ひとかたさんとあそぼう。~バッティングセンター編~
学園都市。
それは東京西部を切り開いた広大な土地に数多くの学校や研究所を詰め込んだ、近未来型一大教育機関だ。
住人の大半が学生であるため、その街づくりも従来とは大きく異なったものになっている。それゆえ街にある大きな建物は、大抵以下の四つのうちのどれかにあてはめることができた。
一つは学校。一つは研究機関。一つは学生寮。
そして最後の一つは、娯楽施設である。
それは東京西部を切り開いた広大な土地に数多くの学校や研究所を詰め込んだ、近未来型一大教育機関だ。
住人の大半が学生であるため、その街づくりも従来とは大きく異なったものになっている。それゆえ街にある大きな建物は、大抵以下の四つのうちのどれかにあてはめることができた。
一つは学校。一つは研究機関。一つは学生寮。
そして最後の一つは、娯楽施設である。
「ンで、何だって俺ァこンなトコまで来ちまったンだァ?」
学園都市最強の超能力者(レベル5)一方通行(アクセラレータ)は、目の前の建物が掲げている看板を見上げて、自分が何かとんでもない間違いを犯してしまったような気分になった。
派手に電飾が施されたその看板には、デフォルメの利いた文字でこう書いてある。
『バッティングセンター』
と、横から重い頭をさらに重くしてくれるやかましいようでどこか平淡な声が聞こえてきた。
「いいじゃんよーとミサカはミサカは口をとがらせてみたり。思い込んだら試練の道をってな気分で日頃の運動不足を解消してみるのも休日の正しい過ごし方なんじゃないかなってミサカはミサカは寝起きのアナタをここまで引っ張ってきた理由を暴露してみる」
黄色いTシャツとミニスカート、背中には小さなリュックサックを背負った見た目十歳くらいの少女――打ち止め(ラストオーダー)は、何がそんなに楽しいのかニコニコ顔で彼の腕を掴みバッティングセンターの中へ引きずり込もうとしている。しかし「引っ張られる」という向き(ベクトル)を適当に拡散させている一方通行はビクともしない。
白い少年はしばらくそのまま空を見上げたりしていたが、
「寝起きっつってももう昼だしなァ。かと言って昼飯にするには微妙に早ェし…………ま、暇潰しにはなるか」
やがて(見かけの上では)渋々と、ガラス貼りの自動ドアをくぐっていった。
学園都市最強の超能力者(レベル5)一方通行(アクセラレータ)は、目の前の建物が掲げている看板を見上げて、自分が何かとんでもない間違いを犯してしまったような気分になった。
派手に電飾が施されたその看板には、デフォルメの利いた文字でこう書いてある。
『バッティングセンター』
と、横から重い頭をさらに重くしてくれるやかましいようでどこか平淡な声が聞こえてきた。
「いいじゃんよーとミサカはミサカは口をとがらせてみたり。思い込んだら試練の道をってな気分で日頃の運動不足を解消してみるのも休日の正しい過ごし方なんじゃないかなってミサカはミサカは寝起きのアナタをここまで引っ張ってきた理由を暴露してみる」
黄色いTシャツとミニスカート、背中には小さなリュックサックを背負った見た目十歳くらいの少女――打ち止め(ラストオーダー)は、何がそんなに楽しいのかニコニコ顔で彼の腕を掴みバッティングセンターの中へ引きずり込もうとしている。しかし「引っ張られる」という向き(ベクトル)を適当に拡散させている一方通行はビクともしない。
白い少年はしばらくそのまま空を見上げたりしていたが、
「寝起きっつってももう昼だしなァ。かと言って昼飯にするには微妙に早ェし…………ま、暇潰しにはなるか」
やがて(見かけの上では)渋々と、ガラス貼りの自動ドアをくぐっていった。
「見て見てバットもいろいろあるよってミサカはミサカははしゃいでみたり。ジュニア用子供向けサイズのはどれかなってミサカはミサカは探してるんだけど何なのその目は?」
「黙れクソガキそれから答えろ。オマエその格好はなンだ?」
トイレに行ってくる、と言って姿を消した打ち止めは、戻ってきた時にはなぜか服装が変わっていた。だが着替えてきたことが問題なのではない。問題なのは彼女が今着ている服のほうだ。
打ち止めはその服を見せつけるかのように両腕を広げ、
「これ? これはヨミカワがくれた服で、運動する時には着なさいって言われたから持ってきたんだけどってミサカはミサカはある一言を期待しながら説明してみる」
その期待に満ちた表情から、彼女が何と言ってもらいたがっているのかは簡単に知れたが、それを素直に言ってやる一方通行ではない。というか、それ以前の問題だった。
打ち止めが着ているのは、一昔前の体操服だった。
真白い半袖の上着と、濃紺の履物が絶妙なコントラストを形成している。
……ズバリ言ってしまおう。
それはブルマだった。
誰が何と言おうとも、それはブルマだったのだ。
もちろん上着の裾はブルマの中に入れられている。いや、何がもちろんなのかは不明だが。
(ヨミカワのヤツ、ゼッテェおもしろ半分で渡しやがったな……)
彼らの世話係である女性がじゃんじゃん言いながら大笑いしているのが目に浮かんだ。
そうしている間にも打ち止めはわざとらしく準備運動をしたりして、どうやらアピールをしているつもりらしいのだが、しかしそろそろ他の客の視線が厳しい。殺意のこもった視線を向けられるのには慣れていても、こんな理由で注視された経験などなく、どうにも居心地が悪かった。
一方通行は一番手近にあったバットを手に取り、
「ホレ。準備運動はそンくらいでイイだろォが。とっとと始めンぞ」
「…………………………………………………………………………ってミサカはミサカは無言でプーたれてみたり」
「無言じゃねェし。イイから行くぞ」
「実はアナタの分も用意してるって言ったらどうする? ってミサカはミサカは聞いてみるけど」
「いるかァーーーーッ!!」
「黙れクソガキそれから答えろ。オマエその格好はなンだ?」
トイレに行ってくる、と言って姿を消した打ち止めは、戻ってきた時にはなぜか服装が変わっていた。だが着替えてきたことが問題なのではない。問題なのは彼女が今着ている服のほうだ。
打ち止めはその服を見せつけるかのように両腕を広げ、
「これ? これはヨミカワがくれた服で、運動する時には着なさいって言われたから持ってきたんだけどってミサカはミサカはある一言を期待しながら説明してみる」
その期待に満ちた表情から、彼女が何と言ってもらいたがっているのかは簡単に知れたが、それを素直に言ってやる一方通行ではない。というか、それ以前の問題だった。
打ち止めが着ているのは、一昔前の体操服だった。
真白い半袖の上着と、濃紺の履物が絶妙なコントラストを形成している。
……ズバリ言ってしまおう。
それはブルマだった。
誰が何と言おうとも、それはブルマだったのだ。
もちろん上着の裾はブルマの中に入れられている。いや、何がもちろんなのかは不明だが。
(ヨミカワのヤツ、ゼッテェおもしろ半分で渡しやがったな……)
彼らの世話係である女性がじゃんじゃん言いながら大笑いしているのが目に浮かんだ。
そうしている間にも打ち止めはわざとらしく準備運動をしたりして、どうやらアピールをしているつもりらしいのだが、しかしそろそろ他の客の視線が厳しい。殺意のこもった視線を向けられるのには慣れていても、こんな理由で注視された経験などなく、どうにも居心地が悪かった。
一方通行は一番手近にあったバットを手に取り、
「ホレ。準備運動はそンくらいでイイだろォが。とっとと始めンぞ」
「…………………………………………………………………………ってミサカはミサカは無言でプーたれてみたり」
「無言じゃねェし。イイから行くぞ」
「実はアナタの分も用意してるって言ったらどうする? ってミサカはミサカは聞いてみるけど」
「いるかァーーーーッ!!」
流石は学園都市と言うべきか、ピッチングマシン一つをとっても外部の製品とはレベルが違っていた。
球種球速の変更はもちろん、スイングフォームの審査、苦手コースへの狙い撃ちなどもお手元の端末で操作できる。しかし、ディスプレイ上の球種一覧に、「燃える魔球」と本気で表示されているピッチングマシンなど世界中探してもこの街にしかないだろう。
一方通行は地面に描かれたバッターボックスに入った。とりあえず球種はストレート、球速は120キロに設定してある。なんだかんだいってもしっかりやる気になっているのだから不思議なものだ。
遠く前方の壁に開いた穴、その脇に埋め込まれているランプが点灯した。もうすぐ球が飛んでくるという合図だ。
(つってもまァ、飛ンでくる“球”を打ち返すなンて慣れたもンだしなァ)
対戦車用ライフルの“弾”をピッチャー返ししたこともある彼である。
次の瞬間、白球が射出された。
軽ゥく流すつもりでやるかァ、と一方通行はバットを振り抜き、
球種球速の変更はもちろん、スイングフォームの審査、苦手コースへの狙い撃ちなどもお手元の端末で操作できる。しかし、ディスプレイ上の球種一覧に、「燃える魔球」と本気で表示されているピッチングマシンなど世界中探してもこの街にしかないだろう。
一方通行は地面に描かれたバッターボックスに入った。とりあえず球種はストレート、球速は120キロに設定してある。なんだかんだいってもしっかりやる気になっているのだから不思議なものだ。
遠く前方の壁に開いた穴、その脇に埋め込まれているランプが点灯した。もうすぐ球が飛んでくるという合図だ。
(つってもまァ、飛ンでくる“球”を打ち返すなンて慣れたもンだしなァ)
対戦車用ライフルの“弾”をピッチャー返ししたこともある彼である。
次の瞬間、白球が射出された。
軽ゥく流すつもりでやるかァ、と一方通行はバットを振り抜き、
――バスッ
白球は一方通行の背後、壁に備えつけられた衝撃吸収マットにぶつかり、地面に落ちていった。
空振りである。
「……………………、」
バッティングスペースの隅で(本当は一人ずつしか中に入ってはいけないのだが)ブルマ幼女がニヤニヤしているのが気配で知れた。
気を取り直して第二球。シュッ。ブンッ。バスッ。また空振り。
第三球。ようやくバットに当たった。
「うォっ!?」
しかしどういうわけか、ボールは前ではなく横に弾かれてしまう。完全にファールだ。それどころか両手で握っていたはずのバットまで取り落としてしまう。
「ンンン……?」
隅っこでは打ち止めがニヤニヤを通り越して爆笑している。もしやと思い、一方通行はディスプレイの「一時停止」ボタンを押してブルマ幼女に詰め寄った。
「オイ、クソガキ」
「ぷ、ぷくくくくくく、な、なぁに? ってミサカはミサカは笑いの衝動に耐えながら聞き返してみる」
「オマエ、俺がバット振る瞬間だけ代理演算切ってンだろ」
「えーそんなことないよってミサカはミサカは正直に答えるんだけど全く信じてないっぽいね」
たりめェだ、と口ほどに目で物語る最強の人。
打ち止めは動じた風もなくケラケラと笑ってから、
「でもでも、本当にミサカは何もしてないってミサカはミサカは保証する。たぶん動いているもの(ボール)の向き(ベクトル)を障害物(バット)越しに操作するのって、今のアナタには難しいんじゃないかなってミサカはミサカは予想してみたり。ていうか武器を持ったら弱くなるなんてまるでどこかの忍者みたいだねってミサカはミサカは懐かしのネタを使ってみる」
「ぼったくり商店に売り飛ばすぞ。――ン? ちょっと待て。なら最初の二球空振ったのはなンでだ?」
「単にアナタが下手なだけ、ってミサカはミサカは容赦なく真理を突く」
「……………………コラ」
声に怒気が混じるが、しかしブルマはここぞとばかりに、
「当たらないことにはチカラの使いようもないのに、この有様じゃ宝の持ち腐れだねってミサカはミサカはじわじわといじめてみる」
「クソガキ、」
「アナタの身体能力で120キロのボールを真芯で捉えられる確率をミサカたちのネットワークでちょこっと計算してみたんだけど聞きたい? ってミサカはミサカはさらに崖っぷちまで追い詰めてみたり」
「イイ加減に……、」
「そうそう。さっきの豪快な空振り映像、ハイビジョン永久保存版でミサカたちのネットワークに無差別流出しておいたからってミサカはミサカは学園都市最強の超能力者に完全勝利間近」
「…………………………………………くゥっ!」
思わず語尾に「♪」をつけたくなるほど上機嫌の打ち止めと、泣きが入る寸前の一方通行。
この構図が端的に両者の力関係を表していた。
白く、白く、白い超能力者はしばらく行き場のない怒りに震えていたが、
「………………要はこの後挽回すりゃァいいだけの話だろ。面白ェじゃねェか。愉快に素敵にビビらせてやるよちっくしょォっ!!」
ヤケクソ気味に――というかもはや完璧にヤケクソで言い放ち、ブンブンとバットを振り回しながらバッターボックスに戻っていった。
負けるわけにはいかない。……なんというか、もうここらへんで終わりにしておかないと本当に後がない。
かくして、一方通行(がくえんとしさいきょう)とピッチングマシン(ただのきかい)の仁義なき決闘が始まった。
空振りである。
「……………………、」
バッティングスペースの隅で(本当は一人ずつしか中に入ってはいけないのだが)ブルマ幼女がニヤニヤしているのが気配で知れた。
気を取り直して第二球。シュッ。ブンッ。バスッ。また空振り。
第三球。ようやくバットに当たった。
「うォっ!?」
しかしどういうわけか、ボールは前ではなく横に弾かれてしまう。完全にファールだ。それどころか両手で握っていたはずのバットまで取り落としてしまう。
「ンンン……?」
隅っこでは打ち止めがニヤニヤを通り越して爆笑している。もしやと思い、一方通行はディスプレイの「一時停止」ボタンを押してブルマ幼女に詰め寄った。
「オイ、クソガキ」
「ぷ、ぷくくくくくく、な、なぁに? ってミサカはミサカは笑いの衝動に耐えながら聞き返してみる」
「オマエ、俺がバット振る瞬間だけ代理演算切ってンだろ」
「えーそんなことないよってミサカはミサカは正直に答えるんだけど全く信じてないっぽいね」
たりめェだ、と口ほどに目で物語る最強の人。
打ち止めは動じた風もなくケラケラと笑ってから、
「でもでも、本当にミサカは何もしてないってミサカはミサカは保証する。たぶん動いているもの(ボール)の向き(ベクトル)を障害物(バット)越しに操作するのって、今のアナタには難しいんじゃないかなってミサカはミサカは予想してみたり。ていうか武器を持ったら弱くなるなんてまるでどこかの忍者みたいだねってミサカはミサカは懐かしのネタを使ってみる」
「ぼったくり商店に売り飛ばすぞ。――ン? ちょっと待て。なら最初の二球空振ったのはなンでだ?」
「単にアナタが下手なだけ、ってミサカはミサカは容赦なく真理を突く」
「……………………コラ」
声に怒気が混じるが、しかしブルマはここぞとばかりに、
「当たらないことにはチカラの使いようもないのに、この有様じゃ宝の持ち腐れだねってミサカはミサカはじわじわといじめてみる」
「クソガキ、」
「アナタの身体能力で120キロのボールを真芯で捉えられる確率をミサカたちのネットワークでちょこっと計算してみたんだけど聞きたい? ってミサカはミサカはさらに崖っぷちまで追い詰めてみたり」
「イイ加減に……、」
「そうそう。さっきの豪快な空振り映像、ハイビジョン永久保存版でミサカたちのネットワークに無差別流出しておいたからってミサカはミサカは学園都市最強の超能力者に完全勝利間近」
「…………………………………………くゥっ!」
思わず語尾に「♪」をつけたくなるほど上機嫌の打ち止めと、泣きが入る寸前の一方通行。
この構図が端的に両者の力関係を表していた。
白く、白く、白い超能力者はしばらく行き場のない怒りに震えていたが、
「………………要はこの後挽回すりゃァいいだけの話だろ。面白ェじゃねェか。愉快に素敵にビビらせてやるよちっくしょォっ!!」
ヤケクソ気味に――というかもはや完璧にヤケクソで言い放ち、ブンブンとバットを振り回しながらバッターボックスに戻っていった。
負けるわけにはいかない。……なんというか、もうここらへんで終わりにしておかないと本当に後がない。
かくして、一方通行(がくえんとしさいきょう)とピッチングマシン(ただのきかい)の仁義なき決闘が始まった。
そして一時間後。
結果は九十球中(1ゲーム三十球を三回)ホームラン0、ヒット5、ファール26、空振り59の惨敗だった。
ちなみに打ち止めは小学生向けのモードで、三塁打級の当りをポカスカ打っていた。なんでもアメリカにいる妹達(シスターズ)から本場メジャーリーガーのフォームデータを送ってもらったらしい。
それを横目に、翌日酷い筋肉痛に襲われるとも知らず、ひたすら意地になって一方通行は空振りを続けていたという。
結果は九十球中(1ゲーム三十球を三回)ホームラン0、ヒット5、ファール26、空振り59の惨敗だった。
ちなみに打ち止めは小学生向けのモードで、三塁打級の当りをポカスカ打っていた。なんでもアメリカにいる妹達(シスターズ)から本場メジャーリーガーのフォームデータを送ってもらったらしい。
それを横目に、翌日酷い筋肉痛に襲われるとも知らず、ひたすら意地になって一方通行は空振りを続けていたという。
ちなみに、それからしばらくの間。
一方通行に勝ちたければバッティングセンターで勝負を挑め、という根も葉もない噂が学園都市中を騒がせていたとかなんとか。
一方通行に勝ちたければバッティングセンターで勝負を挑め、という根も葉もない噂が学園都市中を騒がせていたとかなんとか。
おわり