「それじゃあ父さんは帰るからな。」
日が傾き、空が赤く染まるなか、上条刀夜はゲート行きのバスへと乗り込んだ。
無邪気に笑いながら、去り行くバスに手を振っている詠子を、当麻はそれとなく観察する。
出迎えそうそう“幻想殺し”と呼んできた幼馴染。刀夜が特に反応を見せなかった事から察するに、
彼女は以前からそれなりにその言葉を使用しているようだ。もしかすると、当麻の右腕に宿るこの
力を幻想殺しと名付けたのは、彼女なのかもしれない。
日が傾き、空が赤く染まるなか、上条刀夜はゲート行きのバスへと乗り込んだ。
無邪気に笑いながら、去り行くバスに手を振っている詠子を、当麻はそれとなく観察する。
出迎えそうそう“幻想殺し”と呼んできた幼馴染。刀夜が特に反応を見せなかった事から察するに、
彼女は以前からそれなりにその言葉を使用しているようだ。もしかすると、当麻の右腕に宿るこの
力を幻想殺しと名付けたのは、彼女なのかもしれない。
だとすると、彼女はなぜこの右腕に気づいたのだ?
あらゆる異能の力を打ち砕く、しかし異能の力以外にはまるで無意味な幻想殺し。
日常生活に置いては何の意味もなさないこの力を認識するには、実際に異能の力をぶつけるしかない。
つまり、十叶詠子はなんらかの異能の力(“超能力”あるいは“魔術”)に関わりを持つの人物だ。
あらゆる異能の力を打ち砕く、しかし異能の力以外にはまるで無意味な幻想殺し。
日常生活に置いては何の意味もなさないこの力を認識するには、実際に異能の力をぶつけるしかない。
つまり、十叶詠子はなんらかの異能の力(“超能力”あるいは“魔術”)に関わりを持つの人物だ。
学園都市に来る以前の異能とのつながり、自己のルーツと深く関わる事柄に当麻は興味を覚える。
もちろん、直接本人に聞けば話は早くすむ。だが、それは自分の記憶喪失を打ち明けるということ。
上条当麻にはその決心が付かない。
もちろん、直接本人に聞けば話は早くすむ。だが、それは自分の記憶喪失を打ち明けるということ。
上条当麻にはその決心が付かない。
そうこう悩んでいるうちに、刀夜の乗るバスは見えなくなり、詠子はクルリと当麻に向かい合う。
「刀夜さん、帰っちゃったねぇ。」
「そうだなぁ、これからどうする、もうホテルに戻るか?」
今日半日だけでもかなり歩き回っている、広大な学園都市で見るべきところはまだまだあるが、
数日は滞在するらしいので今日のところは宿で疲れをとるほうが良いだろう、と判断。
「そうだねぇ…でも、その前に当麻の部屋に行ってみたいかな。」
「いや、ちょっとまて!それは早い、そんな素敵イベントフラグ立てた覚えねーぞ!」
年上の美少女のちょっと意味深な一言に心拍数が跳ね上がる上条さん。というか本気でまずい、
このままだとインデックスとの同居がバレ、哀れ上条さんはロリコンの烙印を押されてしまう。
「ダメかな?」
「ダメです!」
可愛らしく小首を傾げる詠子、対する当麻は腕を交差させバッテンマーク。
「どうしても?」
「どうしても!男の子の部屋には色々あるのです」
「そうか、残念だなぁ」
さして残念そうでもなく呟く。
「刀夜さん、帰っちゃったねぇ。」
「そうだなぁ、これからどうする、もうホテルに戻るか?」
今日半日だけでもかなり歩き回っている、広大な学園都市で見るべきところはまだまだあるが、
数日は滞在するらしいので今日のところは宿で疲れをとるほうが良いだろう、と判断。
「そうだねぇ…でも、その前に当麻の部屋に行ってみたいかな。」
「いや、ちょっとまて!それは早い、そんな素敵イベントフラグ立てた覚えねーぞ!」
年上の美少女のちょっと意味深な一言に心拍数が跳ね上がる上条さん。というか本気でまずい、
このままだとインデックスとの同居がバレ、哀れ上条さんはロリコンの烙印を押されてしまう。
「ダメかな?」
「ダメです!」
可愛らしく小首を傾げる詠子、対する当麻は腕を交差させバッテンマーク。
「どうしても?」
「どうしても!男の子の部屋には色々あるのです」
「そうか、残念だなぁ」
さして残念そうでもなく呟く。
そして、しばしの沈黙の後、ふふっ、と詠子は微笑む。
「当麻は幸せなんだねぇ」
「幸せ?俺が?」
唐突過ぎる台詞に困惑。
「当麻は幸せなんだねぇ」
「幸せ?俺が?」
唐突過ぎる台詞に困惑。
上条当麻は不幸である、「アイツといれば不幸はあっちに集まるから」とクラスメートに避雷針扱いされる
ほどに不幸である。記憶を失った夏休み以降だけでも、何度も何度も厄介ごとに巻き込まれ、その度に死に
かけて入院するほどに不幸である。
そんな自分が幸運であるなど、的外れもいいとこではないか。
「いやいや、上条さんはめっちゃ不幸ですよ。」
苦笑しながら反論する当麻、その頬へと詠子はそっと手を触れる
「当麻は幸せだよ。…神の加護(LUCK)が無くっても、十分に幸せだよ。」
ほどに不幸である。記憶を失った夏休み以降だけでも、何度も何度も厄介ごとに巻き込まれ、その度に死に
かけて入院するほどに不幸である。
そんな自分が幸運であるなど、的外れもいいとこではないか。
「いやいや、上条さんはめっちゃ不幸ですよ。」
苦笑しながら反論する当麻、その頬へと詠子はそっと手を触れる
「当麻は幸せだよ。…神の加護(LUCK)が無くっても、十分に幸せだよ。」
頬に触れる手のひらにドギマギしていた当麻だが、その一言に表情を強張らせる。
「君は確かに不幸だけれど、神に見放された子だけれど、でも君は幸せなんだよ。」
まっすぐに当麻を見つめ、詠子はにっこりと微笑む。
「だって当麻は歯車だからね。」
「…歯車?」
「そう、歯車。人と人との間に挟まった歯車。人と人との運命を動かす大切な歯車。」
とてもやさしく、とてつもなくやさしく、少女は言葉を紡ぐ。
「当麻は歯車。歯車は常に動いて、擦れて、磨耗する。ただ只管に身も心も削り続ける、とてもつらい役割。」
でもね、と愛おしむように頬を撫でる
「歯車はね、とても大切な役割なんだよ。だって歯車が無くちゃ時計は動かないもの。身を削ってみんなを
つなぐ歯車があるから、物語の仕掛け時計は動くんだよ。それはとてもとても幸せな役目。」
愛し子を少女は少年を見つめる、一切の濁りの無い眼差しで
「君は運命をまわす歯車、人と人とをつなぐ者。たくさんの人に必要とされ、たくさんの人とつながり合い、
たくさんの人と物語を紡ぐ。当麻は不幸なんかじゃないよ、だってこんなにたくさんの人と結びついている
のだもの。」
「俺は…幸せ?」
「そう、その幸せは当麻自身が掴んだ物。当麻が紡ぐ物語がたくさんの物語と結びついて、もっと大きな物語
を創り上げてゆく。当麻はね、その右腕で“上条当麻は不幸である”という幻想を殺して見せたんだよ。」
がんばったんだね、と頬を撫でる。
その手があまりにも暖かくて、その言葉があまりにも優しくて、
上条当麻は静かに涙を流した。
「君は確かに不幸だけれど、神に見放された子だけれど、でも君は幸せなんだよ。」
まっすぐに当麻を見つめ、詠子はにっこりと微笑む。
「だって当麻は歯車だからね。」
「…歯車?」
「そう、歯車。人と人との間に挟まった歯車。人と人との運命を動かす大切な歯車。」
とてもやさしく、とてつもなくやさしく、少女は言葉を紡ぐ。
「当麻は歯車。歯車は常に動いて、擦れて、磨耗する。ただ只管に身も心も削り続ける、とてもつらい役割。」
でもね、と愛おしむように頬を撫でる
「歯車はね、とても大切な役割なんだよ。だって歯車が無くちゃ時計は動かないもの。身を削ってみんなを
つなぐ歯車があるから、物語の仕掛け時計は動くんだよ。それはとてもとても幸せな役目。」
愛し子を少女は少年を見つめる、一切の濁りの無い眼差しで
「君は運命をまわす歯車、人と人とをつなぐ者。たくさんの人に必要とされ、たくさんの人とつながり合い、
たくさんの人と物語を紡ぐ。当麻は不幸なんかじゃないよ、だってこんなにたくさんの人と結びついている
のだもの。」
「俺は…幸せ?」
「そう、その幸せは当麻自身が掴んだ物。当麻が紡ぐ物語がたくさんの物語と結びついて、もっと大きな物語
を創り上げてゆく。当麻はね、その右腕で“上条当麻は不幸である”という幻想を殺して見せたんだよ。」
がんばったんだね、と頬を撫でる。
その手があまりにも暖かくて、その言葉があまりにも優しくて、
上条当麻は静かに涙を流した。
上条当麻は俯いたまま静かに嗚咽を挙げている。故に十叶詠子の笑みに気づけなかった。
どこまでも純粋な、狂気のように純粋な、狂おしいまでに透き通った“魔女”の微笑みに。
どこまでも純粋な、狂気のように純粋な、狂おしいまでに透き通った“魔女”の微笑みに。