(30.木曜日22:19)
再び工場内を吸血鬼の気配が満たした。
再び工場内を吸血鬼の気配が満たした。
「ゼィ、後ちょっと……だったのに。吸血鬼は……どこだ?」
上条は吸血鬼が自分のすぐ近くに現れることを願っていた。
しかしその願いもむなしく、吸血鬼は上条から遠く離れた場所に現れた。
近くの魔術師までは20m程あったが、それでも今の上条が追いつくことは不可能だった。
しかしその願いもむなしく、吸血鬼は上条から遠く離れた場所に現れた。
近くの魔術師までは20m程あったが、それでも今の上条が追いつくことは不可能だった。
「ちくしょう……、何か方法は?」
その時、姫神秋沙が足下に転がっていた魔術師のナイフを手に取るのが見えた。
「何をする気だ…………姫神」
「上条君。君はもう動けない。
今アイツを止めないと。ここにいるみんなが死ぬ」
「だからっておまえがナイフを持ってどうすんだ。
いくらお前でもナイフでヤツは止められない」
「そんなこと無い。ナイフがあれば私でもアイツを止められる」
「待て、姫神。ここは俺に任せろ」
「君の右手はアイツでさえ寄せ付けない。
でも、今の君ではみんなを守れない。
私が死ねば。アイツは消えて。ここにいるみんなが助かる。
ううん。ホントはね。他の人達はどうでもいいの。君さえ助かれば」
「上条君。君はもう動けない。
今アイツを止めないと。ここにいるみんなが死ぬ」
「だからっておまえがナイフを持ってどうすんだ。
いくらお前でもナイフでヤツは止められない」
「そんなこと無い。ナイフがあれば私でもアイツを止められる」
「待て、姫神。ここは俺に任せろ」
「君の右手はアイツでさえ寄せ付けない。
でも、今の君ではみんなを守れない。
私が死ねば。アイツは消えて。ここにいるみんなが助かる。
ううん。ホントはね。他の人達はどうでもいいの。君さえ助かれば」
そう言った姫神秋沙の目は涙でにじんでいた。
「上条君。今まで本当にありがとう」
すぐに涙は溢れ出し頬を濡らしていった。
「(君のこと大好きだったよ)元気でね」
「やめろ!」と叫ぶ上条から逃げるように姫神秋沙は上条に背を向けた。
「ごめんなさい」
そう言うとナイフを自分の首に当て一気に引き抜いた。
上条にはその光景はスローモーションのように見えた。
しかし、姫神の首筋から血しぶきが飛び散った瞬間、思考が灼熱した。
「姫神いィィィ!」と叫んだことは憶えている。
でもどうやって姫神の所まで駆け寄ったのかは憶えていない。
上条にはその光景はスローモーションのように見えた。
しかし、姫神の首筋から血しぶきが飛び散った瞬間、思考が灼熱した。
「姫神いィィィ!」と叫んだことは憶えている。
でもどうやって姫神の所まで駆け寄ったのかは憶えていない。
気がつけば膝が力を失いストンと座るように倒れかかった姫神を右横から抱え、
左手で倒れかかる姫神の背中を支えつつ右手で傷付いた首筋を押さていた。
吹き出す血液を姫神の中に押し戻そうと傷口を右手で強く押さえた時
「バキン!」という感触が上条の右手に響いた。
その瞬間、工場内に充満していた「吸血鬼」の気配は霧散した。
左手で倒れかかる姫神の背中を支えつつ右手で傷付いた首筋を押さていた。
吹き出す血液を姫神の中に押し戻そうと傷口を右手で強く押さえた時
「バキン!」という感触が上条の右手に響いた。
その瞬間、工場内に充満していた「吸血鬼」の気配は霧散した。
しかし上条にはそんな些細なことはどうでも良かった。
(死ねな、姫神。死ぬな)
そのことだけしか考えられなかった。
(死ねな、姫神。死ぬな)
そのことだけしか考えられなかった。
カエル顔の医者ならこんな傷でもきっと跡形もなく治療してくれるハズだ。
例えどんなにひどい傷だって生きてさえいればあの医者(せんせい)は必ず直してくれる。
そう、生きてさえいれば。
この出血では病院に着く頃にはきっと姫神は生きてはいないだろう。
たとえカエル顔の医者でも死んでしまった人間は治療できない。
例えどんなにひどい傷だって生きてさえいればあの医者(せんせい)は必ず直してくれる。
そう、生きてさえいれば。
この出血では病院に着く頃にはきっと姫神は生きてはいないだろう。
たとえカエル顔の医者でも死んでしまった人間は治療できない。
そんな酷い現実なんてホントは認めたくない。
それなのに頭のどこかがこの現実を受け入れている。
だから上条には姫神に声をかけることしかできなかった。
それなのに頭のどこかがこの現実を受け入れている。
だから上条には姫神に声をかけることしかできなかった。
「姫神、アイツはもう二度と現れない。お前の幻想は俺の右手が殺してやった。
だからお前はもう死ぬ必要なんて無いんだ。姫神。死ぬんじゃない」
だからお前はもう死ぬ必要なんて無いんだ。姫神。死ぬんじゃない」
上条の叫びに意識を取り戻したのか、姫神秋沙のまぶたがうっすらと開らかれた。
そして姫神の唇が動いて何かを言おうとしている。
そして姫神の唇が動いて何かを言おうとしている。
「しゃべるな。今救急車を呼んでやる。きっと助かる。だからしゃべるな」
姫神秋沙は急激な出血のせいで意識を失っていた。
上条当麻が自分を呼ぶ声が聞こえた気がして意識を取り戻した。
ただ意識は朦朧として身体はとても動かせそうになかった。
それでもなんとか重いまぶたを開けることができた。
そこには自分の顔をのぞき込み何かを叫んでいる上条の顔があった。
そしてその表情から自分がもうすぐ死ぬんだということを理解した。
そして「悲しまないで。上条君」と言いかけた時、ようやく気がついた。
上条当麻が自分を呼ぶ声が聞こえた気がして意識を取り戻した。
ただ意識は朦朧として身体はとても動かせそうになかった。
それでもなんとか重いまぶたを開けることができた。
そこには自分の顔をのぞき込み何かを叫んでいる上条の顔があった。
そしてその表情から自分がもうすぐ死ぬんだということを理解した。
そして「悲しまないで。上条君」と言いかけた時、ようやく気がついた。
(私が死ねば。きっと上条君は悲しむ。それどころかずっと自分を責め続ける。
私は自分が死ぬことは怖くない。君が助かったのならそれで良いから。
けど。それが君を苦しませるなら。そんなことは絶対イヤ。
だから。私はここで死んじゃいけないんだ)
私は自分が死ぬことは怖くない。君が助かったのならそれで良いから。
けど。それが君を苦しませるなら。そんなことは絶対イヤ。
だから。私はここで死んじゃいけないんだ)
姫神秋沙の開きかけた唇が止まると少し微笑んだような気がした。
上条にはそれが何を意味するのかよくわからなかった。
「どうした姫神」と言おうとした時、視界の隅を白い羽毛のようなものがかすめた。
上条にはそれが何を意味するのかよくわからなかった。
「どうした姫神」と言おうとした時、視界の隅を白い羽毛のようなものがかすめた。
(31.金曜日1:10)
ザーザーと水が流れる音がする。
ザーザーと水が流れる音がする。
(あぁ。今姫神はシャワーを浴びてるんだ)
上条はシャワールーム前の廊下に座りボンヤリした頭で考えていた。
あの時何が起こったのか上条はよく理解できていなかった。
あの時何が起こったのか上条はよく理解できていなかった。
姫神が微笑んだ後、白い羽毛のようなものが舞い降りてきた。
それが姫神の首筋に触れた瞬間、上条の右手は血の流れを感じなくなった。
手を離すとそこにあった傷は無く蒼白だった姫神の顔も少し赤みを帯びていた。
その時になって同じものが工場のいくつもの場所に舞い降りていることに気付いた。
そして上条当麻の上にも。
(あれは一体何だったんだ?)
それが姫神の首筋に触れた瞬間、上条の右手は血の流れを感じなくなった。
手を離すとそこにあった傷は無く蒼白だった姫神の顔も少し赤みを帯びていた。
その時になって同じものが工場のいくつもの場所に舞い降りていることに気付いた。
そして上条当麻の上にも。
(あれは一体何だったんだ?)
不意に背後から肩を叩かれた。
「よー!カミやん、どうやら大団円のようだにゃー。良かった。良かった」
「土御門。遅いじゃねーか。姫神は死ぬところだったんだぞ。あれがなかったら」
「『癒之御使(エンゼルフェザー)』」
「なんだって?」
「だからあれのことぜよ」
「お前、見ていたのか?だったら何でもっと早く」
「あのな。カミやん。あそこに転がっていた魔術師どもを放っておく訳いかないだろ。
外に放り出すにしても色々指示を出す必要があったんだよ。それに……」
「土御門。遅いじゃねーか。姫神は死ぬところだったんだぞ。あれがなかったら」
「『癒之御使(エンゼルフェザー)』」
「なんだって?」
「だからあれのことぜよ」
「お前、見ていたのか?だったら何でもっと早く」
「あのな。カミやん。あそこに転がっていた魔術師どもを放っておく訳いかないだろ。
外に放り出すにしても色々指示を出す必要があったんだよ。それに……」
話を区切った土御門は急にニヤケ顔になった。
「姫神がカミやんにしがみついて泣きじゃくっていたろ。
あんな桃色空間に割り込んで馬に蹴られるほどオレっちは無粋じゃないってことさ」
「何言ってやがる。それより『癒之御使(エンゼルフェザー)』って何なんだ」
「あれが姫神の本質だ。
『吸血殺し』が『幻想殺し』に殺されたんで姫神本来の能力が顕れたんだ。
テレズマを集めて純粋な生命力に錬成し必要とする人間に与える」
あんな桃色空間に割り込んで馬に蹴られるほどオレっちは無粋じゃないってことさ」
「何言ってやがる。それより『癒之御使(エンゼルフェザー)』って何なんだ」
「あれが姫神の本質だ。
『吸血殺し』が『幻想殺し』に殺されたんで姫神本来の能力が顕れたんだ。
テレズマを集めて純粋な生命力に錬成し必要とする人間に与える」
「待てよ。あれが異能の力ならなんで俺の右手に反応しなかったんだ?」
「あれは生命そのものだからな。カミやんの右手でも殺せないんだよ。
俺は姫神が出てくる前に退散するぜ。
そうだ!その前にカミやんに渡すものがある」
「あれは生命そのものだからな。カミやんの右手でも殺せないんだよ。
俺は姫神が出てくる前に退散するぜ。
そうだ!その前にカミやんに渡すものがある」
土御門は上条に封筒を投げ渡した。
「その中に金(かね)が入っている。姫神に服でも買ってやるんだな」
今、姫神秋沙は血まみれになった身体をシャワールームで洗っている。
当然血で汚れた制服も新調しないといけないから確かにお金も要る。
上条もTシャツは無事だったが制服は血まみれだった。
だが何かが引っ掛かった上条は土御門を問いつめた。
当然血で汚れた制服も新調しないといけないから確かにお金も要る。
上条もTシャツは無事だったが制服は血まみれだった。
だが何かが引っ掛かった上条は土御門を問いつめた。
「一体これはどんな金だ?」
「魔術師どもの落とし物だ」
「それってまずいだろ」
「警備員に届けたってどうせ誰も取りに来やしないさ」
「そりゃそうだけど」
「魔術師どもの落とし物だ」
「それってまずいだろ」
「警備員に届けたってどうせ誰も取りに来やしないさ」
「そりゃそうだけど」
「連中にとったら端金の30万円だ」
「さっ、さんじゅうまんえん?
それって諭吉さんだけで1個小隊が編成できる30万円?
それとも一葉さんだけで1個中隊が編成できる30万円?
それとも英世さんだけで1個大隊が編成できる30万円?」
「さっ、さんじゅうまんえん?
それって諭吉さんだけで1個小隊が編成できる30万円?
それとも一葉さんだけで1個中隊が編成できる30万円?
それとも英世さんだけで1個大隊が編成できる30万円?」
「どれでもいいけどその30万円だ」
「ダメだ。そんな大金受け取れない」
「この金はもうカミやんが3ヶ月前に拾ったことになっちまっている。
その書類も封筒に入っているから受け取ってもらわないと俺が困る。
じゃあな。カミやん」
「ダメだ。そんな大金受け取れない」
「この金はもうカミやんが3ヶ月前に拾ったことになっちまっている。
その書類も封筒に入っているから受け取ってもらわないと俺が困る。
じゃあな。カミやん」
上条は仕方なく分厚い封筒をズボンのポケットにねじ込んだ。
しばらくして白い修道女姿の姫神秋沙が出てきた。
本来なら『吸血殺し』を無くした姫神秋沙が『歩く教会』を着る必要はもうない。
しかし血まみれの制服の代わりに『歩く教会』を着て帰ることにしたのだ。
しばらくして白い修道女姿の姫神秋沙が出てきた。
本来なら『吸血殺し』を無くした姫神秋沙が『歩く教会』を着る必要はもうない。
しかし血まみれの制服の代わりに『歩く教会』を着て帰ることにしたのだ。
「姫神、さっぱりしたか?」
「ええ。上条君は寒くない?」
「平気、平気。
それより姫神。今日は疲れたろ?少し休んでから帰るか?」
「大丈夫。
今日、色んな事があったけど。
今すごく気分が良い。
夜道だって全然平気」
「そっか、じゃあ帰ろう」
「ええ。上条君は寒くない?」
「平気、平気。
それより姫神。今日は疲れたろ?少し休んでから帰るか?」
「大丈夫。
今日、色んな事があったけど。
今すごく気分が良い。
夜道だって全然平気」
「そっか、じゃあ帰ろう」
事件が解決して上条当麻は安心しきっていた。そう、上条当麻は油断しきっていた。
だから、つい姫神秋沙の左肩に右手を置いてしまった。
「しゅるるっ」
衣擦れの音を残して破壊された『歩く教会』はなめらかな姫神秋沙のボディラインに沿っ
て滑るように落ちていった。
姫神秋沙は何が起こったのか判らなかったので動けなかった。
上条当麻はその全てを目撃してしまったので動けなかった。
だから、つい姫神秋沙の左肩に右手を置いてしまった。
「しゅるるっ」
衣擦れの音を残して破壊された『歩く教会』はなめらかな姫神秋沙のボディラインに沿っ
て滑るように落ちていった。
姫神秋沙は何が起こったのか判らなかったので動けなかった。
上条当麻はその全てを目撃してしまったので動けなかった。
(あっ。姫神のヤツ、下着までやられてたのか。
やっぱり着ヤセするタイプなんだ。日本人だから黒いんだ……)
「きゃああぁぁぁぁ!」「バチン!」
やっぱり着ヤセするタイプなんだ。日本人だから黒いんだ……)
「きゃああぁぁぁぁ!」「バチン!」
上条の思考は少女の悲鳴と打撃音によって寸断された。
その後、朝焼けの中を左頬を腫らした上条当麻とアイアンメイデン2号姫神秋沙が肩を
並べて歩いている姿が目撃されたそうである。
その後、朝焼けの中を左頬を腫らした上条当麻とアイアンメイデン2号姫神秋沙が肩を
並べて歩いている姿が目撃されたそうである。
(32.金曜日6:00)
「アレイスター。
今回、何で俺は『吸血殺し(ディープブラッド)』の情報を手に入れることができたんだ。
お前、わざと書庫(バンク)にリークしたんじゃないのか?」
「なんのことだ?」
「どうせ、今回の目的はカミやんを覚醒させることだったんだろ?
俺が手に入れた情報もカミやんを追いつめるようなものばかりだったしな。
だが、残念だったな。
まさか、ああも偶然にカミやんの右手がお前の術式を破壊しちまうとはな。
今回はお前も無駄骨だったようだな」
「ふっ。
君は傷口を押さえたぐらいで頸動脈の内側に手が届くと本気で思っているのかい?」
「何!」
「今回は本人も気付かないぐらいのほんの僅かな一歩だったがね。
しかし『幻想殺し』の枷は今回の件で確実に弛んだのだよ。
くっくっ、これからが実に楽しみだ」
「アレイスター、貴様何を考えている?」
「アレイスター。
今回、何で俺は『吸血殺し(ディープブラッド)』の情報を手に入れることができたんだ。
お前、わざと書庫(バンク)にリークしたんじゃないのか?」
「なんのことだ?」
「どうせ、今回の目的はカミやんを覚醒させることだったんだろ?
俺が手に入れた情報もカミやんを追いつめるようなものばかりだったしな。
だが、残念だったな。
まさか、ああも偶然にカミやんの右手がお前の術式を破壊しちまうとはな。
今回はお前も無駄骨だったようだな」
「ふっ。
君は傷口を押さえたぐらいで頸動脈の内側に手が届くと本気で思っているのかい?」
「何!」
「今回は本人も気付かないぐらいのほんの僅かな一歩だったがね。
しかし『幻想殺し』の枷は今回の件で確実に弛んだのだよ。
くっくっ、これからが実に楽しみだ」
「アレイスター、貴様何を考えている?」
窓のない部屋にひとり残ったアレイスターは呟いた。
「これだから人生は面白い。
まさか廃棄したはずのセカンドプランがこんなところで役に立つとはな。
これで遅れがちだったメインプランもスケジュールを組み直す必要が無くなった。
『吸血殺し(ディープブラッド)』の殻を破って神に非(あら)ざる創生の女神が顕れたか。
早く『幻想殺し(イマジンブレーカー)』の枷を食いちぎって早く出て来い。神上」
まさか廃棄したはずのセカンドプランがこんなところで役に立つとはな。
これで遅れがちだったメインプランもスケジュールを組み直す必要が無くなった。
『吸血殺し(ディープブラッド)』の殻を破って神に非(あら)ざる創生の女神が顕れたか。
早く『幻想殺し(イマジンブレーカー)』の枷を食いちぎって早く出て来い。神上」
(33.金曜日7:00)
上条と姫神秋沙は姫神秋沙の学生寮に戻ってきた。
上条が待っていると夏服を着た姫神秋沙が出てきた。
上条と姫神秋沙は姫神秋沙の学生寮に戻ってきた。
上条が待っていると夏服を着た姫神秋沙が出てきた。
「姫神、寒くないか?それ」
「寒くないと言えば嘘になる。でも今はこれしかない。
それとも上条君は霧ヶ丘女学院の制服の方が好き?」
「なっ、何言ってんだ。お前」
「……(霧ヶ丘女学院の制服はポイント低し、ガッカリ)」
「それより、実は昨日臨時収入があったんだ。
事件が解決したお祝いに姫神に服を買ってやるよ。
放課後ショッピングセンターに行かないか?」
「それってデート?」
「いっ、いや、その、なんていうか、あれだ。買い物だよ。買い物」
「…………(ハァーッ)」
「寒くないと言えば嘘になる。でも今はこれしかない。
それとも上条君は霧ヶ丘女学院の制服の方が好き?」
「なっ、何言ってんだ。お前」
「……(霧ヶ丘女学院の制服はポイント低し、ガッカリ)」
「それより、実は昨日臨時収入があったんだ。
事件が解決したお祝いに姫神に服を買ってやるよ。
放課後ショッピングセンターに行かないか?」
「それってデート?」
「いっ、いや、その、なんていうか、あれだ。買い物だよ。買い物」
「…………(ハァーッ)」
その後上条の下宿へ向かった二人はインデックス&ステイルと鉢合わせした。
「とうま!あいさと朝帰りってどういうこと?ちゃんと説明して欲しいかも。
あーーっ!『歩く教会』がまたアイアンメイデンになってる。
とうま。あいさを裸にして何しようとしたの?」
あーーっ!『歩く教会』がまたアイアンメイデンになってる。
とうま。あいさを裸にして何しようとしたの?」
どうやらインデックスは『歩く教会』を壊されたことより『歩く教会』が壊れた時の状況
の方が問題だったようだ。
の方が問題だったようだ。
「いや、その。これは確かに上条さんの不注意だったのですが。
でもそこに至るまでには聞くも涙、語るも涙の物語があって……」
「と・う・ま」
「ごめんなさい。ごめんなさい。お詫びに美味いもの食べに連れて行ってやるから」
「え!?」
「フレンチでもイタリアンでも中華でも和食でも焼肉でも鰻でもいいぞ。どれが良い?」
「違うよ、とうま。フレンチもイタリアンも中華も和食も焼肉も鰻も全部なんだよ」
「えっ、そんなことしたら上条さんは破産してしまいます。
マッチを売らなきゃご飯が食べられない生活なんて上条さんには耐えられません」
でもそこに至るまでには聞くも涙、語るも涙の物語があって……」
「と・う・ま」
「ごめんなさい。ごめんなさい。お詫びに美味いもの食べに連れて行ってやるから」
「え!?」
「フレンチでもイタリアンでも中華でも和食でも焼肉でも鰻でもいいぞ。どれが良い?」
「違うよ、とうま。フレンチもイタリアンも中華も和食も焼肉も鰻も全部なんだよ」
「えっ、そんなことしたら上条さんは破産してしまいます。
マッチを売らなきゃご飯が食べられない生活なんて上条さんには耐えられません」
「大丈夫だよ、上条当麻。君はそんなことを心配する必要は無いさ」
「ステイル、お前……」
「そう、君はそんな未来のことを心配する必要はない。
だって、今ここで僕に殺されるんだからね」
「ちょっと待て!」
「黙れ!法王級の霊装をまた壊しやがって。死んで詫びを入れろ」
「だからって炎剣で斬りかかってくんな」
「骨も残さず焼いてやるから安心しろ」
「安心できるか、バカ野郎!」
「相変わらず邪魔な右手だ。出てこいイノケンティウス!」
「もう勘弁してくれー!」
「ステイル、お前……」
「そう、君はそんな未来のことを心配する必要はない。
だって、今ここで僕に殺されるんだからね」
「ちょっと待て!」
「黙れ!法王級の霊装をまた壊しやがって。死んで詫びを入れろ」
「だからって炎剣で斬りかかってくんな」
「骨も残さず焼いてやるから安心しろ」
「安心できるか、バカ野郎!」
「相変わらず邪魔な右手だ。出てこいイノケンティウス!」
「もう勘弁してくれー!」
結局、夏服カップルとして学校に登校するはめになった上条と姫神秋沙だった。
そんな二人を待っていたかのように校門では吹寄制理が仁王立ちしていた。
そんな二人を待っていたかのように校門では吹寄制理が仁王立ちしていた。
「うっ、吹寄。お前って風紀委員だっけ?」
「貴様、昨日の話はまだ終わっていないぞ」
「いや、あれは姫神が突然体調崩しちゃったから急いで病院に行っただけで……
吹寄に説明しないで帰ったのは悪かった。この通り」
「誰がそんなことを聞いている」
「貴様、昨日の話はまだ終わっていないぞ」
「いや、あれは姫神が突然体調崩しちゃったから急いで病院に行っただけで……
吹寄に説明しないで帰ったのは悪かった。この通り」
「誰がそんなことを聞いている」
「へ?」
「黒蜜堂の『カロリー控えめ能力開発パフェ』は期間限定のスイーツ。
そして今日が最終日だ。どうしてくれる?上条当麻」
「あのーっ、今日の放課後それを奢れと?」
「その気はないと?」
「(放課後は姫神と買い物の約束しちまったからな)
吹寄様、今日だけは何卒ご容赦頂けませんでしょうか?」
「黒蜜堂の『カロリー控えめ能力開発パフェ』は期間限定のスイーツ。
そして今日が最終日だ。どうしてくれる?上条当麻」
「あのーっ、今日の放課後それを奢れと?」
「その気はないと?」
「(放課後は姫神と買い物の約束しちまったからな)
吹寄様、今日だけは何卒ご容赦頂けませんでしょうか?」
「なに?」と言いかけた吹寄だったが姫神秋沙の悲しそうな顔を見て言葉を飲み込んだ。
「ふん、それなら仕方がない。
来週の期間限定スイーツ『5日食べれば能力向上絶品モンブラン』で勘弁してやる」
「それはひょっとして来週はずっと黒蜜堂につきあえと……?」
「イヤだと?」
「わかったよ。吹寄。それでお願いします」
「わかればそれでいい」
来週の期間限定スイーツ『5日食べれば能力向上絶品モンブラン』で勘弁してやる」
「それはひょっとして来週はずっと黒蜜堂につきあえと……?」
「イヤだと?」
「わかったよ。吹寄。それでお願いします」
「わかればそれでいい」
(34.金曜日8:00)
「どうしたの秋沙、夏服なんか着ちゃって」
「どうしたの秋沙、夏服なんか着ちゃって」
教室に入った姫神秋沙へ投げられた女子の問いかけについ上条が口を挟んでしまった。
「いや、実は昨夜、姫神の制服を血で汚しちゃって」
その一言で教室の中から喧噪が消え去った。
その結果クラスメイトのヒソヒソ話の一言一句まで上条は聞き取ることができた。
その結果クラスメイトのヒソヒソ話の一言一句まで上条は聞き取ることができた。
「上条のやつ姫神の制服を血で汚したんだってよ」
「羨ましすぎる!」
「あいつ、そこまで余裕がなかったのかねー?」
「やだーっ、上条君って意外とケダモノだったんだ」
「最初は優しくしてもらいたいものなのにね」
「羨ましすぎる!」
「あいつ、そこまで余裕がなかったのかねー?」
「やだーっ、上条君って意外とケダモノだったんだ」
「最初は優しくしてもらいたいものなのにね」
「こら!そことそこ!不適切な発言をしない。
紳士な上条さんがそんなことするわけないだろ!
姫神も何か言ってやれよ」
「でも、私の制服が私の血で汚れたのは事実だから」
紳士な上条さんがそんなことするわけないだろ!
姫神も何か言ってやれよ」
「でも、私の制服が私の血で汚れたのは事実だから」
「おぉーーっ」
「やっぱり」
「やっぱり」
「わー!止めて、姫神。それ以上言うと、なんかホントに俺が悪者みたいに思われる」
「まあまあ、みんな。
事がここに至っちまった以上、俺達は若い二人の門出を祝ってやろうじゃないか。」
「こら!土御門。変な方向に話をまとめようとするんじゃねえ」
「みんなが祝福してやろうって言うんだから良いじゃねえか。
みんなーっ!軍資金はカミやんが全部出してくれるんだってよ。放課後は祝宴だ!!」
「おおーーー!」
「まあまあ、みんな。
事がここに至っちまった以上、俺達は若い二人の門出を祝ってやろうじゃないか。」
「こら!土御門。変な方向に話をまとめようとするんじゃねえ」
「みんなが祝福してやろうって言うんだから良いじゃねえか。
みんなーっ!軍資金はカミやんが全部出してくれるんだってよ。放課後は祝宴だ!!」
「おおーーー!」
上条は頭を抱えながら、頭の中で諭吉さんを点呼していた。
(こいつら36人が1人3000円飲み食いすれば諭吉さんが11人も戦死しちまう。
吹寄の分は1つ1000円としても5000円だから問題ないとして……
問題はインデックスだな。諭吉さん1分隊でインデックスを食い止められるのか?
でも諭吉さんならきっと5人ぐらいは生き延びてくれるハズ。
そうしたら余裕で姫神に新しい制服を買ってやれる)
吹寄の分は1つ1000円としても5000円だから問題ないとして……
問題はインデックスだな。諭吉さん1分隊でインデックスを食い止められるのか?
でも諭吉さんならきっと5人ぐらいは生き延びてくれるハズ。
そうしたら余裕で姫神に新しい制服を買ってやれる)
しかし上条は気付いていなかった。携帯に届いていた1通のメールに。
『話を聞いたわよ。あんた今お金持ちなんだって?丁度良かったわ。
日曜日にセントラルガーデンホテルに4つ星レストランのシェフが来るのよ。
美味しい料理を食べながらお話ししましょう。もちろんア・ン・タの奢りで。美琴』
『話を聞いたわよ。あんた今お金持ちなんだって?丁度良かったわ。
日曜日にセントラルガーデンホテルに4つ星レストランのシェフが来るのよ。
美味しい料理を食べながらお話ししましょう。もちろんア・ン・タの奢りで。美琴』
諭吉さんの点呼を終えた時、上条は姫神秋沙との約束を忘れていたことに気付き青ざめた。
(やべぇ、放課後は姫神と買い物だったのに。
姫神のヤツ、また落ち込んでいるんじゃ……って、あれ?)
姫神のヤツ、また落ち込んでいるんじゃ……って、あれ?)
てっきり落ち込んでいると思っていた姫神秋沙はなぜか頬に手を当て顔を赤らめていた。
ノリで上条と恋人扱いされたことに過剰に反応した結果なのだが当の上条には見当も付か
なかった。
ノリで上条と恋人扱いされたことに過剰に反応した結果なのだが当の上条には見当も付か
なかった。
「(まあ、落ち込んでいる表情よりこういう表情の方が姫神には似合うかもしれないな)
しかし、セーラー服って一体いくらするんだ?」
しかし、セーラー服って一体いくらするんだ?」
上条がポツリと漏らした言葉に青髪ピアスが素早く反応した。
「カミやん、やっとカミやんも目覚めてくれたんか?
僕らのお仲間になってくれてうれしいなぁ。
でも、セーラー服なんてものは初級者のものやからな。まだまだ奥は深いでぇ。
カナミンの衣装なんかもごっつう萌えるでぇ」
「フン!」
「いったぁー!カミやん、いきなり拳固で殴るなんて酷いんとちがうの」
「うるさい!黙って殴られろ。お前はそれだけのことをしでかしたんだよ。
お前のせいでな。姫神はな……」
「どないしたん?」
「くっ……、何でもない!」
僕らのお仲間になってくれてうれしいなぁ。
でも、セーラー服なんてものは初級者のものやからな。まだまだ奥は深いでぇ。
カナミンの衣装なんかもごっつう萌えるでぇ」
「フン!」
「いったぁー!カミやん、いきなり拳固で殴るなんて酷いんとちがうの」
「うるさい!黙って殴られろ。お前はそれだけのことをしでかしたんだよ。
お前のせいでな。姫神はな……」
「どないしたん?」
「くっ……、何でもない!」
あの時、癒しの羽根を運んできたのは吸血鬼だった男ではなく少女の姿をしていた。
あんな男よりその少女の方が姫神にはよく似合うと上条が思ったのは事実だった。
その少女の可愛い顔立ちに文句がある訳ではない。
少女がまとっていた服は少し派手だったがまあ仕方ないと納得することはできた。
しかしその少女が超機動少女カナミンそのものであることだけは納得いかなかった。
あんな男よりその少女の方が姫神にはよく似合うと上条が思ったのは事実だった。
その少女の可愛い顔立ちに文句がある訳ではない。
少女がまとっていた服は少し派手だったがまあ仕方ないと納得することはできた。
しかしその少女が超機動少女カナミンそのものであることだけは納得いかなかった。
結局『魔法使い』になりたかった少女は『魔法少女使い』になってしまった。
姫神秋沙が『カナミンマスター』として学園都市の小学生から絶大な人気を得ることになるのは少し後のお話である。
姫神秋沙が『カナミンマスター』として学園都市の小学生から絶大な人気を得ることになるのは少し後のお話である。
姫神秋沙は願うべき星をどこで間違えたのか?
その答えを知る者はどこにもいなかった。
その答えを知る者はどこにもいなかった。
「When You Wish Upon a Star(星に願いを)」おしまい。