とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 6-808

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匿名ユーザー

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『並行世界(リアルワールド)』

ありとあらゆる物質は、轟音をかき鳴らし吹き飛ばされていく。
ビルを突きぬけ、学園都市の城壁を突きぬけ、山を貫通し、空を貫く。
雲が左右に引き裂かれ、青白い閃光が一本の線を描いた。
右手から解放されている『竜王の顎(ドラゴンストライク)』は現界し始め、その姿はリアルさを帯びていた。
人の腕と同じ長さがある尖った牙、二メートルを越えた口。分厚い皮膚を覆う漆黒の剛毛、そして、『魔神』と同質の真紅の瞳。
四つの眼が、『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』で焼け焦げた大地を見つめていた。
両脇には、荒廃した都市が残っている。
「…フッ」
ドラゴンが、
「フハハハハハ…」
小さな笑みをこぼした。
「…余ハ待ッテイタゾ」
そして、問いかける。


「『魔神』ヨ…」


ドラゴンの背後にいたのは、三人の少女だった。
一人は、『幻想御手(レベルアッパー)』を解き、力抜く御坂美琴。
もう一人は膝をつき、茫然自失としているミサカ一〇〇三二号。
そして、
ドラゴンに対して、二人の少女を背に立ちはだかる者は『魔神』だった。
「大丈夫?みことちゃん。ミサカ」
「…うん」
「…………」
一言も発せず、視点が定まらないミサカを見て、
「…『魔の波動』に精神をやられちゃってる。早く避難させて。魔力はこれ以上使いたくないから」
「了解…」
御坂美琴はミサカ一〇〇三二号に黒のマントを着せ、彼女の肩を担ぐ。
少女は再び、ドラゴンに目を向けた。
『歩く教会』と呼ばれる修道服を身に纏い、腰まである銀の長髪。整った容姿に碧眼の瞳、一六三センチほどの背丈。
一〇万三〇〇〇冊の魔道書を記憶する世界最高の魔術師。
正式名称『Index-Librorum-Prohibitorum』。
魔法名、
「献身的な子羊は強者の知識を守る(dedicatus545)――――――――――――――」
『魔神』こと、インデックスは告げた。
大気中に溢れる莫大な魔力が、急激に収束する。
碧眼に宿る想いは、強固な意思。
ドラゴンは言った。
「ドウダ?余ト並ビ合ウ女ニハオ前コソ相応シイ。喜ベ、『魔神』。貴様ハ神ニ選バレ、生キル事ヲ許サレタノダ」
「神様は神様でも、『神(バケモノ)』に興味は無いの」
ふん、とインデックスは鼻で笑った。
「とうまはみことちゃんっていう恋人がいるのに、他の女の子といっぱい浮気するし、フラフラしてる男はもっと大っ嫌い!」
いつものように、上条当麻に説教をするが如く、インデックスは叫ぶ。
「それにね。貴女は私が好きなんじゃない」
「?」
「貴方はね。私が怖いんだよ」
「余ガ?オ前ニ恐怖ヲ抱イテイルダト?」
ドラゴンは、初めて『魔神』に振り返った。
一七九センチの身長に、ツンツンとした黒髪。
赤く染まった真紅の瞳。
露出した上半身に刻まれている漆黒の刻印。
右腕から出現した『竜王(ドラゴン)』の頭部。
『幻想殺し(イマジンブレイカー)』はすでに消滅し、上条当麻の中で再構築されたドラゴンは、封印を解かれようとしている。
「貴方は私と対等って言ったよね?それは私が貴方を滅ぼせる唯一の存在ということ。だから、私を籠絡しようとしてる」
「フハハハハハハハha!!貴様ガ余ヲ殺スダト?!」

「私は『識』ってるよ。貴方を、ドラゴンを殺す方法をね」


「図ニ乗ルナァ!!小娘ガァアア!!」
嘲笑は突如として怒号に変わる。
大気を震わす波動。
凶暴な闇が地上を覆う。
漆黒に染まった『竜王の翼(ドラゴンウイング)』がついに顕在化した。
『一方通行(アクセラレータ)』の不完全な翼とは違い、輪郭が明確に見える。
例えるならば、『堕天使』の翼。


「お前こそ、人間を甘く見るな」


『L'homme courageux confronte plusieurs mille ennemis à une épée――』
『Le sage unifie les gens avec la connaissance abondante――』
『Lorsqu'un ange descend dans la terre, les gens se les prosterneront à l'ange――』
『Le diable tente un être humain fidèle――』
『Les êtres humains entassent et provoquent le pouvoir énorme――』
魔神は唱えた。
重複詠唱は、二重の意味を持つ言葉を並列させ、同時に二つの呪文を唱えると言った事が多い。日本語においては、掛け言葉を用いると言った方が理解しやすいだろう。母音と子音を並行させ、一つの呪文に二重の意味を持たせる。これが『二重詠唱(ダブルスペル)』の基本である。
だが、インデックスの行った重複詠唱は次元が違う。
発生する声を時間ごとずらした異時間収束詠唱であり、幾多の魔道書を応用した『五重詠唱(ペンタスペル)』。

『我、耐え忍ばん(ペル・デュラーヴォ)――!!』
『真理の力もて宇宙を征服せり(ヴィ・ヴェリ・ヴィンバースム・ヴィヴス・ヴィシー)――!!』
『大いなる獣(メガ・テリオン)――――!!』
『最高位の神よ、我に力をお与えください(ケテル=アデプタス・マイナー)――!!』
『神々の楽園(ヴァルハラ・ディ・リューベヌ)――!!』

光が爆発する。
三日三晩唱え続けねばならない詠唱は、『高速詠唱(クイックスペル)』によって一瞬で終わり、伝説級の大魔術が同時に発動した。
『魔神』を幾多の紋章が覆う。
魔法陣を描く色は、白、黒、赤、青、黄、緑、紫の七つ。
全ての属性を表す七色の光が世界を彩った。
解き放たれる対軍式教皇魔術。
禁忌とされた広範囲爆撃の殲滅術式。
『全能神(ゼウス)』のみが使役できる伝説の神獣。
神の崇拝によって、人々の能力を向上させる上級魔術。
天使の加護を顕在化した治癒魔術。
魔力は刻まれた術式を流れ、姿、性質を変えていく。
「ナァッ…!」
ドラゴンは圧倒された。
震える大地。
闇を切り裂く光。
その光景に、魔術師たちは絶句した。


(二日目)16時59分44秒

戦場から数キロ離れている天草式に、変化が訪れる。
「光る…雨?」
キラキラと光る雫が、周辺に降り注いでいた。
光は、負った傷口へと触れて、
「傷が、癒えていく…?」
意識を失った者は取り戻し、怪我は目に見える速度で治っていく。
血が溢れだしていた腹部が徐々に塞がり、神裂火織は目を覚ました。
心配していた仲間たちは声を上げた。
「プリエステスさ…ま?」
「…あ…よ…よか、った……」
「目を、開けた…プ、プリエステス様ぁ…」


「……すごい」
御坂美琴は目を奪われていた。
インデックスが、ドラゴンを圧倒している。
一〇〇〇億ボルトの電撃とは比べ物にならないくらいのチカラで。
普段は、当たり前のように当麻の隣を独占していて、つまらない理由で当麻に噛みつくだけの少女だった。
可愛くて、賢くて、いつも何か食べている食欲旺盛な女の子、というのが彼女の印象だった。
だが、戦場に立つとその姿は豹変する。
並び立つ者は存在しない。
最強であるがゆえに――
『魔神』であるがゆえに――
だからこそ、彼女は、上条当麻の隣にいる。

『魔神』は告げる。

雲川芹亜は告げる。
「結標!」
『ああ――――分かってる…わ、よっ!』
第三学区で待機していた結標淡希の眼には、戦場のリアルタイムの映像が映されている。『竜王』、『魔神』、『超電磁砲』、『妹達』のビジョンがあり、その下にはアルファベットと数字で表された座標が掲載されていた。
強烈な頭痛に、結標淡希の意識は揺らぐ。
(――――――――っ…あっ……―――――――!)
彼女の瞳は黄金に輝いていた。
全身が震えていた。あごが震え、ガチガチと歯を鳴らす。頭をバッドで何度も殴られているような衝撃が、彼女を襲っていた。唇を噛みしめるが、痛みがまったく感じられない。気を引き締めないと、今にも意識が遠のいてしまう。
しかし、これは当然の結果だった。むしろ、こうして彼女が意識を保っている事自体、奇跡と言ってもよい。


なぜなら、『幻想御手(レベルアッパー)』を用いて、避難している二三〇万人の脳を統括しているのだから。

第七学区の避難シェルター内の人間だけではない。今では全学区の避難した人々は、『幻想御手(レベルアッパー)』の音楽を耳にして、気を失っている。人々は、脳内の波長を強制的に雲川芹亜と合わせられていた。
至宝院久蘭はこの事に気づいたが、それを甘受した。
ドラゴンを倒す方法だと悟ったからだ。
エリア内のAIMが大きく歪み、雲川芹亜は膝をついた。モニターが赤く点滅し、アラームが鳴り響くが彼女はそのスクリーンを「機械は、黙っていろっ!」と叩き壊した。
(い、今なら―――『絶対能力者(レベル6)』にも、勝て――る気が、す、る―――――)
朦朧としている意識の中で結標淡希は笑った。鼻と目から血が溢れている。
雲川芹亜は小型マイクを手に、
『第一学区から第一四学区、一六、一七、一八、二〇学区内に待機している魔術師達に告げる!今から固定座標に向け、テレポートを行う!用意はいいな!失敗は許されない!では、いくぞッ!!』
黄金の瞳は輝いた。
結標淡希はチェアに座ったまま、ケーブルを引き千切り、両手を天に上げた。
(一二五号四四分二八秒八七〇一傾斜〇〇二二―――――――――――――――固定完了。
一二五号四四分二七秒八九四五傾斜〇〇一九―――――――――――――――固定完了。
一二五号四四分二七秒八九〇六傾斜〇〇一八―――――――――――――――固定完了。
一二五号四四分二七秒八八一四傾斜〇〇一九―――――――――――――――固定完了。
九八四号三二分七八秒四八三四傾斜〇〇〇五―――――――――――――――固定完了。
九八四号三二分七八秒四八七八傾斜〇〇一二―――――――――――――――固定完了。
九八四号三二分七八秒四八二二傾斜〇〇二〇―――――――――――――――固定完了。
五一一号六九分五九秒八八八八傾斜〇〇三一―――――――――――――――固定完了。
五一一号六九分五九秒〇四七七傾斜〇〇三四―――――――――――――――固定完了。
四四三八号七八分〇一秒〇〇二九傾斜〇〇〇〇―――――――――――――――固定完了。
コードP9C2000568S―シークレットコード『オメガ』。
承認しました。
『マザー』は、第一二学区エリアにおける移動先の固定座標を表示します。
以下、
EA〇〇〇一九八AA.
EA〇〇〇一九九AA.
EA〇〇〇二〇〇AA.
EA〇〇〇二〇一AA.



『転送』を開始します―――――――――――――――――――――――――――――)
数キロから数十キロ離れている九〇〇名以上の人間を、『超能力者(レベル5)』第五位、結標淡希は『座標移動(ムーブポイント)』を使い、一か所にテレポートさせた。
役目を終えた瞬間、彼女の意識は吹き飛んだ。


第一二学区。
九九六名の魔術師たちは突如、姿を現した。
その存在を感知したドラゴンは、
「――――――ナンダ?」
ドラゴンを囲むように、多くの魔術師たちは唱える。
全身の詠唱が一致する。

『El grupo de cielos da el velo――――――』
(天界の一団がヴェールを上げる――)

『Todos los hombres, todas las mujeres son las estrellas――』
(すべての男、すべての女は星である――)

『Todos los números son infinitos. Hay ningún cualquier amable de diferencia allí, también――』.
(すべての数は無限。そこには如何なる差異も無し――)

『Tú como mi núcleo confidencial.Vuélvete mi corazón y mi lengua!――』
(わが秘密の中枢たるハディートよ、わが心臓、そして我が舌となれ!――)

『Parece. Los sirve. Fue revelado por ella――』
(見よ。それはパール、パアル、クラアトに仕える、アイリスによりて啓示された――)
『Hay él en ella, pero no hay ella en él.――』
(クハプスはクーに在るのであり、クーがクハプスで在るのではなく――)

『Ríndete culto a Dios si salgo. ¡Y debes ver a mi ser ligero vertido en ti!』
(さればクハプスを崇めよ、そして、わが光がおまえの上に降り注がれるのを見るがよい!)

『Realiza un lugar para hacer quiere del tú. No se vuelve todos ley――』
(汝の意志するところを行え。それが法の全てとならん――)

同じ魔術師とはいえ、かつては騙し合い、殺し合っていた。
科学を憎んでいた。
しかし、今、魔術師は一つの目的の為に互いに助け合い、共闘していた。
声も、心も、魔力も一つになり、一つの術式を完成させる。
『法の書(リベル・ギレス)』に記されていた伝説級の大魔術、
『魔神』は命名する。
その名も――――


『並行世界(リアルワールド)――――――――――――――――――――――――!!』


時刻は、
17時00分00秒
を指していた。

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