御坂美琴は上条当麻が好きだ。
第二十二学区の一件を境に、御坂美琴は上条当麻に対する恋心をはっきりと自覚した。
第二十二学区の一件を境に、御坂美琴は上条当麻に対する恋心をはっきりと自覚した。
気がつけば、いつも彼の事ばかり気にかけていた。街中で彼の後ろ姿を探して、見つけては声をかけて、勝負を挑んで、逃げられて。
出会った時に抱いたのは、ちょっとした好奇心だった。
初めは嫌な奴だと思った。
『無能力者(レベル0)』と言いながら、学園都市に7人しかいない『超能力者(レベル5)』の攻撃をいとも簡単に打ち消してしまうほどの能力を持っている。なのに、私より弱い不良たちに絡まれてはいつも逃げ回っていたりしていた。
その上、彼が私に言う言葉は、真の強者が言うセリフばかりだった。
でも言うだけのことはあった。私の全力を、右手ひとつで全てを打ち消してしまうのだから。
だから余計にムカついた。
今までの私の努力が、全部否定されてる感じで。
アイツの存在はとってもイヤだった。
初めは嫌な奴だと思った。
『無能力者(レベル0)』と言いながら、学園都市に7人しかいない『超能力者(レベル5)』の攻撃をいとも簡単に打ち消してしまうほどの能力を持っている。なのに、私より弱い不良たちに絡まれてはいつも逃げ回っていたりしていた。
その上、彼が私に言う言葉は、真の強者が言うセリフばかりだった。
でも言うだけのことはあった。私の全力を、右手ひとつで全てを打ち消してしまうのだから。
だから余計にムカついた。
今までの私の努力が、全部否定されてる感じで。
アイツの存在はとってもイヤだった。
それが変わったのは、『妹達(シスターズ)』の件からだろう。
あの時、私は追い詰められていた。偶然、実験のことを知った私は学校の合間を縫って調査を始めた。
たどり着いた先は『一方通行(アクセラレータ)』を筆頭とする学園都市に潜む暗部。
非人道的な実験を学園都市が黙認している時点で、正攻法の解決は望めなかった。研究所をいくら潰しても、実験は引き継がれ、生み出された『妹達(シスターズ)』は次々と殺されていく。自分の無力さを感じながら、一人で悩みながら、考えて、考え続けて、そして私は自らの命を持って、この実験を終わらせることを決意した。
そんな夜に彼はやってきた。全てを知りながらも。
彼は、勝手にやってきて、そして勝手に解決してしまった。絶望しか見いだせなかった窮地から、命懸けで、私たちを救ってくれた。
あの時、私は追い詰められていた。偶然、実験のことを知った私は学校の合間を縫って調査を始めた。
たどり着いた先は『一方通行(アクセラレータ)』を筆頭とする学園都市に潜む暗部。
非人道的な実験を学園都市が黙認している時点で、正攻法の解決は望めなかった。研究所をいくら潰しても、実験は引き継がれ、生み出された『妹達(シスターズ)』は次々と殺されていく。自分の無力さを感じながら、一人で悩みながら、考えて、考え続けて、そして私は自らの命を持って、この実験を終わらせることを決意した。
そんな夜に彼はやってきた。全てを知りながらも。
彼は、勝手にやってきて、そして勝手に解決してしまった。絶望しか見いだせなかった窮地から、命懸けで、私たちを救ってくれた。
それから彼は私の中で特別な存在へとなっていったのだろう。
色々な事件に巻き込まれて、二人で色んなバカをやって、いつもこっちの都合も全く考えないで、一方的にやってきては巻き込んでいくのに、なんか憎めなくて。最後にはうまく丸められちゃって。こっちから思い切って行動しても、怒ったり、後悔ばっかりするのに。
私、やっぱり、アイツが好きだ。
もっと一緒にいたい。アイツのこと、もっと知りたい。少しでもいいから、アイツの力になりたい。
そう思うだけで、胸が熱くなる。心が満たされていく。
これが、恋、なんだ。
自覚してしまうと、何だが今までの自分が可笑しくなってしまう。変なプライドなんて、とっとと捨てておけばよかったのに。もっと、自分に素直になっておけばよかったのに。
色々な事件に巻き込まれて、二人で色んなバカをやって、いつもこっちの都合も全く考えないで、一方的にやってきては巻き込んでいくのに、なんか憎めなくて。最後にはうまく丸められちゃって。こっちから思い切って行動しても、怒ったり、後悔ばっかりするのに。
私、やっぱり、アイツが好きだ。
もっと一緒にいたい。アイツのこと、もっと知りたい。少しでもいいから、アイツの力になりたい。
そう思うだけで、胸が熱くなる。心が満たされていく。
これが、恋、なんだ。
自覚してしまうと、何だが今までの自分が可笑しくなってしまう。変なプライドなんて、とっとと捨てておけばよかったのに。もっと、自分に素直になっておけばよかったのに。
全く、とんでもないヤツが、ライバルになっちゃったなぁ。
常盤台中学女子寮。
『学舎の園』の外にある石造りの3階建ての寄宿舎。一見、西洋じみた古風な寄宿舎に見えるが、そこは学園都市の五指に入る難関校。学園都市最高クラスの厳重なセキュリティが施されている。
今日は祝日であり、現在は午前九時を回ったところだった。
大半の寮生は食事を済ませ、各々の部屋に戻る者。外に出かける者。寮生の休暇の過ごし方は十人十色である。二〇八号室に彼女たちはいた。
御坂美琴と白井黒子である。
「おねーさまーん」
「ちょっと黒子!スリスリすんな!」
「いやですわー、今週はお姉様エナジーを得る機会がありませんでしたのでー、今日のデートで一週間分を補給させていただきますわよ♪」
「デートとか言うな!ただ一緒に服を買いに行くだけじゃない!」
「あーん、お姉様が冷たいですわー」
と言いながら黒子は指をワシャワシャ!と意味ありげに動かした。その仕草に御坂は寒気を覚える。
「…ッ!!」
白井黒子の「下着を『空間移動(テレポート)』させますわよ」というジェスチャーなのだ。
御坂美琴がいくら学園都市に七人しかいない『超能力者(レベル5)』の一人といっても白井黒子の能力を防げるわけではない。
「わ、わかったわよ。行くわよ。私も買いたいものがあったし」
「やったー、ですのっ!」
と、白井黒子はまた御坂に抱きついた。今度は真正面から。
二人してベッドに倒れこんだ。
「ちょ、きゃっ!」
「お姉様ぁーん。そろそろ新しい下着が欲しくなりませんことー?」
「十分あるから!ってお尻を触るなっ!」
「お姉様の下着はあまりにも子供っぽいですわよ。
…ここだけの話、私のクラスでお姉様の下着のことを話している寮生がいましたの。『御坂お姉様は可愛い下着を愛用しているらしいわ』などいう噂を…」
「えっ、ウソ!?」
「…悲しいことに、マジですのよ。お姉様」
御坂美琴は本気で驚いているようだった。いや、ショックを受けているといったほうが正しいだろう。
『学舎の園』の外にある石造りの3階建ての寄宿舎。一見、西洋じみた古風な寄宿舎に見えるが、そこは学園都市の五指に入る難関校。学園都市最高クラスの厳重なセキュリティが施されている。
今日は祝日であり、現在は午前九時を回ったところだった。
大半の寮生は食事を済ませ、各々の部屋に戻る者。外に出かける者。寮生の休暇の過ごし方は十人十色である。二〇八号室に彼女たちはいた。
御坂美琴と白井黒子である。
「おねーさまーん」
「ちょっと黒子!スリスリすんな!」
「いやですわー、今週はお姉様エナジーを得る機会がありませんでしたのでー、今日のデートで一週間分を補給させていただきますわよ♪」
「デートとか言うな!ただ一緒に服を買いに行くだけじゃない!」
「あーん、お姉様が冷たいですわー」
と言いながら黒子は指をワシャワシャ!と意味ありげに動かした。その仕草に御坂は寒気を覚える。
「…ッ!!」
白井黒子の「下着を『空間移動(テレポート)』させますわよ」というジェスチャーなのだ。
御坂美琴がいくら学園都市に七人しかいない『超能力者(レベル5)』の一人といっても白井黒子の能力を防げるわけではない。
「わ、わかったわよ。行くわよ。私も買いたいものがあったし」
「やったー、ですのっ!」
と、白井黒子はまた御坂に抱きついた。今度は真正面から。
二人してベッドに倒れこんだ。
「ちょ、きゃっ!」
「お姉様ぁーん。そろそろ新しい下着が欲しくなりませんことー?」
「十分あるから!ってお尻を触るなっ!」
「お姉様の下着はあまりにも子供っぽいですわよ。
…ここだけの話、私のクラスでお姉様の下着のことを話している寮生がいましたの。『御坂お姉様は可愛い下着を愛用しているらしいわ』などいう噂を…」
「えっ、ウソ!?」
「…悲しいことに、マジですのよ。お姉様」
御坂美琴は本気で驚いているようだった。いや、ショックを受けているといったほうが正しいだろう。
「まあ、わたくしが着用しているものくらいであれば恥ずかしがることはないと思うのですが…あの殿方すらイチコロかもしれませんわよ?例えばぁ、お姉様のネグリジェとか♪」
(ふっふっふっ、お姉様と下着のペアルック『死語?』…うふえへあハァーッ!なんて素晴らしい姉妹愛の象徴!ああっ、夢にまで見たおね…)
「って何でベタに反応しますのお姉様ああああっ!!ふっ、あの類人猿がァァあああああ!!」
顔を赤くした御坂美琴はたった今気づいたように『何でもないわよ!』と返事をしたが、白井にとってはそんな美琴の態度がますます気に入らなかった。
(ふっふっふっ、お姉様と下着のペアルック『死語?』…うふえへあハァーッ!なんて素晴らしい姉妹愛の象徴!ああっ、夢にまで見たおね…)
「って何でベタに反応しますのお姉様ああああっ!!ふっ、あの類人猿がァァあああああ!!」
顔を赤くした御坂美琴はたった今気づいたように『何でもないわよ!』と返事をしたが、白井にとってはそんな美琴の態度がますます気に入らなかった。
ここ最近、愛しのお姉様は物思いにふけって意識が上の空ということが多い。
その上、あの殿方のことになると過剰に反応する。いくら恋愛に疎い人たちでも御坂美琴の態度は一目瞭然だった。嫌な予感が頭を駆け巡りつつ、その分だけ殿方に、すなわち上条当麻に対する殺意が蓄積されていくのだ。白井の脳内では上条は無数の金属矢に刺され、すでに亡き者になっていた。
「きーっ!くやしいですわー!わたくしのお姉様が!お姉様が頬を染めてしまわれるだなんて!…かくなる上はわたくしめがお姉様の愛をかっさらって差し上げますわ!あの殿方を忘れてしまうくらいわたくしの愛をおおおおおおおおおおォ!」
「っ!黒子っ!その右手に持ってるカプセルは何なの!?私に何飲ませる気!?」
御坂美琴は本気で戦慄した。
白井の目が真剣だ。怖い。
相手が『あのバカ』ではなく、白井黒子ということを忘れて反射的に雷撃を放とうとしたその時―――――――――
「きーっ!くやしいですわー!わたくしのお姉様が!お姉様が頬を染めてしまわれるだなんて!…かくなる上はわたくしめがお姉様の愛をかっさらって差し上げますわ!あの殿方を忘れてしまうくらいわたくしの愛をおおおおおおおおおおォ!」
「っ!黒子っ!その右手に持ってるカプセルは何なの!?私に何飲ませる気!?」
御坂美琴は本気で戦慄した。
白井の目が真剣だ。怖い。
相手が『あのバカ』ではなく、白井黒子ということを忘れて反射的に雷撃を放とうとしたその時―――――――――
コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。
「っ!…ってあれ?」
「むっ…いいところにっ!」
ピタリと二人の動きが止まった。
再び、ドアをノックする音が聞こえる。
「…わたくしが出ますわ。お姉様」
「…そうして」
またがっていた白井黒子が離れていく。心の中で御坂美琴はホッとため息をついた。
(一体何だったの?あのカプセル。……………まさか)
白井は玄関の右側に付いているパネルに番号を入力し、電子ロックを外した。ドアを開ける。
そこには紫色のショートヘアーの常盤台生徒がいた。たしかお姉様のクラスメイトだったような気がする。
「あら、どちら様ですか?」
「二年の桐生です。御坂お姉様はいらっしゃいますか?」
「はあ、お姉様に何の用ですの?」
「むっ…いいところにっ!」
ピタリと二人の動きが止まった。
再び、ドアをノックする音が聞こえる。
「…わたくしが出ますわ。お姉様」
「…そうして」
またがっていた白井黒子が離れていく。心の中で御坂美琴はホッとため息をついた。
(一体何だったの?あのカプセル。……………まさか)
白井は玄関の右側に付いているパネルに番号を入力し、電子ロックを外した。ドアを開ける。
そこには紫色のショートヘアーの常盤台生徒がいた。たしかお姉様のクラスメイトだったような気がする。
「あら、どちら様ですか?」
「二年の桐生です。御坂お姉様はいらっしゃいますか?」
「はあ、お姉様に何の用ですの?」
「至宝院お姉様がお呼びです」
御坂美琴は重い足取りで、ある一室に向かっていた。目的地は知っているのだが、この桐生と名乗る同級生が案内役を仰せつかっているらしい。赤い絨毯を踏みしめ、階段を上っていた。
「ねえ、桐生さん。至宝院さんから内容は聞いていないの?」
「ええ、直接お話ししたいことがある、ということしか伺っていません」
「…私たち同級生なんだからさ、敬語はやめてもらえる?私、そういうの嫌いなんだけど」
「私は至宝院派閥の一員なので、言葉づかいは仕方ありません」
派閥、という言葉を聞いて御坂美琴はため息をついた。
常盤台中学に見られる特有の『遊戯』なのだが、そのおかげで一見仲良く見える生徒同士にも見えない壁がある。同じ派閥内の者同士しか仲よくしてはならない、または特定の装飾品を身につけなければならない、などという派閥ならではの掟があり、言葉づかいもその代表例にすぎない。
三階に上がり、最も東側にある部屋に歩いていった。
行きかう常磐大の生徒と「ごきげんよう」と会釈する。
彼女たちも『派閥』の一員である。
金文字で『三一〇号室』と彫ってある木造のドアの前で足を止めた。
桐生がドアをノックする。
「御坂お姉様を連れてまいりました」
電子ロックが作動する音が鳴り、ドアが開かれた。
そこに立っていたのメイド服姿の少女。フワフワとした栗色の髪に大きな栗色の瞳。頭を大きく下げる。
「ねえ、桐生さん。至宝院さんから内容は聞いていないの?」
「ええ、直接お話ししたいことがある、ということしか伺っていません」
「…私たち同級生なんだからさ、敬語はやめてもらえる?私、そういうの嫌いなんだけど」
「私は至宝院派閥の一員なので、言葉づかいは仕方ありません」
派閥、という言葉を聞いて御坂美琴はため息をついた。
常盤台中学に見られる特有の『遊戯』なのだが、そのおかげで一見仲良く見える生徒同士にも見えない壁がある。同じ派閥内の者同士しか仲よくしてはならない、または特定の装飾品を身につけなければならない、などという派閥ならではの掟があり、言葉づかいもその代表例にすぎない。
三階に上がり、最も東側にある部屋に歩いていった。
行きかう常磐大の生徒と「ごきげんよう」と会釈する。
彼女たちも『派閥』の一員である。
金文字で『三一〇号室』と彫ってある木造のドアの前で足を止めた。
桐生がドアをノックする。
「御坂お姉様を連れてまいりました」
電子ロックが作動する音が鳴り、ドアが開かれた。
そこに立っていたのメイド服姿の少女。フワフワとした栗色の髪に大きな栗色の瞳。頭を大きく下げる。
「あ、御坂お姉様。初めまして。わたくし、一年の剣多風水と申します。どうぞ、こちらに」
その物腰はまるで本物のメイドのようだった。なぜ、常盤台中学の生徒がメイド服などを着用しているのか。だが御坂の注目はそこではなかった。
一年!?と御坂美琴はギョッとした。彼女のある部分を凝視して。
それは胸。メイド服を着用し多少は着やせしているようだが、彼女の豊満な膨らみは隠しきれていない。
発展途上の彼女にとって、下級生との大きなギャップは、彼女のコンプレックスを刺激するには十分な威力があった。
(D、いやそれ以上ね…)
そんな御坂美琴の心中を余所に、二人のやりとりは終えた。
「では、わたくしはこれで」
桐生は深くお辞儀をするとその場を立ち去って行った。
その物腰はまるで本物のメイドのようだった。なぜ、常盤台中学の生徒がメイド服などを着用しているのか。だが御坂の注目はそこではなかった。
一年!?と御坂美琴はギョッとした。彼女のある部分を凝視して。
それは胸。メイド服を着用し多少は着やせしているようだが、彼女の豊満な膨らみは隠しきれていない。
発展途上の彼女にとって、下級生との大きなギャップは、彼女のコンプレックスを刺激するには十分な威力があった。
(D、いやそれ以上ね…)
そんな御坂美琴の心中を余所に、二人のやりとりは終えた。
「では、わたくしはこれで」
桐生は深くお辞儀をするとその場を立ち去って行った。
御坂美琴は部屋に足を踏み入れた。
部屋の構造はどの部屋もあまり変わらない。
部屋の構造はどの部屋もあまり変わらない。
しかし、この一室だけは違った。
他の部屋よりもはるかに大きい空間。西洋式の椅子やテーブル、絵画。
一面に漂うのは薔薇の香り。
その一室の中央に佇んでいる少女がいた。
一面に漂うのは薔薇の香り。
その一室の中央に佇んでいる少女がいた。
絹のように美しい漆黒の長髪に、深遠な黒い瞳。
洋式の椅子に優雅に腰掛け、御坂に微笑みかける。窓から差し込む日差しに照らされた姿はまるで一枚の絵のよう。
「ごきげんよう。御坂さん」
「ごきげんよう。至宝院お姉様」
「ごきげんよう。至宝院お姉様」
至宝院 久蘭(しほういん くらん)
常盤台中学3年生。学園都市第五位の『超能力者(レベル5)』。
常盤台中学の派閥の中で最も勢力のある久蘭派閥の当主である。
年齢は御坂美琴と同じだが、飛び級して学年が一つ上である。また史上最強の『心理掌握(メンタルアウト)』の能力を有し、父は統括理事会の重鎮、常盤台中学学長を母に持つ彼女はまさしく学園都市最高位のサラブレット。
常盤台中学3年生。学園都市第五位の『超能力者(レベル5)』。
常盤台中学の派閥の中で最も勢力のある久蘭派閥の当主である。
年齢は御坂美琴と同じだが、飛び級して学年が一つ上である。また史上最強の『心理掌握(メンタルアウト)』の能力を有し、父は統括理事会の重鎮、常盤台中学学長を母に持つ彼女はまさしく学園都市最高位のサラブレット。
通称『黒の女帝(ザ クイーン)』
絹のように可憐な黒い長髪に深い漆黒の瞳、整った顔立ちに気品溢れる物腰。その風貌は常盤台の制服がすさんで見えるほどの美少女。いつも常盤台中学指定外の黒いマントを羽織っていることから名付けられた。
名実ともに常盤台中学に君臨する女王サマ。
名実ともに常盤台中学に君臨する女王サマ。
「要件は何かしら。これから用事があるので手短に済ませてもらいのですけれども」
「あらあら、そんなに急かさなくても良いではありませんか。席にお座りなって。今、紅茶を入れますから。オレンジペコはいかが?」
「…ええ、ありがたく頂戴するわ」
そう言うとメイド服の少女がテーブルに高級感溢れるカップを置いて、紅茶を注ぎはじめた。漂うのは仄かな蜜柑の香り。紅茶は香りを楽しむ飲み物だ。
ひとくち、口につけた。
香りといい、風味といい、そこらで販売されている紅茶ではない。
「お気に召したかしら?」
にっこりと、一枚の絵になるような優雅さで微笑んた。
確かに美味しい。御坂美琴もお嬢様だ。にっこりと微笑み返す。上条が見ればゾッとする作り笑顔で。
「で、お話というのは何かしら」
御坂美琴は内面を取り繕わずに、率直に述べた。
「うふふ、せっかちね。美琴さんは。まあいいでしょう。実は、貴女に頼みごとをお願いしたいのです」
「…恐ろしく意外ね。貴女が私に頼みごとなんて、どういう風の吹きまわしかしら」
「いえ、これは取引ですよ。御坂さん」
「…貴女に借りを作った覚えは無いけれど」
「あらあら、そんなに急かさなくても良いではありませんか。席にお座りなって。今、紅茶を入れますから。オレンジペコはいかが?」
「…ええ、ありがたく頂戴するわ」
そう言うとメイド服の少女がテーブルに高級感溢れるカップを置いて、紅茶を注ぎはじめた。漂うのは仄かな蜜柑の香り。紅茶は香りを楽しむ飲み物だ。
ひとくち、口につけた。
香りといい、風味といい、そこらで販売されている紅茶ではない。
「お気に召したかしら?」
にっこりと、一枚の絵になるような優雅さで微笑んた。
確かに美味しい。御坂美琴もお嬢様だ。にっこりと微笑み返す。上条が見ればゾッとする作り笑顔で。
「で、お話というのは何かしら」
御坂美琴は内面を取り繕わずに、率直に述べた。
「うふふ、せっかちね。美琴さんは。まあいいでしょう。実は、貴女に頼みごとをお願いしたいのです」
「…恐ろしく意外ね。貴女が私に頼みごとなんて、どういう風の吹きまわしかしら」
「いえ、これは取引ですよ。御坂さん」
「…貴女に借りを作った覚えは無いけれど」
「…わたくしに借りが必要で?」
「…ッ!」
御坂美琴は言葉を詰まらせた。
至宝院久蘭は読心術のエキスパートである。
彼女は心理言語学、認知学、記憶学、脳医学、行動学、読唇術、交渉術など基礎から応用まで幅広い『心理学』に精通している。
『人の心』について、この学園都市に彼女の右に出る者はいない。
借りが有る無しではない。人の記憶の解読が出来る時点で、すでに『弱み』を握られているのも同然なのだ。だからこそ彼女には逆らえない。その上、人の心理を知り尽くした彼女には『能力』を使わずとも、話術だけでも人を掌握できるほどの優れた技能を持っている。何気無い仕草でも、交渉において、その行動の一つ一つに意味があるのだ。
ここで断りを入れれば一体どうなるのか予想もつかない。その上、御坂美琴と同じ地位に君臨する彼女に脅迫に近い『頼み事』をしているのだ。ただ事ではない。
「…前にも言ったけど、貴方の派閥に参加するのはお断りよ」
不快感を露わにしながら、御坂美琴は言葉を紡いだ。
彼女はただの中学生ではない。精神年齢は高齢の学園理事会に匹敵する知性と冷静さを兼ね備えている。
御坂美琴は言葉を詰まらせた。
至宝院久蘭は読心術のエキスパートである。
彼女は心理言語学、認知学、記憶学、脳医学、行動学、読唇術、交渉術など基礎から応用まで幅広い『心理学』に精通している。
『人の心』について、この学園都市に彼女の右に出る者はいない。
借りが有る無しではない。人の記憶の解読が出来る時点で、すでに『弱み』を握られているのも同然なのだ。だからこそ彼女には逆らえない。その上、人の心理を知り尽くした彼女には『能力』を使わずとも、話術だけでも人を掌握できるほどの優れた技能を持っている。何気無い仕草でも、交渉において、その行動の一つ一つに意味があるのだ。
ここで断りを入れれば一体どうなるのか予想もつかない。その上、御坂美琴と同じ地位に君臨する彼女に脅迫に近い『頼み事』をしているのだ。ただ事ではない。
「…前にも言ったけど、貴方の派閥に参加するのはお断りよ」
不快感を露わにしながら、御坂美琴は言葉を紡いだ。
彼女はただの中学生ではない。精神年齢は高齢の学園理事会に匹敵する知性と冷静さを兼ね備えている。
非公式で『警備員(アンチスキル)』や『風紀委員(ジャッジメント)』、はたまた国際議会においても協力を仰がれている彼女にとって、年頃の少女の精神状態などいとも簡単に看破されてしまう。彼女の前で、下手なお世辞など何の意味もなさないのだ。だからこそ御坂美琴は本心を包み隠さず喋るのだ。
「分かっていますよ。御坂さん。そのような頼みごとではありませんし、危険なものでもありません。貴女が派閥抗争を嫌悪しているのは知っていますもの」
そう言って、久蘭は紅茶に口をつけた。年に不相応な洗練された上品な振る舞い。御坂美琴も女の子だ。その可憐な仕草に目を引かれた。少しでも常盤台の授業で『儀礼』を学んでいるからこそ、彼女の優秀さが理解できる。
そう言って、久蘭は紅茶に口をつけた。年に不相応な洗練された上品な振る舞い。御坂美琴も女の子だ。その可憐な仕草に目を引かれた。少しでも常盤台の授業で『儀礼』を学んでいるからこそ、彼女の優秀さが理解できる。
「風水。あれを」
そういうと、メイド姿の下級生はリボンで結ばれた一枚の丸められた用紙を御坂の前に置いた。手触りだけで、この用紙がいかに高級なものかが伺えた。
「わたくし、ある恩方を探していますの」
恩方?と御坂は首をかしげた。
「その恩方です」
差し出されたもののリボンをほどき、一枚のモンタージュを一目見て、
そういうと、メイド姿の下級生はリボンで結ばれた一枚の丸められた用紙を御坂の前に置いた。手触りだけで、この用紙がいかに高級なものかが伺えた。
「わたくし、ある恩方を探していますの」
恩方?と御坂は首をかしげた。
「その恩方です」
差し出されたもののリボンをほどき、一枚のモンタージュを一目見て、
御坂美琴は絶句した。
そこには似顔絵があった。超見覚えのある少年の顔が。
ツンツンした黒髪に鋭い目つき。多少美形になっているのは気のせいだろうか。
「わたくし、自分自身の記憶を辿ることはできないので、同じ系統の能力を持つ二年の柊さんから読み取ってもらいましたの。彼女はわたくしの次に優秀な方なので記憶の誤差はあまり生じていないと思うのですけれど…」
「あ、貴女のような方がなぜ、このような不釣り合いの男性を気にかけるのかしら?」
両手でその用紙を握り、ワナワナと震えていた。御坂は言葉が上擦わらないように取り繕うので精一杯だった。
「大覇星祭の「玉投げ」の際に、危うく大怪我をするところを助けていただきました。そのお礼がしたいのです」
「…助けてもらった?」
「はい。わたくし、『超能力者(レベル5)』といっても戦闘に関しては全くの無能力者。激戦の中、皆と逸れてしまったわたしは一人取り残されてしまいました。土の槍は迫ってくる上にカゴが私に倒れこんできたその時、その方は敵であるにも関わらず身を呈してわたくしを助けてくださったのです」
そもそも『敵』ですらない。
「あの時に参加した学校の生徒を全て洗い出したというのに発見できませんでした」
それはそうだろう、と御坂は心中で呟いた。勝手に上条があの会場に紛れ込んできたのだ。
その時の参加校のリストを照らし合わせてもあのバカが見つかるわけがない、と。
「その方の勇敢な後ろ姿と、強い意志の宿ったその瞳。今だ脳裏に焼き付いて離れません」
「そして思いましたわ。あの方はわたくしの白馬の王子様なのだと」
「……」
御坂美琴は口を紡ぐしかなかった。
ツンツンした黒髪に鋭い目つき。多少美形になっているのは気のせいだろうか。
「わたくし、自分自身の記憶を辿ることはできないので、同じ系統の能力を持つ二年の柊さんから読み取ってもらいましたの。彼女はわたくしの次に優秀な方なので記憶の誤差はあまり生じていないと思うのですけれど…」
「あ、貴女のような方がなぜ、このような不釣り合いの男性を気にかけるのかしら?」
両手でその用紙を握り、ワナワナと震えていた。御坂は言葉が上擦わらないように取り繕うので精一杯だった。
「大覇星祭の「玉投げ」の際に、危うく大怪我をするところを助けていただきました。そのお礼がしたいのです」
「…助けてもらった?」
「はい。わたくし、『超能力者(レベル5)』といっても戦闘に関しては全くの無能力者。激戦の中、皆と逸れてしまったわたしは一人取り残されてしまいました。土の槍は迫ってくる上にカゴが私に倒れこんできたその時、その方は敵であるにも関わらず身を呈してわたくしを助けてくださったのです」
そもそも『敵』ですらない。
「あの時に参加した学校の生徒を全て洗い出したというのに発見できませんでした」
それはそうだろう、と御坂は心中で呟いた。勝手に上条があの会場に紛れ込んできたのだ。
その時の参加校のリストを照らし合わせてもあのバカが見つかるわけがない、と。
「その方の勇敢な後ろ姿と、強い意志の宿ったその瞳。今だ脳裏に焼き付いて離れません」
「そして思いましたわ。あの方はわたくしの白馬の王子様なのだと」
「……」
御坂美琴は口を紡ぐしかなかった。
「…それで、何を私に頼みたいのかしら?」
「!!その方、上条当麻様というのですね!」
「ッ!お姉様!貴女、私の記憶を!」
「んふふ、そうですか。美琴さんの知り合いでしたの。うふふ、なんて素敵な方」
「…勝手にサイコメトリーするなんて!お姉様、貴女はご存じのはずでしょう!?これは違法行為ですよ!」
「申し訳ありません、美琴さん。でも許してくださいませ。わたくしはあの方に是が非でもお会いしたいのです。わたくしを救ってくれた王子様に。わたくしの恋が成就した暁には、この無礼、全身全霊をもって返上させていただきます」
御坂美琴はまたもや驚愕した。
「…こ、ここ、恋!?」
「っ!?ああっ、恥ずかしい!わたくしったら、もう!」
ハッと口に手をあて、瞳を潤ませながら頬を染める彼女。その表情は同性の御坂ですら可愛いと思ってしまった。
「そう。……恋、ですの」
「!!その方、上条当麻様というのですね!」
「ッ!お姉様!貴女、私の記憶を!」
「んふふ、そうですか。美琴さんの知り合いでしたの。うふふ、なんて素敵な方」
「…勝手にサイコメトリーするなんて!お姉様、貴女はご存じのはずでしょう!?これは違法行為ですよ!」
「申し訳ありません、美琴さん。でも許してくださいませ。わたくしはあの方に是が非でもお会いしたいのです。わたくしを救ってくれた王子様に。わたくしの恋が成就した暁には、この無礼、全身全霊をもって返上させていただきます」
御坂美琴はまたもや驚愕した。
「…こ、ここ、恋!?」
「っ!?ああっ、恥ずかしい!わたくしったら、もう!」
ハッと口に手をあて、瞳を潤ませながら頬を染める彼女。その表情は同性の御坂ですら可愛いと思ってしまった。
「そう。……恋、ですの」
その言葉に、ガシャーン!と、メイド服の少女はお菓子を乗せていた皿を取り落とした。
絶句する御坂美琴。呆然とする剣多風水。羞恥心で顔を真っ赤にした至宝院久蘭。
絶句する御坂美琴。呆然とする剣多風水。羞恥心で顔を真っ赤にした至宝院久蘭。
今ここに、一人の少年を巡る常盤台嬢の恋愛競争が、幕を開ける。