(3-6)
ミサカ10032号がミサカネットワークに呼びかけるとすぐに世界中の妹達(シスター
ズ)から応答があった。
(一体何事ですか?とミサカ19920号はまだ眠い目をこすりながら問い返します)
(今夜着るパジャマの柄をヒヨコにするかカエルにするかで迷っているミサカ14301
号は現在通常の19.7%しか思考を割けないことを予め言い訳しておきます)
(その代わり現在入浴中のミサカは通常より思考速度を7.4%UPできるでしょう
とミサカ15111号は入浴剤『日本の名湯~登別の湯~』のリラックス効果に上機嫌で応えます)
(前回の緊急議題は『お好み焼きに白ご飯は是か非か?』でしたが今回はそんなくだらな
い議題ではないでしょうね、とミサカ16358号は念のため釘を刺しておきます)
(今回の議題は妹達(シスターズ)の存在意義に関わるものです
とミサカ10032号はセンセーショナルに本議題の重要性を示唆します)
(了解しました、とミサカ10039号は手短に賛同の意を表明します)
(ではこれより第23017回全ミサカ評議会の開催します
とミサカ12581号は宣言し、ミサカ10032号に対して議題を提示するよう促します)
(ついにお姉様(オリジナル)が私達の当麻さんに対して攻勢に転じました!
とミサカ10032号は発生した緊急事態を簡潔に述べます)
ミサカ10032号の報告はミサカネットワーク内に無数のざわめきを生じさせる。
(あの素直でないお姉様が反攻作戦にでたというのならば確かに一大事です
とミサカ17663号はより詳細な戦況報告を要求します)
(本日一一○○(ひとひとまるまる)、お姉様は新兵器(手作りスポーツドリンク)を実戦投入。
その威力は絶大。お姉様は大戦果を上げた(当麻さんの住所を入手した)のみならず
当該兵器の技術移転の名目で上条家に進軍する大義名分を確保。
お姉様の攻勢に対しミサカも陽動作戦(お背中拭きます作戦)を発動するも、お姉様の
スケスケTシャツ攻撃の前に敗走。
もはやミサカにお姉様の上条家侵攻を阻止する有効な手段は残っていません
とミサカ10032号は報告を締めくくります)
ミサカ10032号の戦況報告にミサカネットワーク内にさらなる動揺が広がる。
そしてネットワークを飛び交う質問と回答そして推論と反論。抑揚のない口調の妹達
(シスターズ)でなければさながらそこは怒号飛び交う戦時の作戦司令部だったろう。
(当該作戦にお姉様が投入すると予測される戦力は?とミサカ13962号は尋ねます)
(当麻さんへの有効な火力は食料品であることは間違いありません
とミサカ13577号は断言します。
戦線に投入されるのは小火器(お菓子)あるいは重火器(手料理)で間違いないでしょう)
(最終兵器(お姉様自身)が使用される可能性はありませんか?
とミサカ19961号は昨夜見たティーンズラブの内容を思い出しつつ少しぶっ飛んだ
妄想をしてみます)
(果たしてお姉様が最終兵器使用に踏み切れるでしょうか?
とミサカ16334号はそのティーンズラブの内容について質問したいという本音を
押し殺しつつ、お姉様の最終兵器使用の可能性については疑問を投げかけてみます)
(通常ではあり得ないでしょう
とミサカ12666号はお姉様の性格と普段の行動パターンを分析しその可能性は
極めて低いと判断します)
(しかし近頃頻発する姫神秋沙の領海侵犯(当麻さんへのアプローチ)にお姉様が不満と
危機感をずいぶんと募らせているのは事実です
とミサカ19090号はあえて不安材料を投げ込んでみます)
(それに当麻さんのクラスメイトでないもどかしさがそれに拍車をかけている模様です
とミサカ13577号はさらに危機感を煽ってみます)
(その不満が臨界に達したときお姉様の一途さが暴走するのですね
とミサカ19961号は昨夜見たティーンズラブみたいに「他の女に奪われる位ならと
思い詰めた女子中学生が片思いの先輩の下宿に押し掛けて『もう遅いから帰れない』的
な流れで甘い一夜を過ごす」といった展開に身を委ねるお姉様の姿を妄想します)
(3-7)
(いい加減にしなさい!
とミサカ12581号は本題からずれ始めた会議を元に戻すために、上条家最終防衛
ラインの迎撃体勢はどうですか?と新たな質問をぶつけてみます)
(残念ながら最終防衛ラインを守る戦力(インデックス)は当麻さん自らの手によって他
方面へ転進させられる(小萌宅のお食事会に送り出される)ことが予測され、事実上無
防備状態でしょう、とミサカ10032号は結論づけます)
(万一お姉様が上条家に橋頭堡を築いた場合ミサカによる陣地奪還の可能性は残されていますか?
とミサカ10867号は少し弱気に尋ねてみます)
(極めて低いと結論せざるをえません。
それどころかミサカの存在感が今より薄く巫女さん以下になることすら懸念されます
とミサカ19982号は深刻そうに応えます)
(新たな迎撃プランはありますか?
とミサカ15399号は全ミサカに意見を求めます)
(お姉様の作戦発動日時は未だ不明。
ただし既にカウントダウン状態であることは確実。もはや時間的猶予はないでしょう
とミサカ10032号は推測します)
(白井黒子を参戦させるよう情報戦を仕掛けてはどうでしょう?
とミサカ17255号は提案します)
(あれは大量破壊兵器です。敵(お姉様)味方(ミサカ達)関係なく多大の被害を被るでしょう、
と以前地下街で執拗に追いかけ回された恐怖を未だ忘れることはできないミサカ10032号は
提出プランに反対の意見を述べます)
(お姉様を迎撃するより先手をとって当麻さんにアタックをかける方が良いのでは?
とミサカ16483号は前向きに考えます)
(なるほど。攻撃は最大の防御という訳ですね
とミサカ17992号は前向きな意見に賛同します)
(ではお姉様以上のインパクトを当麻さんに与えるにはどうしたら良いでしょう?
とミサカ10378号は現在直面する最大の難問についての検討を始めます)
(ミサカが習得した必殺技(悩殺ポーズ)ですら当麻さんには有効打となりませんでした
とミサカ10032号は追加報告します)
(それは単に魅力(バスト)が乏しいミサカ10032号に原因があるのでは?
とミサカ18468号はズバリ核心をついてみます)
(むむっ!ならばミサカより魅力(バスト)のあるミサカは名乗り出て下さい
とミサカ10032号は全ミサカに問いかけます)
少しの間をおいて全世界のミサカから次々とバストサイズが送られてきたが、やはりその
数値はmm単位で同じあった。と同時にそのレベルの低さにため息をつく全ミサカ達。
(ではウエストサイズで優劣をつけましょう、とミサカ19090号は緊急提案します)
(((((((((((((((((((((((((((((( 却下します ))))))))))))))))))))))))))))))
(……………………………)
ミサカ19090号の提案はミサカ19090号を除く全ミサカによって一瞬で却下され
てしまった。
(質が問題ならば量でカバーしてはどうでしょう
とミサカ15678号は『コロンブスの卵』的発想を披露してみます)
(10人でご奉仕すればその効果も10倍ということですね
とミサカ10039号は目からウロコ的発想に感動し激しく同意します)
(『ご奉仕』。なんとも艶めかしい響きです
とミサカ13577号は頬を赤らめながら呟きます)
(では学園都市に在住する全ミサカは各自速やかに装備を調え行動を開始して下さい
とミサカ12581号は締めくくり第23017回全ミサカ評議会の閉会を宣言します)
(((((((( 了解(ラジャー) ))))))))
こうして学園都市に在住する8人のミサカ達はミサカ10032号をサポートすべく遊園
地クラウンパレスへと向かうのであった。
(3-8)
一方の上条と御坂美琴はミサカネットワークにおいて不穏な計画が進行中であることなど
露知らず未だ互いの顔を直視できずにいた。
(落ち着け!落ち着くんだ。上条当麻。
いくらブラジャーが透けて見えたからっていっても相手(御坂)は中学生だ。
そう、冷静になれ!
確かに御坂は美少女だ。それは認めよう。
だからって発育途上の中学生の胸に高校生がときめくっていうのはマズイ。
いくら濡れたTシャツが張り付いてあんなにはっきり胸の輪郭が見えたからって……)
冷静になろうとする上条であったが脳裏に御坂美琴の胸の輪郭がフラッシュバックする度
心臓はドックンドックンと激しく脈打ち戻り掛けていた顔の赤みも再び増してしまう。
(だあぁぁっ!)
思わず頭を激しく振り妄想を追い払おうとする上条であった。
(この状況はマズイ。早く別の話題を見つけないと上条さんはどうにかなってしまいます。
何か別の話題…………そうだ!)
「そう言えば、さっきは観客席に男子中学生とか高校生とかも結構いたよな」
「そっ、そういえばそうだったわね。ハハッ」
「ここのショーってそんなに人気があるのか?」
「さあ?私はテレビってあんまり見ないからよく知らないけど高校生にも結構な数の隠れ
カナミンファンがいるらしいわよ。
でも遊園地のショーにまでやって来る物好き(マニア)は少ないと思うんだけど……」
「じゃあ、何でだろう?」
「本日当遊園地にて第3学区の小・中・高校による合同交流会が行われるとの情報があります。
件の高校生達は小学生の付き添いだと推測します
とミサカはさりげない素振りでお姉様と当麻さんの会話に割り込んでみます」
「そうか。今日は暑いから大変だろうな。まあ俺達よりはマシだろうけどさ」
「それならもう一杯スポーツドリンクをあげるからそのカップを持ちなさい!」
「おっ、サンキュー。ゴクゴク…………プファァアー、ふぃぃーっ」
「プファァ、ふぃぃーって、アンタは居酒屋の酔っぱらいサラリーマンか!?」
「てやんでぇ!あたしゃ酔っちゃいませんよ。御坂の旦那も一杯どうです?ヒック!」
「バカッ!もう何でアンタはそんなにノリが良いのよ!」
話題が替わったおかげで上条はようやく御坂美琴にいつもの軽口が言えるようになった。
「悪りぃ。悪りぃ。それだけお前のスポーツドリンクが美味いってことだよ」
「えっ、あっ……………………ありがとう」
上条の褒め言葉に思わず顔を赤らめてしまう御坂美琴であった。
いつものように無自覚に女心をくすぐる上条当麻。本当に罪な男である。
「そうだ、さっきも言ったけど俺だけ飲むのは申し訳ないからお前も飲んでみなよ」
上条は半ば強引に御坂美琴にカップを渡すと御坂美琴から水筒を受け取り、そのカップに
スポーツドリンクを注いでいく。
その様子を何気なく眺めていた御坂美琴はある重大なことに気付いた。
(あれ!?……………………
このカップってさっきコイツが使ったやつよね。…………
はっ!ということはこれってラブコメ漫画お約束の『間接キス』イベント!?)
とたんに御坂美琴の心臓は激しく鼓動し始める。
ドキドキと高鳴る鼓動が上条にも聞こえているのではないかと御坂美琴は身体を強張らせた。
しかしスポーツドリンクを注ぐ上条に気付いた様子はなく御坂美琴はホッと胸を撫で下ろした。
ならば気付かれる前にコト(間接キス)を済ませてしまおうと上条が注ぎ終わるのを今か
今かと待っていた。
しかし穴も空かんばかりにカップを見つめる御坂美琴はある重要な見落としに気付いた。
その時御坂美琴は正面の上条から渡されたカップをそのまま持っていた。
ということは上条が口を付けた部分は必然的に御坂美琴から最も遠い場所になる。
(あっ! しまった。
でもいまさら唐突にカップを半回転させたりしたら不自然よね、きっと。
どうしよう?……………………そうだ!
一旦カップを机に置いてちょっと会話してからさりげなく持ち直せば良いんじゃない。
ナイスアイデア!さすが美琴さん!)
御坂美琴は手に持ったカップをさりげなく机の上に置くために上条に話しかける。
(3-9)
「そうだ!これの作り方だけど次の金曜日に私がアンタの下宿に行って教えてあげる」
「え────っ?金曜日!?」
「なによ──っ!そんな顔して。なんか予定でも入ってんの?」
「いや、別に予定はないけどさ……………………」
「じゃあ、良いじゃない。次は土曜日で学校は休みなんだし丁度良いでしょ」
「なにが丁度良いんだよ!」
「えっ、イヤね!そんな意味じゃなくて…………ほら!アンタだって女の子が下宿に来る
んだからそれまでに色々片付けなきゃなんないことがあるんじゃないの?」
「バカ野郎!俺の部屋に御坂に見られて恥ずかしいもんなんてねえよ!」
そう言いつつ上条はインデックスをどうしようかと思考をフル回転させる。
そして結局(ここは小萌先生に頼んでインデックスを泊めてもらうしかない)という
妹達(シスターズ)の推測通りの結論に達していた。
一方、御坂美琴は目の前で上条が何か考え事を始めた今がチャンスとばかりにカップに
そっと手を伸ばす。
しかしあるハズの場所にカップはなく伸ばしたその手はむなしく宙を切っていた。
御坂美琴が(なんで?)っと周囲を見回すとなぜかカップは御坂妹が持っていた。
「お姉様が飲まないのならこのスポーツドリンクはミサカが頂きましょう
とミサカはお姉様に反論の隙を与えないよう間髪入れず一気に飲み干します」
そう言って御坂妹は上条が口を付けた側に口を付けてスポーツドリンクを飲み干した。
予期せぬ展開に御坂美琴は一瞬言葉を失ってしまった。
「な”っ!
なんてことすんのよ!アンタはああぁぁぁ!」
「はっ?何のことでしょう?
お姉様。食べ物を粗末にするともったいないお化けが出るのですよ
とミサカはお化けという非科学的事象を引用してミサカの正当性を主張します」
「誰も飲まないなんて言わなかったでしょ!」
「「……………………」」
二人とも無言ではあったが(お姉様の魂胆などお見通しです)と挑発するミサカ妹の視線
と(あとで憶えてなさい)と凄む御坂美琴の視線が見えない火花を散らせていた。
しかしこの緊張感溢れる状況にあっても上条は朴念仁らしくピント外れのことを言ってしまう。
それがどれだけ御坂美琴を追い詰めることになるのかも知らずに。
「おいおい、ちょっと待て!たかがスポーツドリンク一杯で姉妹ゲンカしなくても」
「うっさい!アンタは黙ってて!」
「そんなに怒るなって!御坂妹だってノドが渇いてたんだと思うぞ。
御坂妹、どうだ美味かったろ?」
「美味しいです!特にこのカップで飲むと美味しさが倍増します
とミサカは余韻を楽しむようかのような表情で絶賛します」
「じゃあ、御坂にちゃんと礼を言わないとな」
「ご馳走様でした。当麻さん!とミサカは頬を赤らめながら当麻さんにお礼を述べます」
「いや、だから俺じゃなくて御坂に礼を言えって!」
「ご馳走様でした。当麻さん!と言っているのに当麻さんはまだ気付かないのですね
とミサカはやはりこの人は筋金入りの朴念仁なのですねと嘆息しつつ呟きます。
間接キスですよ間接キス、と鈍感な当麻さんにも判るよう単刀直入に説明します」
「へっ?」
上条は一瞬何を言われたのかが判らなかった。
(カンセツキス?官設奇数?関節鱚?間接キス…………キスううぅぅぅ!?)
頭の中で四回繰り返しようやく事態を飲み込んだ上条は顔を一気に赤らめた。
「ばっ、バカ野郎!年上をからかうんじゃない!ははっ、
御坂妹のヤツ、おかしなこと言ってるよな。なあ御坂…………って、御坂?」
その時御坂美琴は少し俯いたまま両膝に置いた手をぎゅっと固く握りしめていた。
上条に声をかけられて御坂美琴は紅潮した顔を上げる。
その口元はギュッと結ばれており少し涙を浮かべた目は訴えるように上条を見つめている。
何かを思い詰めたような御坂美琴の様子にさすがの上条も心配になった。
「どうした、御坂?」
「わっ、わっ、わたしはねええぇぇぇぇ!」
御坂美琴はそう叫ぶなり御坂妹からカップを奪い取って手酌でスポーツドリンクを注ぎ出す。
(一体何事なんだ?)と戸惑う上条の前で、それを一気飲みすると今度は上条を睨み付け
手に持ったカップを半回転させてから上条に差し出した。
「えーっと、これは?」
「受け取りなさい!」
「はあ?」
「なによ!アンタは美琴さんの酌が受けられないっていうの!」
上条に強引に押しつけたカップにスポーツドリンクを注ぐとまたしても上条を睨み付けた。
(3-10)
上条は御坂美琴が何か思い詰めていることは判っていたがその理由に見当がつかなかった。
(えっーと、この状況ってこれを飲めってコトだよな。
でもこのまま口を付けたら今度は御坂と間接キスになるんじゃねえのか?
御坂妹といい御坂のヤツといい、一体どうしちまったんだ?
まさか、これって何かのトラップってことじゃないよな?
本当にこのまま飲んじまって良いのか?
どうする?上条当麻)
さりげなくカップを回そうものなら御坂美琴の突き刺すような視線が上条を牽制する。
(飲みなさい!)と凄む御坂美琴の迫力にとうとう(ええい、もうどうにでもなれ!)と
上条はそのスポーツドリンクを一気飲みしてしまった。
すると御坂美琴は上条が飲み終えたカップを奪い取りまたしても半回転させると自分で注
いだスポーツドリンクを一気に飲み干し上条を睨み付けた。
「どう?これで判った?」
「えっ?どうって……………………良い飲みっぷりだね…………とか?」
その瞬間御坂美琴から10億ボルトの雷撃の槍が放たれた。
とっさに上条がそれを右手で打ち消せたのは骨の髄までしみこんだ条件反射のおかげだろう。
「おっ、おまえなあ。今のは普通死ぬぞ!」
「ア、ア、ア、アンタってヤツはあぁぁぁ!」
顔を真っ赤にした御坂美琴は握りしめた右拳をワナワナと震わせている。
御坂妹の挑発にとことん追い詰められた挙げ句、一生(13年)分の勇気を振り絞って告
白したつもりが「良い飲みっぷりだね」では御坂美琴も浮かばれない。
とはいえ余りに回りくどい上にほとんど相手を脅迫している先ほどのやりとりを告白と呼
べるのかどうかは意見が分かれるところであろう。
とことん恋愛に不器用なツンデレガール御坂美琴であった。
「や、やめろ!御坂。
こんな狭い部屋で超電磁砲(レールガン)なんてぶっ放そうとするんじゃない」
「うるさい!アンタなんかいっぺん死んじゃいなさい!」
必死の告白を気付いてもらえなかった恥ずかしさで御坂美琴は今自分がいる場所を忘れていた。
万一上条が超電磁砲(レールガン)を受け損なった場合、観客で溢れる特設会場にどんな
被害がでるかわからない。
普段であれば御坂美琴がこんな場所で超電磁砲を使うことなど絶対にあり得ない。
だが今は必死になだめようとする上条の目の前で御坂美琴の右手は急速に放電量を増し続
け、もはや超電磁砲の暴発は避けられないように思われた。
しかし最悪の事態は遊園地スタッフのちょっと間の抜けた館内放送によって回避された。
「もうすぐ『カナミンショー』開演で~す。出演者の皆さんはスタンバイして下さ~い」
その間の抜けた呼びかけに緊張の糸を切られたのか御坂美琴の放電は急速に収束していった。
それを見た上条もここぞとばかりにたたみ掛ける。
「ほっ、ほら!もうすぐ出番だって!御坂も御坂妹もそろそろ準備しなきゃ!」
「聞こえてるわよ!
あーっ、もう!わかったわよ!
でもね。この件は後でキッチリ話をつけるから覚悟してなさい!」
「ああ。わかった。わかったから。なっ!」
「じゃあ、私達は着替えるからアンタも早く着替えてらっしゃい!」
こうして遊園地クラウンパレス史上に残る怒濤の『カナミンショー』の幕が切って落とされた。
ミサカ10032号がミサカネットワークに呼びかけるとすぐに世界中の妹達(シスター
ズ)から応答があった。
(一体何事ですか?とミサカ19920号はまだ眠い目をこすりながら問い返します)
(今夜着るパジャマの柄をヒヨコにするかカエルにするかで迷っているミサカ14301
号は現在通常の19.7%しか思考を割けないことを予め言い訳しておきます)
(その代わり現在入浴中のミサカは通常より思考速度を7.4%UPできるでしょう
とミサカ15111号は入浴剤『日本の名湯~登別の湯~』のリラックス効果に上機嫌で応えます)
(前回の緊急議題は『お好み焼きに白ご飯は是か非か?』でしたが今回はそんなくだらな
い議題ではないでしょうね、とミサカ16358号は念のため釘を刺しておきます)
(今回の議題は妹達(シスターズ)の存在意義に関わるものです
とミサカ10032号はセンセーショナルに本議題の重要性を示唆します)
(了解しました、とミサカ10039号は手短に賛同の意を表明します)
(ではこれより第23017回全ミサカ評議会の開催します
とミサカ12581号は宣言し、ミサカ10032号に対して議題を提示するよう促します)
(ついにお姉様(オリジナル)が私達の当麻さんに対して攻勢に転じました!
とミサカ10032号は発生した緊急事態を簡潔に述べます)
ミサカ10032号の報告はミサカネットワーク内に無数のざわめきを生じさせる。
(あの素直でないお姉様が反攻作戦にでたというのならば確かに一大事です
とミサカ17663号はより詳細な戦況報告を要求します)
(本日一一○○(ひとひとまるまる)、お姉様は新兵器(手作りスポーツドリンク)を実戦投入。
その威力は絶大。お姉様は大戦果を上げた(当麻さんの住所を入手した)のみならず
当該兵器の技術移転の名目で上条家に進軍する大義名分を確保。
お姉様の攻勢に対しミサカも陽動作戦(お背中拭きます作戦)を発動するも、お姉様の
スケスケTシャツ攻撃の前に敗走。
もはやミサカにお姉様の上条家侵攻を阻止する有効な手段は残っていません
とミサカ10032号は報告を締めくくります)
ミサカ10032号の戦況報告にミサカネットワーク内にさらなる動揺が広がる。
そしてネットワークを飛び交う質問と回答そして推論と反論。抑揚のない口調の妹達
(シスターズ)でなければさながらそこは怒号飛び交う戦時の作戦司令部だったろう。
(当該作戦にお姉様が投入すると予測される戦力は?とミサカ13962号は尋ねます)
(当麻さんへの有効な火力は食料品であることは間違いありません
とミサカ13577号は断言します。
戦線に投入されるのは小火器(お菓子)あるいは重火器(手料理)で間違いないでしょう)
(最終兵器(お姉様自身)が使用される可能性はありませんか?
とミサカ19961号は昨夜見たティーンズラブの内容を思い出しつつ少しぶっ飛んだ
妄想をしてみます)
(果たしてお姉様が最終兵器使用に踏み切れるでしょうか?
とミサカ16334号はそのティーンズラブの内容について質問したいという本音を
押し殺しつつ、お姉様の最終兵器使用の可能性については疑問を投げかけてみます)
(通常ではあり得ないでしょう
とミサカ12666号はお姉様の性格と普段の行動パターンを分析しその可能性は
極めて低いと判断します)
(しかし近頃頻発する姫神秋沙の領海侵犯(当麻さんへのアプローチ)にお姉様が不満と
危機感をずいぶんと募らせているのは事実です
とミサカ19090号はあえて不安材料を投げ込んでみます)
(それに当麻さんのクラスメイトでないもどかしさがそれに拍車をかけている模様です
とミサカ13577号はさらに危機感を煽ってみます)
(その不満が臨界に達したときお姉様の一途さが暴走するのですね
とミサカ19961号は昨夜見たティーンズラブみたいに「他の女に奪われる位ならと
思い詰めた女子中学生が片思いの先輩の下宿に押し掛けて『もう遅いから帰れない』的
な流れで甘い一夜を過ごす」といった展開に身を委ねるお姉様の姿を妄想します)
(3-7)
(いい加減にしなさい!
とミサカ12581号は本題からずれ始めた会議を元に戻すために、上条家最終防衛
ラインの迎撃体勢はどうですか?と新たな質問をぶつけてみます)
(残念ながら最終防衛ラインを守る戦力(インデックス)は当麻さん自らの手によって他
方面へ転進させられる(小萌宅のお食事会に送り出される)ことが予測され、事実上無
防備状態でしょう、とミサカ10032号は結論づけます)
(万一お姉様が上条家に橋頭堡を築いた場合ミサカによる陣地奪還の可能性は残されていますか?
とミサカ10867号は少し弱気に尋ねてみます)
(極めて低いと結論せざるをえません。
それどころかミサカの存在感が今より薄く巫女さん以下になることすら懸念されます
とミサカ19982号は深刻そうに応えます)
(新たな迎撃プランはありますか?
とミサカ15399号は全ミサカに意見を求めます)
(お姉様の作戦発動日時は未だ不明。
ただし既にカウントダウン状態であることは確実。もはや時間的猶予はないでしょう
とミサカ10032号は推測します)
(白井黒子を参戦させるよう情報戦を仕掛けてはどうでしょう?
とミサカ17255号は提案します)
(あれは大量破壊兵器です。敵(お姉様)味方(ミサカ達)関係なく多大の被害を被るでしょう、
と以前地下街で執拗に追いかけ回された恐怖を未だ忘れることはできないミサカ10032号は
提出プランに反対の意見を述べます)
(お姉様を迎撃するより先手をとって当麻さんにアタックをかける方が良いのでは?
とミサカ16483号は前向きに考えます)
(なるほど。攻撃は最大の防御という訳ですね
とミサカ17992号は前向きな意見に賛同します)
(ではお姉様以上のインパクトを当麻さんに与えるにはどうしたら良いでしょう?
とミサカ10378号は現在直面する最大の難問についての検討を始めます)
(ミサカが習得した必殺技(悩殺ポーズ)ですら当麻さんには有効打となりませんでした
とミサカ10032号は追加報告します)
(それは単に魅力(バスト)が乏しいミサカ10032号に原因があるのでは?
とミサカ18468号はズバリ核心をついてみます)
(むむっ!ならばミサカより魅力(バスト)のあるミサカは名乗り出て下さい
とミサカ10032号は全ミサカに問いかけます)
少しの間をおいて全世界のミサカから次々とバストサイズが送られてきたが、やはりその
数値はmm単位で同じあった。と同時にそのレベルの低さにため息をつく全ミサカ達。
(ではウエストサイズで優劣をつけましょう、とミサカ19090号は緊急提案します)
(((((((((((((((((((((((((((((( 却下します ))))))))))))))))))))))))))))))
(……………………………)
ミサカ19090号の提案はミサカ19090号を除く全ミサカによって一瞬で却下され
てしまった。
(質が問題ならば量でカバーしてはどうでしょう
とミサカ15678号は『コロンブスの卵』的発想を披露してみます)
(10人でご奉仕すればその効果も10倍ということですね
とミサカ10039号は目からウロコ的発想に感動し激しく同意します)
(『ご奉仕』。なんとも艶めかしい響きです
とミサカ13577号は頬を赤らめながら呟きます)
(では学園都市に在住する全ミサカは各自速やかに装備を調え行動を開始して下さい
とミサカ12581号は締めくくり第23017回全ミサカ評議会の閉会を宣言します)
(((((((( 了解(ラジャー) ))))))))
こうして学園都市に在住する8人のミサカ達はミサカ10032号をサポートすべく遊園
地クラウンパレスへと向かうのであった。
(3-8)
一方の上条と御坂美琴はミサカネットワークにおいて不穏な計画が進行中であることなど
露知らず未だ互いの顔を直視できずにいた。
(落ち着け!落ち着くんだ。上条当麻。
いくらブラジャーが透けて見えたからっていっても相手(御坂)は中学生だ。
そう、冷静になれ!
確かに御坂は美少女だ。それは認めよう。
だからって発育途上の中学生の胸に高校生がときめくっていうのはマズイ。
いくら濡れたTシャツが張り付いてあんなにはっきり胸の輪郭が見えたからって……)
冷静になろうとする上条であったが脳裏に御坂美琴の胸の輪郭がフラッシュバックする度
心臓はドックンドックンと激しく脈打ち戻り掛けていた顔の赤みも再び増してしまう。
(だあぁぁっ!)
思わず頭を激しく振り妄想を追い払おうとする上条であった。
(この状況はマズイ。早く別の話題を見つけないと上条さんはどうにかなってしまいます。
何か別の話題…………そうだ!)
「そう言えば、さっきは観客席に男子中学生とか高校生とかも結構いたよな」
「そっ、そういえばそうだったわね。ハハッ」
「ここのショーってそんなに人気があるのか?」
「さあ?私はテレビってあんまり見ないからよく知らないけど高校生にも結構な数の隠れ
カナミンファンがいるらしいわよ。
でも遊園地のショーにまでやって来る物好き(マニア)は少ないと思うんだけど……」
「じゃあ、何でだろう?」
「本日当遊園地にて第3学区の小・中・高校による合同交流会が行われるとの情報があります。
件の高校生達は小学生の付き添いだと推測します
とミサカはさりげない素振りでお姉様と当麻さんの会話に割り込んでみます」
「そうか。今日は暑いから大変だろうな。まあ俺達よりはマシだろうけどさ」
「それならもう一杯スポーツドリンクをあげるからそのカップを持ちなさい!」
「おっ、サンキュー。ゴクゴク…………プファァアー、ふぃぃーっ」
「プファァ、ふぃぃーって、アンタは居酒屋の酔っぱらいサラリーマンか!?」
「てやんでぇ!あたしゃ酔っちゃいませんよ。御坂の旦那も一杯どうです?ヒック!」
「バカッ!もう何でアンタはそんなにノリが良いのよ!」
話題が替わったおかげで上条はようやく御坂美琴にいつもの軽口が言えるようになった。
「悪りぃ。悪りぃ。それだけお前のスポーツドリンクが美味いってことだよ」
「えっ、あっ……………………ありがとう」
上条の褒め言葉に思わず顔を赤らめてしまう御坂美琴であった。
いつものように無自覚に女心をくすぐる上条当麻。本当に罪な男である。
「そうだ、さっきも言ったけど俺だけ飲むのは申し訳ないからお前も飲んでみなよ」
上条は半ば強引に御坂美琴にカップを渡すと御坂美琴から水筒を受け取り、そのカップに
スポーツドリンクを注いでいく。
その様子を何気なく眺めていた御坂美琴はある重大なことに気付いた。
(あれ!?……………………
このカップってさっきコイツが使ったやつよね。…………
はっ!ということはこれってラブコメ漫画お約束の『間接キス』イベント!?)
とたんに御坂美琴の心臓は激しく鼓動し始める。
ドキドキと高鳴る鼓動が上条にも聞こえているのではないかと御坂美琴は身体を強張らせた。
しかしスポーツドリンクを注ぐ上条に気付いた様子はなく御坂美琴はホッと胸を撫で下ろした。
ならば気付かれる前にコト(間接キス)を済ませてしまおうと上条が注ぎ終わるのを今か
今かと待っていた。
しかし穴も空かんばかりにカップを見つめる御坂美琴はある重要な見落としに気付いた。
その時御坂美琴は正面の上条から渡されたカップをそのまま持っていた。
ということは上条が口を付けた部分は必然的に御坂美琴から最も遠い場所になる。
(あっ! しまった。
でもいまさら唐突にカップを半回転させたりしたら不自然よね、きっと。
どうしよう?……………………そうだ!
一旦カップを机に置いてちょっと会話してからさりげなく持ち直せば良いんじゃない。
ナイスアイデア!さすが美琴さん!)
御坂美琴は手に持ったカップをさりげなく机の上に置くために上条に話しかける。
(3-9)
「そうだ!これの作り方だけど次の金曜日に私がアンタの下宿に行って教えてあげる」
「え────っ?金曜日!?」
「なによ──っ!そんな顔して。なんか予定でも入ってんの?」
「いや、別に予定はないけどさ……………………」
「じゃあ、良いじゃない。次は土曜日で学校は休みなんだし丁度良いでしょ」
「なにが丁度良いんだよ!」
「えっ、イヤね!そんな意味じゃなくて…………ほら!アンタだって女の子が下宿に来る
んだからそれまでに色々片付けなきゃなんないことがあるんじゃないの?」
「バカ野郎!俺の部屋に御坂に見られて恥ずかしいもんなんてねえよ!」
そう言いつつ上条はインデックスをどうしようかと思考をフル回転させる。
そして結局(ここは小萌先生に頼んでインデックスを泊めてもらうしかない)という
妹達(シスターズ)の推測通りの結論に達していた。
一方、御坂美琴は目の前で上条が何か考え事を始めた今がチャンスとばかりにカップに
そっと手を伸ばす。
しかしあるハズの場所にカップはなく伸ばしたその手はむなしく宙を切っていた。
御坂美琴が(なんで?)っと周囲を見回すとなぜかカップは御坂妹が持っていた。
「お姉様が飲まないのならこのスポーツドリンクはミサカが頂きましょう
とミサカはお姉様に反論の隙を与えないよう間髪入れず一気に飲み干します」
そう言って御坂妹は上条が口を付けた側に口を付けてスポーツドリンクを飲み干した。
予期せぬ展開に御坂美琴は一瞬言葉を失ってしまった。
「な”っ!
なんてことすんのよ!アンタはああぁぁぁ!」
「はっ?何のことでしょう?
お姉様。食べ物を粗末にするともったいないお化けが出るのですよ
とミサカはお化けという非科学的事象を引用してミサカの正当性を主張します」
「誰も飲まないなんて言わなかったでしょ!」
「「……………………」」
二人とも無言ではあったが(お姉様の魂胆などお見通しです)と挑発するミサカ妹の視線
と(あとで憶えてなさい)と凄む御坂美琴の視線が見えない火花を散らせていた。
しかしこの緊張感溢れる状況にあっても上条は朴念仁らしくピント外れのことを言ってしまう。
それがどれだけ御坂美琴を追い詰めることになるのかも知らずに。
「おいおい、ちょっと待て!たかがスポーツドリンク一杯で姉妹ゲンカしなくても」
「うっさい!アンタは黙ってて!」
「そんなに怒るなって!御坂妹だってノドが渇いてたんだと思うぞ。
御坂妹、どうだ美味かったろ?」
「美味しいです!特にこのカップで飲むと美味しさが倍増します
とミサカは余韻を楽しむようかのような表情で絶賛します」
「じゃあ、御坂にちゃんと礼を言わないとな」
「ご馳走様でした。当麻さん!とミサカは頬を赤らめながら当麻さんにお礼を述べます」
「いや、だから俺じゃなくて御坂に礼を言えって!」
「ご馳走様でした。当麻さん!と言っているのに当麻さんはまだ気付かないのですね
とミサカはやはりこの人は筋金入りの朴念仁なのですねと嘆息しつつ呟きます。
間接キスですよ間接キス、と鈍感な当麻さんにも判るよう単刀直入に説明します」
「へっ?」
上条は一瞬何を言われたのかが判らなかった。
(カンセツキス?官設奇数?関節鱚?間接キス…………キスううぅぅぅ!?)
頭の中で四回繰り返しようやく事態を飲み込んだ上条は顔を一気に赤らめた。
「ばっ、バカ野郎!年上をからかうんじゃない!ははっ、
御坂妹のヤツ、おかしなこと言ってるよな。なあ御坂…………って、御坂?」
その時御坂美琴は少し俯いたまま両膝に置いた手をぎゅっと固く握りしめていた。
上条に声をかけられて御坂美琴は紅潮した顔を上げる。
その口元はギュッと結ばれており少し涙を浮かべた目は訴えるように上条を見つめている。
何かを思い詰めたような御坂美琴の様子にさすがの上条も心配になった。
「どうした、御坂?」
「わっ、わっ、わたしはねええぇぇぇぇ!」
御坂美琴はそう叫ぶなり御坂妹からカップを奪い取って手酌でスポーツドリンクを注ぎ出す。
(一体何事なんだ?)と戸惑う上条の前で、それを一気飲みすると今度は上条を睨み付け
手に持ったカップを半回転させてから上条に差し出した。
「えーっと、これは?」
「受け取りなさい!」
「はあ?」
「なによ!アンタは美琴さんの酌が受けられないっていうの!」
上条に強引に押しつけたカップにスポーツドリンクを注ぐとまたしても上条を睨み付けた。
(3-10)
上条は御坂美琴が何か思い詰めていることは判っていたがその理由に見当がつかなかった。
(えっーと、この状況ってこれを飲めってコトだよな。
でもこのまま口を付けたら今度は御坂と間接キスになるんじゃねえのか?
御坂妹といい御坂のヤツといい、一体どうしちまったんだ?
まさか、これって何かのトラップってことじゃないよな?
本当にこのまま飲んじまって良いのか?
どうする?上条当麻)
さりげなくカップを回そうものなら御坂美琴の突き刺すような視線が上条を牽制する。
(飲みなさい!)と凄む御坂美琴の迫力にとうとう(ええい、もうどうにでもなれ!)と
上条はそのスポーツドリンクを一気飲みしてしまった。
すると御坂美琴は上条が飲み終えたカップを奪い取りまたしても半回転させると自分で注
いだスポーツドリンクを一気に飲み干し上条を睨み付けた。
「どう?これで判った?」
「えっ?どうって……………………良い飲みっぷりだね…………とか?」
その瞬間御坂美琴から10億ボルトの雷撃の槍が放たれた。
とっさに上条がそれを右手で打ち消せたのは骨の髄までしみこんだ条件反射のおかげだろう。
「おっ、おまえなあ。今のは普通死ぬぞ!」
「ア、ア、ア、アンタってヤツはあぁぁぁ!」
顔を真っ赤にした御坂美琴は握りしめた右拳をワナワナと震わせている。
御坂妹の挑発にとことん追い詰められた挙げ句、一生(13年)分の勇気を振り絞って告
白したつもりが「良い飲みっぷりだね」では御坂美琴も浮かばれない。
とはいえ余りに回りくどい上にほとんど相手を脅迫している先ほどのやりとりを告白と呼
べるのかどうかは意見が分かれるところであろう。
とことん恋愛に不器用なツンデレガール御坂美琴であった。
「や、やめろ!御坂。
こんな狭い部屋で超電磁砲(レールガン)なんてぶっ放そうとするんじゃない」
「うるさい!アンタなんかいっぺん死んじゃいなさい!」
必死の告白を気付いてもらえなかった恥ずかしさで御坂美琴は今自分がいる場所を忘れていた。
万一上条が超電磁砲(レールガン)を受け損なった場合、観客で溢れる特設会場にどんな
被害がでるかわからない。
普段であれば御坂美琴がこんな場所で超電磁砲を使うことなど絶対にあり得ない。
だが今は必死になだめようとする上条の目の前で御坂美琴の右手は急速に放電量を増し続
け、もはや超電磁砲の暴発は避けられないように思われた。
しかし最悪の事態は遊園地スタッフのちょっと間の抜けた館内放送によって回避された。
「もうすぐ『カナミンショー』開演で~す。出演者の皆さんはスタンバイして下さ~い」
その間の抜けた呼びかけに緊張の糸を切られたのか御坂美琴の放電は急速に収束していった。
それを見た上条もここぞとばかりにたたみ掛ける。
「ほっ、ほら!もうすぐ出番だって!御坂も御坂妹もそろそろ準備しなきゃ!」
「聞こえてるわよ!
あーっ、もう!わかったわよ!
でもね。この件は後でキッチリ話をつけるから覚悟してなさい!」
「ああ。わかった。わかったから。なっ!」
「じゃあ、私達は着替えるからアンタも早く着替えてらっしゃい!」
こうして遊園地クラウンパレス史上に残る怒濤の『カナミンショー』の幕が切って落とされた。