上条当麻が姫神秋沙について知っていることと言うのは、そんなに多くはない。
「三沢塾」陥落戦の時にステイルから聞いた過去。
その身に宿した『吸血殺し』(ディープブラッド)と言う異能。
色々な因縁が絡んだ結果、今はその異能を封じていると言う事。
能力を封じたので元居た学校にいられなくなり、小萌先生の家に居候している現状。
で、何の因果か今現在は上条当麻のクラスメイトになっていると言う事実。
「三沢塾」陥落戦の時にステイルから聞いた過去。
その身に宿した『吸血殺し』(ディープブラッド)と言う異能。
色々な因縁が絡んだ結果、今はその異能を封じていると言う事。
能力を封じたので元居た学校にいられなくなり、小萌先生の家に居候している現状。
で、何の因果か今現在は上条当麻のクラスメイトになっていると言う事実。
九月四日。
姫神秋沙衝撃の転校劇から三日たちました、と、上条当麻は心の中でナレーションを付けてみた。
思ったより面白くなかったのでちょっとへこむ。
その姫神であるが、あの時乱入してきた銀髪シスターにその場の流れを持っていかれた所為か、未だにクラスに馴染めてないように当麻の目には映った。
今日までの学校生活の中で、当麻の見ている限りでは姫神から他のクラスメイトに話しかけたことなどはまず無く、クラスメイトに話しかけられても一言二言言葉を交わすのみでとても良好な関係を結べているとは思えない。
当麻が姫神のことを気に掛けているのには理由がある。
始業式のあった九月一日。
とある事情により途中で抜け出した上条当麻の知らないところで、学級委員の青髪ピアスが言い放った一言。
『どっかで見たことあるなー思たら、夏休みにカミやんと仲良う話しとった巫女さんやん』
この一言により、クラス内では「転校生の面倒は上条に任せる」と言う空気になったのだった。
次の日登校した時に、前の席の女子にその事を聞かされた当麻は、
『何でそうなる!やはり女の子は女の子同士で仲良くなるのが理想だと思うのですが!』
と、異議を申し立てたが、クラス全員に即時棄却された。どこから持ってきたのか「代弁者」と書かれた鉢巻を巻いた土御門には、
『偶には立てたフラグを最後まで面倒見ても罰は当たらないと思うにゃー』
とまで言われるし。このアジテーターめ。
とかく、そういう流れになってしまったのであれば嫌だ、とか断る、とは言わないのが上条当麻という男である。
幸いにして今日は土曜日、先程本日最後の授業が終わったばかりだ。あらかじめ居候には昼食用の弁当は置いてきてあるし、今日はクラスの何人かに声を掛けて姫神と一緒に遊ぶと言うのも悪くないだろうなー、などと考えながら姫神方へ行こうと自分の席を立った途端。
「カーミやーん、お昼ですよご飯ですよお米の時間ですよー!」
いつもの妙なハイテンション状態の青髪ピアスに背中を強く叩かれた。思わぬ一撃にバランスを崩し、一歩踏み込んだその先で。
「あっ」
ふにゅ。
まだ自分の席に居たクラスメイトの女子と接触事故を起こしてしまい。
「わわっ、悪い!」
更にそこから離れようと後ろの方へと一歩下がるつもりだったが。
ガツッ!
「なぁっ!?」
未だ足元にあった自分の椅子に足を取られてしまった。このままだと背中から転んでしまうので、何とか受身を取ろうと体を捻った目前に。
「……あ」
いつの間にか近くに来ていた姫神秋沙の姿がそこにあった。
姫神秋沙衝撃の転校劇から三日たちました、と、上条当麻は心の中でナレーションを付けてみた。
思ったより面白くなかったのでちょっとへこむ。
その姫神であるが、あの時乱入してきた銀髪シスターにその場の流れを持っていかれた所為か、未だにクラスに馴染めてないように当麻の目には映った。
今日までの学校生活の中で、当麻の見ている限りでは姫神から他のクラスメイトに話しかけたことなどはまず無く、クラスメイトに話しかけられても一言二言言葉を交わすのみでとても良好な関係を結べているとは思えない。
当麻が姫神のことを気に掛けているのには理由がある。
始業式のあった九月一日。
とある事情により途中で抜け出した上条当麻の知らないところで、学級委員の青髪ピアスが言い放った一言。
『どっかで見たことあるなー思たら、夏休みにカミやんと仲良う話しとった巫女さんやん』
この一言により、クラス内では「転校生の面倒は上条に任せる」と言う空気になったのだった。
次の日登校した時に、前の席の女子にその事を聞かされた当麻は、
『何でそうなる!やはり女の子は女の子同士で仲良くなるのが理想だと思うのですが!』
と、異議を申し立てたが、クラス全員に即時棄却された。どこから持ってきたのか「代弁者」と書かれた鉢巻を巻いた土御門には、
『偶には立てたフラグを最後まで面倒見ても罰は当たらないと思うにゃー』
とまで言われるし。このアジテーターめ。
とかく、そういう流れになってしまったのであれば嫌だ、とか断る、とは言わないのが上条当麻という男である。
幸いにして今日は土曜日、先程本日最後の授業が終わったばかりだ。あらかじめ居候には昼食用の弁当は置いてきてあるし、今日はクラスの何人かに声を掛けて姫神と一緒に遊ぶと言うのも悪くないだろうなー、などと考えながら姫神方へ行こうと自分の席を立った途端。
「カーミやーん、お昼ですよご飯ですよお米の時間ですよー!」
いつもの妙なハイテンション状態の青髪ピアスに背中を強く叩かれた。思わぬ一撃にバランスを崩し、一歩踏み込んだその先で。
「あっ」
ふにゅ。
まだ自分の席に居たクラスメイトの女子と接触事故を起こしてしまい。
「わわっ、悪い!」
更にそこから離れようと後ろの方へと一歩下がるつもりだったが。
ガツッ!
「なぁっ!?」
未だ足元にあった自分の椅子に足を取られてしまった。このままだと背中から転んでしまうので、何とか受身を取ろうと体を捻った目前に。
「……あ」
いつの間にか近くに来ていた姫神秋沙の姿がそこにあった。
姫神秋沙が上条当麻について知っている事と言うのは、それほど多くはない。
三沢塾から外に出た時に偶然出会ったのがそもそもの始まりだった。
あの時、確かに「死んだ」自分を助けた彼の異能『幻想殺し』(イマジンブレイカー)。
本来無関係の自分の為にあの錬金術師へと立ち向かうほどのお人よし。
困っている女性を放っておけない女たらし……は、違うか。
そして今は姫神秋沙のクラスメイト。
三沢塾から外に出た時に偶然出会ったのがそもそもの始まりだった。
あの時、確かに「死んだ」自分を助けた彼の異能『幻想殺し』(イマジンブレイカー)。
本来無関係の自分の為にあの錬金術師へと立ち向かうほどのお人よし。
困っている女性を放っておけない女たらし……は、違うか。
そして今は姫神秋沙のクラスメイト。
転校初日。
あの風斬氷華が絡んでいたと思われる騒動で、彼はまた他人の為にその身を砕いていた。
思い返すまでもなく、彼が一生懸命な時と言うのは大抵女性が絡んでいたように思える。
例えば、あのゴーグルを着けていた少女。
あの直後にまた入院した彼を見舞いに言った際、同棲している銀髪のシスターがぶつぶつと文句を言っていたのを覚えている。
例えば、その銀髪のシスター。
ついこの間に夜の街で彼の姿を見た時、必死の形相で駆け抜けて言った彼に声を掛ける事は出来なかった。
一昨日にその事を問いかけたが、彼女がどうの、と言うだけで詳しい話は聞かせてはもらえなかった。
そして、風斬氷華の件。
こうして彼の行動を見ていると、自分を助けた事に深い意味などは無くそのことに拘っている自分と言うのは一体どれだけ自意識過剰なのか、と思ってしまいそうになる。
まぁでも今日は幸いにして土曜日、先程最後の授業が終わったばかりだ。小萌は今日は職員の会合とやらで帰りは遅い。
同居人のいる彼をそれほど長くは付き合わせることは出来ないだろうが、じっくりと話をするには良い機会だ――。
そう思って彼の席の方へと歩み寄るが、その行く先がなにやら騒がしい。見れば学級委員だと言う(とてもそうは見えないが)青髪ピアスの少年が騒いで。
その騒ぎによって上条当麻が、などとぼんやりとその動きを見ていたら。
「……あ」
巻き込まれました。油断大敵。
あの風斬氷華が絡んでいたと思われる騒動で、彼はまた他人の為にその身を砕いていた。
思い返すまでもなく、彼が一生懸命な時と言うのは大抵女性が絡んでいたように思える。
例えば、あのゴーグルを着けていた少女。
あの直後にまた入院した彼を見舞いに言った際、同棲している銀髪のシスターがぶつぶつと文句を言っていたのを覚えている。
例えば、その銀髪のシスター。
ついこの間に夜の街で彼の姿を見た時、必死の形相で駆け抜けて言った彼に声を掛ける事は出来なかった。
一昨日にその事を問いかけたが、彼女がどうの、と言うだけで詳しい話は聞かせてはもらえなかった。
そして、風斬氷華の件。
こうして彼の行動を見ていると、自分を助けた事に深い意味などは無くそのことに拘っている自分と言うのは一体どれだけ自意識過剰なのか、と思ってしまいそうになる。
まぁでも今日は幸いにして土曜日、先程最後の授業が終わったばかりだ。小萌は今日は職員の会合とやらで帰りは遅い。
同居人のいる彼をそれほど長くは付き合わせることは出来ないだろうが、じっくりと話をするには良い機会だ――。
そう思って彼の席の方へと歩み寄るが、その行く先がなにやら騒がしい。見れば学級委員だと言う(とてもそうは見えないが)青髪ピアスの少年が騒いで。
その騒ぎによって上条当麻が、などとぼんやりとその動きを見ていたら。
「……あ」
巻き込まれました。油断大敵。
ドスン!
バランスを崩し転倒した当麻だが、不思議と体に痛みは走らない。
ともかくこんな事になった原因の青髪ピアスに文句をつけようと、両手で体を起こそうとした途端。。
むにゅう。
右手がすばらしい感触を伝えてきました。
ぎぎぎ、と油の切れたカラクリ人形のように右手の先に視線を向けると。
そこには人の体があり。
視線を上の方へと動かせば。
そこには姫神秋沙の顔があって。
もう一度視線を右手の先へと戻すと。
何と言うか、端から見たら性犯罪者のような行為をしている自分の右手がそこにはあった。
このままだとまずい、と反射的に右手を退かそうと力を入れる。
と、今度は人の肌とは思えない固い感触を伝えてきた。
(なんだ、この……)
そう考えて、思い出す。
彼女の過去、能力、現状。そして――。
「しまっ……」
しかし、遅かった。
先刻感じていた柔らかさとはまた違った、柔らかなものが霧散するような感じが右の掌に感じられる。
脳裏にいつか聞いたインデックスの言葉が蘇える。
『とうま、とうま。あいさのケルト十字には触れちゃダメなんだよ?あれは「歩く教会」から最低限の結界を保つ部分だけを抽出した十字架なんだから……』
(やっちまったー!このままじゃ姫神の『吸血殺し』が発動しちまう!)
やらかしてしまった己の失態を思い焦る。姫神がこの能力の発動を好ましく思っていないことを知っているだけに、余計に。
だが。
「……。おかしい」
ポツリと、姫神が呟く。
「……?何がだ」
「君の右手が私の十字架に触れたという事は。私の能力を封じていたものが無くなったと言う事。なのに。私の能力(ちから)が発動している感じが全くしないのはおかしい」
確かに姫神の『吸血殺し』を封じていた十字架は異能によって創られた物。それに『幻想殺し』が触れた以上、効力が消えてしまうのが当然だ。
と、そこまで考えて、当麻はある可能性に気付く。
「俺の右手が触れているから?」
その言葉に小さく頷く姫神。
「多分。君の右手は触れた異能を打ち消すから。君が触れ続けている限り。私の能力は発動しないのかも」
仮説ではあるが説得力はある。とりあえずこのままでいれば姫神の能力は発動しない。そう、このままで……?
「上条当麻ー!貴様教室でそのような破廉恥な行為に出るとは良い度胸をしている!」
「ちくしょー、またか、またなのか!これがカミジョー属性ってヤツなのかよ!」
「姫神さん嫌がってないし。これってやっぱり……ううん、結論を出すのは早いわ」
「かかか、カミやん、そろそろその手をどかさへんと血ぃ見るかもしれへんで……?ていうか羨ましすぎるんじゃー!」
「しまったー!今の状態忘れてたー!」
思わず絶叫。
じりじりと包囲の輪を狭めてくるクラスメイト(男子)。授業が終わったばかりなので大半の生徒が残っていたことも、当麻にとってマイナスに働いている。
とりあえずこのままの体勢ではまずい。胸に置きっぱなしだった右手で姫神の左手を掴み、自らも立ち上がりながら彼女の体を引き起こす。
そしてそのままクラスメイトの包囲を突破しようと試みるが、多勢に無勢。
結果は言うまでもあるまい。
バランスを崩し転倒した当麻だが、不思議と体に痛みは走らない。
ともかくこんな事になった原因の青髪ピアスに文句をつけようと、両手で体を起こそうとした途端。。
むにゅう。
右手がすばらしい感触を伝えてきました。
ぎぎぎ、と油の切れたカラクリ人形のように右手の先に視線を向けると。
そこには人の体があり。
視線を上の方へと動かせば。
そこには姫神秋沙の顔があって。
もう一度視線を右手の先へと戻すと。
何と言うか、端から見たら性犯罪者のような行為をしている自分の右手がそこにはあった。
このままだとまずい、と反射的に右手を退かそうと力を入れる。
と、今度は人の肌とは思えない固い感触を伝えてきた。
(なんだ、この……)
そう考えて、思い出す。
彼女の過去、能力、現状。そして――。
「しまっ……」
しかし、遅かった。
先刻感じていた柔らかさとはまた違った、柔らかなものが霧散するような感じが右の掌に感じられる。
脳裏にいつか聞いたインデックスの言葉が蘇える。
『とうま、とうま。あいさのケルト十字には触れちゃダメなんだよ?あれは「歩く教会」から最低限の結界を保つ部分だけを抽出した十字架なんだから……』
(やっちまったー!このままじゃ姫神の『吸血殺し』が発動しちまう!)
やらかしてしまった己の失態を思い焦る。姫神がこの能力の発動を好ましく思っていないことを知っているだけに、余計に。
だが。
「……。おかしい」
ポツリと、姫神が呟く。
「……?何がだ」
「君の右手が私の十字架に触れたという事は。私の能力を封じていたものが無くなったと言う事。なのに。私の能力(ちから)が発動している感じが全くしないのはおかしい」
確かに姫神の『吸血殺し』を封じていた十字架は異能によって創られた物。それに『幻想殺し』が触れた以上、効力が消えてしまうのが当然だ。
と、そこまで考えて、当麻はある可能性に気付く。
「俺の右手が触れているから?」
その言葉に小さく頷く姫神。
「多分。君の右手は触れた異能を打ち消すから。君が触れ続けている限り。私の能力は発動しないのかも」
仮説ではあるが説得力はある。とりあえずこのままでいれば姫神の能力は発動しない。そう、このままで……?
「上条当麻ー!貴様教室でそのような破廉恥な行為に出るとは良い度胸をしている!」
「ちくしょー、またか、またなのか!これがカミジョー属性ってヤツなのかよ!」
「姫神さん嫌がってないし。これってやっぱり……ううん、結論を出すのは早いわ」
「かかか、カミやん、そろそろその手をどかさへんと血ぃ見るかもしれへんで……?ていうか羨ましすぎるんじゃー!」
「しまったー!今の状態忘れてたー!」
思わず絶叫。
じりじりと包囲の輪を狭めてくるクラスメイト(男子)。授業が終わったばかりなので大半の生徒が残っていたことも、当麻にとってマイナスに働いている。
とりあえずこのままの体勢ではまずい。胸に置きっぱなしだった右手で姫神の左手を掴み、自らも立ち上がりながら彼女の体を引き起こす。
そしてそのままクラスメイトの包囲を突破しようと試みるが、多勢に無勢。
結果は言うまでもあるまい。
だが、それでも右手を離しませんでした。