とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 6-676

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匿名ユーザー

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お前ら何の勉強するつもりだ


とある昼下がり。ファミリーサイドというマンションの一室で、全身白ずくめの少年と青いワンピースの少女がテーブルに向かっていた。
ふかふかのソファを陣取って打ち止めが鉛筆を握り、その隣で面倒そうに、何かを諦めた表情で付き合わされている一方通行。
少女が格闘しているのは、黄泉川と芳川が与えてくれた、学園都市のこども用の計算ドリルである。
それとにらめっこしながら、打ち止めは鉛筆をコロコロとあらぬ方向へ転がした。

「うう~、微妙によくわかんないかも、ってミサカはミサカはうだー飽きた…」
「教えてくれっつったのはお前だろォが…ったく」

ドリルの前半を調子よくスラスラと終わらせた打ち止めは、なんだ楽勝だと高をくくっていたのだが、
発展問題に突入したあたりで雲行きが怪しくなってきたのだった。
打ち止めにはレベル3相当の頭脳がある。理解力はあるのだ。だが、「小学生が習うような」問題には免疫があまり無かった。
小学生用の易しい(かえって回りくどい)問題の提示に、打ち止めはすっかり参ってしまっているのである。

「解りそうなのにもうちょいなのに、ってミサカはミサカは手の届かないもどかしさに呻いてみたりー」

うぐぅー、うだぁ、という声とともに、打ち止めの頭のてっぺんから生えたアホ毛がへにょりと垂れ下がる。仕組みは不明だが。

「何かやる気になるような素敵なご褒美が欲しいかもーってミサカはミサカは貴方をチラ見してみるんだけど?」

ぐでっとテーブルにつっぷす打ち止めの隣で、一方通行は思いきり嫌そうな顔をして怒鳴った。

「ハァ?!図々しいにも程があンだろうが!!
あー…、もーめんどくせェ…じゃあこれが終わったら黄泉川が用意してったドーナツ、俺の分もやるからよォ、さっさと…」
「えぇ…おやつで釣られるわけないじゃないってミサカはミサカは分かりやすい子供扱いに呆れ顔で溜め息をついてみたり」
「クソガキィィ!その顔この上なく苛立つ!!ンじゃ何が欲しいンだよテメェはよォォ!」
「んっとね、じゃあ一個だけ、なんでも言うことを聞くー!っていうのはどうかなってミサカはミサカは衝撃の提案!」
「…はァ…?ンなことかよ」

一方通行は思わぬ申し出にきょとんとした。
どこぞの有名洋菓子店のなんたらいう限定商品が欲しいだの、一つ何万円もする巨大なぬいぐるみを買ってだの、
そういう方向のおねだりをされると思っていたからだ。
なんだそんなことか。一方通行はよく考えもせずに承諾した。

「あれ?いいの?」
「あーはいはい、なンでも構わねェから。こンなモンでやる気になるならとっとと終わらせろ」
「やっったぁー!よっしゃー頑張るぞーってミサカはミサカは俄然やる気になってみたりー!
今なら宇宙の法則だって解き明かせるんだからーってミサカはミサカはハーイテーンショーン!!」

打ち止めは転がしっぱなしだった鉛筆をはっしと握りしめ、そのまま天に突き上げて叫ぶ。何度か小さくガッツポーズもしている。
そこまで喜ぶ打ち止めを見て、一方通行も若干不安になったものの、10歳児の考えることなんて…と気をとりなおす。
言うことを聞かせて喜ぶなんざ、将来が不安だ…全くこんな育て方したのは誰だと内心嘆息した。

「テメェはナチュラルボーンハイテンションだろ。うるせェから黙って解け」
「はぁーい!約束なんだからねー!てミサカはミサっ」
「うるさい」

いい加減に喧しいので、ビシッと音がなるほどチョップを振り下ろした。
涙目になった打ち止めは、一度だけ「見てろよモヤシ」という視線を一方通行にやったあと、がばっとドリルに取り掛かった。


2時間後…


「おー、わったーっ!ってミサカはミサカは目標達成!!」
「や、やっと終わったァ…」
打ち止めが喜ぶ横で一方通行はぐったりとソファに倒れ込んだ。疲れた、もう二度とドリルなんか手伝わない。
結局最後まで、これはどうするのあれはなんなの問題の意味が解らないの、じゃあこの場合どうなるの理解できないなぜなになんで、
と打ち止めが一方通行に質問責めを続けたせいで、こっそりと途中で逃走を図るつもりだったのだが当てが外れてしまった。
一方通行にとっては遥か昔にやったものばかりで、自分では暗算すらするまでもなく当たり前に答えが浮かんでくる、そんなレベルの問題だった。
だがそれを説明しろと言われ、分かりやすく噛み砕くのには神経が磨り減る。
理論を説くことはできても、それを打ち止めのためにあれに例えこれに置き換えと、それを考える方にすっかり疲れきってしまったのだ。

「二度と…やらねェ…」
「ね、ねぇ、約束なんだけどーってミサカはミサカはおずおず申し出てみたり…」

ソファに沈む一方通行は目線だけ打ち止めにやって、はぁと溜め息した。

「でェ?俺に散々手伝わせといて、更に言うこと聞けってかァ…いいご身分だなお姫様ァ」
「うう…貴方には感謝してるもん…ありがとうってミサカはミサカはお礼を伝えてみたりー」
「ハァ。ンで何をやればいいンだよ」
「えっとね…き、キスして?ってミサカはミサカは貴方に覆い被さってみたりして…」
「……はィ?」

キシッ、とソファが鳴る。仰向けに寝転がった一方通行を見下ろすように打ち止めが一方通行の顔の両脇に手をついた。

「だから、だからね、き、キスして欲しいかも、てミサカはミサカは貴方を見つめてみる。あ、真面目なんだからね」
「……………………」

ビシリと音を立てて一方通行は固まった。ものの見事に固まった。コンクリートよりも固まった。強化プラスチックなんてメじゃない。

打ち止めの顔が近づく。
まるで少女が代理演算をストップさせてしまった時のように、頭は働かず体も動かない。
一方通行は真っ赤になった打ち止めの顔から目を逸らすことさえ出来ずに、驚きに身を強張らせていた。
打ち止めが瞼を閉じる。それさえスローモーションで、混乱した頭は手足に何の命令も送ってくれなかった。
(コイツ、自分から言い出した、くせに、ゆでダコみてェになりやがって、――えっと、なに)


距離が0になり、二人の唇が重なる――


「奪っ♪ちゃっ♪たー♪♪」
小さなリップ音を立て打ち止めの唇が離れていったあと、打ち止めはばたばたばたーーっ!とソファから逃げ出していった。
部屋の隅でスーハースーハーと深呼吸をして、じたばたと転がって、ふるふると震えて時折キャー!と小さく叫んで。
暫くそうして悶えてから、まだソファで固まったままの一方通行の傍までやってきて、(まだ真っ赤な顔のまま)ニヤニヤと笑って言った。
奪っちゃった、と。

「………(な…なンだただのキスか…ビビったァァァ…
ってそういう問題じゃねェよ!何がどうなってンだよ今何が起こったよ奪っちゃったってオイ奪われちゃったのかよつーか俺が奪われる側とかどーなンだ!?)」

プスン…

「あっ?ど、どうしちゃったのなんだか貴方の様子がおかし…ああっスイッチ切れてるどうしてなの!?ってミサカはミサカはー!」
「ただいまじゃーん…はぁ~黄泉川さん疲れt」
「ヨミカワーっ!キスしたらあの人が機能停止しちゃったの!ってミサカはミサカは半泣きになってみたりぃぃ!」
「ブホフゥッ!きっ、何だってぇ?アイツついにアンタに手ェ出したじゃんっ??!!駄目じゃんそんな――」
「手を出したのはミサカかもーってそれどころじゃないのヨミカワぁぁぁ!
どうしようーキスしたら死んじゃう生き物なんて初めて聞いたかもーってミサカはミサカは大混乱ッ!!」
「混乱してるのは私じゃんよー!!何があったの詳しく聞かせなさいじゃん!!でも聞いたところで解決出来る気がしない助けて桔梗ー!!」

一方通行は、遠くで聞こえる喧騒をすべてシャットアウトした。もうなんだか考えるのもバカバカしい。奪われちゃったらしいし。
とりあえず3日ほどひきこもろう。そうしよう。それがいい。
子供に振り回されるのは人間なら誰でも通る道だとは言った。確かに言ったが、こういった振り回され方をするなんて想定していない。
(なんかもうどうでもいいや…)

一方通行は投げ遣りな心持ちで、げんなりと目を閉じた。もう、ため息もでない。



初な悪党と積極的な子供のおはなし。

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