御坂美琴。
携帯がさっさと出ろとばかりに喚き立て、ディスプレイにはその名前が浮かんでいた。
その名前を見た瞬間、今度はどんな無理難題を吹っかけるつもりだ、と少々身構えたのは事実。
が、それを何だか楽しみにしている自分も確かにいて。
「あいよ、上条さんに何か御用ですかねー、御坂さんー?」
それが少し癪だったので、気のないそぶりでそんな風に応対してみた。
が。
『やっと出やがりましたわね!』
「は? ・・・白井?」
『お姉さまの携帯にどうして貴方の名前があるのかはこの際問いませんわ。とにかく、今すぐうちの寮まで来てくださいまし!』
「・・・はい?」
当麻としても言いたい事聞きたい事は多々あるのだが。
「・・・わかった。お前が何で御坂の携帯持ってるのかはこの際置いておいて。一大事なんだな」
『そうなんですの! お早くお願いしますわ!』
それだけ残して、黒子の声は途切れる。
「・・・ったく、どんな厄介ごとだよ。はー、不幸だ」
携帯がさっさと出ろとばかりに喚き立て、ディスプレイにはその名前が浮かんでいた。
その名前を見た瞬間、今度はどんな無理難題を吹っかけるつもりだ、と少々身構えたのは事実。
が、それを何だか楽しみにしている自分も確かにいて。
「あいよ、上条さんに何か御用ですかねー、御坂さんー?」
それが少し癪だったので、気のないそぶりでそんな風に応対してみた。
が。
『やっと出やがりましたわね!』
「は? ・・・白井?」
『お姉さまの携帯にどうして貴方の名前があるのかはこの際問いませんわ。とにかく、今すぐうちの寮まで来てくださいまし!』
「・・・はい?」
当麻としても言いたい事聞きたい事は多々あるのだが。
「・・・わかった。お前が何で御坂の携帯持ってるのかはこの際置いておいて。一大事なんだな」
『そうなんですの! お早くお願いしますわ!』
それだけ残して、黒子の声は途切れる。
「・・・ったく、どんな厄介ごとだよ。はー、不幸だ」
常盤台は女子校である。
当然、寮だって男子禁制である。
入った経験があるのが少々おかしい気もするが。
そして今現在も、白井黒子の手引きがあるとはいえ、女子校の寮に忍び込んでいるわけで。
「…見つかったらどうなるんだろうな、俺」
「寮監に殺されますわね」
「…えっと、比喩、だよな」
「………ふ」
「おい、黙らないでくれ。マジで怖いんですけど・・・!?」
そんなやり取りを交わしながら、美琴と黒子の部屋へと入り込んだ。
背格好がばれないように被っていた女物の帽子と、何でもミサの時に着るとか言うローブを外しつつ、当麻は部屋を見回す。
「んで、御坂はどーしたんだよ?」
「それなんですの…」
黒子は沈んだ顔をして、指差した。
左のベッド。確かこっちが美琴のベッドだと聴いた記憶がある。
その真ん中に、不自然に膨らんだ部分。布団の下に何かが入り込んでいるようだ。
が、美琴が寝ているにしてはあからさまに小さい。
「…御坂?」
その声に反応したのだろうか。もぞもぞと布団の下の何かが動いて。
恐る恐る、『それ』は顔を見せた。
「………ら、打ち止め≪ラストオーダー≫?」
「…らす?」
『それ』は首をかしげる。
当麻は改めて『それ』をよく見てみた。
一瞬打ち止めに見間違えたが、それよりももう二つ三つ幼く見える。
美琴の妹事情を知る当麻は、一応、聞いてみた。
「え、えーと…お前、ミサカ何号?」
「……?」
首を傾げられた。
頭を掻いて、最後の問いを発する。
「…お前、名前は?」
「…みことの名まえは、みさかみこと」
当麻は思わず天を仰いだ。
これは相当な厄介ごとだと、この瞬間嫌と言うほど理解したのだ。
「白井ー」
「何ですの?」
何故か黒子はみことから思いっきり距離を取っている。
珍しいことに。
「…お前、何でそんな離れてるんだ?」
「…ふ」
非常に形容しがたい笑みが浮かんだ。
と、みことは黒子の姿を認めた瞬間、慌てて布団に潜り込む。まるで逃げ込むように。
当然、寮だって男子禁制である。
入った経験があるのが少々おかしい気もするが。
そして今現在も、白井黒子の手引きがあるとはいえ、女子校の寮に忍び込んでいるわけで。
「…見つかったらどうなるんだろうな、俺」
「寮監に殺されますわね」
「…えっと、比喩、だよな」
「………ふ」
「おい、黙らないでくれ。マジで怖いんですけど・・・!?」
そんなやり取りを交わしながら、美琴と黒子の部屋へと入り込んだ。
背格好がばれないように被っていた女物の帽子と、何でもミサの時に着るとか言うローブを外しつつ、当麻は部屋を見回す。
「んで、御坂はどーしたんだよ?」
「それなんですの…」
黒子は沈んだ顔をして、指差した。
左のベッド。確かこっちが美琴のベッドだと聴いた記憶がある。
その真ん中に、不自然に膨らんだ部分。布団の下に何かが入り込んでいるようだ。
が、美琴が寝ているにしてはあからさまに小さい。
「…御坂?」
その声に反応したのだろうか。もぞもぞと布団の下の何かが動いて。
恐る恐る、『それ』は顔を見せた。
「………ら、打ち止め≪ラストオーダー≫?」
「…らす?」
『それ』は首をかしげる。
当麻は改めて『それ』をよく見てみた。
一瞬打ち止めに見間違えたが、それよりももう二つ三つ幼く見える。
美琴の妹事情を知る当麻は、一応、聞いてみた。
「え、えーと…お前、ミサカ何号?」
「……?」
首を傾げられた。
頭を掻いて、最後の問いを発する。
「…お前、名前は?」
「…みことの名まえは、みさかみこと」
当麻は思わず天を仰いだ。
これは相当な厄介ごとだと、この瞬間嫌と言うほど理解したのだ。
「白井ー」
「何ですの?」
何故か黒子はみことから思いっきり距離を取っている。
珍しいことに。
「…お前、何でそんな離れてるんだ?」
「…ふ」
非常に形容しがたい笑みが浮かんだ。
と、みことは黒子の姿を認めた瞬間、慌てて布団に潜り込む。まるで逃げ込むように。
「…お前、何したんだ?」
「お姉さまの」
「…ん?」
「お姉さまの『生』幼少時代が目の前にあって、理性など保てましょうか!? いえそのようなはずありませんわ! むしろ保つような理性など要りません!!」
「いや、それは持っとけよ。人として」
うめく様に注意を一言。当然聞いてない。
「黒子は、黒子は、己の本能の命ずるままに行動したのです…っ。ですが…」
「ですが?」
黒子は突然どんよりとした雲を背負って。
「……泣かれましたの」
「…は?」
「わんわんと。『お母さん助けて』と。『怖い人が来る』と。わんわんと泣き出されて。く、黒子は、黒子は…、ああううううう………」
泣き崩れた。
けど何故だろう。
ちっとも同情心が沸かないのだが。
と。
黒子の割とどうでもいい嗚咽の中に、別の泣き声が混じっているのに気づいた。
「…おかーさん」
布団の中で、くぐもった泣き声が聞こえた。黒子が口にした「お母さん」という単語のせいだろう。
当麻は肩をすくめる。どうにかしなければならない。とはいえ、まずはその糸口を探さなければ。
「白井、何でこうなったんだよ?」
「すんすん…。わたくしも判りませんの。朝起きたときまでは普通でしたわ。ですが、お姉さまが制服の用意を済ませて、わたくしが前日隠してしまった短パンを探しておられる最中に」
「だからお前は何してるんだよ」
溜まらずどうでもいいところに突っ込みを入れてしまったが。
「突然まぶしい光が満ち溢れて…」
スルーされた。
「気がついたときにはお姉さまはそのようなお姿に…」
そこまで聞いて、当麻は改めてみことの潜り込む布団を見た。
「…科学的に考えりゃ、人間がいきなり若返るなんてありえねぇよな」
そう、ありえない。
だから。
「…魔術側、呼びつけるしかねーかなぁ」
絶対ひと悶着あるだろうが。
この際、仕方ないだろう。が、やっぱり一言だけ言わせて欲しい。
これから起こるだろう騒ぎを思って、当麻は小さく呟いた。
「あーもう、不幸だ」
「お姉さまの」
「…ん?」
「お姉さまの『生』幼少時代が目の前にあって、理性など保てましょうか!? いえそのようなはずありませんわ! むしろ保つような理性など要りません!!」
「いや、それは持っとけよ。人として」
うめく様に注意を一言。当然聞いてない。
「黒子は、黒子は、己の本能の命ずるままに行動したのです…っ。ですが…」
「ですが?」
黒子は突然どんよりとした雲を背負って。
「……泣かれましたの」
「…は?」
「わんわんと。『お母さん助けて』と。『怖い人が来る』と。わんわんと泣き出されて。く、黒子は、黒子は…、ああううううう………」
泣き崩れた。
けど何故だろう。
ちっとも同情心が沸かないのだが。
と。
黒子の割とどうでもいい嗚咽の中に、別の泣き声が混じっているのに気づいた。
「…おかーさん」
布団の中で、くぐもった泣き声が聞こえた。黒子が口にした「お母さん」という単語のせいだろう。
当麻は肩をすくめる。どうにかしなければならない。とはいえ、まずはその糸口を探さなければ。
「白井、何でこうなったんだよ?」
「すんすん…。わたくしも判りませんの。朝起きたときまでは普通でしたわ。ですが、お姉さまが制服の用意を済ませて、わたくしが前日隠してしまった短パンを探しておられる最中に」
「だからお前は何してるんだよ」
溜まらずどうでもいいところに突っ込みを入れてしまったが。
「突然まぶしい光が満ち溢れて…」
スルーされた。
「気がついたときにはお姉さまはそのようなお姿に…」
そこまで聞いて、当麻は改めてみことの潜り込む布団を見た。
「…科学的に考えりゃ、人間がいきなり若返るなんてありえねぇよな」
そう、ありえない。
だから。
「…魔術側、呼びつけるしかねーかなぁ」
絶対ひと悶着あるだろうが。
この際、仕方ないだろう。が、やっぱり一言だけ言わせて欲しい。
これから起こるだろう騒ぎを思って、当麻は小さく呟いた。
「あーもう、不幸だ」
「で、とうまが珍しく私を頼ってくれたと思ったら」
米神を引きつらせながら、十万三千冊の魔道書を記憶する少女、インデックスが笑う。
「いや、えーっと、インデックスさん…?」
「とーま! 短髪の為ってどーいうことさ!! ていうか、何で短髪の部屋にいるの!?」
「おお、落ち着け! これは別に俺の意思で来たと言うわけではなく!」
「上条さん、それはつまり、お姉さまのことはどうでもいいと?」
「それも違う! ああもう何言えばいいんだよもう言うぞこの野郎3、2、1、ふこうだあああああああああ!!」
白いシスターがやってきた直後に発生した大騒ぎに、天岩戸に閉じこもるみことが再びそっと顔を覗かせた。
「む」
当麻の頭にかじりついていたインデックスがそれを見て。
「……」
「……」
口を離した。
「いって〜…。インデックス?」
「とうま。一体何があったの? これって、短髪?」
緊迫した表情で、インデックスはみことを見つめる。
「ああ、どうもそうらしい。何でこうなったのかはわかんねえ。お前なら…」
「そんな! ありえないよ!!」
突然、インデックスが叫ぶ。
「な、何だ、そんな拙いのか?」
「だってとうま! おかしいんだよ! だって」
インデックスはみことを指差して。
「短髪がこんなに可愛いなんて!! 思わずお持ち帰りしたくなっちゃったんだよ!?」
「………」
空気が止まった。
沈黙。
「………こほん」
インデックスは咳払い一つ。
当麻はジト目。
黒子はしきりにうんうんと頷いている。
「ま、まぁおかしいのはホントなんだよ」
「ほんとーだな?」
「うん。何かね、このちっちゃい短髪の周りに妙に変な魔力が集まってる。ううん、それだけじゃないね。何かこの部屋、っていうか、この寮そのもので変な術式が発動した形跡がある」
言いながら、インデックスは部屋の真ん中まで歩く。
その後姿を見ながら、黒子は当麻に囁いた。
「…何を言ってますの? この子」
「あー、一応、こーいう不可解現象の専門家みたいなもんだ。黙って聞いとけ」
茶々入れられると話が進まなくなる。
「…ここで術式が発動したってことは、術の中心になるようなものがありそうなんだけど…。ねぇ、その光ったって時、短髪、何か変なもの持ってなかった?」
「え? えーっと…」
黒子が記憶をたどる。
米神を引きつらせながら、十万三千冊の魔道書を記憶する少女、インデックスが笑う。
「いや、えーっと、インデックスさん…?」
「とーま! 短髪の為ってどーいうことさ!! ていうか、何で短髪の部屋にいるの!?」
「おお、落ち着け! これは別に俺の意思で来たと言うわけではなく!」
「上条さん、それはつまり、お姉さまのことはどうでもいいと?」
「それも違う! ああもう何言えばいいんだよもう言うぞこの野郎3、2、1、ふこうだあああああああああ!!」
白いシスターがやってきた直後に発生した大騒ぎに、天岩戸に閉じこもるみことが再びそっと顔を覗かせた。
「む」
当麻の頭にかじりついていたインデックスがそれを見て。
「……」
「……」
口を離した。
「いって〜…。インデックス?」
「とうま。一体何があったの? これって、短髪?」
緊迫した表情で、インデックスはみことを見つめる。
「ああ、どうもそうらしい。何でこうなったのかはわかんねえ。お前なら…」
「そんな! ありえないよ!!」
突然、インデックスが叫ぶ。
「な、何だ、そんな拙いのか?」
「だってとうま! おかしいんだよ! だって」
インデックスはみことを指差して。
「短髪がこんなに可愛いなんて!! 思わずお持ち帰りしたくなっちゃったんだよ!?」
「………」
空気が止まった。
沈黙。
「………こほん」
インデックスは咳払い一つ。
当麻はジト目。
黒子はしきりにうんうんと頷いている。
「ま、まぁおかしいのはホントなんだよ」
「ほんとーだな?」
「うん。何かね、このちっちゃい短髪の周りに妙に変な魔力が集まってる。ううん、それだけじゃないね。何かこの部屋、っていうか、この寮そのもので変な術式が発動した形跡がある」
言いながら、インデックスは部屋の真ん中まで歩く。
その後姿を見ながら、黒子は当麻に囁いた。
「…何を言ってますの? この子」
「あー、一応、こーいう不可解現象の専門家みたいなもんだ。黙って聞いとけ」
茶々入れられると話が進まなくなる。
「…ここで術式が発動したってことは、術の中心になるようなものがありそうなんだけど…。ねぇ、その光ったって時、短髪、何か変なもの持ってなかった?」
「え? えーっと…」
黒子が記憶をたどる。
「あの時のお姉さまは珍しく柄の無いついでに色気も無い真っ白のショーツとブラで…」
「とーま!! 耳ふさぐんだよ!!」
「ぐはぁ!? お、おま、耳に指突き入れるんじゃねぇ・・・!」
唐突に酷い痛みを叩き込まれ、当麻は悶絶しながら辛うじて抗議を残す。
「そういえば、魚のアクセサリーなど持ってらっしゃいましたわ。えらく嬉しそうにしてらっしゃいましたけど」
「……」
何故か身の危険を感じて、当麻は目をそらした。
先日美琴にUFOキャッチャーで勝負を挑まれ、当麻が取った戦利品なのだが。
使う当ても無いから欲しいならやる、と言うと欲しいのか欲しくないのか判らない言葉を並べ立てつつ、雷光もかくやという勢いでぶんどられたりした一品。
「…魚は水、海の象徴。白は雲に近しいし、確か花のヘアピンつけてたよね、あれは大地の象徴になりえる。もしかして、短髪自身が地球の象徴として扱われた…?」
「は?」
「でもそれだけじゃ足りない。位置関係とかよくわかんないし。でもこの建物一帯を覆う魔力…」
変なものとか、象徴とか、位置関係とか。
そんな言葉が関わる事件には、当麻も心当たりがある。
学園都市の外で起こった、世界規模の大魔術。
「なぁ、インデックス、お前、まさか御使堕し≪エンゼルフォール≫みたいなことが起こった、って言ってるのか?」
インデックスは、躊躇いがちに頷いた。
「いや、だってありえないだろ!? あんなのがそう何度もあって溜まるかよ!」
「とうま、エンゼルフォールは確かに特異な結果だけど、別に術式が偶発的に発動すること自体は無い訳じゃないんだよ」
当麻の言葉に、インデックスは真剣に答える。
「神隠し、って知ってるよね。あれも同じ類。何らかの象徴が偶々正しい位置に重なって、唐突に発動してしまう魔術なんだよ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいまし。いきなり天使だの神隠しだなんて…。何を言ってるのかわたくしさっぱり」
「んと…」
インデックスはみことを改めて見る。
見つめられたみことは、びっくりして布団で顔を半分隠した。
「…確証は無いんだけど、起こった事象の規模と魔力の残滓と、その中心。そして私の十万三千冊。そこからたぶん、真実に一番近い答えは見えるよ」
そして、再びインデックスは当麻を見上げた。
「短髪が消えて、代わりに小さい短髪が現れた。若返りって可能性もあるけど、それなら私たちのことわからないとおかしい。それに残った魔力の密度も酷い。天体規模の魔力が爆発した直後みたい」
そこまで言って、インデックスは一度言葉を切ると、
「十万三千冊の中にね、こういう偶発術式を研究してるものがあるんだよ。その中の一説に、この状況は酷似してる」
そして、自分にも言い聞かせるように、呟いた。
「とーま!! 耳ふさぐんだよ!!」
「ぐはぁ!? お、おま、耳に指突き入れるんじゃねぇ・・・!」
唐突に酷い痛みを叩き込まれ、当麻は悶絶しながら辛うじて抗議を残す。
「そういえば、魚のアクセサリーなど持ってらっしゃいましたわ。えらく嬉しそうにしてらっしゃいましたけど」
「……」
何故か身の危険を感じて、当麻は目をそらした。
先日美琴にUFOキャッチャーで勝負を挑まれ、当麻が取った戦利品なのだが。
使う当ても無いから欲しいならやる、と言うと欲しいのか欲しくないのか判らない言葉を並べ立てつつ、雷光もかくやという勢いでぶんどられたりした一品。
「…魚は水、海の象徴。白は雲に近しいし、確か花のヘアピンつけてたよね、あれは大地の象徴になりえる。もしかして、短髪自身が地球の象徴として扱われた…?」
「は?」
「でもそれだけじゃ足りない。位置関係とかよくわかんないし。でもこの建物一帯を覆う魔力…」
変なものとか、象徴とか、位置関係とか。
そんな言葉が関わる事件には、当麻も心当たりがある。
学園都市の外で起こった、世界規模の大魔術。
「なぁ、インデックス、お前、まさか御使堕し≪エンゼルフォール≫みたいなことが起こった、って言ってるのか?」
インデックスは、躊躇いがちに頷いた。
「いや、だってありえないだろ!? あんなのがそう何度もあって溜まるかよ!」
「とうま、エンゼルフォールは確かに特異な結果だけど、別に術式が偶発的に発動すること自体は無い訳じゃないんだよ」
当麻の言葉に、インデックスは真剣に答える。
「神隠し、って知ってるよね。あれも同じ類。何らかの象徴が偶々正しい位置に重なって、唐突に発動してしまう魔術なんだよ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいまし。いきなり天使だの神隠しだなんて…。何を言ってるのかわたくしさっぱり」
「んと…」
インデックスはみことを改めて見る。
見つめられたみことは、びっくりして布団で顔を半分隠した。
「…確証は無いんだけど、起こった事象の規模と魔力の残滓と、その中心。そして私の十万三千冊。そこからたぶん、真実に一番近い答えは見えるよ」
そして、再びインデックスは当麻を見上げた。
「短髪が消えて、代わりに小さい短髪が現れた。若返りって可能性もあるけど、それなら私たちのことわからないとおかしい。それに残った魔力の密度も酷い。天体規模の魔力が爆発した直後みたい」
そこまで言って、インデックスは一度言葉を切ると、
「十万三千冊の中にね、こういう偶発術式を研究してるものがあるんだよ。その中の一説に、この状況は酷似してる」
そして、自分にも言い聞かせるように、呟いた。
「起こった事象は…、たぶん、時空移動、だよ」