とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

第一幕-7

最終更新:

index-ss

- view
だれでも歓迎! 編集
[7] Interval extra01―越川さんと置いてけぼりツインテール

 高いビルに囲まれたコンクリートの森を一つの影が飛ぶ。
 否―、飛ぶではなく跳ぶ。
 [空間移動](テレポート)でビルからビルへと跳躍し一気に距離を稼ぐ。
 左耳に装着されたヘッドホンマイクから初春飾利の声が聞こえた。
『白井さん、そろそろ――』
「問題ないですわ、もう見えてますの。 あと数回で到着ですわ」
 言い切ってもう一度[空間移動]し80メートル程先にあるビルへと移動する。
「通報時間から約5分、私以外では間に合いませんもの」
 文字通り空間を移動しながら呟いた。
 ヘッドホンマイクの向こうから聞こえる初春飾利の声は[空間移動]の影響で途切れ途切れ聞こえる。
『本来なら非番なのに申し訳ありません、假名垣さんに連絡が取れれば問題なかったんですが』
 假名垣皐月(かなづきさつき)、白井は直接会ったことは無いが白井と同じく[風紀委員]だ。
 常盤台中学と並んで名門と誉れ高い五本指と称される学園、長点上機学園に在学する高校生。
 彼女は昨日から連絡が取れないらしい。
 そんなわけで非番だった白井へと白羽の矢が立ったのだ。
 射手の思惑が多分に混じってる気がしなくも無いが。
「大方風邪か何かでしょう、この埋め合わせは後程キチンとしてもらいますので、黒蜜堂のデザートフェアとか」
 ヘッドホンマイクの向こうでなんだか花瓶が「黒蜜堂は高いんですけどッ!」と喚いてたが
「到着しましたわ」
 そう言い放ちオフィスビルの屋上の縁に足をかけた。
 眼下には白井の目的地が見下ろせた。 
 ビルとビルに挟まれた通路に数名の男女の姿が豆粒ほどの大きさで見れる。
 常盤台中学の茶色い冬服の上着に取り付けられた緑の腕章と茶色いツインテールが風に揺れた。
 大きく深呼吸して目標へと最後の[空間移動](テレポート)を開始する直前ヘッドホンマイクから甘ったるい声が流れた。
『了解です、それでは頑張ってくださいねー』
(事前の連絡では路地裏に連れ込まれた女性が3人、あと連れ込んだ不良達が10人程度でしたわね)
 余裕だ、と思った。
 白井黒子は大能力者(レベル4)という結構な力の持ち主だ、脆弱な能力しか持たない不良など物の数では無い。
 聳え立つオフィスビルの屋上からツインテールの少女の姿が虚空へと消えた。

一瞬の浮遊感の後にビルに囲まれた通報現場へと[空間移動]を完了させ白井黒子は叫んだ。
「[風紀委員](ジャッジメント) です!大人しく――」
 しかし彼女はその叫びを完了させることは出来なかった。

 狭苦しい路地裏の空間を茶色いポニーテールが舞う。
 ひらり、ひらりと。
 もしくはのらり、くらりと。
「て、てめぇえ!よくも!」
 いかにも雑魚です、といわんばかりの不良が越川へと飛び掛るが、
「それ死亡フラグっしょ」
 彼女は右手を自分の顎に当てて疑うような視線を向けひらりと回避。
 サッと突き出された細い脚に躓いて雑魚Aがコンクリートの壁にキスをする。
「ふぉ~らね、エィ、エィ、エィ――」
 雑魚Aの後頭部をガシっとわしづかみにして無造作に壁へと叩きつけるポニテ娘。
「ぐぁ……」
 悲鳴を上げる雑魚A、彼は5回ぐらい鈍い音がした後に倒れた。

 少し離れた場所で吹寄制理と姫神秋沙が二人揃ってその事態を見守っていた。
「彼女。助けなくていいの?」
「越川さんだから大丈夫よ、どっちかっていうと助けるなら相手の方ね」
「どういう意味だか。わからない」
「見てればわかるわよ、姫神さん」
 姫神は見てれば判ると言われて騒ぎへと視線を戻す。
 最初は10人居た連中も既に4人しか居ない。
 いや、居るけど倒れてる。
 雑魚Aと同じように頭部に打撃を受けて昏倒してるのだ。
 一様に壁に持たれかかる屍っぽいものが6個。
 いや一応6人、若しくは6名。
 本当に容赦無い。
 再びコンクリートに堅いものを叩きつけるような鈍い音が響いた。
「でっどりーどらいぶ!」
「はべら……」
 また一人脱落。
 この騒動の切欠は確かに些細なことだった。
 ちょっと特殊ではあるのだけれど。
 姫神秋沙は事の顛末を思い出してみた。
 事の始まりは少し時間を遡ったゲームセンター。
 月詠小萌のHRの後、上条当麻を捕獲し損ねた越川嬢は「憂さ晴らししかないっしょッ」とか言って姫神と吹寄を伴って
駅前のゲームセンターまで行ったのだ。
 そこまではまだ良かった、動機がちょっと強引だがありえない事ではない。
 ただいくつかの偶然が重なった。
 ある少年的に言えば不幸にも。
 たまたまゲームセンターでは格闘ゲームに勤しむ不良達がたむろしてたのも偶然なのだろう。
 たまたま格闘ゲームを楽しむ彼らがそれなりに腕の立つゲーマーだったのも偶然だろう。
 そしてたまたま50連勝直前で挑戦者が居なくなってた対戦台にこの茶髪ポニーテールが座っちゃったのも偶然だろう。
 更に言えばコテンパンに負けた彼らが腹いせにリアルファイトと洒落込んできたのもきっと偶然なのだろう。

 でも姫神秋沙は思った、偶然もコレだけ重なれば必然だと……。
「ゴフッ……あべし」
「お前はもう死んでいる……なんちゃって」
 ゴスン、と鈍い音が路地裏に響いてまたズルズルと倒れこむ雑魚C。
 不良残り二名。
 でもなんだか変な方向に進んじゃってるこの事態。
「あ、あにきぃぃぃ!!」
「兄者ぁぁぁ!!」
 腰に手を当てて不適に佇む越川を指差して叫ぶ残りの不良達。
「ちぃぃ! コイツなんだかやべぇよ、異様に反応がはええ」
「落ち着け、なんかの能力者だ」
 ちっとも落ち着いて無い。
「ククク、この越川ちゃんを敵に回した事を地獄の底で後悔するといいっしょやッ」
……。
「どっちが悪役だかわからないわね」
「彼女は。もしかして北海道出身?」
「どうして?」
「語尾。違う?」
「確か実家は京都の和菓子屋のはずだけど」
「そう。それは残念」
 暢気な会話が展開され、心底残念な顔を向け事態を見守ることにする姫神と吹寄。

 ぱきぃぃぃん

「おっ?」
 路地裏にひんやりとした冷気が立ち込める。
 不良でも能力が発現してる奴も居るみたいでたまにこういうのも居る。
「へへへ、俺だって冷却能力者[フリーズユーザー]だ、そのまま氷漬けにしてやるよ」
「ちなみに俺は[肉体強化][ブーストアップ]、へぶぁ」
「能書き長いっしょッ! ちゃっちゃと退場しなさい。 アライグマの様に。 ページ無いんだから!」
 ひどく理不尽な理由で折角の能力を発揮することもなく張り倒された雑魚D。
 川を挟んで追いすがるアライグマを冷たく突き放す様に脱落。
 残り1名。
「さぁて、アンタで最後っしょ! 折角だから越川ちゃんの秘密兵器で」
 秘密兵器、その響きにラストの不良の顔付きが真剣になる。
 やがて緊張に慣れてないのかやけくそ気味に冷気を放つ右手を越川へと向け突撃するラストの不良。
「越川さん。何する気なの?」
「見てれば判るわよ……」
「はぁぁぁぁ……必殺――」
 ゆらり、陽炎のように揺らめいて彼女が制服の背中から取り出したのは一本の棒。
 30センチくらいの黒っぽい円筒。
 警棒に見えなくも無い。
 刀身部分に付いた電飾が無ければ。
「あれって……。工事現場の誘導灯」
「越川さん、それで殴りかかったら電球割れるって絶対!」
 工事現場で交通誘導をするオジサンがよく持ってる光る棒。
 越川がグリップの底にあるスイッチを押し込むと刀身部分の電飾が光りだした。
 ぴこぴこと点滅する紅い光が越川の腕の動きに沿って空間に紅い軌跡を描く。
「この!舐めやがって!!」
 馬鹿にされたとでも思ったのか最後の不良は越川へと突撃した。
 直後、彼は錐揉み回転をしながら宙を舞い、三回転して地面へとダイブすることになる。
 なんで過去形かといえば
「越川ぶれーッど!!」
 良く通る少女の高い声と共に放たれた紅い軌跡によって彼の意識は飛んでいたからだ。
 そしてそのまま動かなくなる。


「ええええええ!?!?、なんで割れないんですのー!!」
 その一部始終を見て思わず突っ込みを入れるツインテールの[風紀委員]約一名。
 あんまり妙な空気が立ち込めていたので固まっていたのだがやっと出番が回ってきた。
 学園都市製の特殊樹脂で形成されているとはいえ、所詮はプラスチックだ。
 それに刀身部分は電飾、当然そんなもので殴ればたちまち割れるに決まってる。
 だが余韻に浸る茶髪のポニーテール娘が握るその棒には一切の傷など無い。
 白井じゃ無くても突っ込みぐらい入れたくなるのも仕方ない。

 その答えは本人とは別のところから来た。
「拳で殴ってる。それだけ」
「それって素手で殴ってるのと一緒じゃないですの……意味無いですわよ、それ」

「かっこいいから良し!!」
 そう言って問題の彼女は「ぽい」と誘導灯を投げ捨てる。
 どうやらもう要らないらしい。
「[風紀委員]の目の前でポイ捨てしないで欲しいですの……」
 ヘッドホンマイクからは「白井さん? どうしたんですか!」と切羽詰まった声が漏れていた。
「とりあえず任務完了ですわ……。 あんまり一般人が暴れないで下さいですの……出番無くなるから」
 力なく呟くツインテール中学生はなんだかしょんぼりしつつ「わたくしの出番……」とか言いながら
事後処理を開始するのだった。
                                               [12月23日―AM11:20]


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー