「無駄だよ。例えどれ程君の右手が強力だろうと、触れさえしなければ何もないと同じだ。
――君は、何も出来ない」
――君は、何も出来ない」
白髪の少年は言う。
お前は無力だ。そんな大層な代物を持っていても何も出来ない。宝の持ち腐れにすぎない、と。
お前は無力だ。そんな大層な代物を持っていても何も出来ない。宝の持ち腐れにすぎない、と。
「せやで。やから――もう、諦め。元々アンタはこの一件とは関わりの無い人間やろ? 逃げ出しても、誰も笑ったりしぃひんよ」
黒髪の呪術師は言う。
自分の復讐は大義であり、正当なものだ。魔術師とは、世界から一掃されなければならないのだ。
――だから、諦めて目をつぶってしまえと。
自分の復讐は大義であり、正当なものだ。魔術師とは、世界から一掃されなければならないのだ。
――だから、諦めて目をつぶってしまえと。
だが――
「…………な」
「え?」
「え?」
――上条は、諦めない。
「ふざ……けんな」
例えどれ程泥に塗れようと、地べたを這い蹲ろうとも。
泥を啜り、地に指を突き立て、歯を食いしばって立ち上がる。
泥を啜り、地に指を突き立て、歯を食いしばって立ち上がる。
「ふざけんな。要はテメエの過去から逃げ出したいだけじゃねえか」
「……なんやって?」
「そうだろうが! テメエは過去を払拭して自分の恐怖から逃げ出したいだけなんだよ!」
「…………!」
「……なんやって?」
「そうだろうが! テメエは過去を払拭して自分の恐怖から逃げ出したいだけなんだよ!」
「…………!」
上条は、なおも吼える。
「たったそれだけの事にこれだけの人間を巻き込みやがったんだ! ふざけんじゃねえよ! 逃げ出したいなら一人で尻尾まくって頭を抱えてろ! 幸せに暮らしてる人間を巻き込むんじゃねえ!」
「――五月蝿い! 五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿いっ!! それでも、それでもウチは……ッ!」
「そうかよ……」
「――五月蝿い! 五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿いっ!! それでも、それでもウチは……ッ!」
「そうかよ……」
一言の呟きを残し、上条は右手を握りしめた。
神秘に対する絶対の脅威、幻想を食い殺す幻想を。
神秘に対する絶対の脅威、幻想を食い殺す幻想を。
「それが分かっていても、もう後戻りが出来ないって言うんなら――」
上を見上げれば、そこに居るのは一匹の大鬼と一人の女。
だが、上条には何故だか女が、暗闇で独り悪夢に怯える、ただの少女にしか見えなかった。
だが、上条には何故だか女が、暗闇で独り悪夢に怯える、ただの少女にしか見えなかった。
言葉は、届く。ならば、何処に拳が届かないなどという理屈があるというのか。
「先ずは、そんな幻想からブチ殺す!」
『幻想殺し(イマジンブレイカー)』は、今此処にその牙をむき出した。