とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 1-899

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匿名ユーザー

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「さて、トドメだ。面倒かけさせやがって。俺も暇じゃねーつーの」
 壁に叩きつけられた満身創痍の白い少年――一方通行の目の前には一人の男が立っていた。
 木原数多。
 アレイスター直属の部隊の上位戦士でもある彼は口の端を皮肉気に吊り上げながら言う。
「テメェみてぇな、モルモットに"誰かが守れる"わけなんて事が出来るわけがねぇだろうが。さっさと死にな」
 彼が片手を上げると同時に銃口を構える金属音が響く。
 一方通行。その能力故に学園都市最強と呼ばれた彼も果たして『研究者』に勝つ事は出来なかった。
 悔しい、と思った。
 初めての感情だ。
 故に、苦しい感情だ。
 しかし、一方通行にはもう何をすることも出来ない。
 なにしろ指一本動かすのも辛い状態なのだ。
 鍛えていないどころか一般人よりもひ弱な肉体に己の能力を利用したカウンターを喰らい続けた結果。
 下手すれば骨の何本かは木っ端微塵になっているかもしれない。
 木原が手を振り下ろす。
 その光景が何故か遅く見える。
 これが死の直前の世界と言うものか、と脳の何処かが麻痺したのか何故か冷静に感想を述べる。
 そして、数多の弾丸が撃ち出され、
「―――ッ!」
 しかしてその弾丸は一方通行に届く事は無かった。
 あまりに遅い弾丸の到着に違和感を感じ閉じた目を開けば其処には一人の男が立っていた。
 青い髪の大男。
 耳に付けたピアスが妙に印象的だった。
「ガキ?……能力者か?」
「いやいや、ボカァただの通りすがりの一般人――」
 青髪ピアスは両手を挙げて楽しそうな笑顔で顔を両手に振りつつ、最後に口元を吊り上げる。


 パンッ、と空気の弾ける音が響いた。


 同時に爆発に巻き込まれるようにして吹き飛ぶ。
 何事か、と木原が振り向いた時にはもう遅い。
 何十といた筈の部隊は全員が壁に叩きつけられるか吹き飛ばされていずこかへ消えていた。
 しかし、木原はあくまで冷静さを失わない。
 元々『能力者』との戦いとはそういうものだからだ。
「さすがやねぇ。部下さん達が全部吹き飛ばされたってーのにまったく冷静やなんて」
 木原は眼前の敵を睨む。
 だが、青髪ピアスはただ口元を吊り上げて楽しそうに笑うだけだ。
「……テメェ……なにもンだ」
 木原の僅かに怒気の篭った声が漏れる。
 それだけ空間の空気が凍りつくような感覚に襲われる。
「ボク?ボクはやなぁ」
 青髪ピアスはニヒルに笑うと同時にポケットから折りたたみ式のテンガロンハットを取り出し被る。
 そして、彼は指先でテンガロンハットの鍔を押し上げるとポーズを決め、
「夜明けの包容力に満ち溢れたぁ!かっこショタも可なナイスガイや――ッ!」
「「は?」」
 一方通行と木原の気持ちが始めて通い合った瞬間であった。
 すなわち『何言ってんだコノヤロウ』である。
 青髪ピアスは構えもしないし飄々と立っているだけ。
 まさに威風堂々とした佇まい。


 アホな空気の中、戦いが再開されようとしていた。


  ○


 舌から鎖を垂らし、先に十字架を付けた黄色い修道女――ヴェントは倒れる人々を見つつ、表情を歪めた。
 すなわち疑の表情にだ。
「へぇ、この街にも私の術式を跳ね返せるくらいの魔術師が潜りこんでたってワケね」
 口調は軽いがその言葉には聞くものを窒息させるかのような重みが乗っていた。
 しかし、倒れ伏す人々の道の先に立つ人影はピクリとも動かない。
「巫女……ね。この国で盛んなタイプの魔術系統だったわね。まぁ、知ったことじゃないけど」
 ヴェントの言う通り道の先に立つのは巫女服に身を包んだ一人の少女だった。
 日本人形の様に前髪を切り揃えられた長髪に整った和の方面の美人とも言える顔立ち。
「一応聞いておくわ。名前を言いなさい」
 ヴェントが問うと同時に巫女は手に持った自分の身長ほどもある棒をクルリと一回転させる。
「良い事を教えて上げる。この私に『否定形』はない。わかった?」
 笑顔で問う。
 すると少女は六角形に削られた棒を右手で持ちつつ広げ、構えた。
「姫神。秋沙」
「良い名前ね。それじゃあ、死になさい」
 宣告と共に認識出来ない死が姫神と名乗った少女へと向かう。
 しかし、その死は少女の眼前で棒が振るわれると同時に消し飛んだ。
 一瞬だけ、ほんの一瞬だけヴェントの目が見開かれる。
 魔術を使用する仕草さえ見せずに自分の術式を消し飛ばしたのだ。疑問も沸くというものだ。
「言ったわよね」
「ごめんなさい。もう一度」
 一歩前に出るその行為だけでヴェントは姫神の目の前まで肉薄していた。
 しかし、姫神の表情は変わらない。
「『否定形』は無いって言ってるでしょう?」
「そう。聞いて無かった」 
 ヴェントの不可視の一撃がまたもや魔術を振るう様子すら見せずに腕ごと弾き飛ばされた。
 衝撃で後ろへ弾き飛ばされるヴェント。
 しかし、彼女の表情は――、


 玩具を見つけた子どもの様に楽しそうな笑顔だった。


「チッ、まったく一晩でこの街を落とさなきゃいけないっていうのに――」
 彼女はジャラリと舌に付いた鎖を揺らすと――、
「おもしろすぎるもの、見つけちゃったわ」
 本当に楽しそうな顔で獲物を狙うかのように姫神を見る。
 しかし、姫神は棒をクルリクルリと回すだけ。
「そろそろ。始める?」
「えぇ、始めましょう」
 死の匂いが吹き荒れる。
 クルリクルリと回る棒とジャラリジャラリと揺れる鎖。


 果たして、勝負の火蓋は切って落とされた。


  ○


「これが、私の自慢の拳だぁあああああああああ!」
「ぬわがががががば、ばかなこの私があああああぁ、ぽぺっ」
「馬鹿な!猟犬の『オレンジ』様が?!」 
「この能力者――流石にレベル5は伊達じゃあない!」
「さぁ、喧嘩よ!喧嘩よ!派手に往くわよ、この馬鹿ども!」


「あのー、美琴さん。上条さんはまたトラブルに巻き込まれている様な気がしてならないのですが」


 少年の虚しい声が戦場に響いた。



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