とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 1-709

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匿名ユーザー

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『とある魔術のMissing』


「しばらく旅をするぞ、小僧支度をせい。」
「はい?」
唐突な一言、少年は訝しげに相手の顔をうかがう。
向かいに座るのは小柄な少女。その相貌には左右非対称の奇妙に歪んだ笑みが浮かぶ。
内部の精神が染み出したようなその陰鬱で老獪な笑みは、幼さを残す容姿と相まって得体の知れぬ怪物のような印象を抱かせる。


「ええと、旅って…どこに?」
恐る恐る、少年は尋ね返す。
「学園都市だ。」
「学園都市?」
予想外という以前に、ひどく違和感があった。
学園都市、それは東京都の実に3分の一もの面積を占める、無数の教育・研究機関によって構成された最先端“科学”の梁山泊。
少年にしてみたら、目の前の少女にはもっとも不釣合いな場所に思われた。


「意外か?」
からかう様に少女は言う。
「以外というか…、あそこは科学の世界でしょう?」
「そうだ、あの街は“科学”の世界だ、我ら魔術の徒は足を踏み入れることは許されぬ。」
「?」
「魔術師が学園都市に入り込むと言うのは、オカルトが科学の領分を侵すということだ。それは今ある世界を崩すということだ。」
「つまり、魔術師は学園都市に入っちゃいけない、という決まりがあるんですか?」
「然り」
少年はオカルト世界には詳しくない、それでもオカルト世界にも表の世界と同様に人や物の繋がりがあることは漠然と理解できる。
恐らく、それらの間では学園都市への不干渉は暗黙の了解となっているのだろう。
そこまで考えて少年は気づく、魔術師は学園都市に干渉してはならない。言い返せば
「学園都市には、魔術師が狙う価値を持つ“何か”が在る。」
「惜しいな、」
ぽつりと
「科学と魔術の相互不干渉はその様な些細な理由ではない。もっと巨視的な、世界の枠組みを崩さぬためのものだ。」
だが、と
「あそこには、私が狙うモノがある。科学と魔術の均衡を崩し、数多の魔術師を敵に回すだけの価値の在るモノがな。」
そう言って少女は笑みを濃くする、目の前の少年から血の気が引くほどの笑みを。
『冬休みに入り次第、学園都市に向かう。長旅になるやもしれぬから相応の準備をしておけ。』
そう言い残して、少女は少年の家を後にした。
「まったく」
嬉しくない。冬休みに同級生の女子と二人で旅行、傍から見ればうれし恥かしのシチュエーションだがまるで心が躍らない。
当然だ、そばに居るだけで息が詰まるような化け物と、怪盗の真似事をせねばならないのだ。
(陛下だったら、必ず止めるだろうな)
いつもの様に冷淡な声で「関わるな」と告げる、そんなかつての友人・空目恭一の姿が脳裏に浮かんだ。
だが、少年はその忠告に従うことは出来ない。
友人たちを裏切り、あの忌まわしき魔術師の力を借りてしまった少年には、もはや少女に逆らうという選択肢は残されていない。
少年・近藤武巳は少女に―少女の外見をした魔術師・小崎摩津方の従者に過ぎないのだから。



所変わって、数日後の学園都市。
「十叶詠子かぁ」
相も変わらずずつんつん頭の上条当麻は、写真を片手に学園都市のゲートの出口に突っ立っていた。
昨晩の電話で、父・刀夜が突拍子もなく幼馴染を連れてくるとのたまいやがったため、くそ寒い中わざわざ出迎えに来ているのである。
ちなみにインデックスは姫神と遊びに行っている。本当は幼馴染の出迎えに自分もついて行くと言い張っていたのだが、なんとか言い包めて
遊びに行かせた。どうせ数日は学園都市観光をする予定らしいので顔合わせの機会は後日でいい。
(だいたい幼馴染つったって幼稚園のころの話だろうが、今さら会う必要があるんですかい。)
正直言って、当麻にとって冬休み早々のこの幼馴染イベントは憂鬱だった。
刀夜の話からすると、その幼馴染は学園都市に来る前の当麻(そのありえない不幸っぷりゆえにつらい幼少期をすごした)にとって数少ない
心許せる人だったらしい。ご近所さんだったその子は、よくよく上条家にやってきては幼い当麻の遊び相手になってくれた、と懐かしそうに
刀夜は語っていた。そして当麻が学園都市に送られた後も、上条家との交流は続いていたらしい。


当麻とて、その幼馴染を暖かく歓待したいと思う。しかし、怖いのだ
「記憶が無いしなぁ…」
当麻は怖かった、大事なはずの人を、自分を思ってくれる人を傷つけてしまうのが。
当麻は知らない、自分の過去を、幼馴染との思い出を。そのことが彼女を傷つけてしまうのがとてもとても怖かった。
インデックスを連れて来なかったのも同じ理由だ。記憶がないことを打ち明けるにしろ、或いは騙し通すにしろ、なんとか今日中に折り合いを
つけねばならない。最悪でも、幼馴染への不自然な態度からインデックスに記憶喪失がバレルのは避けたかった。大切だった人を傷つけ、さら
に大切なインデックスまで傷つける、そんな最悪中の最悪は避けたかった。



「当麻~」
物思いに耽っていた当麻は、自分を呼ぶ声に顔を上げる。
ちょうど父・刀夜が一人の女の子を伴ってゲートから出てきた所だった。
「おう、こっちこっち!」
暗い考えは腹にしまい、当麻は元気よく手を振ってみせる。何はともあれ辛気臭い顔で出迎える分けには行かない。
やがて、そばにやってきた年上の少女に当麻はまずは、と挨拶
「ええと、お久しぶり。詠子さん。」
「昔みたいに読子ねーちゃんでいいよ。“幻想殺し”君。」
そう行って少女は微笑んだ。
どこまでも透き通った、本当に邪気の無い微笑みを

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