宿すのは明らかな侮蔑。
(こいつ……ムカツクわね)
 というのが結標が少年に抱いた第一印象。
「……フン。 目が付いているのならキチンと前方を目視して歩くんだね」
 どうやら第一印象で正解のようだ。
 左手をポケットに突っ込んだままの少年は悪びれもせず言い放つ。
(普通は謝るなり起こすなりするもんでしょう!)
 結標の怒りゲージが全開フルスロットルで一気にレッドゾーンまで突入した。
「アンタね――」
 だが結標の声を遮って遥か高みから見下ろすような視線で少年は告げる。
「まぁ一応は謝罪をしておこうか。 すまなかった」
 言うだけ言うと白い学生服の少年は足早に立ち去ってしまい、その後ろ姿は雑踏の中に消えていく。 
 誰も起こしてくれないので仕方なく自力で立ち上がり制服に付いた汚れを乱暴に叩いて結標淡希は愚痴をこぼした。
「[風紀委員]はやっぱりいけ好かない連中が多いわねぇ、白井黒子とか白井黒子とか!!」
 むかついたのでとりあえず地面をダンダンと踏みつけてやった。



 それから約5分後―。
 結標は目的のスーパーにたどり着くとそのまま「よし!」と気合を入れて勢いよく店内へと入り
詰まれた黄色い買い物かごを手に取った。
 自動ドアをくぐりオレンジ系の照明に明るく照らされた店内をぐるりと見回し、入り口付近に積み上げてあった
安売りのトイレットペーパーを見て少し悩み、「エイヤ!」と結標の身長より遥かに高く詰まれたトイレットペーパーのパックを
[座標移動](ムーブポイント)し手元に持ってくる。
 こういうときは死ぬほど便利な能力だな[座標移動](ムーブポイント)って。
 これがもし白井黒子だったなら、自分自身を一旦上へ[空間移動](テレポート)させなければならないだろうが、それ以前に
彼女は特売のトイレットペーパー等買いに来そうにも無いがそれは言わないほうがいいだろう。
 大体踏み台を使えばいい話でもあった。
 肝心の踏み台はお約束で彼女から見えない位置に放置されているのだけれど仕方の無い事だ。
 ブラブラと店内を歩き回った結標は遂に目的でもある1パック70円お一人様一つ限りの卵のコーナーを見つけた。
 卵のパックを一つ手にとって小さくガッツポーズ。
 意外に庶民派だこの人も。
 この作品の中だけだけど。

 二度ある事は三度ある。 
 昔の諺にはそんなのがあった。
 主に失敗をしたときやびっくりするような事に遭遇したときによく引用されるが今回もそんな感じだった。
 実際には2回目なのだが今回だけ見逃して欲しい。
 ドンッ! 結標の背中に誰かがぶつかって彼女は大きく前へとつんのめってしまい、手に持った卵のパックがふわりと宙を舞う。
 この時誰もが思っただろう、「ああ、この卵割れるな」とか「あちゃー、やっちゃった」とかとか。
 確かに普通の人間がこの事態に直面した場合はそういう結果に終るのがそれこそ普通だろう。
 だが彼女―結標淡希は生憎と『普通』じゃなかった。
 極度の集中で色が無くなってスローモーションになった世界で結標の思考は普段の何十倍の速度で飛び交う。
思考開始―。

思考1、目標物と床までの距離およそ1m
思考2、目標物の予想滞空時間0,7秒弱
思考3、自分と目標物までの距離約50cm、但し自分は大きく体勢を崩している。 自分の手で落下を阻止するのは不可能。
思考4、[座標移動](ムーブポイント)によって落下までの時間で目標物を確保、完了まで約0,3秒

思考完了―。
 その瞳を空中の卵のパックへと集中し瞬時に複雑な計算式を組み上げ、本来3次元にある卵のパックの座標を自分だけの法則に則って
高速で11次元の座標へと変換していく。
 OK!充分まにあ――。
 しかし、卵のパックが[座標移動](ムーブポイント)することは無かった。
 彼女の名誉の為に言っておくが決して彼女の計算が間に合わなかったわけではない。
 能力を発動させる必要が無くなったのだ。
 横合いから伸びた誰かの手が空中の卵パックをキャッチしていたのだから。

「おッと、最近のスーパーは物騒だな、ヲイ」
 卵をキャッチした相手は「ほらよ」と卵パックを前のめりの体勢になって固まる結標へと放り投げてきた。
「わ、わわわ」
 結標は放り投げられた卵パックの縁を両手でつまんで膝を使ってその衝撃を吸収する。
 セーフ、割れていない――。
「おーおー、よく割らなかッたな。 んッ、お前どッかで……」
 まったく、卵を投げないで欲しい、って私も人の事言えないけど――。
 その言葉をぐぐっと呑み込んでお礼を言おうとその人物へと向き直って結標淡希の世界は本日2回目だが色を失った。
「ありが…うわッ!?なんでアンタがここに!?」
 今日の占いカウントダウンで私の運勢は確か……今日は意外な人物と再会するかも!?だったっけ。
 当たってるわよ、それ――。
 もう二度とその番組を見ることも無いだろうがその結果を出した占い師に心の中で八つ当たりしつつ、
「おお、思い出したぞ、お前あんときの三下か」
 そんな言葉を聞いた。
 だから外出って嫌いだ――、と結標はその整った顔を劇画調に固めて今日の不運を呪った。
 何故なら結標淡希の会いたくない人ランキングワースト2位以下をぶっちぎりで引き離して堂々1位の人物がそこに居たから。

 つまり学園最強の能力者、一方通行がそこに立っていた。


 お昼前と言うこともあって大いに賑わうスーパーを灰色のショッピングカートが進む。
 滑らかに走るショッピングカートに載せられた黄色い買い物カゴの中身はそろそろ満タンになりそうだった。
「三下、次はニンジンだ」
 傍らを歩く白い少年が指示するまま結標はカートの方向を変える。 
「ねぇ……なんでこうなるの?」
 その綺麗な顔をどんよりと暗く染め、背景をベタ塗りで黒一色に塗り上げた結標が誰とは無しに呟く。 
「あン? さっき説明しただろうがよ」
 別にアンタに聞いてないわよ――、結標はその言葉を呑み込んだ。
 だって死ぬから、マジで。
「ああ、それね……なんだっけ、ニンジン嫌いな子供が食べれる料理を教えて欲しいってやつね……」
 不幸にもスーパーで一方通行と遭遇してしまった結標は、いつの間にか一方通行に料理を教える事になってしまった。
 現在進行形で材料の買出し中である。
 この場合本人の意思は尊重されていない。
 一応どうしてこうなったか回想しておこう。

~回想シーン~
 固まる結標が復活するにはそう時間は掛からなかった。
 白い少年が結標の額へとその指先をくっつけてきたからである。
「ひゃぁ、ゴメンナサイゴメンナサイ、殺さないでくださいッ」
 一方通行の能力は有名だ、その皮膚に触れたあらゆる”向き”を自在に変更する。
 熱、電気、風、衝撃など”向き”を持つものなら何でも、当然人間の生体電流などの操作も可能。
 白い少年は生体電流を操作して結標を覚醒させようと思ったらしいが結標はそれより早く自力で覚醒した。
 主に恐怖とかそういう類の感情で。
「気が付いたか、丁度いい。 お前料理はできるか? できるな?じャあ決定だ」
 結標の了承も取らずまさに一方的に話を進め怯える結標にズズイっと顔を寄せてくる一方通行。
 その顔は獲物を見つけてほくそえむ肉食獣のそれだ。
 蛇に睨まれたハムスターのように高速で「こくこく」と頷く結標に満足したのか彼は、
「ンじャあ、ちッとばかし買い物と行くか、材料費ぐらいは出してやるよ」
 そう言って、ギラリ、そうとしか形容できない微笑を向けてきた。
 けしてキラリとかキラーンとか可愛い表現では無いことだけ強調しておく。
~回想シーン終了~

 あれ?意外と短かった――。
 別に結標の残りの人生の事じゃあない、回想シーンが短かったのだ。
「ヲイ、なに自然にニンジンのコーナーをスルーしてんだよ、やる気あんのか?」
(全く無い! というかお家に帰してください――)
 心の叫びをダンダンと踏みつけて精一杯の作り笑顔を彼へと放つ。
「あはは、はは、ごめんなさーい、私ったらおっちょこちょいなもんでー☆」
 キラキラキラー、と結標の営業スマイルが一方通行の悪意の視線を迎撃する。
 結標7つの必殺技その1、スマイル0円(嘘)。
「ハンッ、ニンジンは大量に買い込むぞ。あのクソガキにしこたま食わせてやるッ!」
 必殺の営業スマイルを物ともせず、というか完全無視。
 彼はまるごとのニンジンが3本組みになった袋を5個ほどひっつかむと
 結標の押すショッピングカートのカゴへと放り込んだ。
(こんなに大量に買うの? 一体どれだけ作らせる気なの!?――)
 ちなみに1パック98円。

「め、メニューは何がいいのかしら?」
 引きつった笑顔で結標が一方通行へと聞いた。
 料理を手伝うにしても教えるにしても肝心のメニューを聞いていない。
 カゴの中身は彼が勝手に放り込んでるのだ結標は一切関与していない。
「まかせる」
 はい、会話終了――。
 さっきからこの調子で間髪要れずに答えが返ってくるので全然間が持たない。
 答えというのもおこがましいような一方的な回答。
 結標は一人暮らしをしているので一応人並みには家事ができるが、こうまで適当に任せると言われてはかえって困ってしまう。
 料理人は「任せる」と言われれば燃えるらしいが、普通の奥様方は希望を言ってくれたほうが遥かに喜ぶのだ。
 別に結標は一方通行の奥様じゃないけど。
「(大体、材料は指定するくせに……)」
 小さく、本当に小さく結標は呟いた。
 彼女なりの精一杯の抵抗という奴だ。
 効果の程は心底怪しいけど。

 っていうか「任せる」が一番困る――と思った瞬間に結標の背中に見えない重りが追加された、2tと書いてある心の重りだ。
(心が、心が重たいわ――)
 結標はどんよりしながらも自分が押すショッピングカートのカゴの中身を吟味してみた。
 大量のニンジン。 
 大量のジャガイモ。 
 大量のタマネギ。 
 特売の卵1パック。
 それとは別に結標の買い物カゴもカートの下部に格納されているが今日は買出しを諦めざるを得ない。
 せめて卵とトイレットペーパーだけで我慢するとしよう、と結標は諦めオーラを醸し出す。
 (一体何作らす気なのよ! しかも野菜に全部、大量って付くのが異常じゃないの)
 「三下、牛肉と豚肉はどッちがいい? 特別に選ばせてやる」
 と振り向きもせずに一方通行。
 その両手には2種類のお肉のパックが握られている。
 早急に選べ、背中がそう物語っている。
 「私は牛肉がいいかなぁーッツ!!」
 悲しいほどの条件反射で間髪入れずに応える結標さん。
 こと一方通行に関しては即答以外は死に繋がるのだ。
 おお、恐い、本当に恐い、誰か助けて――。
 カゴの中に牛肉さんが加わった、よろしくね牛肉さん――、と病んだ笑顔で思わず食材に語りかけてしまう。
 今の彼女はかなり追い詰められているのだ、物言わぬ食材に語りかけてしまうぐらい。
 誰もそれを責める事は出来ないと一応弁護しておく。
「この材料だと……」
 結標の持つレシピはそう多くない、せいぜい一週間をローテーションできる程度にしか作ったことがないのだ。 
 あとはちょこちょこっといじって誤魔化す程度、牛丼をカツ丼にしたり天丼にしたり。
 カレーに……ハンバーグ……ああ、おいしそう――。
「ハッ!?閃いた!」
 突然、結標の脳裏に2つの料理のコラボレーションが浮かんだ。
 ニンジン嫌いのお子様でもこれならおーけーだ。
「一方通行! 挽肉!」
 前方を歩く少年の背中にそう告げる。
「あン?挽肉?挽肉になりてェのか?」
 何言ってんだこの馬鹿は?という顔で振り向く一方通行。
「なんでそうなるの!? 戦闘民族の王子様かアンタは!」
 お昼前のとあるスーパーではそんな凸凹コントが繰り広げられ、ギャラリーを大いに賑わしたとか賑わさなかったとか。

 二人が無事買い物を終えてスーパーを出たのはそれから少し後の事だった。
                                             [12月23日―AM11:00]


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