とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

第一幕-8

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[8] Imagine Breaker04―待ち人、待つ人、空白少女

 青い空、白い雲、そしてお天道様は上条当麻の真上でサンサンとお仕事をしてる。
 そんな天気の良い広場の中央に位置する噴水の淵のコンクリートに腰掛けて上条は呟く。
「疲れた……」
 彼はHR後に展開された激しい逃亡戦の後でお疲れだった。
 だったら早く帰ればいいのにと思うだろうがそうもいかないわけがあった。
 ポケットから二つ折りの携帯電話を取り出して見る上条。
「ここで待ってろってもなぁ……」
 携帯電話をいじって着信履歴を呼び出せばその相手の名前が履歴の一番上に表示されていた。
 その相手は朝からお騒がせなビリビリ女子中学生”御坂美琴”。
 上条の脳裏に彼女のマシンガントークがフラッシュバック&リプレイする。
『学校終わった? 終わったわよね? 学校終わったんでしょ? だったら中央広場の噴水で待ち合わせね。
(中略)
 少しかかるかも知れないけど大人しく待ってなさい、あと買い食い禁止、これ絶対ね、破ったら痛い目見るわよ』
 とか一方的に告げられてしまったのだ。 
(腹減ったけど痛い目コワス……ガクブル……)
 そんな訳で現在、上条は空きっ腹を抱えたまま待ちぼうけ中。
 『ぐ~~~』と上条当麻のお腹が可愛らしい音を立てる。
 そう空腹だ。
 ここらで上条の朝ごはんをおさらいしてみよう。
 グ○コ ぷっちんプリン×1個 あとミネラルウォーター 以上。
 文字にして1行を埋めるにも満たない食生活、原因はいろいろあるがそれらの理由すべてが上条の不幸体質ひとつで説明できてしまう
あたり同情を禁じえない。
 当然、そんなカロリー摂取量では男子高校生の腹が満足するわけも無い。
 上条当麻は現在進行形でハラペコだった。

 気を紛らわすように広場を見渡せば広場にはいろんな人が居た。
 サッカーをする少年とかキャッチボールをする大学生なんかも居た。
 楽しそうでいいと思った。
 通り過ぎる仲睦まじいカップルも居た。
 はいはい、ご馳走様と思った。
 自販機の前でたむろする中学生くらいの少年達も居た。
 オマエラ邪魔だと思った。
 白い学生服に身を包んだ不機嫌そうな[風紀委員](ジャッジメント) もいた。
 大変だなぁアンタも、ここらで休憩か?と思った。
 駆け抜けるオレンジ色の髪をした10歳ぐらいのお子様とそれを追いかける知的なお姉さんも居た。
 なんか見たこと――ある気がした。
「芳川ー芳川ー、早く行こうよーとミサカはミサカは久々の外出に興味津々だったり」
「[打ち止め](ラストオーダー)、あんまりはしゃがないで頂戴。 企業周りの途中なんだから」
(――気のせいだな)
 心の引き出し22番に仕舞いこむ事にする上条当麻。
 またしても心の鍵を投げ捨てるのを忘れない。


 ふわり。
 心の鍵を遠投してた上条の視界に綺麗な茶髪が舞った。
「隣いい?」
「は?」
 声がした方向に振り返れば知らない少女と目が合った。
 少女は上条の返事も聞かずに少女は上条の隣に腰掛けてきた。
 非常に長い茶髪のロングヘアーがサラサラと美しい端整な顔立ちをした上条と同い年ぐらいの女の子。
 風に乗って少女の髪の匂いが上条の鼻をくすぐる。
(誰?こんな美少女お知り合いに居ないんですけど!!)
 太陽の光を受けた茶色の髪はとても綺麗に見えた。
「だから隣に座ってもいいかな?って聞いてるんだよ?」
 少女が顔を寄せてさらに問いかけてきた。
 隣っていうか既に密着状態で座ってる癖に少女は口を尖がらせて言う。
 間近で見て上条は少女の瞳が片方だけ色素が薄いのに気づいた。
 色素の薄い淡い茶色と吸い込まれるような黒の不思議な双眸。 
 オッドアイという奴だろうか? 左右で微妙に色合いが違って見える。
「別にいいけど、座るとこなら他にも――ていうかもう座ってるし」
 上条の声は少女の声に遮られた。
「んじゃいいよね☆」
 そう言って少し腰を浮かしてスカートの裾を直してもう一度座る。
 上条の視界に少女の服装が映った。
 若草色の色合いのブレザー。
 首からはエンジ色の細いネクタイが下がり、上着の下はどうもブラウスのようだ。
 全体的にスレンダーな体つきの少女の細い腰に穿かれたプリーツスカートからは健康的な少女の脚線が覗いている。
 唐突に彼女は告げる。
「ねぇ?一目惚れって信じる?」
 色合いの違った両の瞳で上条の顔を覗き込んできた少女の顔は期待に満ちていた。
「いきなり何を言い出すんだ」
 なんだか疲れた顔を見せる上条に少女は更に続ける。
「私は信じてるんだけどね。 ほら……あれ?、ところで君名前は?」
 教えてほしい――と、上条の学生服の裾が少女に引っ張られる。
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ……。
 ところで……なんで俺の学生服の裾を掴んで離さないのか、納得のいく説明をもらえますか?と貴方に切に投げかけます
 ってなんか御坂妹みたいな口調になっちゃった!! ウワーンヤッタネチッキショウメ!!」
「キミがどうして錯乱気味なのかわからないけど、積もる話は焼き芋でもやっつけながら一緒に――私はお財布持ってないけどさ」
 知らない少女は広場に店を出す一軒の焼き芋屋の屋台を指差していた。
『ぐ~~』
 少女のお腹が鳴った。
「あはは、はは、私おなか減ったかも……」
『ぐ~~』
 上条の腹も鳴った。
 かくして冬の街の一角で上条当麻に新たな旗が立った。


 冬にはいろいろな屋台が出てたりする。
 鯛焼き、たこ焼きこのあたりは定番と言えるだろう、この広場にもたこ焼きの屋台は出ていたが流れ的に上条は
 ほかほか湯気を立てる焼き芋をゲットして少女の下まで戻ってくる羽目になった。
「ほかほか!ほかほか!!」
 新聞紙に包まれ湯気の出る焼き芋を見て少女は心底嬉しそうな顔を上条へと向けてくる。
(買い食い……黙ってればバレナイ……よな、多分)
 少女は上品な見た目とは裏腹にどうにも子供っぽい仕草が多かった。
「焼き芋♪ 甘いのかな?♪ 辛いのか?♪」
 少女の視線はほかほか焼き芋に釘付けだ。
「焼き芋が辛かったら俺は屋台に殴りこむね、いやマジで」
 上条は投げやりな口調で答えてやる。
「でも、実際に食べてみないと甘いかどうかなんて分からないよ?」
 と少女。
「お前焼き芋食べたこと無いのかよ」
「甘いらしいってのは知ってるけど、食べたことは無いかな。 いわゆる焼き芋ビギナーって奴?」
「なんだそりゃ」
「焼き芋甘いっていう知識はあるけど食べたことが無いから味は分からないってことだよ」
 余計に訳が分からなくなった。
 でも甘いのは知っていても食べたことが無いから味は分からない、どこかで聞いた言葉だと上条は思った。
(まあ俺も似たような時期があったけどさ……)
「いいから、これでも食べてろ」
 と少女の前へ新聞紙の包みを差し出す上条。
 遠くで子供の声が聞こえた気がした。
 噴水が水を叩く音で何言ってるのか聞こえない。
「どうした?」
 瞬間、少女の顔になんだか真剣な表情が浮かんで、
「……サッ」
 そんな声を残して突然少女の顔が上条の視界から消えた。
 適当な効果音としては多分『キュピーン、シュバッ』あたりが妥当。 
「は!? ッガフ」
 少女の顔の代わりに上条の視界に現れたのは迫りくるサッカーボール、螺旋回転を描いて上条の顔へと激突し抉りめり込み
虚空へと跳ね上がりポンポンと広場のタイルに数度跳ね止まる。
 と同時に大きくのけぞった上条の手から新聞紙の包みが宙を舞い、ふらつく上条の視界には青い空が映った。
「ひょいひょいっとね」
 空中で回転し投げ出された焼き芋を少女の手が高速で動き見事にキャッチする、まるで空中の焼き芋達の動きが
分かってるかのようだ。
(効果音を口で言うなよ……)
 と心中で突っ込む上条。
「あははは、大丈夫? キミ顔赤いよ?」
 何事も無かったかのように再び座り少女は上条に微笑みかける。
 両手には焼き芋を持ったままだ
「なんでサッカーボールが……あと顔が赤いのはサッカーボールの直撃を食らったからで、照れてるわけじゃ無いぞッ」
「誰に言ってるのかわかんないよ、それじゃ」
 タタタタタ、と足音が近づいてきて一人の少年が頭を下げ「ごめんなさい」と謝り転がったボールを追いかけてまた駆けていった。
「さっきのサッカー少年か……あんなところに伏線が潜んでるとは……恐い所だ」
「だからその説明だと誰に言ってるのかわからないよ。 焼き芋は無事だから早く食べようよー」
 風にたなびく少女の茶色の長髪は太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。
(容姿と言動がいまいち一致しねえなこいつ)
「お前は焼き芋の方が大事そうだな……」
 少女は「あはは」と笑い
「ぱっくちぃ、もぐもぐ」
 と謎の言葉『ぱっくちぃ」を残しとその小さな口で焼き芋にかぶりつき少女はもぐもぐ、ハフハフと口から白い息を
吐きながら焼き芋を食べた。
 そしてごっくんと飲み込んだ後にはなんだか悲しそうな顔。
(なんで食べた後に悲しそうになるんだよ……)
「ねぇねぇ……えーとさっきも聞いたけど。 君、名前は?教えてくれると嬉しい」
 口元を押さえたまま少女は上条へと聞いた。
「上条当麻、苗字でも名前でも好きに呼べばいいけどさ」
「んじゃ当麻君」
(いきなり名前かよ!!)
 上条が思わず心の中で突っ込むが少女はそのまま続けた。
 辛そうに、そして心底悲しいといった具合に。
「喉……渇いた。 ていうか喉詰まりそう……」
 焼き芋は結構水分を奪うから水分無しで食べるにはきつかったのだろう。
 悲しそうに俯く少女を残して上条当麻は自販機までダッシュをすることになった。
「何飲むんだよッ!、お前」
「よくわかんないから当麻君のオススメでいいよ、でも青汁は却下」
「んなもんねぇよ!!お前実は余裕じゃねぇか!!」
「いってらっしゃーい☆」


 5分後―。
 汗だくになりつつ戻ってきた上条の手には二つの缶ジュースが握られていた。
「あははは、ありがと―」
「もう……しんどいです……おなかも減ったし……」
「当麻君はやさっしーねー、ハフハフ、あふいあふい」
「ああ、もうなんかいろいろと突っ込む気力もねぇや……」
 上条は疲れ来った表情でベンチではなく少女の膝へとそのままダイブするとそのまま突っ伏して動かなくなった。
 少女は一瞬だけ上条へ視線を注いだが「まあいっか」とハフハフと焼き芋に夢中なので気にしてない様子だったので
特に拒否られたりはしなかった。
 ただ小さく笑って「当麻君も好きだねェ」と軽い口調で言うだけ。
 上条は少女の膝に突っ伏したままで息を整えると少女へ抱いていた一つの疑問を聞いてみた。
「なぁ、お前名前は?」
「ひ・み・つ☆」
 金色の欠片をちぎって口へと運ぶ少女。
「その焼き芋とジュースを買ってきたのは誰だ?」
「当麻君だね、感謝感謝」
「もう一度聞く……名前は?」
 少女はもぎゅもぎゅ、ごっくんと焼き芋+ジュースを処理中。
「嫌がる女の子から無理やり……当麻君はえっちぃなぁ」
 何故か顔を赤らめつつ言う少女。
「……なんでそうなるんだよ」
「名前か……うーん、うーん」
 人差し指を額に当ててどうも真剣に悩んでるようだ。
「自分の名前でなんでそんなに悩むんだよ……教えたくないならそれでもいいぞ」
 上条の言葉に少女はわたわたと大げさな様子で手を振り回して「ち、違うよー」と目一杯否定してくれた。
 そして少し考えてから膝の上の上条の頭にぽんと手を置いて告げた。
「実は私の家は名門でね。 未婚の女性に本名を聞くのはプロポーズになっちゃうんだ。 そしてそれに答えると晴れて婚姻成立☆」
 少女は芝居がかった口調で言い切り、両手を胸の前で組んで空を仰ぐ。
 だからね―と区切ってから少女は更に続ける。
「私の名前はトップシークレットなので教えれませ、ああッ!待って焼き芋は取り上げないで欲しいっ」
「やかましい、名前も教えれない子にはあげません、つくならもっとマシな嘘つけ」
 涙目の少女の手から食べかけの焼き芋を奪って上条はすっかり悪ガキモード。
「うぅ……当麻君は意地悪だ」
 拗ねたような表情で見上げてくる少女。
「人聞き悪いこと言ってんじゃねぇよ……名前聞いてるだけだろうが」
 上条の言葉を受けて少女はすぐに元の表情へと戻り、
「名前は訳あって教えれないけどね、当麻君は特別だよ」
 と切ってから満面の笑顔で右手の人差し指を立てて少女はこう提案した。
「当麻君、私に名前付けてよ」
「なんでそうなるんだ……」
 上条が何度目になるか分からない疑問を口にした。


「いいじゃない別に、女の子の呼び名を決めれるチャンスなんて無いよ? 普通」
 答えになってない……、と上条は呟くがここで引くのも面白くない。
 少女は「ね、ね。 いいでしょ? キミが私の名前決めてよ。 可愛い名前プリーズ」とか言ってくる。
 一応上条の脳裏にいろいろな女性の名前が浮かんだ、
 御坂美琴、御坂妹、白井黒子、吹寄制理、姫神秋沙、月詠小萌、竜神乙姫、越川――……。
(だぁー!特殊な名前の方々ばっかり浮かぶし!参考にならねー!!)
 少女は「まだかなぁー」と上条の頭を撫でて催促してくる。 
 焼き芋の事なのか、それとも名前の事なのかは分からないが。
「えりざべす」
 まずありえないがジャブとして軽く言ってみる。
 いや少女のオッドアイの事を考えるともしかしたらありえるかも知れない。
「却下、ていうか私は外人じゃないよー、回答権はあと2回ね」
 事実一個判明、少女は日本人のようだ。
 でもクォーターとかハーフならまだ可能性もある。 
 それにしてもいつの間にか回答権なるものまで追加されている。
「んじゃ、『うまい棒』か『ティッシュ』ッいひゃい、いひゃい!!(痛い!!痛い!!)」
「当麻君、君時々デリカシーが無いって言われるでしょ? それ両方女の子の名前どころか人間の名前ですら無いんだけど。
真面目に考えて欲しいかな、ほ~らどこまで伸びるかヤッテミヨウカ!!」
 上条のほっぺたをを「ぎゅー」と抓り少女は淡々と告げる。
「イテテ……って言っても犬や猫じゃないんだから名前なんてホイホイ思い浮かばねぇよ」
 上条は強引に少女の手を引き離して文句を言う。
 少女のオッドアイが上条の目をじーと覗き込んできた。
 無言の圧力が上条を襲う。
 少女の責めるような視線から目を逸らした上条の視線が焼き芋へと留まる。
 焼き芋と食べかけの焼き芋。
 二人分買ってきた焼き芋。 
 紫色の皮から覗いた金色の身、甘くてホクホク、冬の王様、金時芋。
 1個105円、本格的な石焼き芋。 
(冬にこれは焼きたてのコレは結構ご馳走だよなぁ、サツマイモ……芋…ポテト…それはじゃがいも…じゃがいもは
男爵……メイクイーン…ハッ!?)
「さて、そろそろ時間切れになります、あと30秒で答えないと当麻君のオデコに猛烈に痛いデコピンが炸裂☆」
「時間制限あるのかよ!?しかもそのデコピン、すっげー風切り音するんですけどッ!!!」
 少女は右手をデコピンの形にしてデモンストレーションを繰り返している。
 腕全体を加速させ勢いを増す方法を採用しているようで中指を親指で押さえた右腕を前後させながら上条の額辺りにちらつかせる少女。
 なんだか少女のデコピンはとても痛そうであり、当然喰らいたくは無かったので思わず真剣に考え込んでしまった。
(どうする……上条当麻、考えろ、考えるんだ)
 そうこうしてる間にも少女は秒読みを続ける。 
 そのとき追い詰められた上条の脳裏に一つの名前が浮かんだ。
 失敗すれば死(デコピン)。
 少女の口が「さ~ん」「に~」「い~ち」と告げた時、上条の口が動いて 
「メイ……とか?」
 と思いっきり疑問系の調子で少女の名前(候補)を吐き出した。
 その答えに満足したのか少女は満面の笑顔を浮かべて「んじゃそれでいいよ」って上条の頭をくしゃくしゃと撫でた。
(って、えー??それじゃそれでいいやって何?あ~もう訳分からんこの子!)


 ざっ、じゃり。
 上条の背後で誰かが地面を踏む音がした。
 メイの双眸が上条の後ろへと注がれ、心持ち視線がきつくなってる。
「ん、どうした?」
「お客さんっぽいよ、私じゃなくて多分当麻君に」
 そして背後からとてつもない敵意、否敵意を通り越して殺意に満ちた空気が襲ってくる。
 バチン、バチンと激しいスパーク音まで聞こえてくる、空耳だろうか?
 この感覚――。
(わ、忘れてたぁぁ)
「後ろが正面で誰がソレで……振り返りたく無い……でもきっと居る」
「当麻君、そろそろ後ろ見ないとやばいかもよ?」
「ホントにあ~んた~って奴は……」
 高い良く通る声が聞こえ、その声は上条にも聞き馴染んだ少女の声。
 本来ここで待ち合わせをする筈の相手。
『あと買い食い禁止、これ絶対ね、破ったら痛い目見るわよ』
 記憶にある言葉、特にその後半部分が延々とループ。
「痛い目……痛い目……」
 上条の目からはハイライトが消え、肩は小刻みにブルブルと震えていた。
 武者震いでは無く、主に恐怖によるものだ。
 常盤台中学、超能力者(レベル5)[超電磁砲](レールガン)の御坂美琴。
 振り返らなくても彼女が今どんな顔をしているのか上条には良く分かった。
「いつでもどこでも、あっちにホイホイ、こっちにホイホイ」
 なんだか怒りに満ちた声にビクゥ! 上条の心臓が大きく跳ねた。
 ついでに肺の空気も搾り出され冷や汗とか、脂汗とかがとめどなく滝のように上条の顔を伝う。
 後ろを振り返るな――、上条当麻の防衛本能が激しく警鐘を鳴らす。
 というか鳴らしまくる。
 ガンガンガンガン、ここは危険です即座に退避してください、繰り返します、ここは危険が危ないですよ――。
 思わずメイへと目を向けるが少女はニコニコと微笑むだけで何も答えない。
 それどころかどこか楽しげですらある。
 上条は全力で深呼吸をして暴れる心臓を押さえつけ息を整え、自らに言い聞かせる。
「……たった一つだけだが生き延びれそうな方法があったぜ」
「それは?」とメイが聞き返す。
「それはな……逃げることだぁぁぁぁ!!」
 そう叫ぶなりガバッと上条はメイの膝から体を起こし前のめりになりながらも全力で地面を蹴り飛ばす。
 文字通りの全力疾走。
 上条は持てる全ての身体能力をつぎ込んでわずかな延命を計る。
(多分捕まりそうな気もするけど!! アイツ足速いし)
 後方なんて一回も振り返らなかった。 
 そんな余裕なんて1ミリも無い。
                                               [12月23日―AM11:50]


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