とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

第四章

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(10.木曜日16:10)
上条と姫神秋沙は公園のベンチに並んで座っていた。当然手をつないで。
先ほどまでの全力疾走で疲れた体をクールダウンさせているのだ。

「ハァ、ハァ……姫神、大丈夫か?」
「大丈夫。……ちょっと疲れたけど。楽しかったかな」
「ハァ、楽しかった?姫神って意外とアスリートなんだな」
「鬼ごっこみたいだったからかな」

(本当は君と一緒だったから)という本心がどうしても口に出せない姫神秋沙であった。

あの後問い詰める吹寄制理を振り切って上条は姫神秋沙の手を引き脱兎のごとく駆けだした。

「上条!何があったの?きっちり説明なさい」
「なんでもない。じゃ!俺達ちょっと急ぐから。小萌先生によろしく!」
「ちょっと待ちなさい。何なのよ。これはーっ!」

背後からの吹寄制理の叫び声は無視して全速力で走り続けた。

(ああ、きっと明日になったら俺と姫神が駆け落ちしたという話になるんだ。
 ついでに尾ひれが付いて既に隠し子がいるってことにされるんだ。)
「ちょっとアンタ!」
(そして皆から「おめでとう」って盛大な祝福(リンチ)を受けるんだ!
 そうだ!きっとそうに違いない)
「なに見せついてんのよ!」

上条の理性が『吸血鬼』という災厄から無意識に目を背けたいと思っていることも手伝って、
妄想劇が延々と続いている間に自分に向けられた呼びかけをいつも通りにスルーしていた。

隣の姫神秋沙にトントンと右腕をつつかれ上条の意識はようやく現実世界に還ってきた。
「バチバチ」という聞き慣れた放電音に恐る恐る顔を上げると、目の前には学園都市第三位
『超電磁砲(レールガン)』こと常盤台中学の御坂美琴が立っていた。

「ねえアンタ!確か今月から不純異性交遊って一般人が勝手に取り締まってもお咎めなしっ
 てことになったんだっけ?」
「みっみっ御坂さん。そんな規制緩和は学園都市(ここ)ではありません。きっとガセネタです。
 それにこれは不純異性交遊なんかじゃありません。」
「ゴチャゴチャうっさいのよ!アンタは。いっぺん臨死(い)ってみる?」

既に臨界電圧(10億ボルト)に達している御坂美琴の身体はうっすらと紫色に発光している。
(エネルギー充填120%。艦長!超電磁砲いつでも発射可能です!)と中の人が言っているようだ。

上条はこれまで雷撃の槍でも砂鉄の剣でも例え超電磁砲だろうが御坂美琴の攻撃は全て打ち
消してきた。その右手で。
しかし今、右手は姫神秋沙の手を握っているためそれらを打ち消すことはできない。

(くそっ!右手を離せば『吸血鬼』がまたやって来る。
 でも今雷撃をモロに喰らったらご臨終(おしまい)だ。
 しかも姫神まで道連れにしちまう。どうする?)

考えがまとまらない内に上条に向けて雷撃の槍が放たれた。
とっさに右手を離して雷撃の槍を迎え撃ち、再び姫神秋沙の手を握ろうと右手を伸ばした。

「だから、何やってんのよ。アンタはあぁーっ!」

怒声とともに上条と姫神の間を引き裂くように超電磁砲の激しい閃光と衝撃波が突き抜ける。
身体が順応してしまっている上条は踏ん張ることができた。
しかし姫神は衝撃波に耐えきれずベンチの後の植え込みに背中から倒れ込んでしまった。
しかも植え込みに身体が挟まってしまい姫神は起きあがれずに手足をジタバタさせていた。

「ばかやろう。この状況で「超電磁砲(レールガン)」なんて、洒落にならねえぞ!」
「どうせアンタには効かないんでしょうがーっ!」
「これには訳があるんだよ!」
「アンタは、いつも、いつも!」
「危ない。止めろ!」
「他の女とイチャイチャしてーっ!!」
「砂鉄の剣で切られたら上条さんは死んでしまいます!」
「うるさい!たまには当たりなさいよ!」
「コラ!『超電磁砲(レールガン)』3連射なんて近所迷惑だろうが!」

御坂美琴と仲良く(?)超電磁砲のキャッチボールを続ける上条であったが直ぐにでも姫神
秋沙の所に行ってやりたかった。
しかし未だ植え込みから抜けられない姫神秋沙に流れ弾が当たらないようにするには距離を
とるしかなかった。
「いい加減にしろ!」と上条が言いかけた時、また『吸血鬼』が現れた。


(11.木曜日16:25)
あの時と同じ悪寒が上条を突き抜けた。
そして御坂美琴の3m後に立つ特徴のない男の顔を視界に捉えると上条の身体はまたも硬直
してしまった。
上条が最初に動かせたのは口だった。

「御坂、こっちに来い」
「何言ってんのよ、バカ!」

逆上していた御坂美琴は背後の異変にまだ気付いていない。

「いいから早く!」
「なっ、何なのよ?」

上条の切迫した口調にようやく御坂美琴の表情にも戸惑いの色がみえた。
しかしその時すでに男は御坂美琴のすぐ後まで近づいていた。
ようやく異変に気付いた御坂美琴が後を振り向くとその眼前に男の顔があった。

その男の両手が正面から御坂美琴の両肩をつかんだ瞬間、驚いた御坂美琴は反射的に10億
ボルトの電撃を男に浴びせてしまった。
相手が吸血鬼だと知らない御坂美琴は一般人に電撃を浴びせたと思い激しく動揺してしまった。
さらにその相手が電撃を全く気にしない様子でさらに顔を近づけてくることに、「えっ?」と
一瞬動きが止まってしまった。

「御坂あぁぁーっ!」

今、上条と御坂美琴のあいだの距離はおよそ5m。
上条は地を蹴って走り始めたがそのほんの数歩の距離が絶望的な長さに感じられた。

(間に合うか?いや、絶対に間に合わせる!)

上条は握りしめた右拳を振り出した。
上条の右拳が吸血鬼の顔面に届いたのはまさに吸血鬼が御坂美琴の首筋に牙をたてようとし
た瞬間であった。
「バキッ」という学校の時と同じ手応えを右拳が感じると吸血鬼も同じように姿を消した。

「大丈夫か?御坂」

御坂美琴の背後からその両肩をつかんで上条が尋ねたが何が起こったのか良く判らず呆然と
する御坂美琴はしばらく返事ができずにいた。

「(まさか、間に合わなかったのか?)御坂、ちょっと見せてみろ」

そう言うや否や上条は御坂美琴のブラウスのボタンを2つ外し指で襟元を広げて御坂美琴の
首筋を覗き込んだ。

(えっ、えっ、何?)

今度はパニックで身体が固まってしまった御坂美琴であった。
しかも上条が御坂美琴の首筋を指先でさすったりするものだからますます身体を強ばらせた。
そんなことに全く気付かない上条は首筋に異常がないことを確認すると一気に緊張が解けた。
そして止めていた息が「ふーっ」と漏れてしまった。
一方、御坂美琴は緊張の弦が限界まで張りつめている状況で上条から首筋に熱い吐息を吹き
かけられたものだからビクンッと身体を震わせて「アンッ」という嬌声を出してしまった。
一瞬の沈黙の後自分が出した艶めかしい声を思い出し御坂美琴は耳まで真っ赤になってしまった。

「何やってんのよ!アンタは?」
「何って?そりゃ……」

そう言いかけた上条はようやく御坂美琴と自分の位置関係を確認した。
背後から襟元を覗き込む上条の位置からは御坂美琴の首筋だけでなく鎖骨のくぼみやパステ
ル柄の可愛いブラに包まれた慎ましやかな膨らみまでもしっかり堪能することができる。
その事実に気付いた上条が御坂美琴から離れたのは視線がしっかり二つの膨らみを往復した
1.17秒後であった。


(12.木曜日16:30)
上条の右手を外したのは上条本人ではなくようやく植え込みから抜け出せた姫神秋沙であった。
上条に駆け寄るなり御坂美琴の襟ぐりに掛かったままの右手をつかんで一気に引き剥がすと
上条を自分の方に振り向かせた。

「この子は大丈夫!」

そういう姫神秋沙の口調がなぜかトゲトゲしいことに上条は(吸血鬼がいたから気が高ぶっ
てんだろう)と見当違いのことを考えていた。

「吸血鬼(ヤツ)は?」
「いなくなった」
「やっつけたのか?」
「わからない。でも。もうこの辺りに気配はない」

一方、突然割り込んできた姫神と上条の会話を聞いて御坂美琴はなぜかカチンときた。
さらに二人が再び手を繋いでいるのを見てムカッとした。
まるで自分が主役の舞台に部外者が突然乱入してきて主役の座を奪われたような感じだ。

(そんなこと許せるわけ無いじゃない)

御坂美琴はつかつかと上条に歩み寄ると上条の左手をぎゅっと握りしめた。

「どうした、御坂?」
「何でもないわよ」
「いや、御坂さんはなぜ上条さんの左手を握っているかと尋ねているのですが?」
「うっさい。その女(ひと)が右手だっていうんだったら、私は左手に決まってんでしょ!」
「はあ?おまえ、何言ってんの?」
「なによ!あんたは痴漢に襲われたか弱い女の子を寮まで送ってあげようとかいうそういう
 優しさはないわけ?」
「(お前のどこがか弱いんだよ。
 でも御坂が吸血鬼のことをただの痴漢だと思っているならそういうことにしておこう。
 もし事情を話せばきっと「私も一緒に吸血鬼退治に行くわよ」って言いそうだし)
わかったよ。御坂。常盤台の学生寮まで送ってくよ」
「最初(はな)っからそう言ってれば良いのよ」

上条はもはやこの状況を受け入れざるを得なくなったと諦めつつもつい愚痴ってしまった。

「でもな。両手が塞がっちまうと頬が痒くてもかけないんだよな」

すると姫神秋沙が「どこ痒いの?」といって上条の右頬を右手でさすってきた。

「あっ、ありがとう。姫神」

上条は姫神の予想外の行動につい赤面してしまった。
そして上条が赤面する様子を見てしまった御坂美琴はついにキレた。
身体が瞬間的に反応し右腕を上条の左腕に巻き付けて姫神から上条を引き離すように引き寄せた。
そして左手でポケットから取り出したハンカチを握りしめて睨みつけてきた。

「アンタ!痒いところがあるなら、わ・た・し・に言いなさい。さあどこが痒いの?」

獲物を狙う捕食者(プレデター)の視線に耐えきれず上条は御坂美琴から視線をそらしてしまう。

「あの……御坂さん。お怒りでお気付きにならないのかもしれませんが、
 その……私の左腕が…………当たってるんですが……」
「当ててんのよ。文句ある?」

そして3人を沈黙がつつんだ。


(13.木曜日16:50)
上条にとって常盤台までの道のりはイバラの道であった。
上条は黒いロングヘアーの美少女を右に常盤台のお嬢様を左にはべらせて歩いている。
その姿を見る街の男どもの視線に羨望のみか殺意まで含まれるのは仕方のないことである。
何十本もの『殺意ある視線』に耐えきれずついに上条は本日3度目の現実逃避を図った。
そんなわけで美少女達の間で交わされた会話に上条は気付くこともなかった。

「あなた。御坂美琴さんでしょ」
「私の名前を知ってんの?」
「あなた。有名だから。私姫神秋沙。上条君のクラスメイト」

「わっ、私はコイツとは腐れ縁で不良に絡まれている所を助けに来てくれたのが出会いかな。
(その時不良と一緒にコイツにも電撃を浴びせちゃったんだけど)」
「私の場合。監禁されてた私を上条君が助けに来てくれた時かな(ステイルさんもいたけど)」

「私達『ハンディアンテナサービス』でペア登録しているの。夜通し遊んだこともあるわよ。
(コイツをぶっ倒そうと一晩中追いかけ回しただけなんだけど)」
「私は。上条君とお弁当を交換するぐらいかな(その後ボディブローを入れちゃったけど)」

「コイツは爆弾魔から身を挺して私を(主に初春さん達だけど)守ってくれたの」
「右腕を切り落とされても私のために(インデックスさんもいたけど)歯を食いしばってくれたの」
「コイツは(私の電撃で)ボロボロになった身体をおして私を(妹もだけど)助けてくれたの」

「私が大怪我したとき励ましてくれたの(すぐ行っちゃったけど)」
「いつでもどこでも私のピンチには駆けつけるって約束してくれたの(私にじゃないけど)」

「大覇星祭のナイトパレードを一緒に見ようって言ってくれたこともあったかな。(結局無理だったけど)」
「大覇星祭のとき競技中の私を助けに来てくれたりしたの(本当は別の目的があったみたいだけど)」

どちらの少女に軍配が上がるのか確定するのはまだまだ先の話であった。

一方、現実逃避中の上条は吸血鬼について考えを巡らしていた。

(ヤツは本当に吸血鬼なのか?
 手遅れになる前に『警備員(アンチスキル)』に通報しなきゃ。
 ダメだ。吸血鬼が出ましたなんていっても笑われてお終いだ。
 そもそも撃退する方法ってあるのか?御坂の電撃ですら全く効かなかったのに。
 昼間から出てくるような吸血鬼に十字架やニンニクって効かないよな。多分。
 『幻想殺し』が少しでも効いていたなら俺が何とかしないと)

とりとめのない考えに自問自答する内に上条から警備員という選択肢は消えていた。

(そうなると頼りになるのは『魔術(オカルト)』サイドの連中か?
 そうだ!土御門なら上手く対応してくれるかも。
 でもダメだ。姫神と一緒にいる今は下手に土御門に連絡できない。
 土御門との会話を聞けば姫神はきっと土御門の裏の顔に感づいちまう)

さらに上条の頭の中は混乱し解決の糸口すら見つけられないでいた。

(それに姫神のことだ。
 ケルト十字をもう一度イギリスから送って貰わないと。
 でも『必要悪の教会(ネセサリウス)』に連絡しようにも土御門が使えないんじゃ……)

頭の中にネセサリウスの面々が浮かんでくる。
神裂、五和、オルソラ、ステイル、インデックス……
インデックスの顔が浮かんだとたん昨夜の会話が脳裏に蘇った。

(「明日になったら新しい『歩く教会』が届くって連絡があったんだよ」)

(ケルト十字は『歩く教会』の一部なんだから『歩く教会』を着せちまえば良いんだ。
 そうだよ。なんでもっと早く気付かなかったんだ。早く寮に戻んなきゃ)

その時不意に左手が引っ張られた。どうやら常盤台の学生寮に着いたようだった。

「いちおう言っとくわよ。
 今日はありがとう。
 でもあいつは一体何だったのよ?電撃は効かないし、消えちゃうし……
 ふん。まあいいわ。
 今日のことは後できっちり説明してもらうわよ。
 そんなわけだから今度の日曜日は予定を空けておきなさい。
 まさか電話やメールで済まそうなんて思ってないでしょうね。
 当然食事付きよ!って、なんでこの世の終わりみたいな顔すんのよ!
 心配しなくても私が奢ってあげるわよ。
 だからアンタはちゃんとお洒落な格好して来なさい。いいわね。」

一方的に宣言し常盤台の学生寮へ入っていく御坂美琴を上条は見送った。
いつもなら(なんで俺が吸血鬼の尻ぬぐいしなきゃならねぇんだ。不幸だあぁぁっ)となる
ところだが、ようやく解決の糸口を見つけた上条にとっては些細なことに思えた。

「姫神、今すぐ俺の部屋に行くぞ」

その言葉になぜか頬を赤らめる姫神秋沙であった。
お約束通り上条はそんなそぶりに全く気付きもせず歩き始めた。
当然、姫神秋沙のつぶやきにも。

「今夜。上条君の家で二人っきり」


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