(二日目)午前10時01分
「何よこれ…」
御坂美琴は呟いた。
ここは『学舎の園』の地下7キロ下にある核シェルター。
小型飛行機を運搬するような地下エレベーターが下った先には、約10000人を収容できる大型施設があり、食堂や個室や大浴場、トイレや多目的室など様々な生活空間が設置されている。避難してきた生徒たちは巨大なホールに集められていた。続々と『学舎の園』の生徒や関係者が避難してくる。その団体の中で、常盤台の制服を着た200人程度の常盤台中学の生徒たちが避難者の最前列にいた。
ホールには4000人を超える人々が集まっているというのに、小さな物音すら周囲に響くほどの静けさが漂っていた。
ここは『学舎の園』の地下7キロ下にある核シェルター。
小型飛行機を運搬するような地下エレベーターが下った先には、約10000人を収容できる大型施設があり、食堂や個室や大浴場、トイレや多目的室など様々な生活空間が設置されている。避難してきた生徒たちは巨大なホールに集められていた。続々と『学舎の園』の生徒や関係者が避難してくる。その団体の中で、常盤台の制服を着た200人程度の常盤台中学の生徒たちが避難者の最前列にいた。
ホールには4000人を超える人々が集まっているというのに、小さな物音すら周囲に響くほどの静けさが漂っていた。
皆、ホールにある大スクリーンに映し出されている映像に固唾を飲んでいた。
「第十八学区」と表示されている倒れた看板が映っていなければ、そこが「第十八学区」だとは誰も気付かなかっただろう。
崩壊した多くの高層ビル。爆弾で吹き飛ばされたかのような巨大な大穴。炎上する車や施設。
地獄のような光景の中心に、一人の少年が立っていた。
背丈は170センチ後半。ツンツンとした黒髪で長点上機学園の制服を身に纏った生徒。
御坂美琴にとっては見慣れた後ろ姿だった。
時には絶体絶命の危機を救ってくれた勇敢な少年の背中。
時には後輩を救うために何の迷いも無く協力してくれた少年の背中。
時には涙で濡れた顔を隠すために覆ってくれた優しい少年の背中。
時には彼を求め、温もりを感じさせてくれた愛しい少年の背中。
崩壊した多くの高層ビル。爆弾で吹き飛ばされたかのような巨大な大穴。炎上する車や施設。
地獄のような光景の中心に、一人の少年が立っていた。
背丈は170センチ後半。ツンツンとした黒髪で長点上機学園の制服を身に纏った生徒。
御坂美琴にとっては見慣れた後ろ姿だった。
時には絶体絶命の危機を救ってくれた勇敢な少年の背中。
時には後輩を救うために何の迷いも無く協力してくれた少年の背中。
時には涙で濡れた顔を隠すために覆ってくれた優しい少年の背中。
時には彼を求め、温もりを感じさせてくれた愛しい少年の背中。
その背中が今、この大騒乱の『黒幕』として映し出されていた。
スクリーンの中で大きな竜巻が吹き荒れると、雑音と共に画像が歪み、映像が途切れた。
その直後から周囲が騒然となる。
その場に蹲って泣き叫ぶ人々もいれば、『警備員(アンチスキル)』や『風紀委員(ジャッジメント)』に「何が起こってるんだ!」と食って掛かる人々もいた。
大スクリーンの最前列にいる常盤台中学の生徒はクラスごとに集合しろと言われていたが、気の合う友達や派閥といった各々のグループに分かれて話し込んでいた。引率の先生も小型通信機やパソコンからの連絡や情報のやり取りに忙しく、あまり注意していない。
その直後から周囲が騒然となる。
その場に蹲って泣き叫ぶ人々もいれば、『警備員(アンチスキル)』や『風紀委員(ジャッジメント)』に「何が起こってるんだ!」と食って掛かる人々もいた。
大スクリーンの最前列にいる常盤台中学の生徒はクラスごとに集合しろと言われていたが、気の合う友達や派閥といった各々のグループに分かれて話し込んでいた。引率の先生も小型通信機やパソコンからの連絡や情報のやり取りに忙しく、あまり注意していない。
呆然と立ち尽くしていた御坂美琴の背中から声がかかった。
「大丈夫ですかお姉様?お顔が優れませんわよ!」
「え…ええ、だ、大丈夫よ。…それより黒子も大丈夫?『風紀委員(ジャッジメント)』の仕事はもういいの?」
「…はい。今回は事が事ですので、中学生以下の『風紀委員(ジャッジメント)』は在籍の学校の避難警備だけで終わりですの……お姉様、あの方は」
「大丈夫ですかお姉様?お顔が優れませんわよ!」
「え…ええ、だ、大丈夫よ。…それより黒子も大丈夫?『風紀委員(ジャッジメント)』の仕事はもういいの?」
「…はい。今回は事が事ですので、中学生以下の『風紀委員(ジャッジメント)』は在籍の学校の避難警備だけで終わりですの……お姉様、あの方は」
「…そうよ。間違いない」
「……ッ!!」
白井黒子は言葉を詰まらせた。
『報告通り』だったからだ。
御坂に送られてきた一通のメール。その通りに事は起こった。
「パスワードが何重にもかかってて、開くのに随分時間かかっちゃって、……これも当麻の予想通りかしら」
「…私にも当麻さんからメールが来ましたの。内容は…」
「『美琴を頼む』、でしょ?」
「…そう、ですわ」
「あーあー、もう、いやになっちゃうなー。当麻、いっつも大事なことは誰にも言わないで、一人で背負い込んで、解決して…」
「…それが当麻さんと長所でもあるんですけど」
「恋人の私にも黙ってるなんて、サイテーよね」
「でも、今回の事は無理も無いですわ。第十八学区を中心に第五、六、七、十、十一、二十二、二十三学区に『第一級警報(コードレッド)』と共に完全閉鎖。ウイルステロでもここまで大規模な指令はありませんわよ。それに…」
「それに?」
「上層部が事前に準備していたようにも思えますの。第十八学区の避難が一時間以内に終了するなんて対応があまりにも迅速すぎて不気味なくらいですわ」
「…つまり」
白井黒子は言葉を詰まらせた。
『報告通り』だったからだ。
御坂に送られてきた一通のメール。その通りに事は起こった。
「パスワードが何重にもかかってて、開くのに随分時間かかっちゃって、……これも当麻の予想通りかしら」
「…私にも当麻さんからメールが来ましたの。内容は…」
「『美琴を頼む』、でしょ?」
「…そう、ですわ」
「あーあー、もう、いやになっちゃうなー。当麻、いっつも大事なことは誰にも言わないで、一人で背負い込んで、解決して…」
「…それが当麻さんと長所でもあるんですけど」
「恋人の私にも黙ってるなんて、サイテーよね」
「でも、今回の事は無理も無いですわ。第十八学区を中心に第五、六、七、十、十一、二十二、二十三学区に『第一級警報(コードレッド)』と共に完全閉鎖。ウイルステロでもここまで大規模な指令はありませんわよ。それに…」
「それに?」
「上層部が事前に準備していたようにも思えますの。第十八学区の避難が一時間以内に終了するなんて対応があまりにも迅速すぎて不気味なくらいですわ」
「…つまり」
「ええ、当麻さんは事前に話を通していたようですの。この騒動が起こることを知っていたんですわ」
(二日目)午前10時22分
「なぜ本気を出さぬ?」
『魔神』は30メートル先に立つ白髪の少年に問いかけていた。
「…テメェこそなぜ本気を出さねェ。俺なんて秒殺だろうがよォ」
『一方通行(アクセラレータ)』は額に浮かぶ汗を拭った。
「余の遊戯だ。確かに貴様ごとき、一瞬で捻り殺すことはできるが、それでは余は満足できぬ。それに――――――――――」
ドン!!という爆音とまばゆい光にその声は遮られた。
『魔神』は30メートル先に立つ白髪の少年に問いかけていた。
「…テメェこそなぜ本気を出さねェ。俺なんて秒殺だろうがよォ」
『一方通行(アクセラレータ)』は額に浮かぶ汗を拭った。
「余の遊戯だ。確かに貴様ごとき、一瞬で捻り殺すことはできるが、それでは余は満足できぬ。それに――――――――――」
ドン!!という爆音とまばゆい光にその声は遮られた。
粉塵爆発。
周辺に舞っている塵や埃を利用し、白髪の少年は一気に起爆させた。
己が身は「反射」を使い、無傷。
ベクトル操作で辺りの煙を吹き飛ばし、30メートル先に立つ少年の姿を見た。
「…チッ!」
『魔神』もまた、無傷だった。
周辺に舞っている塵や埃を利用し、白髪の少年は一気に起爆させた。
己が身は「反射」を使い、無傷。
ベクトル操作で辺りの煙を吹き飛ばし、30メートル先に立つ少年の姿を見た。
「…チッ!」
『魔神』もまた、無傷だった。
「…ふむ。会話の途中とは頂けないな。『魔王』よ」
「その俺のアダ名は何とかナンねぇのか?そんな呼び方すンのはテメェだけだ」
「王は神になれない。人であるがゆえに、な」
「アァ?」
「これでも余は貴様を讃えているのだぞ?人の身で『神』の領域に踏み入った者への称号でな」
「テメェも人間だろうが。『ドラゴン』だか『魔神』だか知らねェが、見た目は『上条当麻』っつうフツーのコ―コーセーだろ。そんなテメェが人を見下してンじゃねぇよ」
「余より下等な生物を見下して何が悪い?」
「…テメェ!!」
「その憤りを払拭してみせよ、『魔王』。貴様に余を屈伏させるだけの力があったらの話だがな」
『魔神』が右手をかざした。
「その俺のアダ名は何とかナンねぇのか?そんな呼び方すンのはテメェだけだ」
「王は神になれない。人であるがゆえに、な」
「アァ?」
「これでも余は貴様を讃えているのだぞ?人の身で『神』の領域に踏み入った者への称号でな」
「テメェも人間だろうが。『ドラゴン』だか『魔神』だか知らねェが、見た目は『上条当麻』っつうフツーのコ―コーセーだろ。そんなテメェが人を見下してンじゃねぇよ」
「余より下等な生物を見下して何が悪い?」
「…テメェ!!」
「その憤りを払拭してみせよ、『魔王』。貴様に余を屈伏させるだけの力があったらの話だがな」
『魔神』が右手をかざした。
突如、轟音と共に爆風が吹き荒れる。
白髪の少年は一瞬で右方に逸れると、体中に触れた大気を操り、圧縮させる。
衝撃波。
秒速200メートルを超える風圧を『魔神』に向け、「反射」を使い、後方へと大きく距離を取った。
遮る壁や建物は周囲に存在しない。大気をコントロールし、『一方通行(アクセラレータ)』は上空50メートルに浮かぶ。
衝撃波が直撃した地面はアスファルトごと抉り取られ、砂埃が尾を引くように100メートル先まで舞っていた。
衝撃波。
秒速200メートルを超える風圧を『魔神』に向け、「反射」を使い、後方へと大きく距離を取った。
遮る壁や建物は周囲に存在しない。大気をコントロールし、『一方通行(アクセラレータ)』は上空50メートルに浮かぶ。
衝撃波が直撃した地面はアスファルトごと抉り取られ、砂埃が尾を引くように100メートル先まで舞っていた。
それでも『魔神』は無傷だった。
塵一つ、制服に付いていない。
塵一つ、制服に付いていない。
『魔神』は平然と言葉を投げかける。
「分かったであろう?」
「ああ、テメェの能力は物体を消滅させる力だ。手をかざした瞬間に爆風が吹き荒れるのも説明がつく。テメェは手をかざした前方数百メートル直線上の物体を『大気ごと』消して、そン時の真空状態の空間に周囲の大気が入り込むから爆風が生じるんだろ」
「分かったであろう?」
「ああ、テメェの能力は物体を消滅させる力だ。手をかざした瞬間に爆風が吹き荒れるのも説明がつく。テメェは手をかざした前方数百メートル直線上の物体を『大気ごと』消して、そン時の真空状態の空間に周囲の大気が入り込むから爆風が生じるんだろ」
「その通りだ。しかし、これは私、いや俺の能力と言った方がいいのか。『上条当麻』としての能力に過ぎん」
「…何だと?」
「貴様には全力を出せと言っておきながら余は鱗辺すら出していない。その無礼を詫びよう。本来の『余』の力を見せてやろうではないか」
白髪の少年は絶句した。
(あれが実力じゃないだと!?フザけんな!じゃあ一体…)
『魔神』は右手を白髪の少年に向けて突き出した。
「貴様には全力を出せと言っておきながら余は鱗辺すら出していない。その無礼を詫びよう。本来の『余』の力を見せてやろうではないか」
白髪の少年は絶句した。
(あれが実力じゃないだと!?フザけんな!じゃあ一体…)
『魔神』は右手を白髪の少年に向けて突き出した。
「『現実守護(リアルディフェンダー)』、『幻想守護(イマジンディフェンダー)』を開放する」
パン!と『魔神』の右腕から服が弾け飛んだ。
右腕の端々から漆黒の『何か』が噴出し、右腕全体を覆い尽くし、腕よりも一回りも二回り大きく、黒い『何か』が渦巻いていた。禍々しい黒い『何か』はあるモノを形成する。
『竜王の顎(ドラゴンストライク)』
二メートルを超す巨大な漆黒の竜の頭部。竜の目が白髪の少年の目が合うなり、人間が飲み込めそうなほど大きな口を開け、竜の顎が地面に着いた。
「構えよ。『魔王』」
その言葉に『一方通行(アクセラレータ)』は戦慄した。喉が一瞬にして冷え上がる。
右腕の端々から漆黒の『何か』が噴出し、右腕全体を覆い尽くし、腕よりも一回りも二回り大きく、黒い『何か』が渦巻いていた。禍々しい黒い『何か』はあるモノを形成する。
『竜王の顎(ドラゴンストライク)』
二メートルを超す巨大な漆黒の竜の頭部。竜の目が白髪の少年の目が合うなり、人間が飲み込めそうなほど大きな口を開け、竜の顎が地面に着いた。
「構えよ。『魔王』」
その言葉に『一方通行(アクセラレータ)』は戦慄した。喉が一瞬にして冷え上がる。
「――――――――――――――――――――――『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』」
突如、辺りが眩い光に覆われた。大気圏すら突破する巨大な光線が、放たれた。