とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 6-763

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匿名ユーザー

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『並行世界(リアルワールド)』


二日目 16時55分


第三学区。
セブンズタワーホテルの地下七階に、秘密裏に増設された巨大モニタールームが存在する。かつては、学園都市の裏社会を暗躍する非合法組織を運営、または監視する『ウォッチャー』が使用していた場所であり、学園長の許可が下れば『滞空回線(アンダーライン)』を通じて、より詳細な情報をモニタリングする事が出来る。
現在、『ドラゴン』の状況を逐一確認するため、学園都市に漂う全ての『滞空回線(アンダーライン)』の使用が許可されていた。第一学区から第二八学区までの各部が映し出され、特に一八学区の状況は大きなスクリーンに表示されている。
『魔神』、『天使』と対峙している五〇〇〇人以上の『妹達(シスターズ)』と御坂美琴、剣多風水、『新たなる光』の魔術師達。
負傷し戦線離脱した『騎士団長(ナイトリーダー)』、オッレルス、シルビア、ステイル=マグヌス、バードウェイの五人の魔術師、神裂火織率いる天草式十字正教は、各々で回復魔術を施している。
学園都市最高峰の技術を結集している一室なのだが、妙な構造になっていた。部屋の中央に、コードがいくつも繋がったマッサージチェアのような機械仕掛けの椅子と、何重にも分厚いセキュリティードアの付近に、一台のデスクトップがあるだけだった。ここに集約されている情報の大半は『マザー』の即時適切な処理が行われているため、手動操作の機材が圧倒的に少ないからだ。
「そう落ち込むな。結標」
「…分かってるわよ」
「ならいい」
モニターの光だけが灯る暗いホールで、黒のスーツを身に纏った雲川芹亜は、彼女の肩をたたき、
「お前の取り分は残しておいたじゃないか。まあ、男共はタダ働きになってしまったけど」
「やっぱり、そうだったのね…余計凹むわ」
先ほど、レットインドランドのルールで行ったポーカーの結果、雲川芹亜に『グループ』の報酬は巻き上げられてしまった。土御門とエツァリはチップを全て奪われ、結標はプラスマイナスゼロの元金が手元に残っていた。だが、その結果すらも、『神上派閥』の作戦本部『ジョーカー』のブレイン、雲川芹亜の配慮だった事に結標淡希は気づいていた。
「理(ことわり)を数字で説明するのが科学。理(ことわり)を神の仕業で説明するのが魔術…私にとっての科学など、分かりやすく言えばこの程度の基準(スケール)でしか無い」
「…ねえ、雲川。『無能力者(レベル0)』なんてウソでしょ?脳の異常な発達が貴方の能力だったりするんじゃない?」
「はははっ、それは面白いな。だけど測定では『無能力者(レベル0)』で、この切れすぎる頭は『天然』だよ。そういう意味では、私と総帥は似ているけど」
結標淡希は深い溜息をついて、
「…私が言うのもなんだけどさ…総帥だけは止めておいた方がいいわよ?超電磁砲とは別の女を家に侍らせて、行く先々で愛人を作ってるんでしょ?一度、彼の女性問題が発端で内乱が起きたわよね?イギリスの経済が一時ストップして、数十億ドルの損失が出たって聞いてたけど…」
「…アレは仕方がなかったのさ。たかだか、一〇〇人程度の美女がいる酒池肉林如きで総帥を籠絡させようなど…私もついつい『本気』になってしまったよ」
…これ以上は聞いてはいけない、と結標淡希の本能が告げていた。
「総帥の周りには色恋の話が絶えず、色々と噂は絶えないが、彼は驚くほど硬派だぞ?それも総帥の美点の一つなのだが……お前は知らない方がいいだろう。泥沼の女同士の抗争に参加したくはあるまい?」
「…そんなのこっちからお断りよ。もしも、私が参戦するって言ったらどうするつもりだったの?」
「うん?万が一の場合、カエルのような顔をした医者に診せるのが数分遅れるくらいだが?」
「ちょ!?雲川、それマジで言ってんでしょ!」
「HAHAHAHA」
「うわ、ウザ!っていうかムカつく!」
結標の声を聞き流し、雲川は手元にあるノートパソコンのEnterキーを押す。
中央にあるチェアが音を立てて作動し、結標の頭部を機械仕掛けのヘルメットが覆った。
「雑談はこれぐらいにして…準備はいいな?」
『勿論よ。私が成功しないと世界が終わるんだから、私がどうなっても、任務をやり終えるまでは手出ししないで』
肉声から、フィルターごしの電子音へと変わる。
「無論そのつもりだ。役割を果たす前に脳を焼き切ってしまったりしたら、私はお前を許さないし、死体を切り刻む」
デスクトップには多くのアプリケーションが展開しており、マイク付きヘッドフォンを被った雲川は、パソコンに備え付けられている小さなスイッチに電源を入れた。『Connecting Complete』の文字が表示された。
『あー…てすてす…聞こえますかー?各学区にいる魔術師達に伝えます』
雲川芹亜は告げた。


「『並行世界(リアルワールド)』作戦―――――現時刻を持って、最終段階に入る」


二日目 16時56分31秒


「ライダーキーック!」
場所は、再び戦場へ戻る。
少女の掛け声と共に、『体内電気(インサイドエレクトロ)』で強化された肉体から、蹴りが放たれた。
的確に『闇』の首を捉え、ゴキィッ!と嫌な音が鳴る。頭部があらぬ方向に曲がった『闇』は霧散し、痕跡も残さず消えた。
「で?これは一体何なのさ?ゴキブリみたいにウヨウヨ出てくるんですけど」
背中合わせで戦っているフロリスに、ミサカ『〇〇〇〇〇号(フルチューニング)』は問いかけた。
「国を一夜で滅ぼしたとされる黒魔術、『夜舞う死を恐れぬ軍兵(ゾンビパウダー)』。ヴォドゥンの秘術。本来は死体に施すことによって、リヴィングデッドを作りだす魔術だけど、術式を変容させて、実態の無い『闇』に施して、不死身の兵隊を生み出してるみたい」
彼女の周囲には、人のカタチをしている『闇』が群れていた。各々は剣やら槍やらのカタチをした原始的な武器を持っており、動きは鈍いが、明らかな殺意を持って襲いかかってくる。四方八方から、『妹達(シスターズ)』のアサルトライフルと思われる銃撃音が鳴りやまない。彼女たちも、この『闇』の対処で精一杯なのだろうと、ゼロは推測した。
「ドラゴンって魔術も使えるの?」
「…神なんだから、なんでもアリじゃない?秘術なんて、おとぎ話にしか出てこないほどのシロモノだよ」
「なぁんだかな?私、伝説級の魔術しか見たこと無いんだけど」
「…確かに、『戦争』が起こるまで、神話クラスの魔術がオンパレードに展開されてたからね」
「キリが無いじゃん。こうやって倒してても意味無いじゃん」
「この術式は発動した時点で術者から独立する術式なの」
バンッ!と銃声が響く。ハッとしたフロリスの眼前で、『闇』の頭部が破裂し、消滅した。ミサカ『〇〇〇〇〇号』のベレッタW78が硝煙を上げていた。西部劇のガンマンを気取って、格好良くホルスターに銃を収めると、
「アシスト、次は無いよ?魔術師さん♪」
「それはこっちのセリフだっ!」
フロリスは御符が付加されたナイフで、眼前の『闇』を切り裂いた。
「作戦が最終段階に入ってる。もう一踏ん張り、するとしますかっ!」
ゼロは、振り下ろされる斧を掻い潜り、『闇』の懐に九ミリパラベラム弾を撃ち込んだ。バシュッ!と、大男のカタチをした『闇』は無に帰した。


(二日目) 16時57分10秒


『元素なる弩(ガストラフェテス)』が精製される。
強固な弦が撓り、勢いよく発射された四メートルの大槍が、『天使』の槍を絡め取った。
剣多風水は、両手に二本の剣を握る。次に地盤を、スプリングを底辺とする鉄板に変えた。弾性力を利用して、空へ飛び上がる上半身を回転させ、無防備な『天使』にカットラスの斬撃を放つ。
『天使』は刃を右手で掴んだ。
剣多風水は、『金属使い(メタルオブオーナー)』の能力を発揮する。
剃りがある剣は忽ち鎖に変貌し、『天使』を拘束した。彼女は全体重を乗せて、遠心力を利用して『天使』に軌道を描かせる。地面に降り立った風水は、
「ふっ!」
ゴシャァアア!と、『天使』を地上へ叩きつけた。
右手を振り上げる剣多風水の演算は止まらない。アスファルトからいくつもの鎖が出現し、『天使』を瓦礫に縫いつけた。身動きが取れない『天使』に『妹達(シスターズ)』が追撃した。
アサルトライフルに取り付けられた大口径の銃口がポップアップされ、グレネード弾が『天使』に撃たれた。
ポンッ!と間抜けな音の後に、爆発音が鳴り響く。
改良された『幻想御手(レベルアッパー)』を使用して、ミサカネットワークを通じ、剣多風水はミサカたちとリアルタイムで情報交換し、連携を組んでいた。『天使』を攻撃する数十人のミサカを見ながら、彼女は剣を突き立てる。
「…はぁー…は、はぁー…」
黒色のメイド服が小刻みに揺れる。
肩で息をする彼女の額から、大粒の汗が零れ落ちていた。


長時間の能力使用に、疲労を覚えていたのは彼女だけでは無かった。
「うぐっ…」
御坂美琴に頭痛が走る。
「お姉様、それ以上の『幻想御手(レベルアッパー)』の使用は脳に多大なダメージを与えますとミサカは…」
「ふん、それはお互い様よ。アンタだって、脳の一部が私と風水に使われていて、本調子じゃない癖に」
「それに加え、『一方通行(アクセラレータ)』の代理演算を常時行っているこの身にとっては何の支障もありませんよ、とミサカ一〇〇三二号は平気な顔でマガジンを装填します」
黄金の瞳がミサカを見つめた。一息吐くと、御坂美琴は背後に備えていたホルスターから拳銃を投げ捨てた。カラカラ…と地面を回るベレッタW78はスライドが伸びきっていた。
(オートマティック拳銃も二発が限界か…バレルが熱で溶けちゃう)
御坂美琴はミサカ一〇〇三二号から新たなベレッタW78を受け取った。彼女がベレッタを愛用している訳では無く、『妹達(シスターズ)』に配布された武器を使っているだけである。彼女はすでに一〇丁以上の拳銃を使い捨てていた。
一〇〇〇億ボルトのソレノイドによって生み出される熱は、一瞬とはいえ五万ジュールにも及ぶ。耐熱性に優れたポリマーフレームを使用しているが、拳銃サイズの武器では御坂美琴の高電圧が起こす熱には耐えきれない。故に、ハンドガンサイズの『超電磁砲(レールガン)』を実現するためには必要な消耗品であった。御坂美琴はセーフティーを解除し、ハンマーを下ろす。慣れた手つきでスライドを引き、初弾を装填した。
リアサイトとフロントサイトに『魔神』が捉えられた。
ズドンッ!と。
音速の一〇倍を超える九ミリパラベラム弾が『超電磁砲(レールガン)』となって突きぬけた。
『幻想殺し(イマジンブレイカー)』で御坂美琴の電撃が打ち消されたとしても、火薬爆発で加速された弾丸を打ち消すことはできない。幾度となく上条当麻と争って身に付けた『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の対処法。昔はパチンコ玉を使って、上条当麻を追い詰めた経験がある。
『超電磁砲(レールガン)』の衝撃を殺すが、爆風を伴うマッハ波までは防ぎきれなかった。
ミサカ『〇〇〇〇〇号(フルチューニング)』から得た『体内電気(インサイドエレクトロ)』を用いて、御坂美琴は常人を逸した脚力で空を駆ける。
ゴロゴロォォッ!!!と、一〇〇〇億ボルトの電圧が空気を瞬時に膨張し、眩い雷撃が放たれた。
『魔神』は右手を向ける。しかし、致死量を超えた電撃をまともに受けてしまう。雷鳴を轟かせる閃光が、『魔神』の体を突きぬけた。血に染まったワイシャツは焼け焦げ、吹き飛ばされた身体は瓦礫の地をバウンドした。
『魔神』に致命的なダメージを与えた。
その現実こそが彼女を驚愕させた。


(右手の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が無くなってる――――?)

御坂美琴の背中に、ゾクッと寒気が襲う。
「『妹達(シスターズ)』!最優先事項!今すぐ、ドラゴンを拘束して!手足の一、二本は構わないから!」
(ドラゴンが自閉モードに入ってる!)
悲鳴に近い『お姉様(オリジナル)』の命令に、同一遺伝子のミサカたちはすぐさまに反応する。
しかし、
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
『魔神』の口から、不自然な音が広がった。
直後、
学園都市に夜が襲いかかる。
オレンジ色の夕焼けは、一瞬で暗闇に包まれた。
突然現れた青い満月。



「神戮―――――――――――――――――――――――――――――――――――――」



ドンッッ!!
地上が揺れる。
魔を帯びる波動が支配した。
時間が停止する。
大気が殺される。
御坂美琴は息を呑みこんだ。
彼女だけではない。
その場にいた人間たちは動きを止めた。
理屈は無かった。
合理性も無い。
ただ、本能が理解する。
自分は死ぬのだと――

「ぎ」
『魔神』は、
「ギィィャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハahasyutwpッ…!!!」
嗤う。
静寂な世界に、『神』の嘲笑だけが木霊した。
「……嘘…でしょ?」
『神』は、ボロボロになった赤色のシャツを破り捨てた。上半身には、五和が刺した刺し傷と、御坂美琴が撃った銃創から血が流れ、所々には、過去の戦いの証とも言える生傷の痕が残っている。『神』の首には、御坂美琴とお揃いのピンクゴールドアクアマリンのネックレスが揺れていた。
突如、禍々しく、黒い『何か』が上条当麻の全身を覆った。
体中から噴出した『何か』が右腹部の銃創と胸部の刺し傷に吸い込まれていく。そして、傷は消去された。
傷一つない筋肉質の肉体。そして、素肌に刻まれていく漆黒の紋章。
まるで群れる蛇のように這いずりまわる刻印は、『神』の顔面に到達した。
狂喜に染まった真紅の瞳が、青く輝く夜を映し出した。
「イMaジンbreakerは、消滅しタッ!余ヲ縛ル鎖は、余を妨ゲる殻は存在死ナい!」
上条当麻の声に、不穏なドラゴンの声が混じりだす。
「なぜ人は現実から目を逸らそウとする!?事象を数字や文字に置キ換えル時点で、齟齬が発生スル事は自明ノ理デハナイカ?故に、人ハ愚かであRu!たダ――――」
ドラゴンは言った。

「在ルガママヲ受ケ入イレレバヨイノダ」

絶対的な恐怖が、少女たちの心を殺した。
断続的に鳴り響いていた銃声すら、ピタリと止まった。
誰も、声を発する事が出来ない。
呼吸すら許されない。
「レールガン、ト言ッタカ?」
その声に、御坂美琴は震えだす。
ブワッ…と、漆黒の『何か』はあるモノを形成する。
禍々しくも神々しく感じられる竜王の頭部が、人間が呑み込めそうなほど大きな口を開いた。
「ナカナカ痛カッタゾ?アレハ…」
『上条当麻』の真紅の瞳と、『竜王の顎(ドラゴンストライク)』の深紅の瞳が、彼女の心を串刺しにした。
御坂美琴の喉は冷え上がった。
「ひっ…!」
視界が揺らぐ。
無意識に涙が溢れた。
視線を逸らし、隣を見た。
「……あ……あっ…い、いぃ…」
その場にへたり込んだミサカ一〇〇三二号は、口を開き、ドラゴンを見つめたまま、失禁していた。
恐怖で、身動き一つ取れない。
(いやだ……こんなとこで、死にたくない…)
竜王の顎が、青白く光り出す。


「失セロ―――――――――オンナ」


ドバァッ!!と。
天空を貫く『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』が、周囲一帯を巻き込んで彼女たちを掻き消した。

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