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とあるお嬢様寮の休日

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とあるお嬢様寮の休日




―――常盤台中学―――
『学園都市』の中にある“学舎の園”、そこにある五本の指に入る名門の女子学園であり、その入学条件の厳しさと世界有数のお嬢様学校でもあることから、学園都市にいる多くの人間からの注目を集めてもいる。
その常盤台中学に通う生徒たちが寝起きをしている女子寮では、生徒たちが思い思いの仕方で休日を過ごしていた。
その生徒の一人が今、裏庭に一人佇んでいる。
彼女の名は御坂美琴。学園都市の中でも七人しかおらず、常盤台中学でも二人しかいない超能力者の一人である。
その、学園都市にいる二三〇万人の中の第三位にして、大抵の障害ならば軽々と解決してしまう力を持った彼女は今、目の前の光景にただ呆然としているのだった。
「どうして…」
彼女には自信があった。
今回こそはきっとうまくいくはず、そう信じていたのだ。
美琴の手には小さな缶が握られている。今日この日のために特別に準備したものだ。
裏庭にたむろしている猫たちにご飯をあげるという日課を持つ彼女はしかし、その体から発せられる微弱な電波のせいで、いつもいつも一匹残らず猫に逃げられていた。
そんな現状に対処するために用意したこのネコ缶、一部の猫愛好家たちの間で、「もはやこれは猫の餌にあらず、ネコ様のご飯である。」とまで言わしめているものであった。
実際缶を開けた瞬間、普段から一流の食事を食べている美琴でさえ漂ってきたその香りに思わずくらっときたし、裏庭に面する窓から匂いを流してやると、のんびりと日向ぼっこをしていた猫たちが落ちつかなげに匂いの元に集まってきていたのだった。
『これだけ集まってきていれば、一匹くらいは残ってくれるでしょ。』
そう思い、期待を込めて裏庭に出た美琴はしかし、彼女が外に出た瞬間に四方へと散っていく猫の尻尾を目にしたのである。




「これでもだめなんて……」
寮の裏庭にてネコ缶を片手に佇む美琴。
しばらくして両肩を落とし、盛大にため息をつくと、持っていたネコ缶の中身を手近な地面の上に落ちていた皿の上に開けていく。
――ちなみに、お嬢様学校である常盤台中学では、寮の管理は徹底されているために、裏庭といえども皿が落ちているという事は本来ありえないのだが、彼女が行っている日課は割と寮の中では知られているために、あえてそのまま置きっぱなしになっているのである。
(もちろん、美琴自身は自分の行動が知られているとは思いもよらないのであるが。)




やがて美琴は缶の中身をすべて皿に移し終えると、しゃがんでいた体を軽く伸ばしながら、猫たちが逃げていったと思しき方向を眺めていた。
だが、自分がここにこうして立っている限り、たとえ猫たちが餌を食べたいと思っても帰ってくることはありえないと結論する。
もちろん、猫好きの美琴としてはおいしそうに餌を食べる猫を間近かで眺めながらその背を撫でてやりたい。
しかし、同じ猫好きであるがゆえに、おいしそうな餌を目の前に置きながら猫に食べさせない、という状況を続けたくもないのである。
最後に数秒、猫たちの多くが逃げていった方向を名残惜しげに見ていたが、空になったネコ缶を片手に寮の中に戻ろうときびすを返した。
そのとき、彼女の背後で小さな音がした。
――もしや猫たちの誰かが戻ってきてくれたのか?!――
期待に輝く彼女の目に飛び込んできたのは、




                   後輩の白井黒子であった。





「…えっと、その、お姉さまからそのような眩いばかりの笑顔を向けられるのは大変うれしいのですけれど…。
それほどまでに期待をさせて申し訳ありませんが、猫たちは戻ってきてはおりませんわよ…。」
心底申し訳なさそうな黒子の声に慌てて我に返った美琴は動揺を隠そうとしていたが、顔は真っ赤だし手に持ったネコ缶は落ちつかなげに動いているわで、まったく動揺を隠しきれていなかった。
もちろんそんな様子を見逃すはずもなく、黒子は追撃の手を緩めない。
「それにしてもお姉さまは相変わらず健気ですわね。毎回逃げられてしまうというのに猫たちと近づこうとされるなんて。
いいえ、たとえ何度振り払われたとしても何度でも手を差し出すのはむしろ猫たちへの献身的な愛と言っても過言ではありませんわね。」
「…っ、そ、そんなんじゃないわよ!」
慌てて否定するが、その顔は先ほどよりも赤くなっているために誤魔化すなど無理である。
「またまたぁ、そんなことはせめて手に持ったネコ缶を隠すなどしてからおっしゃってくださいましな。
餌を食べるのに夢中になった猫が缶の切り口で口を切らないように缶ごと出すのではなく、ちゃんと皿に出してやるという気配りまでされるお姉さまの猫への愛はちゃんとこの黒子には分かっておりますのよ?」
「ぁ……」
そこまで見抜かれていたと知り、もはや言葉も出ない美琴。
俯いたまま固まってしまった彼女を眺め、黒子は満足げなため息を吐く。
『ああ、何ていじらしいんでしょうお姉さま。このままのお姿も見ていたいですが、最近は何かとごたごたが続いてお姉さまエナジーが不足していましたから、ここで大量に補充させていただきますわ!』
さらなる反応を引き出すべく、次なるの言葉を述べていく。
「それにしても、ここまでしてくださるお姉さまに対して、少しは本能による行動を押さえようとはしないものなのでしょうかあの猫たちは?
ああもう、いっそのことこのわたくしをネコとして可愛がって下さいませんか?
愛しの猫たちに逃げられて傷心のお姉さまを心を込めてお慰めいたしますわよ?」
ビクッ、と思わず肩が震える美琴。
彼女の反応パターンを知り尽くしている黒子は、美琴から帰ってくるであろう言葉を予測し、さらに、それに続けるべき自分の言葉も用意していた。
「……」
だが、予想に反し、美琴からは何の反応もない。
「……? ……あの、お姉さま?」
訝しんだ黒子は声をかけながら近づいていく。
と、そのときである。
「そうね…。」
ゆらりとした動作で美琴が動く。
そんな彼女にどこか違和感を覚えた黒子が足を止めると、美琴はやけにゆっくりした足取りで近づいてくる。
「それも、いいかもしれないわね…。」
「え……?」
美琴の口から出た言葉に思わず思考を放棄してしまう黒子。
追いつめて反応を楽しむはずだった黒子のほうが逆に無防備な姿をさらけ出していた。
固まったままの黒子の前にまで来ると、おもむろにそのおとがいに手を当てながら美琴は言う。
「どうしたの? わたしを慰めてくれるんでしょう? そんな風にボーっとしてちゃだめじゃない…。」
クスクスと笑いながらその手に力を入れ、黒子の顔を上に向かせその目をじっと覗き込んだ。
「…っあ、あの、あの、お、お姉様!?」
もはや思考が現状に追いついていない黒子に対し、美琴はさらに追い込みをかける。
おもむろに顔をおろし、黒子との距離を近づけていく。
『お…お姉様が、お姉様が、……そんな、そんなっ!?』
徐々に近づいてくる美琴の潤んだ瞳。
そこに映り込む目を見開いたままの自分の顔が大きくなっていくにつれ、意識は空白に染められていく。
もはや互いの鼻は触れ合う寸前、互いの吐息が唇に当たるほどになるころには黒子の意識は真っ白になって――――――




もはや互いの鼻は触れ合う寸前、互いの吐息が唇に当たるほどになって――――――





「……っく。」




黒子との距離がほとんどゼロにまで近づいたいたままその視線で縫いとめていた美琴は小さく声を漏らす。
愁いを帯びて潤んだままだった瞳には喜色が浮かび、その体は徐々に震え始める。
「……っぷ。っは、あっははははは!」
やがて、我慢しきれなくなった美琴は声を大にして笑い出す。
「あはっっ、あっはっはははははははは、くふっっ、ぷっ、あはっ、あはははははははははははははっっ!」
裏庭に笑い声が響く。
体をくの字に曲げ、大きな声を上げて笑う美琴。
それほど可笑しかったのか、目尻に涙が浮かんでも、まだ笑い続けている。
「っく、はあっ、はっ、はあ……。」
ひとしきり笑い続けた美琴はようやく声を落ち着けると黒子に向き直ると、時折肩を震わせながらも話し出す。
「どうよ黒子!
いつもいつもあんたにはやられっ放しだったけど、あたしだってやろうと思えばこれくらいできるんだからね!
これに懲りたらこれからはあんな真似はやめるように、いいわね!」
常日頃いたずらを仕掛けてくる後輩に一本返したことに気をよくしているのか、その顔をやや上気させて話しつづける。
「しっかし、あんたの顔ったら、見ものだったわよ! っっぷふっ!」
先ほどの黒子の様子を思い浮かべているのか、満面の笑みを浮かべながら語り続ける美琴であったが、ふと黒子の様子に目を留める。




「……あーー……」




その黒子といえば、先ほど与えられたダメージから抜け出せずにいるのか、いまだに呆けたままである。
こちらからの声も聞こえていない様子であり、もしかすると先ほどの美琴の言葉も届いていないのかもしれない。




「おーい、黒子ー?」




目の前で手を振っても気が付かないようであり、どうしたものかとしばらく思案していたが、
「ま、いいでしょ。たまにはいい薬よね。」
と、早々に結論を出した美琴。
意気揚々と女子寮の中に入っていく。





美琴の姿が消えた後に残ったのは、苦手な磁気が消えて心置きなく「ネコ様のご飯」にありつく猫たちと、足元にじゃれ付かれながらもいまだに意識が戻ってこない黒子の姿があるのであった。




                     了







蛇足




黒子に対して一本返したことによって気をよくした美琴であったが、やがて意識が戻った黒子から怒涛の攻勢を受けるのはまた別の話である。




「っちょっ、あ、あんた、なにしてんのよ!あたしの話聞いてなかったわけ!?」
「何をおっしゃっているのですかお姉様!? さぁ! このわたくしがお姉様のお寂しい心を隅々までお慰めして差し上げますわ!」




こうして常盤台中学寮における御坂美琴の逸話はまたひとつ増えていくのであった。




今度こそ本当に 了

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