[14]Interval extra02―初春さんと置いてけぼりツインテール
「明日はクリスマス・イヴだと言うのに、なんでわたくしだけこんなに働き者なんですの?」
誰とは無しに零れた嘆きの言葉は、コンクリートの冷たい壁に反響し消える。
狭い廊下を歩きながら、白井は自分で言っててなんだが少し悲しくなった。
本当なら憧れのお姉様に、一日中べったりと付きまとっていたいのだが、どういうわけか今日"も"次々と仕事が入る。
おかげで朝から学園都市中を飛び回る羽目になっている。
もちろん昼食なんてまだだ。お腹も大分空いている。
もう、西に事件あると聞けば西に、東に事件あると聞けば東に、といった感じだ。
「ダイエットには丁度良いのですけれどね」
と自分のほっそりとした腰に手を当て独り言をぽつり。軽く自虐的に笑いながらも、規則的に足は動かす。
自らのトレードマークである茶色のツインテールを従えて、長い廊下を歩く白井は、今のところ誰ともすれ違っていなかった。
もともとこの建物を訪れる人間の数はそう多くないので、少しも不思議と思わない。
訪れるのはごく一部の人間。
不機嫌そうに進むツインテールの少女の様に、緑の腕章をつけた風紀委員(ジャッジメント)ぐらいだ。
風紀委員(ジャッジメント)には幾つも支部がある。風紀委員(ジャッジメント)は、それぞれ所属する学園の治安を守るのが、本来の役目である。
だから風紀委員(ジャッジメント)の支部は、各学園に一個づつ作られているし、風紀委員(ジャッジメント)は、各学園から選出される。
それこそ数えるのも馬鹿らしくなるくらい存在する支部は、白井も総数でいくつあるのか良く知らないし、別に興味も無い。
お昼前に"学外"で起きた、"ちょっとした揉め事"を解決した白井黒子が、肩で風を切るというおよそお嬢様らしからぬ様子で歩く、
硬く冷たい感触のリノリウムの廊下がある建物も、その一つだった。
白井の、『歩く』というよりは既に早足に近い足取りは、彼女の今の気分を代弁するかのように、パタパタとスリッパが床を叩く音を
撒き散らしていた。
誰とは無しに零れた嘆きの言葉は、コンクリートの冷たい壁に反響し消える。
狭い廊下を歩きながら、白井は自分で言っててなんだが少し悲しくなった。
本当なら憧れのお姉様に、一日中べったりと付きまとっていたいのだが、どういうわけか今日"も"次々と仕事が入る。
おかげで朝から学園都市中を飛び回る羽目になっている。
もちろん昼食なんてまだだ。お腹も大分空いている。
もう、西に事件あると聞けば西に、東に事件あると聞けば東に、といった感じだ。
「ダイエットには丁度良いのですけれどね」
と自分のほっそりとした腰に手を当て独り言をぽつり。軽く自虐的に笑いながらも、規則的に足は動かす。
自らのトレードマークである茶色のツインテールを従えて、長い廊下を歩く白井は、今のところ誰ともすれ違っていなかった。
もともとこの建物を訪れる人間の数はそう多くないので、少しも不思議と思わない。
訪れるのはごく一部の人間。
不機嫌そうに進むツインテールの少女の様に、緑の腕章をつけた風紀委員(ジャッジメント)ぐらいだ。
風紀委員(ジャッジメント)には幾つも支部がある。風紀委員(ジャッジメント)は、それぞれ所属する学園の治安を守るのが、本来の役目である。
だから風紀委員(ジャッジメント)の支部は、各学園に一個づつ作られているし、風紀委員(ジャッジメント)は、各学園から選出される。
それこそ数えるのも馬鹿らしくなるくらい存在する支部は、白井も総数でいくつあるのか良く知らないし、別に興味も無い。
お昼前に"学外"で起きた、"ちょっとした揉め事"を解決した白井黒子が、肩で風を切るというおよそお嬢様らしからぬ様子で歩く、
硬く冷たい感触のリノリウムの廊下がある建物も、その一つだった。
白井の、『歩く』というよりは既に早足に近い足取りは、彼女の今の気分を代弁するかのように、パタパタとスリッパが床を叩く音を
撒き散らしていた。
しばらく無人の廊下を歩いた先にゴールはあった。
『風紀委員活動第一七七支部』とこの部屋を示す長方形のプレートを睨みつけて、白井はドアの横にある四角いガラス板に自分の
人差し指をくっつけた。
ピッ、と小さな電子音がした。
(毎度毎度面倒ですの。いっそ自動で開いて欲しいものですわ)
もう一度わざとらしい電子音が聞こえると、指紋、静脈、指先の微振動パターンが登録されたデータと一致しないと解除されない
厳重なロックが解除された。
『風紀委員活動第一七七支部』とこの部屋を示す長方形のプレートを睨みつけて、白井はドアの横にある四角いガラス板に自分の
人差し指をくっつけた。
ピッ、と小さな電子音がした。
(毎度毎度面倒ですの。いっそ自動で開いて欲しいものですわ)
もう一度わざとらしい電子音が聞こえると、指紋、静脈、指先の微振動パターンが登録されたデータと一致しないと解除されない
厳重なロックが解除された。
「入りますわよッ初春!」
意識して出した大音量の叫びと共に、豪快にドアを開け放ち、白井は部屋の中に入った。
意識して出した大音量の叫びと共に、豪快にドアを開け放ち、白井は部屋の中に入った。
機能性のみが追及された殺風景で飾り気の無い風紀委員(ジャッジメント)の支部。
あまり広くは無いオフィスのような空間にいるのは中学生くらいの少女が一人。他には誰も居ない。
役所に置いてあるようなビジネスデスクが並び幾つもの最新式コンピューターがその上に鎮座しているだけだ。
「白井さんったらそんな大声出さなくてもちゃんと聞こえてますよー」
頭の上にお花畑を咲かせてる少女――初春飾利はケラケラと笑いながら『人間工学的に疲れない変な形の椅子』を180度回転させて
振り返り、甘ったるい声を返してきた。
一般的なデザインの紺色のセーラー服を着ているが、どこか服に着られてる感じがする少女。左腕にはやはり白井の物と同じ緑の腕章。
この部屋は、風紀委員(ジャッジメント)の支部であり、入り口のドアのロックは、一部の例外を除き、風紀委員(ジャッジメント)として登録されて
いる人間にしか開ける事は出来ない。
つまり、この部屋に居る=風紀委員(ジャッジメント)という図式が出来上がる。
彼女も白井と同じ風紀委員(ジャッジメント)だった。
だが一口に風紀委員(ジャッジメント)と言ってもピンからキリまである。
大多数の風紀委員(ジャッジメント)は異能力者(レベル2)よくても強能力者(レベル3)がほとんど。白井のような大能力者(レベル4)なんてのはむしろ
稀だ。中には能力の強度なんて関係無しに有能なのも居たりするがそれは更に稀と言っていい。
例えば白井の目の前にいる中学一年生の少女みたいに。
能力によって得意な任務が違ったりする、という面もあるから単純に、能力の強度=風紀委員(ジャッジメント)の実力というのは、
あまり成り立たない。適材適所。なんと良い言葉だろうか。
初春飾利はどっちかと言えば有能の部類に分類されるのだろう。白井から見ても初春の情報収集能力はちょっとずば抜けている。
その上よくコンビを組むのが機動力&戦闘力抜群の白井だ。自然と『お仕事達成率』は高くなる。
白井はツカツカパタパタと初春の方へと歩み寄った。
「ごきげんよう初春。帰ってもよろしいですの?」
顔だけ笑って告げた。
「ごきげんよう白井さん……って突然お嬢様っぽい挨拶で煙に巻こうとしても駄目!絶対駄目です!」
椅子の上に立ち上がった初春は両手で大きくバッテンを作った。
誰かの舌打ちが小さく鳴った。
あまり広くは無いオフィスのような空間にいるのは中学生くらいの少女が一人。他には誰も居ない。
役所に置いてあるようなビジネスデスクが並び幾つもの最新式コンピューターがその上に鎮座しているだけだ。
「白井さんったらそんな大声出さなくてもちゃんと聞こえてますよー」
頭の上にお花畑を咲かせてる少女――初春飾利はケラケラと笑いながら『人間工学的に疲れない変な形の椅子』を180度回転させて
振り返り、甘ったるい声を返してきた。
一般的なデザインの紺色のセーラー服を着ているが、どこか服に着られてる感じがする少女。左腕にはやはり白井の物と同じ緑の腕章。
この部屋は、風紀委員(ジャッジメント)の支部であり、入り口のドアのロックは、一部の例外を除き、風紀委員(ジャッジメント)として登録されて
いる人間にしか開ける事は出来ない。
つまり、この部屋に居る=風紀委員(ジャッジメント)という図式が出来上がる。
彼女も白井と同じ風紀委員(ジャッジメント)だった。
だが一口に風紀委員(ジャッジメント)と言ってもピンからキリまである。
大多数の風紀委員(ジャッジメント)は異能力者(レベル2)よくても強能力者(レベル3)がほとんど。白井のような大能力者(レベル4)なんてのはむしろ
稀だ。中には能力の強度なんて関係無しに有能なのも居たりするがそれは更に稀と言っていい。
例えば白井の目の前にいる中学一年生の少女みたいに。
能力によって得意な任務が違ったりする、という面もあるから単純に、能力の強度=風紀委員(ジャッジメント)の実力というのは、
あまり成り立たない。適材適所。なんと良い言葉だろうか。
初春飾利はどっちかと言えば有能の部類に分類されるのだろう。白井から見ても初春の情報収集能力はちょっとずば抜けている。
その上よくコンビを組むのが機動力&戦闘力抜群の白井だ。自然と『お仕事達成率』は高くなる。
白井はツカツカパタパタと初春の方へと歩み寄った。
「ごきげんよう初春。帰ってもよろしいですの?」
顔だけ笑って告げた。
「ごきげんよう白井さん……って突然お嬢様っぽい挨拶で煙に巻こうとしても駄目!絶対駄目です!」
椅子の上に立ち上がった初春は両手で大きくバッテンを作った。
誰かの舌打ちが小さく鳴った。
「それはそうと初春。なんか前にもこんなパターンで呼び出された事があった気がするのは気のせいですわよね。あんな大事件が
ホイホイと起きてもらっても困りますものね」
遠い目をした白井が言ってるのは『残骸』を巡って九月十四日に繰り広げられたあの事件の事。
今回もあの時の様に初春が電話で「白井さんちょっと支部まで」って言うものだからわざわざ支部まで出向いてやったのだ。
「白井さんったら、やっぱり予知能力(ファービジョン)系の方向に目覚めたんですね。いやぁ、やっぱり才能がある人は違うんだなぁ。
ほんと尊敬尊敬。尊敬しちゃいますよ」
「……多重能力者は存在しない筈ですわ」
「――でも多分『あたり』です。ぱちぱちぱち、すごいですね」
初春がわざとらしく手を合わせる。何度も何度も。拍手の音がやたらと虚しく響いた。
「これはもう高笑いでもするしかありませんよね。はっはっは」
拍手にわざとらしい高笑いも追加された。
「ふっふっふ、あら、なんだか楽しそうですわね」
白井のわざとらしい声も加わり一七七支部には笑い声が木霊した。
ホイホイと起きてもらっても困りますものね」
遠い目をした白井が言ってるのは『残骸』を巡って九月十四日に繰り広げられたあの事件の事。
今回もあの時の様に初春が電話で「白井さんちょっと支部まで」って言うものだからわざわざ支部まで出向いてやったのだ。
「白井さんったら、やっぱり予知能力(ファービジョン)系の方向に目覚めたんですね。いやぁ、やっぱり才能がある人は違うんだなぁ。
ほんと尊敬尊敬。尊敬しちゃいますよ」
「……多重能力者は存在しない筈ですわ」
「――でも多分『あたり』です。ぱちぱちぱち、すごいですね」
初春がわざとらしく手を合わせる。何度も何度も。拍手の音がやたらと虚しく響いた。
「これはもう高笑いでもするしかありませんよね。はっはっは」
拍手にわざとらしい高笑いも追加された。
「ふっふっふ、あら、なんだか楽しそうですわね」
白井のわざとらしい声も加わり一七七支部には笑い声が木霊した。
「わたくし急用を思い出しましたわ。初春、後はよろしくお願いしますですわ。それではごきげんよう」
踵を返し、そそくさと立ち去ろうとする白井の手をがしりと掴む物があった。言うまでも無い、初春の手だ。
「あーっと。そうは問屋が卸しませんよ。そんな都合良く急用とか思い出すわけ無いじゃ無いですか!」
「チッ」
「今、舌打ちしましたね?」
「してませんわ」
「絶対しました!あんなあからさまな舌打ち初めてです」
「気のせいですわよ」
白井はわざとらしく口笛を吹いた。
「いいですか白井さん、嘘はいけません。嘘は最低です。まぁ世の中には『吐いてもいい嘘』ってのも確かに存在しますけど、
それらはあくまでも例外って場所に分類しておいて欲しいんですよッ」
逃げられてたまるか!とばかりに白井の腰に初春がしがみついて来る。その目は真剣そのものだ。
「うわーん。このままでは私一人が面倒な事件に関わる事になってしまうのは明白なんです。一応定められたマニュアルに従って
本来の所轄である警備員の方々への連絡は済ましてあるんですけど、事態はどうも望まない方向へと転がって行ってるって感じ
なんですよー。この前みたいに、応援の警備員の方々が私に状況説明を求めてくるのはもはや当たり前すぎて確定事項なんです!」
踵を返し、そそくさと立ち去ろうとする白井の手をがしりと掴む物があった。言うまでも無い、初春の手だ。
「あーっと。そうは問屋が卸しませんよ。そんな都合良く急用とか思い出すわけ無いじゃ無いですか!」
「チッ」
「今、舌打ちしましたね?」
「してませんわ」
「絶対しました!あんなあからさまな舌打ち初めてです」
「気のせいですわよ」
白井はわざとらしく口笛を吹いた。
「いいですか白井さん、嘘はいけません。嘘は最低です。まぁ世の中には『吐いてもいい嘘』ってのも確かに存在しますけど、
それらはあくまでも例外って場所に分類しておいて欲しいんですよッ」
逃げられてたまるか!とばかりに白井の腰に初春がしがみついて来る。その目は真剣そのものだ。
「うわーん。このままでは私一人が面倒な事件に関わる事になってしまうのは明白なんです。一応定められたマニュアルに従って
本来の所轄である警備員の方々への連絡は済ましてあるんですけど、事態はどうも望まない方向へと転がって行ってるって感じ
なんですよー。この前みたいに、応援の警備員の方々が私に状況説明を求めてくるのはもはや当たり前すぎて確定事項なんです!」
だから彼女は必死だ。もう一度繰り返す。初春飾利は必死だった。必死過ぎて白井を捕まえる両の手には必要以上に力が籠もっていた。
極端な話、とても痛い。白井が。白井黒子のウエストの辺りがとても痛い。
「嘘じゃありませんわ!わたくしの体内ではいま激しくお姉様エナジーが不足してますの!今にも枯渇しそうですのっ!」
「お姉様エナジー!?そんな不思議な成分が人間の体に存在する訳無いじゃ無いですか。冗談ばっかり言ってないでたまには
優しく手伝ってくれても良いじゃあ無いですかぁ!」
「わたくしの体には存在するんですのぉぉぉ!」
白井も初春とは別の意味で必死だった。
ここ最近お姉様――つまり敬愛する御坂美琴と白井黒子が接する時間は大幅に削られている。
それもこれも、このお花大好き少女が、白井に押し付けてくる、大小様々な厄介事の数々が、その原因の一つだ。
数々なのだから厳密には一つでは無かったりもするのだが、要するにこれ以上付き合ってられるか、と言う事だ。
「早急にお姉様エナジーを補わないと命の危険すらありえますわ。集中力も低下しますし」
「あんまり意地悪しないで下さいよ白井さん。私の命が危ないんですよ。知らないんですか?命が危ないととっても危険なんですよ!」
「訳がわかりませんわ。なんで状況説明だけでそこまで飛躍するんですの?とにかく今すぐにでもお姉様に熱烈な抱擁をしないと
わたくしはきっと明日の夜明けを見る事無く死んでしまいますわ。だからその手を離しなさい初春ゥ」
右手で初春の頬を押しのけるようにして白井は抵抗を試みる。が、一向に初春は白井から離れない。
だって必死なのだ。全力なのだ。人間やろうと思えばとんでもない力が出せるのだ。俗に言う火事場のなんとやら、である。
「いやですぅぅ!白井さん知らないんですか?説明って面倒なんですよ!面倒なのは誰だって嫌いですよね?私だって嫌いなんです。
だから白井さんは私の手伝いをしてくれないと困っちゃうんです!手伝ってくださいよ白井さん」
初春の両手は白井の腰から首へと場所を変えた。ついでに締めた。キュッと締めた。
気道を圧迫され白井の息が詰まった。
「ぐぁ」
「警備員の人って本当に細かい事まで説明を求めてくるんですよ?細かい説明は面倒なんですよ!面倒なのは誰だって嫌いです!
いいですか白井さん?私は面倒なのが嫌いなんです!だから手伝ってください、お願いです」
初春は半狂乱気味に喚き立て、掴んだ白井の首をそのままブンブンと激しく前後に揺する。
白井の首ががっくんがっくんと、ちょっとやばげに、壊れた水飲み人形みたいに動く。
「く、くるしいですわ……」
弱弱しく白井の手が初春の手を掴んだ。
「聞いてますか?白井さん。根掘り葉掘り聞かれるのはとにかく面倒です!面倒なのはみんな嫌いです。そうでしょ?
私も本当に面倒くさいのが嫌いなんです!いや嫌いなんじゃなくて本当は苦手なんですけど、この際どっちでも良いですね。
根掘り葉掘りの根掘りは判るとして葉堀りって一体なんなんでしょうね?根っこは掘れるけど葉っぱなんて掘ったら反対側が覗けちゃう
と思うんですが、まあ今は関係無いですよね。
警備員(アンチスキル)の人もぺーぺーの風紀委員(ジャッジメント)である私の説明なんかより、すらすらと答えてくれそうな白井さんの方が良いに
決まってるじゃないですか!白井さん?白井さ~ん!私の話を聞いてくださ~い」
ヘッドバンギングはいよいよヘビメタ系アーティストのライブもかくやといった具合に絶好調の極みだった。
二本のツインテールの先っぽが空中に孤を描き、規則的な縦運動にはついに、右回転まで加わった。
遠心力は速度の二乗で増加し、白井の視界も螺旋を辿る。
「目が、息が――」
わなわなと痙攣しだした白井の両手の動きが不意に止まり、力無くだらんと垂れ下がる。
「白井さ~ん、寝たら死んじゃいますよぉ!起きてください起きてください起きてください――」
初春は訳の分からない台詞を吐きながら白井を揺する。揺する。超揺する。縦縦横横丸書いてちょん。上上下下右左右左BA。
とにかく揺すった。
「――シッ!!」
小さく吐き出した吐息と共にギラリと白井の目に一瞬だけ活力が戻った。
そして白井の両手が手刀の形を取り、下から一気に跳ね上がった。
目標は首を掴む初春の手首。
空中で合掌するように合わせられた手刀は、細い手首の間へと、強引に滑り込んだ。
そして人間の構造上どうしても力が掛かりにくい場所から左右へと力任せに押し開く。
「いい加減にしなさいですのぉぉ!」
「はぅぁ!?」
背景に巨大な炎を背負って大噴火したツインテールの怒号でビクゥ!と初春が正気に戻った。
風紀委員(ジャッジメント)の四ヶ月に及ぶ研修の中には基本的な格闘技の研修があったりする。
当然相手に掴まれた場合、首を絞められた場合の対処法もある。今のはその応用だ。
白井黒子の研修中に格闘技の研修を担当していた女性の警備員(アンチスキル)もまさか同じ風紀委員(ジャッジメント)同士でその成果を発揮する事に
なるとは夢にも思うまい。
本当、人生何が役に立つか分からない。
白井はこの時、教官役の警備員(アンチスキル)に心から感謝した。
「そのうち本当に死んでしまいますわッ!少しアレンジしただけの同じ言葉を早口で誤魔化して何度も何度も使って畳みかけようとしても
わたくしは断固として拒否致しますわ。結局あなたが面倒なだけじゃないですの!」
ダンダンダンと地団駄を踏み、続いてハァハァと荒い息をつく白井。なんだか目が据わってる。
「面倒くさいの嫌いなんですー。これだけ頼んでも引き受けてくれないっていうんですか?
白井さんのいけず!意地悪!ツインテール!腹黒!百合系!このお嬢様め!」
「なんですの、その言い草はッ、この花瓶!はなぺちゃ!やせっぽち!セーラー服娘!他力本願!地味子!発育不良!
頭の上だけじゃなくて中にまでお花が咲いてしまった四季折々娘!しっかり雑草を抜いておかないからこんな事になるんですの!」
「白井さんッ雑草などという草は無いんです!観念して手伝ってください」
「カッコいい事言いながらちゃっかりと自分の要求だけ通そうとするんじゃないですわ!」
思いつく限りの悪口(?)を互いに浴びせあい、二人の中学一年生による不毛な罵り合いはしばらく続いた。
「嘘じゃありませんわ!わたくしの体内ではいま激しくお姉様エナジーが不足してますの!今にも枯渇しそうですのっ!」
「お姉様エナジー!?そんな不思議な成分が人間の体に存在する訳無いじゃ無いですか。冗談ばっかり言ってないでたまには
優しく手伝ってくれても良いじゃあ無いですかぁ!」
「わたくしの体には存在するんですのぉぉぉ!」
白井も初春とは別の意味で必死だった。
ここ最近お姉様――つまり敬愛する御坂美琴と白井黒子が接する時間は大幅に削られている。
それもこれも、このお花大好き少女が、白井に押し付けてくる、大小様々な厄介事の数々が、その原因の一つだ。
数々なのだから厳密には一つでは無かったりもするのだが、要するにこれ以上付き合ってられるか、と言う事だ。
「早急にお姉様エナジーを補わないと命の危険すらありえますわ。集中力も低下しますし」
「あんまり意地悪しないで下さいよ白井さん。私の命が危ないんですよ。知らないんですか?命が危ないととっても危険なんですよ!」
「訳がわかりませんわ。なんで状況説明だけでそこまで飛躍するんですの?とにかく今すぐにでもお姉様に熱烈な抱擁をしないと
わたくしはきっと明日の夜明けを見る事無く死んでしまいますわ。だからその手を離しなさい初春ゥ」
右手で初春の頬を押しのけるようにして白井は抵抗を試みる。が、一向に初春は白井から離れない。
だって必死なのだ。全力なのだ。人間やろうと思えばとんでもない力が出せるのだ。俗に言う火事場のなんとやら、である。
「いやですぅぅ!白井さん知らないんですか?説明って面倒なんですよ!面倒なのは誰だって嫌いですよね?私だって嫌いなんです。
だから白井さんは私の手伝いをしてくれないと困っちゃうんです!手伝ってくださいよ白井さん」
初春の両手は白井の腰から首へと場所を変えた。ついでに締めた。キュッと締めた。
気道を圧迫され白井の息が詰まった。
「ぐぁ」
「警備員の人って本当に細かい事まで説明を求めてくるんですよ?細かい説明は面倒なんですよ!面倒なのは誰だって嫌いです!
いいですか白井さん?私は面倒なのが嫌いなんです!だから手伝ってください、お願いです」
初春は半狂乱気味に喚き立て、掴んだ白井の首をそのままブンブンと激しく前後に揺する。
白井の首ががっくんがっくんと、ちょっとやばげに、壊れた水飲み人形みたいに動く。
「く、くるしいですわ……」
弱弱しく白井の手が初春の手を掴んだ。
「聞いてますか?白井さん。根掘り葉掘り聞かれるのはとにかく面倒です!面倒なのはみんな嫌いです。そうでしょ?
私も本当に面倒くさいのが嫌いなんです!いや嫌いなんじゃなくて本当は苦手なんですけど、この際どっちでも良いですね。
根掘り葉掘りの根掘りは判るとして葉堀りって一体なんなんでしょうね?根っこは掘れるけど葉っぱなんて掘ったら反対側が覗けちゃう
と思うんですが、まあ今は関係無いですよね。
警備員(アンチスキル)の人もぺーぺーの風紀委員(ジャッジメント)である私の説明なんかより、すらすらと答えてくれそうな白井さんの方が良いに
決まってるじゃないですか!白井さん?白井さ~ん!私の話を聞いてくださ~い」
ヘッドバンギングはいよいよヘビメタ系アーティストのライブもかくやといった具合に絶好調の極みだった。
二本のツインテールの先っぽが空中に孤を描き、規則的な縦運動にはついに、右回転まで加わった。
遠心力は速度の二乗で増加し、白井の視界も螺旋を辿る。
「目が、息が――」
わなわなと痙攣しだした白井の両手の動きが不意に止まり、力無くだらんと垂れ下がる。
「白井さ~ん、寝たら死んじゃいますよぉ!起きてください起きてください起きてください――」
初春は訳の分からない台詞を吐きながら白井を揺する。揺する。超揺する。縦縦横横丸書いてちょん。上上下下右左右左BA。
とにかく揺すった。
「――シッ!!」
小さく吐き出した吐息と共にギラリと白井の目に一瞬だけ活力が戻った。
そして白井の両手が手刀の形を取り、下から一気に跳ね上がった。
目標は首を掴む初春の手首。
空中で合掌するように合わせられた手刀は、細い手首の間へと、強引に滑り込んだ。
そして人間の構造上どうしても力が掛かりにくい場所から左右へと力任せに押し開く。
「いい加減にしなさいですのぉぉ!」
「はぅぁ!?」
背景に巨大な炎を背負って大噴火したツインテールの怒号でビクゥ!と初春が正気に戻った。
風紀委員(ジャッジメント)の四ヶ月に及ぶ研修の中には基本的な格闘技の研修があったりする。
当然相手に掴まれた場合、首を絞められた場合の対処法もある。今のはその応用だ。
白井黒子の研修中に格闘技の研修を担当していた女性の警備員(アンチスキル)もまさか同じ風紀委員(ジャッジメント)同士でその成果を発揮する事に
なるとは夢にも思うまい。
本当、人生何が役に立つか分からない。
白井はこの時、教官役の警備員(アンチスキル)に心から感謝した。
「そのうち本当に死んでしまいますわッ!少しアレンジしただけの同じ言葉を早口で誤魔化して何度も何度も使って畳みかけようとしても
わたくしは断固として拒否致しますわ。結局あなたが面倒なだけじゃないですの!」
ダンダンダンと地団駄を踏み、続いてハァハァと荒い息をつく白井。なんだか目が据わってる。
「面倒くさいの嫌いなんですー。これだけ頼んでも引き受けてくれないっていうんですか?
白井さんのいけず!意地悪!ツインテール!腹黒!百合系!このお嬢様め!」
「なんですの、その言い草はッ、この花瓶!はなぺちゃ!やせっぽち!セーラー服娘!他力本願!地味子!発育不良!
頭の上だけじゃなくて中にまでお花が咲いてしまった四季折々娘!しっかり雑草を抜いておかないからこんな事になるんですの!」
「白井さんッ雑草などという草は無いんです!観念して手伝ってください」
「カッコいい事言いながらちゃっかりと自分の要求だけ通そうとするんじゃないですわ!」
思いつく限りの悪口(?)を互いに浴びせあい、二人の中学一年生による不毛な罵り合いはしばらく続いた。
数分後――。
「手伝う手伝わないは別として、そろそろ休戦致しませんこと?一応話ぐらいは聞いて差し上げますから」
白井が諦めたように呟くのは、二人の少女のボキャブラリーが双方共に尽きた頃だった。
「白井さんなら、そろそろそう言ってくれるって私信じてました。でも本当は手伝うって言って欲しいですね」
まだ言うか――と、空間移動(テレポート)で急接近した白井のデコピンが、カッツーンと初春のオデコに火を噴いた。
「のー!白井さんったら冗談が通じないんですから」
少し赤くなった額を押さえながら初春は言う。心無しか頭の花がすこししおれてる気がする。
初春は軽く涙目になりながら、給湯室に引っ込んだ。
「紅茶でいいですか?」
「コーヒーがあるならコーヒーで」
空きっ腹に紅茶を流し込むぐらいならコーヒーの方がまだ胃に優しそうな気がした。
少ししてコーヒーカップを持って初春が戻ってきた。数は二つ。もちろん初春と白井の分だ。
白井は差し出されたコーヒーカップを、適当なビジネスデスクに腰掛けて受け取った。
「なんで机なんです?」
これは初春の疑問。なんで机に座るのか?椅子ならいっぱいあるのに?という意味だろう。
「わたくし、その椅子嫌いですの」
即答で返す。
一七七支部にある椅子は、全てが初春が座る椅子と同じデザイン。普通の椅子は無い。
変にお尻にフィットするあの椅子は白井的に嫌だ。
椅子が無いと座れない。
だから消去法で座るのは机しか無いじゃないかという事になる。
行き着いた答えがコレだ。
「白井さん。お嬢様が机に腰掛けるのはお行儀悪いんじゃ無いですか?」
「例え机に腰掛けてても絵になるのが真のお嬢様ですのよ」
「そういうものですか?」
「そういうものですの」
「じゃあ御坂嬢がそれをやれば、さぞ絵になるんでしょうね」
まあ、しそうにありませんけどね――、と初春は続けたが白井の耳にはまるで届いていなかった。
(お姉様が机に腰掛けて!?ああ、なんてすばらしい構図!見下ろすあの勝気な瞳……考えただけでもゾクゾクしますわ)
脳内インスピレーションを全開で開放していた白井は、コーヒーカップを両手で持って固まっている様に見えた。
少なくとも初春にはそう見えた。
「白井さん?コーヒーはお嫌いでしたか?」
一向に飲まない白井を怪訝に思い、初春が声を掛けた。
「ハッ!?……ちょっと考え事をしてただけですわ。それにしてもこのコーヒーは入れた人間の心が反映されてる様に黒いですわね」
あはははは――、と二人の少女の乾いた笑いがオフィス調の部屋に響いた。
「やだなぁ白井さん、砂糖とミルクが欲しいなら素直にそう言ってくださいよ」
そして唐突にこんな事を言った。
「白井さん、コーヒーの楽しみ方を思いつきましたよ」
にこやかな笑顔で初春は、どこからとも無く取り出したスティックシュガーとポーションタイプのミルクを白井の持つコーヒーカップ
へと注ぎ、プラスチックスプーンでぐるぐるとかき回す。
「コーヒーはまず見た目を楽しんでから……砂糖を入れてミルクを一杯」
「それワインの楽しみ方じゃないですの?」
コーヒーカップの中では白と黒が渦巻いて混ざり合っていた。
「次に香ばしい香りを楽しんで……砂糖を入れてミルクを一杯」
「聞けよ話、ですの」
初春が手品のようにミルクのポーションを取り出してコーヒーカップに注ぐ。白井のカップの中身に白みが増した。
ついでに砂糖も追加された。
「最後に味を楽しんでから……砂糖を入れてミルクを一杯」
「飲んでないじゃないですの……」
プラスチックスプーンが円を描き、更に追加されたミルクと砂糖を灰色の液体に溶かし込む。
「今回はコーヒーですけど。学校でお茶ってのは何度考えても優雅なイメージがありますよね。残骸事件の時は結局教えてもらえません
でしたから今度本格的に紅茶を教えてくださいよ、白井さん。……砂糖を入れてミルクを一杯」
灰色をとっくに通り過ぎても白の侵食は止まらない。甘ったるい匂いをさせる『ほぼ白い飲み物』は溢れんばかりに増量された。
白井はとりあえず軽く脳天にチョップする事にした。
「って入れすぎですわ。いい加減にしないとコーヒーとミルクの比率が逆転してしまいますわよ」
「え、でも。白井さんの『黒いの』を私レベルまで『白く』するにはッぎゃわー!」
無言で白井のデコピンが炸裂。本日二発目の思いやりにかける破壊力に初春は額を押さえてヨタヨタとふらつく。
「わたくし面白くない冗談は嫌いですの。言うならもっと面白い冗談にしてもらえませんこと」
「ほんのウィットに富んだジョークだったのにぃ」
「カップの淵ぎりぎりにまでミルクと砂糖を継ぎ足して言うことはそれだけですの?」
レシピとしてはミルクがいくつか。スティックシュガーもやはりいくつか。いくつ追加されたかも判らない。でも飲まなくても判る。
きっと、とんでもなく甘い。いうなれば理不尽な甘さだ。どれくらい理不尽かといえば100gのシュークリームの中に含まれてる
砂糖の量が丁度100gですよ!ってぐらい理不尽だ。
甘さの表現で『獰猛』とか『狡猾』とかが使えるのならきっとそんな感じ。
ぶっちゃけると、とても飲めた物では無い。
全世界のコーヒーの製造に関わる人達、流通させてる人達に謝れ、ひたすら謝れ、謝りまくれとすら思える甘さだ。
だから飲まない。それどころか1㎜も動かせない。動かした瞬間に零れるのは目に見えている。
早々に白コーヒーに見切りをつけ、ポットの傍らにコーヒーカップを空間移動(テレポート)させ放置すると。
途端に手持ち無沙汰になりそっぽ向いてツインテールの先っぽを指先でいじくる羽目になった。
「手伝う手伝わないは別として、そろそろ休戦致しませんこと?一応話ぐらいは聞いて差し上げますから」
白井が諦めたように呟くのは、二人の少女のボキャブラリーが双方共に尽きた頃だった。
「白井さんなら、そろそろそう言ってくれるって私信じてました。でも本当は手伝うって言って欲しいですね」
まだ言うか――と、空間移動(テレポート)で急接近した白井のデコピンが、カッツーンと初春のオデコに火を噴いた。
「のー!白井さんったら冗談が通じないんですから」
少し赤くなった額を押さえながら初春は言う。心無しか頭の花がすこししおれてる気がする。
初春は軽く涙目になりながら、給湯室に引っ込んだ。
「紅茶でいいですか?」
「コーヒーがあるならコーヒーで」
空きっ腹に紅茶を流し込むぐらいならコーヒーの方がまだ胃に優しそうな気がした。
少ししてコーヒーカップを持って初春が戻ってきた。数は二つ。もちろん初春と白井の分だ。
白井は差し出されたコーヒーカップを、適当なビジネスデスクに腰掛けて受け取った。
「なんで机なんです?」
これは初春の疑問。なんで机に座るのか?椅子ならいっぱいあるのに?という意味だろう。
「わたくし、その椅子嫌いですの」
即答で返す。
一七七支部にある椅子は、全てが初春が座る椅子と同じデザイン。普通の椅子は無い。
変にお尻にフィットするあの椅子は白井的に嫌だ。
椅子が無いと座れない。
だから消去法で座るのは机しか無いじゃないかという事になる。
行き着いた答えがコレだ。
「白井さん。お嬢様が机に腰掛けるのはお行儀悪いんじゃ無いですか?」
「例え机に腰掛けてても絵になるのが真のお嬢様ですのよ」
「そういうものですか?」
「そういうものですの」
「じゃあ御坂嬢がそれをやれば、さぞ絵になるんでしょうね」
まあ、しそうにありませんけどね――、と初春は続けたが白井の耳にはまるで届いていなかった。
(お姉様が机に腰掛けて!?ああ、なんてすばらしい構図!見下ろすあの勝気な瞳……考えただけでもゾクゾクしますわ)
脳内インスピレーションを全開で開放していた白井は、コーヒーカップを両手で持って固まっている様に見えた。
少なくとも初春にはそう見えた。
「白井さん?コーヒーはお嫌いでしたか?」
一向に飲まない白井を怪訝に思い、初春が声を掛けた。
「ハッ!?……ちょっと考え事をしてただけですわ。それにしてもこのコーヒーは入れた人間の心が反映されてる様に黒いですわね」
あはははは――、と二人の少女の乾いた笑いがオフィス調の部屋に響いた。
「やだなぁ白井さん、砂糖とミルクが欲しいなら素直にそう言ってくださいよ」
そして唐突にこんな事を言った。
「白井さん、コーヒーの楽しみ方を思いつきましたよ」
にこやかな笑顔で初春は、どこからとも無く取り出したスティックシュガーとポーションタイプのミルクを白井の持つコーヒーカップ
へと注ぎ、プラスチックスプーンでぐるぐるとかき回す。
「コーヒーはまず見た目を楽しんでから……砂糖を入れてミルクを一杯」
「それワインの楽しみ方じゃないですの?」
コーヒーカップの中では白と黒が渦巻いて混ざり合っていた。
「次に香ばしい香りを楽しんで……砂糖を入れてミルクを一杯」
「聞けよ話、ですの」
初春が手品のようにミルクのポーションを取り出してコーヒーカップに注ぐ。白井のカップの中身に白みが増した。
ついでに砂糖も追加された。
「最後に味を楽しんでから……砂糖を入れてミルクを一杯」
「飲んでないじゃないですの……」
プラスチックスプーンが円を描き、更に追加されたミルクと砂糖を灰色の液体に溶かし込む。
「今回はコーヒーですけど。学校でお茶ってのは何度考えても優雅なイメージがありますよね。残骸事件の時は結局教えてもらえません
でしたから今度本格的に紅茶を教えてくださいよ、白井さん。……砂糖を入れてミルクを一杯」
灰色をとっくに通り過ぎても白の侵食は止まらない。甘ったるい匂いをさせる『ほぼ白い飲み物』は溢れんばかりに増量された。
白井はとりあえず軽く脳天にチョップする事にした。
「って入れすぎですわ。いい加減にしないとコーヒーとミルクの比率が逆転してしまいますわよ」
「え、でも。白井さんの『黒いの』を私レベルまで『白く』するにはッぎゃわー!」
無言で白井のデコピンが炸裂。本日二発目の思いやりにかける破壊力に初春は額を押さえてヨタヨタとふらつく。
「わたくし面白くない冗談は嫌いですの。言うならもっと面白い冗談にしてもらえませんこと」
「ほんのウィットに富んだジョークだったのにぃ」
「カップの淵ぎりぎりにまでミルクと砂糖を継ぎ足して言うことはそれだけですの?」
レシピとしてはミルクがいくつか。スティックシュガーもやはりいくつか。いくつ追加されたかも判らない。でも飲まなくても判る。
きっと、とんでもなく甘い。いうなれば理不尽な甘さだ。どれくらい理不尽かといえば100gのシュークリームの中に含まれてる
砂糖の量が丁度100gですよ!ってぐらい理不尽だ。
甘さの表現で『獰猛』とか『狡猾』とかが使えるのならきっとそんな感じ。
ぶっちゃけると、とても飲めた物では無い。
全世界のコーヒーの製造に関わる人達、流通させてる人達に謝れ、ひたすら謝れ、謝りまくれとすら思える甘さだ。
だから飲まない。それどころか1㎜も動かせない。動かした瞬間に零れるのは目に見えている。
早々に白コーヒーに見切りをつけ、ポットの傍らにコーヒーカップを空間移動(テレポート)させ放置すると。
途端に手持ち無沙汰になりそっぽ向いてツインテールの先っぽを指先でいじくる羽目になった。
「白井さん」
初春の呼び掛けにぴくりと白井が反応を示し、顔を向けた。
「やっと本題ですの?」
「そうです。白井さんを呼び戻したのは他でも無くてですね」
初春はそこで一旦言葉を切った。少し考えてから一台のコンピューターへと向かい、白井に背を向けた。
白井がしばらく後姿を眺めてると無線LANで部屋中の端末とリンクしている横に置かれたプリンターが動き出した。
学園都市の電化製品は総じて高性能だ。
風紀委員第一七七支部備え付けの備品であるプリンターも例に漏れず、大いに静粛性を発揮し数枚のA4用紙を吐き出し動きを止める。
「まずはこれを見てもらえますか」
初春はプリンターからA4用紙を引っつかんで白井に差し出した。
初春の呼び掛けにぴくりと白井が反応を示し、顔を向けた。
「やっと本題ですの?」
「そうです。白井さんを呼び戻したのは他でも無くてですね」
初春はそこで一旦言葉を切った。少し考えてから一台のコンピューターへと向かい、白井に背を向けた。
白井がしばらく後姿を眺めてると無線LANで部屋中の端末とリンクしている横に置かれたプリンターが動き出した。
学園都市の電化製品は総じて高性能だ。
風紀委員第一七七支部備え付けの備品であるプリンターも例に漏れず、大いに静粛性を発揮し数枚のA4用紙を吐き出し動きを止める。
「まずはこれを見てもらえますか」
初春はプリンターからA4用紙を引っつかんで白井に差し出した。
とりあえず出された以上は受け取るしか無い。
白井は足をぶらぶらさせながら、ひょいとA4用紙をつまんで自分の顔の前まで持ってくると、ザッと書類に目を通す。
A4用紙の内容はいくつかの写真と検証で構成された報告書のような物。
とりあえず雰囲気だけ把握し白井は顔を上げた。
「なんですのこれ?」
「今日のお昼過ぎに繁華街を警邏中の警備員が発見した事故現場に関する報告書です」
「初耳ですわね」
「今言いました最新情報です」
初春が最新情報と言うからには本当に最新の情報なのだろう。こと情報収集に関しては白井も舌を巻くしかない程、初春飾利という
風紀委員(ジャッジメント)は優秀なのだ。
「初春、これはどういう事ですの?」
「読んだ通りですよ、白井さん」
「読んで判らないから聞いてるんですの」
書かれた文面をつらつらと読み進めるが、報告書特有の主観を取り払った表現で書かれてる為、いまいち状況が浮かんでこない。
報告書としては多分"良"なのだろう。白井的には"不可"だったが。
写真付で説明された文章を、斜めに読み進めていた白井の目は、ふと"ある一文"に留まった。
「"戦闘の痕跡有り"」
顔を上げて、パンッとA4用紙を右手の甲で叩き、白井はその言葉を強調した。
初春も、白井が言わんとする事がわかってるようで、淀むこと無く対応する。
「レーザープリンターのモノトーン画像じゃ良くわかりませんね。こっちに画像データもありますよ、見ますか?」
「見るに決まってますわ」
ビジネスデスクから飛び降りて、コンピューターを操作する初春の椅子の背もたれに片手を掛けてモニターを覗き込む。
サムネイルで表示された数枚の画像がモニターに表示されていた。
さきほどの書類に載っていた物と同じ。但しこちらは鮮明なカラー画像だ。
鋭い切り口で斜めに切断された街灯の支柱。
とんでもない圧力を受けて、ひしゃげ、粉砕され、小さな瓦礫になったコンクリート片と、それらが収まっていたであろう大穴の開いた
コンクリート製の壁。
割れた窓ガラス。アスファルトに突き刺さった閉店した中華料理屋の看板。
続いて初春が操作するコンピューターのモニターにGPSのような地図が表示された。
「それは?」
「この赤いのがそれぞれの痕跡です。ここからこう移動してたんでは無いかと思われます」
地図にはいくつかの赤い点が点在していた。初春の指が痕跡を辿って行く。白井がその先を追えば繁華街の狭い路地裏の入り口辺りから
途端に赤い点が集中している。というかほとんどがここだ。
「現場はこの辺りですのね」
「ええ、この路地裏で戦闘していたのは間違いなさそうです。この路地裏は監視衛星の死角になっちゃうんですけど繁華街にも監視カメラは
ありますからね。それに痕跡を分析すれば使われた能力も予想がつきます」
「目星はついてるということですの?」
「ええ。これが決め手です。おかげで假名垣さんに連絡が取れない理由がわかっちゃいましたよ。
そりゃ携帯が壊れてれば連絡取れないですよね」
そう言って初春はモニターの後ろの辺りをなにやらごそごそと探る。引っこ抜かれたその手には、警察の鑑識班が使いそうな
チャック付の厚手のビニール袋が握られていた。
中身はピンク色の二つ折りタイプの携帯電話らしいもの。ヒンジ部分から乱暴に分割されている。
これでは通話はおろか電源すら入らないだろう。
「真っ二つにへし折られちゃってますね。地面に落ちた携帯電話を掴んでばっきん!ってところでしょうかね。
中身も強力な電磁波でも浴びたのかメモリーやらチップやら、とにかく全部オシャカです」
初春が片手を開く。パーです、と言いたいのだろう。
「掴んだのなら指紋が残ってるんじゃありませんこと?」
「さぁ?手袋でもしてたんですかね。携帯電話からは"一人分"の指紋しか出てきませんでした。携帯電話のシリアルナンバーも照合
しましたがこの携帯電話は間違いなく假名垣皐月(かながき さつき)さんの物です」
「路地裏の破壊跡は彼女が誰かと戦闘した跡というんですの?」
戦闘。それも割と全力で。画像のような破壊を行なえるだけの威力をもし人間が喰らったらどうなるかは容易に想像できる。
(でもそこまでやっても勝てていないですわ)
「痕跡から見てそれが正解だと思いますよ。真空の刃とかは風力使い(エアロシューター)の人達の得意技じゃ無いですか。
すごいですよね、あれって鉄でも切断できるんですよね」
「初春、假名垣さんの能力はその画像のような破壊を行なう事が可能なんですの?」
「可能です。ていうか楽勝です。假名垣さんは大能力者(レベル4)の風力使い(エアロシューター)、能力名は『気流操作』(エアロタービュランス)です。
書庫(バンク)にあった実験データだけでも様々な結果を残してます。竜巻だとか短距離の飛行とかいろいろ」
白井は足をぶらぶらさせながら、ひょいとA4用紙をつまんで自分の顔の前まで持ってくると、ザッと書類に目を通す。
A4用紙の内容はいくつかの写真と検証で構成された報告書のような物。
とりあえず雰囲気だけ把握し白井は顔を上げた。
「なんですのこれ?」
「今日のお昼過ぎに繁華街を警邏中の警備員が発見した事故現場に関する報告書です」
「初耳ですわね」
「今言いました最新情報です」
初春が最新情報と言うからには本当に最新の情報なのだろう。こと情報収集に関しては白井も舌を巻くしかない程、初春飾利という
風紀委員(ジャッジメント)は優秀なのだ。
「初春、これはどういう事ですの?」
「読んだ通りですよ、白井さん」
「読んで判らないから聞いてるんですの」
書かれた文面をつらつらと読み進めるが、報告書特有の主観を取り払った表現で書かれてる為、いまいち状況が浮かんでこない。
報告書としては多分"良"なのだろう。白井的には"不可"だったが。
写真付で説明された文章を、斜めに読み進めていた白井の目は、ふと"ある一文"に留まった。
「"戦闘の痕跡有り"」
顔を上げて、パンッとA4用紙を右手の甲で叩き、白井はその言葉を強調した。
初春も、白井が言わんとする事がわかってるようで、淀むこと無く対応する。
「レーザープリンターのモノトーン画像じゃ良くわかりませんね。こっちに画像データもありますよ、見ますか?」
「見るに決まってますわ」
ビジネスデスクから飛び降りて、コンピューターを操作する初春の椅子の背もたれに片手を掛けてモニターを覗き込む。
サムネイルで表示された数枚の画像がモニターに表示されていた。
さきほどの書類に載っていた物と同じ。但しこちらは鮮明なカラー画像だ。
鋭い切り口で斜めに切断された街灯の支柱。
とんでもない圧力を受けて、ひしゃげ、粉砕され、小さな瓦礫になったコンクリート片と、それらが収まっていたであろう大穴の開いた
コンクリート製の壁。
割れた窓ガラス。アスファルトに突き刺さった閉店した中華料理屋の看板。
続いて初春が操作するコンピューターのモニターにGPSのような地図が表示された。
「それは?」
「この赤いのがそれぞれの痕跡です。ここからこう移動してたんでは無いかと思われます」
地図にはいくつかの赤い点が点在していた。初春の指が痕跡を辿って行く。白井がその先を追えば繁華街の狭い路地裏の入り口辺りから
途端に赤い点が集中している。というかほとんどがここだ。
「現場はこの辺りですのね」
「ええ、この路地裏で戦闘していたのは間違いなさそうです。この路地裏は監視衛星の死角になっちゃうんですけど繁華街にも監視カメラは
ありますからね。それに痕跡を分析すれば使われた能力も予想がつきます」
「目星はついてるということですの?」
「ええ。これが決め手です。おかげで假名垣さんに連絡が取れない理由がわかっちゃいましたよ。
そりゃ携帯が壊れてれば連絡取れないですよね」
そう言って初春はモニターの後ろの辺りをなにやらごそごそと探る。引っこ抜かれたその手には、警察の鑑識班が使いそうな
チャック付の厚手のビニール袋が握られていた。
中身はピンク色の二つ折りタイプの携帯電話らしいもの。ヒンジ部分から乱暴に分割されている。
これでは通話はおろか電源すら入らないだろう。
「真っ二つにへし折られちゃってますね。地面に落ちた携帯電話を掴んでばっきん!ってところでしょうかね。
中身も強力な電磁波でも浴びたのかメモリーやらチップやら、とにかく全部オシャカです」
初春が片手を開く。パーです、と言いたいのだろう。
「掴んだのなら指紋が残ってるんじゃありませんこと?」
「さぁ?手袋でもしてたんですかね。携帯電話からは"一人分"の指紋しか出てきませんでした。携帯電話のシリアルナンバーも照合
しましたがこの携帯電話は間違いなく假名垣皐月(かながき さつき)さんの物です」
「路地裏の破壊跡は彼女が誰かと戦闘した跡というんですの?」
戦闘。それも割と全力で。画像のような破壊を行なえるだけの威力をもし人間が喰らったらどうなるかは容易に想像できる。
(でもそこまでやっても勝てていないですわ)
「痕跡から見てそれが正解だと思いますよ。真空の刃とかは風力使い(エアロシューター)の人達の得意技じゃ無いですか。
すごいですよね、あれって鉄でも切断できるんですよね」
「初春、假名垣さんの能力はその画像のような破壊を行なう事が可能なんですの?」
「可能です。ていうか楽勝です。假名垣さんは大能力者(レベル4)の風力使い(エアロシューター)、能力名は『気流操作』(エアロタービュランス)です。
書庫(バンク)にあった実験データだけでも様々な結果を残してます。竜巻だとか短距離の飛行とかいろいろ」
目をきらきらさせ期待に満ちた眼差しで、白井を見つめる初春の視線を、軽く無視して白井は、
「――ああ、なんだかわたくしって不幸なヒロインを演じれそうですわね。トラブルが勝手に舞い込んできますわ」
と零した。
初春が「トラブルメーカー体質なんじゃ無いですか?」とか言った後に、短い悲鳴をあげて虚空に消えた。
次の瞬間彼女は白井の後ろのビジネスデスクへと落下していた。「ぎゃ」と短い悲鳴が聞こえたが当然無視する。
「いきなり空間移動(テレポート)ですか白井さん!お花が落ちちゃったじゃ無いですか、もう」
「当たり前ですわ。不意打ちはいきなりする物ですもの。声を出して襲撃するのは三流のする事ですわ」
「お嬢様は普通襲撃なんてしないと思うのは私だけですかね、白井さん。まぁそれはそうと良いヒロインのコツって知ってますか?
今思いついちゃったんですが、そのうち忘れちゃうと思うんで特別に教えてあげちゃいますよ」
腰の辺りを押さえ、落っことした花冠を拾いなおした初春がそんな事を言った。
「教える代わりに手伝えと?」
「まさか。そんな事言いませんよ」
なんだか嬉しそうな初春。
「なら聞きましょうか。科学万歳なこの学園都市にはファンタジー小説みたいにヒロインを攫う悪いドラゴンも
それを打倒する勇者もいませんわよ」
「何言ってるんですか、そんなファンタジー的な要素は必要ありませんよ。ヒロインが輝くにはたった一つの事をすればいいんですから」
「それはなんですの?」
首をかしげる白井。ヒロインに必要な事の候補が、いろいろと白井の頭を通過し、没と言う名のダストボックスへと捨てられていく。
いくつか白井にも該当しそうな候補もあったが、どこか違う気がした。
「わかりませんか?」
白井は唇に人差し指を軽く当てて、片目を瞑り考え込むが、やはり思い浮かばない。
やがて降参ですわ――、と両手を上に向けて肩を竦めた。
「わかりませんわ、それは必ずしも必要な事なんですの?」
「はい、必須事項です」
再び数秒考え込んだが結果は先程と大差ない。
せいぜい大きな亀に攫われるぐらいしか思い浮かばないが、それだと助けにくるのがヒゲオヤジだ。
白井はその脳内設定を全力で拒否した。
「やっぱりわかりませんわ」
白井の敗北宣言を聞いて、初春はビジネスデスクの上に座ったまま、
「それはですね――」
少し間を空け、
「まず事件に巻き込まれる事です」
とまだまだ発展途上の胸を張って、得意気に告げた。
「おや、こんな所におあつらえ向きな事件がありますよ。やりましたね白井さん、これでヒロイン確定です」
どうやら今日"も"白井黒子が『お姉様エナジー』を補充する事は出来そうに無さそうだ。
「はぁ……働き者ですわね、わたくしって」
深い溜息は、今の白井の気分を端的に表しているかの様だった。
[12月23日―PM14:32]
「――ああ、なんだかわたくしって不幸なヒロインを演じれそうですわね。トラブルが勝手に舞い込んできますわ」
と零した。
初春が「トラブルメーカー体質なんじゃ無いですか?」とか言った後に、短い悲鳴をあげて虚空に消えた。
次の瞬間彼女は白井の後ろのビジネスデスクへと落下していた。「ぎゃ」と短い悲鳴が聞こえたが当然無視する。
「いきなり空間移動(テレポート)ですか白井さん!お花が落ちちゃったじゃ無いですか、もう」
「当たり前ですわ。不意打ちはいきなりする物ですもの。声を出して襲撃するのは三流のする事ですわ」
「お嬢様は普通襲撃なんてしないと思うのは私だけですかね、白井さん。まぁそれはそうと良いヒロインのコツって知ってますか?
今思いついちゃったんですが、そのうち忘れちゃうと思うんで特別に教えてあげちゃいますよ」
腰の辺りを押さえ、落っことした花冠を拾いなおした初春がそんな事を言った。
「教える代わりに手伝えと?」
「まさか。そんな事言いませんよ」
なんだか嬉しそうな初春。
「なら聞きましょうか。科学万歳なこの学園都市にはファンタジー小説みたいにヒロインを攫う悪いドラゴンも
それを打倒する勇者もいませんわよ」
「何言ってるんですか、そんなファンタジー的な要素は必要ありませんよ。ヒロインが輝くにはたった一つの事をすればいいんですから」
「それはなんですの?」
首をかしげる白井。ヒロインに必要な事の候補が、いろいろと白井の頭を通過し、没と言う名のダストボックスへと捨てられていく。
いくつか白井にも該当しそうな候補もあったが、どこか違う気がした。
「わかりませんか?」
白井は唇に人差し指を軽く当てて、片目を瞑り考え込むが、やはり思い浮かばない。
やがて降参ですわ――、と両手を上に向けて肩を竦めた。
「わかりませんわ、それは必ずしも必要な事なんですの?」
「はい、必須事項です」
再び数秒考え込んだが結果は先程と大差ない。
せいぜい大きな亀に攫われるぐらいしか思い浮かばないが、それだと助けにくるのがヒゲオヤジだ。
白井はその脳内設定を全力で拒否した。
「やっぱりわかりませんわ」
白井の敗北宣言を聞いて、初春はビジネスデスクの上に座ったまま、
「それはですね――」
少し間を空け、
「まず事件に巻き込まれる事です」
とまだまだ発展途上の胸を張って、得意気に告げた。
「おや、こんな所におあつらえ向きな事件がありますよ。やりましたね白井さん、これでヒロイン確定です」
どうやら今日"も"白井黒子が『お姉様エナジー』を補充する事は出来そうに無さそうだ。
「はぁ……働き者ですわね、わたくしって」
深い溜息は、今の白井の気分を端的に表しているかの様だった。
[12月23日―PM14:32]