とある二人の恋愛物語
一日目
PM8:53
上条は日常的に美琴がご厄介になっている自販機がある公園にきていた。迫りくる野獣達か
ら命からがら逃げてきた上条は意気消沈気味だった。
(うぅ、不幸だ……。なんだってあいつらピンポイントであのファミレスで食ってんだよ。
しかもあいつらに襲われたおかげでお釣りもらい損ねたし…)
確か、二千円札をだしたから大体五百円くらいだろう。かといって、今からファミレスに戻
っても土御門達と鉢合わせになる可能性が高い。しかし後日言ったところでレシートも受け
取ってないし、毎日大勢の客を相手にしているのだからそんな瑣末なこと覚えていないだろ
う。そうなると、上条の元に五百円が戻ってくるのはもはや絶望的である。
(不幸だ…。しかもとっさのことで美琴置いてきちまったし、あいつ怒るかな…起こります
よねやっぱり)
「ちょっと!いきなり走って置いてくなんて酷くない!?」
(そうそう、きっとそんな感じに今度あった時罵倒されるかもな…)
「ちょっと?ねえってば。聞いてるの?」
(はぁ…やっと機嫌もなおったのに。やっぱり不幸だー)
「だから…、無視すんなって言ってるでしょこのボンクラァァァアアアアアア!!」
上条はその叫び声でようやく美琴の存在に気づく。そして彼女の前髪から電撃の槍が飛んで
くるのもほぼ同時だった。上条はなんとかそれを右手で受け止める。あまりの不意打ちに上
条は少し涙目だ。
「あ、あぶねえじゃねえか!たまにはもう少しやさしく呼びかけるとか肩を叩くとか、そう
いう普通の選択肢を美琴センセーは持ち合わせていないんでしょうか!?」
「うっさい、あんたが無視すんのがいけないんでしょうが!あーもう、ムカつく!たまには
素直に喰らってなさい!」
「死ねって事ですか!?」
ぎゃああ! と二人はいつも通りの言い争いを始める。しばらくしてお互い不毛に感じたの
か、二人してため息をつき近くのベンチに座り込んだ。
「つか、あいつらが追っかけてこなくなったのはまさかお前の仕業か?」
「そ。まあアンタの知り合いっぽかったし、手加減はしといたわ。って言っても改造スタン
ガン押し当てられたときぐらいの衝撃は感じたでしょうけど、まあ死にはしないでしょ?」
「…なんで最後が疑問系なんだ?」
上条は土御門と青髪ピアスの冥福を心よりお祈りしていると、
「あ、そうそう。はい、これ」
美琴はスカートのポケットに手を突っ込み、いくらか小銭を取り出す。大体五百円ぐらいか
と上条は見積もる。
(ん?五百円?……!ま、まさか……!!)
「み、美琴さん??ましゃか、ましゃか…?」
「? なんで幼児言葉になっんてんのよ。アンタお釣り受け取らないで逃げちゃったから代
わりに受け取っといたわ。感謝しなさいよね……って、何泣いてんのよ?!」
「美琴…おまえ…やっぱ良い奴だなぁ……グス」
「い、言っとくけど!べ、別にアンタのために受け取ったわけじゃないんだからね!?えっ
と…そう!ただ、アンタに貸しを作っといたほうがなんか後々役立つと思っただけ…ってち
ょっと、人の話ききなさいよっ!地べたに這いつくばって土下座すんな!」
美琴は思わずスカートを抑える。どうせ短パンで見えないはずなのだが気分的な問題がある
ようだ。美琴は上条の頭を軽くひっぱたいて正気に戻すとお釣りを上条に渡した。。
「つかそもそもアンタはなんで逃げていた訳?」
「それを話すとあいつ等の人権に関わってくるから深く突っ込めねえけど、要は俺とお前が
楽しそうにいちゃいちゃしてた(ように見えた)のが気に食わなかったんだとさ」
「………!?」
美琴の顔がに一気に真っ赤に染まっていく。頭からは煙が出てるように見えた。
「い…いちゃいちゃってななななな、なに言ってんのよこのド馬鹿!」
ズバチィ!と凄まじい音がしてさっきよりはるかに強いであろう電撃が上条を襲う。それも
なんとか受け止める。正直さっきの不意打ちの時にこれをかまされていたら受け止められた
自信がない。そう思うと上条はゾッとした。
「い、今のはマジであぶなかった…。こらビリビリ!さっきといい、俺を殺す気か!」
「うっさいわね!やっぱアンタムカつく!ここで半殺しにしてやるからじっとしろ!」
「それがわかっててジッとしている馬鹿なんているわけねぇだろうが!」
ぎゃああ!とまたもや言い争う。上条は気付いていないがここは公園だ。何も知らない人が
この部分だけ見たら常盤台のお嬢様と高校生のカップルが痴話げんかしているようにも見え
るわけで、その証拠に先ほどから上条たちをチラ見してはひそひそ話をしているのがわかる
。そのことに美琴は気付き、恥ずかしくなったのか素直に再びベンチに座り込んだ。
「ふぅ…なんかどっと疲れたわ」
「こっちの台詞だっつーの……」
なにをう?と美琴は軽く睨んできたが上条はスルーする。上条はポケットから携帯電話を取
り出し画面を開く。気付けばもう9時を回っていた。
「美琴、もう遅いし送っていくよ。」
「え?べ、別に良いわよ。子供じゃないんだから一人で帰れるって!」
「いいよどうせ途中まで帰り道だし、常盤台の寮から俺んちだったらそんな遠くないしな」
「い、いやでも…」
「遠慮すんなって、らしくないぜ?おまえが遠慮なんて」
「…し、しょうがないわねえ、素直に送られてやりますか」
「なんだそれ?」
上条は少し苦笑して、ベンチから腰を上げた。チラッと後ろを見た時の美琴の顔がなにか嬉
しそうだった。上条は少し首を傾げたが特に気に止めず、前に向き直った。
「あ、ちょっとまって。喉乾いちゃったからジュース取ってくるわアンタもなんか飲む?」
「あ?いいよ別に」
「こういうときは遠慮すんなっていったでしょ?すなおに奢られなさい」
(やれやれ…こういうことに関しては意地っ張りだよなこいつも…ん?とってくる?ま、ま
さか…!)
上条の嫌な予感は的中した。美琴は自販機の前まで行き、息をすぅー と吐くた。そしてち
ぇいさーっ!というふざけた掛け声とともに自販機の側面に上段蹴りを叩きこむ。ここまで
はいつも通り。だが今日の自販機はとても不機嫌だったらしくジュースが出てこなかった。
そのかわり―――
「あれー?この自販機じゃなかったっけ、おっかしいなー?ってちょっとなに!?」
上条は美琴の手を取り、一目散に自販機から離れた。後ろから聞こえてくる夜の公園の静け
さをかき消すような自販機の絶叫と、先ほどまで上条たちが立っていたあたりに警備ロボが
数台群がってくる音が聞こえるが上条は決して振り向かなかった。
PM9:26
上条と美琴はしぶとくついてくる警備ロボの追跡を振り切り、なんとか帰路についていた。
二人で並んで歩いているので傍から見たらカップルに見えなくもないが、今の上条は気にす
る余裕などなかった。警備ロボを美琴が操っていなかったら上条は今頃、警備員(アンチス
キル)のお世話になり、どうみてもよくて小学生にしか見えない担任教師の小萌先生を泣か
せ、後日クラスメイトたちにタコ殴りにされるという結末を辿っていたことだろう。
とはいえ――
「はぁああああ……、やっぱり不幸だ」
「なにさっきからため息ばっかりついてるのよ。なんか嫌なことでもあったの?」
「そのセリフまじめに言っているんだとしたらその理由、意見、感想を含めて三時間は語り
つくす自信がありますよ!ハイ!!」
「むぅ…悪かったってば、まさか失敗するとは思わなかったんだもん……」
美琴は少し俯き加減になって落ち込んでしまった。彼女もいつもやっている事なので失敗す
るとは思わなかったのだろう。上条は思わず「うっ!」と怯む。こんな事されたら許さない
わけにはいかないじゃないか、こういう時って本当に女の子ってずるいと上条は思った。
「はぁ…もういいよ、わざとじゃなかったんだろ?ならこの話は終わり。だから――」
上条は美琴に慰めの言葉を掛けようとしたら、
「あ、でもアンタの顔はバッチリカメラに撮られたと思うわよ。細工はしたけど私の所だけ
映らないように細工したから」
「俺の慰めの言葉を返せえぇぇぇえええええええええええええ!!」
「くっ、あはははは!!バーカ、冗談よ冗談。なに本気にしてん………くくっ、あはは!!
ってジョーク!ジョークだってば!臨戦モードで間合はかんなって!」
「ったく、人がせっかく心配してやったってのに。こいつは」
「あはは、ごめんごめん。でも礼は言っとくわ」
「あ?」
すると美琴は上条の前に回りこみ、
「わたしのこと、本気で心配してくれてありがとね」
それは普段の彼女からはみられないとても柔らかな笑顔で、上条の心を大きく振るわせた。
ドクンと鼓動が高鳴るのが胸にてを当てないでも伝わった。
(………や、やべっ中学生相手になに動揺してんだよ俺、しかもあの美琴だぞ!気を確かに
持て!)
「クスッアンタ、今ドキッっとしたでしょ?いつもの私らしくないって」
「なっ!?」
図星だったので返す言葉が出てこない。うまく回らない頭で言い訳の言葉を考えていると、
「ははっ確かに今のは私らしくなかったかな、でもずっとお礼言いたかったの。良く考えて
みたらちゃんと言えてなかったし」
「? なにがだ?」
「妹達(シスターズ)の件やその他諸々のことよ。今更だけどさ私だけではどうにもならなか
った。アンタが助けてくれなかったら今頃私はここにいなかった、一方通行に返り討ちにあ
って殺されてこの世にすらいなかったはず。今、ここでこうして普通の日常を送っていられ
るのもアンタのおかげ、ありがとう」
「ん……まあ……どういたしまして?」
上条は照れ隠しに頭をガシガシと乱暴にかいた。こういうことを面と向かって言われると結
構恥ずかしい。面と向かって直接本人の口から感謝の言葉をかけられるのはこれが始めてで
はないが、こういったことは幾ら言われても慣れるものじゃない。
「アンタってホントおせっかいよね、思えば始めて会った時からそう、関わらなくてもいい
ような問題に首突っ込んで怪我をするなんて馬鹿のすることよ」
「馬鹿ってお前な…」
「ねえ―――」
「もしまた私が危ない目にあったらさ、たとえ地獄の底でも救い出しにきてくれる?」
上条はこの時強烈なデジャブに襲われた。そう、過去に似たようなことを誰かに言われたよ
うな気がした。記憶のない上条にはそれがいつの事だったのかわからない。しかし心はこの
言葉には真面目に返事すべきだと叫んでいる気がした。
「……さあな、俺はただのおせっかいな人だからな」
「………」
「でも、もしもお前がそんな状況になったとしたら迷わず俺は絶対助けにいく。漫画の中の
ヒーローみたいにうまくいくかはわかんねえけど、絶対助けにいく。どうにかならなくても
どうにかしてみせる。そんな誰かが不幸にならなくちゃならない物語があるんなら、そんな
つまんねえ幻想はおれがぶち壊してやる」
上条は自分の右手を一瞥して強く握り締め、上条は笑った。その言葉は何の根拠もなく、乱
雑な言葉だったが、なにか重い信念のようなものを感じた。まるで、なにがあってもこの少
年ならばどうにかなってしまうのではないかと思うほどの力強さが込められていた。たとえ
明日世界が終わるとしても諦めないと言うかのように―――。
上条の言葉を聞いてから、美琴の顔は真っ赤に染まっていた。夏休み最後の日に聞いたあの
言葉と今の言葉が同時に頭の中を駆け巡る。胸の鼓動は上条に聞こえてしまうのではないか
というくらいに高鳴っていた。
「な、なななななに言っちゃってくれてんのよアンタ……!ち、ちょっとした冗談だっての
に……」
「別に俺は冗談言ったつもりはないぜ?さっきの言葉は大マジだ。いつでもヒーローみたい
に駆けつけて、なにがあっても守ってやるよ」
それはある魔術師との約束でもあった。
「――――!そ、そっか…。じゃあ今の言葉、忘れないことね。破ったら背後から超電磁砲
お見舞いしてやるんだから、まあせいぜいがんばんなさい」
それは恐ろしいと上条は思う。あんなもの人体に当たったらそれこそ肉片すら残るまい。い
くら幻想殺しで無力化できるとはいえ、右手に当たらなければ意味がない。よって奇襲とい
うのは一番怖い。
「じゃあ、はい」
美琴はかばんから袋を取り出し、さらにその中から二つのビニールの小包装を取り出す。さ
っきファミレスでもらった『ゲコ太』キーホルダーだ。その内の一つを上条に渡す。
「? さっきのキーホルダー?」
「そ。アンタと私、同じセット頼んだから二個もらえたの」
「これがどうかしたのか?」
「それを肌身離さず持ってなさい。絶対無くさないでよ?約束を交わした証みたいなもなん
だから、なんかロマンチックじゃない?こういうの」
「約束の証か、わかった。絶対になくさねえから心配すんな」
そう言うと目の前にいる少女は、
「……ありがとね」
またにっこりと笑った。上条はこの瞬間、『この少女のこの笑顔は絶対に守る。』そう心に
誓った。
PM8:53-9:26 終了
一日目
PM8:53
上条は日常的に美琴がご厄介になっている自販機がある公園にきていた。迫りくる野獣達か
ら命からがら逃げてきた上条は意気消沈気味だった。
(うぅ、不幸だ……。なんだってあいつらピンポイントであのファミレスで食ってんだよ。
しかもあいつらに襲われたおかげでお釣りもらい損ねたし…)
確か、二千円札をだしたから大体五百円くらいだろう。かといって、今からファミレスに戻
っても土御門達と鉢合わせになる可能性が高い。しかし後日言ったところでレシートも受け
取ってないし、毎日大勢の客を相手にしているのだからそんな瑣末なこと覚えていないだろ
う。そうなると、上条の元に五百円が戻ってくるのはもはや絶望的である。
(不幸だ…。しかもとっさのことで美琴置いてきちまったし、あいつ怒るかな…起こります
よねやっぱり)
「ちょっと!いきなり走って置いてくなんて酷くない!?」
(そうそう、きっとそんな感じに今度あった時罵倒されるかもな…)
「ちょっと?ねえってば。聞いてるの?」
(はぁ…やっと機嫌もなおったのに。やっぱり不幸だー)
「だから…、無視すんなって言ってるでしょこのボンクラァァァアアアアアア!!」
上条はその叫び声でようやく美琴の存在に気づく。そして彼女の前髪から電撃の槍が飛んで
くるのもほぼ同時だった。上条はなんとかそれを右手で受け止める。あまりの不意打ちに上
条は少し涙目だ。
「あ、あぶねえじゃねえか!たまにはもう少しやさしく呼びかけるとか肩を叩くとか、そう
いう普通の選択肢を美琴センセーは持ち合わせていないんでしょうか!?」
「うっさい、あんたが無視すんのがいけないんでしょうが!あーもう、ムカつく!たまには
素直に喰らってなさい!」
「死ねって事ですか!?」
ぎゃああ! と二人はいつも通りの言い争いを始める。しばらくしてお互い不毛に感じたの
か、二人してため息をつき近くのベンチに座り込んだ。
「つか、あいつらが追っかけてこなくなったのはまさかお前の仕業か?」
「そ。まあアンタの知り合いっぽかったし、手加減はしといたわ。って言っても改造スタン
ガン押し当てられたときぐらいの衝撃は感じたでしょうけど、まあ死にはしないでしょ?」
「…なんで最後が疑問系なんだ?」
上条は土御門と青髪ピアスの冥福を心よりお祈りしていると、
「あ、そうそう。はい、これ」
美琴はスカートのポケットに手を突っ込み、いくらか小銭を取り出す。大体五百円ぐらいか
と上条は見積もる。
(ん?五百円?……!ま、まさか……!!)
「み、美琴さん??ましゃか、ましゃか…?」
「? なんで幼児言葉になっんてんのよ。アンタお釣り受け取らないで逃げちゃったから代
わりに受け取っといたわ。感謝しなさいよね……って、何泣いてんのよ?!」
「美琴…おまえ…やっぱ良い奴だなぁ……グス」
「い、言っとくけど!べ、別にアンタのために受け取ったわけじゃないんだからね!?えっ
と…そう!ただ、アンタに貸しを作っといたほうがなんか後々役立つと思っただけ…ってち
ょっと、人の話ききなさいよっ!地べたに這いつくばって土下座すんな!」
美琴は思わずスカートを抑える。どうせ短パンで見えないはずなのだが気分的な問題がある
ようだ。美琴は上条の頭を軽くひっぱたいて正気に戻すとお釣りを上条に渡した。。
「つかそもそもアンタはなんで逃げていた訳?」
「それを話すとあいつ等の人権に関わってくるから深く突っ込めねえけど、要は俺とお前が
楽しそうにいちゃいちゃしてた(ように見えた)のが気に食わなかったんだとさ」
「………!?」
美琴の顔がに一気に真っ赤に染まっていく。頭からは煙が出てるように見えた。
「い…いちゃいちゃってななななな、なに言ってんのよこのド馬鹿!」
ズバチィ!と凄まじい音がしてさっきよりはるかに強いであろう電撃が上条を襲う。それも
なんとか受け止める。正直さっきの不意打ちの時にこれをかまされていたら受け止められた
自信がない。そう思うと上条はゾッとした。
「い、今のはマジであぶなかった…。こらビリビリ!さっきといい、俺を殺す気か!」
「うっさいわね!やっぱアンタムカつく!ここで半殺しにしてやるからじっとしろ!」
「それがわかっててジッとしている馬鹿なんているわけねぇだろうが!」
ぎゃああ!とまたもや言い争う。上条は気付いていないがここは公園だ。何も知らない人が
この部分だけ見たら常盤台のお嬢様と高校生のカップルが痴話げんかしているようにも見え
るわけで、その証拠に先ほどから上条たちをチラ見してはひそひそ話をしているのがわかる
。そのことに美琴は気付き、恥ずかしくなったのか素直に再びベンチに座り込んだ。
「ふぅ…なんかどっと疲れたわ」
「こっちの台詞だっつーの……」
なにをう?と美琴は軽く睨んできたが上条はスルーする。上条はポケットから携帯電話を取
り出し画面を開く。気付けばもう9時を回っていた。
「美琴、もう遅いし送っていくよ。」
「え?べ、別に良いわよ。子供じゃないんだから一人で帰れるって!」
「いいよどうせ途中まで帰り道だし、常盤台の寮から俺んちだったらそんな遠くないしな」
「い、いやでも…」
「遠慮すんなって、らしくないぜ?おまえが遠慮なんて」
「…し、しょうがないわねえ、素直に送られてやりますか」
「なんだそれ?」
上条は少し苦笑して、ベンチから腰を上げた。チラッと後ろを見た時の美琴の顔がなにか嬉
しそうだった。上条は少し首を傾げたが特に気に止めず、前に向き直った。
「あ、ちょっとまって。喉乾いちゃったからジュース取ってくるわアンタもなんか飲む?」
「あ?いいよ別に」
「こういうときは遠慮すんなっていったでしょ?すなおに奢られなさい」
(やれやれ…こういうことに関しては意地っ張りだよなこいつも…ん?とってくる?ま、ま
さか…!)
上条の嫌な予感は的中した。美琴は自販機の前まで行き、息をすぅー と吐くた。そしてち
ぇいさーっ!というふざけた掛け声とともに自販機の側面に上段蹴りを叩きこむ。ここまで
はいつも通り。だが今日の自販機はとても不機嫌だったらしくジュースが出てこなかった。
そのかわり―――
「あれー?この自販機じゃなかったっけ、おっかしいなー?ってちょっとなに!?」
上条は美琴の手を取り、一目散に自販機から離れた。後ろから聞こえてくる夜の公園の静け
さをかき消すような自販機の絶叫と、先ほどまで上条たちが立っていたあたりに警備ロボが
数台群がってくる音が聞こえるが上条は決して振り向かなかった。
PM9:26
上条と美琴はしぶとくついてくる警備ロボの追跡を振り切り、なんとか帰路についていた。
二人で並んで歩いているので傍から見たらカップルに見えなくもないが、今の上条は気にす
る余裕などなかった。警備ロボを美琴が操っていなかったら上条は今頃、警備員(アンチス
キル)のお世話になり、どうみてもよくて小学生にしか見えない担任教師の小萌先生を泣か
せ、後日クラスメイトたちにタコ殴りにされるという結末を辿っていたことだろう。
とはいえ――
「はぁああああ……、やっぱり不幸だ」
「なにさっきからため息ばっかりついてるのよ。なんか嫌なことでもあったの?」
「そのセリフまじめに言っているんだとしたらその理由、意見、感想を含めて三時間は語り
つくす自信がありますよ!ハイ!!」
「むぅ…悪かったってば、まさか失敗するとは思わなかったんだもん……」
美琴は少し俯き加減になって落ち込んでしまった。彼女もいつもやっている事なので失敗す
るとは思わなかったのだろう。上条は思わず「うっ!」と怯む。こんな事されたら許さない
わけにはいかないじゃないか、こういう時って本当に女の子ってずるいと上条は思った。
「はぁ…もういいよ、わざとじゃなかったんだろ?ならこの話は終わり。だから――」
上条は美琴に慰めの言葉を掛けようとしたら、
「あ、でもアンタの顔はバッチリカメラに撮られたと思うわよ。細工はしたけど私の所だけ
映らないように細工したから」
「俺の慰めの言葉を返せえぇぇぇえええええええええええええ!!」
「くっ、あはははは!!バーカ、冗談よ冗談。なに本気にしてん………くくっ、あはは!!
ってジョーク!ジョークだってば!臨戦モードで間合はかんなって!」
「ったく、人がせっかく心配してやったってのに。こいつは」
「あはは、ごめんごめん。でも礼は言っとくわ」
「あ?」
すると美琴は上条の前に回りこみ、
「わたしのこと、本気で心配してくれてありがとね」
それは普段の彼女からはみられないとても柔らかな笑顔で、上条の心を大きく振るわせた。
ドクンと鼓動が高鳴るのが胸にてを当てないでも伝わった。
(………や、やべっ中学生相手になに動揺してんだよ俺、しかもあの美琴だぞ!気を確かに
持て!)
「クスッアンタ、今ドキッっとしたでしょ?いつもの私らしくないって」
「なっ!?」
図星だったので返す言葉が出てこない。うまく回らない頭で言い訳の言葉を考えていると、
「ははっ確かに今のは私らしくなかったかな、でもずっとお礼言いたかったの。良く考えて
みたらちゃんと言えてなかったし」
「? なにがだ?」
「妹達(シスターズ)の件やその他諸々のことよ。今更だけどさ私だけではどうにもならなか
った。アンタが助けてくれなかったら今頃私はここにいなかった、一方通行に返り討ちにあ
って殺されてこの世にすらいなかったはず。今、ここでこうして普通の日常を送っていられ
るのもアンタのおかげ、ありがとう」
「ん……まあ……どういたしまして?」
上条は照れ隠しに頭をガシガシと乱暴にかいた。こういうことを面と向かって言われると結
構恥ずかしい。面と向かって直接本人の口から感謝の言葉をかけられるのはこれが始めてで
はないが、こういったことは幾ら言われても慣れるものじゃない。
「アンタってホントおせっかいよね、思えば始めて会った時からそう、関わらなくてもいい
ような問題に首突っ込んで怪我をするなんて馬鹿のすることよ」
「馬鹿ってお前な…」
「ねえ―――」
「もしまた私が危ない目にあったらさ、たとえ地獄の底でも救い出しにきてくれる?」
上条はこの時強烈なデジャブに襲われた。そう、過去に似たようなことを誰かに言われたよ
うな気がした。記憶のない上条にはそれがいつの事だったのかわからない。しかし心はこの
言葉には真面目に返事すべきだと叫んでいる気がした。
「……さあな、俺はただのおせっかいな人だからな」
「………」
「でも、もしもお前がそんな状況になったとしたら迷わず俺は絶対助けにいく。漫画の中の
ヒーローみたいにうまくいくかはわかんねえけど、絶対助けにいく。どうにかならなくても
どうにかしてみせる。そんな誰かが不幸にならなくちゃならない物語があるんなら、そんな
つまんねえ幻想はおれがぶち壊してやる」
上条は自分の右手を一瞥して強く握り締め、上条は笑った。その言葉は何の根拠もなく、乱
雑な言葉だったが、なにか重い信念のようなものを感じた。まるで、なにがあってもこの少
年ならばどうにかなってしまうのではないかと思うほどの力強さが込められていた。たとえ
明日世界が終わるとしても諦めないと言うかのように―――。
上条の言葉を聞いてから、美琴の顔は真っ赤に染まっていた。夏休み最後の日に聞いたあの
言葉と今の言葉が同時に頭の中を駆け巡る。胸の鼓動は上条に聞こえてしまうのではないか
というくらいに高鳴っていた。
「な、なななななに言っちゃってくれてんのよアンタ……!ち、ちょっとした冗談だっての
に……」
「別に俺は冗談言ったつもりはないぜ?さっきの言葉は大マジだ。いつでもヒーローみたい
に駆けつけて、なにがあっても守ってやるよ」
それはある魔術師との約束でもあった。
「――――!そ、そっか…。じゃあ今の言葉、忘れないことね。破ったら背後から超電磁砲
お見舞いしてやるんだから、まあせいぜいがんばんなさい」
それは恐ろしいと上条は思う。あんなもの人体に当たったらそれこそ肉片すら残るまい。い
くら幻想殺しで無力化できるとはいえ、右手に当たらなければ意味がない。よって奇襲とい
うのは一番怖い。
「じゃあ、はい」
美琴はかばんから袋を取り出し、さらにその中から二つのビニールの小包装を取り出す。さ
っきファミレスでもらった『ゲコ太』キーホルダーだ。その内の一つを上条に渡す。
「? さっきのキーホルダー?」
「そ。アンタと私、同じセット頼んだから二個もらえたの」
「これがどうかしたのか?」
「それを肌身離さず持ってなさい。絶対無くさないでよ?約束を交わした証みたいなもなん
だから、なんかロマンチックじゃない?こういうの」
「約束の証か、わかった。絶対になくさねえから心配すんな」
そう言うと目の前にいる少女は、
「……ありがとね」
またにっこりと笑った。上条はこの瞬間、『この少女のこの笑顔は絶対に守る。』そう心に
誓った。
PM8:53-9:26 終了