とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

第六章

最終更新:

index-ss

- view
だれでも歓迎! 編集
(17.木曜日18:25)
「インデックスさん。行っちゃった」

姫神秋沙がポツリといった一言に上条は今自分が置かれている状況に気が付いた。
夜狭い部屋に美少女と二人っきり。
居候(インデックス)は今晩帰ってこない。
隣の土御門も多分帰ってこない。
ドキドキのラブコメが今すぐにも展開しそうな舞台がいつの間にか出来上がっていた。
急に上条はそわそわし始めた。
視線は宙を泳ぎだし心拍数も右肩上がりに増加中だ。
何かで気を紛らわせないと心臓がどうにかなりそうな上条であった。

「ひっ、姫神、はっ、腹減っただろ。夕食を何か作ってやるよ」
(ふーっ、これで料理している間はなんとか気が紛れそうだ)

一安心した上条であったが姫神の返事は上条のその安全宣言を木っ端みじんに粉砕した。

「その前に。私。シャワー浴びたいんだけど」
「シャワー?」

上条はシャワーという単語に反応してエッチな妄想に向かい始めた思考を何とか押し戻す
ことができた。
もっとも一旦真っ赤になってしまった顔はなかなか元に戻せなかった。
上条は冷静になろうと客観的に姫神の発言を分析しようとしていた。

(「シャワーを浴びたい」って言う発言は姫神がエッチな展開を期待して言った訳じゃない。
 考えてみりゃ今日の放課後はハードだったもんな。
 かいた汗を洗い流したいって思うのは女の子なら当然だよな。
 姫神がこんなこと言い出したのはきっと『歩く教会』を借りて余裕ができた証拠だよな。
 うん。そうだ、そうに違いない。
 俺がうろたえたら変な期待をしてるんじゃないかと姫神に疑われちまう。
 ここは冷静に)

「あっ、ああ、いっ、いいとも。バスルームは自由に使ってくれ。
 オレはその間に夕食を作っておくよ」
「君も。一緒」
「へっ?」
「『歩く教会』を着たままお風呂には入れない。だから君も一緒」

「なっ、何をおっしゃって?」
「女子トイレにだって入る気だったんだから。大丈夫」
「いや、あれとこれとは違うんじゃ?」
「無理?」
「わっ、わかったよ。姫神、じゃあオレはどうすればいい?」

「とりあえず。服を脱いで」
「えっ、え”────っ」
「着たままだと服が濡れちゃう。それにパンツまで脱げとは言っていない」
「ああ、そうか、そうだよな。ハッハッ」

上条はTシャツまでは脱いだもののさすがにパンツだけでなくズボンも脱ぐことはできなかった。

今上条は手ぬぐいで目隠しをしている。
それは上条に目をつぶり続ける自信がなかったからだ。
そして脱衣所の床に座っている上条は右手で姫神秋沙の左足首を握っている。

この状況は健全な男子高校生にとっては拷問にも等しい苦行であった。
目と鼻の先に美少女がいる。
そして足首であるとはいえその身体に触れている。
しかもその美少女はこれから全裸になってシャワーを浴びるというのだ。
その姿を遮るものは自分の薄いまぶたと一枚の布きれだけなのである。
さらに耳には「シュッシュッ」と衣擦れの音が聞こえてくる。

(うわーっ、目が見えないと想像力ってこんなに大きくなるんだ。うん、新発見だ!)

上条当麻は透視能力者ではない。
しかし姫神秋沙がブラウスの脱いでいるビジョンとかブラを外しているビジョンが次々と
頭に浮かんでくる。
もし上条がレベル0の透視能力者だったならきっとこの数分でその能力を大きく開花させ
たことだろう。
しかし上条は正真正銘の“無”能力者であった。

(クソっ、こんなことならもっと真面目に能力開発の補習を受けてりゃ良かった)

上条が激しく後悔したかどうかは上条の名誉のためにここでは言及しないでおく。
その時不意に上条の右腕に「ファサッ」と布の固まりが落ちてきた。
目隠ししている上条でもそれが姫神の制服のスカートであると瞬時に判断できてしまった。

その後なぜか姫神の右手が上条の右手を持ち姫神の左手首を握らせた。
そして上条の右手が姫神の腰の辺りまで持ち上げられたかと思うと今度は膝の辺りまで降
ろされた。
その動作の意味を理解した瞬間上条の心臓は破裂寸前まで鼓動を早めていた。
そして姫神秋沙はバスルームへ入っていった。上条の手を引いて。


(18.木曜日18:47)
「ぶわぁっ」
「ゴメン。手が滑った」
「ひでえぞ、姫神」

その時上条は脱衣所に腹ばいになり上半身だけをバスルームに入れていた。
右腕を伸ばして姫神秋沙の左足首を握る上条の頭に突然シャワーが浴びせられたのだった。

「お詫びに。髪を拭いてあげる」
「いや、それは良いって」
「拭いてあげる」
「姫神様、上条さんにこれ以上余計な刺激を与えるのは勘弁して下さい」
「何の話?」
「いえ、何でもありません」
「私が手を滑らした。だから髪を拭く。なにか問題でも?」
「えーっと、その────っ」
「拭いてあげる」
「……はい」
「じゃあこっち向いて座って」
「えっ?」

上条は目隠ししているのだからどっちを向いても問題ないはずであった。
それでも姫神と向かい合うのにためらいを感じる純情少年上条当麻であった。

想像1:正面に全裸の姫神が膝立ちになって頭を拭いてくれる->目の前に姫神の胸が……
想像2:正面に全裸の姫神が立ったまま頭を拭いてくれる->以下、自粛

上条は頭をブンブン振って2つの未来図を思考の外へ振り飛ばした。
どちらにしても上条は自分の理性を信用していなかった。
そこで姫神秋沙から右手を離さないようにしつつ体をひねって上体を起こした。
丁度バスルームの入り口で外向きに体育座りをする格好になった。

(ふぅーっ。こうでもしないと上条さんの心臓は破裂してしまいます)

姫神秋沙は上条の右手を自分の右膝に移動させつつ上条の後ろに膝立ちとなった。
そして上条の髪に付いた水気を丁寧にタオルで拭いていった。

「肩や背中まで濡れてる。こっちも拭いてあげる」

全裸の姫神秋沙に身体を拭かれているという状況に上条の思考はパンク寸前だった。
しかも背中に感じる上気した姫神秋沙の体温が上条の想像力に大量の燃料を投下していた。

(この状況はまずい。マジでヤバイ。
 そうだ素数を数えよう。1,2,3,5,7……って素数って何だっけ?)

こんな状況は偶然起こるはずはない。
上条当麻は気付かなかったがこれは姫神秋沙がイタズラ心でワザと起こしたものだった。
姫神秋沙は気付かなかったがそのイタズラ心は95%が嫉妬でできていた。

放課後、吹寄制理を振り切って二人で逃げ出した時は嬉しかった。
公園で御坂美琴を助けようとした上条を見てなぜか胸が締め付けられた。
帰り道、御坂美琴の積極的な態度を見て少し不安になった。
さっきインデックスの身を案じる姿を見てなぜか悲しくなった。
そして姫神秋沙は少し上条当麻を困らせてやろうと思ってやったのだった。

(クスッ。頭を拭いてあげるって言ったら。君はやっぱり大慌てしたね。
 これはどんな女(こ)にも優しい君へのささやかな罰だよ)

姫神秋沙は慌てふためく上条を見たらもうこのイタズラはお終いにするつもりだった。
その瞬間までは。


(19.木曜日18:51)
その時、姫神秋沙は上条の右腕に残る薄い傷跡に気付いてしまった。
そこに傷があったことを知っている人間でなければ決して気付かないような薄い傷跡に。
姫神秋沙はそれがかすり傷でないこともどうしてできたのかも知っている。
だから姫神秋沙は無意識のうちに指でその傷跡をなぞってしまった。
唐突に腕を触られた上条はビクンと肩を跳ね上げた。

「いっ、いったいどうしたんだ、姫神」
「この傷。私のせい」

上条の右腕は一度『三沢塾』でとある錬金術師に切り落とされた。
幸いカエル顔の医者に元通りに直してもらえたがたとえ腕を無くしていても上条は後悔し
なかっただろう。

「君は腕を切り落とされても。私を助けてくれた。
 なのに。助けてもらった私は誰も助けられない。
 私の能力(ちから)はただ『殺す』だけ」

そう言うと上条の両肩に手を乗せたまま上条を両腕ごと抱え込むように上条の背中にしがみついた。
制服越しであった放課後と違い姫神秋沙の二つの膨らみが直接背中に押し付けられたのだ。
ただでさえ視覚以外の感覚が研ぎ澄まされた上条である。
押しつぶされた膨らみの質感はもとよりその先端までリアルに再現された脳内イメージに
思考はもはや熱暴走寸前だった。

「ひっ、姫神!?」
「ゴメン。もう少しこのまま」

少しの沈黙の後、姫神秋沙が口を開いた。

「以前。監禁されていた三沢塾の隠し部屋で私がどんな扱いを受けたか知りたいって聞い
 たことあったよね。あの時君は何も聞かなかったけど。何があったと思う?」

上条は高鳴っていた心臓がいきなり冷水を浴びせられたように締め付けられた。
今まであったドキドキ感すら全て無くなってしまっていた。

「まさか、奴ら、お前に非道いことをしたんじゃ……」
「いいえ。私は何もされなかった。
 確かにあの人達は私の体を隅から隅まで調べていった。
 でもあの人達には判らなかった。私のどこに『吸血殺し』が宿っているのか。
 だからあの人達は私を傷付けることができなかった。 
 不用意に傷付けてせっかく手に入れた希少な『吸血殺し』を失うことを恐れていたの」

「それじゃ、何を?」
「だから。彼らは塾の生徒達を使ったの。
 私と身体的特徴が似ている女子生徒もいた。
 DNAマップが一番似ているというだけで実験台にされた男子生徒もいた。
 そんな生徒達の頭に私の脳波パターンを無理矢理書き込もうとしたの。
 能力者に別の能力を上書きすることなんてできないことは判っているハズなのに。
 隠し部屋の中で皆体中から血を吹き出して倒れていった。
 私はその様子をただ眺めることしかできなかった。
 私はもう誰も傷付けたくないから学園都市(ここ)に来たのに。
 結局、学園都市でも私はいつも他人を傷付けていた」
「それは姫神のせいじゃない」

「大覇星祭のとき私大ケガしたでしょ。
 あのときね。とうとう私に天罰が下りたんだなって思った。
 それならこのまま死んでも仕方ないかなって。
 それでもね。君を見た瞬間。急に死にたくないって思ったの。
 変でしょ。他人ばかり傷付けてきた私が。自分だけは生きたいと願ったの。
 私なんて生きる価値もないのに」
「バカ野郎!なに勝手なこと言ってやがる。
 人は価値があるから生きているんじゃねぇ。生きているから人には価値があるんだ。
 自分に生きる価値がないなんて思うそんな馬鹿げた幻想なら俺がぶっ壊してやる」

姫神秋沙は上条の背中にすがりついたまま泣いていた。
姫神秋沙には判らなかった。自分は悲しいのか、嬉しいのか、寂しいのか、悔しいのか。
そんなことも分からないのに涙はなぜか止めどなく溢れ出てきた。

(そういえばいつからだろう?こうやって泣かなくなったのは?
 あれ以前はみんなと同じように泣いたことがあったような気がする。
 そうだ、あれから私は感情を表に出さないようにしたんだ。
 心を閉ざせば楽になれると信じていたから。
 もう他人の痛みや悲しみを感じるのには耐えられなかったから。
 だからもう泣くこともなくなった。
 そしてそれで良いと思っていた。でも……)

姫神秋沙は上条の背中にすがりついたまま泣き続けた。
まるで今まで表に出せなかった感情がようやく出口を見つけて溢れ出したように。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー