「知りたいですか?」
唐突な第三者の声に、御坂美琴と白井黒子は口を噤んだ。
声の聞こえた方向に目をやると、一人の少女が立っていた。
絹のように麗しい漆黒の長髪に、深遠な黒い眼差し。それとは対照的に透き通るような白い肌。黒一色のコートを羽織る長点上機学園の女子生徒。
名を至宝院久蘭。長点上機学園高等部一年生。御坂美琴と同位にたつ『超能力者(レベル5)』の第三位。
「お姉様!?」「久蘭お姉様!?」「ああ、何とお美しい!」「あれが久蘭お姉様…」「長点上機学園の制服もお似合いで…」などと周囲の常盤台中学の女子生徒から黄色い声が上がった。
「皆、お下がりなさい」
その言葉一つで、騒ぎ立てる常盤台中学の生徒を制した。
熱い眼差しを送りつつも、無言で久蘭にお辞儀をして身を引く女子生徒たち。
唐突な第三者の声に、御坂美琴と白井黒子は口を噤んだ。
声の聞こえた方向に目をやると、一人の少女が立っていた。
絹のように麗しい漆黒の長髪に、深遠な黒い眼差し。それとは対照的に透き通るような白い肌。黒一色のコートを羽織る長点上機学園の女子生徒。
名を至宝院久蘭。長点上機学園高等部一年生。御坂美琴と同位にたつ『超能力者(レベル5)』の第三位。
「お姉様!?」「久蘭お姉様!?」「ああ、何とお美しい!」「あれが久蘭お姉様…」「長点上機学園の制服もお似合いで…」などと周囲の常盤台中学の女子生徒から黄色い声が上がった。
「皆、お下がりなさい」
その言葉一つで、騒ぎ立てる常盤台中学の生徒を制した。
熱い眼差しを送りつつも、無言で久蘭にお辞儀をして身を引く女子生徒たち。
「今、外では大規模な戦闘が展開されています」
「魔術側との戦い?…もしかして、また『戦争』を起こす気なの!?魔術師達は!」
「いいえ」
「これはたった二人の能力者の戦いです」
「『絶対能力者(レベル6)』同士の争い。それはもはや喧嘩と呼べるものでありません」
「魔術側との戦い?…もしかして、また『戦争』を起こす気なの!?魔術師達は!」
「いいえ」
「これはたった二人の能力者の戦いです」
「『絶対能力者(レベル6)』同士の争い。それはもはや喧嘩と呼べるものでありません」
「これは――――――――――――――――――――――――――――――『戦争』です」
御坂美琴は至宝院久蘭に目を向けた。
全てを飲み込むような漆黒の瞳。彼女の眼を見ていると、心の全てを見透かされるような感覚に捕らわれてしまう。
実際に、その通りなのである。
「これから当麻様のところへ赴くのでしょう?」
久蘭は微笑みを讃え、軽く首を傾けた。じっと御坂美琴を見続けていた。
「…ええ」
御坂美琴は、強い意志が宿った表情で頷いた。
「お、お姉様?正気ですか!?外は今、『第一級警報(コードレッド)』が敷かれていますのよ!?それを無視すれば反省文どころでは済みませんわ!」
ツインテールの少女が揺れた。愛しのお姉様の行動が理解できなかったのだ。確かに彼女の心中は痛いほど分かる。しかし、いくら彼女が『超能力者(レベル5)』の第一位と言えど、相手はお姉様の恋人であり、また学園都市最強の『絶対能力者(レベル6)』である少年。その上、今回の出来事は私情を挟めるレベルでは無い。
そもそも『絶対能力者(レベル6)』と『超能力者(レベル5)』が別々に順位を付けられている時点で、両者には絶対的な隔たりがあるのだ。
久蘭が言う『戦争』という言葉も決して的外れな表現では無い。半年前に起こった魔術側との『戦争』を食い止めたのは他ならぬ『絶対能力者(レベル6)』の上条当麻なのである。『一方通行(アクセラレータ)』を含めた『絶対能力者(レベル6)』の二人無くしては、先の『戦争』は停戦どころか『学園都市』側の敗北を喫していたのかもしれないのだ。たった二人で、学園都市に匹敵する大勢力と渡り合える力を持つ能力者(カイブツ)。その二人の争いの中に飛び込んでいくことなど自殺行為に等しい。今年になって発表された『絶対能力者(レベル6)』の存在に、今一つ実感が湧かない大多数の人間よりも、上条当麻の実力を目の当たりにしている彼女だからこそ、そのことは誰よりも理解しているはずなのである。それを踏まえた上で、彼女は愛する者の所へ赴こうとしている。
彼女の心情を一番に理解していたのは、彼女を慕う白井黒子ではなく、同じ男性を愛する至宝院久蘭だった。
至宝院久蘭は御坂美琴に彼女が着ていたコートを羽織らせた。
「これを…」
「!!これって」
久蘭が常磐台中学に在籍していた時からいつも着用していたコート。地面に付きそうなくらい長いコートであり、見方によってはマントにも見える。彼女にとってこれがどのような物かを、どれだけ大切な物なのかを、御坂美琴は知っていた。
「美琴さんにはあまり必要ないかもしれませんけど、少しはお役にたてるかと思います」
「受け取れるワケ無いじゃない!これは…」
全てを飲み込むような漆黒の瞳。彼女の眼を見ていると、心の全てを見透かされるような感覚に捕らわれてしまう。
実際に、その通りなのである。
「これから当麻様のところへ赴くのでしょう?」
久蘭は微笑みを讃え、軽く首を傾けた。じっと御坂美琴を見続けていた。
「…ええ」
御坂美琴は、強い意志が宿った表情で頷いた。
「お、お姉様?正気ですか!?外は今、『第一級警報(コードレッド)』が敷かれていますのよ!?それを無視すれば反省文どころでは済みませんわ!」
ツインテールの少女が揺れた。愛しのお姉様の行動が理解できなかったのだ。確かに彼女の心中は痛いほど分かる。しかし、いくら彼女が『超能力者(レベル5)』の第一位と言えど、相手はお姉様の恋人であり、また学園都市最強の『絶対能力者(レベル6)』である少年。その上、今回の出来事は私情を挟めるレベルでは無い。
そもそも『絶対能力者(レベル6)』と『超能力者(レベル5)』が別々に順位を付けられている時点で、両者には絶対的な隔たりがあるのだ。
久蘭が言う『戦争』という言葉も決して的外れな表現では無い。半年前に起こった魔術側との『戦争』を食い止めたのは他ならぬ『絶対能力者(レベル6)』の上条当麻なのである。『一方通行(アクセラレータ)』を含めた『絶対能力者(レベル6)』の二人無くしては、先の『戦争』は停戦どころか『学園都市』側の敗北を喫していたのかもしれないのだ。たった二人で、学園都市に匹敵する大勢力と渡り合える力を持つ能力者(カイブツ)。その二人の争いの中に飛び込んでいくことなど自殺行為に等しい。今年になって発表された『絶対能力者(レベル6)』の存在に、今一つ実感が湧かない大多数の人間よりも、上条当麻の実力を目の当たりにしている彼女だからこそ、そのことは誰よりも理解しているはずなのである。それを踏まえた上で、彼女は愛する者の所へ赴こうとしている。
彼女の心情を一番に理解していたのは、彼女を慕う白井黒子ではなく、同じ男性を愛する至宝院久蘭だった。
至宝院久蘭は御坂美琴に彼女が着ていたコートを羽織らせた。
「これを…」
「!!これって」
久蘭が常磐台中学に在籍していた時からいつも着用していたコート。地面に付きそうなくらい長いコートであり、見方によってはマントにも見える。彼女にとってこれがどのような物かを、どれだけ大切な物なのかを、御坂美琴は知っていた。
「美琴さんにはあまり必要ないかもしれませんけど、少しはお役にたてるかと思います」
「受け取れるワケ無いじゃない!これは…」
「平気ですよ。もう一着ありますから」
「…はい?」
いつの間にか久蘭の隣には、黒いコートを携えた栗色のウエーブのかかった髪の常盤台の二年生、剣多風水が立っていた。彼女もまた、久蘭と同じ黒いコートを制服の上に着用している。
「お姉様、これを」
久蘭は絹のように美しい長髪を掻きあげ、前に下ろすと、風水は久蘭の後ろに回ってコートを羽織らせた。たとえ学校が離れようとも、久蘭派閥を二代目の当主となった風水は、いつまでも久蘭の従順な僕であり続けるらしい。
「ありがとう。風水」
久蘭は風水の手をとり、手の甲に軽くキスをした。ボン!と茹でタコのように顔を真っ赤にする剣多風水。その光景を薄い目で見つめる御坂美琴と目を輝かせて凝視する白井黒子。
「実は、これがわたくしのです。美琴さんが着ているのはわたくしが特注して作らせたもの。サイズはどうですか?合っているでしょう?」
そう言われてみれば、と御坂は思った。久蘭は御坂美琴より5センチほど身長が低い。久蘭に合わせて作られたのなら、若干小さく感じるはずだ。だが、自分が着てみて何の違和感も無かった。
いつ自分のサイズを知り得たのか、などとは聞くだけ無駄なのである。久蘭の持つ情報力に呆れる御坂美琴だった。
「心配してくれてありがとう、美琴さん。私はもう大丈夫だから…受け取ってくれるかしら?」
「…本当に、いいの?」
「ええ。それは貴女のために用意したんですから。そのコートも、美琴さんのことを気に入ってくれるわ」
至宝院久蘭の『お姉様』としてでは無く、『友人』としての笑顔。それに御坂も友人としての笑顔で答えた。
いつの間にか久蘭の隣には、黒いコートを携えた栗色のウエーブのかかった髪の常盤台の二年生、剣多風水が立っていた。彼女もまた、久蘭と同じ黒いコートを制服の上に着用している。
「お姉様、これを」
久蘭は絹のように美しい長髪を掻きあげ、前に下ろすと、風水は久蘭の後ろに回ってコートを羽織らせた。たとえ学校が離れようとも、久蘭派閥を二代目の当主となった風水は、いつまでも久蘭の従順な僕であり続けるらしい。
「ありがとう。風水」
久蘭は風水の手をとり、手の甲に軽くキスをした。ボン!と茹でタコのように顔を真っ赤にする剣多風水。その光景を薄い目で見つめる御坂美琴と目を輝かせて凝視する白井黒子。
「実は、これがわたくしのです。美琴さんが着ているのはわたくしが特注して作らせたもの。サイズはどうですか?合っているでしょう?」
そう言われてみれば、と御坂は思った。久蘭は御坂美琴より5センチほど身長が低い。久蘭に合わせて作られたのなら、若干小さく感じるはずだ。だが、自分が着てみて何の違和感も無かった。
いつ自分のサイズを知り得たのか、などとは聞くだけ無駄なのである。久蘭の持つ情報力に呆れる御坂美琴だった。
「心配してくれてありがとう、美琴さん。私はもう大丈夫だから…受け取ってくれるかしら?」
「…本当に、いいの?」
「ええ。それは貴女のために用意したんですから。そのコートも、美琴さんのことを気に入ってくれるわ」
至宝院久蘭の『お姉様』としてでは無く、『友人』としての笑顔。それに御坂も友人としての笑顔で答えた。
「ありがとう、久蘭。大切にするわ」
「そうでないと困ります。一着一〇〇〇万程しましたから♪」
ぶっ!と予想以上の値段に御坂美琴は吹いた。
「ちょ、これ!そんなにするの!?」
「ええ、デザインだけではなく、本来の役割もきちんと担っていますのでご安心くださいな。『命』はお金では買えませんから」
「…サラリとへヴィなことを言うわね」
美琴は若干頬を引きつらせつつも、笑顔を崩さない。ツインテールの少女は「これが一〇〇〇万もしますの?」と、目を丸くして、三人が羽織っているマントのように長い漆黒のコートを交互に眺めていた。
「美琴さんと当麻様はわたくしの命の恩人。あの時の借りはこれで返上ですわね」
御坂は袖を通すと、その場で一回転した。くるりとコートが靡く様は、常盤台中学で培われた御坂美琴の高貴さに、より一層、箔がついているように思われる。
「これ、似合うかしら?」
等身大の鏡が無く、自身の様子が分からない御坂は少しばかり恥ずかしがっていた。一般的に見ればよく似合っているのだが、自分自身で確認できなければ、やはり落ち着かないものである。周囲の常盤台生からも熱が籠った視線を浴びる。
「ええ、とっても。よくお似合いですわ」
「そ、そう?」
「…御坂女王様、とお呼びしてもよろしいですか?お姉様。というかわたくしの携帯の待ち受けにしてもよろしいですかよろしいですね!?」
「…私の寝顔の待ち受けよりはマシだからね。あとで写メ見せてよ」
カシャカシャカシャ!とあらゆる角度から撮り続けるツインテールの少女。また数人の常盤台生も御坂の姿を携帯で撮影していた。御坂美琴は白井を無視して一番近くにいた女子生徒に話しかける。
「ねえ、ちょっと見せてくれる?」
「え?あ、はい!どうぞ!」
手渡された携帯を御坂は覗き込んだ。先ほど撮られた画像を見て、少し首をかしげる。
「…うーん。なんか私のキャラと合ってないような気がするんだけど」
「でも、すごくお似合いですよ!久蘭お姉様に風水お姉様、それに御坂お姉様が並ぶとまさに壮観ですわ!」
「そう?ありがと♪」
御坂はそう言って、携帯電話を返した。携帯を受け取った少女が緊張しているのは丸分かりである。そんな態度を見て、御坂は苦笑いをした。
「お、お姉様!すでに三〇枚は撮りましたのよ!ああ~!もうこれは黒子のお姉様ベストショット10に堂々のランキング入りですわ!」
「……そう。よかったわね」
二人のやり取りを見ていた久蘭は、一言、口にした。
「そうでないと困ります。一着一〇〇〇万程しましたから♪」
ぶっ!と予想以上の値段に御坂美琴は吹いた。
「ちょ、これ!そんなにするの!?」
「ええ、デザインだけではなく、本来の役割もきちんと担っていますのでご安心くださいな。『命』はお金では買えませんから」
「…サラリとへヴィなことを言うわね」
美琴は若干頬を引きつらせつつも、笑顔を崩さない。ツインテールの少女は「これが一〇〇〇万もしますの?」と、目を丸くして、三人が羽織っているマントのように長い漆黒のコートを交互に眺めていた。
「美琴さんと当麻様はわたくしの命の恩人。あの時の借りはこれで返上ですわね」
御坂は袖を通すと、その場で一回転した。くるりとコートが靡く様は、常盤台中学で培われた御坂美琴の高貴さに、より一層、箔がついているように思われる。
「これ、似合うかしら?」
等身大の鏡が無く、自身の様子が分からない御坂は少しばかり恥ずかしがっていた。一般的に見ればよく似合っているのだが、自分自身で確認できなければ、やはり落ち着かないものである。周囲の常盤台生からも熱が籠った視線を浴びる。
「ええ、とっても。よくお似合いですわ」
「そ、そう?」
「…御坂女王様、とお呼びしてもよろしいですか?お姉様。というかわたくしの携帯の待ち受けにしてもよろしいですかよろしいですね!?」
「…私の寝顔の待ち受けよりはマシだからね。あとで写メ見せてよ」
カシャカシャカシャ!とあらゆる角度から撮り続けるツインテールの少女。また数人の常盤台生も御坂の姿を携帯で撮影していた。御坂美琴は白井を無視して一番近くにいた女子生徒に話しかける。
「ねえ、ちょっと見せてくれる?」
「え?あ、はい!どうぞ!」
手渡された携帯を御坂は覗き込んだ。先ほど撮られた画像を見て、少し首をかしげる。
「…うーん。なんか私のキャラと合ってないような気がするんだけど」
「でも、すごくお似合いですよ!久蘭お姉様に風水お姉様、それに御坂お姉様が並ぶとまさに壮観ですわ!」
「そう?ありがと♪」
御坂はそう言って、携帯電話を返した。携帯を受け取った少女が緊張しているのは丸分かりである。そんな態度を見て、御坂は苦笑いをした。
「お、お姉様!すでに三〇枚は撮りましたのよ!ああ~!もうこれは黒子のお姉様ベストショット10に堂々のランキング入りですわ!」
「……そう。よかったわね」
二人のやり取りを見ていた久蘭は、一言、口にした。
「さてと、では美琴さんには一体何をしてもらいましょうか?」
「はい?」
久蘭の発言に首を傾げる御坂美琴。そんな美琴の表情に、久蘭はよりいっそう笑みを浮かべた。
「美琴さんにあるわたくしの『貸し』についてですわ」
「……お姉様?私、いつ貴女に貸しをつくりましたっけ?」
「あら?先ほどの情報料は別枠でしてよ?」
「何の屁理屈ですか?久蘭お姉様。わたし、そんなことで借りを作ったなんて認めませんわよ」
御坂の額に嫌な汗が流れ落ちる。含み笑いを浮かべる意地悪い笑顔。こういう表情をしている久蘭は手に負えないのだ。
「そんなことをおっしゃってもよろしいのかしらー?美琴さん?」
「な、なんのことかしら?」
久蘭は美琴の傍に駆け寄り、耳打ちした。
久蘭の発言に首を傾げる御坂美琴。そんな美琴の表情に、久蘭はよりいっそう笑みを浮かべた。
「美琴さんにあるわたくしの『貸し』についてですわ」
「……お姉様?私、いつ貴女に貸しをつくりましたっけ?」
「あら?先ほどの情報料は別枠でしてよ?」
「何の屁理屈ですか?久蘭お姉様。わたし、そんなことで借りを作ったなんて認めませんわよ」
御坂の額に嫌な汗が流れ落ちる。含み笑いを浮かべる意地悪い笑顔。こういう表情をしている久蘭は手に負えないのだ。
「そんなことをおっしゃってもよろしいのかしらー?美琴さん?」
「な、なんのことかしら?」
久蘭は美琴の傍に駆け寄り、耳打ちした。
「大覇星祭の三日目の昼休みと五日目の夜…」
「っ!!!」
御坂美琴は絶句した。
「…の時のことは黙っておいて差し上げますわ」
「な、な、な…」
「……当麻様って、コスチュームよりもシチュエーションにこだわるのかしら?」
「ぜーったい、黙っときなさいよアンタ!!も、ももももしその事を誰かに告げ口したら…」
「分かってますわよ。『可愛い可愛い美琴』さ・ん?」
唇を大きく裂いて悪質な笑顔を作る久蘭。もはや御坂になす術は無かった。一番の弱みを握られてしまった。一番握られたくないヤツに。
「…この借りはいずれ返すわ。久・蘭・お・姉・様?」
「では、当麻様とのデート一回で手を打ちましょう♪」
ビキリ!と眉間にしわを寄せる御坂美琴。
「おーねえーさまー?…まだあきらめてないんですかー?私と当麻は…」
御坂美琴は絶句した。
「…の時のことは黙っておいて差し上げますわ」
「な、な、な…」
「……当麻様って、コスチュームよりもシチュエーションにこだわるのかしら?」
「ぜーったい、黙っときなさいよアンタ!!も、ももももしその事を誰かに告げ口したら…」
「分かってますわよ。『可愛い可愛い美琴』さ・ん?」
唇を大きく裂いて悪質な笑顔を作る久蘭。もはや御坂になす術は無かった。一番の弱みを握られてしまった。一番握られたくないヤツに。
「…この借りはいずれ返すわ。久・蘭・お・姉・様?」
「では、当麻様とのデート一回で手を打ちましょう♪」
ビキリ!と眉間にしわを寄せる御坂美琴。
「おーねえーさまー?…まだあきらめてないんですかー?私と当麻は…」
「うふ♪わたくし、他の女性と肉体関係を持ったところで諦めるような恋をした覚えはないですので♪」
正々堂々と、満面の笑顔で久蘭は試合続行宣言をした。
「なっっ―――ッ!!?」
強烈な爆弾宣言に絶句する御坂美琴。「に、肉体関係?み、御坂お姉様が?」などと顔を真っ赤にして剣多風水は呟いていた。箱入り娘の彼女にとっては刺激が強すぎる内容だったらしい。
強烈な爆弾宣言に絶句する御坂美琴。「に、肉体関係?み、御坂お姉様が?」などと顔を真っ赤にして剣多風水は呟いていた。箱入り娘の彼女にとっては刺激が強すぎる内容だったらしい。
言葉を詰まらせる御坂を見据え、久蘭は真剣な表情で、その場の空気を破った。
「でも、今、当麻様に何かしてあげられるのは他ならぬ貴女だけです」
鋭い視線が御坂美琴を射抜く。ハッと我に返った御坂はその視線を真っ向から受け止めた。
「ですから、お願いします」
久蘭は大きく頭を下げた。
周囲の常盤台生はギョッとした。
常盤台中学を卒業してもなおその名前と影響力がある久蘭お姉様が、学年が一つ下の御坂美琴に頭を下げているのだ。その異様さに皆は動揺を隠しきれなかった。
「…頭をお上げください。久蘭、お姉様」
久蘭の深淵な黒い瞳が、美琴の顔じっとを見つめる。
御坂は久蘭に何と言葉をかけていいか思いつかなった。
そんな思いは久蘭の声に遮られる。
「風水」
「はい。お姉様」
「協力してくれるわよね?」
「もちろんです」
背後で風水は了解の会釈をする。
「今から、常盤台中学の生徒と教職員に『御坂さんはずっとここに居た』という暗示をかけます。風水の派閥の方々は協力してくれるので操作はしませんが、いいかしら?」
「…ええ、お願いするわ」
「これで当麻様は一日中ずっと貸していただきますので♪」
「ぐっ!」と、歯ぎしりする御坂美琴。
「それで、黒子さんはどうします?」
美琴、久蘭、風水の三人の視線が白井に集まった。
やれやれ、と白井はため息をつくと当たり前のように返事をした。
「何を言っていますの?わたくしも行くに決まってるじゃありませんか。久蘭お姉様」
「黒子…アンタ、分かってんの?」
行動を共にすれば、間違いなく白井黒子は『風紀委員(ジャッジメント)』を辞めなければならなくなる。だが、白井黒子に迷いは無い。
「わたくしはどんな事があろうともお姉様についていきます。お姉様の傍が、わたくしの居場所ですから」
ストレートすぎる黒子の言葉に、御坂は今更ながら黒子の存在の大きさを実感した。久蘭と風水も目を見合わせて微笑んでいる。
「…ありがとう。黒子」
「では、お姉様とのデート一回で手を打ちましょう♪」
予想通りの反応に、御坂美琴は大きなため息をついた。けれど今回は仕方がない。自分のワガママに付き合ってくれるのだ。いざという時に頼りになる後輩に、美琴は笑顔で返事をした。
「…分かったわ。約束するわよ」
思いもよらぬOKの返事にワナワナと体を振るわせ、キラキラと瞳を輝かせる白井黒子。
「ほ、ほほほほ本当ですのお姉様!?うふえへあはー!!夜は絶ーっ対、お姉様を寝かせたりはしませんわよ!覚悟してくださいませ!」
「な、何をする気なの!?黒子!あんまりベタベタすると電撃を喰らわせるわよ!」
「あらー?当麻さんにはあんなことやこんなことをされても文句一つも言わないのに、私にはお姉様とのスキンシップも制限されますのーん?」
「でも、今、当麻様に何かしてあげられるのは他ならぬ貴女だけです」
鋭い視線が御坂美琴を射抜く。ハッと我に返った御坂はその視線を真っ向から受け止めた。
「ですから、お願いします」
久蘭は大きく頭を下げた。
周囲の常盤台生はギョッとした。
常盤台中学を卒業してもなおその名前と影響力がある久蘭お姉様が、学年が一つ下の御坂美琴に頭を下げているのだ。その異様さに皆は動揺を隠しきれなかった。
「…頭をお上げください。久蘭、お姉様」
久蘭の深淵な黒い瞳が、美琴の顔じっとを見つめる。
御坂は久蘭に何と言葉をかけていいか思いつかなった。
そんな思いは久蘭の声に遮られる。
「風水」
「はい。お姉様」
「協力してくれるわよね?」
「もちろんです」
背後で風水は了解の会釈をする。
「今から、常盤台中学の生徒と教職員に『御坂さんはずっとここに居た』という暗示をかけます。風水の派閥の方々は協力してくれるので操作はしませんが、いいかしら?」
「…ええ、お願いするわ」
「これで当麻様は一日中ずっと貸していただきますので♪」
「ぐっ!」と、歯ぎしりする御坂美琴。
「それで、黒子さんはどうします?」
美琴、久蘭、風水の三人の視線が白井に集まった。
やれやれ、と白井はため息をつくと当たり前のように返事をした。
「何を言っていますの?わたくしも行くに決まってるじゃありませんか。久蘭お姉様」
「黒子…アンタ、分かってんの?」
行動を共にすれば、間違いなく白井黒子は『風紀委員(ジャッジメント)』を辞めなければならなくなる。だが、白井黒子に迷いは無い。
「わたくしはどんな事があろうともお姉様についていきます。お姉様の傍が、わたくしの居場所ですから」
ストレートすぎる黒子の言葉に、御坂は今更ながら黒子の存在の大きさを実感した。久蘭と風水も目を見合わせて微笑んでいる。
「…ありがとう。黒子」
「では、お姉様とのデート一回で手を打ちましょう♪」
予想通りの反応に、御坂美琴は大きなため息をついた。けれど今回は仕方がない。自分のワガママに付き合ってくれるのだ。いざという時に頼りになる後輩に、美琴は笑顔で返事をした。
「…分かったわ。約束するわよ」
思いもよらぬOKの返事にワナワナと体を振るわせ、キラキラと瞳を輝かせる白井黒子。
「ほ、ほほほほ本当ですのお姉様!?うふえへあはー!!夜は絶ーっ対、お姉様を寝かせたりはしませんわよ!覚悟してくださいませ!」
「な、何をする気なの!?黒子!あんまりベタベタすると電撃を喰らわせるわよ!」
「あらー?当麻さんにはあんなことやこんなことをされても文句一つも言わないのに、私にはお姉様とのスキンシップも制限されますのーん?」
「…別にいいじゃない。付き合ってるんだから」
御坂美琴は頬を真っ赤に染めながら、黒子と目を逸らした。
御坂美琴は頬を真っ赤に染めながら、黒子と目を逸らした。
「って、お姉様ああああああああああ!?カマかけてみただけなのに、も、もうそこまで進んでますの!?
フッ、あンの若造が!!きいいいいいいいいっ!もう『絶対能力者(レベル6)』なんて関係ありませんわ!第一七七支部の『風紀委員(ジャッジメント)』ことこの白井黒子が不純異性交遊の罪で抹殺(ころ)します!!
さあ、行きますわよ、お姉様!!首を洗って待っていやがれですの!あの類人猿がああああああああ!!」
「ちょ、ちょっと!黒子ってば、待ちなさいよー!!」
鬼のような形相で『空間移動(テレポート)』をしながら、いち早く非常エレベータに向かう白井。御坂は慌てて彼女の後を追った。
フッ、あンの若造が!!きいいいいいいいいっ!もう『絶対能力者(レベル6)』なんて関係ありませんわ!第一七七支部の『風紀委員(ジャッジメント)』ことこの白井黒子が不純異性交遊の罪で抹殺(ころ)します!!
さあ、行きますわよ、お姉様!!首を洗って待っていやがれですの!あの類人猿がああああああああ!!」
「ちょ、ちょっと!黒子ってば、待ちなさいよー!!」
鬼のような形相で『空間移動(テレポート)』をしながら、いち早く非常エレベータに向かう白井。御坂は慌てて彼女の後を追った。
(二日目)10時39分。
第二三学区。
航空、宇宙産業を専門とする学区であり、他にも軍事関係の施設、企業が立ち並び、学園都市の生徒に内部構造はあまり知られていない。
普段は企業関係者が多く行きかう航空ターミナルへの巨大ブリッジ。しかし今は、誰一人ともおらず、一部の風力発電のプロペラの音だけが鈍く響く不気味な静寂さが漂っていた。
その中心に白髪の少年はいた。
強く胸を抑えていた。体からは恐怖感から来る汗と、口元からは鮮血が滴り落ちている。
「はあ、はあ、ぐっ、がはッ!」
(無理しないで!ってミサカはミサカは命にかかわる危険性を訴えてみる!)
「バカ野郎。無理やり痛覚の電気信号を抑えてると、一気に受信してショック死しちまんだよ。少しは流しとけ。温度まで感じなくなっちまうと後が怖ェからな」
(でもでも、さっきの『白い羽』のせいで体がボロボロなんだよ!左腕の二の腕は14センチの裂傷。肋骨は5本骨折してるし、動脈だって傷ついてる!ってミサカはミサカは貴方の体の状況を報告してみる!)
「…ンな事は分かってんだ。体内の『ベクトル操作』は任せたぜ。激痛が走ると演算に支障をきたしちまう」
膝に手をつき、体を起こした。先ほどまでの痛みが引いていく。『打ち止め(ラストオーダー)』が痛覚の電気信号を『ベクトル操作』で抑えたのだ。白髪の少年は口に溜まった血を吐き捨てると、体の動作確認をした。
(…痛覚を止めたってことは『感覚』が無くなってるってことだ。体を動かしてる『感覚』はあンだが、服を触ってる『触感』が無え)
「ラストオーダー。あとどのくらいだ?」
(すでに全治二か月程度の負傷。これ以上怪我をすると緊急手術をしても危ないかも。特に胸部のダメージは注意して。さっきの怪我で、腎臓と肺を傷つけてるからってミサカはミサカは貴方が私の言うことを聞かないのを了解しつつも、冷静に貴方に警告してしてみたり)
「へッ、うッせ」
『一方通行(アクセラレータ)』は口元を歪ませた。その唇からまたもや血が流れているのに気付かないまま。
第二三学区。
航空、宇宙産業を専門とする学区であり、他にも軍事関係の施設、企業が立ち並び、学園都市の生徒に内部構造はあまり知られていない。
普段は企業関係者が多く行きかう航空ターミナルへの巨大ブリッジ。しかし今は、誰一人ともおらず、一部の風力発電のプロペラの音だけが鈍く響く不気味な静寂さが漂っていた。
その中心に白髪の少年はいた。
強く胸を抑えていた。体からは恐怖感から来る汗と、口元からは鮮血が滴り落ちている。
「はあ、はあ、ぐっ、がはッ!」
(無理しないで!ってミサカはミサカは命にかかわる危険性を訴えてみる!)
「バカ野郎。無理やり痛覚の電気信号を抑えてると、一気に受信してショック死しちまんだよ。少しは流しとけ。温度まで感じなくなっちまうと後が怖ェからな」
(でもでも、さっきの『白い羽』のせいで体がボロボロなんだよ!左腕の二の腕は14センチの裂傷。肋骨は5本骨折してるし、動脈だって傷ついてる!ってミサカはミサカは貴方の体の状況を報告してみる!)
「…ンな事は分かってんだ。体内の『ベクトル操作』は任せたぜ。激痛が走ると演算に支障をきたしちまう」
膝に手をつき、体を起こした。先ほどまでの痛みが引いていく。『打ち止め(ラストオーダー)』が痛覚の電気信号を『ベクトル操作』で抑えたのだ。白髪の少年は口に溜まった血を吐き捨てると、体の動作確認をした。
(…痛覚を止めたってことは『感覚』が無くなってるってことだ。体を動かしてる『感覚』はあンだが、服を触ってる『触感』が無え)
「ラストオーダー。あとどのくらいだ?」
(すでに全治二か月程度の負傷。これ以上怪我をすると緊急手術をしても危ないかも。特に胸部のダメージは注意して。さっきの怪我で、腎臓と肺を傷つけてるからってミサカはミサカは貴方が私の言うことを聞かないのを了解しつつも、冷静に貴方に警告してしてみたり)
「へッ、うッせ」
『一方通行(アクセラレータ)』は口元を歪ませた。その唇からまたもや血が流れているのに気付かないまま。
少年の背後から足音がした。
ゆっくりと、白髪の少年は振り返った。全身の『方向(ベクトル)』を「反射」に切り替える。『一方通行(アクセラレータ)』の赤い瞳は一人の少年をとらえた。
『上条当麻』という、人の皮を被った『怪物(ドラゴン)』を。
多くの人で混雑する幅一五メートルの階段も今は無人。その中心を、下りてくる。悠然とした態度で歩調は乱れない。
服装は白いYシャツに胸元からは赤いTシャツと銀色のネックレスが見え隠れしている。下は長点上機学園の制服のズボンに学校指定の皮靴。『竜王の顎(ドラゴンストライク)』の出現と同時に右腕の服が吹き飛んでいた。どこかでシャツを調達したのだろう。見るからに新品特有の純白さが残っている。
二人の距離は約五〇メートル。その間に行き交うのは殺気に満ちた視線。
相手の機微を詳細に分析し、あらゆる思考を巡らせ、反撃の機会を窺う赤い瞳と、強烈な存在感と共に確固たる意志を感じさせる黒の瞳。両者とも不敵な笑みを浮かべていた。
「『ドラゴン』。一つだけ教えろ。なぜオマエは俺の意識だけをこの時代に跳ばしてきた?」
ピタリ、と『魔神』の足が止まった。黒い瞳が白髪の少年の視線を正面からとらえた。
「なに、貴様に興味があっただけだ。この『上条当麻』とは対照的で、よく似ている貴様にな」
「あ?俺がその能天気なテメェと似てるだと?反吐が出るぜ。つかオマエはそんな下らねェ理由で、こんなフザけたお遊びをしたってワケか」
一瞬、『一方通行(アクセラレータ)』の頭は怒りで沸騰しかけたが、無理矢理に感情を抑え込んだ。
『上条当麻』という、人の皮を被った『怪物(ドラゴン)』を。
多くの人で混雑する幅一五メートルの階段も今は無人。その中心を、下りてくる。悠然とした態度で歩調は乱れない。
服装は白いYシャツに胸元からは赤いTシャツと銀色のネックレスが見え隠れしている。下は長点上機学園の制服のズボンに学校指定の皮靴。『竜王の顎(ドラゴンストライク)』の出現と同時に右腕の服が吹き飛んでいた。どこかでシャツを調達したのだろう。見るからに新品特有の純白さが残っている。
二人の距離は約五〇メートル。その間に行き交うのは殺気に満ちた視線。
相手の機微を詳細に分析し、あらゆる思考を巡らせ、反撃の機会を窺う赤い瞳と、強烈な存在感と共に確固たる意志を感じさせる黒の瞳。両者とも不敵な笑みを浮かべていた。
「『ドラゴン』。一つだけ教えろ。なぜオマエは俺の意識だけをこの時代に跳ばしてきた?」
ピタリ、と『魔神』の足が止まった。黒い瞳が白髪の少年の視線を正面からとらえた。
「なに、貴様に興味があっただけだ。この『上条当麻』とは対照的で、よく似ている貴様にな」
「あ?俺がその能天気なテメェと似てるだと?反吐が出るぜ。つかオマエはそんな下らねェ理由で、こんなフザけたお遊びをしたってワケか」
一瞬、『一方通行(アクセラレータ)』の頭は怒りで沸騰しかけたが、無理矢理に感情を抑え込んだ。
敗北条件は『魔神』の機嫌を損ねること。
『一方通行(アクセラレータ)』はそれを理解していた。『魔神』は、『上条当麻』の能力である『触れた物体を消滅させる能力』に、学園都市外にある山を貫通する威力と射程距離を持った巨大レーザーを発射する『ドラゴン』としての能力もあり、底が知れない。能力の全貌を知ってしまえば、戦いを破棄するという選択権が最良である理解してしまう可能性も否めないのだが、核ミサイルすら傷一つつけられない学園最強の超能力を持ってしても、真っ向な勝負では『ドラゴン』には絶対に勝てない。幾度と無く、裏社会での殺し合いに身に置いていた彼の本能がそう告げていた。
114 :『並行世界(リアルワールド)』:2008/12/12(金) 00:43:06 ID:Sq6PtHt6
ひとつだけ、策はあるのだが、まだそれを実行するべきでは無い。
ひとつだけ、策はあるのだが、まだそれを実行するべきでは無い。
さらに、と『一方通行(アクセラレータ)』は付け加える。交渉の余地がある事自体、希望が持てる。『ドラゴン』は人を下等な生物だと見下していることから、自分自身に対して、強烈な自尊心(プライド)がある。敵を嬲るという『三流の殺し方』からもその傲慢さが垣間見える。そのおかげで、『一方通行(アクセラレータ)』は2時間以上の戦いを持ってしても殺されていないのだ。国家間の争いでも同様である。人的、物質的被害を被る戦争よりも、長期にわたる会議による解決の方が互いの損失は最小限で済む。大きな問題であるほど、交渉による解決はその有益性は増すのだ。
けれど、これももはや時間の問題であった。
「いや、これは余の意図していたものではない。まさに『運命』ともいえよう」
「神のお導きってヤツか?生憎、俺はそんなもんはハナから信じねえ性格(たち)だ」
「『俺』も貴様も、強大すぎる力が故に、その力を開花させることを『世界』から拒まれた。『俺』は常に『不幸』で人生として。貴様は『超能力』という『殻』で本来の力を隠蔽しつづける人生としてな」
『魔神』の含みのある言動に、白髪の少年は眉をひそめた。
「…俺の本来の力だと?」
「本来の力、というより『人為的な偶然の産物』といったほうがいいだろう」
「テメェは俺の何を知っている?」
「神のお導きってヤツか?生憎、俺はそんなもんはハナから信じねえ性格(たち)だ」
「『俺』も貴様も、強大すぎる力が故に、その力を開花させることを『世界』から拒まれた。『俺』は常に『不幸』で人生として。貴様は『超能力』という『殻』で本来の力を隠蔽しつづける人生としてな」
『魔神』の含みのある言動に、白髪の少年は眉をひそめた。
「…俺の本来の力だと?」
「本来の力、というより『人為的な偶然の産物』といったほうがいいだろう」
「テメェは俺の何を知っている?」
「余は『人』として生きていけない人間を知っているだけだ」
「強大な力を持つ者は、それだけで人の輪から外れてしまうものだ。異質による違和感と恐怖感によって、同種でありながら交わることを拒絶される」
「それでは『人』としては生きていけない。貴様なら理解できるはずだ。その『超能力』とやらで数奇な人生を辿ってきた貴様ならな」
『一方通行(アクセラレータ)』は答えられなかった。彼が『超能力者』でなければ学園都市の暗部とは全く無縁の世界で生きていただろう。普通の学校で、普通の友達と触れ合い、群衆に紛れて、日々の雑事に葛藤する人生を歩んでいた。人を殺すことも無く、自分の名前を忘れることも無く、人を拒絶することも無く、友達を作り、恋人を作り、日常に退屈を覚えるような光のあたる世界にいた。
「それでは『人』としては生きていけない。貴様なら理解できるはずだ。その『超能力』とやらで数奇な人生を辿ってきた貴様ならな」
『一方通行(アクセラレータ)』は答えられなかった。彼が『超能力者』でなければ学園都市の暗部とは全く無縁の世界で生きていただろう。普通の学校で、普通の友達と触れ合い、群衆に紛れて、日々の雑事に葛藤する人生を歩んでいた。人を殺すことも無く、自分の名前を忘れることも無く、人を拒絶することも無く、友達を作り、恋人を作り、日常に退屈を覚えるような光のあたる世界にいた。
「随分とペラペラと喋るじゃねエか。何だテメェは、そんなに一人ぼっちが寂しいか。あ?」
「ああ、寂しい」
「ふん、じゃあ、テメェを倒してまた一位に君臨してやるぜ。第二位ってのは中途半端で気持ち悪いんでなァ」
「なら頼む。余を倒してくれ。でないと、退屈で世界を滅ぼしてしまいそうだ」
「ハッ。笑えねェ冗談だなオイ」
「だが、これは『俺』の望むところでは無い。出来ることなら構わないがな」
その言葉に、白髪の少年は口元を邪悪に引きつらせた。
「ふん、じゃあ、テメェを倒してまた一位に君臨してやるぜ。第二位ってのは中途半端で気持ち悪いんでなァ」
「なら頼む。余を倒してくれ。でないと、退屈で世界を滅ぼしてしまいそうだ」
「ハッ。笑えねェ冗談だなオイ」
「だが、これは『俺』の望むところでは無い。出来ることなら構わないがな」
その言葉に、白髪の少年は口元を邪悪に引きつらせた。
「アァ、じゃあお望み通り、殺してやるよ」
「!」
『魔神』は目を見開き、ハッと右手で自分の口を塞いだ。
『魔神』は目を見開き、ハッと右手で自分の口を塞いだ。
「…貴様!」
「もう遅えンだよ!」
『一方通行(アクセラレータ)』は両手を『魔神』へ突き出し、白く細い両手の拳を強く握りしめた。
その瞬間、周囲の風が逆流する。『魔神』は膝をついた。首を右手で抑え、左腕で口元を拭った。
「ハッハ!俺が何でテメェにケツを振りながら逃げ回ったと思ってンだ!?より多くの大気に触れるためだ。それに俺の背後にあるプロペラだけが回ってンのもおかしいとは思わなかったか?追い風ができるように細工してたンだよ。テメェに届く空気を操作できるようになァ!」
その問いに、『魔神』は答えられなかった。咳と共に、唾液や胃液が吐き出される。
「テメェは幾ら強かろうが所詮はホモサピエンスっつう動物だ。呼吸できなければ死んじまう。ならテメェを取り巻く大気を掌握して、低酸素濃度の空間を作っちまえばいい」
白髪の少年は、さらに口元を引きつらせ、『魔神』に向かって中指を突き立てた。
「あとよォ」
と、『一方通行(アクセラレータ)』は言葉を紡いだ。
「もう遅えンだよ!」
『一方通行(アクセラレータ)』は両手を『魔神』へ突き出し、白く細い両手の拳を強く握りしめた。
その瞬間、周囲の風が逆流する。『魔神』は膝をついた。首を右手で抑え、左腕で口元を拭った。
「ハッハ!俺が何でテメェにケツを振りながら逃げ回ったと思ってンだ!?より多くの大気に触れるためだ。それに俺の背後にあるプロペラだけが回ってンのもおかしいとは思わなかったか?追い風ができるように細工してたンだよ。テメェに届く空気を操作できるようになァ!」
その問いに、『魔神』は答えられなかった。咳と共に、唾液や胃液が吐き出される。
「テメェは幾ら強かろうが所詮はホモサピエンスっつう動物だ。呼吸できなければ死んじまう。ならテメェを取り巻く大気を掌握して、低酸素濃度の空間を作っちまえばいい」
白髪の少年は、さらに口元を引きつらせ、『魔神』に向かって中指を突き立てた。
「あとよォ」
と、『一方通行(アクセラレータ)』は言葉を紡いだ。
「テメェの肺にある空気も、俺の支配下にある」
もう一方の手の親指を突き立て、その指を地面に向けた。
「…げぼっ!っつ、ガハッ!」
嘔吐を繰り返し、『魔神』は、強く胸を抑え、両膝をついた。
先ほどまでの余裕がまるで嘘のように地面に這い蹲っている。両腕は小刻みに震え、頭は項垂れたまま動かない。人間が七パーセント以下の低酸素濃度の空気を吸い込むと、脳内に急激な酸欠状態を招き、意識が朦朧となってしまう。そして、日差しが照りつける太陽の下、『魔神』は大きな闇に覆われた。
頭上には、三〇トンを超す大型旅客機が落下していた。
ここは多くの交通機関から国際ターミナルへと繋がる合流地点であり、他の通路と比べても数倍の面積を持つブリッジである。
あまりにも場違いな無人旅客機。エンジンが稼働していない飛行機は、数分前から『一方通行(アクセラレータ)』の『ベクトル操作』によって動かされていた。
迫りくる鋼鉄の鳥。圧倒的質量のある物体に押し潰されれば、タンパク質の塊である人の肉体など原型すら留められない。
『魔神』は旅客機を『消滅』させる。
白髪の少年はそれを読んで、他の旅客機から一〇〇〇キロの重油タンクを2つ、予め抜き取っておいた。それをブリッジの両側にある街路樹をカモフラージュにして配置していた。
『一方通行(アクセラレータ)』の真の狙いは、旅客機による物理的な死では無く、爆破と素粒子の『ベクトル操作』での酸素欠如による窒息死。『魔神』は瞬時に移動できる術を持っていない。幾ら強大な能力を持っているとしても、生身の肉体を持った人間なのである。酸素無くして生物は生きられない。そこに勝機を見出したのだ。
落下速度から旅客機が『魔神』と衝突するのはもう1秒足らず。
そんな絶望的な下、『魔神』はゆっくりと立ち上がった。
『魔神』は襲いかかる巨大な闇を見上げ、言の葉を告げる。
「…げぼっ!っつ、ガハッ!」
嘔吐を繰り返し、『魔神』は、強く胸を抑え、両膝をついた。
先ほどまでの余裕がまるで嘘のように地面に這い蹲っている。両腕は小刻みに震え、頭は項垂れたまま動かない。人間が七パーセント以下の低酸素濃度の空気を吸い込むと、脳内に急激な酸欠状態を招き、意識が朦朧となってしまう。そして、日差しが照りつける太陽の下、『魔神』は大きな闇に覆われた。
頭上には、三〇トンを超す大型旅客機が落下していた。
ここは多くの交通機関から国際ターミナルへと繋がる合流地点であり、他の通路と比べても数倍の面積を持つブリッジである。
あまりにも場違いな無人旅客機。エンジンが稼働していない飛行機は、数分前から『一方通行(アクセラレータ)』の『ベクトル操作』によって動かされていた。
迫りくる鋼鉄の鳥。圧倒的質量のある物体に押し潰されれば、タンパク質の塊である人の肉体など原型すら留められない。
『魔神』は旅客機を『消滅』させる。
白髪の少年はそれを読んで、他の旅客機から一〇〇〇キロの重油タンクを2つ、予め抜き取っておいた。それをブリッジの両側にある街路樹をカモフラージュにして配置していた。
『一方通行(アクセラレータ)』の真の狙いは、旅客機による物理的な死では無く、爆破と素粒子の『ベクトル操作』での酸素欠如による窒息死。『魔神』は瞬時に移動できる術を持っていない。幾ら強大な能力を持っているとしても、生身の肉体を持った人間なのである。酸素無くして生物は生きられない。そこに勝機を見出したのだ。
落下速度から旅客機が『魔神』と衝突するのはもう1秒足らず。
そんな絶望的な下、『魔神』はゆっくりと立ち上がった。
『魔神』は襲いかかる巨大な闇を見上げ、言の葉を告げる。
「風よ。余に従え」
突如として、人為的な大気の動きが止まり、ピタリと鋼鉄の鳥が空中で静止した。
「ッ!!」
想定外の事態に戸惑う暇は無い。瞬時に両サイドに配置された重油タンクを動かそうとして、
それらが全く動かなかった。
それどころではない。全身が動かせない。
『一方通行(アクセラレータ)』の思考は凍り付いた。
このブリッジを落とし、距離を取って再機を謀ることも出来無い。
『魔神』は俯いたまま、その場に立ち尽くしている。
「少々貴様を侮っていた。…ふむ、左の肺がやられたようだな」
『ベクトル』を使って距離を取ろうにも、指一つ動かせない。白髪の少年の背筋に言い知れぬ怖気が走る。まるで死神に心臓を握られているかのような錯覚にとらわれていた。息することさえ許されないように。
『魔神』は顔を上げ、白髪の少年と視線が交差する。
そこにあったのは満面の笑み。上条当麻を知っている者であれば、見たことも無いほどの邪悪に口を歪ませた笑顔。その笑みが崩れぬまま口元の血を袖で拭い、言葉を紡いだ。
「ッ!!」
想定外の事態に戸惑う暇は無い。瞬時に両サイドに配置された重油タンクを動かそうとして、
それらが全く動かなかった。
それどころではない。全身が動かせない。
『一方通行(アクセラレータ)』の思考は凍り付いた。
このブリッジを落とし、距離を取って再機を謀ることも出来無い。
『魔神』は俯いたまま、その場に立ち尽くしている。
「少々貴様を侮っていた。…ふむ、左の肺がやられたようだな」
『ベクトル』を使って距離を取ろうにも、指一つ動かせない。白髪の少年の背筋に言い知れぬ怖気が走る。まるで死神に心臓を握られているかのような錯覚にとらわれていた。息することさえ許されないように。
『魔神』は顔を上げ、白髪の少年と視線が交差する。
そこにあったのは満面の笑み。上条当麻を知っている者であれば、見たことも無いほどの邪悪に口を歪ませた笑顔。その笑みが崩れぬまま口元の血を袖で拭い、言葉を紡いだ。
「余の命令だ。本気を出せ。『魔王』」
トン、とコンクリートの床に足を踏んだ。
『魔神』がしたのはただそれだけだ。
なのに、
グチャリ、と『一方通行(アクセラレータ)』は地面に崩れ落ちた。
同時に体中から鮮血の飛沫が舞う。
無人のブリッジの上で、学園都市第二位の『魔王』が慟哭した。
『魔神』がしたのはただそれだけだ。
なのに、
グチャリ、と『一方通行(アクセラレータ)』は地面に崩れ落ちた。
同時に体中から鮮血の飛沫が舞う。
無人のブリッジの上で、学園都市第二位の『魔王』が慟哭した。
「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
何が起きた?『一方通行(アクセレレータ)』に激痛が走った。一瞬にして全身の筋肉が萎縮し、力を失った体は、糸の切れた操り人形のように床に叩き付けられた。
血液が沸騰したように体が焼き尽くされた錯覚が脳を襲う。
ヒトとしての理性も感情も一瞬にして吹き飛び、残るのは人間の本能が剥き出しになった動物としての姿。
血液が沸騰したように体が焼き尽くされた錯覚が脳を襲う。
ヒトとしての理性も感情も一瞬にして吹き飛び、残るのは人間の本能が剥き出しになった動物としての姿。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
「ぐッ!ば、はァ!…ひ、ひゅ、ヒュー、ぐェあ、オエェッええ!」
地面に消化物が混ざった胃液を吐き出した。肺に残る酸素は全て吐き出され、呼吸すらままならない。
地面でもがく白髪の少年を、笑顔で見据えながら『魔神』は告げる。
「余を起点に『上条当麻』の力を直径1キロ展開しただけだ」
理屈は簡単だ。『幻想殺し(イマジンブレイカー)』によって、体内を操作していたベクトルが打ち消されたのだ。傷口から血が溢れ出し、制服で隠れていないYシャツは真っ赤に染まる。制御していた電気信号は正常に戻り、痛覚の電気信号が一気に直接脳へと流れ込んだ。
そんな『魔神』の告白も、白髪の少年の耳には入らなかった。
「さて、と」
モゾモゾと床を蠢く『一方通行(アクセラレータ)』を横目に、『魔神』は右手を振り上げる。
地面に消化物が混ざった胃液を吐き出した。肺に残る酸素は全て吐き出され、呼吸すらままならない。
地面でもがく白髪の少年を、笑顔で見据えながら『魔神』は告げる。
「余を起点に『上条当麻』の力を直径1キロ展開しただけだ」
理屈は簡単だ。『幻想殺し(イマジンブレイカー)』によって、体内を操作していたベクトルが打ち消されたのだ。傷口から血が溢れ出し、制服で隠れていないYシャツは真っ赤に染まる。制御していた電気信号は正常に戻り、痛覚の電気信号が一気に直接脳へと流れ込んだ。
そんな『魔神』の告白も、白髪の少年の耳には入らなかった。
「さて、と」
モゾモゾと床を蠢く『一方通行(アクセラレータ)』を横目に、『魔神』は右手を振り上げる。
頭上に静止してい三〇トン強の旅客機は、周囲の大気ごと『消滅』した。
ゴオォ!!と、一瞬遅れて轟音と共に爆風が巻き起こる。
『魔神』を中心とした竜巻のように舞い上がる螺旋の爆風。
白髪の少年の華奢な体は、風に揺られるビニール袋のようにゴロゴロと転がり続け、ブリッジの端にある街路樹の花壇に激突した。ペンキで無造作に塗られたように、床に鮮血のアーチを描く。
コツ、コツ、と、足音をコンクリートの床を響かせるように、ゆっくりとした歩調で『魔神』は白髪の少年の元に近づいていた。
距離は僅か、五メートル。
無様に床を這いずる『一方通行(アクセラレータ)』を見下ろしながら、『魔神』は言葉を紡ぐ。
『魔神』を中心とした竜巻のように舞い上がる螺旋の爆風。
白髪の少年の華奢な体は、風に揺られるビニール袋のようにゴロゴロと転がり続け、ブリッジの端にある街路樹の花壇に激突した。ペンキで無造作に塗られたように、床に鮮血のアーチを描く。
コツ、コツ、と、足音をコンクリートの床を響かせるように、ゆっくりとした歩調で『魔神』は白髪の少年の元に近づいていた。
距離は僅か、五メートル。
無様に床を這いずる『一方通行(アクセラレータ)』を見下ろしながら、『魔神』は言葉を紡ぐ。
「どうだ?無能力者というのは。非力なものだろう?」
非力。
その言葉に、『一方通行(アクセラレータ)』の心は深い『闇』に染め上げられた。
意識が朦朧としながらも、血で塗れた鋭い眼光で黒髪の少年の姿を捉える。
この命に代えてでも、『ドラゴン』を粉砕することをここに誓う。
その言葉に、『一方通行(アクセラレータ)』の心は深い『闇』に染め上げられた。
意識が朦朧としながらも、血で塗れた鋭い眼光で黒髪の少年の姿を捉える。
この命に代えてでも、『ドラゴン』を粉砕することをここに誓う。
右脳と左脳が割れ、その隙間から、何か鋭く尖ったものが頭蓋骨の内側へ突き出してくる錯覚。脳に割り込んでくる何かは、あっという間に白髪の少年の全てを呑み込んでいく。果物を潰すような音と共に、両目から涙のようなものが溢れた。それは涙ではなかった。赤黒くて薄汚くて不快感をもよおす、鉄臭い液体。頬を流れる液体は、白髪の少年にとって不快なものでしかない。
カチリ、と。
頭の中で、何かが切り替わった。
少年の自我が深い闇に塗り潰され、擦り切れる音が気こえた。ドロドロに染まる真っ黒な感情。
カチリ、と。
頭の中で、何かが切り替わった。
少年の自我が深い闇に塗り潰され、擦り切れる音が気こえた。ドロドロに染まる真っ黒な感情。
「ォ」
叫びとも呪文とも聞こえる白髪の少年の咆哮。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオォ!!」
白髪の少年の背中から噴射する黒の翼。その規模は爆発的に展開し、一瞬にして数十メートル上空へと伸びていく。
『魔神』はそれを見て、邪悪な笑みをより一層、顔に刻んでいく。
叫びとも呪文とも聞こえる白髪の少年の咆哮。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオォ!!」
白髪の少年の背中から噴射する黒の翼。その規模は爆発的に展開し、一瞬にして数十メートル上空へと伸びていく。
『魔神』はそれを見て、邪悪な笑みをより一層、顔に刻んでいく。
「余に示せ。貴様の――――――――――――『竜王の翼(ドラゴンウイング)』をな」
晴天の空を塗り潰す黒の翼。
赤く染まった眼球が捉えるのは、不適に笑う得体の知れない少年。
ドス黒い一対の翼は、ブリッジにある街路樹やコンクリートでできた床、巨大エスカレータ、ガラスの破片、一〇〇〇キロの重油タンクなどの周囲の物体全てを巻き込んで、
赤く染まった眼球が捉えるのは、不適に笑う得体の知れない少年。
ドス黒い一対の翼は、ブリッジにある街路樹やコンクリートでできた床、巨大エスカレータ、ガラスの破片、一〇〇〇キロの重油タンクなどの周囲の物体全てを巻き込んで、
『魔神』を呑み込んだ。