とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 6-371

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匿名ユーザー

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 いない。

 『あいつ』がいない。
 どれだけ街を歩いても。裏通りを探しても。
 いつもなら『またかよ』とか。
 ふらりと現れて『よー、御坂』なんて声をかけてくるのに。
 いつもあの少年はいるのに。
 いつもあの少年はいたのに。
 いつもあの少年はいてくれたのに。
 ―――あの少年がいないのだ。


「……あいつが、いない」
 ベッドに身を預けた御坂美琴は力なく呟いた。
 全身に疲労が重く圧し掛かり、それでも他人には悟られぬよう虚勢を張り続けた。
 美琴は数ヶ月前に起きた、真夏の悪夢のときのように奔走した。
 能力を使える限り使った。体が動く限り動かし続けた。
 あの少年の携帯にメールを送っても、何の返信もない。通話にも出ない。
 少年の寮の電話番号を調べ上げて電話をかけたり、部屋に向かい隣室や管理人にも行方を尋ねた。
 街中を歩いた。一つ一つの学区の様々な場所を回り、聞き込みをして、監視カメラの記録を片端から
調べ上げた。
 そんな美琴を見て、ルームメイトの白井黒子は風紀委員(ジャッジメント)の権限を用いた調査を
提案したが、美琴は首を縦には振らなかった。
 少年がとある日を堺に出国した後、帰国した記録や目撃証言も一つもなかったし、美琴自身これ以上
の調査に意味はないとほぼ断定していたのだ。
 学園都市の外部となれば能力を用いても手は届かないし、世界のどの国を調べればよいのか皆目見当も
つかなかった。
 それでも調査を断念するのに時間が掛かったのは、気持ちの問題だろう。
 そして、美琴は普段通りの生活に戻った。


 たまに、ふと振り返る。
 美琴の最近の癖だった。何気なく、後ろを振り向く。
 振り返って、人の姿が無いことを確認すると何事も無かったかのように向き直る。
 人気のない公園で、美琴は自販機を前にぼんやりしていた。
 ここで、あの少年と決して長くはない会話をして、どれだけの時間が流れただろうか。秋が、少しずつ
終わりに近づいている。
 今年の六月からちょくちょく顔を合わせていたあの少年とのやり取りが、自分にとって一つの日常だった
のだと美琴は近頃になって、ようやく気づいた。
 美琴はぽつりと呟いた。
「……何でよ」
 唇がわずかに震えている。
「何で、今頃になって……」
 俯くと、雫が零れ落ちて地面を濡らした。
 袖で拭うと、自販機に硬貨を入れた。

『ありゃ?……なんか素直だな。あの御坂が自販機に硬貨を―――』

 美琴は、はっとして振り返った。
 いるはずのない、少年の声を、幻を見たような気がして―――
「早く、帰ってきなさいよ……!あのバカあああ―――ッ!!」
 自販機に思い切り、久しぶりに回し蹴りを入れた。

end

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