(7.木曜日15:30)
上条と姫神秋沙はすぐにやってくるハズの小萌先生と吹寄制理を避けるために人のいない隣
の教室に隠れることにした。もちろん手を繋いだまま。
しばらくすると小萌先生の叫び声が聞こえてきた。
上条と姫神秋沙はすぐにやってくるハズの小萌先生と吹寄制理を避けるために人のいない隣
の教室に隠れることにした。もちろん手を繋いだまま。
しばらくすると小萌先生の叫び声が聞こえてきた。
「きゃーっ、青髪ちゃん!いったいどうしたのですかー!!
吹寄さん。青髪ちゃんを保健室まで運ぶのを手伝って下さい」
吹寄さん。青髪ちゃんを保健室まで運ぶのを手伝って下さい」
しばらくするとズリズリ青髪を引きずる音が廊下を通過していった。
どうやら学校から逃げ出す絶好のチャンスが来たようだ。
どうやら学校から逃げ出す絶好のチャンスが来たようだ。
「ふーっ、どうやらうまく脱出できそうだぞ。姫神」
上条が隣の姫神秋沙に話しかけたが姫神秋沙はうつむいたまま顔を上げようとしない。
なぜだかその頬は少し赤くなっている気がする。
しかも両膝をすり合わせるようにモジモジしていたりする。
なぜだかその頬は少し赤くなっている気がする。
しかも両膝をすり合わせるようにモジモジしていたりする。
(あっ!)こんな時に限って直面する大問題に上条は気付いてしまった。
言い難いことではあるが気付いてしまった以上は先送りする訳にはいかない。
意を決して上条は姫神秋沙に小声で話しかけた。
言い難いことではあるが気付いてしまった以上は先送りする訳にはいかない。
意を決して上条は姫神秋沙に小声で話しかけた。
「姫神、ひょっとしてトイレか?」
いきなり核心を突かれた姫神秋沙は一度肩をビクッと震わせたと思うと俯いたまま固まってしまった。
表情は読み取れないものの真っ赤になった耳たぶを見ればどうやら上条の想像は当たっていたようだ。
だからといって上条にこの大問題への解決案があったわけではない。
表情は読み取れないものの真っ赤になった耳たぶを見ればどうやら上条の想像は当たっていたようだ。
だからといって上条にこの大問題への解決案があったわけではない。
プラン1.右手を離す->『吸血殺し』発動
プラン2.一緒に女子トイレに入る->セクハラ大魔王への成長進化ルート確定
プラン3.トイレに行かない->姫神が大惨事
プラン2.一緒に女子トイレに入る->セクハラ大魔王への成長進化ルート確定
プラン3.トイレに行かない->姫神が大惨事
使えない選択枝しか浮かばないのでは話にならない。
つい漏れた「どうしよう」という上条のつぶやきに俯いたままの姫神秋沙が消え入りそうな
声で応えた。
つい漏れた「どうしよう」という上条のつぶやきに俯いたままの姫神秋沙が消え入りそうな
声で応えた。
「かっ上条君……もし君が迷惑でなければ……その……女子トイレまで付いてきて欲しい。」
「いや、姫神、いくら何でもそれは」
「君が目をつむっていてくれれば。大丈夫」
「でも……」
「いや、姫神、いくら何でもそれは」
「君が目をつむっていてくれれば。大丈夫」
「でも……」
そう反論しかけた上条だったが真っ赤な顔で上条を見上げる姫神秋沙を見て言葉を飲み込んだ。
「(何やってんだ、俺は。姫神の方が恥ずかしいはずなのに)
わかった、姫神。俺は絶対目を開けない。耳だって塞いでやる」
わかった、姫神。俺は絶対目を開けない。耳だって塞いでやる」
上条は左手でポケットからティッシュを取り出すと器用に丸めては両方の耳の穴にグリグリ
詰めていった。
その様子を見た姫神は一度目をパチクリさせるとクスッと笑った。
上目がちに上条を見たまま手の甲で口元を隠しつつクスッと微笑んだ姫神秋沙の仕草に思わ
ずドキッとした上条であった。
詰めていった。
その様子を見た姫神は一度目をパチクリさせるとクスッと笑った。
上目がちに上条を見たまま手の甲で口元を隠しつつクスッと微笑んだ姫神秋沙の仕草に思わ
ずドキッとした上条であった。
(8.木曜日15:37)
女子トイレ、そこは男子生徒にとっては禁断のシークレットゾーン。
既に決断は済ましているものの、禁断の地に近づくほど呼吸は荒くなってくる。
入り口まで来た時には上条当麻の心拍数は160を軽く超えていただろう。
そして先に入る姫神に手を引かれ(ええい、ままよ)と禁断の地に一歩を踏み出した。
その瞬間いきなり襟首を掴まれ強引に引き戻された。
女子トイレ、そこは男子生徒にとっては禁断のシークレットゾーン。
既に決断は済ましているものの、禁断の地に近づくほど呼吸は荒くなってくる。
入り口まで来た時には上条当麻の心拍数は160を軽く超えていただろう。
そして先に入る姫神に手を引かれ(ええい、ままよ)と禁断の地に一歩を踏み出した。
その瞬間いきなり襟首を掴まれ強引に引き戻された。
「貴様!!何をやっている?」
「ふっ、吹寄さん」
「ふっ、吹寄さん」
聞き覚えのある声にギギギッという感じで首を回すとこめかみに青筋を浮かべた吹寄制理の
姿があった。
姿があった。
「教室に居ないからどこに行ったのかと心配して探してみれば。
女子トイレの中まで女子(あいさ)をストーカーしようとしていたなんて!」
「こっ、これにはマリアナ海溝よりも深い事情があるわけでして、
女子トイレの中を覗こうとしたとか姫神様にセクハラをしようとしたとかを
上条さんが企んでいたなんてことは決してありま「天誅―!」」
女子トイレの中まで女子(あいさ)をストーカーしようとしていたなんて!」
「こっ、これにはマリアナ海溝よりも深い事情があるわけでして、
女子トイレの中を覗こうとしたとか姫神様にセクハラをしようとしたとかを
上条さんが企んでいたなんてことは決してありま「天誅―!」」
脈絡のない上条の言い訳が終わらないうちに吹寄制理の頭突きが上条に炸裂した。
意識を半ば刈り取られながら姫神秋沙の手を離さなかった上条は天晴れである。
意識を半ば刈り取られながら姫神秋沙の手を離さなかった上条は天晴れである。
しかしそのことが吹寄制理の怒りの炎に大量の火薬を投下する結果になってしまった。
『怒髪天をつく』とは今の吹寄制理のためにある言葉である。
怒りに震えるその拳はきっとゴーレム『エリス』ですら容易に打ち砕くだろう。
吹寄制理は胸の前で左掌に右拳を叩きつけ上条に最後通告を行った。
『怒髪天をつく』とは今の吹寄制理のためにある言葉である。
怒りに震えるその拳はきっとゴーレム『エリス』ですら容易に打ち砕くだろう。
吹寄制理は胸の前で左掌に右拳を叩きつけ上条に最後通告を行った。
「上条当麻!貴様、生きて朝日を拝みたいか?」
(今すぐその手を離さなければ殺す!)と迫ってくる吹寄に上条はとうとう観念して右手を
離すことにした。
本当のことを言えば吹寄に殴り殺されるのが怖い訳ではない。
今の吹寄制理が凶悪なオーラをまとっているとはいえ、遥かに恐ろしい神の右席とも戦った
ことのある上条である。
(例え『吸血殺し』が発動しても数分ぐらいじゃ吸血鬼も来ないだろう)という打算が働い
てしまったのである。
それに事情を知らない吹寄制理に拳をあげることなど決してできない上条であった。
離すことにした。
本当のことを言えば吹寄に殴り殺されるのが怖い訳ではない。
今の吹寄制理が凶悪なオーラをまとっているとはいえ、遥かに恐ろしい神の右席とも戦った
ことのある上条である。
(例え『吸血殺し』が発動しても数分ぐらいじゃ吸血鬼も来ないだろう)という打算が働い
てしまったのである。
それに事情を知らない吹寄制理に拳をあげることなど決してできない上条であった。
上条の目配せに姫神秋沙は一瞬困惑した表情を浮かべたものの小さく頷いた。
目の前で手を取り合った二人がアイコンタクトで語り合う様子を見せつけられた吹寄はついにキレた。
目の前で手を取り合った二人がアイコンタクトで語り合う様子を見せつけられた吹寄はついにキレた。
「さっさとその手は離しなさい!」
そういうなり上条の右手と姫神の左手をつかんで二人を強引に引き離した。
「貴様!そこから一歩でも動くんじゃないわよ」
上条に念を押した吹寄は姫神の手を引き女子トイレに入っていった。
「秋沙、大丈夫?何もされなかった?」
不穏当な吹寄制理の声がトイレ横の壁際で立たされ坊主となった上条にも漏れ聞こえてきた。
明日この話を伝え聞いたクラスメイト達から受ける冷やかし(暴力付き)を想像しかけて
上条は(上条さんには何も聞こえません。ええ。聞こえませんとも)と現実逃避を図った。
そして(どう説明したら吹寄をうまく言いくるめられるだろう?)などと考えていた時ヤツ
はやって来た。
明日この話を伝え聞いたクラスメイト達から受ける冷やかし(暴力付き)を想像しかけて
上条は(上条さんには何も聞こえません。ええ。聞こえませんとも)と現実逃避を図った。
そして(どう説明したら吹寄をうまく言いくるめられるだろう?)などと考えていた時ヤツ
はやって来た。
(9.木曜日15:46)
その瞬間、踵から頭頂まで悪寒が一気に駆け抜け上条は総毛立った。
まるで背後から氷の刃物を突きつけられたみたいで頭の中で何かが「ニゲロ!ニゲロ!」と
叫んでいる。それなのに硬直してしまった身体は上手く反応してくれなかった。
(早く元凶を確認しなければヤバイ)という思考と(イヤだ。そんなもの見たくない)とい
う感情がケンカしているのだ。
それでも強引に首を右に回すと10mほど先に一人の男が立っているのが見えた。
その瞬間、踵から頭頂まで悪寒が一気に駆け抜け上条は総毛立った。
まるで背後から氷の刃物を突きつけられたみたいで頭の中で何かが「ニゲロ!ニゲロ!」と
叫んでいる。それなのに硬直してしまった身体は上手く反応してくれなかった。
(早く元凶を確認しなければヤバイ)という思考と(イヤだ。そんなもの見たくない)とい
う感情がケンカしているのだ。
それでも強引に首を右に回すと10mほど先に一人の男が立っているのが見えた。
その男の外見にはこれといった特徴はなかった。
もしその男の写真だけを見たならだれもが普通の人間だと判断しただろう。
逆にいえばその男は不自然なほどに平凡であった。
そして今その男の周りを満たす空気は生理的な嫌悪感を上条にもたらしていた。
もしその男の写真だけを見たならだれもが普通の人間だと判断しただろう。
逆にいえばその男は不自然なほどに平凡であった。
そして今その男の周りを満たす空気は生理的な嫌悪感を上条にもたらしていた。
その男がにやりと笑ったかと思うとこちらに歩いてきた。
いや、正確には歩いてはいなかった。
男の足は全く動いていないのに床を滑るように男は近づいて来る。
いや、正確には歩いてはいなかった。
男の足は全く動いていないのに床を滑るように男は近づいて来る。
5m。上条はようやくガチガチ鳴る奥歯を無理矢理噛み締めることができた。
3m。腹の底に力を溜めるように鼻から息を吸い込むことができた。
それでもトイレで「どうしたの!秋沙」と叫ぶ吹寄制理の声に気付く余裕はなかった。
2m。ようやく右拳を握りしめることができた。
1m。男の少し開いた口の奥に鋭く尖った犬歯が見えた。
3m。腹の底に力を溜めるように鼻から息を吸い込むことができた。
それでもトイレで「どうしたの!秋沙」と叫ぶ吹寄制理の声に気付く余裕はなかった。
2m。ようやく右拳を握りしめることができた。
1m。男の少し開いた口の奥に鋭く尖った犬歯が見えた。
その瞬間「うわあぁぁっ!」上条は絶叫を放ち無我夢中で右拳をその男の左頬に叩き込んだ。
「バキッ!!」とその男を殴った瞬間上条は右拳に異様な手応えを感じた。
男の皮膚はまるで金属のように硬かった。
そして殴った上条の体温を根こそぎ奪いそうなほど冷たかった。
しかも上条が右手にその痛みを感じる前にその金属の殻が突然爆(は)ぜたような衝撃が走った。
「バキッ!!」とその男を殴った瞬間上条は右拳に異様な手応えを感じた。
男の皮膚はまるで金属のように硬かった。
そして殴った上条の体温を根こそぎ奪いそうなほど冷たかった。
しかも上条が右手にその痛みを感じる前にその金属の殻が突然爆(は)ぜたような衝撃が走った。
右手が男を貫いたような手応えはあった。それは砂の像を突き崩すような感触だった。
そして右手には金属を殴ったような痛みと痺れるような感覚も残っている。
それなのに目の前には殴る前と全く変わらない男の顔がある。
こうなるとさっき右拳が本当に当たったのかどうかさえも分からなくなってきた。
そして右手には金属を殴ったような痛みと痺れるような感覚も残っている。
それなのに目の前には殴る前と全く変わらない男の顔がある。
こうなるとさっき右拳が本当に当たったのかどうかさえも分からなくなってきた。
戸惑う上条に対して男が口元を緩めて笑みを浮かべると陽炎のように消えていった。
姫神秋沙が女子トイレから飛び出してきたのはその直後だった。
そして上条に駆け寄るなりその右手を強く握りしめてきた。
上条は姫神秋沙の手の暖かさに痺れている右手が癒されていくのを感じながらなぜ吸血鬼が
姿を消したのかをぼんやり考えていた。
姫神秋沙が女子トイレから飛び出してきたのはその直後だった。
そして上条に駆け寄るなりその右手を強く握りしめてきた。
上条は姫神秋沙の手の暖かさに痺れている右手が癒されていくのを感じながらなぜ吸血鬼が
姿を消したのかをぼんやり考えていた。
(『幻想殺し』が吸血鬼にも効いたのか?
それとも天敵である姫神が出てくるのを察知して逃げ出したのか?)
それとも天敵である姫神が出てくるのを察知して逃げ出したのか?)
「吸血鬼(ヤツ)…………なのか?」
「そう」
「どこだ?」
「わからない。でも。この学校にはもういない。それは確か」
「そう」
「どこだ?」
「わからない。でも。この学校にはもういない。それは確か」
後から追いかけてきた吹寄制理はここで何か異常なことが起こったことには気付いたようだ。
しかし上条と姫神秋沙の会話が一体何を意味しているのか理解することができなかった。
しかし上条と姫神秋沙の会話が一体何を意味しているのか理解することができなかった。